.


マスター:マメ柴ヤマト
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:50人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/07/10


みんなの思い出



オープニング


「あっづぃ〜」
 うだるような暑さに音をあげているのは、高峰真奈(jz0051)だった。
 北海道出身の彼女は、まだ関東の暑さに慣れていない。
 夏はまだこれからが本番だというのに、既にこの有様だった。
 昼休み、彼女は校庭の木陰にあるベンチに座り、ブラウスの胸元をパタパタして風を送り込みながらアイスを頬張っていた。
「海行きたいよ、海。去年は行けなかったし、今年こそ海にいってやるんだ……」
「海か。そんなに行きたいなら、俺が連れて行ってやろう!」
「ひゃあ!」
 豪快な笑いとともに現れたそれに驚き、頬張っていたアイスを地面に落としてしまう高峰。
「と、遠野先生!?」
 どこから現れたのか。もしかして監視されているんじゃないか。
 遠野冴草(jz0030)の登場は、そんな疑念を抱いてしまいたくなるほど絶妙なタイミングだった。
「海へ行きたいんだろ? よぉし、俺に任せておけ!」
 彼の「任せておけ」ほど不安をかきたてられる言葉はないだろう。
「海水浴にはうってつけの無人島があるんだ!」
 既に話は高峰の予想の遥か斜め上空を飛んでいる。
「いやいや、待って先生。ほら、今は沖縄旅行とか流行ってるじゃないですかっ! 無人島とかじゃなく、私は普通にそういうので良いんですって!」
 ここで遠野のペースに流されてはならないと、最近よく耳にする沖縄の名前を出して抵抗を試みた。
「おいおい、そんな『みんなカツ丼食べてるから、本当は親子丼が食べたいけど自分もカツ丼にする』みたいな主体性のない発想で楽しいか?」
「楽しいです! 沖縄行きたいなぁ! っていうか、何ですか、その例えは! まるで私が本当は無人島に行きたいって言ってるみたいじゃないですかっ!」
「島は外周が4kmもない小さな島だ。
 白浜のビーチは綺麗だぞ。
 島の中央には、標高200mくらいの小さな山がある。麓には小さな湖があって、それを覆うように森が広がっている。湖から海に向かって川も流れている」
 遠野は説明をしながら携帯を取り出し、どこかへ電話をかける。
「ちょっと、私の話を聞いてます? って、どこに電話してるんですか?」
 待てという手振りを見せる遠野。電話の相手が出たらしい。
「どうも、遠野です。いつもお世話になっております。今年も入島の許可を頂きたく、はい、はい――」
 電話中、大人しく待っている高峰。
「――で、今年なんですが、サバイバル研修のためにうちの生徒を連れて行きたいのですが、はい、そうですね……50人前後ですかねぇ――」
「!?」
 高峰は遠野の口から出た人数を聞いてぎょっとした。
 この筋肉は、自分が企画する無茶振り研修に50人も集まると本気で思っているのだろうか。
「――そうですか。ありがとうございます。では、日時は後日改めて連絡差し上げます。では、失礼します」
 電話を切った遠野は満足気な表情を浮かべている。
「入島と島内滞在を許可してくれるそうだ」
「私、まだ行くって行ってませんよね? っていうか、許可が必要なんですか?」
「無人島のほとんどは所有者がいる。所有者に断りもなく入島すれば不法侵入だ。また、そういう場所に宿泊する場合、無人島ゆえに何か起きた場合の対処が出来ないために宿泊までは拒否されるケースがほとんどなのだがな、そこは撃退士。訓練という名目があればこの通りさ」
「へぇ〜」
 高峰は感心しながら遠野の話を聞いた。
「ということで、参加者を集めるのはお前に任せたぞ。高峰」
 ばんと肩を叩かれ、我にかえる。
「いや、ちょっ」
「島までは泳いで渡る。
 なぁに、ほんの2kmほどだ。問題ない
 テントや携帯食料の持ち込みは禁止だ。寝床も食料も全て現地で調達」
「いやいやいや、無理無理、無理だってば」
「もちろん、酸素ボンベなどという軟弱なもんは却下だ。男なら身一つでこい」
「私、女ですけどー」
「詳しい内容をまとめておくから、あとで俺のところまで取りにこい」
「聞いて、お願いだから聞いて!」
「じゃあ、またあとでな!」
 しゅたと手を挙げそう言うと、遠野は懇願する高峰を残し豪快な笑い声をあげながら去っていった。
「…………」
 呆然と立ち尽くす高峰の足元では、地面に落ちて解けたアイスに蟻が集まっている。
