木枯らしが吹き始めた季節には、
温かい飲み物とお猫さま。
幸せ気分をみなさまもどうぞ。
幸せ色のねこかふぇは、しばらくの間は文化祭。
メイドも一緒にお待ち申し上げております。
●ねことメイドとスタッフと
「さて、少しはバイトの経験が活かせると良いけど」
黄昏ひりょ(
jb3452)は、緊張した月遊 神羽(jz0172)に微笑んで言った。
「あ、ありがとうございますぅぅっ!」
黄昏や部長たちのためにも、絶対成功させたい。その思いが通じたのか、もう一人の応援の手が現れたのだった。
「メイド服ですか……それを聞いたら、手伝わない訳にはいきませんね」
その生徒の名前は 田中 裕介(
ja0917)。メイドのために生きていると言って過言でないほど、メイドの何たるかを伝道する人物である。
「メイド服はサイズ、種類とも沢山用意してきました」
「うわぁ……可愛い」
「光栄です♪」
にっこりと祐介は微笑んだ。本当にメイド服が好きなようだ。
色は紺だけではなく、アリスカラー、シャーベットピンクと揃っていた。丈は長いものが多いが、お客様のためにわざわざ選んでくれた。
「すごいねぇ……」
黄昏は目を瞬いてそれを見た。
一目見て可愛いと感じれるほどに、それらは丁寧な作りをしていた。
一方、黄昏の方はと言うと、ウェイターの仕事着にエプロンを着けていた。企画に合わせ、ハロウィンらしいコウモリのバッチが付いている。
「ねこかふぇは俺もたまに寄らせて頂いているし、お手伝いようかって」
「ホント、助かります! 田中さんも! こんなに、可愛いのがたくさんあるなんて」
祐介はにっこりと意味深に笑い、メイド服を手に取ってこう言った。
「提案としてですが……ウエイトレスの方々もメイド服を着ては? その為のメイド服も用意してきました」
「仕事、早っ!」
「まあ、着たい人がいるなら、ですが」
そして、メイド服着用は任意でと言うことになり、誘惑に負けた神羽は白と紺のメイド服を交互に着ることにした。
●学園祭当日のねこかふぇ
ふわりとロングの茶髪が揺れる。ふわりふわりと足取り軽く、春名 璃世(
ja8279)はねこかふぇへ。
「ミルク様に会えるのも、ウェイターさんしてるひりょくんを見られるのも、楽しみだな♪」
(「わぁ、嬉しいドキドキが止まらないよ♪」)
「……あれ?」
聞こえてきたのはカフェから出てきた女性たちの声で。
「ねぇ、さっきのウェイターさん可愛かったよね!」
「えー、可愛いよりかっこいいじゃん?」
(「カッコ良かったとか可愛いとか、誰かなあ? 評判いいみたい。もしかして、ひりょくんのこと…? 」)
かふぇの手伝い 男性=ひりょ。この図式が見事に出来上がって、ふと璃世は微笑み、誇らしい気持ちでカフェのドアを潜った。
「いらっしゃいませー! お席はこちらにどうぞ」
(「お帰りなさいませ、お嬢様…じゃないんだなぁ」)
ねこかふぇだし、それも自然。そして、少し先のテーブルの横で黄昏を発見し、璃世は笑顔で控えめに手を振る。
(「わぁ、猫耳……本当だったんだ」)
可愛いもの大好きな璃世。猫耳ウェイターさんの黄昏に思わず顔が綻んだ。
「いらっしゃいませ……お嬢様って言うべきかな?」
「もぅ……そんなこと言ったら、照れちゃうよ。カッコ良すぎ」
ちょっと長めのニットの袖で口元を隠し、璃世が笑った。
「猫耳は可愛いけど、ウェイターさん姿は大人っぽいから……カッコ可愛いね、ひりょくん」
「あ、ありがとう……改めて言われると照れるな」
「さっきのお返しだよ? えっと、ハロウィンケーキと林檎の紅茶を下さいな」
「かしこまりました、お嬢様」
少しばかりからかうように黄昏は璃世に言った。
「月遊さん、グラスが冷めなかったら、氷で冷やしておいてね」
「はいっ!」
黄昏のアドバイスに、神羽は素直に返事した。
(「月遊さんも慣れていないようだし、お互いにフォローしあわないと」)
「レモンを入れたら、接客をお願いします」
「は、はい!」
「頑張って」
互いの笑顔がとても大切に思える、バイトならではの至福の瞬間。
「あ、そうだ! さっきのお客さんが追加注文に来て下さいって言ってました」
