ズババーン! GOGO!
行くぞ マイ・カー☆
それいけ パトカー
げんば に きゅうこう! れっつごー!
走れ☆ ハイホー はたらく くるま
げきたいし を のせて
ぼくたち はなぞの ほいくえん
わるい あくま を げきたいだー☆
●学園で
「うっしゃー! 子供達かかってこいっす!」
九 四郎(
jb4076)は桂の話を聞いて、ガッツポーズ。
保育園で手作りカートのイベントをすると聞いてワクワクしていた。目の前にあるペダルカーを見て、四朗は目を輝かせた。
「へえ、楽しそうだね。どうせなら保育園の子達にも楽しんでもらいたいけど」と、沙 碧葉(
jb7043)。
弟の沙 夏樹(
jb7044は「なんで僕が…」と愚痴りつつ、でも本当は興味津々だった。
「そういう楽しいことは、早く教えてくれなきゃ〜、良かったら協力するわよ」
桂がなにか難問をかかえてるのではと心配した木嶋香里(
jb7748)。そして、目の前のペダルカーに一瞬目が点になったが、しかたないなぁと言った風に苦笑した。
「あ、うん……香里さん。ありがとう……ちょっと、恥ずかしいんだけど、ね」
「でもさ、何するにしても一生懸命で可愛いよねェ」
三島 奏(
jb5830)は子供好き。触れあいに期待して手伝うとにしたようだ。
「んー、不思議なカートもあるものですね。というか、これを普通に応用すれば、撃退士向けのバイクとかできません?」
何でそういうものを作ろうとしないのかと思いつつ呟く、ゲルダ グリューニング(
jb7318)。
「はーーっははッ! 説明しよう、幼女☆ それはなァ、つまらんからだ!」
「キャッ!」
いきなり現れた人物に驚いて、ゲルダの背が跳ねる。
「うっわ、ビックリしたっす! 一体どこから(汗;」
「あんた、誰?」
奏も驚き、ぎょっとした表情で相手を見た。
「フハハッ! 俺こそが、マッド・スチューデントにしてV研の部長である!」
「アーハハッ!! マッド・スチューデントとは片腹痛いわ。マッド……それは、私こそ【本家】ッ!」
サーシャ ヴァレンシア(
jb6734)は腰に手を当て仁王立ち。その豊かなバストをブルンと振るわせて高笑いした。
本当はV研の開発した『K−2』、カートの日常品とV兵器を融合という、奇抜な発想に同じ科学を志すものとして心打たれた為に手伝う気になったのだ。だがしかし、目の前にすると純粋なる対抗意識が燃え上がる。
「ぬう……ならば、俺は【元祖】!」
「【元祖】と【本家】は常に競い、戦うがサダメっ! いざ尋常に勝負!」と挑発したものの、碧葉と夏樹など小等部メンバーがいるので、すぐ部長は自重した。
「それはさておき。すまんな……同志が居たようで、つい滾ってしまった。……まあ、あれだ。俺は【つまらない大人になる気はない】のだ」
この発明もどうかと思うのだが、本人には夢があるらしい。とにかく、可愛い保育園園児と遊ぶのならと一同はペダルカーを改造することにした。
その隣で、香里が携帯電話を出し、保育園に連絡する。香里は桂と燈辻と共に、イベントの開催と調理室の利用許可を頂く交渉するために電話は必要である。
「こちらの保育園でカート大会を実施させて頂きたいのですが……あ、はい。これからそちらに伺いますね♪」
三人は顔を見合わせると、「やったね♪」互いに笑った。そして、保育園へと向かった。
●楽しい改造♪
「ふむ……子供の玩具、ペダルカーとはいえ手加減はなしよ」
サーシャは意気揚々とカートを改造し始めた。
カートを改造するために必要な資材を持ち込んでいる。とがった部分を隠すためのカバー部材、子供が指を入れそうな穴など塞ぐ樹脂パテ。また体の大きな人が運転しやすいように、設計的に無駄な部分を省いて少しでも運転しやすい空間を作るための工具などもあった。
「んー……これ、いらないんじゃないのかしら?」
「な、なんだとぅ! ……ん……そうだ、な」