 うだるような日差しの昼下がりである。
 蝉の声が虚しく響きわたっていた。


リプレイ本文


「ちょっと……なんでこんなに集まってるの……!?」
 高峰が鼻水をたらしたアホ面をさらすほど唖然とするのも無理はない。
 ツアー主催者の名前をみれば、これが罠だらけのイベントだと勘の良い生徒なら判断がつくだろうと高を括っていたからだ。
 とはいえ、彼女も一人でも多くの道連れを作ろうと、タイトルにあった『孤島』の『孤』の字を黒く塗りつぶしたのだから、自業自得と言えなくもない。
「アトリねえさん、海だぜ、海! 楽しみだな」
 波打つ浜辺を指差してはしゃいでいるのはギィネシアヌ(ja5565)だ。
「……今年はじめての海ですのー」
 橋場 アトリアーナ(ja1403)抑揚のない淡々とした口調でかえした。
 態度こそ普段と変わらないが、目の前に広がる白浜にテンションは急上昇している。
 一緒に参加した義妹のギィネシアヌととことん遊びたおすつもりだ。
 そして、テンションMAXの少女がもう一人。
「夏でござる! 海でござる! 真っ白な砂浜でござるー!」
 悪魔っ娘のエイネ アクライア (jb6014)だ。
「拙者、人間界の海は初めてでござる!」
 サラシと褌姿で両手の拳を握り締め、くぅっと全身で喜びを表現した。
「……くっ」
 豊満な胸をもつ女子たちの水着姿を見て奥歯を噛み締めている、学園指定水着姿の少女がひとり。
 エルレーン・バルハザード(ja0889)だ。
 視線を足元に向けると、胸という障害物がないので容易に自分の全身を余すとこ無く見渡せる。
「いいきになるなよっ……いつか、ひきちぎってやる、のっ」
 地団駄を踏む背後からヌッと現れた青色の掌が、物騒な台詞を吐いているエルレーンの胸を鷲掴む。
「にゃぁあ!?」
「Aカップだぉ」
 アルファベットを一言つぶやいて去っていったのは秋桜(jb4208)だった。
「なっ!?」
 そんな事は他人に言われるまでもなく、エルレーン自身が一番よく分かっている。
 目を白黒させて見送るエルレーン。秋桜は向かう先々同様のことを繰りかえし、そのたびに女子たちの声にならない悲鳴が上がった。
 そんな中、自分たちが置かれた状況を冷静に分析する者もいた。
「参加してから気付きましたけど、引率って遠野先生なんですね……。という事は、前の温泉みたいにサバイバルになるのでしょうか?」
 久遠寺 渚(jb0685)は不安げにつぶやく。
「遠野先生? それ絶対サバイバルだろ」と礼野 智美(ja3600)
 しかし、皆が連れてこられたのは、普通の海岸だ。
 周囲には民家もあるし、宿泊施設もある。
 キャンプ場というより、海水浴場といったほうが正しいだろう。
「はい、ちゅうもーく!」
 ぱんぱんと手を叩きながら遠野が叫んだ。
 腹の底に響くその声に、浮かれてざわめいていた生徒たちが一気に静まる。
「まず、ツアー開催に先立ち、持ち物検査を行う。持ち込みを許可するのは、俺が用意したサバイバルナイフ1本のみ! それ以外の携帯品は魔具にいたるまで全て没収する」
 遠野はそう言うと、生徒の持ち物をひとりずつチェックしはじめた。
「道具の持ち込み禁止とか、徹底してるわよね……」
 フローラ・シュトリエ(jb1440)は渋々ではあるが素直に差しだす。
「無料に惹かれてきたけど、大変なものに参加してしまったような気が……」
 魔具や携帯品を取り出しながら、藤白 あやめ(jb5948)はタダより高いものはないという言葉の意味を噛みしめた。
「島でキャンプなんて、サバイバルっぽくていいよねっ!」
 期待に胸を膨らませ、八角 日和(ja4931)は声を弾ませる。
 まだ状況が飲み込めていないのだろう。
 その横で楊 玲花(ja0249)はぽそりとつぶやく。
「……無人島でのサバイバルというのも割り切ってしまえば楽しいかもしれませんね。皆さんと協力して少しでも快適に過ごしたいですね」
「……え? ホントにそうなの?」
 やっと状況が理解できた八角だった。
「ふぇ……せ、せんせいのばかー!」
 涙目になって叫ぶのはエリーゼ・エインフェリア(jb3364)だ。
「パンプに書いてあっただろ? 何も用意するものはないって」
 遠野は顔色ひとつ変えず、彼女が用意した携帯品を次々と没収していく。
「水着くらいは持っていくのを許してください先生……!」
「ハッハッハ、流石にそこまでは没収せんよ」
 涙ながらに訴えるエリーゼの頭をがしがしと撫でる遠野。
「さて……」
 生徒たちのアイテムをあらかた没収し終わった遠野は、海を背に生徒たちのほうへと向きなおり、対岸に見える小さな島をびしっと指差した。
