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マスター:マメ柴ヤマト
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:11人
リプレイ完成日時:2012/02/07


みんなの思い出



オープニング

●遠野と高峰
 新学期早々の実戦訓練以来、高峰真奈(jz0051)は自らお願いして、遠野冴草(jz0030)から定期的に戦闘の個人訓練を受けていた。
「攻撃に対して直角で受けるな。受け流せ!」
「はい!」
「攻撃する時は、大きく動くな。小さく動け! 円運動じゃない、直線運動だ!」
「は、はい!」
 久遠ヶ原学園に入学して以来、授業で戦闘訓練はあったが、今まで適当に流していた。なので、動きはいまだに素人のままだ。
 返事をしているが、遠野が言ってることの半分も理解出来ていない。
「お前はアストラルヴァンガードだから、前衛に立つことは少ないかもしれない、でもな、場合によっては前衛に立たなきゃいけない事態に陥ることがあるかも知れない。そんな時に少しでも生存率を上げるため、最低でも防御の方法は覚えろ」
 手にした棒を体育館の床についた遠野は、肩で息をしている高峰に向かって言った。
 高峰が使っている武器はロッド。160cmほどの真っ直ぐな杖だ。遠野はそれにあわせ、彼女に棒術の体捌きを教えていた。
「全ての動きに力が入っていると、息が続かんぞ。力の抜き方も覚えなきゃな」
 そう言いながら、壁の手すりに掛けていたスポーツタオルを棒で掬い取ると、そのまま高峰に差し出しす。
「休憩だ。汗を拭いて呼吸を整えろ」
 遠野からタオルを受け取った高峰は、その場でへたれこんで汗を拭く。
「ところで高峰。お前、パティストリー【スウィートショコラ】って店を知ってるか?」
 遠野は、おもむろにそんな事を訊いてきた。
 商店街にあるピンク色の小さなケーキ屋で、繊細で美味しい洋菓子とチョコレートを売っている、久遠ヶ原学園の女の子なら誰でも知っていそうなそこそこの有名店なのだが、まさかこの男の口からその店の名前が出るなんて、思ってもいなかった。
「もちろん知ってますよ。それがどうかしました?」
 高峰は、きょとんとした顔を遠野に返す。
「あそこのパティシエ、俺のダチなんだが――」
「おお!! もしかして、先生の良い人!?」
 どんな人物が作っているのか知られておらず、その繊細で女性らしいデザインから、パティシエは繊細な心をもつ女性だろうという噂が流れていた。
「やめろ、気持ち悪い。あいつは男だ。俺のスパーリング友達、略してスパ友だ」
「何それ、怖い……」
「本場フランスで洋菓子作りを学んだあと、フランス外人部隊に入隊し――」
「基本的に進路がおかしいですよね」
「――主計兵として料理人の経験を積み、ここ久遠ヶ原でケーキ屋を開いた。外見は彫りの深い某石像のような顔をしたストーンゴーレムのような奴だが、奴が作ったスィーツは三角筋のように繊細だ」
「先生、例えが全然分かりませーん」
 挙手しながらツッコミを入れる高峰を無視しつつ、遠野は説明を続けた。
「そいつがバレンタインの新作チョコレート発表に合わせ、ちょっとしたイベントをやるらしいんだが、イベントでショコラガールになってくれる女性を探しているんだ」
「ショコラガール?」
「イベントの優勝者に新作の高級チョコレートを譲渡する役だな。お前、やらないか?」
「は……? なんで私が?」
 予想外の言葉に、思わず聞きかえす。
「日々、お前に訓練をつけてやって、俺は思ったわけだ。小柄ながら引き締まった広筋。しなやかなは腓腹筋。予想外に大きな胸に隠された大胸筋、細いのに底力がありそうな前腕屈筋群。この役はお前しかいない、とな」
「とりあえず、目の付け所がおかしいです。眼科行ってください。あと、さりげなく予想外に大きな胸とか言うな」
「お礼として、店で使える商品券10000久遠分を用意しているらしいぞ」
「やります!」
 なんだかんだとツッコミを入れながらも、目の前に吊り下げられた人参にあっさり飛びつく高峰だった。

