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青と橙の絶妙な色彩を放つ大空を前に、屋上の柵の中からフレイヤ(
ja0715)が、夕陽の向こうを見つめている。
「風が……啼いているわね……」
ウェーブを描く見事な金髪をばさりと音を立てて靡かせた。
黄昏の魔女(自称)の名を冠する彼女は、邪魔の入らないのを良いことに一人悦に入っている。
防寒の為のポンチョの下は自作の魔女服。
「今こそ名乗ろうではないか! 我が名は! 黄昏の魔女! フレイヤ様であると!」
夕焼けの橙に映えるフレイヤの金髪は、キラキラと輝いている。
「そうか! 俺は摩天楼の忍者だ!」
対抗心に火が付いたか、炎條忍(jz0008)が叫ぶ。
まだまだフレイヤの長い口上は続く中、少し離れた場所では月子(
ja2648)が騒いでいた。
「屋上だぜ! ヒャァァァァハァァァァァ! リア充爆発しろ!」
「朝からshoutし続けて、まだ足りないのか!」
授業はどうしたんだとツッコミ入れても全くもって聞く耳持たない月子は、夕焼けも関係なしに叫んでいた。
何が彼女を掻き立てるのか炎條には理解できない。
「乙女の行動は謎が多いのです」
大威張りで胸を張る。
その後、あまりの騒がしさに簀巻きにされて屋上の隅に転がされた月子だったが、毛布で簀巻きにされたのは皆の優しさかもしれない。
雲や空が橙色に染まり、沈み行く太陽が揺らめく。
「夕焼け空って良いよね。なんとなく温かくなるって言うか」
冬の空気の冷たさを感じる頬を支えるように柵に腕を掛けて頬杖を付き、ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)は夕焼け空を眺めていた。
防寒対策でコートを羽織ってきたけれど、暖色系の風景に包まれていると温もりを感じるから不思議だ。
「まだsetting sunしきってないからな!」
小麦色の肌のソフィアと違い、白い肌の炎條は顔が朱い。
「こんにちは炎條くん、この間のスライム以来だね……わぁぁ、夕焼け凄く綺麗、綺麗だよ!」
天文部として参加する犬乃 さんぽ(
ja1272)の白い肌もまた、朱い。
きらきらと輝かせる目は青空を象ったようで、さんぽの瞳の中にもう一つ夕焼け空ができている。
「元気そうだな!」
「ボク天文部員だもん、部員になって初めての星の観察会、楽しみなんだ」
星の観察の前に、晴れた空の夕焼け空を眺めようと屋上にやってきたさんぽ。
「天文部が参加するなら、望遠鏡や星座早見盤とか貸してもらえるかな?」
ソフィアの問いにさんぽは笑顔で首肯した。
「もちろん!」
見上げた空は紺色で、まだ星の姿は見えないけれど澄んだ空気は後の夜空を期待させる。
夕焼け空に浮かぶ宵の明星を見ながら、佐倉 哲平(
ja0650)は近くに見えるだろう木星を探す。
月と木星、そして金星が近づく様を観察できるのは、夕焼けの残るこの時だけ。
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九曜 昴(
ja0586)が部長を務める天文部は、有り難いことに望遠鏡を持参しての参加だ。
借りる手間が省けたと喜ぶ炎條に、哲平は別に、と表情を変えず屋上に望遠鏡を設置する。
「……天文部に入ってて、こういうイベントに参加しないのは名折れだしな……」
「カメラはとりあえずこれに取り付けたの」
流石に全ての望遠鏡にカメラを接続はできなかったので、昴は南へ向けた望遠鏡にカメラを接続した。
「それじゃあ、今集まっている皆さんにプリント配っておきますね」
今夜見れるはずの星や星座、簡単な解説等を部室で作成したプリントを雪成 藤花(
ja0292)と舞谷 茜乃(
ja5242)が配布をする。
藤花は作っておいたクッキーをプリントに添える。
「寒空の中、毛布にくるまって暖かいお茶を飲みつつ天体観測も素敵ですよねぇ♪」
