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マスター:マメ柴ヤマト
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/07


みんなの思い出



オープニング


 石造りの殺風景な部屋にふたりの天使がいた。
 ひとりは天使フィーナ(jz0250)
 もうひとりは、彼女の上司にあたる大天使ヴェガ。
 ヴェガはフィーナに背を向け、後ろで手を組んでいる。
「あの……私にご用とは何でしょう……?」
 フィーナは俯き、上目遣いでおずおずとたずねた。
「お前に聞きたいことがある」
 ゆっくり振り向いたヴェガは、冷たい視線で睨みつける。
「聞きたいこと……ですか?」
 よくへまをするフィーナは、そのたびにここへ呼び出されては、ヴェガにしかられていた。
 今回も自分で気付かないうちにへまをやらかし、それで呼び出されたのかと思っていたが、どうもいつもと様子がちがう。
「マスエルとアマエルのことだ」
 フィーナの心臓がドクンと脈打った。
 マスエルとアマエルは、冥魔の支配地域へ偵察任務に行ったさい、戦死した仲間だ。
「報告では、現地で白狼の悪魔に襲われたとあるが」
「はい、そのとおりです」
 フィーナは唇をかんだ。ふたりの死には、フィーナも責任を感じていた。
 自分にもっと力があれば、もしかしたらふたりを死なせずに済んだのかも知れないからだ。
「なぜ、お前は生きている」
「……それは、どういう意味でしょう?」
 言葉の意図を飲み込めず、聞き返すフィーナ。
「やつらの支配地域で悪魔殺しのヴァナルガンドと遭遇し、お前だけが生きて戻ってきたのが不自然だと言っている」
 ヴェガは蔑むような視線を投げかけ、淡々といった。
「アマエルさんが私を逃がすための隙を作ってくれて、命がけで足止めをしてくれたからです」
「……ふむ」
 顎をさすりながら思案する素振りを見せるヴェガ。
「お前は、彼の地で撃退士どもと行動を共にしていたと聞き及んでいるが、それは間違いないか?」
「間違いありません。彼らの助けがあったから、私は生還することができました」
 何も後ろめたいことがないフィーナは、正直にこたえた。
「…………」
 ヴェガはフィーナの目をじっと見つめ、言葉に偽りがないか、彼女に動揺した様子はないか観察した。
 ヴェガの目をまっすぐ見つめかえすフィーナ。
 ヴェガがフィーナの上司になって150年ほどが経っている。ゆえに彼女の性格や行動パターンは把握していた。だから、どうしてこういう事態に陥ったのかも想像がつく。
 小さくため息をついたヴェガは、フィーナを見つめなおした。
 張り詰めていた空気が緩むのを感じるフィーナ。
 いつものヴェガに戻ったようで、少しホッとする。
「マズったな、フィーナ。それのせいでお前の天界に対する忠誠心に疑いがもたれている」
「どういう意味ですか?」
「お前が人間たちと共謀し、ふたりを策略にかけたのではないかと疑われているんだ」
「そんなことはしません!」
「お前の上司を何十年続けていると思っている。そんなことは分かっている」
 ヴェガは、コツコツと靴音を響かせながら部屋の中を歩いた。
「だが、最近は堕天するやつらが増えたのも事実。だから、上のやつらも疑心暗鬼なんだろう」
「そんな……」
「そこで、だ」
 ぴたりと歩みを止めたヴェガは、ふたたびフィーナと向き合った。
「お前に汚名返上のチャンスをやろう」
「チャンス……?」
「とある人間の街へ送り込まれたサーバントがいる。街の人間たちを眠らせ、感情を吸い取る能力をもったサーバントだ。
 人間たちは、夢を見ている間に感情を少しずつ吸い取られている。見ている夢の内容によって集まる感情の種類が変わるというわけだ。
 まあ、最近のやり方からみたら、いくぶん平和的だといえるだろう」
「…………」
「とはいえ、そろそろ撃退士たちが勘付くころだ。お前はその街へ赴き、撃退士によるサーバント討伐を阻止するんだ」
「…………」
 フィーナは表情を曇らせた。
 フィーナは人間を好いている。だから、人間に直接手を下さなければならない任務は避けてきた。
「お前の気持ちは分かっている。だがな、フィーナ。天界でのお前の立場は、それだけ微妙なのだ」
 ヴェガが自分を思ってこの任務を持ちかけたことも理解できる。
 それでも、やはり胸が痛んだ。
 しかし、ここで天界から見限られるわけにはいかないフィーナは、小さく首肯をかえした。
「サーバントには知性がない。動くものにたいして見境がないから気をつけろ。まあ、ほよど油断してでもないかぎり、サーバントごときの術中にはまることはないだろうがな」


