.


マスター:丸山 徹
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/04/09


みんなの思い出



オープニング

 色鮮やかな一面の花園に、蝶が群れ飛ぶ。
 季節と場所を忘れさせる光景は、それが自然ならざるゆえに美しい。
 閑静な高級住宅地、その中央に位置する公園。
 住民の憩いの場であり、当然手間がかかり、金もかかっている。
 だが、いくら金をかけたところで、春の花は夏には咲かず、秋の花は冬に枯れるのが道理。
 ここにあるのは連綿と続く百花繚乱。
 咲き誇るばかりの永久の華たちは、自然の道理を無視、否定する。
 そうして見れば、絢爛なる花園はどこか空々しく、辺りに満ちる香りはくどい。
 そこはゲートの跡地だった。
 ゲートを破壊した後も自然は戻らず、不自然な美が咲き誇る。
 夕闇迫るその花園を彩るように、溶けこむように、雅なる舞手が二人いた。
 華美な装い、流麗な仕草、見事な舞は止むことなし。
 実に、止むことなし。
 飲食休養の一切が無用。
 よくよく見れば、いかに豪奢な着物に身を包んでも、その眼は虚ろ、その身は空ろ。
 ……そのディアボロたちは、和装をさせられた人の骸によく似ていた。

「ゲートの跡地に特殊なディアボロが出現した、殲滅せよ」
 久遠ヶ原学園の敷地内、とある講師の私室に呼ばれた君たちは、そこで昔話を聞いた。
 先輩撃退士たちが悪魔を葬ったという、よくある話。
 悪魔は大勢の配下を従えていた。永遠の若さ、永久の美に目が眩んだ哀れな犠牲者たち。
 その悪魔に、本当にそんな力があったのかもわからないというのに、甘言に惑わされたのはかなりの人数だった。
 中には、アウルを使う者もいたという。
「あるいはそれらの亡霊か、それとも特異な現象に過ぎないのか、調査をしてきたがそれも打ち切られた」
 調査のために危険を野放しにしていては本末転倒。撃退士とは撃退する者のこと。
 そのディアボロは一面の花園と化したゲート跡地で、夕暮れ刻、どこからかふらりと現れるという。
 そして舞う。
 ただ、舞う。
 当然それは駆逐された。
 ところがしばらくすると、また現れたのだという。
 それを駆逐すると、数カ月後、さらに半年後、一年後、そして……
「出現する時期はだんだんと遅くなり、生命力というか存在の力が薄れているのは確実だ。おそらく、今回か次回あたりで最後になる」
 それは今が終わる話。
 永遠など無い。
 花は枯れ、蝶は死ぬのが定め。
「敵のデータは揃っている、もう何度も戦ったから、戦法などもしっかり記録されている。役立てて欲しい」
 手渡される無機質な印刷物。
「目標はどちらも和服を着た骸の姿だ、便宜的にコードを『花』『蝶』としている」
 会話はなく、説得は不可能。
 常に舞っているが、こちらを発見するなり攻撃してくる。
 どちらも遠近両方の戦法を持ち、異なる長所と短所を補う連携は、それぞれの戦闘能力を底上げしている。
「地の利も相手にある。いわば向こうのテリトリーだ」
 むせ返るような甘い香りに満ちた花園は、呼吸を乱すと意識が薄れそうになる。
「無駄な動きは控え、心身を乱さぬよう臨むんだ……芸能のステージと似ているかな」
 では、気をつけて。
 講師はそう言って締めくくった。

