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マスター:皆瀬 七々海
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:15人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/11/04


みんなの思い出



オープニング

●前橋市 市境近く
「えーーーい!」
 ルインズブレードの少女が剣を薙ぐ。
 小気味いいほどに狼型ディアボロは切り裂かれた。
「ギャウン!」
「やったぁ! ここ、手薄らしいって聞いてたけど、ホントだねっ♪」
「俺、アバドンって奴を見たくってさぁ。ここ選んじゃった」
「真面目にやれよ! 他の奴らに申し訳ないだろ。態度悪いぞ!」
「撃退士になったからにゃぁ、大物は見たいんだよ」
「そこだけは同意……うりゃぁ!」
 ルインズブレイドの少年が剣を振りかぶった。再びディアボロが仰け反り、切り裂かれていく。こうなると若い者は自分の優位さに酔いしれはじめ、県庁近くまで行きたいと思うようになるもの。
 連絡担当の撃退士から注意を受け、その場の掃討に勤めていたが、やや南下しつつあった。
「はい……これから前橋市に入ります。え? 17号線担当のチームはもう前橋市に? はい、合流ですね。待機します」
 光信機で連絡しつつ、利根川に掛けられた橋を越える。川辺の荒れた色に冬が近いことを感じ取っていた。
 ふと見下ろせば、足元には季節外れのカエルの子供がたくさんいた。まだ小さく1〜2cm程しかない。
「あ、カエルの赤ちゃんー♪」
「お前好きだもんな、そういうの。え? この時期にカエルの子供だって?!」
「……あー? 可愛いカエルのぬいぐるみが転がってる〜ゥ」
「はぁ?! カエルのぬいぐるみ??」
 コロンと転がった、丸く可愛いカエルのぬいぐるみらしきものに、通信担当の少年は目を疑った。それはひょいと立ち上がり、大きく口を開ける。次の瞬間、周囲でカエルの大合唱が鳴り響いた。
「ぐッ……ぁあっ!!」
 少年たちは襲い掛かる頭痛に悩まされ、その場に蹲った。そして、紅蓮の炎が撃退士達を襲う。
『ぬっしゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
「ぎゃあああああッ!!」
 そして、射程にあった撃退士達は敵の砲撃を直に喰らったのであった。

●県庁:3/2
 ルルーの手下の悪魔は県庁にやってきていた。無論、トゥラハウスへのご機嫌伺いと顔見せのためだった。不意に声が聞こえて、その悪魔は立ち止った。
 ドクサとトゥラハウスの声だ。
「目覚めたら目覚めたで、相変わらず手間の掛かる……」
「いちいちネチネチ煩いったらないね。アバドン様がぜーんぶブッ倒してくれるって」
(「これは……ある意味、キケン?」)
 仕方なく、その光景をさらっと手紙に書き留めることにした。一字一句、聞き漏らさずに、すべて。
「遠方で孤立しているディアボロがいる。そこそこ強力な個体だ。行って補佐して来い」
「……なんで、ドクサが――!!」
「独白ついでに教えてやろう。貴様の役目は既に完了している。その上命令にも従わないのであれば、貴様の価値はあのヴァニタスよりも無いと知れ」
 何とも気まずい空気に出鼻をくじかれた悪魔は、そのまま後退し、物音立てずにその場を離れた。

●渋川市 某所
「〜♪ ……おや?」
 メレディスは窓へ飛び込んできた一つの封書、黒い羽が生えているそれを指先でひょいと挟んだ。
 トゥラハウスのところに報告兼ご機嫌伺いに行っていた、ルルーの手下の悪魔からの手紙であった。メレディスは許可なく手紙を開く。普通なら許されざるところであるが、それはルルーから容認されている行為だ。問題ない。
「どれどれ……ほう、これは楽しいことになりそうですねえ」
 メレディスは微笑むと、それを畳んで足取り軽く歩きはじめ、サロンへと入って行った。
「おはよう、お嬢。どうやら県庁が賑やかになっているようですよー」
 そう言って、手紙を渡した。
「えぇ、知ってるわ。見当がつくわね」
 呼び名に眉を顰めたが、そのままルルーは手紙を読んで――苦笑した。
「……あぁ、やっぱり」
 そこにはトゥラハウスとドクサの会話が詳細に書いてあった。気配を消して書いたと記してあるが、バレているだろう。別に問題はない。適当なディアボロ辺りを進呈すればよいだけだ。
「やっぱりですか〜」
「あの手のタイプの男が、腹に一物持たないなんてことはないでしょう? 寧ろ無い方がおかしいわね。おまけに策を弄するから、自分で自分を縛っていく。そして、ドクサほどに素直でもないから、どんどん道は狭く険しくなっていくのよ」
「おや、冥魔にしては珍しい考えですね、お嬢」
「お前も私のことが言えて? もう人間ではないのよ」
「もちろん、わきまえてますよー、俺はヴァニタスですから」
「まあ、手駒を潰すにも、徳は必要だと思うけど。メレディス、あんたならどうするのかしら?」
「そりゃあ、相手の大切なものはぞんざいに扱いませんよねえ」
「つまり、そういうことよ。決して、良い結果にはならないわ」
 黄色い声を上げてアバドンにまとわりつくドクサを思い出し、ルルーは珍しく深い溜息を吐いた。
「メレディス」
「はい?」
「ディアボロを連れて、前橋市に行きなさい。却ってくるかどうかはわからないけど、恩を売っておく必要があるわ……そうね、北部が手薄だったはずよ。人間共はそこを狙うはず」
 ルルーは地図を指し、タイミングを計るよう指示した。その地点を見て、メレディスは今までの温和な表情を一変し、ニヤッと酷薄な笑みを浮かべる。
「意地悪ですね♪ もう、彼らは戦い始めてますけど?」
「あら、嫌ねえ。言わせる気なの? わかってるでしょうに」
 メレディスにちらと視線を送る。
「それにしても、単純な子たちっ♪ もォ、ホント可愛いわね〜……あんたも、可愛い子は好きだったわよね?」
 そう言って、ルルーは嫣然と微笑んだ。

