.


マスター:丸山 徹
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/10/12


みんなの思い出



オープニング

 久しぶりに関東のD寺を手伝いに来たら、とんだことに巻き込まれた……
 若き住職、衛三(えいぞう)は分厚い掌で頭を撫でた。ざらりとする。若いので生えてくるのが早い。
 彼の見上げる先には、黒光りする巨大な人影がある。彼らの避難している書院へ、重い足音を立てて近づいてくる。
 身長、三十数mというところか。N県の大仏より大きい。
 そんな例えが浮かぶのは彼の生業からというだけではない、遠間には似た姿に見えるのだ。
「いいか、逃げろよ」
 兄の言葉を思い出す。
 アーティストを自称する一番上の兄は、所用で東北に出かけていた。「ちょい派手目のケンカ」と言っていたからどうせ戦いに行ったのだろう。
 先ほど連絡をとった。
 兄は一言、逃げろと言った。
「撃退士でもないのに戦う必要はない」
 弟は笑って反論した。
「でもお兄ちゃんは戦いに行ってるんでしょ?」
「これは僕の趣味だ、あと天魔とかムカつくから。お前はケンカ嫌いだろ」
 兄も笑いで返し、そして真剣な声になる。
「マモル、お前が死んだらヤスコさんや、アキラとジュンはどうなる。お前は死んじゃいけない、逃げろ。そのうち撃退士どもが片付ける、向こうにはもう連絡した」
 自分は結婚など考えたこともない上に子供が苦手なくせに、この長男は三男坊の家族を気に入っていた。妻のヤスコに息子のアキラ、生まれたばかりのジュンのことも。
 いいか、逃げろよ。会話が終わった。
「和尚さん」
 声に振り向いた衛三の目に、不安げな子供たちの顔が飛び込んでくる。
「オレたちが悪い子だから、大仏さま、怒ってるの?」
 書院にいるのは参拝客たち、その大半が修学旅行中の小学生だ。息子たちの顔が重なった。
 衛三は笑って首を振った。
「違いますよ。よく見て、あれは大仏様ではありません、天魔のつくった怪物です」
 気休めではない。黒光りする巨体はこの世のものとは思えぬ素材で、螺髪に見えるのは単なる突起に過ぎず、顔の作りもチグハグで前衛芸術めいている。両手の指は不自然に長く、額の白毫は禍々しい輝きを放つ石だった。
 巨大な黒像は地響きをたてて書院へ迫った。皆が悲鳴を上げる。そしてあろうことか、書院の側壁に手をかけた。このまま持ち上げようというのだ。
 悲鳴が大きくなる。子供たちは必死に支えあうが、一緒に避難していた老人たちは堪らず転がった。体を打ちつけてしまう人もいた。
 衛三は素早く窓口まで駆け寄った。T大体育学部卒業、もとはアメフト部だ。サッシを開け放ち、黒像の巨大な顔と正面から向き合った。
「喝!」
 数珠を突き出すと衝撃音が響いた。念を込めた一撃、撃退士の間ではスキルと呼ばれるものだ。兄と同じく、彼もアウル能力者だった。
 黒像はうるさそうに顔を背け、手を離した。一歩、二歩と大きく後退する。
 嘆息した次の瞬間、炎が吹き上がり、衛三は慌ててサッシを閉めて部屋の中へと後退した。
「面倒な奴ら……!」
 苦々しく睨みつける衛三の前には、三匹の獣。それぞれの大きさは一抱えくらい、大きめの猫くらいだろう。顔はネズミに似ているが。
 小さく、すばしっこく、大量にいる。そして全身から炎を吹き上げる。
 参拝客たちを追い回したのはこいつらだった。少なく見積もっても十匹以上に追われて、皆で書院に逃げ込んだのだ。
 ドアを閉め、皆で立て籠もっていたところに黒像が現れた。
 火ダルマネズミたちは書院を燃やそうとはしなかった。追い詰め、閉じ込める役割なのだろう。
 逃げ場所は限られていた。寺の出入口は正面と、裏にある住職用の駐車場しかない。左右は深い森、裏には川が流れている。
 第一、子供はともかく老人が走って逃げ切れるものではない。
 衛三だけなら逃げられるかもしれない。天魔の狙いは人の魂や感情であり、衛三ひとり分よりも、閉じ込められた数十名のほうが魅力的だろう。巨大な黒像はともかく、ネズミなら何とか殺せる。
 何より彼は撃退士ではない、逃げて悪いことなどひとつもない。
 ……けれども。
「でも、まあ、おれは仏に仕える身だから」
 小さい頃は言い返すことすらできなかった兄貴に向けて、弟は心の中で詫びた。
 冷静に敵を見る。
 黒像の破壊は不可能だ。先ほどの攻撃は全く効いていない。しかし黒像は動きが鈍く、いわゆる殴り合いなどはできないだろう。額の石から禍々しい攻撃性を感じる、恐らくあれが武器だ。
 そして火ダルマネズミだが、素早いが小柄なぶん耐久性は低い。一匹ずつなら弱いのだが、群れている。そして炎が厄介だ。炙られるだけでも息苦しい。直撃でなくとも、数匹に纏わりつかたら照り焼きにされてしまう。
 衛三は兄に電話すると、それらの情報を端的に伝えた。
「……そういうわけで、お兄ちゃん、ごめん」
「来年の花見、来れなかったら殴んぞ」
 思った通りの返答だった。
「わかってるよ」
 衛三は笑って電話を切ると、そのままの顔で皆に言った。
「必ず助けが来ます、頑張りましょう! 御仏もご照覧あれ!」
 


