●夜蝶の歌
スポーツをする体育館が仮装パーティのために飾りつけがされ、人も集まり楽しい雰囲気が作り出されている。
「運命は残酷だ、どうしてこうも俺を苦しめるのか……」
しかし、ジェラール・アロース=コルトン(
jb3534)はその中でも沈んでいた。
愛しい妻と共にこのパーティに参加できなくて憂いている。
ステージの方にジェラールが目を向けると、織宮 歌乃(
jb5789)と少人数のバックバンドが立った。
今宵の歌乃は仮装パーティということもあってかシックな魔女の衣装に蝶のマスカレイドをつけている。
彼女の知り合いでもパッと見ただけでは歌乃とは気づかないだろう。
♪〜〜
私は誰、 アナタは誰、 知らず、知らない一夜の秘密の上で踊りましょう
〜〜♪
広い体育館に歌乃の歌声が響き渡り、ダンスパーティに華がさく。
「気晴らしに少し回ってみるとしよう」
孤独に張り裂けそうな思いを胸に、ジェラールは壁から足を踏み出した。
●僕らのアリス
パーティ会場には吸血鬼や雪女、マミーや海賊などの衣装をまとうハロウィンらしい光景が右にも左にもあふれている。
そんな中、仮装ではなく、むしろ普段着から『狂った帽子屋』なレトラック・ルトゥーチ(
jb0553)が通りがかった嵯峨野 楓(
ja8257)に声をかけていた。
「愛おしく麗しい俺のアリス達、茶会へようこそ」
「あ、どうも」
大げさにティーポットを高い位置で傾けて紅茶をいれたレトラックが楓に紅茶をさしだす。
「いや、こんなところにいたのかい俺のアリス」
レトラックから紅茶を受け取った楓が振り返るとルティス・バルト(
jb7567)がウィンクをしている。
反り返ったシルクハット。それに刺した値札。
大きなスカーフと黒の燕尾ジャケットにストライプのパンツ。
小道具にはティーカップという格好でだ。
「まさか、その格好で被るやつがいるなんてな」
レトラックに連れてこられ、さらに犬耳の首輪をつけたガルム・オドラン(
jb0621)はルティスを見て含み笑いを見せる。
「はははっ、確かにね」
「しかし、俺の方が決まっているだろう?」
ガラスの片眼鏡を光らせてレトラックは楓にたずねる。
「二人とも面白い方ですね」
楓の言葉に二人の帽子屋はお互い顔を見合わせて肩をすくめるのだった。
●お友達紹介
パーティの主目的は交流会である。
そのため、お互いの友達紹介をしている人々もいる。
「ノールさんお久しぶりだね。今日は友人二人と一緒に来たよ」
吸血鬼スタイルの神谷春樹(
jb7335) が悪魔のコスチュームを纏うクリスティン・ノール(
jb5471)に挨拶と共に友人を紹介する
魔女の格好をしたドロレス・ヘイズ(
jb7450)と魔女の格好だが犬耳や尻尾のついた二重の仮装をしているロキ(
jb7437)の二人だ。
「春樹おにーちゃんにドロレスおねーちゃん、ロキおねーちゃんだね? ユウだよ」
大人なしめなクリスが連れてきたのは天使の格好をしたユウ・ターナー(
jb5471) である。
太陽のようなまぶしい笑顔を向けてドロレスとロキと握手を求めた。
「んー……よろしく」
「よろしくお願いいたしますわ」
和む雰囲気の中にズンズンと魔女ファッションで目つきの悪い飛鳥黎子が入り込んでくる。
「このハーレムは何? 春樹も隅に置けないわね」
「あ、どうも……ハーレムというか、友達の集まりで」
春樹が言い終わる前に飛鳥は彼の首根っこをつかんで顔を寄せて、ニヤリと笑う。
「で、どれが本命なのよ」
「いや、だから本命とかそういうのは特になく」
「まぁ、くっついたら報告しなさいよ。うちのクラブで盛大にお祝いしてあげるわ」
いいたいことだけをいい終わった飛鳥は春樹を解放する。
「それじゃ、あんた達も楽しんでって頂戴ね!」
マントをばさっと翻して去っていく飛鳥を残された5人はポカンと見送るのだった。
●Trick Or Treat!