●斡旋所
「先ほどの連絡で新たなディアボロとの交戦が確認された。……今度は、小型のカエルとカエルのぬいぐるみ型だそうだ」
 やや複雑な表情で女性職員は言った。
 音波を使う点では、そのファンシーな外見と小ささを侮ることはできない。これがアバドンとの戦いの最中に使用されれば、撃退士達はことごとく動きを封じられることだろう。しかも、火力も高いと言うおまけ付きだ。
 現時点では、これらに遭遇しているのは前橋渋川バイパス班だけである。女性職員は先程17号線班にそれを伝え、その後の連絡を待った。そしてしばらくして、光信機から声が聞こえた。
『た、助けてくれーッ! 今、合流したっ……生存数は俺を含めて、6! カエルの奴、まだ隠れてやがった!』
「退避しろ!」
『む、無理だ! さっきまでは狼型しか遭遇しなかったのに』
「な、何だと? もう一度言……」
『ぎゃああああああ!!!』
 悲鳴だけ残して光信は途切れた。重い空気が斡旋所に流れる。
 ぽつりと、女性職員が言った。
「あれは……よくふざける奴だったな。作戦中とは言え、こんな死に方をしていいとは思わない。誰一人として、生を全うしない若死になど許されるべきではない」
 そう言って苦笑した。
「私が言いたいのは、それでもお前たちに行けと、行ってくれと言う事だけだ。矛盾しているな……それでも」

――命を懸けてくれ……

 そう言って、いつもは気丈な女性職員が、頬を伝う涙を拭いもせずに言った。


リプレイ本文


 闇に生きるは我が運命(さだめ)
 踏み鳴らす靴の音を戦いて聞け
 万願成就の夜の果て
 三千世界を果てなく焼付くし
 恐怖の味を思い出させてやろう

―― 汝ら 誰彼の中に沈め……

●群馬県渋川市 某大手食品工場前
 県庁攻略南下作戦、第二陣は速やかに結成された。
 スフィアリンカー達の激励の言葉を胸に、ディメンションサークルを潜る。この先は渋川市食品工場前。渋川市攻略の先陣を切った者達の手により、その場所のディアボロたちは掃討されていた。
「また……ここですか」
 間下 慈(jb2391)、渋川第三・第四陣のメンバーの一人である。
「どうした……感傷に耽ってるヒマはないぞ」
「あぁ、矢野さん」
 不意に横に立った人物に、間下はふと笑みを浮かべた。隣に立った男、矢野 古代(jb1679)は間下が目標とする相手だ。しかし、今までに一度も共同作戦に立ちあったことがない。今回、このような機会を得、間下は緊張を感じると共に、新しい一日を迎えた時のような、何か感慨深いものを感じていた。
「あの気丈な職員さんがねぇ……命を懸けてくれ? ……ふふっ、毎回懸けてますよ。凡人ですから。ねぇ?」
「……あぁ」
「命を賭ける程度で他人の命が助かるなら、上等よね」
 そう言って、隣を通り過ぎる御堂 龍太(jb0849)は笑った。
「オカマの生き様、見せてあげるわ」
「……そうか」
 矢野は燃えて小さく萎びた煙草をアスファルトに落とすと、靴の爪先でにじり消す。煙草の無残な残骸が地にへばり付いた。ごく当たり前の、いつもの動作なのに、なぜか今日は違和感を感じた。
「妙に、嫌な予感がする」
「は?」
 いつになく口数少ない矢野に、間下はおやと首を傾げてそちらを見た。
「何でもない」
 キナ臭い何か。チリチリと神経に触る、何かが呼び掛けてきているような……。
 矢野は溜息を吐いた。

――考えろ、考えろ。思索を止めるな。

 矢野は無言のままその先の問いには答えず、戦場への最短距離のルートを地図から読み取る作業に入った。その横で、橋場 アトリアーナ(ja1403)が緊張した面持ちで武器をワイバーンに持ち変えていた。
 皆は言葉少なに準備をし、掛け声と共に前橋渋川バイパスへと走り始めた。バイパスは1km先で、1・2分ほどで到着できる。到着後は一路、17号線の合流地点へと向かって全力疾走した。