 街は、まるでゴーストタウンのようだった。
 街の中心地であるはずの商店街は、まだ昼だというのに人の気配がまったくなく、信号機だけが虚しく無人の交差点で交通整理をおこなっていた。
 アーケード街にあるほとんどの店のシャッターが下りているところをみると、サーバントが街を襲ったのは深夜だったのかもしれない。
 無人の街をとぼとぼあるくフィーナ。
 小さな田舎町なので、徒歩でも十分に見て回ることができた。
 民家の中では、住人たちがぐっすりと眠りにおちている。
 その幸せそうな寝顔をみて、フィーナは良心の呵責にさいなまれた。
 街のようすをみてまわるうち、いつのまにか辺りは薄暗くなりはじめ、照度センサーがついた街灯が夜道を照らし始める。
 夜になると、昼間以上の静寂が周囲を包み込んだ。
 歩きつかれたフィーナは、小さな旅館の部屋にきていた。
 これだけ歩き回ったが、サーバントに姿はなかった。
 もしかしたら、別の街へ移動したのかもしれない。
 街の様子を目の当たりにしたフィーナは、胸が締め付けられるような想いで半ば方針状態だった。
 ため息ばかりがついて出る。
 だから、窓ガラスにそれが映りこむまで、背後に迫っていたことに気付かなかった。
 驚いて振り返ったフィーナが見たものは、鼻から霧のようなものを噴射している巨大なバクの姿だった。
「は……れ……?」
 その瞬間、猛烈な眠気に襲われたフィーナは、そのまま意識が混濁し、深い眠りに陥ってしまった。

 久遠ヶ原学園のブリーフィングルームには、任務にあたる生徒たちが集められていた。
「ということで、ここ数日連絡が全くとれない街まで行ってもらう」
 遠野冴草(jz0030)は、任務の大まかな内容を説明した。
 遠野の話によれば、その町とは既に10日以上連絡がつかなくなっているらしい。
「一応、通信基地局を管理する企業等に確認したところ、機器の異常は見られないということだ。もし、これがゲートによる感情の搾取だとしたら、住民たちが生命の危機に陥っているということになる」
 手元の資料を机上でトントンと整え、説明をおえる。
「我々は、これを天魔事件と断定してお前たちを派遣することにした。もしかしたら上級天魔との接触も考えられる。心して対応にあたるように」
 最後にそう言いくわえ、遠野は生徒たちを送り出したのだった。


リプレイ本文


「結界の類は見当たらないね」
 龍崎海(ja0565)は双眼鏡をはずしていった。
 街には破壊された箇所も見当たらない。
 信号機が動いているところを見ると、電気は通っているようだ。
 時刻は正午を過ぎ、どんなに小さな街であっても外を歩く人間がいてもいいはずなのに街を歩く人の気配は全くない。
「ゲートではないということで、天魔そのものがいる可能性は少ないかも。とりあえず、先を急ごう」
 遠目からではこれ以上の情報は得られず、龍崎は街へ急ぐことを促した。 
 街へ入っても、やはり行き交う人の気配はなかった。
 一行は、街で一番大きな交差点と思われる場所にきていた。
 位置的にも、ここが街のほぼ中心部だろう。
「携帯の電波も正常……と」
 彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)は、携帯電話をポケットにしまう。
 街のライフラインは全て生きている。
「となると、最悪の可能性もありますね」
 人為的な原因はどこにも見当たらないとなると、遠野が言ったとおり天魔事件であることが濃厚だ。
「手分けして街の中を見回らない?」
 そう提案したのは、米田 一機(jb7387)だった。
「異論はないわ」とLaika A Kudryavk(jb8087)。
「ならば、我輩は空から探索をしよう」
 Unknown(jb7615)は、おやつを口いっぱいに頬張っていった。
「さすがにバラバラで行動するのは怖い。ある程度はまとまって行動したほうがいいんじゃないだろうか?」
 龍崎の提案をうけて、隊は大きく2チームに分けることにした。
「僕はこっちのほうを捜索するよ」
 街の東側を指差し米田。そちらの方角には民家のほかに旅館や役場などの公共施設があつまる。
 東側を担当するのは、米田の他に蓮城、橋場、清純の3名。
「では、私たちはこちら側ですね」
 一般住宅が集まる西側を目指し、彩は歩きだす。それに龍崎、ライカ、空からアンノウンという編成だ。
 撃退士たちは手分けして街の捜索を開始した。