 繰り返すだけの茶番に幕を引け。
 そうすればきっと、新たな舞台の幕があく。



リプレイ本文

●序ノ舞
 色とりどりの花が咲き乱れる絢爛な花園、そこは黄昏に浮かんだ雅なる舞台。
 甘く涼やかな華の香に包まれ、仕手(シテ)と連(ツレ)が舞う。
 三役もいないというのに、黄鐘調の音色が聞こえてくるような幽玄の美。
 永遠の花園。
 永久に咲き誇る美の舞台。
 そこは紛れもなく戦場だった。
(連携……いや、連舞か)
 麻生 遊夜(ja1838)は声も出せず、咳き込んでいる。
 虎落 九朗(jb0008)が癒しの力を遣い、遊夜はどうにか危険な状態を脱した。
 先手を取られた。
 細かく言うなら最先手を取ったのは遊夜だ。
 遊夜は先を制し、グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)と連携して攻撃にかかった。仲間たちもそれに続く、はずだった。
 敵がいきなり動きを変えた。
「なら、まとめて焼き切るまでだ!」
 グラルスが魔術を放つ、だがその炎を浴びながら、『蝶の装束に身を包む骸』は一気に間合いを詰め、大扇を放ってきた。
「身意転剣……っ!」
 光纏した九朗が辛くもそれを弾き、衝撃に呻く。まるで刃の風車だ。
 佐藤 七佳(ja0030)が疾走る。
「足止めをお願いします!」
「承りました」
 同じく自らの役目を果たすために、香月 沙紅良(jb3092)は静かに回りこむ。
「ふふー、花園ごと焼き払って差し上げますワっ!」
 ミリオール=アステローザ(jb2746)がオーロラのような翼を広げ……
 そこに薄紫色の花吹雪が襲ってきた。
 『花の装束を着た骸』の動きは緩慢だった。無論、撃退士たちも油断していたわけではない、「遠近両方の攻撃」と情報にもあった。
 だが範囲が広すぎた。
 甘い香の花吹雪はポイズン・ミストに似ていたが、花園が毒香を更に拡めていた。
 巻き込まれたのは五名。
 グラルスと九朗は持ち前の魔力と打たれ強さで堪え、ミリオールは空へと躱す。
 呼吸を乱さぬよう努めていた向坂 玲治(ja6214)も問題なく防ぐ。
 だが、遊夜は思わぬダメージに膝をついてしまった。九朗が癒しのスキルを使い……
 それが今の戦況だ。
 後衛を狙う飛び道具、集団を巻き込む術式、ディアボロの連携は的確なうえ強力だった。
 永遠を渇望した執念か。
 美しき花園に冷たい風が吹く。
 だが、若者たちの心は変わらず、止まらない。
 彼らとて百戦錬磨の撃退士、このくらい序ノ口というやつだ。

●破ノ舞
「散りゆくからこそ美しい、ってな」
 似合わないなと自分で笑いながら、玲治は無造作な歩みを止めない。
「来いよ」
 手招きする先には、『花』。挑発につられたか、大太刀を玲治へと向ける。
 『蝶』の動きがわずかに歪んだ。
(この隙に)グラルスが遊夜を見やる。先にベリル・レジストで解毒を……
 だが、遊夜は首を振った。
「いこうぜ」
 咳き込みつつもニヤリと笑うその瞳が、赤い光を帯びてゆく。
 グラルスが狙われたのは、彼の魔術が最も効果的だったからだ。
 扇が再び風を裂いて青年魔術師へと迫る。
 だがそれは銃撃を浴び、狙いを大きく逸らした。
「そいつは防がせてもらおうか」
 まさしく絶望の拒絶者、遊夜の目は勝利を疑っていない。
 グラルスは彼の思いを酌んだ。
「押し流せ、太陽の炎よ」
 溢れる魔力が炎の結晶となる。
 ミリオールも、太陽を模した火球を形作る。
「綺麗なお花は嫌いじゃないですワ」
 小さな天使の感想はシンプルだ。「でも、この世界には合わないのですワっ」
「……」
 機を計る七佳にも、その言葉は聞こえていた。
 彼女はそこまではっきりと否定出来ない。命は生きる為に存在する、ならば永遠に生き続けたいというのは当然の欲求……
 だが、今は戦いの刻。
 意識を集中させた七佳の瞳が無機質めいて輝き、全身の神経回路を光が駆け巡る。
 グラルスのヘリオライト・ウェーブ、ミリオールの偽りの陽、二つの太陽が花園を爆炎に包み込んだ。
 アウルの炎で無残に燃えてゆく花々、つまりそれは、自然のものではない。
 炎の中、『蝶』が後衛へと迫った。絢爛たる装束が凶鳥の翼のごとくはためく。

 機!