賑わう会場の隅では壁の花となっているギィネシアヌ(
ja5565)がいた。
「まだかなー」
魔女の仮装をしているギィネがキョロキョロと周囲をみているとひとつの影が忍びよる。
「Trick Or Treat!」
背後に忍び寄った影が大きな声をギィネにかける。
「うひゃぁらぁ!?」
びくっと背筋を伸ばしたかと思うとギィネは帽子を深く被ってしゃがみこみ、小動物のようにプルプルと震えた。
「す、すまぬ、其処まで驚くとは思わなかったのじゃ」
ギィネが震えながら見上げると、そこにはチャイナドレス姿のヴィレア・イフレリア(
jb7618) が目じりを下げ、眉根を寄せた顔で立っている。
「悪趣味なのぜ! でも、これがハロウィンなのだ。後は楽しくいくのぜー!」
すぐさま笑顔をとり戻したギィネはヴィレアの手をとりゆったりと踊る人の輪に混ざっていった。
洋風の衣装の多い中、鴻池 柊(
ja1082) は狩衣に白髪ウィッグ、さらには白妖狐の耳と尻尾といった純和風スタイルで待ち合わせをしていた。
「仮装……学園でもする事になるのか……」
「Trick Or Treat。仮装パーティなんて初めてだよ」
ため息をつく柊に常塚 咲月(
ja0156) が雪女姿で顔をみせる。
「お菓子を食べるのは休憩時間だ。今はやらん」
「むー……」
感情表現が乏しく、雪女の衣装の似合う咲月がじゃっかん頬を膨らませる。
食べ物に関しては少し素直になるようだ。
「まずはこれだけでもくっとけ」
むくれることも計算ずくだったのか、柊は袖の中からドーナツの入った袋を取り出して咲月に食べさせる。
「むふー……」
咲月の口から、幸せそうな声がでた。
待ち合わせているカップルは他にもいる。
櫟 諏訪(
ja1215)達もそのひとつで、オペラ座の怪人風衣装に身を包み、可愛くて仕方ない恋人を褒めちぎっていた。
「千尋ちゃんの魔女っ娘、よく似合っていてすごいかわいいですよー?」
南瓜パンツにフリルブラウスにマントをつけた魔女衣装の藤咲千尋(
ja8564)が顔を真っ赤にして照れる。
「ふおお、あ、ありがと……すわくんもかっこいいよ、うん!!」
すらりとした諏訪の姿を見上げて千尋はにっこりと笑う。
「TRICK or TREET!ですわーーっ! お菓子をくれないと攫ってしまいましてよ〜」
別のところでは、ロジー・ビィ(
jb6232)が上品な口調とはチグハグな女海賊の衣装で気軽に声をかけている。
「秋の俺にスカルな天使が舞い降りた……お前に俺の心が攫えるかな?」
スケルトンの全身タイツを着込んだ命図 泣留男(
jb4611)が無駄にかっこいいポーズを決めて挑戦的な視線をロジーに向けた。
「何をいっているのかよくわかりませんけど、貴方も天使なのですわね。仲良くいたしましょう」
ロジーはポーズをきっちり決めているメンナクの手を握り激しく上下させる。
シェイクハンドをしている二人をパシャリとシャッター音が捕らえた。
「お二人も天使なのね。私とも仲良くして貰いたいです」
フリルやレースなど可愛いさがある魔女の仮装をしたルル・ティアンシェ(
jb7741)がカメラを片手に二人に笑顔を向ける。
「あらー、あなたもよろしくお願いしますわー♪」
「あ、僕もできれば仲間に入れてくれるとうれしいかも」
「まぁまぁ、怪我しているみたいですけれど大丈夫ですの?」
全身包帯でぐるぐる巻きな日下部 司(
jb5638)をロジーが心配そうに見つめ返す。
「いやぁ、仮装ですから……さぁ、曲も変わりましたし踊りましょう!」
顔が見えていれば苦笑いをしているであろう司はロジーに突っ込みを返し、その場にいるメンバーと音楽にあわせてダンスを始めるのだった。
●すれ違う思い
「……これを機に、もう少し近づけるといいな。というか、いい加減に何か言ってくれてもいいのに……。それとも本当に気付いてないのかな?」
巫女服に九尾の尻尾を揺らし、天宮 葉月(
jb7258)の視線はジャック・オー・ランタンの仮装をした黒羽 拓海(