●大会当日
 高峰は、ホワイトチョコレートをイメージしたファー付きの真っ白なコートと、その下にミルクチョコレートをイメージしたチョコレートブラウンのミニワンピース、板チョコを模した飾りが付いたヘアゴムで髪を縛ってツインテールにしている。
 会場には、抽選で選ばれた選手がスタートラインに立ち、それぞれの想いを胸に競技開始の合図を待ち望んでいた。
 表彰台の横に設置された天幕には運営事務局があり、そこには数名のスタッフの他、遠野の姿と南国の孤島に佇んだ姿が似合いそうな大柄の男が座っている。
 あの男こそ、パティストリー【スウィートショコラ】の店長にして、久遠ヶ原の女子たちを魅了してやまない繊細なスィートの数々を生み出しているパティシエ、『ジェームス 富原』その人である。
 競技の内容は簡単。
 パティストリー【スウィートショコラ】の前をスタートし、浜辺や雑木林、学園などを抜けて再びスタート地点へと戻ってくるというものだ。
 コース上の何箇所かには、障害物が設置されており、それらを経由してくることになる。
「お集まりいただいた生徒諸君! これから高級チョコレートをかけた障害物レースに挑んでもらう。優勝者には、パティストリー【スウィートショコラ】より、今期新作の高級チョコレートがプレゼントされる。自分で食べるもよし、恋人に贈るもよし、好きにするが良い」
 何故か遠野がマイクを握り、小指を高らかに上げて司会を始めた。
「なお、男子生徒が優勝した場合、チョコレートガールに扮した高峰が、リクエストに応じた渡し方でチョコレートを譲渡してくれる。ほっぺにチュウくらいならしてくれるかも知れないぞ!?」
「ちょっ!?」
 勢い良く椅子から立ち上がり、顔を紅潮させながら遠野に抗議しようとしたが、会場から沸きあがった歓声にかき消されてしまう。
「どんな障害物が設置されているのか俺は聞いていないが、どれも一筋縄ではいかないだろう。お前ら、大脳筋をフルに使って至難を乗り越え、見事チョコレートをゲットしろ!」
 無いから、そんな筋肉。
「あの筋肉、なに勝手なことを……」
 高峰は、頭をかかえて呟いた。
 遠野の勝手な司会進行で予想外の展開になってしまい、ケーキに釣られてチョコレートガールを引き受けたことを後悔した。
 そんな高峰の思いも虚しく、競技スタートは刻一刻と近づいていく。
 だが、高峰も含めて参加者は誰一人として知らない。
 このレースが遠野と富原が共同企画した、チョコ争奪レースを装った撃退士育成プログラムであるという事を……。