●バイパス
 一同は離れないよう、各々適度な間合いを持って進んで行った。長い長いバイパスは、利根川に沿って進んでいる。右手に見える田畑は枯れ、ほとんどが秋を越えた冬の色合いに染まっていた。乾燥した風の冷たさと相まって、荒涼としたものを皆は感じる。この中で、群魔で何が起きていたのだろうか。渋川で、前橋で、そして、人間の間で。
 配給があるだけマシだった街。苦しむ前に魂を奪われた街。一体、どちらがマシなのか、幸いなのか。
(「こんなに……」)
 黒井 明斗(jb0525)は唇を噛みしめた。そうでなければ、涙で視界が滲んでいただろう。生きていると言う、ごく当たり前のものがない。それだけでこんなにも悲しいとは、神への思いを抱いた明斗にとっては耐えがたく苦しい場所であった。
(「主よ、世界は美しいはずなのに……えぇ、もちろんです主よ。これ以上は、やらせません!」)
 明斗は独り、天なる父に向かい心に誓っていた。

 全体に合わせつつ、皆は全力移動で南下いていたが、矢野は負傷者たちへの連絡は人に任せていた。
「 矢野さん、連絡が付きません」
 イシュタル(jb2619)は何度か携帯で第一陣のメンバーへ電話をかけてみたが、何度鳴らしても出ないと言ってよこした。
「しかたない……」
「状況がわからないままでも、進むしかないんじゃなぁい?」
 Erie Schwagerin(ja9642)は淡々と言う。
「第一陣は敵の少なさに油断したのよねぇ?」
「あぁ……」
「ってことは、元は少なかったけど急に湧いて出たってことぉ? この辺にも手が伸びだしたってことかしらねぇ。だったら、手薄だったところを強化したのかもぉ。これ以上の増援もあり得るわねぇ……」
「そこも考えないといけないな」
 天宮 佳槻(jb1989)は物憂く答えた。
「早く、終わらせないと厄介なことになりそうだ」
「索敵してみるか……」
 もうすぐ、17号線へのカーブへさしかかるところだ。ここでスピードを落とし、矢野は集中する。索敵に引っかかるものはない。そのまま、進むことにした。天宮は皆と歩調を合わせ、皆も合わせていた。
 第一陣が劣勢であること、敵に援軍の可能性があることから長引かせることは望ましくないと天宮は思っていた。囲まれる危険などの懸念はあるが、一丸になって攻撃した方が良いと考え、皆はそのようにするつもりだった。
「いないな……見えない」と矢野。
「じゃあ、僕もやります」
 そう言って、間下が鋭敏聴覚を使って探索する。
 ヤナギ・エリューナク(ja0006)も感知と隠密を利用して様子を伺った。そして、間下が微かな何かの音を道の先に聞いた。
「聞こえます! 何の音ですかねえ……小さなものが地べたを擦るような……」
「カエルだ! 仲間をぶっ殺したんだからな、絶対に許さないぞ!」
 宗方 露姫(jb3641)が言った。彼女は男勝りで尊大なところがあるゆえ、このように言ってはいるが、胸の内ではやはり悲しみが渦を巻いているのだろう。先を睨み据えている。
「あぁ、宗方さん……ちょっと静かに」
 間下は手を振って音を小さくと仕草で示した。宗方は仕方なく声を潜める。
「絶対に、仕留めるぞ」
 その様子に皆は微笑んだ。
「さて、と…逝っちまった奴らの弔い合戦兼、まだ息のある奴らを助けてやらなきゃならねぇか……んな巫山戯たオモチャにやられちゃ、浮かばれねぇだろうよ」
「本当にね」
 イシュタルもそう言って頷いた。
「私も生存者の安否が気になるかな……無事で居てくれればいいけど」
 秋月 奏美(jb5657)は溜息を吐いた。
「油断しているところを襲われたとしても、かなり劣勢に追い込まれていると言う事は、それだけ厄介なディアボロが相手なのですね」
 鑑夜 翠月(jb0681)は深い溜息を吐いた。
「今後の作戦にも影響しますから、ここで撃退しておきたいですね」
 更なる増援が来ないとも限らない。決して気を緩める事はないようにと翠月は心に誓った。
「じゃあ、行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
 掛け声に、一同は走り出した。