jb7256)見ている。
視線が絡み合うことなく、ふぅと葉月がため息を漏らしていると桜木 真里(
ja5827)が声をかけてきた。
「パーティで暗い顔をしているけれど、どうしたのかな?」
真里は不思議の国のアリスに出てくる白兎の格好である。
九尾の狐の姿をしている葉月とケモノ系の衣装で雰囲気がマッチしていた。
周囲では軽快なダンスミュージックが流れ、踊っている人が多い。
「せっかくのパーティだから、笑っていこうよ」
笑顔を見せる真里につられて葉月も笑顔になった。
『よーし、みんな盛り上がっているかーい!』
ステージにロングコートの海賊服に、黒の眼帯をつけたジェンティアン・砂原(
jb7192)が躍り出てマイクパフォーマンスをし始める。
ジェンティアンの言葉に会場がゆれるほどの大きな声が返された。
『パーティを楽しんで盛り上がっていこう! ダンスにぴったりな歌を一曲歌わせて貰うよ!』
ロックロールのリズムでテケテケテケというギターサウンドで始まる曲再び会場がヒートアップする。
まだまだ、パーティはこれからだ。
●楽しいお茶会
ポンっという音と共にドロレスの着込みがちだった魔女衣装が消えてシンデレラへと姿を変えた。
おおっという歓声と拍手を受けたドロレスはステージから降りる。
休憩の合間のちょっとした余興として手品を披露していたのだ。
「すごいよ、ロリータ。見事な手品だね」
春樹がステージから降りるドロレスの手を取ってエスコートし、クリス達のいるテーブルへと歩く。
「すごかったの!」
「手品みれてよかったですの」
ユウとクリスは華麗な手品を見せたドロレスを芸能人をみるかのような羨望のまなざしで見つめている。
「お疲れ様……」
戻ってきた二人にロキは狼型のクッキーを手渡す。
「うわぁ、これ手作りなのかな? ありがとう」
「ウフフ、可愛らしいクッキーですのね」
受け取った春樹とドロレスは喜んでいるが、ロキの表情はわずかに曇っている。
「やぁやぁ、麗しいアリス達。おいしいお菓子のお供に紅茶はいかがかな?」
そんな5人の間にティーポットを持ったレトラックが混ざってくる。
レディファーストでカップを手渡し紅茶を注いでいくレトラックをフォローするようにガルムも加わった。
「邪魔して悪いな。まあ……紅茶だけは確かに美味ぇからよ。許してやってくれ」
「ううん、美味しそうな紅茶をもらえて嬉しいよ。はい、おにーちゃん達にパンプキンパイのお返しだよ☆」
「ユウねーさまとクリスの合作ですの! お口にあうかわかりませんけれども……」
お兄ちゃんと呼ばれ、パイまで貰ったレトラックはプルプルと体を震わせたかと思うとオイオイと泣き出す。
「この子達とってもいいこだよ、ワンちゃん」
「だからぁ……俺ぁ犬じゃねぇ、つってんだろぉが……味は大丈夫だぜ。ありがとよ、嬢ちゃん達」
ガルムは見上げてくる二人の視線から目をそらし、レトラックに突っ込みをいれて答えた。
その答えに二人は嬉しそうに微笑みあうのだった。
●ノックダウンあるいはナックルダウン
「このブラックノワールにふさわしいスイーツ、それは……」
サングラスを光らせ、ゴゴゴという擬音が聞こえてきそうなポーズでメンナクがお菓子を取り出す。
「これだ!」
チープな袋に入った漆黒の宝石……黒糖飴だ。
「こんなところで黒糖飴と出会うとは不思議なものですね。いただきます」
赤い髪をなびかせ、蝶のマスクの下から緩やかな微笑を浮かべた魔女は飴を受け取る。
「飴かぁ、甘くない方がいいなぁ……甘いキスは大歓迎だけれどね」
ジェンティアンがウィンクを魅惑の魔女に送っていると、ロジーが颯爽と姿を見せた。
「海賊のお仲間ですわー。ビターな味わいなものがよかったら、私のお菓子を食べてみませんこと?」
「へぇ、それは少し期待を……うっ」
ロジーの方に振り向いたジェンティアンは言葉を失う。
器となった小さな南瓜の中身には紫色の『何か』が入っていた。
「うーん、それもちょっと僕は遠慮しておくよ」
「俺のガイアが囁いている。見た目ではない、中身だとな」
