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マスター:マメ柴ヤマト
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/25


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。
 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。


「おい、起きろ」
 寝ぼけた頭に誰かの声が飛び込んできた。
「起きろ、キーヨ!」
 体を揺すられ、無理やり覚醒を促される。
「う……ん……」
 寝ぼけ眼をこすり、安眠を妨げた声の主をみた。
「マス……ター!?」
 飛び込んできたのは、フリルドレスに身を包んだヴァナルガンドの姿。
「え、えぇ!? どど、どうしちゃったんですか!?」
「とうとう、魔王の腐の手がこの村にまで及び始めてきたんだ」
 苦悶の表情を浮かべるヴァナルガンド。
 魔王マーナ。
 この世界を恐腐に陥れる恐ろしき存在。
「もはや俺は、力を封印されてしまって魔王に抗うことが出来なくなった」
「そ、そんな!」
 ヴァナルガンドは村1番の勇士だ。
 その彼が戦えないとなれば、いったい誰が戦えるというのか。
「だが、安心していいぞ。天命が下ったのだ」
「天命!?」
「そうだ。それは、お前が勇者として旅立ち、仲間を集めて魔王を打ち倒すというものだ」
 右手でダイスを弄びながら言った。
「……サイコロで決めましたね。絶対にサイコロでしょ」
「魔王の力はどんどんと強大化している。このままでは魔王の煩悩が人間界はおろか、冥界や魔界、天界までもを飲み込み、全てが滅んでしまうかもしれない」
 ヴァナルガンドはジト目のキーヨを無視して話を続ける。そして、スカートをたくし上げて蟹股歩きで部屋の隅へと向かうと、そこに立てかけてあった一振りのステッキを手にした。
先端に星が取り付けられたステッキだ。
「これはキレサスレイヤー。あらゆる煩悩を断ち切るステッキだ。これを持っていけ」
 ヴァナルガンドはキーヨにステッキを差しだす。
「でも……僕なんかが……」
 剣を受け取りつつも、不安を隠せないキーヨ。彼はヴァナルガンドの従者でしかなく、特別な力など持ち合わせてはいないのだから。
「俺が受けた天命を疑うのか?」
「信じます」
 ヴァナルガンドの真剣な眼差しを見て、キーヨは彼の言葉をあっさりと信じた。
「まずは仲間を集め、それから伝説の鎧を手に入れろ」
 そう言うと、ヴァナルガンドはヘッドドレスを手渡した。
「これは伝説の鎧と対を成すヘルムだ」
「ヘルム……ですか?」
 渡されたヘッドドレスは黒地に白いフリルが取り付けられたものだ。
「そうだ。伝説の鎧は、そのヘルムを装着して初めてその力が発揮される。身に着けていれば、きっとそのヘルムが鎧へと導いてくれるだろう」
「わかりました」
 言われたとおり、キーヨは頭にヘッドドレスをつけた。
「伝説の鎧はトーノという男が持っているという噂だ」
「トーノ……」
 これがその男だ。
 ヴァナルガンドは1枚の写真を差しだした。
 そこに写っているのは、筋骨隆々の勇ましい男が豪快に笑っている姿だった。
「まずは、この男を探しだして鎧を受け取るんだ。人間界では有名な鎧職人らしい」
「しかし、トーノはいったいどこに……」
「今は引退し、とある島の寺子屋で教鞭を執っているという話だ」
「とある島……ですか?」
「有名な男らしいからな。探すのはさほど苦労しないだろう」
 そこまで話すと、ヴァナルガンドは一呼吸おき、あらたまった表情でキーヨの瞳をじっと見つめた。
「魔王マーナの居城は、西の山奥にあると言われている。困難な旅になるだとうが、仲間と力を合わせれば、必ず打ち勝つことができるはずだ」
 そして、ヴァナルガンドはキーヨの肩をがっちりと掴み、力強く言った。
「お前には真名を与える。お前は今日からキヨヒコ、勇者キヨヒコだ! さあ、行け! 勇者キヨヒコよ。世界の運命はお前の双肩にかかっているぞ!」
 こくりと頷くキーヨ。
 そして、ヴァナルガンドは扉の外をびしっと指差し、そのままキーヨの背中を押して扉まで連れてくると、そのまま背中を突き飛ばしてキーヨを外へと放り出したのだった。
「マ、マスター!?」
 慌てて振り返るが、扉は既に硬く閉ざされている。
「マスター!? ちょっと、いくらなんでも最後が雑すぎるでしょう! マスター!!」
 戸の外から聞こえてくるキーヨの声を聞き流し、ヴァナルガンドは手にしたサイコロをグラスの中へと放り込んで寝室へと消えていった。