「仕掛けます」
 七佳が跳ぶ。体中を駆け巡るアウルがバーニア炎のように背後へ吹き上がった。
 かなりの距離、だが光翼を起動させた彼女には一瞬の距離だ。爆炎の中を光となって駆け抜ける。
「くぅっ」
 毒に呻きながら遊夜は拳銃を連射、援護する。
 『蝶』は扇を開いて盾に……そこが死角となった。
 一己の戦闘機械と化した七佳は、その死角を正確に捉えた。
 すかさず『花』が迎え撃とうとするが、視線が動かせない。
 タウントの効果だ。
 玲治は、骸の眼窩が悔しげに歪むのを見た。
「悪いがその場所、空けてもらうぜ」
 使い慣れない剣を手首で返し、意識を集中する。
 七佳と玲治、背中合わせに放った二人の技が、爆炎と花吹雪を舞い上げた。
 烈風の一撃が『蝶』を吹き飛ばす。
 光の波が『花』を押し戻す。
 分断。
 まさしく風に煽られる蝶のように、同名の敵は吹き飛んだ。得物を盾に辛くも直撃を免れた『蝶』はふわりと地に着くや、再び舞い上がる。
 そこに、チタンワイヤーが絡みついた。
「黄昏の花園……花の香が、偽りなのだと教えてくれますわ。『聞く』までもない香で御座いますね」
 燃え散る花は灰にもならず消滅してゆく。香道の家元に生まれ、香に慣れ親しんだ沙紅良には、擬物(まがいもの)だとはっきり知れていた。
 如何にその姿が美しくとも、擬物に心動かされる事はない。
 ギリリとワイヤーを引き絞る繊手の右手甲に、月落ち桜の紋が浮かんだ。
「役者は揃いました、終焉の舞台を始めましょう」


●キリノ舞
 九朗のコメットが『蝶』に重圧を与え、沙紅良のワイヤーと合わせて機動を奪う。
 こうなれば合流は至難の業だ。
 咳を呑み込んで遊夜が拳銃を連射、鱗粉を貫いて数発が命中するが、敵の動きは鈍らない。
 『蝶』は七佳をいなしつつ片方の扇を遊夜へと放つ。
 それを九朗が受け止める。ほとんどストロークのない投擲だというのに重く、鋭い。
「ぃってぇ」
「ゴホッ……悪いな……」
「大丈夫です!」
 しびれる腕を振って胸を張る九朗。弱っている遊夜では一撃も耐えられないだろう。
 回復まで後少し……遊夜は呼吸を整えながら、戦況と戦場を確認する。
 作戦は上手くいっている、だがこちらの組には決定打を放てる人員が少ない。彼が出なければ、舞は長引くばかりだ。
「ふぅ」
 それは胎息か嘆息か、彼自身にもわからない。
 見せ掛けだけの美に永遠の灰色……本当にこんな物が望みだったのかね?
「!!!」
 七佳は拳脚の連打を囮にパイルバンカー撃ち込んだ。だが連打は扇に防がれ、本命の一撃はひらりと躱される。
 飛び回る姿からは信じられないほど巧みな接近戦、扇がひらめき、七佳の腹から胸を切り上げた。
 激痛! 
 だが致命傷ではない。機動力を全開にして距離をとる七佳。あまりの速度に足元の花が舞い上がり、血と花弁の軌跡を描いた。
 追いかけようとする『蝶』を、ワイヤーが邪魔する。
「その見えぬ翅、引きちぎって差し上げましょう」
 沙紅良のワイヤーは着実にダメージを与えていた。普通なら輪切りになっているはずだが、膂力の違いから引き切ることが出来ない。
 この強さ、分断をしてからが本番ということか。
 無論、連携をしのいだくらいで終わるとは誰も思っていなかった。

 片側の戦舞台でも、激闘が繰り広げられていた。
 撃剣、爆音、風の鳴き声……激しい楽の音が剣呑に響く。
「黒玉の渦よ、すべてを呑み込め」
 グラルスのジェットヴォーテックスに花吹雪が渦を巻いた。
 それでも『花』の剣筋は鈍らない。
 血の花を求めて打ち下ろされる大太刀。
 そこへ躊躇なく踏み込む玲治、距離を潰して大太刀の根元を我が身に受ける。
「効かないぜ?」
 だが、反撃の剣は逸らされてしまう。慣れない得物ということもあるが、そも剣術が敵に及んでいない。
 そこに、オーロラの揺らめきが舞い降りる。ミリオールの翼だ。
「次はわたしと踊るのですワ……」
 戦の悦びに瞳を潤ませ、誘うように囁く声は、幼いくせに背筋をなぞるような艶があった。
 武器を技を入れ替えながら、幼い姿体が無邪気に踊る。
 紅い花吹雪は収まる気配を見せない。