●擬態と誤算
「前方に味方発見……皆、死……」
「まだだ! 確認してない」
「はい!」
「音はカエルみたいですねぇ。小さい……あぁ、誰かの呼吸も聞こえます!」
 鋭敏聴覚で探る間下の声に、皆は駆け付ける足を速めた。目標だった17号線との合流地点まで、あと100mの地点だった。
 見晴らしのいい老朽化したスロープ状の道路の足元に、利根川からの細い支流が流れているのが見えた。それはさながら小さな橋のようだった。
 群魔でこう言った工事をしたのはいつの事なのだろうか。ここに来るまでに、アスファルトの所々がひび割れていて、ディアボロが暴れたり、道路整備もできなかったりとしていたのかもしれなかった。そう考えると何とも言えない気分になった。
「しっかしデケェ障害物だな。敵の奇襲なンかにも使えそうだケド、逆に巧く使えばこっちの奇襲にも使えそうだな」
 ヤナギはスキル感知と隠密を利用しつつ、様子を伺いながら呟いた。
「あ……」
 小さく間下が言った。
「ん?」
(「やった……」)
 間下は快哉の声を上げそうになった。仲間を発見した。辛うじて生きているようだ。あとは皆で戦い、合流すればなんとかなる。あと少し。あと少し。カエルを叩き潰し、危機を押さえればこれ以上人が傷つくこともない。やっと手が届くはずと思った瞬間、間下は絶叫を上げた。
「うぁあああああああああッ!!」
 ヴワァァンと言った音が耳元を通り過ぎる。
「だめだッ!」
 続いて、矢野の静止の声。皆の悲鳴が鳴り響き、間下の鼓膜を殴打した。何が起きているかわからなかった。皆も何が起きているかわからなかった。今まで何もないと思っていた場所で、細かく鋭い振動と耳を劈く高音が撃退士達を覆い襲っていた。
「クソッ! 待ち変えてやがった」
 ヤナギの声が怒りに染まった。
 赤ちゃんカエル型ディアボロをはぴょんと跳ねて近づいてくる。皆は一歩後退した。赤ちゃんカエル型の真ん中に8体のカエルのぬいぐるみ型ディアボロもいた。それらはじりじりと皆を追い詰めていく。
「蛙の赤子とぬいぐるみとはまた……随分と可愛らしい見た目じゃありませんか……クッ! お、音がっ……声は、いただけません、ね」
 饗(jb2588)は堪えながらようよう言ったが、苦しそうである。
 しかし、殊更その影響を強く受けたのは、間下だった。
「あぐッ! ……う、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ! おえぇッ!!」
『ゲロゲロゲロゲロゲロッ!! ケケケケクェクェクェクェ!!』
 間下はその場に伏して嘔吐した。自分の胃がひっくり返り、吐瀉する物が無くなるまでそれは止むことが無いのでないかと思われた。これ以上ないと言うぐらいの絶え間ない頭痛と振動とが、間下から叫びを上げさせた。普段であればまだ耐えられたものを、鋭敏聴覚を使っていてはそれもできようがなかった。
「共鳴による攻撃……音のせいね。あ゛ぁ、うるさいわッ! どうにかならないの、コレ!」
 御堂は叫んだ。辛うじて直撃は避けた様だった。嘔吐し続ける間下を引っ張り、安全圏へと下がる。
「しっかりしなさい!」
「……は、い。……うえッ」
 眩暈に襲われながらも、間下は起死回生で体勢を立て直した。
「うっぷ……も、もう大丈夫です」
 赤ちゃんカエル型のディアボロは前後に分かれ、一陣目の攻撃を前列が行い、カエルぬいぐるみ型ディアボロはコンセントレート。後列は共鳴による音波の壁を張っているようだった。
「さがれ!」
 天宮が言った。皆はジリジリと後退し、利根川の支流の見える老朽化したコンクリートの橋ギリギリまで下がる。
「不意打ちか……くそ!」
 宗方は悔しげに言った。敵のコンセントレート付加射程範囲内に入る直前で味方と同調し、ファイアワークスを打ち込むつもりだったのだ。
「まさか、ここで出て来るなんて……」
「言っても仕方ないやろ。くっそお……ゆるキャラはゆるいから意味あるんやで?! これのどこが緩いねん! ガッチガチに硬いやんけ!」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)は流暢な日本語で言った。元魔界の一地方の貴族の長男だったゼロには、こう言った趣向の敵はお好みでなかったようである。
「こ、此処まで数が居ると全く可愛さがないで御座るな」
  エルリック・リバーフィルド(ja0112)は眉を締めた。
 手番が遅くなったが、矢野は阻霊符を使用する。これでカエル型ディアボロは逃げられまい。

――考えろ、考えろ、思索を、行動を止めるな。まだあるはずだ……

「A班! 集中攻撃だ! 第一陣は戦闘領域内にない、ここでやるんだ」
 矢野は叫んだ。その声に同調し、 エルリックは弓を番えた。そして、赤ちゃんカエル型ディアボロを担当とした者達――明斗、秋月、饗、エルリック、鑑夜、御堂、天宮、宗方、ヤナギの9人が各々の武器を構えた。