リプレイ本文

●それぞれの意気込み
「チョコのために走る。それもまた青春」
 冬の陽光を禿頭で照り返し、或瀬院 涅槃(ja0828)は空を仰いで言った。
「これに参加したらチョコ10kg貰えるって本当ですか!?」
「優勝しなければ1gたりとも貰えませんよ」
 どこで情報を間違えたのか、目をキラキラさせながら言う爆乳腹ペコ少女アーレイ・バーグ(ja0276)の言葉を、大神 直人(ja2693)はやんわりと否定する。
 そんな彼の意気込みは、仮に勝てたら遠く離れた家族に送ってやろうという程度で、やる気も闘志も高いほうではなかった。
「あの有名ブランドの新作高級チョコレートが食べられるとなれば当然興味はわくし」
 不敵な笑みを浮かべてそう言ったのは、最年少の神宮寺 夏織(ja5739)だ。先輩たちにナメられまいと気合十分だった。
 四十万 臣杜(ja2080)は、何やらにんまりほくそ笑んでいる。
 ぶかぶかの帽子と目元まで隠す前髪のせいで表情は良く見えないが、なにやら良からぬことでも企んでいるのだろう。
「ボク、絶対優勝してお願い聞いてもらうんだ」
 セーラー服で身を固めた犬乃 さんぽ(ja1272)は、拳を握りしめて気合を込める。
 金髪ポニテに青いリボン。誰が見ても美少女だが、何を隠そう彼は男だ。男なのだ。大事な事なので2回言わせてもらった。
「遠野先生の発案ですか」
 楯清十郎(ja2990)は、天幕の中に同じ部活の高峰がショコラガールの姿で待機しているのを見つけてそう呟いた。
 噂の店の新作チョコと聞いて参加した楯は、高峰と目が合い、分かっている安心しろと言わんばかりに大きくうなづく。
「度胸をつける訓練なら、手伝ってあげなくてはなりませんね」
 だが、全く察せていなかった。
(俺、なんで此処にいるんだろう?)
 そんな事を考えながら電子タバコをくわえ、よれたコートに手を突っ込み、やる気のない半眼で佇んでいるのは、今回最年長の綿貫 由太郎(ja3564)だった。
 何とか楽に勝てる方法は無いかと模索中である。
 それぞれがそんな事を考えていると、高峰がスターターピストルを持って天幕から出てきて、台の上へ立った。
 沿道には、学園生徒や商店街の人たちがたくさん見物に来ている。
(8人中5人が男性って……、あの筋肉、男の人が優勝したらどうするつもりなのさ!)
 彼女は若干憤然としながらも、バイトとして引き受けてしまった以上あとには引けず、半ば諦めながらピストルを掲げた。
「位置について、よぉ〜い……」
 火薬が弾ける乾いた音が商店街にこだまし、レーススタートの合図を告げた。

●障害物とかいうレベル?
 合図と同時に一斉にスタート――すると思いきや、最後尾からゆるゆると出発する2人組。
「きみは行かないのかい?」
「やァですネェ……言っときますけどあたくし体力無いんですよォ」
 綿貫が問い、四十万が答える。二人ともロクな事は考えていないのだろう。
 最初に砂浜へ着いたのは楯だった。
「この時期は入手し難いですし、貰うあてもないですから、余計に――」
 全力で砂浜へ侵入し、砂埃と共に姿が消える。
「人が消え――きゃあっ!」
 視界から消えた楯に驚いたアーレイも、落とし穴を踏み抜いて尻から落ちた。
「何でこんなところに落とし穴があるんだよ! てゆーか深すぎだっ!」
 同じく落とし穴の餌食になった神宮寺は、穴の底から悪態をつく。身長が低い彼女にとって、この穴は深すぎた。
「大丈夫? ほら手を出して」
 そんな神宮寺に救いの手を差し伸べたのは大神だ。
「気をつけるんだよ」
 引き上げた神宮寺に微笑む大神。別の穴から「僕のことも!」と聞こえるが、華麗にスルーしている。
「おぉ……おまえ良い奴だな……」
 やや照れながら礼を言う神宮寺だが、それは演技。本心では、この男を罠避けに利用しようと考えていた。
 何とか這い上がった楯の頭を踏み台にして、スタイリッシュに落とし穴を回避したのは或瀬院だ。
「すまんな、俺は優勝したいのではない、勝ち――」
 全てを言い終わる前に穴の中へと消えた。

 スタート地点では、モニターにレースの様子が映し出されている。
「せ、先生? これって障害物……?」
 ヨーヨーを使って落とし穴を見破りながら進む犬乃と、穴の無い安全コースを悠々と歩く綿貫、四十万の両名を見つめながら、高峰は遠野に訊いた。
「戦場では――」
「もう良いです」