主にK−2カートの全車両、安全面での設計を見直しされ、大人しく部長は作業を始める。
完全を考慮し、二人でパテを使って穴を埋めたり、角ばった部分を削りウレタンなどで丸くした。
「どうだ、ここをこうしてMP3なんぞ聞けるようにだな……」
「それより、内部の無駄を省いて車内空間を快適にするべきよ。クラクションの音を子供が好きそうな曲や効果音などのメロディーに改造するほうが……」
「効果音か……それなら、戦隊物の玩具をそのまま組込むか。確か、鍵状の玩具があったな。あと、スイッチのも」
「ああ、あれね。いいんじゃないかしら」
色々と案を言いつつ、サーシャは自分の車両「ヴァレンシア号」の外装を金ピカに塗りたくっていた。
「ふふふ……私にふさわしい圧倒的ゴージャス感!」
すばらしい金ピカぶりに、周りはドン引きしていた。それは、よくある金ピカ招き猫の貯金箱のような色合いなのだ。
「……すごいね、それ(主に色が」
奏は自分のペダルカーを必死で改良していたが、サーシャの出来が何というか凄かったので、思わず声を掛けてしまった。
「素晴らしい出来で満足してるわ……あら、奏のペダルカーは随分と小さそうね」
「あぁ、あたしの身長じゃねー……どうしようかと思ってさ」
足漕ぎ車は自分の身長では拷問としか思えないので、事前に何回か試乗せねばと、先程から練習していた。でも、やはり小さい。さすがに身長が189cmもあれば当然と言えた。しかし、もっと大変なのは四朗の方で……。
「うおー! 超狭いっすー! 痛ててッ」
「あーあ……」
「四朗は251cmか……ちょっと、無理ね」
「だねぇ〜」
二人は肩を竦め、苦笑する。そして、三人で奏と四朗の機体を少し余裕を作るための改造をし始めた。
「これでやっとマシになったね」
「あざっす! これで少しは痛くないっす」
四朗は満足そうだ。
奏の機体は黒字に紅い☆マーク。その機体を眺め、ビビッドな雰囲気に目を細めて奏は笑った。そして、他の機体をみんなで各人の好みに塗装した。
「へぇ……エアロやマフラーやエンブレムを段ボールで作りったんですね」
夏樹は感心したように言う。
「私のはくまさんですよ。ちょっと、スイカカラーのボディーですけど」
ゲルダは楽しげに言った。手には手作りのスイカの飾り物。風船も少し貼りつけて、ゲルダの機体は完成した。
あとは、着る予定のクマの着ぐるみと保育園児に見せる芸の小道具を用意して準備万端OKだ。
「クマの顔と足も付いてら〜」
「はい♪」
「さて、あとはこっちと……」
夏樹は双子の兄の碧葉と一緒にコース作りに励んでいた。先程の香里からの電話を聞いて、必死の沙兄弟のコース制作が続いていた。
「円を描くだけだと物足りないよなあ……歪曲させてみるかあ」
碧葉がブツブツと呟きながらコースのラフを描く。材料が足らないところは、白線だけにしようと赤いコーンを用意するつもりだった。
「あぁ、なんでこんなのやってるんだろう……」
「素直じゃないなあ、興味あるくせに」
弟の呟きに、碧葉はちょっとツッコむ。そんな弟がやはり可愛い、とは本人には言えないが。
言われてカチンときたのか、なんとなしに兄の気持ちがわかっているのか、夏樹がくるりと振り返って言い返す。
「わかったような口きくな」
「こらこら、喧嘩するんじゃないわよ」
「むー……なんで僕が……」
そう言ってプイと背を向けた。没頭できる作業にのめり込み、協力しつつも心はちょっと貝の口だった。もちろん、兄限定だったが。
「段ボールで1〜2mの短いトンネルとかは?」
「……もう。グラウンドが借りれるなら、自由度高くできるよ。好きにすればいいよ」
「んー、もっと時間があれば細かい仕掛けもできたのになあ 」
言い合ってもさすがは兄弟と言うべきか、なんだかんだと結局は話しつつ、坂道などを作ってコースを完成させた。
●当日
「わー、晴れた!」
碧葉は嬉しそうに声を上げた。