リプレイ本文

●出会い
 街道をとぼとぼと歩くキヨヒコ。
 旅人然とした服装にヘッドドレスとマジックステッキという中途半端なコスプレちっくないでたちが痛々しい。
 村を出てすぐに出会ったソフィア・ヴァレッティ(ja1133)と名乗った魔女から、この道を往けば良いという助言を受け、キヨヒコは彼女から言われたまま街道を突き進んでいた。
 ちなみにその際、持ち合わせの所持金を全て支払わされており、現在無一文だ。
 そんな姿を目で追う人物がいた。
「あの人……」
 街道沿いの大きな木の木陰で休んでいた雫(ja1894)だ。
 傍らには、ブリガンダインと身の丈以上の大剣、それと荷物袋が置いてある。
 決してキヨヒコの風貌を好奇のまなざしで眺めていたわけではない。
 ――私と同じ匂いがする……。
 彼がはなつ独特な空気にシンパシーを感じ取ったのだ。
「そこのあなた」
 だがキヨヒコは止まらない。
「そこの頭をフリルいっぱいのヘッドドレスで飾り、手にしたマジックステッキが旅人スタイルとミスマッチで、どう見ても旅をナメているとしか言いようがない、そこのあなた」
「あの……呼びましたか?」
 ようやく振り返るキヨヒコ。
「あなたはどちらまで参られるのですか?」
「僕は――」
 急に表情がキリリとひきしまる。
「天命を受け、魔王マーナを倒すために旅をしています。まずは、伝説の防具を手に入れるためトーノという男と会わなければなりません」
 トーノの名前をきいて、雫の顔は少しだけひきつらせる。
「ちょうど良かった。私もこれからトーノのともへ向かうところです。良かったら一緒しませんか?」
「おお。あなたはトーノの居場所をご存知なのですか?」
 雫はゆっくりと首肯する。
「では、ぜひお願いします」
 雫の手を両手で握ってぶんぶんと振るキヨヒコは、あの魔女に有り金全部支払った甲斐があったと心の中で思うのだった。

●もう一人の勇者
 サンポ……サンポや……。
 朝の日差しを浴び、まどろみかけた犬乃 さんぽ(ja1272)の耳に母の優しい声がきこえる。
 瞳を開けると、そこには優しげな笑顔を浮かべる母の顔。
「さんぽや。今日はあなたが16歳になる誕生日。この国では男子が16歳になった日、王様と謁見することが慣わしでしょ? 急いで仕度なさい」
 母に促されるまま、犬乃は寝ぼけ眼で身支度をととのえ、ターガミネ王国の国王が待つアーキ城へと向かった。
 城門をくぐり、長い階段を抜けた先、謁見の間に国王トーシはいた。
「良く来た、勇者サンポよ」
 トーシ王は、その昔、犬乃の父と共に旅をした仲間だと聞いたことがある。
 そんなことよりも――
「勇者? ボクが!?」
「そうだ。魔王討伐に向かったお前の父が変わり果てた姿となって発見されてから1年。お前は父の遺志を継ぎ、魔王討伐へ向かわなければならない」
「で、でも……」
「これが魔王マーナの姿だ」
 トーシ王が1枚の写真を投げてよこした。
 写真を拾いあげ、そこに写っている人物をみて犬乃は心を鷲掴みにされる。
「これが……魔王マーナ……」
 写真に写っているのは、可憐な美少女(少なくとも犬乃にはそう見えている)の姿。はっきり言って直球どストライクなくらい好みの女の子。犬乃のやる気も急上昇。
「王様。必ずや魔王(のハート)を討ち取り、この世界を救ってみせます!」
「うむ、よく言った。では、この聖剣とリングを持っていけ。これらは対魔王専用の強力な武器だ。魔王を討つ滅ぼす手助けをしてくれよう」
「はっ!」
 膝をついて聖剣とリングを受け取った犬乃は、恭しく頭をさげて国王に魔王討伐を誓った。
 犬乃は聖剣を腰に下げ、首にリングをネックレスのようにかけ、意気揚々と城をあとにする。
 道すがら、ミニスカート姿で野良仕事をしている父に出立の挨拶をした。
 そこで1年前に父が使っていたという桧の棒+50を受け取る。
「まずは、クオンガハラ島を目指す!」
 棒先を明後日の方に向け、力強く宣言する犬乃。
 こうして彼の冒険が始まったのだった。