 砂浜を抜けると、うっそうと茂った雑木林に入る。
 走るだけだと思い、普段着でレースに参加していたアーレイは、そのことを少しだけ後悔しはじめていた。
 恐る恐る進んでいると、不意に何かが足に絡まり、そのまま木の枝へと宙吊りにされる。
「うひゃあっ! ……見られて恥ずかしいショーツは穿いていません!」
 黒いお洒落なパンツを丸見せにしながら言う。
「って言ってる場合じゃないですね」
 乳のせいで前も良く見えない。
「うわぁ!」
 ワイヤーが無防備だった大神の足首を絡め取る。
 宙に吊り上げられ、その弾みで眼鏡がするりと落ちた。
「大神ぃぃぃ!!」
 たまたま近くに居てその光景を目にした或瀬院は、そう叫びながら救いの手を差し伸べんと眼鏡に向かって力いっぱい手を伸ばす。
「さぁ、俺の手を掴むんだ、大神!」
 落下する眼鏡がスローモーションのように流れる。
 だが、無常にも眼鏡はそのまま地面へと落下し、

 パキッ

「あ、わりーわりー」
 大神の後ろを歩いていた神宮寺に踏まれて割れた。
 罠から抜け出た大神は、割れた相棒の前にへたれこむ。そして、相棒と過ごした日々が走馬灯のように頭の中をめぐる。
 幾多の苦楽を共に過ごした眼鏡は、彼にとって半身、いや、彼そのものと言っても過言ではない。
「俺……」
 大神の目から雫がこぼれ落ちる。
「また新しいの買えよ、なっ?」
 苦笑しながら言う神宮寺。
 その肩を或瀬院がぽんと叩き、首を左右に振る。
 何か悪い気がしたので、或瀬院と神宮寺は、大神を残して先を急ぐことにした。
「それにしても高々障害物競走でここまでやるか、普通?」
 すっくと立ち上がった大神は、口調も目つきも変わっていた。
「おっと、眼鏡、眼鏡っと」
 割れた眼鏡を拾い上げ、再びかけなおす。
「我が友よ、お前の無念は必ず俺が優勝して晴らしてやるからな!」
 大神は、ゴールをまっすぐ見据え、改めて勝利を誓い走り出した。
「この雑木林、も、どうセ何か――」
 そう言いかけた四十万は、宙吊りにされて縞パンを曝している犬乃を見つけ思わず硬直した。
「何か使える物、持ってましたかネェ……?」
「こういう所は、木々の根本から離れた所を歩いた方が良いな」
 綿貫は、持ち物をあさっている四十万にそうアドバイスした。
 綿貫のアドバイスどおりに進んだが、二人とも宙吊りにされたことを付け加えておこう。

 雑木林を抜けた先には、断崖と呼んでも良さそうな崖があった。
 高さは5mほど。撃退士の能力を持ってすれば、なんとか登れるかどうかといったところか。
「このような崖で我が野望止めることは出来ぬ! ……とか中二病っぽく言ってみましたけど、どうしましょうかね、コレ……いや、登るしかないんですけど」
 アーレイは、目の前にそびえる崖を前に、なかば投げやりな雰囲気で呟く。
「どけどけどけぇ!」
 怒涛の勢いで疾走してきたのは、眼鏡が逝ってキャラが変わった大神。
 慎重に登っている楯の横をすり抜け一気に駆けあがり、途中で足場が崩れて降ってくる。
「お前も道連れじゃ〜!」
 真下に居た楯を巻き込み、地面へと落下していった。
 よろよろと起き上がった楯の首は、あらぬ方向に曲がっている。
「ディバインナイトでなければ即死でした」
 そういう問題ではない気がする。
「いつから競技はロッククライミングに変更されたんだぜ?」
 呆れ顔で呟いたのは神宮寺。小柄で軽いおかげで、多少不安定な足場でも危なげなく登りきる。
「敢えて言おう。俺の登攀スキルはA+だ」
 或瀬院は、そう言いながら危なげなく登っていく。
 崖をよじ登る坊主というのも、なかなか奇妙な絵ではある。
 それに続く犬乃は、ときおり吹き付ける谷間風にスカートを捲られ、「しっ、縞パンだから恥ずかしくないって聞いたもん」と赤くなりながら登り続けた。
「これモ……利益のためでス……」
 四十万は、息も絶え絶えに崖を登る。
 その少し後ろを、綿貫が小剣を鈎爪代わりに使って登っていた。