「これからあそこまで泳いで渡る」
 一瞬の静寂。
 向こう岸までは1km以上あるのではないだろうか。
「……あれ? 遠泳?」
 黒須 洸太(ja2475)が最初に想像していた内容とどんどんかけ離れていく。
「二次元ヲタの引きこもり的な私には、ハードル高杉ワロタ」
「ま、案内表見た時から胡散臭さ満点だったけどナー」
 焦る秋桜の肩にポンと手をおき、カレン・ラグネリア(jb3482)はいった。
「黒須氏、おんぶplz」
「えっ!?」
 すがる秋桜。動揺する黒須。
「ひきこもりで自活能力のないだめだめな秋桜ちゃんが海の藻屑になる前に、私が背負って運んであげるよ」
 恵夢・S・インファネス(ja8446)は、日ごろの弄りの仕返しに皮肉をたっぷり込める。
「神キタ、これで勝つるぉ!」
 それでも秋桜には救いの神にしか見えなかった。
「島に渡るまではそれぞれ努力、ですか。島でも大変なので、ゆっくりでも体力温存できる泳ぎ方でいきましょう」
 久遠 冴弥(jb0754)は対岸の島を眺める。
 自然豊かなその島は、どこからどうみても無人島だ。そんな場所でサバイバルナイフ1本で1日過ごさなければならないと思うと気が遠くなる。
「ふむ……ツアーというよりサバイバルだなこれは」
「内容は素人にはきついかも知れないが……言う程大した事ではないな」
 天風 静流(ja0373)とアレクシア・V・アイゼンブルク(jb0913)は口々にいった。
「む、むむむ無理ですって! 別の意味で逝っちゃいますって!」
 そう慌てているのはソフィア・ジョーカー(jb6021)。
「大丈夫ですよ、ソフィアさん。僕がサポートするから」
 その隣でエイルズレトラ マステリオ(ja2224)が励ます。
 ソフィアは彼の知り合いの妹であるということもあり、ふたりは行動を共にするようだ。
「高峰さんと遊びに行くつもりが、どうしてこうなったの……」
 呆然と立ち尽くす者がもう一人。神埼 律(ja8118)だ。
「ごめん……ホントごめん……」
 その横で高峰が平謝り。ツアーの内容を最初から熟知していたのは、主催者である遠野と、無理やり実行委員をやらされている高峰だけだ。
 みんなを騙しておびき寄せたようで、いたたまれない気持ちなっている高峰だった。
「まぁその何だ。高峰も苦労しているな……」
 リョウ(ja0563)は高峰に声をかける。
「団長……ありが……って、絶対同情してませんよね、その目は!」
 しれっと明後日の方を眺めているリョウ。
 同情する気などさらさら無かった。
 遠野は説明を続ける。
「島に着いたら明日の朝まで自由だ。集合は上陸地点になるビーチ。それまでそれぞれ工夫をこらして過ごしてみろ!」
 そう叫ぶと、全員に遠泳のGOサインを出した。
「何かまた騙されたような気がするのです……」
 不安げにつぶやく御手洗 紘人(ja2549)だが、そんな事で怯んでいる場合ではない。
 彼には大きな目的があった。
「と……遠野先生……僕泳げないので泳ぎ方を教えて貰いたいのです……」
 意を決して想いを口にする。
 遠泳こそがカンヅチの彼にとって最初で最大の難関だった。
「よし、俺に任せておけ!」
 言って豪快に笑う遠野。
 腰くらいの深さの場所まで御手洗を連れて行き、手取り足取り泳ぎの手ほどきを始めた。


「よーっし! 海だー!」
「わふー! 海で御座る! 島で御座る! 無人島で御座るー!」
「島には泳いで渡るんだ? 泳ぎは得意だから大丈夫!」
「田舎育ちな自分にはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないで御座るな! 野生の血が騒ぐで御座るぞ! わうー!」
 緋野 慎(ja8541)と静馬 源一(jb2368)は交互に叫ぶ。
「ふたりともー、あまりはしゃいじゃ危ないですよー」
 まるで互いにじゃれあう子犬のように海へ駆け入って行くふたりに優しく声をかけた。
 手にはビニールに入れられた3人分の着替えやタオル。その姿は、まるで彼らの母親のようだ。
「さーて、ひと泳ぎするのでござーっ!?」
 意気揚々と入水するエイネの足を波が絡めとり転倒。
「久々の海とはいえ、ふ、不覚だったのでござる」
 よろよろと起き上がり、海水まみれの顔を手で拭う。
「気を取り直――」
 そして、振り向きざまに高波にさらわれ浜へと打ち上げられた。
 ――これは男らしくなるチャンス! 帰る頃には、きっと野性味あふれるいけめんと化した俺がいるに違いない!