 しばらく街の中を歩き回って分かったことがいくつかあった。
 まず、野外に倒れている人はいないということ。
 これは、橋場 アイリス(ja1078)が空から街中を見回して確認したことだ。
 そして、建物のほとんどがしっかりと戸締りされているということ。
 生命探知を使ってみても、反応があるのは建物の中ばかりで野外での反応は無かった。
 つまり、街がこのような状態に陥ったのは、人が外に出歩かないような時間帯。もっと厳密にいえば夜間、それもかなり遅い時間だったと予想できる。
 民家の中を調べてみるとほとんどの住民が寝所で安眠していた。
「見た感じだと、みんな眠りに落ちているだけみたいだね」
 清純 ひかる(jb8844)は、率直な感想を口にした。
 ある者は幸せそうな表情で、ある者は悪夢にうなされ、様々な表情で眠っている住民たち。一見すると、本当にただ眠っているだけにしかみえない。
 しかし、眠っている住民は、揺すっても頬を叩いても目を覚ますことはなく、これが自然の眠りではないことは明白だった。
「連絡がつかなくなってから10日以上経っているし、街の人たちは衰弱しているわよね」
 蓮城 真緋呂(jb6120)は、久遠ヶ原学園へ連絡をいれた。
 任務内容を告げると、すぐに遠野へと取り次がれる。
 蓮城は街の状況を説明したうえで、遠野に救助隊を要請した。
 援助内容は、衰弱した住民たちに対する医療面でのものが主だ。
「うむ、分かった。要請を受け入れよう。お前たちは救助隊が到着するまでに、元凶となった天魔を探しだし、速やかに排除するんだ」
 派遣した学園生たちだけ住民の救助をするのは厳しいだろうと判断した遠野は、街に救助隊を送ることをきめた。

 龍崎は、アパートの一室にきていた。
 そこに眠っているのは一人の青年。
 非常時ということもあり、玄関は強引に開けさせてもらった。かなり大きな音も響いた。それなのに青年は、コタツに突っ伏したままスヤスヤと寝息をたてていた。
 話を聞くため、聖なる刻印を使って起こそうと試みる。しかし、目覚める様子はない。
「ダメか……」
 小さく舌打ちをする龍崎。しかし、青年に目覚める様子はなく、やはり元凶を断たねばならないようだ。
「この様子だと、街全体が眠らされていそうだな」
 眠った住人は放置されたままで、敵に人質を取ったりするような知能はないのだろうと予想できた。
 蓮城から救助隊を要請したという連絡を受けていたので、龍崎は元凶の捜索に専念することにした。
「破壊の痕跡でもあればわかりやすいんですが……」と、彩。
 今のところ、元凶であろう天魔の存在は確認できていない。
 透過能力を使えば、壁など破壊しなくても屋内の侵入は可能だ。それゆえ、天魔の痕跡が全くないことが天魔捜索をより困難にしていた。
 一見冷静に見える彩だが、敵の形態や数が不明なこともあり、それなりにビビっていたりする。
「厄介だよね」
 そうつぶやいた龍崎は、敵の奇襲を警戒して懐から阻霊符をとりだした。
 アンノウンは空から街の様子を眺めていた。
「いやー、実にいい景色だなー」
 おやつを食べながらの空中散歩は気持ちがいい。
 人の姿が全く見えないということ以外、空から見わたす街の様子はのどかなものだった。
「寝る子は育つというが、延々と夢をみるのは勧めんな」
 住民たちは、みな深い眠りについているという情報が仲間から集まっている。
 住民全てが眠っているということは、仲間以外の動くものは敵と判断して良いだろう。
 アンノウンは、動くものを目安にして捜索をつづけた。
 ライカもアンノウンと協力し、地上から野外を捜索していた。
 上空にはアンノウンの姿。
 野ざらしで眠っている住民は見当たらないのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。