リプレイ本文

●韋駄

 D寺が揺れている。
 震源地は巨大なサーヴァント、黒像。D寺のどの建物よりも巨大な怪物。
 黒像が書院に近づくたび、そこから衛三和尚が飛び出して法力(スキル)で追い払う。すると火鼠が彼に飛びかかり、衛三は書院に引っ込む。すると黒像が再び書院に近づく……その繰り返し。
 疲労はつのり、衛三の大きな背中が荒い息で揺れる。
 だがその背中を見守ってくれる瞳がある。
 和尚さんがんばれという声が聞こえる。
 護られているのはおれのほうか……衛三は気力を奮い立たせた、その時。
「!」
 火鼠が一斉に身を翻し、どこかへ走り去った。
 一瞬、怪訝な表情でそれを見送った衛三だが、やがて笑みを浮かべ、手を合わせた。
 仏は彼を見捨てなかったのだ。
 
 撃退士たちの動きは静かで、なおかつ迅速だった。
 余計なやり取りもなく、計画通りに疾走する。
 彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)と華桜りりか(jb6883)は脇目も振らず五重塔へ飛び込んだ。
 木戸を押し開け飛び込んできた二人を見て、僧侶たちは思わず声を上げた。
「だいじょぶ、です」
 りりかは短く言って、結印。抗天魔陣と呼ばれるスキルが発動する。これで低級天魔は彼らの気配を読みづらくなる。
「……」
 ヒュッと短い指笛が響く。皆の視線を集めた彩は、書院の方向を指さしてみせると、塔を飛び出し、反対側へ走った。
 その後を三匹の火鼠が追う。囮になったのだ。
 りりかは即座に決断した。
「行きます、です」
 僧侶たちは頷くと、年嵩の住職を支えるようにして塔を飛び出した。

 別ルートから書院に向かう三人へ、行く手から五つの火影が迫る。だが彼らは足取りに乱れを見せず、むしろ加速した。
「さて、早いとこ助けに行くとしようか!」
 足を止めぬまま、奇術めいたあざやかさで麻生 遊夜(ja1838)の掌に拳銃が現れる。
 銃声。
 飛びかかった火鼠の一匹が、弾かれるように空中で姿勢を崩す。立て続けの銃声がリフティングのように火鼠を翻弄し、赤い螺旋を纏う一撃が止めとなって、地上に落とすことなく消滅させる。
「急いでるんでな、邪魔せんでくれや」
 動き回る小さな目標を、移動しながら連射で仕留めきる神業の銃弾。遊夜の腕にかかればただの鼠も同然だ。
「黒像を、来させない為に、火鼠は、必要」
 ヒビキ・ユーヤ(jb9420)が、自分に言い聞かすように情報を反芻する。だがその顔は裏腹に、「おとーさん(遊夜のこと)」に火炎をぶつけようとする火鼠へ、殺意の笑みを向けていた。
「貴方は、要らないわ、ここで、さよならしてね?」
 白い指先から弾き飛ばされたコインが、弾丸に劣らぬ凶器となって火鼠に突き刺さる。
 彼女は遊夜ほどの達人ではないが、数発を命中させて動きの鈍ったところを、南條 侑(jb9620)の放った蛇を模したアウルが喰らいついた。
「二体撃破!」
 蛇に食われる鼠のように消える火鼠を確認し、侑が仲間へ通達する。
「少しは残さんとな」
 言いながら、さらに拳銃を翻す遊夜に向けて、二条の炎が吹き上がった。
 とっさにユーヤが飛び出す。スキルで防壁を張って我が身を盾におとーさんを庇う。
「……?」
 熱い、が、思ったほどの痛みがない。
 怪訝そうなユーヤに、遊夜は親指で行く手を示す。
 書院の前に、数珠を手にした明王のごとき青年の姿があった。今のは彼の加護……スキルによる防御だ。
 撃退士たちは彼と並び、書院の防衛を開始した。