茜乃は温かいお茶を用意しており、星空のティーパーティーの始まりだ。
「星空を見るのは、とても素敵ですね」
星と星を線で繋げて作る星座には一つ一つ神話があって、小さな星星が集まった星団や銀河、そして天の川。
季節によっても見える星座は変わっていくので、星を見るのはいつまでも飽きない。
一つくらい振って来てもいいのになぁ、と藤花は夜空に想いを馳せる。
「……一等星ポルックスと二等星カストルが特に天頂付近にあるから、それが頼りになるだろう……」
「ポルックスとカストル……あれか?」
月詠 神削(
ja5265)が哲平の指差す場所を望遠鏡を動かして星を観察する。
連日連夜、天魔退治に躍起になる慌ただしい日常を離れ、穏やかな気持ちで星を眺めるのも悪くない。
安く買い込んだチョコを使ってホットチョコレートを作ってきた神削は、満点の星空の下で甘い香りに包まれ、柵にもたれて空を眺める。
「そういや、今度実装されるスキルは、自分の好きな名前に変更出来るとか」
「ああ! 神削はもうchoiceしてるのか!?」
「今はまだ。けど星に関する名前を付けてみるのもいいかもなー」
この壮大な星空へ様々な想いを乗せて、神話になぞらえた名称にするのも愛着が湧いてくるだろう。
アルデバランを探しつつ、見つけたプレアデス星団に茜乃は嬉しそうに笑う。
「こういう観測会……楽しいのっ!」
眠たげだが機敏に動く昴は、とても楽しそうである。
熱心に望遠鏡を覗き込みながら、哲平はレンズを下へと徐々に移動させていた。
この時期にしか見ることができず、見つけると寿命が伸びる、なんて逸話のあるカノープスを探している。
もう少し下の方か。望遠鏡のレンズを徐々に下へと移動させ、赤く輝く星を見つけて哲平は微笑を浮かべた。
「シリウスはどれかなぁ……」
オリオン座を見つけられれば冬の大三角形が姿を表し、目的のシリウスも赤々と燃えているのが確認できる。
星を探していたさんぽは、星の洪水に心を奪われた。
部室から持ってきたウール100%の温かい毛布に包まりながら、アーレイ・バーグ(
ja0276)はレーションを手に取る。
「国に帰ったら婚約者が……待っていませんけどね」
壁にもたれかかりながら星を見上げ、天体観測というよりなんだか戦場に居るようだなぁ、なんて浸っていたり。
「星が綺麗ですねー……」
あまりの毛布の温もりに、思わず瞼が降りてくる。
「あの、良かったらホットミルクティー、どうですか?」
うとうとしかけたアーレイに、毛布を羽織った神月 熾弦(
ja0358)が遠慮がちに声をかけた。
いくら温かい毛布に包まれていても、寝たら危険かもしれない。
それに一人では飲みきれないので他の人にもお裾分けしようと思っていたので、近くに居たアーレイに声を掛けた。
「ありがとうございます、いただきます」
「はい」
星空や夕焼けを眺めるのも楽しみの一つであるが、寒さしのぎに何を持ってくるかと考えるのもまた一つの楽しみだ。
今回はアッサムでミルクティーを、それならミルクの量はどれ位にしようか。
準備をしている最中でもわくわくする。
湯気を吹きながらミルクティーに口を付け、熾弦は瞬く星空を見上げて微笑みながら目を細めた。
明るい内からコタツを準備していた如月 敦志(
ja0941)は日も落ち暗くなり始めて、持ってきた鍋の準備を始めた。
「塩味のさっぱりした鍋にした。結構大量に用意はしたから、暖を取りたいヤツには配ってくれ」
下味を整えて満足し、敦志はアトリアーナ(
ja1403)に箸と具材を渡す。
白菜やエノキ茸など一般的な具材を煮込みつつアトリアーナは茶目っ気で空豆と豆腐を多めに投入した。
「肉! もう肉食べてもえぇかね!?」
「まだ煮えてないから。七種さん、落ち着いて」
半生状態の肉に箸を伸ばそうとする七種 戒(
ja1267)に七海 マナ(
ja3521)が待ったを掛けた。