●その頃、魔王の居城では
「マーナ様。勇者どもが動き出したようです」
 遠石 一千風(jb3845)は、頭を深くさげて報告した。
 髑髏をモチーフにしたビキニアーマーが彼女のモデル体型を引き立てている。
「性懲りもなく小癪なやつらで御座るな!」
 静馬 源一(jb2368)は、ぐっと拳を握りしめた。
「慌てるな」
 魔王マーナは静かに言った。
「私を倒そうと考えているのなら、必ずクオンガハラ島へ行くはず。なら先回りをして待ち伏せ、不意打ちをかければ良いだけ」
「それならば自分が適任で御座るな!」
 歩みでたのは静馬だった。
 不意打ちとか計略といったものが嫌いな遠石は、露骨に彼を蔑む目をむけている。
「この任務、魔王軍四天王がひとり、魔犬のシズマにお任せあれで御座る!」
「あなたには四天王としてのプライドはないの!?」
 我慢が出来ずに声を荒げる遠石。
 マーナはそれを静かに制した。
「いいじゃない。四天王といっても2人しか居ないんだから」
「く……っ!」
「では、自分が先鋒で良いで御座るな!」
「うん。シズマ君、がんばってね」
「御意」
 そして、立ち去ろうとする静馬を慌てて引き止める。
「ごめんごめん。大事なものを渡すの忘れてた。これ、着ていってね♪」
「…………」
 静馬がマーナから受け取ったものは、くノ一用の忍装束だった。

●港町にて
「来る……」
 豊穣の女神を祭る神殿。
 女神に仕える巫女である月乃宮 恋音(jb1221)は、神からの啓示を受け取っていた。
 白地に金糸の縁取りのゆったりとしたローブに隠れて分かりにくいが、身体の一部がとても豊穣な彼女は、その胸に女神からのお告げを受ける力を持っていた。
「また、お告げが?」
 胸を押さえる顔を赤らめている月乃宮に声をかけたのは、彼女の恋人である守護者でもある袋井 雅人(jb1469)。
「勇者がこの街へ来るそうですよぉ……」
 もぞもぞと上目遣いで月乃宮。
 神のお告げを乳に受ける。
 故に巫女は街で一番の巨乳でなければならなかった。
「では、出迎えにいかなければ」
 そう言う袋井の腕を掴み、小さく首をふる。
「大丈夫。彼らからここへ来るようですからぁ……」
 そして、両手で乳を持ち上げ、そこに耳を当て、柔らかな微笑みを浮かべた。

 キヨヒコと雫がやってきたのは、クオンガハラ島へ向かうための船が出ている唯一の街だった。
 しかし、街は活気を失っている。
 街の男たちのほとんどが女装化の呪いをかけられ、水夫たちもみなセーラー服を着ている。
 潮風でスカートが舞い上がってしまい、操船に集中出来ないという理由で船の欠航が相次いでいるのだ。
「ここから船に乗らなければならないのですが……」
 途方にくれる雫。
「困りましたね」
 キヨヒコも大きなため息をつく。
 出航できる船は残りわずかで、乗船券は既に売り切れている。
 そんなキヨヒコの視界の端に見覚えのある魔女の姿。
 ニコニコと満面の笑みを浮かべて、こちらに手を振っている。
「ソフィアさんではないですか!」
 駆け寄っていくキヨヒコ。
「必要な物があるなら用意してあげるよ。お願いを聞いてくれたら、だけどね」
 ソフィアは小悪魔ちっくな笑みを浮かべている。
「誰だか知りませんが、クオンガハラ島行きの船に乗る乗船券でも用意できまか?」
「もちろん。でも、高いよ?」
 雫の言葉に乗船券をヒラヒラ見せながらソフィア。
 財布をごそごそ漁りはじめるふたりに、お金なんて要らないと言った。
「この街にある神殿に豊穣の巫女がいるんだけど、彼女が身に着けていたブラジャーと交換だよ。もちろん脱ぎたてで」
「な――」
 何故そんなものをと雫が言うより早く、
「必ずや手に入れてみせます」
 真顔で即答するキヨヒコであった。

 キヨヒコは街の中をさまよっていた。
 さっきから同じ場所をぐるぐる回っている気がする。
「おかしいな、ちゃんと標識どおりに歩いているのに……」
 辟易した表情でキーヨがぼやく。
「おかえりなさい」
 雫は肩で息をするキヨヒコに声をかけた。
「あれ、何で!?」
「あっちへ歩いていって、こっちから戻ってきました。もう6周目」
 標識に誤りがあることにいち早く気付いた雫は、休憩と称してキヨヒコがいつ気付くのかを観察し続けていた。
「たぶん、神殿はこっちです」
 雫が指差す先、通りをまっすぐ抜けた先に神殿の入り口らしきものがみえた。