何か危険な香りを感じたジェンティアンが一歩引くとメンナクが躊躇することなくロジーの紫色の南瓜プリンをスプーンで食べる。
「なん……だと」
それを最後にメンナクは後ろ向きに崩れ落ちた。
●至福の時
「ふー……色んなお菓子食べれるのっていいよね……」
咲月は拓海の用意したパンプキンパイを食べ、ルティスのパンプキンスコーン、ルルのクッキーを食べ、南瓜クッキーなどなど一通りの菓子を満喫していた。
「月、何時ものペースで食べるなよ? 他の参加者に迷惑だ」
柊も咲月と共にコーヒーで一息いれている。
「いーの……これだけたくさんあるんだから」
南瓜のスイートポテトを口にして、咲月は柊に言い返した。
***
咲月が食べたスイートポテトを作った諏訪は恋人の千尋にスイートポテトを食べさせている。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
ニコニコと笑みを崩さない諏訪に食べさせて貰った千尋は爆発しそうなくらい顔を赤くしてお菓子を口にする。
千尋はお菓子を口にしたら益々顔が赤くなった。
彼女の脳内では大きな爆発音がしているが諏訪には聞こえていない。
「お、お返しにあーん」
「あーん」
クルクルとしたアホ毛を嬉しそうに揺らして諏訪が口をあける。
子犬のような可愛い諏訪のそぶりに千尋は悶えそうになる心を抑えていた。
●交差する気持ち
ルルは甘い空気を作っているカップルをパシャりとカメラに収める。
「こういうパーティっていい絵がいっぱい撮れるね♪」
「楽しんでる?」
「十分楽しんでいるよ。はい、司ちゃんにもお菓子〜♪」
「ありがとう、ルルちゃん」
司とルルはお互いにお菓子を交換し、食べあう。
「あ、私とも交換してほしいかな〜」
葉月がお菓子交換に加わった。
「可愛い子とのお菓子交換ならこちらからお願いしたいね」
「いいよー、こういう交換会も楽しいんだよね」
拓海は司と葉月が仲良く交換している様子を眺めると、一瞬動きを止める。
だが、あえてそれ以上は動くことなく他のパーティ参加者とお菓子を交換したり話を続けた。
葉月から見ても南瓜の被り物をしている拓海の表情は確認しようもない。
『あー、あー、そろそろ休憩時間も終わります。ペアダンスの相手の決まっている人は合流の上しばらくお待ちください。フリーな人は飛鳥先輩や僕にまで声をお願いします』
ステージの上で吸血鬼の格好をした毛利がアナウンスをする。
パーティの終わりが近づいていた。
●Shall We Dance
ルティスの引くゆったりしたピアノのメロディが流れる中、ヴィレアがギィに手を差し伸べる。
「折角じゃ、1曲付き合ってはくれぬかや?」
「そいじゃ楽しむとするか、ヴィーちゃん」
ヴィレアの手をとったギィは不敵に笑みを浮かべるも、ダンスを踊る足取りはぎこちない。
「無理に上手に踊ろうとせなくてもよいのじゃ。我もさほど得意というわけではないからのぅ」
ギィの懸命な姿を見たヴィレアはクスクスと笑い、軽いステップを踏むのだった。
一方、ジェンティアンはルルの腰に手を回し、ワルツを踊る。
「仮装、よく似合ってるよ」
「ありがとなのね♪ あなたもとってもお似合いなのよ」
フリルのついた魔女服がクルリと回るたびにふわりとあがって、ルルの愛らしさを彩っていた。
真里はペアで踊っている人達が多い中、相方が見つからずに周囲をキョロキョロとしている。
せわしなく会場を歩き回る真里の姿はまさに不思議の国のアリスの白兎のようだった。
「あっ……ま、待ってうさぎさん!」
迷う白兎の手をアリスな楓が掴む。
「見つけてくれてありがとう、アリス」
「ふふっ、何処に居ても見付けるわ。私のうさぎさん? ちょっとダンスの開始には間に合わなかったけれど……」
真里は申し訳なさそうにする楓の手を自分から掴むとゆったりとしたテンポのダンスから急にリズムを加速させたり、ダンスをアレンジしたりして踊りだす。
「遅くなったお返しかな?」