●カエルA型 掃討戦
「任すでござるよ!」
 遮蔽物に近づかぬよう周辺や再度の奇襲に注意を払いつつ、エルリックは声を上げた。
「待って! 私が先よ!」
 そう言うと、御堂は青龍、朱雀、白虎、玄武、四神の加護からなる四神結界を展開した。それは、結界内の味方の防御力を高めるもの。
「じゃあ、行くでござる!」
 準備が整うと、エルリックはディアボロに矢を射かけた。 しかし、カエル型ディアボロはひょいと避ける。
「なんと素早い!」
「……先手は取らせてもらうわ!」
 イシュタルはすぐに武器をメタトロニオスへと変更し、もっとも敵を多く巻き込める位置へと移動する。そして、闘刃武舞で斬り込んでいった。
『ゲコッ! ゲロロッ!』
 招来した複数の戦神の剣が演舞を宙を舞い、カエル型ディアボロたちを切り刻まれて悲鳴を上げた。
「埋まっちまえぇッ!!」
 ヤナギはアウルの力でつくりだした土をカエル型ディアボロたちにまき降らす。しかし、それも下敷きの上に置かれた砂の様に、共鳴の壁の要素である音と振動に弾かれて効かない。
「チクショウッ!」
「まだです!」
 明斗は第一陣を援護する為、赤ちゃんカエル型ディアボロを中心に、多くの敵を巻き込むよう、コメットを撃ち込んだ。
『ゲコゲコッ! ゲロロッ!』
「やった!」
 わずかな数を減らせただけでもいい。明斗は次なる狙いを定めた。その横で、秋月もショットガンを構える。
 全長780mm。セミオートマティックの散弾銃は、銃口から放射状に銃弾を放ち。赤ちゃんカエル型ディアボロを何体もぶち抜いた。
『ゲコッ! ゲコッ!』
「やったぁ!」
 その隙を狙ってイシュタルが突撃し、出来るだけ多くの敵を呪縛陣に巻き込むように攻撃していた。
「まだですよ!」
 饗は最前列の敵――赤ちゃんカエル型を巻き込む位置取りし、狐火:燐を撃ち込んだ。人魂サイズに凝縮された狐火を召喚し爆散させた。撒き散らされた炎がカエル型ディアボロを襲う。 攻撃を受け、また少し数を減らしたカエルたちは背後の壁に集まるようにしながら移動していく。
 そこをコンセントレートにより、射程を延ばしたぬいぐるみ型ディアボロが天宮とアトリアーナを狙って口を開けた。
『ぬっしゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
「うわああ!!」
「きゃぁ!」
 不意打ちではないにしろ、ぬいぐるみ型ディアボロの威力は凄まじかった。可愛らしい姿のまま、全力を振り絞り撃ち抜くかのような威力と轟音が二人を襲う。黒と紫の光を放ちながら、ソニックブラストの衝撃波が射程内の者を薙ぎ払った。ついでに障害物のコンクリートにもヒビを入れる。
「くッ……なんて威力なの……」
「外見に……合わない力だな」
 そうこう言っている間にカエル型ディアボロたちは集まり、壁を背後に共鳴の壁を奏で続けている。前列が壁になれば、後列はコンセントレートかぬいぐるみ型の凶悪なソニックブラスト。
 撃退士達は避け、タイミングを計り、一斉射撃を繰り返す。秋月はショットガンによるディアボロAへのアウトレンジ攻撃。宗方は味方と同調しファイアワークスを打ち込み、その後飛行して敵群の真上へと向かう。 適度な距離を保ち、カエル型ディアボロの頭上へ向けて闇色に染まった逆十字架を槍の雨のように降らした。
「悪いがなぁ、物騒な作り物に温情掛けてやるほどお優しい宗方さんじゃねぇんだよぉ!!」
『ゲーロロッ! ゲゲッ!』
「よっしゃァ!」
「僕だって、負けません!」
 鑑夜は数が多いカエル型ディアボロを優先して狙いはじめた。ファイアワークスを使い、味方を巻き込まないように配慮しながら攻撃した。
 三日月のように鋭い無数の刃がディアボロを斬りつけ、数を削っていく。敵と距離がある場所はファイアワークスに切り替えた。
「さあ、私の出番よォ」
 御堂は祝詞とオカマ符闘術『雌雄完全同心』を発動させていた。オカマ符闘術『雌雄完全同心』はオカマを極めた者にしか至れない精神の極致。その心は男性特有の勇ましさや女性特有の冷静さなど、正に完璧な精神状態へと移行する。このような状況では冷静さが求められるのだ。
 そして、高火力の技――炸裂陣をカエル型ディアボロの足元に展開した。
『ゲーロロッゲーロッ! ゲゲッ!』
 カエル型ディアボロが吹き飛び、爆発に巻き込まれた。
 その後、残った敵を蹴散らすように、直線状に並んでいる場所をヤナギは巧く発見しつつ、今度は火遁をお見舞いした。
「くらえぇッ!」
 嬉々として攻撃に転じるヤナギではあったが、内心の方は今後の展開を危惧してもいた。
(「ある程度、敵数が減ってきたら、焔のリングで着実に仕留めていくかって……但し、少数になったとは言え、敵の能力は侮れねェ」)
 ヤナギは敵の攻撃を逸早く察知し、天性の身のこなしで回避。防御姿勢のフットワーク軽く、攻撃を攻撃で弾く等、対策を先手先手で考えものは大したものだった。
 こうして数の減ったディアボロたちは壁際に追い詰められた。