●不動

「それじゃ行ってくるねー」
 来崎 麻夜(jb0905)は翼を広げ、一気に黒像へ接敵、さながら獲物を見つけた猟犬の如く。本当に耳と尻尾が生えているように見えるが。
 黒像は麻夜には見向きもせず、書院へ向かおうとしていた。
「今のところ問題なし、かな?」
 危機感のない笑みを浮かべる麻夜の右腕が、赤黒く変色し、ずるりと膨らむ。
 醜悪な巨腕が、毒蛇が跳ぶように黒像の額へ伸びた。
 額にある禍々しく輝く白い石を掴みとる……瞬間、白い石が輝き、赤黒い腕は掻き消えた。
「足止め開始ー」
 無論、一発で上手くいくとは麻夜も思っていない。彼女の攻撃は足止めも兼ねている。
 その間に黒像の足元へ潜り込んだSpica=Virgia=Azlight(ja8786)が、気を研ぎ澄ましていた。 
「堅すぎるのは、長所で、欠点……」
 銀のヴェールに似た輝きが、凶悪な得物へと満ちてゆく。五本の鉄杭を打ち出す重厚な凶器が、小さな少女の腕で唸りを上げた。
 速度も角度も申し分ない一撃。
 巨大な足首の隙間へ叩き降ろされた五本の凶器は、しかし、一つとして食い込むことはなかった。
 ダイヤモンドは削れない、傷もつかない。
 この巨体の前に、Spicaの一撃は引っかき傷と同等だった。
「……」
 焦りはない、だがもう一撃を打ち込むには、様子を見なければならない。
「さすがに大きいだけはありますねぇ」
 仮面の下はいかなる顔か、少なくとも神雷(jb6374)の口調にも焦りはなかった。
 黒像の足元からやや離れた場所で、着物を翻し、身の丈を越す斧槍を手に、少女は火の舞を舞っている。
 ツレ方は三匹の火鼠。
 意識を活性化し、攻撃の気配を先読みすることで辛くも攻撃を捌いてはいるが、いつまで保つか。
 でも、今回はいつも以上に頑張らないといけない。
「トホルオジサマのご家族の方がいらっしゃるのですから」
 無機質な仮面の下で、彼女は明らかに笑っていた。
「ボクだって先輩が見てるんだから」
 麻夜も笑って、愛する先輩へ冷徹なお願いを伝達する。
「足止めは大丈夫ー、皆殺しにしちゃってくださーい」
 彼女たちがここにいる限り、黒像は向こうへ行かせない。

 詭道なる忍びの動きで、彩は火鼠を翻弄していた。
 直線だけなら追いつかれていたかもしれない。だが彩は壁を駆け、宙を駆け、屋根から屋根へ飛び移り、それでいて火鼠の視界に残るよう努めた。
 一度だけ火炎が直撃しかけたが、運命の女神が微笑んだようで、前髪を焦がされるに留まった。
 その時、声が聞こえた。
「五体撃破!」
 敵の撃破を知らせる侑の声だ。
 それを聞くや、彩は宙返りの角度を変え、地面に着地。その勢いのまま足を止めず疾走する。
 当然、火鼠は追いかけるが……
「三匹追加」
 言って、彩は高く跳躍し、壁を蹴って建物の壁に着地した。
 書院の壁に。
「キッ!」
 一瞬、彩を目で追った火鼠たちに、容赦無い攻撃が雨あられと叩きこまれた。
 先ほど到着していた、りりかの呪縛陣が炸裂する。
 それを待って、遊夜、ユーヤ、侑……さらに彩が仕掛ける。
「ハハッ、俺の目から逃げれると思うなよー?」
 朗らかな口調は遊夜のものだが、そこにいるのは赤黒いボロ布を纏った死の怪人だ。
 血のように輝く瞳が、赤い螺旋を纏わせた無慈悲な弾丸を正確に運ぶ。
「ありがとう、それじゃ、さようなら」
 わざと数を残しておく必要もなくなった。ユーヤはゴミを捨てるように言って、止めの一撃を放つ。
「怨讐より生まれし蛇よ、行け。俺の敵を喰らえ」
 侑の呪術はこれで打ち止めになるが、彼の目に迷いはなかった。
「Style change」
 彩が呟くと、彼女の魔具が青い輝きとともに変形した。スピードを重視した形態だ。
「すっげー」
 小さな呟きを、彩は逃さない。書院の中、窓にへばりつくように戦いに見入る小学生たち。
 ……Good luck。
 いつも無愛想な彼女が、微笑んだように見えた。
 あえて大きく身を屈めてから、翔ぶ。
 空中で魔具を再度変形、パワー形態へ。
「ィヤァッ!」
 鎧兜すら叩き割るような彩の手刀が直撃し、火鼠は空中で唐竹割りになった。