「勇者さまですね? 豊穣の女神の神殿へようこそぉ……」
 キヨヒコたちを出迎えたのは、ゆったりとした白いローブを着た女性だった。
「私は豊穣の女神の巫女、レンネと申しますぅ……」
 その後ろには守護騎士である袋井が控え、鋭い視線をキヨヒコらに向けている。
「本当に彼らが勇者なのですか?」
 懐疑的なそぶりの袋井。特にキヨヒコの姿をまじまじと眺める。
「間違いありませんよぉ……」
 月乃宮は胸を押さえてモジモジした。
「あなたが巫女ですね?」
「はい」
「単刀直入に申し上げます。ブラジャーください」
「……はい?」
 微妙な時間と空気が流れる。キヨヒコの目は本気だ。
「その豊穣なおっぱいを覆う、あなたのブラジャーを僕にください」
「レンネ、こいつ本当に勇者なのか!?」
 思わず声を荒げたのは袋井だ。当然だろう。
 しかし、月乃宮の反応は、
「それが魔王を倒すために必要なのですね……?」
 顔を赤らめながらも、意を決したように後ろを向き、もぞもぞとローブの中でブラジャーをはずした。
 こうして、キヨヒコは無事に巫女のブラジャーを手に入れ、ソフィアから乗船券を受け取ることができた。

●港町襲撃!
 キヨヒコらが出発して間もなくのこと。
 港町は魔王軍の襲撃に遭っていた。
 理由はひとつ。この街が勇者の手助けをしたから。
 襲撃の指揮をとっているのは遠石だった。
 このような卑劣な行為は不本意極まりないが、魔王の命令だから仕方ない。
 手下の柴犬型モンスターを使い、街の住人たちを次々と女性は腐女子に、男性たちはホモォに変えていく。
「不毛だ……こんなことをして何になるというのだ……」
 遠くを見つめてぼやく遠石。
 彼女の願いは一つ。己が望む環境で強者と戦いたい。
 となれば、この環境をどう利用し、自らの願いを成就させるかだ。
 遠石は豊穣の女神の神殿へきていた。
 目的は、魔王から受けたもう一つの指令を果たすため。
「何が目的ですか!」
 今、目の前には剣を構える魔法剣士風の眼鏡男がいる。
「魔王が巫女の力をお望みなのだ」
「させるか!」
 剣に魔力を纏わせた強烈な一撃をふるう。
 遠石は、それを剣で軽く受け止めると、力任せに壁へと吹き飛ばした。
「袋井先輩!?」
 遠石は駆け寄ろうとする月乃宮の前に立ちはだかり、彼女に当身を食らわせる。
 気を失った月乃宮をかついだ遠石は、袋井へ向きなおりこう言った。
「勇者に伝えろ。巫女は魔王軍四天王、髑髏のイチカが預かった、とな」
「私にもっと力があったなら……」
 悠々と立ち去る遠石を悔しげに眺め、ただ奥歯を噛み締めるだけの袋井だった。

●勇者サンポ再び
 クオンガハラ島へ渡るために犬乃が港町を訪れたのは、襲撃があった数時間後だった。
 街の様子は(腐的な方向に)凄惨極まりない。
 詳しい描写するのはいろんなものに引っ掛かりそうなので省かせてもらう。
 さまざまなうめき声や叫び声が響くなか、犬乃は戦々恐々としながら街のなかを進んだ。
 港も酒場も、どこへ行っても阿鼻叫喚な風景が広がる。
 それを嬉々とした表情で眺める女性たちが異様で怖い。
 救いを求めるため豊穣の女神を祭った神殿へ訪れたとき、犬乃は袋井と出会った。
「あなたはまともなようだ。いったい、この街に何が起こったの?」
 犬乃は、大聖堂の片隅でうな垂れている袋井に声をかける。
「きみは……?」
「こんにちは、ボク、王様公認の本家勇者サンポ」
「勇者……」
 袋井の瞳に生気が戻ってくる。
 少なくとも、月乃宮のブラジャーを要求した犬耳ヘッドドレス勇者よりは、よっぽど勇者らしい。
 そして、瞳の奥に揺らめいている強い意志も感じられる。
「勇者よ……どうかお救いください」
 袋井は犬乃にすがり、これまでの経緯を説明した。
「ゆるせない……ボクに任せて! 巫女は必ず救い出してみせるから!」
「では、私をお供にお連れください!」
「うん! 世界の為お互いに頑張ろうね!」
 満面の笑みを浮かべ、手を差し出す犬乃。
 袋井はその手を取って、力強く立ち上がった
「恋音、絶対に魔王マーナから助け出しますから、どうか今は耐え忍んで待っていて下さいね」
 こうして犬乃は新たな仲間を加え、クオンガハラ島へ向かうのだった。