●カウントダウン 〜崩落の予感〜
 前方のバリア、後方のコンセントレートおよびバリア、ぬいぐるみ型のソニックブラストのヘビーローテーションを掻い潜り、撃退士たちは赤ちゃんカエル型ディアボロを半数にすることに成功した。
 ぬいぐるみ型担当はゼロ、間下、橋場、矢野、Erie、イシュタル6人。
 途中の遮蔽物は全員で片側を通り、間下と矢野が索敵と鋭敏聴覚を使用し奇襲警戒する予定だったが、奇襲をその前に受けてしまったので全員が敵のいる側に集まってしまっていた。
(「もう、移動できない」)
 だが、一向にカエル以外のものが攻撃してくることはなかった。
「さぁ逆転ですー!」
 間下は指揮を高めようと声を上げた。
「煩い口は閉じて下さい !」
 射程ギリギリから、間下は攻撃を行う。そしていくつかのディアボロが撃ち抜かれた。
「はぁ……多いわねぇ、気が遠くなるわぁ……」
 気怠くErieは言いつつ、ぬいぐるみ型ディアボロに向かい合う。 皆の後ろから魔法で支援する。
「それじゃ、私はカエルのぬいぐるみをやっちゃうわ。小さい方はお任せするわぁ」
 ErieはDemise Theurgia-Grausam Areadbhar-(デミス・テウルギア・グラオザーム・アラドヴァル)――深淵に形を与え現界させる魔術を放った。与えられた姿は【灼熱の黒槍】、漆黒に染まった英雄の宝具。あらゆるものを燃やし尽くす黒炎に、ぬいぐるみ型ディアボロは身を焦がした。
 橋場は一斉射撃の後、武器を斧に持ち替え、ぬいぐるみ型ディアボロに接近していった。
 先程、矢野が索敵している間にスキル【紅空我瞳】を使用しておいた。左目に着用している紅いコンタクトにアウルを集中し、紅い輝きが瞳に灯る【紅空我瞳】は相手の挙動を細かに察知し、初動を早める事で動作の速度を上げるのである。
「……数が多いの。纏めて散らす」
 淡々と呟くと、橋場はできるだけ多くの敵を巻き込むように【発勁】を使用し、纏めて薙ぎ払った。
『ギャッ! ゲゴゴッ!』
「……やった」
「クソッ! おとなしくユルっとけ! なんでそんなアグレッシブやねん!」
 可能ならば口を狙って攻撃を封じるようとしていたゼロは、相手が障害物を背に攻撃してくるので苛立っていた。ピッタリとくっ付いて、こちら側にやってもこなければ、こちらの攻撃に慌てるでもない。攻撃されれば他のカエル型ディアボロとの間を詰め、一塊になろうとする。そして、相変わらずのヘビーローテーションなのである。
(「なんであんなに引っ付いてんねん!」)
 ゼロは心で舌打ちした。しかたなく、音波の影響を受けないようにカエルの後ろ側からの攻撃は諦めた。
 バリアーは物理も魔法も弾いてしまう。どこかでこのヘビロテのサイクルを完全に切らないとこれ以上は進めない。
「なんとかならんのかいな!」
 ゼロは苛立ちを隠せなかった。久遠ヶ原に置いてきた、小さな友人に大切な土産を――母親の情報を持って帰ってやりたかった。でも、このカエルを倒さないことには今後の捜査も、群魔の奪還も進まない。
「ゲコゲコ鳴かれても困るからな。粉々にしとこか!」
 カエルぬいぐるみ型ディアボロの顔を狙い、ゼロはマライカMK-7を構えた。アウルを光の弾丸に変換し射出するこの武器は使い勝手が良い。ゼロはカエルのぬいぐるみ型ディアボロを撃ち抜いた。
 スキルが切れたその瞬間を狙った勝利と言えよう。ゼロは味方にもそれを伝え、警戒するよう伝えた。
 間下は先程の眩暈から脱し、カエルのぬいぐるみ型ディアボロをゼロと同じ要領で撃った。そして、気付かれないように構え、気付かれないようにアウルを込め、気付かれないように放つ。4体目のカエルのぬいぐるみ型ディアボロを倒した後、やっと事態は好転するかに見えた。ディアボロたちは自分たちが半数になったせいなのか、そのまま第一陣のメンバーが倒れているバイパスと17号線との合流地点まで後退しようとしているのだった。
 ディアボロたちはバリアを張りながら、障害物を背に後退していく。相変わらず共鳴の五月蠅い音は鳴り続けていた。いや、更に出力を上げていた。撃退士達は死を知った者の叫びにも感じていた。好機と見た撃退士達はカエル型ディアボロたちを追った。ズリズリと後退し、第一陣に近づいていく。皆気絶しているのか倒れたままだ。
「やった! 助けられます!」
 明斗は叫んだ。これで応急処置もできる。治癒系のスキルも使えると安堵の声を上げた。
 しかし、矢野は何か先程からチリチリと神経を焼くような感覚をまだ味わっていた。

――思考を限定しろ、他はメンバーが警戒している。自分の考えに集中するんだ……

 何か強力な一撃を用意し、奇襲するのではないか。否、応援の手は索敵の範囲内にはいない。どういうことだ。俺なら精神的な優位を確保するために優先して生存者を撃つ。ならば、四神結界が解けた時か? もうすぐ結界は解ける。狙うならそこか。此方の優位が確定し、空気が僅かに弛緩した時か。それなら、合流地点にたどり着いた時だろう。でも、何も見えない。遠距離攻撃を持っていても、周辺地理的に此方の索敵範囲に引っかかる方が早い筈。
 矢野の思考が回る。
 そして、すべての崩落の瞬間はやって来た……