●文殊
  
 その日、D寺の書院は難攻不落の要塞だった。
 多少の傷を負った者も、ユーヤと衛三の治療で足りる程度だった。
 予定通り、避難を開始する。
「避難する時間位は稼がんといかんしな」
 言って、遊夜、ユーヤ、彩は、震源地と化している黒像との戦闘域へ向かった。
「もう大丈夫なの……もう少し頑張りましょう、です」
 りりかは笑顔を心掛け、怪我人の手当をしながら、子供たちにチョコを配る。
 連れてきた僧侶たちに怪我はなく、衛三は皆に深く感謝した。
「……多いな」
 避難者の数に、思わず呟く侑。
「老人もいます」
 衛三は現実を告げる。
 侑は衛三を見た。
「それでも全員一緒に行くんだろう、和尚?」
「はい。無謀でしょうか」
「俺でもそうする」
 言うが早いが、侑はりりかと共に避難のための人数分けを開始する。
 人を助く(たすく)と名付けられたのだろうか、また、英語で牙の意味もある。
「華桜さん、ご老人を背負うのは俺がやる。女性のやることじゃない」
 うちの兄貴みたいな物言いだな、衛三は笑った。
 りりかは素直にそれを受け、もっとも大事な作業にとりかかる。彼女にしか出来ない、この作戦の要。
「護ってみせるの、です……!」
 念のために抗天魔陣をもう一度使う。最後の一回だ。
「華桜、りんりんさん?」
「え?」
 りりかは振り向いた。
 ああ、やはり。衛三は微笑んだ。
「兄から聞いていました。これも何かのご縁、及ばずながらお手伝いいたします」
 どれほどの効果があるのかは分からない。彼の無意識に使っている法力も、学園で教わる最新メソッドで高められたスキルほど、使い勝手は良くないだろう。
 だが、それでも、守りたい気持ちは同じ。
「それでは、お二方」
 やはり仏は見ているのか、縁というものは確かにあった。奇しくもりりかと、そして侑も、陰陽師の訓練を受けていたのだ。
「はい、です」
「俺で良ければ」
 三者は並び立つと、まずは人差し指をたてた普賢三摩耶印を結ぶ。
 次に大金剛輪印……外獅子印……
『臨、兵、闘、者、皆、陣、列、前、行(ノゾメルツハモノ、タタカフモノ、ミナジンツラネテマエニイク)』
 流派によって印が違うことなど問題ではない。
 三人の思いは一つだった。
 
 少女たちが苦戦する黒像の足元へ、強力な応援が到着した。
 遊夜の弾丸が火鼠を捉える。ウルフパックは三匹以上必要な戦法、これで囲まれる心配はない。
 神雷は囲みを抜け、一気に黒像へと詰め寄った。
「さて、決めていただきましょう」
 追いかけてくる火鼠を斧槍で引っ掛けると、黒像の足元へ放り投げる。
 ずっとこれを狙っていたのだ。
「焼いても、叩いても壊れる。ある意味、脆いもの……」
 待機していたSpicaが武器でそれを受け、黒像の足首へと叩きこむ。巨大な関節に挟まった火鼠は、悲鳴とともに炎を吹き上げた。
 ダイヤモンドは火に弱い。
 千数百度を超えれば融解し、800度ほどで劣化が始まる。せいぜいタバコの温度だ、火鼠の火がそれより低いことはない。
 めきめきと嫌な音がする。
「チャージ解放……」
 その音の中心目掛けて、Spicaのアウルが奔った。
「撃ち抜く……っ」
 鉄拳の着弾とともに五本の鉄杭が開放される。速度の倍加、衝撃の集中。破壊力はいかほどか。
 空気が割れるような音が響いた。
 黒像が傾いでゆく。最初はゆっくりと、徐々に速度を増して。
 その真下に、本堂があった。
「Hey!」
 そこに飛び込む一陣の風。
 一呼吸で黒像の体を登りきり、顔面に到達した彩は、息が切れるまで連打を叩き込んだ。
「ヒョァァァタァァッ!」
 不安定な姿勢を逆に利用し、拳を、蹴りを敵の顔面に『着地』させる。
 重力を利用した連打に、黒像の傾いでゆく角度が変わった。
「ォアタァッ!」
 ひときわ強く蹴りつけ、宙返りして着地する彩。それから少し遅れて、黒像の巨体が横倒しになる。数メートルの差で、本堂は無事だった。
「!」
 激しい音に、衛三は走りながら振り返った。
 黒像が倒れている。
 やったのだ。
「さぁ、きちんと並んで避難なの……」
「華桜さんについて走れ」
 りりか、侑が皆を励まし、避難は順調に進んでいた。
 もうすぐ全員が入口を抜け、石段へ到達する。
 よかった……
 その時。
 黒像の巨大な顔が、避難者たちへ向いた。額の白い石が、奇妙な輝きを帯びている。
「あ……」
 衛三は何も考えず、立ち止まり、両手を広げた。
 自分の体ごときで盾になれるかどうか、わからない。けれども。
「   」
 白い輝きが迸った時、彼が口にしたのは、仏ではなく妻と子供たちの名前だった。