余った段ボールと塗料で、作った屋台の看板とアレルギー表記付きのメニュー表は奏のお手製。そして、カート競争が始まるまでは、屋台横でバルーンアート作って配布していた。
香里が燈辻と一緒にロールサンドサンドイッチやクレープの屋台は大盛況で、「当日 皆が楽しめる様に下拵えをしておかなくちゃね♪」 と言って、冷蔵保管出来る物と園児達に渡す軽食引換券を準備しておいたのが良かったようだ。
テーブルには、いちご、クリーム、チョコ、バナナが並ぶ。ロールサンドはパラフィンに包んでリボンで飾った。
「いらっしゃいませー! サンドイッチはいかがですか?」
「いっち、ください。なんえん?」
「はい、100くおんです♪」
「みーちゃん、わかんない」
「このチケット100くおんだよー、ハイっ!」
上のクラスの子が女の子から取って香里に渡す。その途端、火がついたように女の子は泣き始めた。
「みーちゃんの! わぁーーん!」
「じゃぁ、もう一回おねーさんに渡してね?」
「う、うん……」
万事が万事こんな感じで、テキパキとはいかなかったけれど、香里はなんだかとても温かい時間を過ごしている気がした。
「燈辻ちゃん、あとはよろしくね」
「はい、いってらっしゃい」
「みんな順番を守ってカートを楽しんでいってね♪」
さあ本番。香里はカートに乗りたい子の列整理をしつつ、自身も園児達を乗せて試運転した。
「はいっ、どうぞ☆ 割れると危ないからお姉さんがやりますねー」
ゲルダは園児達に風船を膨らませてあげていた。この年頃の子供は待つのが苦手。レース開始まで手持無沙汰にならない様、気を付けていた。
「ねーねー、ふーせん、まぁだ?」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね」
(「うふふ、弟ができたみたいです♪」)
そして、順番待ちの退屈さに暇そうな子供たちが居ると、その子たちを集めて手品や芸を披露してあげた。
「縦縞のハンカチが、あっという間に横縞になっちゃったー」
「もー、いっかい!」
「ゆーちゃんやりたいっ!」
自分の方がお姉さんだからというのは、自分にとってとても大切な気持ちなのだ。ゲルダも大切な時間を過ごした。
「お、車運転してみるかい? おいでおいで」
子供相手にする時は長身のせいで驚かさないよう、奏は屈んで同じ高さまで目線を降ろす事を心がける。
「お嬢さん、お手をどうぞ 」
碧葉は女の子の園児に対しては紳士的に王子様っぽくエスコートしていた。無意識な辺りが将来不安な小学生である。一方、弟の方はというと。
「よし来い。思いっきり飛ばすぞ! 」
「おー!」
構える必要もないので、素で居られたようだった。園児を乗せて、コースを試運転している。
四朗はレース以外のとこでは子供たちの相手をしていた。子供たちと触れ合う目的以外にも、父母の方の負担軽減をしようという心遣いがあった。
「体が大きいからいっぱい乗れるお馬さんすよ」
「おにーちゃん、おっきい!」
「わーい!」
べちべちっ☆
園児は容赦なく四朗のスキンヘッドを叩く。しかし、もみじのお手てはちっとも痛くない。むしろ、その可愛さに四朗は笑っていた。
大きな体を利用して抱き上げたり、腕に皆をしがみつかせてぶらーんとしたり。
模擬店と風船でのサービス、子供たち御ふれあいは成功だった。
●カート大会!
「フハハッ! 怖かろう! この圧倒的な私の頭脳と科学力が!」
サーシャの高笑いに0〜2歳児は号泣。3歳以上は戦隊モノの敵に似てると大喜びだった。それもそのはず。彼女は人気アニメ「キャッチザスカイ」の金色のパイロットスーツのコスプレをしていたからだ。
幼児たちの絶大なる賞賛を受けつつ、サーシャはカートに乗る。一緒に乗り込んだ園児は諸手を挙げての参加表明で、見事サーシャの膝の上をGETしたのだった。
「いくぞ! せかいは、おれたちのてに!」
「当然よ!」
「「おー!」」
『それでは、全員揃いました! レッツ、GO!!』
キコキコキコッ!!