●クオンガハラ島にて
 キヨヒコがクオンガハラ島に到着した桟橋を使って船から下りるさい、不意に解けた靴紐を踏んづけて躓き、海に落ちるというアクシデントがあった。
「まったく……しっかりして下さい。ドジっ子ですか? ドジっ子なんですか!?」
 しきりに叱咤する雫。
「ところで……」
 獣耳を明後日の方へ向けたまま、ふと思ったことを口にした。
「出会ったときから、ずっと大事に抱えているその荷物には何が入っているのですか?」
 雫は大きな皮袋を常に大切そうに抱えていた。
「これは……」
 雫が袋をぎゅっと抱きしめると、袋の中からは瓶同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。
「先生に頼まれて手に入れたプロテインとワセリンです」
「先生……?」
 キヨヒコの言葉に雫の表情はくもる。
「私の先生は……」
「…………」
「伝説の鎧職人トーノが私の先生です」
 雫は血を吐く思いでいった。

 犬乃と袋井のスワンボートはクオンガハラ島の西の海岸へたどり着いた。
 2人とも全身汗びっしょりで息も荒い。
 出航できる船はなく、島へ渡る手段はスワンボートだけだったのだ。
「もっと……別な方法は……なかったの……?」
 滴る汗をぬぐう気力も残っていない犬乃。
「あれば……こんなもの……使いません……」
 立ち上がる気力すらない袋井。
「そう……だよね……」
 その場に座り込む犬乃。まずは体力を回復させることが先決だ。
「この島へ渡った目的を教えてください」
 息を整えおえた袋井がたずねた。
「伝説の鎧職人トーノに会うためにだよ」
「トーノ……」
 噂は聞いたことがある。
 今は引退して、クオンガハラ島の寺子屋で教鞭を振るっているとか。
「では、すぐに参りましょう。早くしないと先を越されてしまう」
「……?」
 袋井はキヨヒコたちのことを思い出した。
 港町に現れたということは、彼らもここへ来ている可能性が高い。
 あの胡散臭い勇者より先に伝説の防具を受け取る必要があると思ったのだった。

「し、雫さん……。どういうわけか、先ほどからドリアンが僕の顔に飛んできます」
 顔をドリアンの汁と果肉まみれにしてキヨヒコ。
 船着場を出てから数刻、なぜか微妙な間隔をあけながら、まるで狙いすましたようにキヨヒコの顔めがけて剥き実のドリアンが飛んでくる。。
「どうしてですかね」
 雫はキヨヒコと距離をあけて歩いていた。
 とりあえず、彼から離れていれば被害は受けないので気にしないことにしたようだ。
 そうこうしているうちに、目的の寺子屋が見えてきた。
 寺子屋の前には人影がひとつ。
「師匠ー、雫さんが男の人をお持ち帰りしてきたようですー」
 人影はトーノの弟子のひとり、水無月 ヒロ(jb5185)だった。
「ちょっ!? 誤解を生む言い方しないでください!」
 思わず声を上げる雫。
「なぁにぃ!?」
 寺子屋の奥から現れるタイトスカートの筋肉巨漢。
 スカートのサイドは肉厚によって裂けている。
「せ、先生!?」
「あれが……雫さんの先生……」
 トーノの姿は雫が予想していたものの遥か斜め上空、大気圏外あたりにあった。
「師匠なら2日ほどまえから魔王の呪いに侵されてますよー」
 平然と答える水無月。
「伝説の鎧職人、トーノ殿とお見受けします。魔王マーナを倒すため、僕に伝説の防具を与えてください!」
「…………」
 トーノはまじまじとキヨヒコを見つめた。
「良いだろう。伝説の防具を渡そう」
「まさかとは思いますが、ワセリンやプロテインを渡して伝説の鎧とは自分の筋肉だ! と言いませんよね」
 雫が釘を刺す。
「ま、まさかぁ。こ、これから作ってやるから待ってなさい」
 乾いた笑いをもらすトーノ。
「では、ボクもお手伝いしいます」
「…………」
 雫のジト目に見送られ、水無月とトーノは寺子屋の中へと消えていった。

