●お誘いのきっかけ
講義が終わるチャイムをつげ、講義室の中が生き返ったかのように人の声や足音が響きだす。
「このイベントどうかな?」
喧騒の中、手書きのチラシもちやわらかな笑みを浮かべる伏見 千歳(
ja5305)が精悍そうな麻生 翠(
jb0725) に声をかける。
「何時も武器のメンテナンスをしてくれてるから、お礼をしたくて」
「気にしなくて良かったのにな。メンテは俺の仕事の一部だしな……だが、天体観測にはいい時季だからのるよ」
「ありがとう、じゃあ準備をしたら現地集合ということでね」
いつも絶やさない笑みをより輝かせた千歳が翠と別れた。
千歳にとって、調度いいタイミングの依頼で合ったのは幸いである。
丁度同じ講義を受けていた一組の男女も同じようなやりとりをしていた。
「なんだこれは、星空を見に行くのか……帰りが遅いのなら迎えにいくぞ?」
花厳 雨(
jb1018)から無言と無表情に渡されたチラシに花厳 旺一郎(
jb1019)は自分なりの回答をだす。
「違う。私だけじゃないの、一緒に行くの」
旺一郎よりも頭一つ分下からじぃっと雨は見上げてくる。
無表情ながらもその瞳には強い期待のようなものが浮かんでいた。
「わかった。一緒にいけばいいんだな。まだ少し時間はあるから」
フゥとため息を漏らした旺一郎も表情を変えることなく答える。
同じように目に映るものを感じた雨は小さく頷いた。
●出会い色々
お昼休み。
移動する生徒の多い廊下の掲示板に一枚の貼紙が背の高い学生によって掲示された。
「星を眺めるかぁ……なんだか楽しそう」
初等部の掲示板に張ら貼られているチラシをみた櫻崎 絵怜奈(
ja1015)は顔を綻ばせる。
手書きで決してきれいとは言いがたい字ではあるものの、イラストなども付いていて楽しむことに全力な書き手の性格を現しているように見えた。
「ねぇ、キミも星に興味があるの?」
中等部の制服を着ているふたば(
jb4841)が絵怜奈の隣で同じチラシをみている。
「興味はあります」
「星を見るのは好き。ボクを見守っているみたいでさ。みんなといっしょなら、きっともっと楽しいよね」
「たくさんの人……来るといいなぁ」
にっこりと人懐っこい笑顔を浮かべるふたばに絵怜奈は期待を抱くのだった。
「ほほぅ、星を眺めるとな。屋上でごろごろするチャンスのようだな」
二人の話を聞いていたジャル・ジャラール(
jb7278)が背の低い二人の合間にウサギの耳みたいに伸びたリボンを除かせてニヤリと笑う。
「……いっぱい集まりそう」
期待が現実のもになりそうな予感を絵怜奈は感じた。
●みんなと一緒
夕方の調理室に一人、また一人と生徒が入っていく。
「皆さん、美味しい料理つくりましょうね」
イザベラ(
jb6573)は集まってくれた面々を眺めて笑顔をみせる。
普段はなかなか声をかけても集まってくれないことが多い彼女にとって、数少ないチャンスがめぐってきたのだ。
「あの……、えっと……、んと……よろしくお願いします、です」
所在なさげに視線をめぐらせ、髪を指でいじっていた華桜りりか(
jb6883)が小さな声で答える。
「こちらこそよろしく。楽しそうなイベントだから、それにあう料理を持っていきたいよねぇ♪」
前髪で隠れていない優しい目をイザベラやりりかに向けるとナハト・L・シュテルン(
jb7129)は自前のエプロンを装備して早速チキンポットパイを作る準備を始めた。
「柄じゃない私も加えてもらってありがとうね。料理はできるから手伝うわよ」
大きな胸に妊娠したかのような大きなお腹を持つ満月 美華(
jb6831)がナハトを早速手伝う。
「柄ではないのは俺もだな。さすがに場違い感がある」
調理室に集まっているメンバーで唯一の男性である藤堂 猛流(
jb7225)もパンケーキを作るためにフットボール選手のような大きな体で小さく見える調理台に陣取った。
おのおのが支度をする中で、りりかはきょろきょろと自分の場所を探し始める。
「一緒につくりましょうか?」