「もう離さないから、ついていくよウサギさん」
お互いに微笑みあって二人はダンスを楽しむ。
「クリスちゃん、ユウ達も負けないように踊ろうよ♪」
「はいですの☆」
ユウとクリスも楓と真里に負けないくらいクルクルと回りテンポを早く踊りだす。
金と銀の髪がキラキラと光り、白と黒の衣装が入れ替わり見るものを楽しませていた。
「ふおぉ……ひーちゃん上手い……」
幼馴染にリードされながら踊る咲月は彼氏のダンスの上手さに翻弄されている。
「別に舞踏会じゃないから、そこまで本格的に踊ってはいないんだけどな」
柊は慣れていないだろう咲月にしばらく合わせていたが、咲月の顔が曇りだす。
「ごめん、ひーちゃん……人酔いした…」
「は?」
ため息を漏らした柊は咲月をお姫様抱っこした。
流れる曲と人並みに合わせながら、二人は会場を離れていく。
葉月は会場を離れていく二人をうらやましそうな視線を向けていた。
「どうした、葉月」
「別に……なんでもないよ♪」
努めて明るく振舞い、葉月は拓海と踊り続ける。
不慣れながらも踊るひと時は通じ合っているようでどこか離れいるひと時だった。
●Change The SmallWorld
不慣れながらも春樹はドロレスと踊っていた。
「流石に女の子にリードされる訳にはね?」
「ハル、足元ばかりじゃなくって私の顔をちゃんと見てね?」
しかし、外見どおりの小悪魔なシンデレラは春樹のまっすぐな心をからかう。
「はは、手厳しいね」
一通りのダンスが終わると、ドロレスはロキと交代した。
ドロレスのダンスを見て軽く体を動かして感覚を掴んでいたロキだったが、春樹を前にすると体がこわばる。
「大丈夫。気楽にいこう……って、僕がいうことじゃないんだろうけどさ」
本で読んで勉強はしていたものの、実践の難しさに戸惑いながら春樹はロキとも踊りだす。
ロキは緩やかなで静かなステップを踏む春樹に合わせながら動く。
「んー……こんな感じで、いいのかな……? ……ちゃんと、踊れてる……?」
「えっと、大丈夫だと思うよ? 僕も他人の評価をするほど上手くないけど」
自分も大変なのにフォローを入れてくれる春樹の優しさにロキは柔らかい笑みを浮かべた。
「もし宜しければ私と一曲お願いできますか?」
「あら、嬉しいですわー♪」
司からのダンスの誘いをロジーはノリノリで承諾して、振り回すように踊りだす。
マミーな司が本当に怪我をしないか周囲が不安になるくらい勢いのあるダンスだ。
「ダンス? ああ、俺で良ければ……勿論、お伴させてもらうよ。君みたいに可愛い子に誘われて光栄だ」
「か、可愛い……ふん、見る目あるじゃないの」
飛鳥がジェラールを誘うと褒められて、まんざらでもないように顔を赤くする。
「俺の愛しい人には敵わないけれど」
だが、次の一言で急に不機嫌になった。
ジェラールにとって、嫁と普通の女性の間には越えられない壁が存在している。
「ああ……愛しい人、早く帰って君の膝で眠りたいよ」
「ああ……なんで、こんな残念なのをあいてにしなきゃいけないのよぉ……」
女性の扱いに慣れていてダンスは上手なジェラールであったが、微妙にディスコミュニケーションしていた。
●宴の終わり
ダンスパーティも終わり、体育館から外に出た諏訪は紅白の縞々マフラーを千尋と一緒に首に巻き手をつないでいる。
「ん、今日は楽しかったですねー! また来年も一緒に楽しみましょうねー!」
「うん、来年も!! だね!!」
つなぐ手に力を込めて千尋真っ赤になる顔で諏訪を見上げた。
秋も深まり始め、夜風が冷たく頬をなでるが体温は下がらない。
「ふ……今宵、俺の胸の中でとろけちまいな」
夜空を見上げる千尋の前に飛鳥をお姫様抱っこしたメンナクが翼を広げて飛び上がっていった。
「ちょ、何をしてるのよ!? どこさわってるのよ、黒い変態!」
「知ってたか? 黒には幸福の光も宿っているんだぜ」
「わけのわかんないことを言ってないで降ろせー! ああ、何でこんな変なのに絡まれんのよぉぉぉ」
秋の夜長に飛鳥の悲鳴がこだまする……。