 寺子屋の中、トーノは作業に没頭していた。
 水無月にあれこれと指示をだし、急ピッチで作り上げていく。
 そんな中、水無月は資材置き場の奥から一番長くて図太いスリコギを調達した。
 トーノの背後にそっと近づき、後頭部めがけてスリコギをフルスイング。トーノを亡き者にした。
 そして、トーノが作成中だった鎧をゴミ箱へ捨て、水無月が作ったピンクの水玉ビキニ風鎧を用意した。
 水無月がひと仕事終えたといわんばかりに額の汗をぬぐった頃、音を聞きつけたキヨヒコたちが駆けつけた。
「これは……いったい……」
 声を震わせるキヨヒコ。
「師匠は……師匠は自らの命を賭して、この鎧を作り上げました……」
 苦悶の表情を浮かべる水無月。
 涙を浮かべながら、用意した鎧をキヨヒコへ渡した。
「それ……何……?」
 雫は血がついたスリコギを指差す。
「細かいことはさておき――」
 雫の指摘をスルーし、水無月はキヨヒコの服に手をかけた。
「さぁ、早く着替えましょう! ほら、ほらぁ!」
「わ、ちょ、やだ、自分……自分でーー!!」
 雫はふたりのやり取りに顔を赤らめ、つぎつぎとひん剥かれていくキヨヒコを尻目に作業部屋を出て行くのだった。
 ――あれ? 前もどこかでこんな光景を……。
 水無月は、嬉々としてキヨヒコを剥きながら、ふとそんなことを考えていた。

 キヨヒコが水無月につれられ、モジモジしながら寺子屋から出てくると、そこには大剣を構えた雫の姿があった。
「やっと出てきたで御座るな、勇者キヨヒコ!」
「キミは……魔王軍四天王最弱の戦士、魔犬のシズマ!!」
 その姿を見て声を上げたのは、水無月だった。
「最弱とは失礼で御座るな! って、その声は、四天王でありながら魔王軍を裏切った男。女装のヒロ殿では御座らんか!?」
 何故、こんなところに? 静馬の目はそう語っている。
「ボクは腐による世界制服を目論む魔王マーナの考えが嫌になり、世界平和のために戦うことにきめたんだ。そんなことより、良いのかい? これだけの人数をキミ一人が相手にする気かい?」

「ふははっ、甘い! 甘いで御座る! 勇者キヨヒコは既に自分の術中にあるでござる!」
「何!?」
 驚きの声を上げたのはキヨヒコだった。
「気付かなかったでござるか? 港町で偽の標識を立てたのも、船から下りるときに靴紐をほどいておいたのも、皮を剥いたドリアンを投げつけたのも、全て自分でござるよ! わっはっはで御座る!!」
「お、恐ろしいことを……」
 わなわな震えるキヨヒコ。
「だから……臭うんですね……」
 鼻をつまんで雫。
「もうね、1個1個丁寧に剥きながら投げたから、汁だらけになったで御座るよ……本当に辛いで御座るよ……」
 静馬も涙を流した。
 そんなやり取りをしている中、犬乃と袋井も到着する。
「何か良く分からないけど、今助け……臭っ!」
 犬並みの嗅覚を持つ犬乃は、ドリアンの臭いだけで卒倒しそうになった。
「なんて恐ろしい敵だ……」
 存在感だけなら遠石以上だと、袋井は感じた。
「ふふふ、困っているようだね」
 そこに現れたのは、謎の魔女ソフィア。
「むっ!? お前は、影で勇者を手助けしていた魔女でござるな!」
 魔王軍もソフィアの存在は把握していたらしく、静馬はこれでも食らえといわんばかりにドリアンを投げつけた。
 ひょいと軽く交わしたソフィアは、冷徹な目つきで静馬を見据えた。
「あたしに手を出したね?」
「え、いや、その……」
「戦闘には不干渉のつもりだったけど、あたしに攻撃してきたからには覚悟できてるんだろうね?」
 ソフィアの右手に魔力が収束する。
 ソフィアは、収束された魔力の塊を静馬に投げつけた。
「ひぃ!」
 じゅっ。
『…………』
 唖然とする一同。
 こうして魔王軍四天王『魔犬のシズマ』は、出落ち感だけを残して壮絶に散った。

「で、お前らこれからどうするんだ?」
 スクワットを続けながらトーノ。あ、生きてた。
「この脳筋から離れられるなら、魔王でもなんでも退治しますよ」
 真っ先に声を上げたのは雫だった。
「ボクも同行しますよー。魔王の城の中なら熟知してますしー」
 それにボクが作った鎧の出来も見極めたいしと心の中で付け加える水無月。
「ボクは本家勇者だから、当然行くよ」
 ぐっと拳を握り締め犬乃。
「恋音を救わなければ」
 袋井の選択肢もひとつ。
「じゃあ、あたしが魔王城の手前までワープできるアイテムをあげるよ。そ・の・か・わ・り♪」
 含み笑いを浮かべながらソフィアが取り出したのは、セーラー服、ナース服、メイド服の3着。
「男の子4人が女装してポーズを取っているところを、キミがハァハァしながら写真撮ってよ。キヨヒコ君はそのままの格好で良いからね♪」
「で、できるかー!」
 叫んだのは、カメラを渡された雫だった。
「嫌なら良いんだけどさ。別にぃ」
 ソフィアは、ただニヤニヤと笑みを浮かべるだけだった。
 