おろおろとしていたりりかにイザベラが隣に近づき、やわらかい笑みを浮かべた。
「はい……よろしくお願いします、です」
イザベラを手伝いながらりりかは料理を作りだす。
***
「面白そうかも、でも夜だよなぁ……」
同じ頃、とある部室ではチラシを手にした礼野明日夢(
jb5590)が顔をしかめて悩んでいた。
ふと明日夢が視線を隣にめぐらせると、天川 月華(
jb5134)が同じチラシを見ていることに気がついた。
「一緒に行きませんか?」
「いいの? 実は私もいってみたかったんだ、けど……」
明日夢と月華は互いに顔を見合わせる。
二人の服装は初等部の制服である、夜中までいるイベントに不安があった。
「あの、誰か一緒にいってくれませんか?」
部室にいる先輩に向けて明日夢が声をかける。
「ちょっとその日は用事があるから」など、先輩達からはいい返事が返ってこない。
「お願いします、せっかくのイベントに私も参加したいです」
月華も立ち上がって先輩達に頭を下げると、神谷託人(
jb5589)が二人へ近づいてきた。
「後輩二人だけでは心配ですし、そこまでお願いされては断るわけにもいかないでしょう」
女性に間違われやすい柔らかな美貌に微笑を浮かべて託人は二人の肩をたたく。
「それでは色々と準備をしましょう。夜は冷えてきますからね」
「「はい!」」
明日夢と月華は元気に答えて星を観察するためと、お菓子の都合を考えはじめた。
夜の集合時間まで、準備段階の楽しいひと時が動きだす……。
●平和を感じて
「まぁ入学したばっかりやし、とりあえずしゃべれるやつでも見つけとこかな」 ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)は扉をあけて賑わう生徒たちの方へと足を向ける。
空には瞬く星がいくつも広がっていた。
星空のカーテンというほどではないものの、綺麗な夜空である。
「たまにはこうした何もない平和な時もいいですね」
ゼロの次に来た廣幡 庚(
jb7208)は星空と、すでにワイワイとにぎわう人々を見て呟いた。
「オー、ニホンの星空ー!」
庚の背後からサイズ大きいセーターの袖を揺らしながらリシオ・J・イヴォール(
jb7327)が屋上へとでていく。
「今の季節なら、この時間から夏の大三角形を見れるヨネ。ベガ・アルタイル・デネブーーーーー!」
両手を頭上で振りながら喜ぶリシオの姿は見ているものの顔を緩ませた。
「何だか人がたくさん……お星さまは綺麗ですの」
少し遅れてやってきたクリスティン・ノール(
jb5470)は屋上にいる人々から星空へと視線をうつす。
キラキラと光る星は綺麗だが、夜空でポツンポツンと光っているのが今の自分とかぶる。
「ねぇ、君、ヒマかな?」
不意にかけられた声にクリスティンが振り向くと頬をかく神谷春樹(
jb7335)の姿があった。
「実はグループに入りそびれちゃったんだ。良かったら話相手になってくれない?」
「お声をかけてくださって、嬉しいですの♪ クリスでよかったらもちろんですの」
寂しげだったクリスの顔に笑顔が浮かぶと春樹も釣られて笑顔になる。
二人のように良い感じになったのは他にもいる。
「輪、さん、と、星、を、鑑賞、です♪」
榛原 巴(
jb7257)は中華風の衣装に身を包む斎宮 輪(
jb6097)と腕を組んでべったり富を寄せ合っていた。
「……はいはい」
ご機嫌な巴と違い輪は苦笑いを浮かべるだけである。
「お菓子、作ってきた……の……ミルクレープ……です…… 」
集団から離れたところにいるピアノ・コンチェルティーノ(
jb6765)が誘っていた炎宇(
jb1189)に手作りお菓子をさしだした。
「ミルクレープって作るの大変じゃなかったか? ピアノはいい子だな、どれどれ」
炎宇が差し出された箱を開けるとクリームがはみ出した『何か』がそこにある。
「あぅ・・・・・・ぐちゃぐちゃ…・・・」
せっかく作ったものが見栄えの悪いものになっていてピアノの目から涙がポロポロとこぼれだす。