 高峰の後をついて歩く姫路 ほむら(ja5415)は、内心でそんなことを考えていた。
 高峰と一緒に移動しているのは、彼のほかにリョウと神埼。
 4人は御手洗にが泳ぎのレクチャーをしてもらっている付近まで歩いてきていた。
「ふむ……浅いのはここまでのようだな」
 立ち止まるリョウ。
 島まではまだ1kmはありそうだ。
「うわぁ、まだ遠いなぁ……」
 うんざり口調で高峰。
「どんな時も! くじけずに! 前を見て! 己との戦いに! 打勝ってみせる! さぁ、姉さんも頑張って!!」
「ほ、ほむほむが熱い……」
 いつになく熱い姫路にたじろぐ高峰。
「泳ぎが苦手な者もいるだろう。俺はそういう人のフォローの為に水上歩行で行くぞ」
 もちろん、それは口実に過ぎない。
「私も遠泳なんて真っ平ごめんなの」
 リョウと神埼はアウルを解放し、水面に立ち上がった。
 いっぽう、御手洗の水泳特訓は続く。
「体の力を抜け。俺が手を掴んでてやるから、バタ足しながら水面に顔を上げて息継ぎする練習だ」
「はいっ」
 御手洗は必死だ。
 島まで渡れなければぼっちサバイバル確定なのだから。
「御手洗くん、がんばってー!」
 高峰がふたりに近づき御手洗を励ます。
「がんばりま……ごぼごぼ」
 律儀に返事をしようとして、若干水を飲んでしまう。
「泳ぎながら喋ると溺れるぞ!」
 檄を飛ばす遠野。
 ――遠野先生に教えて貰うんだから……頑張って泳げるようにならないとなのです……。
 心の中で自らを奮い立たせようとする御手洗。
 その時、遠野の目の前を水上歩行で颯爽と通り過ぎるリョウと神埼の姿が目に入った。
「む!? スキルの使用は禁止だ!」
「えっ!?」
「わっ、ちょっ!?」
 遠野は泳ぎの練習でたまたま手を握っていた御手洗と、手近にいた高峰を左右の腕にかかげ、そのまま全力でぶん投げた。
 悲鳴を上げながら何度も水面を跳ね飛ぶふたり。
 それは例えるなら魚雷……いや、巡行ミサイルに近いかもしれない。
 ――僕、飛び魚になってる……。飛び魚のように泳ぶくぶくごぼ……。
 水切りのように水面を2、3度跳ねたあと、水を切り裂きながら徐々に沈み、水面を疾走するリョウの足元に命中。
 高峰のほうも神埼を見事撃沈せしめていた。
「えぇー、水上歩行つかったらだめなのー!?」
 声を上げたのはエルレーンだ。普段使えないスキルだからこそ、ここぞとばかりに使う気満々だったのだが、それを使ったふたりの顛末を目撃して意気消沈。
 がっくりと肩を落とし、大人しく泳ぎ始めるエルレーンだった。

 生徒たちは次々と島へ上陸している。
 ほとんど人が立ち入ることのない無人島の砂浜は、向こう岸の砂浜より幾倍も美しかった。
 所々に生えた椰子の木が南国感をひきたてている。
 砂浜の奥行きは50mくらいだろうか。そこから先は木々が茂る森になっていて、島の中央には山――というよりは小高い丘――になっている。
「確かに常夏の島ではありますけど……孤島でサバイバルとは思いもしませんでしたよ」
 フレデリカ・V・ベルゲンハルト(jb2877)は、海から上がって開口一番そう言った。
「ふっふっふ……」
 不敵な笑みを浮かべながら海から上がってきたのは下妻ユーカリ(ja0593)だ。
「森ガールや山ガールはもう古いよね。時代はやっぱり島ガール!」
 夏本番を前にして女子力アップをはかるためツアーに参加した彼女は、はりきり方が他の生徒とは一線を画していた。
「モテる女は自然体……すなわち大自然と一体化した身体だってことだよ!」
 方向性が間違っているというか、思考パターンがどこか遠野と似ている気がするが、本人は気付いているのだろうか。
 ここまでの遠泳で既に海と一体化した下妻は、意気揚々と森の中へ分け入っていった。
 島に上陸し、周囲を見渡した倉敷 織枝(jb3583)は、軽いため息をついた。
 自然は豊富だが、それ以外は何もない。
 食料や寝床の確保から始めなければならないことは明白だった。
「羽根を伸ばせる機会かと思ったけど……これはこれで鍛錬の機会にありつけたと思う事にしましょう」
 とはいえ、このまま遠野の思惑どおりになるのも癪なので、観光がてらここの自然環境と地形を把握するため島内を散策することにした。
「こんな楽しげなイベントを逃すわけには行かないのだわ! 白浜ビーチの無人島に集まる男女。その中には必ず粛清対象(読み:こいびとたち)が混ざっているに違いないのだわ!」
 なにやら物騒なことを口にしているのは天道 花梨(ja4264)。
 ほんわかした可愛らしいに騙されるなかれ、彼女こそ恋人たちの宿敵、しっと団の二代目総帥その人である。
