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マスター:丸山 徹
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/03


みんなの思い出



オープニング

 夜道を流れる車両の大河に呑まれても、ハンドルを握る彼は満足だった。それは今回の旅行を、後部座席で眠る我が子が楽しんでくれたこともあるし、助手席の妻が喜んでくれたこともある。
「やっぱ捕まっちゃったなー、渋滞」
「しょうがないわよ」
 夫は妻と苦笑を交わし、ふと後方の我が子を振り返った。
「寒くないかな?」
 ……しかし、夫の問いに応えはなかった。
 彼は体勢を戻して妻を見た。
 妻の首から上がなくなっていた。
「……?」
 わけが分からなかった。
 ただ、びゅーびゅーと血が吹き出して、車内を滅茶苦茶に彩っていた。
「……」
 ああああああああああああああああああああああああああああ……
 彼はアクセルを思い切り踏み込んだ。すぐ目の前には、微動だにしない車の列があった。金属が激しくぶつかる音、ガラスの割れる音がした。
 その夜だけで、二桁に昇る死傷者が出た。
 何台もの車が狙われ、同じように殺害された。被害者は全て車両の左側にいた。運転手を無傷にしておくことで一層の恐怖を煽り、事故を拡大させるよう仕組まれていた。血塗れの同乗者を目の当たりにした運転手は正気を失い、車両は凶器と化して夜道を疾走する。
 左ハンドルの車なら、容赦なく運転手の首が切断された。飢えた刃に人の見分けなどつかない、インプットされた通りに動くだけだ。そういうわけで運転手が即死した車両は暴走することもなかった。まったく慰めにはならないが。
 ちっぽけな人間たちの悲鳴は、破壊音とクラクションにかき消されていく。
 そして、それすら掻き消すような音が……
「ガガガッ、ガガガッ、ガガガッ……」
 アスファルトに不似合いな蹄の音が、禍々しく響いていた。

 数日後、場所は学園にある教室の一つ。
「……報告は以上、今回の任務はここに現れた天魔の撃退である」
 教壇に立って説明する教師の表情は固い。
 都内某所にある環状道路の一部が完全封鎖となって数日が経つ。完全封鎖故に被害者はほとんど増えてないが、その間に派遣された撃退士たちが任務に失敗し、重傷者が出た。
 そこは狩場だった。
 狩人はコードネーム『ワイルドハント(WH)』。 
 騎馬を駆り、銃弾と刃の連携で獲物を追い詰め仕留める、闇の狩猟者たち。
 先の撃退士たちは、撤退が遅れていたら全滅だっただろうと語る。これまで強力な敵一体に対して連携で戦ってきたチームだったため、複数対複数の動きに慣れていなかったのもある。囲まれ、分断され、各個撃破。これまで自分たちがやってきたことをそのままやり返された。
「連携も含めて敵の能力だろう、散開と集合を無言でこなし、ほとんど乱れることはないそうだ。機動力も高い」
 教師の表情は固まる一方だ。
 機動力の高さは攻撃もさることながら、撤退にも影響する。追い詰めるのが難しい。
「車両の使用を認める。破壊されてもやむ無しとしよう。だが走行しながらの戦闘は向こうに有利だ。阻霊符も移動するたび何度も使わなければならない」
 撃退士たちのほとんどが運転技術を持っている。そこでの戦闘も想定されているから、手が出せないということはない。
 だが、向こうにとっては楽園とも言える主戦場に、わざわざ入っていくべきだろうか。
「あの辺りにはサービスエリアがある、そこを戦場にできれば互角になるが……」
 誘いこむか、追い込むか、待ち構えるのか。
 やり方は一つではない、待ち構えて追い込む、または囮になって誘いこむという手もあるだろう。だがその場合は役割分担が重要だ。
 どこにどれだけの戦力が必要か。こちらは敵より小勢だ。
「個々がチームの一部となって動く必要がある。チームへの貢献が勝利への貢献と思え」
 強敵を相手に、力を合わせて立ち向かう……いつも君たちがやっていることを、敵もやってくる。
 連携が乱れれば勝てない。
 だが、それでも、負ける訳にはいかない。
「罪のない人が何人も死んだ。許すな」
 教師はそう言って、話を締めくくった。
 狩りの獲物をゲーム(game)と呼ぶことがある。
 奴らはそう考えている。