そんなピアノの頭に炎宇は掌を優しく置いて撫で始める。
「オジサンがキミ位の背丈の頃もよく失敗したものさ。あと一歩届かない事も、な」
優しい声色にピアノは涙を止めて炎宇の顔を見上げた。
炎宇はピアノの目をじっと見つめながら話を続ける。
「そんな時はオジサンのお兄さんがこうやって頭を撫でてくれた。『お前が頑張った事を俺は誇りに思う』とな」 ピアノを慰めながら炎宇はポケットをごそごそと探り何かを取り出す。
「そら、これは頑張ったピアノへのご褒美だ」
彼の大きな掌が開かれると蛍光ビーズでできた小さなクマがピアノの方を見つめていた。
「…イェンウーさん、ありがと…やっぱり…いいひと…」
ピアノは泣くのをやめてにっこりと微笑む。
「さぁ、食べようか。早くしないと全部食べてしまうぞ」
イタズラっ子のように炎宇は笑うとミルクレープを食べ始めた。
「これ……大事に…・・・します」
優しくて大きい彼から貰った小さな贈り物をそっと握り締めてピアノも一緒に食べる。
夜風が彼女の熱くなった頬を優しく撫でていった。
●意外な出会い
屋上の一角に折りたたみテーブルで用意したドリンクスペース。
そこから集まってきた人達の様子を一組の男女が眺めている。
にぎやかなグループと静かなカップル達に分けられはするものの一様に表情が明るいのが見て取れた。
「思ったより人が集まったわね」
「やっぱり不安だったんでしょ?」
鑑賞会を主催した飛鳥黎子と茶畑毛利だった。
「そ、そんなことないわよ! ちょー自信作だったんだから!」
腕を組み、飛鳥は毛利から顔をそらせる。
すると、静かな足取りで絵怜奈が近づいてきた。
「何か飲み物がいるの? 緑茶に紅茶、コーヒーまであるわよ」
「えっと……これ、ちょっとだけど作ってきてみたので、良かったら一緒に……」
絵怜奈が料理研究会で作ってきたお菓子を見せると飛鳥は毛利をどかしてそこに絵怜奈を座らせる。
「あんたは見回りでもしてきなさい。私はここでお茶するから」
肩をすくめた毛利は眼鏡のズレを直すといわれたとおりに見回りに向かった。
「くすっ」
一連のやり取りを見た絵怜奈が思わず噴出す。
「何よ?」
「ううん……すごく、楽しいな……って、仲間に入れてもらいたいくらい、です」
「うs……いや、ふふん。いい心がけじゃない」
絵怜奈の予想外の台詞にツッコミを入れかけた飛鳥だったが、すぐに余裕のあるそぶりを見せた。
「ダメ……ですか?」
小首をかしげて見上げてくる絵怜奈の姿に飛鳥のハートは鷲づかみにされる。
「いいわよ、貴方はQEDの3人目ね! 改めて、飛鳥零子よ」
「櫻崎 絵怜奈です。よろしく……」
二人は握手を交わし、紅茶で乾杯をするのだった。
●星空鑑賞会
二つの湯気が夜空に昇る。
千歳は飛鳥の用意した香りのいい紅茶で、翠は自前のコーヒーだ。
隣り合って座り、翠の持ってきた星座早見表を見比べ、望遠鏡でも眺める。
「そう言えば、試験どうだった? 初めての進級試験だったよね?」「試験? 面白かったな。社長が聞いたら喜びそうな行事だしな」
翠のいう社長とは彼の所属しているIT企業のことだ。
裏の顔があるらしいが、詳細は語られることはない。
自信たっぷりに答えた翠の姿に千歳は眩しさを感じる。
「僕は4年だから……この先どうなるかが、気になるけど…・・・」
「この先な……何時も俺たちがする事は決まってるだろ? 此処に居る事もその一部だ」
千歳の声に不安な様子を感じたのか、翠は千歳の肩を軽くたたき千歳のもって来たビターチョコを食べる。
翠の優しさに笑顔を取り戻した千歳は話題を夜空に変えた。
「もう少ししたら、冬の星座に変わるのかな」
「そうだな。11月になれば冬の星座だな。千歳、あれが秋の大四辺形だ」
天体観測が趣味である翠に教わりながら千歳はこのひと時を楽しむ。
***
「ほほぅ、風情があるものだのう」
ごろごろと屋上を転がっていたジャルが千歳と翠のやり取りを眺めてニヤリと笑う。
見た目は小学生だが、年齢は300歳を超える悪魔だ。