 崖を登ると、学園の裏山に出る。そこから一気に駆け下り、屋外プールへとつづく。
 真冬プールに浮かべられた道に、全員が一瞬怯む。
 最初に動いたのは楯だった。
「うおぉおお!!」
 全速力で駆け抜けた楯は、バランスを崩しかけつつも落ちることなく反対側へとたどり着き、
「やったぞ、高峰さん!」
 ガッツポーズを決めた。
「ボクだって!」
 犬乃が動く。得意の跳躍を活かし飛ぶように駆け抜けるが、楯が走り抜けた際の水しぶきが橋に残っていて、足を滑らせてプールに落ちる。
「服が張り付いて気持ち悪い……って、そんなに見ちゃ駄目」
 白いセーラー服が水を吸い、肌に張り付き素肌を透かす。
 たっぷりと助走をつけ、一気に突っ切ろうとする或瀬院。
 対岸目前で勢いが余ってバランスを崩し、思わず空中へ逃れる。
「しまった、身体が反応を……!?」
 そして、そのまま水の中へ消える。
 プールには、次々と水柱が立ち上がった。
「はうあーびしょ濡れです……はっ!」
 着水時の水圧で胸のリボンがずれてしまったアーレイは、慌ててリボンを元の位置に戻す。
「きっと透けてないはずっ!」
 それは読者のご想像にお任せする。
「のわぁーっ! さみー! この時期にプールとかありえねーぞ!」
 いくら小柄で軽量な神宮寺でも、びしょ濡れの浮き橋を渡りきるのは不可能だった。
 その横には、四十万が服やら髪やらが水面に広がってホラーな感じで浮かんでいる。
「んー、昔こんなことやるバラエティー番組あったよな。そんなノリだね」
 まるで他人事のように、ことの成り行きを見守っている綿貫は、全員がプールに落ちたのを確認すると、やれやれといった表情で浮き橋を渡り始めた。

 プールを抜けた先にはグラウンドがあり、そこを抜けたらゴールの商店街まで一直線……なのだが、
「ぐっ……これ、洒落にならない……」
 グラウンドには、有刺鉄線で編まれた網が張ってあり、その下を潜らないと学園から出られないようになっていた。
 意を決した楯は、地面に這いつくばって潜り始める。
 だが、有刺鉄線は次々と彼のジャージを絡めとり、ずたずたに引き裂かれはじめた。
「いや、こんなサービスカット、誰もいらないと思うんですけど」
 そう呟く楯の横をただ勝利だけを見つめて、黙々と前へ進んでいる大神。
 目を血走らせ無言のままで這い進んでいる。ちょっぴり怖い。
「く、こんな危険なものを用意するとは……!」
 頭に防災頭巾をセットしながら呟いているのは、頭の防護が最優先の或瀬院。
「知らんのか? 坊主の命はこの頭だ」
 防災頭巾も常備品なのだろう。
「……ひんぬーはステータスって本当だったんですねぇ。今ほど自分の胸が恨めしいと思ったことはないですよ」
 アーレイは、巨乳がストッパーのように作用し、上手く這えない、進めないでいた。
 その横を四十万がまるでゴキ○リのようにカサカサ這い越していく。
「ここで小柄な体格が活かせるわけだな……誰がちっちゃいだコノヤロー!」
 神宮寺は、セリフツッコミを入れながら、有刺鉄線の網の下を突き進み、一気にトップへと躍り出た。
「ボクは男だよ、そんな目で期待しても、何もないもん」
 涙目になりながら頑張っているのは犬乃。有刺鉄線にスカートが引っかかってしまい、あられもない姿をさらしている。
「有刺鉄線ねぇ……」
 綿貫は、目の前に広がる有刺鉄線を前に、電子タバコをくわえ、やる気のない表情で頭を掻きながら呟いた。
 他の参加者は、既に通り抜けたあとのようだ。
「光纏禁止とも障害物破壊しちゃダメとも言われてねぇし……」
 そう言いながら小剣を構え、藪を切り払うかのように有刺鉄線を切り裂いた。