「じゃあ、そっちはコーヒーを出したら俺が行きますね」
「お願いします!」
そう答えると、バイトとして参加してくれる祐介の様子も確認する。
(「サポート魂が燃え滾るね……」)
黄昏は積極的にサポートに向かった。
●すいーと☆はろうぃん
「はわわー……」
南瓜とオバケの砂糖菓子。イチゴ、ベリーがチョコベースのクリームの上に乗っている。ハロウィンケーキの上は、まさに収穫祭の真っ最中のよう。
「いただきます……んー、チェリーのフィリングが美味しい♪」
一口食べ、その美味しさに感動。そして、紅茶でほっこり。
そこを神羽がトレーを持って通り過ぎ、璃世は神羽を呼び止めた。
「あ、あのっ」
「はい?」
「美味しくて幸せな時間をありがと。お客様の笑顔が溢れてるね……それに月遊さんの笑顔も、とっても素敵だよ♪」
「はうっ……あ、ありがとう、ございますっ」
じわーと涙腺をやられ、ようようお礼を言うと、神羽はぺこっと頭を下げてキッチンへ逃げ込んだ。
「えへへ♪ ……あれ? わぁ!」
感謝は感謝を呼ぶもの。愛は愛を呼ぶもので。彼女へのご褒美の様に、看板娘(猫)のミルク様がひょいと璃世の膝に乗った。
「なーん」
「わぁぁ……」
そのおすましミルク様に目を奪われ、璃世は嬉し過ぎて一瞬硬直した。そして、またミルク様は地上に降り立つ。
至福の瞬間を与えられ、また璃世は幸せな気分になった。
そして、メイド服を田中に勧められ、璃世は水色のメイド服を選ぶ。
「2ショット、いいですか?」と璃世。
「もちろん。爽やかな感じがして璃世さんに似合ってるな、うん」
「またぁ……でも、今日のひりょくん、頼もしくてすごくカッコ良かったよ」
そう言って、メイド服の感想に照れて染まった頬のまま、感謝の気持ちを込め、笑顔で告げた。
感謝は笑顔を呼ぶ。笑顔は幸運を呼ぶ。それが世界の黄金律(ゴールデンルール)。
彼女は自分の手で実らせた果実(幸せ)を手にした。
●桜猫とミルク
「にゃんこ、にゃんこ、猫耳にゃんこ?」
一色 万里(
ja0052)は神羽を眺めて首を傾げた。
「はい?」
「お客さんも、猫耳つけて、猫耳にゃんこ?」
物凄く不思議そうに尋ねる。神羽はしばらく考えて、頷いた。
「うーん……そうか、にゃんこがボクを呼んだのさ!」
そう言って座り込み、ミルク様にご挨拶。
「こんにちは。キミは触っても怒らない子?」
人差指を突きだして、ミルク様とご対面。
「冬の天然湯たんぽ♪ 実家のにゃんこは、こたつに入っている間、ずっとボクの膝が指定席だったよ……え? この服着て、にゃんこ撮影会?」
万里は訳の分からないまま、撮影会と聞いて参戦した。
「正統派メイド服は持ってないけど、正統派儀礼服は着てるよ」
「いえいえ、衣装はお貸しいたしますー」
神羽はやや振り回されそうになりながら、万里に説明をする。
「んー、まあいいっかな」
どうやら、あまり興味はなかったらしく。万里はササッと椅子に座ってメニューを見始めた。
「ご注文はいかがなさいますか?」
やっと、神羽が営業トークに慣れた頃、万里という一風変わったお客様が現れて、またもや人生修行のやり直しだった。
「はーい、飲み物くださ〜い! りんごサイダー、りんごの紅茶、それからチャイに…」とメニュー全制覇。
「あ、ありがとうございます! ごゆっくりどうぞ☆」
笑顔浮かべて、修行の足りなさに心で泣いて、神羽は注文を黄昏に渡した。
「はーあ……ボクね、紅茶を飲みながらのお茶会も、大好きだよ♪ えーっと、ケーキのメニューはコレ?」
「あ、はい」
「うーん、じゃあ。ハロウイン仕様のケーキと、ベイクドケーキ、カボチャのスフレ」
結局、万里はケーキも全制覇した。万里は神羽に大好きなサツマイモのデザートはないかと質問し、それがあるとわかるや、にっこりと微笑んだ。
たくさん食べて、「余は満足じゃ」と幸せのため息を吐いた。
●猫の提案
「にゃーお」
ソーニャ(
jb2649)はミルクに挨拶した。
「なーん」
ミルクも返事をした。むしろ、何?と言った感じだ。様子を窺っている。
――なんと、ここの猫スタッフはミルク先輩1匹でやられてるとは!