夜空以上に買ってきたお菓子の消費スピードが速くなったような気がしなくもない。
「何か面白いもんでもあったんか?」
「いわゆる乙女のたしなみというものだな」
ごみごみとした集団から離れてきたゼロが声をかけるとジャルが顎に手を当ててドヤ顔を決めた。
ちなみにゼロも悪魔であり、地方貴族の長男というセレブである。
スーツをピシッと決めている姿が様になっているのはそのためだ。
対するジャルは青いワンピースが可愛らしい。
「見た目は子供中身は悪魔って奴かいな。色々おって飽きひんわ、一緒にから揚げくいつつ人間観察しまへん?」
「うむ、よかろう。わらわのスナック菓子もやるのじゃ」
はぐれ悪魔同士、話もはずみだした。
●ティータイム
「今からブレイクタイムをはじめます。こちらに集まってください」
星を普通に眺めるのも飽きはじめたタイミングを狙ってか毛利がビニールシートを広げたスペースへ参加者を集める。
集まった参加者に配られるのはイザベラ達が作ったチキンポットパイだ。
肌寒さの感じる夜にありがたい一品である。
「暖かいものを食べると落ち着きますね」
「あったかくて美味しいですの」
チキンポットパイを口にした春樹とクリスティンはハフハフしながら味わっている。
「春樹氏のクッキーもいただきマース」
リシオが春樹の手作りクッキーに手を伸ばし食べていく。
そうしてから、ハッと春樹とクリスティンの方を見て気づく。
「もしかして、お邪魔デシター?」
「い、いや、そんなことないから!」
リシオに突っ込まれてから寄り添いながら食べていたことに気づき、春樹は思わず否定した。
「大丈夫デース。マンガでは良くあるコト。愛さえあれば年の差も性別も関係ないデース」
「???」
リシオのからかいに春樹は動揺するが、クリスティンは何のことかさっぱりわかっていないという顔をしている。
皆で集まり、ワイワイと食事をするのもこうした場では楽しいひと時だった。
「フルーツの盛り合わせもありますけど、お一ついかがですか?」
「そいつはありがたいな。是非一口もらうとしよう」
庚から盆にのったフルーツを差し出され、猛流がひょいとつまんで食べる。
ポットパイを作ってから配るまでの緊張が開放されたように肩の力が抜けた。
「あの、その……チョコ、どうです、か?」
「遠慮なくいただくよ。皆美味しそうなものを持ってきてくれているね」
りりかより貰ったチョコを食べてナハトは視線をブルーシートの上にめぐらせる。
塩豆大福や兎の饅頭、ハロウィンらしいかぼちゃのプリンやお握りが並び、目でも口でも楽しめるラインナップだ。
このお菓子目当ての子達は片っ端から食べていき、その様子を眺めるのも楽しい。
「皆さん、楽しそうで……いい雰囲気、です」
「そうあってくれてこちらとしてはありがたい限りですよ。一時はどうなることかと思いましたから」
りりかの呟きに毛利が癖なのか眼鏡のズレを流しため息を漏らす。
彼女はそんな彼の袖をちょいちょいと引っ張るとキューブチョコを差し出した。
「ありがとうございます。チョコといえば、千歳さんが好きだったようなのでそちらに藻渡してくると良いと思いますよ」
チョコを受け取った毛利にそういわれると、りりかは軽くお辞儀をして千歳を探しにいく。
トラブルもなく、一安心かなと思っていると飛鳥が美華の背後から忍びよる。
嫌な予感が毛利の脳裏に浮かぶ。
「ええい、この胸! けしからん! けしからんわ!」
むにゅっと両手で飛鳥は美華の胸を鷲づかみ、もみ始める。
「きゃ、あぁあんっ♪」
驚きの後に艶っぽい声が美華の口から漏れた。
夜の学校では聞いてはよろしくない類の声であり、初等部の生徒がいる中では更にまずい。
「いや、そこは…・・・いけません、わ」
「ここか、ここがいいのかぁ」
何かのスイッチが入ったのかノリノリになる飛鳥。
女子同士だからこそ許されるやりとりに毛利もさすがに手がだせない。
「ええかげんにせいっ!」
スッパァァンと気持ちのいいハリセンの音が響いて飛鳥の暴挙は止まった。