「まずは、この島にしっと団の前線基地を作ってやるのだわ!」
 天道は基地建設に適した場所を探すべく、島の散策を開始した。
「おぉ、野生があたしを呼んでいる……っ!!」
 歌音 テンペスト(jb5186)は、己の内側から沸き上がってくる野生の力を抑えきれず、主室に水着を脱ぎ捨てると同時に、どこからともなく取り出した3枚のイチジクの葉を身体にあてる。
「か、歌音さん!?」
「ガオーーン!」
 そして、炎武 瑠美(jb4684)が静止する間もなく森の中へと消えていった。
「今の……炎武先輩のご友人ですか?」
「はい……」
 頷き振りかえる炎武。
「……黒井さんは、こういう場所でも制服なんですね」
 水着の上から制服を着込んでいる黒井を見て、思わず苦笑を浮かべた。
「学生ですから」
 黒井は眼鏡をなおし、キリリと自信たっぷりに言いきった。
 蒼桐 遼布(jb2501)は流木に腰掛け、息を整えながら自分が置かれている状況の整理をした。
「完全サバイバルってまじかよ」
 だが、どれだけ考えても辿り着く結論はそれだった。
「まぁ、後悔しても遅いし、こうなりゃ楽しんだ者勝ちだな」
 そして、気持ちをポジティブに切り替え、この状況を最大限に楽しむことにした。
 やれやれといった具合に頭を掻いているのは、榊 十朗太(ja0984)だ。
「まあ、美人も多く参加しているみたいだし、少なくとも目の保養くらいにはなるだろう」
 つぶやきながら、海パンの中からライターを取りだした。
 遠野が持ち物検査を始めたとき、咄嗟に隠したのだ。
「流石に野郎のパンツの中までは確認しなかったな」
 ニヤリと笑いながらドラムをまわし、
「…………」
 がっくりとうな垂れた。
 持ちこみに成功したライターは、フリントが完全に湿気ていて着火しなくなっていた。
 島に着くなり全力で楽しんでいる者もいる。
 アリシュレッテ クレイズ(jb6305)だ。
 ここがどんな島で、どんな果物があって、どんな環境なのかワクワクしっぱなしだ。
「ボクは果物が好きだから、まずは果物だ♪ 現地調達、地産地消!」
 そして、上機嫌のまま島内探検を開始した。
 ここにも同じようなことを言っている者がいた。
「南国といえばフルーツ!」
 ここまで泳いできて、瀧 あゆむ(ja3551)の腹は空腹を訴えはじめていた。
 この遠泳も空腹にさせて美味しいものを沢山食べられるようにするためと好意的に受け止めている。
「南国だかフルーツだかわからないけど狩りなら得意! 人狩りの異名はだてじゃないよー!」
 さりげなく物騒な異名を口にする鴉女 絢(jb2708)。
 人は狩らないでください。
「フルーツも南国も狩ってあげるよ!」
 島を丸ごと狩り尽くしそうな勢いである。
「美味しいものたーっくさん食べたいもんね!」
 瀧は合いの手を打つ。
 微妙に話しがかみ合ってない気がするのは気のせいか。
 ふたりに遅れて、全身から疲労を滲み出した足取りの群雀 志乃(jb4646)がやってきた。
 3人は向こう岸にいるときに南国フルーツの話題で意気投合していた。
「海でキャンプって……大変なのね……」
 群雀はふぅと息をついた。
 そもそも海のキャンプに遠泳なんてありません。
 そんな群雀の手を瀧がとった。
「よーし、がんばろー♪」
 楽しそうに手を引く瀧。
 反対の手を鴉女がとる。
 元気なふたりの姿に感心し、群雀は優しげな笑みを浮かべた。
 そしてふたりに両手をひかれ、森の中へと入っていった。
 ツアーに参加した生徒たちはあらかた上陸を済ませたようだ。
「おー、旅人やってた頃を思い出すのだー」
 島の美しさを目の当たりにして、フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)は感嘆の声をあげた。
 上陸が遅くなったのは、荷物が濡れないように頭に括りつけ、古式泳法で遠泳していた恋人の凪澤 小紅(ja0266)に合わせて泳いだからだ。
「ボクはrestできそうな場所を探してくる。コベニは少し休んでてっ!」
「それならば――」
 凪澤は必要になると思われる資材のリストを口頭で伝えた。
「OK。任せておくのだ!」
 大張り切りのフラッペ。
 このまま魚を獲りにいっても良いのだが、せっかく恋人が気をつかってくれているのだから大人しく待っていることにする。
 ただ待っているのも手持ち無沙汰なので、凪澤は蔓草を使ってハンモックを編みながら待つことにした。


 最初はバラバラに行動していた生徒たちだったが、次第に同じ目的を持ついくつかの作業グループ分かれていった。