●仕ノ舞…蝶の段
 扇を構える『蝶』の前に、赤瞳の死神が立ち塞がった。
「……いい加減、終わらせよう」
 赤黒い霧を漂わせ、遊夜は舞うような足取りで進み出る。舞い踊る死の渦へ。
 扇と拳銃の連舞が始まった。
 二組の拳銃と扇が共に相手の死角を狙い、同様の軌跡をたどる。動きに付き合うつもりはない、互いの狙いが噛み合うため、どうしても軌跡が交叉するのだ。
 左右の扇に左右の拳銃を。
 右の銃撃に左の斬撃を。
 上から狙えば下から潜り、旋回すれば逆側に廻る。
 優雅とも呼べる穏やかな気の流れ、しかし殺意に満ちた、容赦なく無駄のない動き。
 先程から、援護なしで攻撃を当てられるのは遊夜だけだった。
 それゆえの危険な賭け、彼には一撃が命取りだ。
 逆に遊夜は、一撃で仕留める攻撃を持っていない。だからこそ彼の狙いは……
「虚ろなる花園に……」
 仰け反るように斬撃を躱し、一つ二つと距離をとる。
 ディアボロは気づいただろうか、己の装束に、いつの間にか華の模様が加えられていることに。
「腐れ蕩けて咲き誇れ、爛の華」
 蕾として撃ち込まれた血色の華は、舞のさなか、毒々しい花弁を美しく広げていた。
 腐爛の懲罰……それは護りを腐らす死の華を咲かせる。
 禍々しい遊夜の唄が、幕引きの合図となった。
 ……終わる。
 『蝶』の装束に穿たれた華を、一条の光が貫く。
「闇に生きる哀れな蝶よ」
 鶺鴒を手にした沙紅良のスターショットだった。
「此れで終演に御座います」
 さらに一射。
 三重十文字に息合い乱さず、引分けから……離れ。
 脆くなった防御を貫かれ、『蝶』の動きが苦悶に歪んだ。
 舞の終わりを感じて、九朗は呟く。
「永遠なんて、言い換えりゃ停滞だ」
 永遠の虹だの花園だの、天魔は永遠ってのが好きだね……
 わからないわけではない、人間にだって永遠を求める者はいる。
 けれども。
 九朗は走る。その背で激しく回転する太極図は、光と闇、終りと始まりの印。
「俺は変わる方が好きだけどな!」
 信念というほど確かなものではないけれど……気合の乗った一撃が『蝶』の片腕を飛ばした。
 ふらりふらり、風に煽られる一羽の蝶。
 最後の力で大扇を振りかぶり、放つ。
 それと同時に。
 光が、哀れな羽を縫い止めていた。
「……貴方を討つ事が正義だとは、言いません」
 光の名は、佐藤七佳。
 破陣……多重魔法陣によって増幅した力を撃ち出す光纏式戦闘術の技。
 それを光翼の速度と併せた、今の彼女にできる最大の一撃。
 七佳は、己のすべてを撃ち込んだ。
 すべてを込めて、殺した。
「これはあたしの罪です」
 呟き、腕を引く。
 少女の全身を巡るアウルの光が消える。
 その光とともに、永久の舞手は蝶のように儚く、散った。