 次は奴らが狩られる番だ。
 獲物を逃がすな。



リプレイ本文

●戦支度
 エンジン音も軽やかに、白いオープンカーが夕闇を切り裂いてゆく。エアロとサスペンションを弄ってあるということだったが、ハンドルを握る里条楓奈(jb4066)の運転に迷いはなかった。悪くない、早く馴染みそうだ。
「狩るか狩られるか、不謹慎だが良い博打になりそうだな」
 楓奈がそんな軽口を叩くのは、助手席にいるのがただの仲間ではないから。
 その助手席で、紅織史(jb5575)は首にかけたゴーグルを撫でている。
「私も、不謹慎なこと考えたよ」
「ん?」
「これがデートなら最高だったのに、ってね」
「全くだな」
 楓奈が笑う。同じ思いでいてくれたことが嬉しい。
 だが、甘い時間は環状道路を一周するほども続かなかった。
「……楓」
 言って、史はシートベルトを外すとゴーグルを着けた。このオープンカーの構造上、座っている限り風圧は感じないのだが、ここからは立ち上がる必要がありそうだ。
 楓奈は「ああ」と応え、通信機器のハンズフリーボタンを押した。
「無事、発見された。今から其方に向かう」
 せめて二人きりで一周くらいしたかったなと、どちらともなく思いながら、路上の女神たちは魔装を発動した。
 その後方に、悪意の狩人たちが迫る。
 蹄の音が禍々しく響く。

 SA(サービスエリア)では異様な光景が展開されていた。
 迷彩柄の戦車がゴトゴトと進路を変え、所定の位置に収まり停止。ハッチが開いて、小柄な少女、山里赤薔薇(jb4090)が飛び出してきた。
 ぴょんと戦車から飛び降りて、周囲を確認。
「どうでしょうか?」
 赤薔薇の質問に、もう一人の搭乗者が応じる。
「……」
 ハッチからずるりと顔を覗かせたのはヴォルガ(jb3968)。ゴツゴツした指でOKサインを作ると、出た時と同様にぬるりと車内へ戻った。そこが彼の持ち場だ。
 ヴォルガの持ち場、実弾が装填されている唯一の戦車には、ジェガン・オットー(jb5140)も乗り込んでいた。
 その脇に、大型のブルドーザーが横付けされる。
 反対側にはアメリカン・トラックが巨体を揺るがせて入ってきた。コンボイという言葉を流行らせたアレだ。
「封鎖完了だぜ」
「仕掛けは上々ね」
 それぞれ降車する、ラファル A ユーティライネン(jb4620)とソフィア・ヴァレッティ(ja1133)。どちらもうら若い女性が運転するような車ではないが、彼女たちには何となく似合わないこともない。
 赤薔薇も大型バスを一台横付けした。すぐさま降りて位置を確認すると、二台目も同じようにして並べ、車体のバリケードを作り上げる。
「阻霊符、使います」
 手際よく役割をこなす姿は、健気であっても幼さや甘さはない。まるで時間に追われる白ウサギか、せっせとバラを赤く塗る兵隊のようだ。
 大好きな人が囮をしているという事実が、赤薔薇を完璧な仕事へと駆り立てていた。

「始まる前に勝敗は決まっているのさ、戦ってのはね」 
 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)はいつもと変わらぬ笑顔でそこにいた。
 SAの入り口。ある意味で最も危険な場所、この作戦の最前線。
 少し不自然だが、垣根に食い込むように停車させたクラシカルな乗用車のボンネットに腰掛けて、ジェラルドは手元のパイオンを空に透かしている。
 その隣には大きな、長身のジェラルドすら見上げなければならないほどの大男が佇んでいた。
「負けるわけ、いかないっすから」
 大男、九 四郎(jb4076)は静かに言って、敵が来るであろう入り口を見据える。
 ジェラルドは笑顔。
「そう、だから必勝の陣形だよ、車懸り用のね」
 報告があり、入ってくる方向が確定したので、打ち合わせ通りにバリケードをくんだ。
 策も罠も用意してある。だがそれらは、彼ら自身が材料であり要因。置いておくだけの罠に敵はかからない。
 そこに楓奈からの連絡があった。
「突入する」
 通信は全員が同時に受信できるようになっている。
「さて、迎え撃とうか」
 ジェラルドが立ち上がった。
「車懸りには……やっぱりこれだよね」