●魔王と巫女
「マーナ様。巫女を連れてきました」
「うん、ご苦労さま」
 遠石から月乃宮を受け取ったマーナは、彼女をまじまじと眺めた。
「私に何の用ですかぁ……」
 震える月乃宮。
 マーナは月乃宮の父を突いてみた。
「きゃうっ」
「でっけ!」
 月乃宮や目じりに涙をいっぱいためている。
「あ、イチカちゃんは下がっていいよ。城の防備を固めておいてね」
「はっ!」
 遠石を下がらせ、月乃宮の胸を色んな角度から突き続ける。
「うぅ……何なんですかぁ……」
「いやぁ、でっかいなぁって思って」
 マーナ自身、巨乳にはそれほど興味もコンプレックスも持ち合わせてはいないが、女神のお告げを受けるという乳には興味がある。
「う〜ん、この乳の秘密を解析して、男の娘たちにバストをくっつけられないかなぁ」
 寄せたり上げたり、いろいろと実験を繰り返すマーナ。
「あん、や、やめてくださいぃ……」
 マーナのなんとも微妙な空気が流れる実験は、しばらく続けられることになる。

●突入! 魔王城
 5人は魔王城の前に来ていた。
 移動手段は、当然ソフィアが用意したアイテムだ。
 大きく時間を短縮させることが出来た一行であったが、同時に何か大切なものを失ってしまった気がしてならない。
「良く来たな、勇者たちよ!」
 すっかり意気消沈している5人を包み込むように響き渡る女の声。
「その声は……髑髏のイチカ!!」
 反応を見せたのは袋井だった。
「とうとうこのときが来たか。このまま出番が無いんじゃないかと心配していたぞ」
「恋音をかえせ!」
「あの巫女か……彼女ならマーナさまにあんなことやこんなことをされている最中だ」
「や、止めてくれぇ!」
 袋井は頭をかかえて嘆いた。
「卑劣なことはやめろ! そこを通すんだ!」
 星付きマジックステッキを突きつけてキヨヒコ。
「そんな酷いこと、ボクが許さない!」
 桧の棒+50を突きつけて犬乃。
「あなたたち……勇者ならもっとマシな武器は持ってないの!?」
 イメージしていた勇者像とかなり違うことに憤慨する遠石。
 そして、なし崩しな形で戦闘が始まった。
 ここにきて勇者たち、とんでもない事に気がついた。
 ここまで戦闘らしい戦闘を一切していないので、経験値が貯まっていない。
「魔界の闘気を纏った一撃、受けるがいい」
 遠石が放った魔弾であっさり吹っ飛ぶキヨヒコ。
「ははっ、勇者もこれでおしまい……って、ちょっと、勇者なんだからもっと頑張れるでしょっ! 私、まだ二回も変身残してるのよ!」
 一撃で目を回している勇者の姿に、思わず叱咤激励を送ってしまう。
「えぇい、これでも食らえ!」
 犬乃が振り回す桧の棒+50はそれなりに痛いが、
「違う、違う! もっと踏み込んで狙ってきなさい」
 踏み込みの甘さを指摘される始末。
「えぇい、ちょっとストップ!」
 思わず叫ぶ遠石。
「私は打倒勇者だけを夢見て鍛錬をしてきたの! それなのに私の全てを注ぐ戦いがこんなんで良いはずがない! あなたたちを永遠のライバルとして認めてあげるから、もうちょっと修行して出直してきなさい!」
 武器をおさめた遠石を見て、一同は戸惑いの色を隠せない。
「あの……通って良いのですか……?」
「知らない。もう好きにすれば!」
 おずおずと質問する袋井に逆ギレする遠石。
 髑髏のイチカが戦意を喪失したことにより、魔王マーナへの道が開かれたのだった。