それを合図にブレイクタイムが終了したのは言うまでもない。
●甘いひと時
「くしゅんっ」
寄り添っていた雨がくしゃみをすると旺一郎は自分の羽織の中に彼女をいれる。
「星を見たいなら、防寒は考えておくことだ……寒さに弱いのだろう?」
「こうしてくれるのわかっててやったから、いいの」
旺一郎の羽織の中に二人で入り、雨は彼にべったりとくっついていく。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
雨が貰ってきたジンジャークッキーを旺一郎は仕方なく食べる。
クッキーの味はビターだが、周囲から自分たちは甘くみられているのだろうかとふと旺一郎は考えていた。
「よそ事、考えてる?」
「いや……そんなことはない。せっかく持ってきたんだ、こっちも食べろ」
「じゃあ食べさせて」
顔を覗き込んでくる雨に答えて、再び渋々と彼女の言うとおりにマシュマロを食べさせる。
甘い時間はまだまだ長く続きそうだった。
***
星空を眺めてカップルがもう一組いたが、甘さは控えめである。
「秋の星座だからね、アンドロメダ座やペガスス座、ペルセウス座辺りが見つけやすいよ」
「どれが、どれだか、さっぱり、です」
べったり輪にくっついて、用意されていたお菓子を食べ歩いていた巴だったが、「いい加減星を見るぞ」ということで、今は星座盤とにらめっこしつつ一緒に見ているという具合だ。
べったりくっついているため、輪の体温と鼓動を感じるので巴は寒さをあまり感じてはいない。
「まじめにみてよ。ほら、ここがこれで」
輪の方からも体を寄せてくれるので寄り近くに感じられた。
手作りのうさぎのお菓子も喜んでくれたし、彼のジンジャークッキーも美味しく巴にとって実に有意義なひと時だった。
「ふにゅぅ、限界、です。眠い、です」
しかし、美味しいお菓子と甘い時間、暖かい飲み物のコンボは巴の眠気を大いに呼び込み、まぶたを重くさせる。
「確かに結構時間がたってるな……」
輪が携帯で時間を確認しているとゆっくりと巴が彼の膝に頭を傾けていった。
一瞬、驚くもすやすやと寝息を立て、愛くるしい寝顔を見せる幼馴染をそのままにする。
「帰る頃に、起こすよ?」
仕方ないなと思いながらも、無防備な彼女を守るよう輪は頭を撫でるのだった。
●終わりの流れ星
世もふけて解散時刻が迫ってきた頃、夜空にきらりと尾を引く星が見える。
「あ、流れ星! お願いしなくちゃ」
寒さよけのパーカーを着て、ホットココアを飲んでいたふたばが大きな声をあげて、お祈りを始める。
「どんなお願いをしたんですか?」
隣で一緒に星を見ていた庚が彼女に尋ねた。
「『幸せになれますよーに』だよ。でも、三回いえなかったんだー」
元気な様子から一変してしょんぼりするふたばに庚は苦笑を浮かべる。
「でも、きっと叶いますよ。流星群の時期でもないのに流れた素敵なお星様ですから」
「そうだよね! きっと叶うよね!」
庚の言葉にふたばは元気を取り戻していた。
「いいね、いい夜だ」
手すりに体を預けて眺めていた猛流も空を見上げるとまた一つ流れる。
賑わう中もいいが、それらをBGMに星を眺めるのも悪くないと彼は思う。
「それに俺も同意」
飛鳥にツッコミをいれていたゼロも猛流と同じように手すりに体を預けて一人コーヒーを飲みつつ夜空を眺めていた。
気の合う仲間、話の合う仲間が見つけられたので当初の目的は果たせたように彼は思っている。
「ほら、起きて。そろそろ解散時間だよ」
うっかり寝てしまっていた明日夢を託人がゆすって起こす。
初等部の生徒には夜中まで起きているイベントはやはりつらかったのだろう。
「楽しかったね」
「うん」
月華に言われると寝ぼけ眼の明日夢はこくりと頷きながら答えた。
「じゃあ、帰りましょうか」
託人が毛布と重箱をまとめて立ち上がり、月華と明日夢の手を引く。
屋上の片付けをしている飛鳥や毛利に向かって明日夢は軽く頭を下げた。
楽しい時間をありがとうと、その思いをこめて…・・・。