●狩りの時間
 作戦会議でのジェラルドの一言が全てだった。
「足を止めれば車懸りじゃない」
 あとはその足をどう止めるか、方法については皆で議論を重ねた。
 その一つ目が有利な地形へ誘い込むこと。地形は手を食わせてさらに有利にしておく。
 そして二つ目は……
 風を巻いて楓奈のオープンカーが通り過ぎた直後、ジェラルドと四郎は絶妙のタイミングでパイオンを張った。
 楓奈たちを追っていたWH(ワイルドハント)は、そのままの勢いで、鋭いワイヤーへ突進した。
「はっはー! 綺麗に騙されてくれたね」
 ジェラルドが悪戯めいた笑みを浮かべる。
 もはや足を引っ掛けるというより、ワイヤー型∨兵器によるカウンター攻撃だ。数体が地面に転がった。
 だが、後続の大部分は競馬のように障害物を飛び越えてゆく。
 そこに不敵な、不吉とすら言える剣呑なファニーフェイスが待ち構えていた。
「楽しい狩りの時間の始まりだぜ」
 罠は一つではない。ラファルのガトリングが唸りを上げ、敵集団に突き刺さってゆく。威力より足並みを乱すことでダメージを与える。
 そこに川内日菜子(jb7813)が飛び込んだ。
「獲物は貴様らだ、皆の痛みと無念を知れ!」
 アスファルトが沈むような勢いの踏み込み。密集した騎馬の群れを、赤い閃光が貫いた。相棒が敵を纏めたことで、普段以上の目標数に打撃を与える。
 それでも敵は足を止めず、転倒したものや進路を止められたものは捨て置き、疾走し続ける。
 ……どこへ向けて?
 それを、少女の一声が定めてしまった。
「楓奈さん! こっちです!」
 赤薔薇だ。
 WHは楓奈を追っていた、その楓奈は赤薔薇の元へ走る。
 WHの足は止まらない。
「……」
 戦車の中でスコープを覗いていたヴォルガは、砲手のジェガンへ指を鳴らして合図。変な音がした。
「了解、俯角12°……発射」
 ジェガンの報告と同時に、轟音が上がり地面が吹き飛んだ。
 戦車砲にディアボロを倒す力はない。だが地面なら当然、砕け、穴が空く。
 無論ディアボロがその程度で怯むことはない。だが騎馬の群れは、強制的に二分割された。直接WHを狙っていたら弾かれていたかもしれないが、地面を狙われたことなどディアボロたちは理解すらできなかった。
 分割された少ない方の群れを、花弁が包む。歓迎の花吹雪に似たそれは、螺旋を描いて一騎を包み込み、ズタズタにした。
「最初にどれだけ減らせるかが重要だね」
 いつもの明るい笑みを引き締めて、ソフィアは次の位置取りへと飛ぶ。彼女のアウル、鮮やかな金色の輝きが流麗に踊った。
 SAのほぼ中央で、白いオープンカーが見事なスピンターンを決めて停車。搭乗者は楓奈と史。
 古今東西、戦で最も難しいのは撤退戦とされる。この麗しき恋人たちは、僅か二名と一匹で二十騎相手にそれをやり遂げた。
 何よりも史のバランス感覚だ。つかず離さず敵を誘導し、五度に及ぶ波状攻撃から楓奈を守り抜いた。
 それに寸分違わず応えた楓奈の運転技術も、特筆に値する。
 最大の功労者といって過言ではない。敵を減らすことは出来なかったが、密集させたまま目的地までおびき寄せることに成功したのだ。バラけていたら罠にもかけられなかったのだから。
「悪くないドライヴだったよ、楓」
「フッ、大事なアヤに当てさせてなるものか」
 過激なデートを終えた恋人たちは、ほとんど同時に車から飛び降りた。
 赤薔薇が駆け寄る。
「やったな、狙い通りだ」
「はいっ」
 不敵に笑う楓奈に、赤薔薇は一瞬だけ笑顔を返す。だが、すぐに幼い笑顔は引き締められた。まだまだ彼女の役目は大きい、むしろこれからだ。
「……」
「いきますか」
 ずるりと戦車から降りるヴォルガと、続いて飛び出すジェガン。
 作戦の総仕上げだ。