燈辻のアナウンスの後に、パーンと音が鳴って皆一斉にサーキットに飛び出した。
「かめをけっとばせー!」
「まかせときなさーい!」
「あたしの存在を忘れてもらっちゃ困るねぇ」
「あー、わるものだー!」
危険が無い程度に幅寄せ、割込で進路妨害しながら、「そこをおどきーッ!」と高笑いしてやって来たのは、奏。
彼女の登場に、会場は沸き上がる。
「いけいけー!」
カートは亀の甲羅を吹き飛ばし、サーシャの行く手を遮ろうとする。奏はキャットスーツにマスクとマントという、ヒール(敵役)らしい出で立ちだ。
ギャギャーン!
「はーっはっは! 俺の愛機は世界一ィィ! ブウゥーン! バァーーン!」
キコキコキコッ!!
相変わらずなV研部長だった。
「わんわん、まけるなー!」
「負け無いッす!」
マスコット感を出すために着ぐるみを着ている四朗は大きい体を無理やり押し込んで、乗り切らないので肩車した園児と共に必死に奏を追いかける。
「行くっす!」
「いくっすー!」
四朗は思いっきり漕いで体当たりした。
\(アッ)/
「どーーーん!」
「ぎゃー!」
吹き飛ばされた甲羅に乗り上げ、奏は派手に自爆。 ついでにV研部長も巻き込んで、お空の星になる勢いでぶっ飛んだ。
「たそがれーッ!」
「あーん、もうッ、なんで簡単に引っ繰り返るンだよッ、このすかぽんたん!」
「ミーのフロントギアが真っ二つーッ(死」
ハンドルが憐れなところに食い込んでいる。南無三。
「あはは♪」
「へんなのー! おにーちゃん、跳ねてるー」
奏の演技と部長の様子に園児が湧いた。
「おりゃー! どけどけ、亀の甲羅!」
四朗はスキルで黒色に見える風の一撃を放って場を盛り上げる。
「よーっし、負けるかー!」
「わーい、おにいちゃんがんばってー♪」
夏樹の膝に乗った園児が言った。夏樹も高揚する気持ちを隠せない。コーナーを曲がり、碧葉が追い上げ追いついてくる。
碧葉が少し大きな声をかける。
「言った割にはずいぶんと、楽しそうだねー」
それはどこか嬉しそうで。
「うるさいな!」
(「素直じゃないね」)
心で呟いて、碧葉は笑った。
「せっかくだから、ゆっくり走りますよ」
「わーぁい♪」
「ちょっと、蛇行しましょうね♪」
「ねー、ママのところまでー」
「はーい」
「やったあ☆」
ゲルダは勝ち負けよりも楽しさ重視で運転した。乗ってる子供を景色や蛇行運転で楽しませる。
「じゃあ、写真も撮ますよ〜」
園児が自慢げにゲルダのくまさんカートの前に並ぶ。
そして、時々ゲルダは子供たちが遊ぶ写真も撮った。きちんと楽しそうな様子を狙いつつ、子供全員を漏らさず撮る。
(「またやって欲しいと言われたら成功ですよね♪」)
そう考えて、ゲルダは微笑んだ。
「猫さん、行きまーす!」
「ねこさん、いくまーす☆」
香里の、猫をイメージしたコーディネートカーはクラクションも猫の鳴き声で女の子たちに大人気だった。
最終的な芸術点などの結果は、「全員、花マル」。
それよりも何よりも、園児の笑顔がそれを物語っている。
大好きな玩具とおにいちゃん、おねえちゃん。たくさん遊んでもらって、おおきな「ありがとう」の声援を、子供たちは撃退士達にプレゼントとしてくれたのだった。
心の中の報告書に、桂は「大成功」と書き添えた。