●決戦!
「よくぞここまでたどり着いた!」
 腐敵な笑みを浮かべる魔王マーナ。
 男性4人がみな女装しているのだから仕方ない。
「とりあえず……」
 水無月はマーナの前へ進み出る。そして、キヨヒコの首根っこをひょいっと持ち上げると、それを雑に放り投げる。
「これをあげるから世間に迷惑をかけずおとなしくしてて」
「おお! エロ可愛い男の娘♪」
 しっかりキャッチ。
「だが、この程度で私の覇業を止めるわけにはいかない!」
 マーナは鼻息荒く言いはなつ。
「そう……この姿は見せたくなかった……」
 あっさりと交渉が決裂し、水無月はため息をつきながら服を脱ぎ始めた。
 床に落ちた服がズシンと重たい音をたてる。
 服の下から現れたものはスク水と水泳キャップ、ビート板の盾。
「ヒ、ヒロくん、あなたって子はっっ!!」
 鼻血噴射のマーナ。
「ちょっと待って!」
 ここで犬乃が割って入った。
「戦いからは何も生まれないよ」
 剣の柄に手をかけ、マーナに向きなおる。
「ついに巡り会えた、魔王マーナ……」
 すらりと抜き放った剣身は、なんと花束になっていた。
「はじめまして、そして、ぼっ、ボクと結婚してください!」
 顔を真っ赤に染めながら一世一代の大勝負に出る。
「一目その姿を見たときから、心に決めてたから」
 首に下げたリングはエンゲージリング。
「さんぽ君……うん、結婚する! 私と一緒にこいつら倒して、ふたりで幸せな家庭を築こう!!」
「さぁ、ボクが相手だ! マーナには指一本触れさせない!」
『おい!!』
 あっさり寝返った犬乃に、全員のツッコミがハモるのであった。
 神妙なおももちで雫。
「ごめんなさい、みなさん……」
 謝りながら歩み出る。
「魔王を倒して平和になったら、私は……」
 そして、ゆっくりと振りかえり、
「また、トーノの起こす騒ぎの後始末をしなくちゃいけなくなるんです!」
 すらりと剣を抜き放った。
「もう……そんな生活に戻りたくないんです」
 そして盛大な同士討ちが始まった。
「腐腐腐はははは! 見たか、これが魔王の力だ!」
 たぶん違う。
「このまま勇者を滅ぼし、世界中の男たちを男の娘に変えたあげく、豊穣の女神の奇跡で一部女体化させて、人間界も魔界も天界も全て腐界へと陥れてやるぅう!」
 高笑いを上げるマーナのセリフを聞いて、雫の動きがピタリと止まる。
「そう、貴方もですか……。なら、全てを無に帰し、私も無に帰りましょう! 永遠に!! 」
 雫はマーナにトーノと通ずる何かを感じ取った。腐か筋肉か、違いはそこだけで中身は一緒なのだ。それならば自らを鬼神化させ、世界に終焉を与えることを選んだ。
 瞳を赤く光らせ、地鳴りを上げながら巨大化していく雫。
 山よりも大きな剣を振りかぶり、最初の一振りでマーナと犬乃が消し飛んだ。
 雫が剣を振るたびに、山は砕け、大地は割れ、海は裂けた。
 城が崩れゆくなか、袋井は恋人の恋音を救いだすことに成功する。
「袋井先輩!」
「恋音!」
 熱く抱擁を交わすふたりの姿も、瓦礫の中へと消えていった。
 そして、世界が無に帰するとき、それぞれが夢から目覚めた。

●エピローグ
 目覚めは、みな様々だった。
 恋音が目覚めたとき、なんだか幸せな気分だった。
 どんな夢を見たのか良く覚えていないが、袋井と抱き合っていたことだけは覚えている。
 犬乃は夢の中で高峰に求婚してOKを貰った記憶だけが残っていた。
 水無月はやり遂げた感に満たされ、袋井は夢の記憶そのものがあいまいだった。
 遠石は当たり所の無い不満だけが残った。
 静馬は夢の中でせこくみみっちい悪戯ばかりしていた気がする。
 胸にもやもやとした感覚だけが残った雫は、何故か遠野先生のことを考えると腹がたつ。
 ソフィアは何だかすっきりした気持ちの良い目覚めだった。
 ちなみに、高峰は寝ながら鼻血をたらしていたようで、顔が血で枕に貼りついていた。
 そして――
「おい、キーヨ。お前、すげぇうなされてたぞ?」
 ヴァナルガンドはキーヨを揺り起こした。
「マス……ター?」
「悪い夢でも見てたのか?」
「夢……」
 思い出そうとするが、なぜか心が拒否をする。
「思い出せません……思い出しちゃダメな気がするんです……」
 もしかしたら、キーヨの深層心理で久遠ヶ原学園へ潜入したときの出来事がトラウマとなって残っていたのかもしれない。
 みな共通して言えることは、もう少し頑張ったら夢の内容を思い出せそうなこと。
 だが、それを思い出すべきか、そのまま忘れ去るべきかは当人たちの自由だろう。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
優しき心を胸に、その先へ・
水無月 ヒロ(jb5185)

大学部3年117組 男 ルインズブレイド