●仕ノ舞…花の段
 敵の攻撃は玲治へと集中したが、それこそ望むところだった。
 広範囲の毒花の術も、グラルスはオブシディアン・シールドで防ぎ、ミリオールも直撃されない立ち回りを心得ていた。
 舞は明らかに精彩を欠いていた。
 玲治が攻撃を引き付け、ミリオールが撹乱し、グラルスが大火力を叩きこむ。
「炎の術はまだ終わりじゃないよ」
 グラルスの放った柘榴石のような結晶が次々と炎を上げ、弾ける。
 『花』が音もなく苦悶する。
 その隙に切り込む玲治だが、太刀に弾かれ剣はあらぬ方へ……と見せて、身を翻して勢いを載せたアイアンシールドを叩き込む。使い慣れた得物だ。
 だが、直撃したのは防ぐまでもないため。
 敵の体は花弁となって崩れるが、すぐに再生してゆく。
「おしまいですワっ」
 そこにミリオールが偽りの陽を撃ち込んだ。
 炎が燃え移った。絶叫するように『花』が仰け反る。
 花の香が毒気と呼べるほど濃くなった。
 文字通り己が身を燃やし、『花』が最後の力を振り絞る。
「踊ろうぜ、燃え尽きるまで」
 踏み込む玲治。合わせるように大太刀が打ち下ろされ、ざくりと食い込んだ。
 致命傷に近い一撃。
 だがそこに、癒しの力が流れ込む。
 射程ギリギリから届いた九朗の力だ。玲治とて狙っていたわけではない、が、信じていた。
 これが撃退士の連携。
 膝をつくかと思われた玲治は、落ちた重心をそのまま次の踏み込みに変えた。
「終わることの美しさを知れ」
 太刀の間合いの内側から、玲治の輝く掌が『花』の顔面を撃ちぬく。
「……なんてガラじゃないか。ま、悪くなかったぜ」
 そして、どこか寂しそうに笑った。
 ゴウッと強風に煽られたように花弁が散る。
 舞手の体は花弁となって崩れ……崩れ、崩れてゆき。
 花弁は風に舞い、炎に煽られ、燃え尽きる。
 ……そしてそのまま、二度と芽吹くことはなかった。

●留
 舞台が炎の中へ消えてゆく。
 後には、夕闇わだかまる公園の、何事もなかったような静けさ。
 仄かに漂う香りも、やがて消えてゆく。
 いや、消え去ることはない。
 草木の匂い、夜風の香……
 やっと本来の香を聞き、沙紅良がほぅと息をつく。
 舞手が失われた舞台なれど、この静けさが本来の香。
「お眠りなさいませ、永遠に」
 それは紛れもない永遠。誰も望みはしないだろうけれど。
「安易に他人から与えられる願いなんぞたかが知れてる」
 努めて冷たい声で、遊夜は言う。
「一瞬の虹だけが尊いって訳じゃねぇが……コレは間違いだろう?」
 願いはよほど強かったのだろう。
 だからこそ、許せない。
 後悔はないけれど……
 ふと、彼女に逢いたくなった。
 無口な恋人は、ただ頷くだけだろう。
 けれど、それを抱きしめたい。
「……終幕か」
 一人離れて呟くグラルスも、花園を焼き尽くしたことに後悔はない。
「いいところだ、昼間に来たいね」
 何事も無くそう言えるのは、そのままを受け入れているから。
「だぁ〜!」
 疲れ果てて芝生に寝転ぶ九朗は、回復に防衛に攻撃にと、あまり花園を見ている余裕がなかった。
 ちょっと勿体無かったと思わなくもないが。
「とっても素敵ですワっ」
 ミリオールが小さな野花に感激するのを見て、九朗は思わず笑った。
「だよな、散って咲いてのサイクルあってこそだし」
「俺はそれより団子だ」
 呑気な玲治の言葉に、少年たちの笑いが大きくなる。
 玲治にも、自分なりに貫くものがある。美学なんてもんじゃない、強いて言うなら自分らしさ、だろうか。まあ、疲れた時には甘い物だ。
「……」
 七佳は静かに目を閉じた。
 絢爛たる花園が、凄絶なる舞が鮮やかに蘇ってくる。
 目を開く。
 もうそこには何もない。
 けれど。
「……忘れません」
 七佳は思う。
 忘れない。
 偽りの花園でも骸の舞手でもなく、そうまでして永遠を求めた人たちを。

 冬を乗り越え 春に芽吹いて
 夏に咲き誇り 秋には枯れる
 たとえ半ばに朽ち果てても
 思いは誰かに伝わるだろう 
 


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
シューティング・スター・
香月 沙紅良(jb3092)

大学部3年185組 女 インフィルトレイター