●黒き狩人の魔弾
 合流地点にたどり着いた瞬間、カエルたちの共鳴の中で異音が鳴った。誰一人として気が付かなかった。ゴッ!という鈍い音が響くと共に、撃退士達の視界は真っ暗になった。気が付けば血を流していた、頭痛がした。土の匂いと崩れ落ちる音がした。重い何かが自分たちを押しつぶした。誰かが絶叫した。
 何が起きたのかに気が付いたのは、矢野だけだった。
「コンクリートが!」
 共鳴自体がトラップだと気が付いたのは意識が薄れる瞬間。
 増援が来ないままカエル型ディアボロを追えば、必然的に注意はそちらに向かう。そして、第一陣を餌に後退し、罠まで引き入れる。矢野は気が付かなかった。
 なぜ、生存者を撃たなかったかを、今更思い知った。崩落したコンクリートは長年工事が放置され、手入れがされなかった上に群馬にディアボロが跋扈したせいで老朽化が進んだもの。そこに第一陣との交戦から第二陣のまでの長い共鳴を聞き続けたため、崩落の決定打となったのだった。
 そして、そこにぬいぐるみ型ディアボロのソニックブラストが4本も当たる。崩れ落ちるコンクリと共に大量の土が舞い上がった。
 アウルを纏う撃退士達にとって、その事故は怪我はしても大したものではない。しかし、障害物の一部が消えた上に隙ができれば、それだけで十分なのである。

――これがッ! あの予感は……

 矢野が思った瞬間、吹き飛ばされていた。血反吐をぶち撒け、地面を血で塗らし、声にならぬ獣の叫びを上げて地を転がる。衝撃と痛みと屈辱とで涙が零れ堕ちた。ヴァニタスの撃つ50口径は竜の咆哮にも等しい。背骨がへし折れてないだけマシだろう。
 そして、銃弾は一発だけではない。
 ヴァニタスは的確に潰すべき敵を選んでいた。矢野の背後で同じように間下が倒れていた。黒いコートを血で染め、闇の色に。そして、白きシャツは鮮血で染め上げ、血の気が引いて白くなった頬は絶望の色だった。
 そして、傍で倒れているのはゼロだ。普段は軽妙な会話が飛び出る口からは血が溢れ、ようよう息を吸っているのか、短い呼吸音が聞こえる。誰も彼もが血と土に汚れていた。そこまで見届けて、矢野は意識を失った。
「誰かッ! しっかりしなさいよ!」
 御堂は叫んだ。間下を抱え、安全な方向を探した。やっと物陰に隠れた瞬間、宗方が撃たれた。どうやら、矢野たちが撃たれた弾ではないらしい。撃たれたものの、矢野らのように重体になるようなものではなかった。
「早く逃げッ……あぁ……」
 短い悲鳴が聞こえた後、宗方は倒れ伏した。御堂はまた絶叫した。
「こんなのはたくさんだわッ! オカマ、舐めるんじゃねえわよお!!」
 御堂は泣きながら走り出し、宗方を抱えて再び走り出す。肩を三発撃たれたが、呻き声も上げなかった。むしろ、堪えた泣き声が噛みしめた口元から零れた。悔しい、苦しい、絶対に許さない。御堂は唇を噛みしめた。

「まだこちらには人数がいるんですよ!」
 饗は叫び、生存者を己の翼で回収し始めた。
 パンッっと背後で弾ける音がした。気にせずに飛ぶ。そして、二度三度と音がした。翼を掠め、弾丸が宙を裂いた。翼が弾丸で火傷しても、饗は飛び続けた。
 そしてい今までいなかった狼型ディアボロと鷲の頭を持った獣型ディアボロも現れた。饗は狼型ディアボロに 狐火・燐や闇の矢を放ち、何度も果敢に攻撃した。
「ッ! ……つ、強い!」
 饗はギリギリな状態でのスリル感を味わい、久しぶりの美酒に笑みを浮かべた。
「それでは、救出者を拾い、あなたの弾に当たらないでいられるかやってみましょうか……」
 そう言うと、饗は飛び交う弾丸をギリギリで避け、狼型ディアボロたちを掻い潜り、第一陣のメンバーを回収した。そして、鳥の様にヴァニタスに撃たれた。

「よう……やってくれるじゃねえの? 勝手に手前ぇの指揮でギグかましてんじゃねーよ!」
 ヤナギはどこかにいるヴァニタスに向かって叫んでいた。
「クソックソッ! 何とか……持ち堪えてくれ……っ! 何が何でも助けに行く」
 ヤナギは足でリズムを刻みながら、狼型ディアボロにヴィリディアンを振るった。それは目に見えないほど細く、標的を絡めとり肉を切り裂く金属製の糸。それが狼の血で染まった。
『ギャウン!』
「ざまあみろ、ワン公!」
 饗の戦いに興が乗ったヤナギは鼓舞されたのか、攻撃を続けた。遠くで発砲音が聞こえる。翼の生えた仲間がヴァニタスがいるらしき場所に向かって飛ぼうとするが、その度に撃ち落された。
 凄まじい威力、途切れない精神力、的確な照準。ヤナギは胸糞悪くなって奥歯を噛みしめた。
「クソッたれぇ!! ……ぁッ!」
 衝撃と熱が自分を通り過ぎた。続いて痛み。ふと、笑みが零れる。まだ終わンねーんだよ、誰撃ってんだ畜生。ヤナギは呟いて、アスファルトに血だまりを作った。