「ボクもお手伝いします。これでもボクは経験者ですから」
ソーニャは「おねだり術・甘え術」も完璧のカリスマ猫として、ちょっとは知られた猫ったという経歴の持ち主らしい。 見た目人間なのは……いや、どう見ても人間なのは言ってはいけない。
そして、42匹の先輩(猫)たちに鍛えられたそうな。
「先輩たちの名誉にかけて、ここはお客様の心をわしずかみにせねば!」
すりすり、ぺろぺろ、腕を抱きかかえての甘噛み。抱き着き、胸のおっきなお客様には逆もふもふ。
「ひゃああ!」
しかし、声を上げたのはお客様ではなく、神羽だった。
「お、お客様?」
色々いるのが久遠ヶ原学園。ビビってはいけない。でも、神羽は普通の女の子。ちょっとばかり無理だった。
「なーお」
「はへ?」
営業活動も忘れないソーニャは、四つん這いの足元をすりすり。こっちであそぼと完全猫化。
そして、いつのまにか店のすみっこにカーペットを敷きはじめた。
「ど、どこからそんな」
驚愕している間に、ソーニャはクッションを配置。転がって猫と遊べる場所を作っている彼女に、何と言ったらいいのだろう。
しかし、猫と戯れるスペースができるのは良いこと。じゃまにならない位置にずらしてOKとした。
「だ、大丈夫かな。猫耳メイドの写真コーナーに近いけど」
「『猫耳メイド』というものがお客様におもてなしをするのですか……しかし、猫耳メイドとはいえ同じ猫!」
そして、ソーニャはあざといメニューを考えた。
「猫耳メイドの餌。猫耳メイドに餌を上げられます(クッキーorポッキー)。あとは、お膝にに乗るとか 」
「ど、どうしよう……」
「じゃあ、メイドの餌」
「え?」
びっくりする神羽を気にもせず、ソーニャは試しにと、神羽の口に餌=ポッキーを突っ込んだ。
●猫愛×メイド愛
「ふふ…ここだな、猫と戯れつつケーキを喰える店とは♪」
里条 楓奈(
jb4066)はねこかふぇの前で呟いた。
――猫と一緒にケーキが堪能できる……おぉ、天国ではないか♪
楓奈はメイド服撮影には全く気付いていないようだった。今の楓奈の目的は、猫とケーキを心いくまで堪能する、の二つだけだった。
(「メニュー全制覇だな(ニヤリ」)
そして、まずお猫様のいらっしゃいませにノックアウト。
「なーん」
「おぉ…何とも愛らしい猫……うふふふふ♪」
いつものほんわか温かいカフェの雰囲気のまま、皆が楽しそうにしているせいなのだろう、ミルク様はご機嫌な様子。ひょいと抱っこされても怒らなかった。
「ふぉぉ……モフモフ」
そして、友人の祐介を見つけ、メルク様を抱っこしたまま声をかけた。
「ん、祐介もケーキと猫を堪能しに来たのか?」
「あぁ、楓奈さん。猫とメイド服を堪能しに来たのですか?」
「な…っ!? そんなイベントがあったのか!」
「えぇ、是非メイド服を着てみてはいかがですか?」
「馬鹿を言うでない! 私に似合う訳なかろう!?」
「そうですか? このロングなら似合うと思いますけどね……あぁ、そうだ。 ケーキ、奢りますよ?」
祐介は相手の弱点を突いて、にこりと笑った。
「むぅ……ま、まぁ……そこまで言うならしかたがない……いいだろう」
「では、私が選びますね」
「うむ」