●そして勝敗は
 いち早く有刺鉄線の網を抜けた神宮寺は、単独首位に立った。
 その後ろを大神、四十万、犬乃が続く。
 更に遅れて抜け出たアーレイの下乳は、擦り傷だらけで痛々しい。
 頭の防護を最優先した或瀬院は、袈裟がはだけて胸板がセクシーに露出している。禿げの胸板は、女子からのウケが良かったようで、沿道からは黄色い歓声が上がっていた。
 楯にいたっては、ジャージが引っかかったまま無理やり抜け出したせいで、ジャージがずたぼろで露出度が高くなっている。さわやか青年の、肝心な部分が見えそうで見えない究極のチラリズムに、沿道の女子たちは顔に手をあて悲鳴を上げている。もちろん、指の間からしっかり見ているのだが。
 有刺鉄線を破壊した綿貫も、一応走っているようだ。
「そのまま行けーっ!」
 その様子をスタート地点のモニターから観戦していた高峰は、興奮気味に声をあげた。
 大神と四十万に少しずつ距離を縮めてられていく神宮寺。
「ダメぇ!!」
 悲鳴を上げる高峰。
 神宮寺が逃げ切るかどうかというところで、4位につけていた犬乃が怒涛の追い上げを見せた。
 大神、四十万を一気に抜き去り、神宮寺との接戦を繰り広げる。
「どっちでも良いから頑張れーっ!!」
 拳を振って応援する高峰。
 やがて、首位争いをする二人の姿が肉眼で捉えられる。
 そして、ゴールのテープを切ったのは――。

 表彰台には、チョコを手にする高峰と、それを受け取ろうとする犬乃の姿があった。
 最後まで接戦を繰り広げていた神宮寺は、次はぜってぇ負けねぇと表彰台の横でぐちぐち言っている。
「おめでとう。一時はどうなるかと思ったけど、優勝者が犬乃さんでホッとしたよ」
 そう言いながら笑顔でチョコを渡す。
「あの、もし良かったら……ボクと、お友達になってよ」
 犬乃は、チョコを受け取り、やや赤面しながら言った。
 心臓が口から飛び出しそうだ。
「もちろんだよ」
 高峰は、満面の笑顔で答える。
「……それから、折角だしこのチョコ、高峰ちゃんも一緒に食べない?」
 そう言って、じっと目を見つめる。
「え? それは嬉しいけど、大切なヒトにあげたりしないの?」
「その、ボク……男だから」
 赤面のままうつむき、ぽつりと呟いた。
「……え? えぇえええっ!?」
 良く晴れた冬の空に、高峰の絶叫がこだました。

 神宮寺は、負けた参加者のために手作りチョコを用意していた。
「可愛い後輩からのプレゼントだ。当然、受け取ってくれるよな、先輩?」
 自分が優勝したときのために、チョコは7個用意していたので1つは自分で持ち帰ることにする。
「心に、染みる……」
 或瀬院は感涙を流し、
(一体、幾らで売れますかネェ?)
 四十万は、そんな事を考えながら貰ったチョコを眺めていた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
涅槃三世・
或瀬院 涅槃(ja0828)

大学部4年234組 男 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
闇の転売商人・
四十万 臣杜(ja2080)

大学部6年204組 男 インフィルトレイター
ブレイヴ・ドライヴ!・
大神 直人(ja2693)

大学部4年256組 男 インフィルトレイター
道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
不良中年・
綿貫 由太郎(ja3564)

大学部9年167組 男 インフィルトレイター
優しきヤンキーガール・
神宮寺 夏織(ja5739)

高等部2年24組 女 ダアト