●鶴翼
 入口付近に残った敵は小勢な上、場所は狭い。
「地獄へ行きな」
 騎上と変わらぬ高さにありそうな四郎の双眸が、怒りに燃えていた。
 四郎の呪縛陣に動きを止められたWHたちは、ジェラルドと日菜子の餌食となった。
 問題はここからだ。SA中央付近の敵は二分されたとはいえ数が多く、何より楓奈と史には余力がない。
 そこに駆けつけるダァト二人、ソフィアと赤薔薇。今作戦のメインアタッカーだ。
「確実に数を減らしていこうか」
「何もわからぬうちに死んでいった人達の無念、私たちが晴らす!」
 言葉に偽りなく、太陽の雷と爆炎の花が閃くたび、敵は数を減らしてゆく。
 特にソフィアはカオスレートも相まって、破壊の女神が如き活躍だった。赤薔薇の爆炎も文字通り敵陣を抉った。だが二人共、接近されるとやや脆い。
「さあさあ鬼さんこちらっと」
「ティア、もうひと頑張り、頼むぞ」
 残ったスキルを振り絞る史。楓奈とティアもWHの輪を押し留める。
「いくぜ相棒!」
 そこに、限定偽装を解除したラファルが鋼の疾風となって飛び込んだ。
「おう!」
 日菜子も追いかけ、ラファルの放った指向性煙幕の中で暴れまわる。
 速度を抑えられてしまった少数のWHでは、ラファルの動きを捉えきれない。四つに一つも当たらないのではなかろうか。その動きが相棒の打撃を倍加させた。
 華やかで過激な少女たちのパレードに対し、もう一方は地味で危険な男の仕事をこなしていた。
 二手にわかれたうちの大きい方の集団に、四名で立ち向かったのだ。
 数が減り、速度もないとはいえ、それでも手数は圧倒的だった。
「信じてるんで」
 ボソリと言って敵陣に飛び込んだ四郎は、その身にライフルの掃射を浴びながら呪縛陣を放つ。効果は悪くなかったがやり方は無茶だ。ライフルが魔法的な攻撃なので助かったが、笑みの消えたジェラルドが共に飛び込んでいなければ、どうなっていたか。
「……」
 ヴォルガは敵の輪の外から騎馬の足を狙うが、いかんせん数が多すぎる。「しゅしゅー」と苛立たしげに息を吐き、縦横に刃を振るった。
 ジェガンの援護も効果が薄い。
「おっと危ない」
「どうも」
 四郎を狙った手斧をジェラルドが叩き落とす。
 続けて四郎の術が一騎を石化させるが、他のWHがそこと入れ替わり、前衛の層を崩さない。 
「ちと、きついっすね」
「ちょっとね、でも想定内さ」
 負け惜しみではなく、ゲームの流れは彼らの手にあった。
 爆音が響く。
 戦車砲ではない、アウルの爆炎……赤薔薇だ。
 男性陣の命運とスキルが尽きるより早く、楓奈たち囮及び攻撃班が敵を撃退し、駆けつけてきたのだ。
 それは古の戦を思わせた。
「妻女山からの援軍が間に合ったね」
 軍師の笑みを浮かべたジェラルドが、激闘の中、宣言した。
「翼を畳むよ!」
 作戦の三つ目、それは必勝の陣形。
 彼らは一人一人が、一枚の羽だった。
 羽が揃えば、翼になる。
 鶴の翼に。
 戦場に広がっていた翼がゆっくりと閉じてゆく。
 