肉を狙うのはマナも同じ。けれど生の状態は流石に手を出せない。
「マナ、豆腐食べる?」
ぐつぐつ煮立っている鍋から豆腐と空豆を掬い、アドリアーナがマナの皿に装う。
「ありがとう」
野菜も食え、と横から敦志が白菜を入れ、皿に入っている具材を食べている間に狙っていた肉は次々に戒の手によって攫われていく。
肉、残っているかなぁ。
青木 凛子(
ja5657)は、屋上に来る前に家庭科室でホットチョコレートを作って来た。
「ことぶ子、ホットチョコ配り手伝って」
「オッケー」
一人で配りきれないので梅ヶ枝 寿(
ja2303)にも手伝って貰う。
「……こうして星を見るのも、悪くない……かも」
星空の下で鍋を囲み、その後冴えた冬の空を見上げる。
「ほら、リアあそこのひっくりかえったフライパンみたいなのが北斗七星だよ。名前はしらないんだけど、その隣の蒼く光ってる星がすっごい綺麗なんだよねー!」
「……ん、そんな星、どこにも見えないの」
「あ、あれ……おかしいなぁ、あの星見えてるの僕だけ!?」
「……マナ、それ……見えると不運を呼ぶって星じゃ……」
「え!? そうなの!?」
神妙な面持ちでアトリアーナが言うので、マナは信じて大慌て。
どうしよう、とおろおろするマナに、アトリアーナは柔らかく微笑む。
「ん、でも……ボクと皆が居れば不運なんて吹き飛ばすから関係無い、なの」
ごろりと寝転がり、星空を静かに見上げるアトリアーナの隣にマナも寝そべる。
夜の船上で見ていた星空を思い返しながら、まったり流れる時間に穏やかな笑が自然と溢れる。
「こんなにゆっくりと空を見上げるのは、久しぶりですね……」
厚手のコートと甘いホットチョコを持参し、星図盤を懐中電灯を手にして雫(
ja1894)は夜空を見ていた。
「あれが、オリオン座かな?」
星図盤と夜空を交互に眺めて、雫は星座を探す。
「冬のtriangle見つけたか!?」
懐中電灯の明かりに誘われたように、炎條が星座盤を覗き込む。
炎條に星座探しを手伝って貰う雫へ向かって、戒がハイテンションで駆けて来た。
「しぃ、見ろ! アレが【おーえむしーの星】だ!!」
そしてさっき敦志に教えて貰った適当な星を格好良く指差して、戒は堂々と宣言。
「おーえむしー?」
持っている星座盤の何処を探しても、戒が教えてくれた星座は見つからない。
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「うわぁ……ロマンチックー……」
真っ暗な夜闇に瞬く星の洪水に目を奪われ、瀧 あゆむ(
ja3551)は小さく息を吐いた。
「あぁ……こんな場所でも、冬は星が綺麗だな……」
冬の澄んだ空気は普段遠くて見えない星々も近くなった気がする。ただ一つの難点といえば、とても寒いという所か。
ミノムシよろしく毛布を体に巻き付けぐるぐる巻きのラグナ・グラウシード(
ja3538)を不思議そうに眺め、あゆむは首を傾げる。
「そんなに寒いかなあ?」
冷え性なのだ、と縮こまるラグナにあゆむが何か思いついたように黒い顔をした。
「ぎゃうっ?!」
星に心を奪われているラグナの項に、前触れ無くあゆむは冷たくなった手を突っ込んだ。
「あーあったかーい♪」
突然の出来事に飛び上がって悲鳴を上げるラグナ。あゆむは楽しげに温かい項に指先をくっつける。
だが相手が言葉を失い震えているらしいことに気づいて、
「えっ? な、泣いてるのっ!?」
寒さとは違う震えと落涙に驚くあゆむに、ラグナは
「ち、違う! 泣いてなどいない! これは……ほ、星のかけらが目に飛び込んだせいだ!」
訳の分からない言い訳をして、あゆむに慰められるのだった。
喉元を守るようにマフラーを巻き、生姜スープで喉を温めて亀山 淳紅(
ja2261)は屋上の隅っこに居る。
「天体観測かぁ、屋上やったらようけ星も見えるやろうなぁ♪」
視界を遮るものもなく、晴れた星空はどこまでも広がっている。