「訓練みたいなものかな? まー経験、経験」
 稲葉 奈津(jb5860)はそう言いながら、輪に入ろうとせず淡々とキノコなどの食料調達作業を行っていた。
「いーかい? なっちゃん、こういう時は、フレンドリーに自分から交ざりに行くんだよ?」
 先輩撃退士として稲葉と行動を共にしている藤井 雪彦(jb4731)は、輪に入らないのではなく入れないのだと感じ取り、ここぞとばかりに助言した。
「んっ? 雪、何か言った?」
 だが、採集の集中している稲葉は、その言葉を聞き流してしまう。
 彼女は彼女で、なるべく人の手を借りなくても済むよう、山菜などの知識を暗記してきている。
 ――仲間との絆の作り方を教えてあげなくちゃな。
 そう心に誓う藤井だった。
「生存訓練とて楽しまねばですね」
 織宮 歌乃(jb5789)は、同行者の浅上 響(jb6278)に優しく語りかけた。
 スタイルの良い女性たちに見とれていた浅上は、ハッと我にかえる。
「まずは水と果物とかの食料の確保かな。水がないと死んじゃうし」
「そうですね。まずは綺麗な水を探しにいきましょうか」
 無人島とはいえ、それなりの広さがある島だ。水源くらいはあるだろう。
 ふたりは水を確保するべく島の探索を開始した。
 鳳月 威織(ja0339)は上陸して早々、真っ直ぐな枝を確保し、その先に蔓でサバイバルナイフを括りつけて銛を自作し、再び海へ戻った。
 蛸や貝などを獲るつもりのようだ。
 山科 珠洲(jb6166)もまた、この環境に即順応し、野椰子や野生のバナナの葉を加工しては浜辺に集める作業を繰りかえした。
 寝床製作のための資材にするためだ。
「もー、しっかりしてよ。みんなご飯取りにいったりしてるんだからー」
 ぐったりしている秋桜をつんつん突いて遊ぶ恵夢。
 フレデリカとカレンは、とっくに魚獲りに出かけてしまっている。
 秋桜は普段の引きこもり生活が祟って、完全にダウンしているようだ。
「もう少し休ませててやれよ」
 声をかけたのは獅堂 武(jb0906)。
 資材を集めて更衣室を作っている。
 ――まったく、女の子に誘われて来たのに無人島でサバイバルとか……。
 最初は泣きたいくらいにガッカリもしたが、頼りにされてるんだろうから頑張ろうと己を奮い立たせる獅堂であった。
「これを乗り越えて男らしくなるんだ……」
 そう意気込んで木々や草むらに目をこらしているのは水無月 ヒロ(jb5185)だ。
 ちなみに服装は女子用体操服だったりする。
 サバイバルの本で事前学習はしっかりしてある。
 問題なのは、それレンジャー部隊向けの本だったという程度のことだろう。

 不意に浜辺が騒然としはじめる。
 遠野に魚雷として撃ち出された御手洗と高峰が、遠野とリョウによって引き上げられたのだ。
 ちなみに御手洗は遠野にお姫様抱っこされている。
「御手洗、しっかりしろ!」
 浜辺に下ろし、肩をゆさぶる遠野。
 ジト目で遠野を眺めつつ、リョウも高峰をおろした。
「真奈姉さん、目を開けて!」
「こういう時は、人口呼吸なの……」
 神埼は、目をまわす真奈に縋っている姫路の後でぼそりとつぶやく。
「そうか、そうだな!」
 反応を見せたのは遠野だった。
「舌なめずりしないでください」
 さり気ない遠野の仕草を見て、リョウは思わずツッコミを入れる。
「高峰さんの唇が奪われる危機なの……」
「先生、待ってください!!」
 冷静に分析する神埼。慌てて止めようとする姫路。
「こうなったのは俺の責任だ」
 遠野は意を決するように唾を飲み込み、勢いをつけて御手洗の口元に自分の口を覆いかぶせ、一気に呼気を吹きこんだ。
「そっちか!」
 再びリョウ。もはやツッコミは条件反射だ。
 何度か繰りかえすうち、御手洗は海水を吐き出し意識を取り戻した。
「先……生?」
「気がついたか御手洗。もう大丈夫だぞ」
 感動的なシーンのはずなのに、一部始終を見物していた生徒たちの表情が微妙なのは何故だろう。
 後に「まるで御手洗が先生に食われているようだった」と証言する生徒がいたとかいなかったとか……。
「高峰さんのほうはどうするの……?」
 ぐるぐると目を回している高峰を見下ろし神埼。
「俺が気付け薬を作っ――」
 姫路が言いかけた瞬間、高峰がカッと目を見開き、がばっと起き上がった。
「自力で復活したか」
「いや、今目覚めないと、永遠に目覚められない気がして……」
 クラクラする頭を抱え、リョウにそう答える高峰だった。


 島内を探索していた瀧は、偶然にもスイカが生えているのを見つけた。
「スイカ割りー!」
 瀧が指差し声をあげる。