「上級天魔がいるかもしれないという話だったけれど、眠っているだけというもおかしい気がします」
 橋場は街の状況がどうも腑に落ちなかった。
「危害を加える意思はないのか、何か儀式を行っている可能性がありますね……」
 神妙な表情になる一同。
「人間に紛れている可能性はないでしょうか?」
「人間に紛れ込んで滞在するなら旅館……」
 橋場の立てた仮説に清純が続く。
「行ってみる価値はありそうね」と蓮城。
 米田は、この先に旅館があったことを思い出した。
「行ってみよう」
 一行は、手がかりを求めて旅館を調査することにした。
 街に1軒しかない旅館は、民家と違って入り口が開放されていた。
 入り口をくぐると、旅館の仲居がロビーで眠っていた。
 うなされているところをみると、きっと悪夢でも見ているのだろう。
 ここでは上級天魔との遭遇戦も予想される。それぞれが警戒をしながら、部屋を一つひとつ虱潰しで調べていくことにした。
 ロビーで拝借した合鍵を使って、順番に客室をまわる。
 そして、いくつ目かの部屋をあけたとき、それはいた。
 幸せそうな寝顔を浮かべながら、部屋の真ん中で横たわる金髪の女性。
 背中には美しく白い翼。
 蓮城と米田は、この女性に見覚えがあった。
「……フィーナさん、何故寝てるし」
 震える声を絞り出す蓮城。
 その寝姿は、あまりにも無防備だった。
「とっ、とりあえず毛布を!」
 顔を赤面させた清純は、慌てて押入れから毛布を取りだした。
 橋場は、不思議そうな顔で蓮城と米田の顔を眺める。
「知り合い……ですか?」
「以前ちょっとね……」
 唖然としていた米田は、我にかえってポケットからスマホを取りだしカメラモードにする。
 フィーナにピントを合わせて撮影しだす米田。
「……何やってるの?」
 蓮城はジト目を投げかけた。
 傍からみたら、寝顔を撮影している変態行為にしか見えないことを彼は気付いているのだろうか。
「いや、フィーナの無実を証明するため……」
「…………」
 言いつくろう姿が、余計に米田を怪しくみせた。他の仲間の視線も痛い。
 たじろぐ米田。
 西班から敵発見の連絡が入ったのは、そんな時だった。


 最初にそれと遭遇したのは、ライカだった。
 茂みの中から出てきたそれは、鼻息を荒くしながらのそりと彼女の前にあらわれた。
 猪や熊ではない。その場にいることが明らかに不自然な巨大なバク。
 それを天魔と断定したライカは、携帯電話を取り出し、素早い操作で会敵位置情報のメールを一斉送信した。
 ライカの隣にアンノウンが降りたつ。
「夢を喰らうバクの丸焼き……なんか良い響き」
 顎をさすりながらにんまり笑うアンノウン。
「みんなが集まるまで、足止めかし、ら」
 ライカは小太刀を構えて臨戦態勢にはいった。
 バクは攻撃をしかけてくるような素振りをみせず、一定の距離をとったままその場に留まっていた。
「……?」
 訝しげな表情を浮かべるライカ。
 そして、あることに気がついた。
 よく見ると、鼻から霧のようなものが噴霧されている。
「……!」
 それが敵の特殊攻撃であることを悟ったライカは、噴霧を阻止するために動いた。
 風にのった霧は、ライカたちのほうへと流れる。
 霧の中へ突入しようとするライカを庇うようにアンノウンが飛び出した。
 しかし、立ちはだかったくらいで霧を防ぐことなど出来るわけがなく、ふたりともが霧に包まれる結果となった。
 急激な眠気に襲われたアンノウンは、意識が遠のきその場に崩れ落ちる。
 ライカもまた、霧に包まれ意識が混濁した。
 掠れゆく意識のなか、目の前で倒れるアンノウンを避けられず、思わず後頭部を踏みつけバランスを崩す。
 声にならないうめき声を上げるアンノウン。
 転倒したライカは、そのまま眠りに落ちてしまった。
 アンノウンの首が不自然な角度で曲がっているような気がするのは、きっと気のせいだろう。
 彩と龍崎が駆けつけたのは、その直後だった。
「厄介な相手ですね……」
 目の前で味方が倒され、彩の額から冷や汗が流れおちる。
 どうやら、敵の特殊攻撃範囲はかなり広いようだ。
「まおろしの『睡拳』をみるきかい――」
 呂律の回らない口調で彩。セリフの続きは夢の中。
 風で拡散された霧が、いつのまにか彩を包み込んでいたようだ。
 眠りの霧は龍崎には通用しなかった。しかし、会敵早々孤立するはめになった。
 バクは、前足で地面をけりながら眠らなかった龍崎を威嚇している。
 どうやら、東班が合流するまで龍崎一人で戦線を維持しなければならないようだ。