●葬送華
 炎の花が立て続けに咲き誇り、散る。
 ソフィアと赤薔薇の魔術だ。二人の詠唱はまるで鎮魂の歌のようだった。歌に合わせ、一つ、また一つと、爆炎の献花が捧げられる。
 皆、最初に備えていたスキルは使い切っていたが、それでも気力を奮い立たせて、持てる限りの技と、術を放った。
 犠牲者に向けた、それぞれの弔いだったのかもしれない。
 途中から、敵は逃走の動きを見せていた。
「逃すと思う?」
 ジェラルドは、笑う。
「怒っているんだよ……『みんな』が、怒っているんだ」
 彼の足元から赤黒い光が触手のように伸び、彼自身を包む。『みんな』とは、ここにいる、みんなのことだろうか。
「君たちはゲームのように殺した。だからゲームのように、死ぬんだ」
 敵陣をなぞるように、刃が、糸が、銃弾が踊り、芳しき死を振りまいた。
 崩れるWHたちの足元を、2mを超える長大な刃が二つ、凶悪な風鳴りと共に刈りとった。
「連環馬はね、釣鎌鎗に負けたんだよ。やり方次第では騎馬にも勝てるのさ」
「……」
 大鎌を操る史の言葉に賛同するように、巨刃を構えたヴォルガが「ふしー」と息を吐いた。
 チェックメイト。
 数において負けた時点でWHに勝機はなく、また生徒たちの鶴翼の陣は逃がす隙も与えなかった。
 四郎の放った矢が、最後の一騎を射抜いて、戦いは終わった。
 
 日は、とうに落ちている。
 薄闇に浮かぶのは、ひしゃげた外壁、折れ曲がった道路灯、路面に散らばる細かい破片……
 赤薔薇はへこんだ壁際にしゃがみ込むと、手にした花束を横たえた。
「間に合わなくてごめんなさい」
 撃退士とは警察のようなものだ。犯罪が起きてから、動く。大抵はすでに犠牲者が出ている。
 気にすることではない、仕方のない事だ……と、言ってしまったら、それは天魔と同じ考えだ。
「どうか、安らかに」
 ささやく赤薔薇の背後で、ざっ、と足音がした。
 赤薔薇は振り向かなかった。敵はもういない。ヴォルガが念入りに確認していたし、赤薔薇自身も調べた。彼女が調べたのは生存者の方だったが、どちらも、いなかった。
 足音の主は四郎と日菜子だった。
「……」
 四郎もまた花束を横たえ、日菜子は黙祷する。
 勝利の喜びは薄い。
 だから……
 ドッ! ドドドド……
 リッターバイクの重厚な排気音が、静かな空気を打ち壊した。
「おーいヒナちゃん、帰ろうぜー」
 ライダーもまた静かな空気とは無縁な様子。ラファルだった。
 日菜子はムッとして、でも相棒の気持ちが何だか少し分かってしまって、腰に手を当てて振り向いた。
「……タンデムか」
「うん、あ、それか前いく? つまりオレを抱きしめるか、オレに抱きしめられるかってことなんだけど」
「……完璧だな」
 ちょっと考えてしまう日菜子。
 続いて、白いオープンカーが滑らかに停車する。
 運転席から、楓奈が声をかけた。
「乗って行かないか? 返却は学園でやってくれるそうだ」
「え、でも……」
 言いかけて赤薔薇は、助手席が空いていることに気づく。
 その後部座席で、史が微笑んだ。
「楓の運転は丁寧だよ」
「……はい」
 穏やかな微笑につられて、赤薔薇は小さく頷いた。
「えっと……」
 所在なさげにしている四郎も、美女たちに圧されて、その巨体をオープンカーの後部座席に押し込めることになった。
「おーい!」
 明るい声が響いて、一台のクラシックカーがやってくる。ソフィアが助手席の窓から手を振っていた。
 運転しているのはジェラルド、なかなか様になるワンショットだ。後部座席には無表情のヴォルガと、疲れた顔のジェガンがいるのだが。
「さあ、行こうか」
 ジェラルドが言って、彼らはそれぞれ発進した。

 戦は終わり、彼らは勝った。
 勝利が虚しくなってしまったら、戦えない。
 そして、彼らはまだ、戦わなくてはならない。

 だから戦友たちよ、せめて、今日のちっぽけな勝利を分かち合おう。
 喜びも悲しみも、君たちがその手で勝ち取ったものだから。



依頼結果