「スイカ割り? ふふり、ついに私の本気を見せるときが来たかな」
 鴉女は適当な棒を拾い上げ、きりりと表情を引き締めた。
 近くに朽ちた家屋があるところをみると、今は無人島だが昔は人が住んでいた時代もあったのだろう。
「スイカ覚悟ー!」
 振り下ろされた棒を白刃取りする瀧。
「邪魔してやるー! スイカはあたしのものだもん!」
 瀧は鴉女に泥をかけ、スイカを持って逃走。
「あっ、独り占めなんて……! 私もスイカ食べたいー!」
 そしてスイカを廻って泥のかけ合いが始まった。
「スイカ割りってこうでしたっけ……?」
 その様子を見て、群雀はかくりと首を傾げる。
 そして、群雀はふたりの意識が泥かけ合戦に向いている隙にスイカを掠め取った。
「ふふふ、油断大敵ぶっ」
 群雀の顔に泥があたる。
 スイカは再び瀧の腕の中。
 結局、スイカ割り(?)は3人が全身泥だらけになるまで続いた。
 木の枝から逆さにぶら下がっているのは下妻。
 そのままの状態でさきほど採集した野生のバナナを食べている。
 木とひとつになるを達成。
 久遠寺はとぼとぼと島の中を散策していた。
 せめて屋根のある場所で眠りたいと、資材になりそうなものを探している。
 準備しておいたキャンプグッズはレジャーシートにいたるまで没収された。
 ――ロープの変わりになる蔦はありますし……。
 キョロキョロと辺りをうかがいながら歩いていると、野兎が視界に飛び込んできた。
「うっ、うさぎさんですっ!」
 思わぬ獲物の登場に昂る気持ちを抑え、仕留めるために弓を取り出そうとして没収されていることを思いだす。
「うっ、うさぎさんが逃げちゃいますっ!」
 慌てて追いかける久遠寺。
 兎は文字通り脱兎の如く逃げだした。
「まっ、まってうさぎさんっ!」
 兎と久遠寺の追いかけっこが始まった。
 生徒たちが素潜りで魚介を取ったり、宿営地を設営したりするなか、呆然と立ち尽くす者がひとり。
「あれ、私は普通に南国を楽しみにきたはず……なんですがこの状況は……」
 浮輪を取りあげられ、日焼け止めも没収され、空を飛んで海を渡ることも許されず、やっとの思いで島に辿り着いたらこの光景である。
 当初、頭の中で思い描いていた光景とは明らかに違う。
 それでも逞しく遊びにはしっている生徒もいるようだが……。
 エリーゼはため息をひとつ吐くと、気持ちを切り替えて飲料水を確保すべく散策を開始した。
 礼野は草を刈っては浜辺に運ぶという作業を繰りかえしている。
「これくらいで良いか」
 そう呟いて、じりじりと照りつける太陽を見上げた。
 草を干し、寝具として使うつもりなのだ。
 夜までに干草になっていることを期待しつつ、次の作業にとりかかった。
 エルレーンは岩場に石を積み重ねて囲いを作り、簡単な追い込み漁を試みていた。
 なかなか上手くはいかないが、これはこれで楽しい。
「……でも、しょうじき……骨が多いから、おさかなきらぁい」
 何気に好き嫌いが多いエルレーン。それが胸のサイズに影響したのかもしれない。
 沖のほうで水柱が噴き上がった。
「獲ったでござるー!」
 巨大魚片手に叫ぶエイネ。
「うむ、良い勝負でござった」
 巨大魚との死闘をふりかえる。
「来世ではもっと早くなるのでござるよ!」
 そう言うと、一抱えはあろうかという魚を抱え、意気揚々と浜辺へ戻っていった。
 藤白は木陰に腰を下ろし、他の生徒たちを眺めながら身体を休めていた。
 特に知り合いがいるでもなし、ただ無心になってのんびり過ごそうと決めたのだ。
「どうした、疲れたか?」
 そんな彼女に声をかけてきたのは遠野だった。
「あ、はい。ちょっとだけ」
 適当に流そうとする藤白の前で、遠野は棘だらけの黒い物体を素手で割る。
「食え。美味いぞ?」
 片割れを差しだす遠野。
「え……?」
 藤白は戸惑いながら渡されたそれと遠野を交互に見やった。
 遠野は黒い物体の中身を指ですくって食べている。
 黒い物体の正体はウニだった。
 藤白の遠野を真似て指で救って食べてみた。
「おい……しい……」
 身には弾力があり、海水の塩気で程よく味付けされたそれは、今まで食べたウニの中で一番美味しかった。
「はっはっは、そうだろう、そうだろう。しっかり楽しんで帰るんだぞ!」
 藤白の頭を豪快に撫でると、遠野は別の生徒のもとへと去っていった。

 島の中央にそびえる山の麓には湧泉があり、そこから海に向かって小川がはしっていた。
 泉の周囲にはメダケが生い茂っている。
 水を確保するためにこの場所へと訪れた生徒は何名かいたが、だれも水筒になるようなものは持ち合わせていない。(というより没収されている)