 バクの攻撃は、体当たりによる単純な突進のみだった。
 威力はそれなりだが、耐えられないほどではない。
 だが、体力が高く、生半可な攻撃では全く怯む様子がなかった。
 東班が合流するまで、10分ほどの時間を要した。
 彼らの姿を見るなり、バクは鼻から霧を噴霧する。
 風で拡散された霧は、撃退士たちを包み込んだ。
 しかし、眠りに落ちたのは橋場のみ。彼女は口からよだれを流し、モグモグと幸せそうな表情を浮かべいる。よほど美味しい夢を見ているのだろう。
 もともと、眠りの霧以外はたいした攻撃手段を持っていないバク。
 眠り攻撃が効かない相手が4人になって一気に形勢不利となった。
 バクの単調な突進の前に清純が立ちはだかる。
「僕の領域では、誰も傷つけさせない!」
 バクの突進を正面から受け止めた清純は、絶対領域によってその場にとどまり、バクの突撃を封じた。
 そのあとは一方的な展開だった。
 一般市民と違って、抵抗にさえ成功すれば撃退士は自力で眠りから目覚めることが出来る。
 それでも目覚めない仲間は、龍崎がクリアランスで覚醒させていった。
 全員からの集中攻撃を受けたバクは、あっという間に撃退された。
 戦闘後、アンノウンが自分の頭を踏んだ犯人探しを始めたが、踏んだ本人も眠りに落ちる瞬間だったこともあって彼の頭を踏んだことを自覚しておらず、結局は最後まで有耶無耶のまま終わったことを付け加えておこう。


 バクを倒した一行は、フィーナが眠っている旅館の客室へ集まっていた。
 フィーナは、相変わらず安らかな寝息をたてている。
 米田は、先ほど撮影した画像を仲間に見せ、フィーナが今回の事件とは関係ないと訴えた。
「とりあえず、暴れられても困……」
「以前の件があるから私が繋ぐわ」
 米田の手から手錠を掠め取った蓮城は、迷うことなくフィーナと自分の腕を繋ぐ。
 そして、そのままフィーナのボディチェックをした。
 武器になりそうなものは隠し持ってなさそうだ。
「フィーナ、起きて」
 米田がフィーナを揺する。すると、フィーナは色っぽいうめき声をあげながら、ゆっくりと瞳を開いた。
「あ……れ、私……」
 ぼんやりする頭を無理やり覚醒させるフィーナ。
「……っ!?」
 自分の置かれた状況を理解し飛び退こうとするが、手錠がそれを阻害した。
「お気の毒でしたね。大丈夫です?」
 橋場は優しく声をかけた。
 怯えた表情で撃退士たちを見渡すフィーナ。その中に見知った顔をいくつか見つけた。
「キミは何故寝ていたんだい?」
 清純は、ずっと感じていた疑問を口にした。
 米田や蓮城の話からすると、彼女は堕天使ではなく正真正銘の天使。つまり、敵ということになる。
「私は……気がついたら背後にサーバントがいて……」
 記憶をめぐらせ、眠ったときのことを思い出し、現在の状況をすり合わせた結果ひとつの結論にたどり着いて表情を曇らせた。
「しんどそうな顔しない」
 米田は、そう言いながらカバンからメンチカツを取り出した。
「これあげるから。ちょっと元気出るよ」
「私、また失敗しちゃったんですね……」
 フィーナは、メンチカツを受けとりながら寂しそうにつぶやいた。
 しかし、内心では街の人たちが救われたことにホッとしている。
「君が来たときにはすでに討伐されていたってことでいいだろ」と龍崎。
 彼もまた、フィーナと面識があり、出来るなら彼女と敵対したくないと思っているひとりだ。
「そう……ですね」
 口には出さないが、天界へ戻ればそういうわけにはいかないだろうことは想像できた。
「でも……敵対すれば見逃すのは難しいわよ?」
 そういって、蓮城が米田から手錠の鍵を受け取ろうとした瞬間、事件は起こった。
 座り込んだフィーナと手錠で繋がっているせいで、ふとした拍子にバランスを崩し、体勢を立て直そう踏ん張ったところに毛布があって足を滑らせ、そのまま米田を巻き込むように転倒した。
 EとFの胸に顔面を挟まれた米田。更にその上から毛布が巻きつく。
「わ、わざとじゃないからっ」
 真っ赤になってもがく蓮城。
「そ、それは良いから、早く退いて!」
 顔面を圧迫された米田は息が出来ない。
「やん、そんなとこで喋らないでくださいっ!」
 声の振動が胸に伝わり、フィーナは更に強く胸を圧迫させた。
 結局、3人を引き剥がすのは6人がかりの大作業になった。
 ふたりの胸に圧迫された米田は、あと少し遅ければ窒息死していたかもしれない。
 こうして、彼らは無事に天魔事件を解決したのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

撃退士・
彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)

大学部6年319組 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
踏みしめ征くは修羅の道・
橋場 アイリス(ja1078)

大学部3年304組 女 阿修羅
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
久遠ヶ原学園初代大食い王・
Unknown(jb7615)

卒業 男 ナイトウォーカー
撃退士・
Laika A Kudryavk(jb8087)

大学部5年233組 女 ディバインナイト
撃退士・
清純 ひかる(jb8844)

大学部3年156組 男 ディバインナイト