「アトリ、隠れて!」
 エルリックは叫ぶ。愛しい子のために。
「……大丈夫、戦うから」
 橋場は恋人に向かって言った。自分だって選んでやって来たのだから戦いたい。鷲頭の獣型ディアボロはパワー型と聞き、力なら自分も負けないと引くことはしなかった。
「小細工無しで正面から叩き斬ってやるのですの」
 正面を受け持つ事で注意を惹き、仲間の攻撃と合わせて撃破しようと思っていた。
「ならば、拙者が! 力は無くとも回避には多少の自信がある故、接近戦ならば負けはしないでござる!」
 エルリックは敵を攪乱しつつ、味方の攻撃のタイミングを作るよう努めた。素手に負け試合なのはわかっている。しかし、戦わないのは性に合わない。エルリックは懸命に攻撃を仕掛けた。
『ギャウン!』
「やってやったですの」
「アトリ……」
 次は誰だと二人は敵を見据えた。

「どういうことよ、これぇ」
 Erieは言った。
「そんなこと言ってる場合じゃありませんね」
 明斗は生存者を少し陰になったところで癒しの風を使っていた。
 鑑夜は秋月と共に狼型ディアボロを相手にしていた。一方、鷲頭の獣型ディアボロを相手にしているのは天宮とイシュタルだった。
「ここも危険です。撤退しましょう」
「本当にねぇ……こんなことになるなんて」
「さぁ、行きましょう」
 明斗の声にErieは頷いた。物陰から飛び出したその刹那、弾丸がErieを捕らえた。
「……!」
「Erieさん!」
「だ、大丈夫よ! 行って、行くのよお!」
 辛うじて動くことができたErieは明斗に支えられ、戦線離脱した。しかし、冥魔の銃弾は無事にErieを逃がしてはくれなかった。
 そして、狼型と鷲頭の獣型を倒した鑑夜、秋月、天宮、イシュタルと合流し撤退戦に入った。ヴァニタスの方も、相当数の撃退士を倒し、十分な戦果を得たと感じたのか、ある程度の場所まで後退したところで攻撃してこなくなった。
 第二陣の犠牲者、重体7名、軽傷8名。第一陣の生存者は5名。黒井 明斗により、軽症者と生存者は出来うる限りの治療を受けることができた。
 戦果はカエル型ディアボロ半数、狼型を2匹、鷲頭の獣型が1匹。
 県庁への北側の道を得られなかったということで、この依頼は「失敗」とファイルされるに至った。

●群魔 某所
 暮れなずむ夕陽を背に、家屋にて昏き闇を纏っていた黒い狩人――メレディスは、ミシミシと軋む家屋の床を踏みしめて、マスケット銃を片手にゆっくりと出ていく。
 撃ち尽くした武器はメンテナンスのためにしまってある。主人であるルルーとお揃いの銀製の腕輪。それを眺め、ふと微笑んだ。
「これでトゥラハウス様はお喜びになるでしょう……まあ、私にはお嬢だけですから、どうでもいいんですけど」
 猛き者は闘い甲斐があるというもの。戦いの後の一服を楽しみながら、軽口を叩いてメレディスは紫煙を吐きだした。

―― 奪った物の代わりに、お前の欲しいものをあげるわ。

 赤き翼の女主人の言葉。

「毒か、媚薬か……まぁ、私には後者ですがね」
 そう言って、黒き狩人は赤き翼の元に還って行った。


 闇に生きるは我が運命(さだめ)
 踏み鳴らす靴の音を戦いて聞け
 万願成就の夜の果て
 三千世界を果てなく焼付くし
 恐怖の味を思い出させてやろう

―― 汝ら 誰彼の中に沈め……



依頼結果

依頼成功度:失敗
MVP: Eternal Flame・ヤナギ・エリューナク(ja0006)
 撃退士・矢野 古代(jb1679)
 非凡な凡人・間下 慈(jb2391)
 縛られない風へ・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
重体: Eternal Flame・ヤナギ・エリューナク(ja0006)
   <ヴァニタスに狙撃されたため>という理由により『重体』となる
 災禍祓う紅蓮の魔女・Erie Schwagerin(ja9642)
   <ヴァニタスに狙撃されたため>という理由により『重体』となる
 撃退士・矢野 古代(jb1679)
   <不意打ちでヴァニタスに狙撃されたため>という理由により『重体』となる
 非凡な凡人・間下 慈(jb2391)
   <不意打ちでヴァニタスに狙撃されたため>という理由により『重体』となる
 悪魔囃しを夜店に響かせ・饗(jb2588)
   <ヴァニタスに鳥の様に狙撃されたため>という理由により『重体』となる
 激闘竜姫・宗方 露姫(jb3641)
   <ヴァニタスに二度狙撃されたため>という理由により『重体』となる
 縛られない風へ・ゼロ=シュバイツァー(jb7501)
   <不意打ちでヴァニタスに狙撃されたため>という理由により『重体』となる
面白かった!:6人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
銀と金の輪舞曲・
エルリック・R・橋場(ja0112)

大学部4年118組 女 鬼道忍軍
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
悪魔囃しを夜店に響かせ・
饗(jb2588)

大学部3年220組 男 ナイトウォーカー
誓いの槍・
イシュタル(jb2619)

大学部4年275組 女 陰陽師
激闘竜姫・
宗方 露姫(jb3641)

大学部4年200組 女 ナイトウォーカー
臨機応変・
秋月 奏美(jb5657)

大学部3年258組 女 阿修羅
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