 麻夜は、その白い石にずっと注目していた。
「壊れないなんてズルイもの、ボクに頂戴?」
 黒い涙に似たアウルを流しながら笑う少女の手のひらに、錆色の拳銃が『生まれて』ゆく。
 白い石が光線を放つ寸前、麻夜の放った憎悪の弾丸が割り込むように命中する。
 光線はあらぬ方向へ飛んだ。
 そこからはもう、撃退士たちによる得意技の祭典だった。あらゆる武器とスキルを使い切るように、黒像へ叩き込む。
「仕舞といたしましょうか」
 神雷の繰り出す炎が白い石を直撃した。
「硬いんだってな? ちっと腐れて綺麗な花を咲かせてくれや」
 遊夜が動かない的を外すはずがない、正確無比の射撃が白い石を捉える。
「ダイヤモンドは、衝撃に、弱いの」
 愛するおとーさんの隣で戦えるのが嬉しいのか、ユーヤは笑みさえ浮かべて、脆くなった石を叩き落とした。
 それが止めとなり、黒像はついに砕け散ったのだった。

 衛三……マモルはまず、妻にメールを送った。
 それから、連絡しないと一番うるさい相手にもメールする。
『無事だよ』
 すぐに返信が来た。
『お前が無事なら皆も無事に決まってる、お疲れ様』
「……うん」
 兄弟だから、分かる。
 余計な言葉も必要ない。
 事実、火鼠に囲まれかけた神雷が火傷を追っていたが、スキルによる治療で全快する程度だった。
 その神雷が声をかけてきた。
「お疲れのところ申し訳御座いません。トホルオジサマにお世話になっている、中等部三年の神雷と申します」
「ああ、どうも。こちらこそ兄がお世話になっております」
 奥ゆかしい感じの娘さんだとマモルは思った。ただ、どこか人と違う感じもする。
 天魔の生徒もいると、兄が言っていたのを思い出した。どういう付き合いをしているのだか。
「兄は馴染めていますか? あの通り、自由な気質なので」
 だいぶ言葉を選んでいる。はっきり「気まぐれ、わがまま、ナルシスト」と言ってしまえればどれほど楽か。
 しかし神雷は笑顔で応えてくれた。
「オジサマはいつも楽しい所に連れて行ってくれるんです。くらぶ、という所に連れて行ってくれたりします」
「そうですか、それは良かっ……」
 ……クラブ?
 たしかこの子、中等部とか言って……
「この前は夜の公園で……凄く激しかったです」
 赤くなって頬をおさえる仕草はとても可愛らしい、が、反対にマモルの顔は青ざめてゆく。
 その後も神雷の「楽しい思い出話」は続き、頭の先まで青くなったマモルは、静かに携帯機器を取り出した。
「もしもし、お兄ちゃん。いや大丈夫、何でもないんだけど……」

 だからお兄ちゃんは結婚しないんだね。

 ……後日、神雷の住む『ことほぎ荘』に、オジサマがカチコミをかけることになるのだが、それはまた別のお話。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: さよなら、またいつか・Spica=Virgia=Azlight(ja8786)
 永遠の十四歳・神雷(jb6374)
 Cherry Blossom・華桜りりか(jb6883)
重体: −
面白かった!:9人

撃退士・
彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)

大学部6年319組 女 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
さよなら、またいつか・
Spica=Virgia=Azlight(ja8786)

大学部3年5組 女 阿修羅
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
永遠の十四歳・
神雷(jb6374)

大学部1年7組 女 アカシックレコーダー:タイプB
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅
その心は決して折れない・
南條 侑(jb9620)

大学部2年61組 男 陰陽師