赤や青の瞬く星や、線で繋げてると見知った星座へ形を変える星を見つめていると、胸の奥から何かが込上げてた。
(あぁ、今、凄く、歌いたいなぁ)
熱の籠る吐息を吐き、逸る気持ちを必死で抑えようとする。
「おっと、淳紅はっけーん。りんりん特製ホットチョコどーぞ」
「!? あ、ども、おおきに」
凛子の作ったホットチョコを配り歩く寿からにこやかにホットチョコを手渡され、淳紅は気を落ち着けようと口を付けた。
甘くて温かいホットチョコが喉を潤し、ぽかぽか身も心も温かくなると、尚更胸がむずむず疼く。
喉を傷めぬよう細く息を吸い、淳紅は邪魔にならないよう小さな音を紡ぎ出す。
優しい歌は暖かな響きを奏でながら、夜空に舞う。
優しい歌声がどこからか流れてくることに、大崎優希(
ja3762)と鳳 静矢(
ja3856)は顔を見合わせて微笑む。
「ココア飲んであったまろうか」
天体望遠鏡を設置して、星を観察する前に暖を取ろうと大希が持ってきたココアをコップに注ぐ。
「ん、ココアか……もらおうか」
甘くて温かいココアを静矢と二人で飲んで、ほんわか。
「ほらほら、すごい星だねえ……あれは、何座なのかな〜?」
持参した天体望遠鏡を覗き込みながら、優希は静矢に話しかける。
「冬は夜空も綺麗だな……ここは孤島だから、尚更、星の光が映える」
天体観測に夢中の優希の背後に回り込んだ静矢は、そっと後ろから抱きしめた。
「……ん、暖かいな……」
着ているコートの中にすっぽり優希を包み込んで、静矢は微笑む。
「おー……すげー……」
満点の星空に感嘆を上げたかと思えば、甘々カップルに星空とは違う感嘆を上げ。
寿は凛子とそこかしこに出来てるカップルの会話を予想している内に、凛子がそっと寿の手を取った。
「あの星の一つにでも触れる事が出来たなら、ことぶ子の指に贈るよ。何億光年もの永遠を誓う愛の指輪だ……」
空に輝く星を一つ手で示して、凛子が寿の目を見つめる。
見つめる凛子に頬を朱に染め、寿は目を伏せた。
「やだことぶ子恥ずかしい……て、配役逆じゃね!? つか俺より確実にりんりんのが男前とかチクショウ……!」
決まった目的もなく学園の屋上で空を眺めるなど、この先無いかもしれない。
それに大学部に通う久遠 仁刀(
ja2464)はこの催しに参加した誰よりも早く、ここを去ることになるのだろう。
ほんの少しの感傷を交えて参加した仁刀は、よく見知った桐原 雅(
ja1822)と合流する。
白のハーフコートに赤色チェック柄のプリーツスカート姿の雅は熱々のコーヒーを保温ポットに入れて持参していた。
「コーヒーに合いそうな甘いものってことで、これを買ってきた」
保温容器に入った鯛焼きはほかほかしていて、冷えた手に調度良い。
「ん、ありがとう」
毛布で足元を温めながら、雅は持ってきた陶製マグカップにコーヒーを注ぐ。
一つしかないマグカップを交互に使い、二人は星空を眺めながら鯛焼きで手先を温める。
「この鯛焼き、しっぽの先まであんこいっぱいで、美味しい」
「ああ」
二人でぼんやり空を眺めながら、どちらともなくぽつぽつととりとめもない会話を交わす。
昼間の喧騒が嘘のように穏やかな時間に、仁刀はふ、と表情を和らげる。
……こういう時間も、悪くない。
「帰る時は送らせてもらう」
撃退士ばかりの島で滅多なことも起こるはずもないが、女性を夜遅く一人で帰すのは忍びない。
「ボク、一人でも大丈夫だけど」
決して弱くない雅だが折角の申し出を断る理由もなく、有り難く受け入れることにした。
「あっ!」
夜空を見上げていた藤花が急に声を上げた。
指差す先には、流れ星。
「一生JK! 一生JK! 一生JK!」
熱い視線を送っていたはずの寿を突き放し、凛子は怒涛の勢いで三回叫び、達成感に満ちた笑顔のドヤ顔でサムズアップ。
「モテ系男子モテ系男子、もえけい……あああ噛んだし……! どチクショウ……!」
一方の寿は男前の凛子に再び勝てず、がっくり項垂れた。