メイド服の種類は楓奈にはわからなかったため、祐介に一任した。
そして、試着。
伝統的なスタイルのメイド服――紺のワンピースはマトンスリーブ。エプロンは白で、靴は牛革のショートブーツ。そして、猫耳カチューシャ。
「完璧ですね……素晴らしい被写体です」
祐介が陶然とした表情で言う。そして、激写、激写、激写☆
「むぅ…言い過ぎだ。ちょっ……撮りすぎではないか?」
撮影時や褒められ、楓奈は困惑。やっと撮影が終わると、楓奈は奢りのケーキを堪能した。
「ふふん♪やはり甘味は最高に美味いな♪」
ミルク様を抱っこ継続しつつ、楓奈は学園祭を満喫した。
●はじめての戦い(接客)
「ね、ネコは…兎も角、人手がないというのならば手伝おう」
手伝いにやって来た結月 鳳仙(
jb7598)は、集まって来た時に誓いとも感じれる雰囲気で言ったものだった。しかし、鳳仙は人の困難を救うため、片っ端から首を突っ込んでは自爆する性。で、結果が……。
「い、い、い、らっしゃいませ……メニューを! ど! う! ぞ!」
ズギャァァン!と攻撃の構え。
「この人、変」
「あうう……」
早くも撃沈。
今までの人生で接客をしたことがない。引き攣った笑みを浮かべて給仕していた。
「 お猫様とまったりできるなんて素敵だよね〜」
そこへやって来たのは、ののは(
jb7599)だった。メニューを眺め、待ったりと過ごしている。
「文化祭でどこも騒がしいから落ち着ける場所は嬉しいな〜……ん?」
「の、ののは!」
「鳳仙ちゃん?」
そして、鳳仙は運良く知人を発見して泣きついたのであった。
「どうか、私の練習に付き合ってくれ(血涙」
最終目的はちゃんと接客出来るようになること。大事なミッションだ。
「いいよー」
ののはは練習に付き合ってくれた。
「メニューを! ど! う! ぞ!」
「はーい、ダメ〜」
で、またも撃沈。
「……はぁ」
「ん〜……甘いものっていいよねぇ」
相変わらずほんわりと、ののははベイクドケーキにりんごの紅茶を頼んで満喫中。
「折角付き合ってくれたのに、これじゃあののは殿に良い格好をみせられないままだな。私は自分で思っていたより不器用なようだ」
肩の力が入りすぎているのはわかっていた。でも、非戦闘のスイッチを切り替えられない。
「にゃーみたいに気楽にいればいいんにゃよ」
ぎこちない鳳仙を見て、クスリと笑った。そして、顔の前に拳骨を持ってきて猫のモノマネをする。
「いつでも戦ってるんだもの、時々はこうしてのんびりでもいいと思うよ」
そう言ってののはは笑った。「いいなぁ〜あたしもこの部活入りたいなぁ」と猫と戯れつつ、ののはは神羽に洩らす。
「ほ、本当? 来て下さい♪ 部長、喜ぶと思うし!」
「えへへ、どうしようっかな♪」
ののははねこかふぇを見渡し、幸せそうに笑って言った。
いつもと変わらないねこかふぇの、少しだけお祭り色に満ちた時間が過ぎる。
文化祭終了まで、あとちょっと。
なーん……
お猫様が一つ鳴いた。
そこには、ミルクちゃんと部長さん。そして、みんな。
いつものほっこり笑顔。ミルクちゃんの声。
……それがあれば、いいよね?
心のスキマにお猫様とリラックスタイム。
今日も、皆さまを癒します♪