 竹の筒を水筒代わりにという方法も考えたが、メダケは細すぎて適さない。
「うーん、困りましたね……」
 織宮は頭をひねったが、これといって良い案が浮かばない。
 そこへ楊がやってきて、遠泳のときに着替えを入れていたビニールで水を汲みはじめた。
「これだよっ!」
 浅上は声を弾ませた。
 着替えをビニールに入れてきている生徒は、ほかにも何名かいたはずだ。
 ふたりは他の生徒からビニールを借り集めることにした。
 エイルズレトラはソフィアを連れて島の散策をしていた。
 すこし息切れしているソフィアの手をとり、足場の悪い森の中をエスコートしている。
「自給自足、現代では滅多にできない貴重な体験ですね」
「そう……ですね」
 息があがって途切れ途切れで返事をするソフィア。
 遠泳で体力をほとんど使い切ってしまっていたのだが、自らを鍛えるために頑張っている。
「まあ、度々したい経験でもありませんが」
 エイルズレトラは苦笑いを浮かべた。
「ホントですね」
 ソフィアはクスリと笑って答える。
 この何気ない会話のおかげで、少しだけ疲れを忘れることが出来た気がした。
 浜辺には、続々と食料が集まっていた。
「ふむ、私の勝ちだな」と獲れた魚を並べて天風。
「いや、私だって負けていないぞ」
 野草の数々を自慢げに見せてアレクシア。
「ところで勝ち負けの基準は何ですか?」
 果物を抱えた久遠が冷静にいった。
 獲物の量なのか重さなのか、そもそも3人それぞれ獲物の種類が違うのだから勝敗も決められないだろう。
「……思ったがやっている事、女三人揃って色気の何も無いな」
 ふと冷静になったアレクシアは、見も蓋もないことを口にした。
「気持ちよかったぜー!」
 獲った魚をかかえ、豪快な足取りで浜に上がってきたのはギィネシアヌだった。
「ネア、頑張りましたの。次は火起こしで競争ですの」
 手には板状の木片と木の棒。
「ぜってぇ負けねぇぜ!」
 ふたりはその場に座り込み、木片に乾燥した草を乗せ、勢い良く棒を回しはじめる。
「勝負……するからには全力ですのー!」
 物凄い勢いで回しはじめる橋場。
 棒の先端から細い煙が立ち始め、
「あと一息ですのーっ! あっ」
 棒が貫通し、木片が砕けた。
 その横でちりちりと草が燻り始めるギィネシアヌ。
 火起こし競争はギィネシアヌに軍配があがった。
「とりあえず、食と住はどうにかなりそうね」
 島に着いてから、食料やら寝床やらの確保に汗を流していたフローラは、火を起こしはじめた生徒たちを見てつぶやいた。
「やることは済んだし、後はのんびりさせてもらおうかしら」
 砂浜に腰を下ろし、休憩モードに入るフローラだった。
「そっちはどんな感じだー?」
 魚獲りから戻ってきたカレンは、火種を作ろうと悪戦苦闘している黒須に声をかけた。
「私も手伝いましょう」
 その横にフレデリカが座る。
 恵夢は物珍しそうに覗き込んできた。
「や、止めてよね、前かがみは格好悪いから」
 恵夢から視線を逸らした黒須の顔は赤い。
「あまり刺激すると、黒須氏が前かがみになるぉ?」
 茶化す秋桜。
「なんだよ。もしかして照れてんのか?」
 獅堂は容赦ないツッコミ。
「いっそ止めを刺して……」
 年下にまでからかわれ、涙を流す黒須だった。
 ヒキリ棒を必死に錐揉みしている黒井のもとに炎武がやってきた。
「竈を作ってみようと思うんですが、どうやれば良いか分かりますか?」
「竈ですか?」
 黒井は手を休めて向きなおる。
「石を集めてコの字型にすればいいと思うのですが」
 黒井も聞きかじった程度の知識でしかなかった。
「そうですね。僕も手伝いましょう」
「ありがとございます」
 黒井と炎武は、竈を作るために石を拾い集めはじめた。
「みんなもきっと美味しいって喜ぶはず。ヘヘッ、いい島じゃないか!」
 ロングスカートの裾を広げて持ち、そこにいっぱいのフルーツを包んでアリシュレッテは満足そうにつぶやいた。
 堕天して間もない彼女には、まだ知り合いがほとんどいない。
 これをきっかけにいろんな人と仲良くなりたいと願うアリシュレッテだった。
 八角は綺麗な貝殻でも落ちてないかと足元に視線を落としながら、のんびりと浜辺の散策をしていた。
「……あ、ゴミが。拾っとこ」
 そう言うと、対岸から流れ着いたと思われる空き缶を拾い上げた。

「それが食えるということを良く知ってたな」
 山科がノヤシの新芽に手を伸ばしたとき、遠野が感心したように声をかけてきた。
「だが、それはそっとしておいてやろう」
 言われたとおり手を引く山科。遠野の顔をじっと見つめ、目で理由を問う。
「ノヤシは絶滅危惧種に指定されているんだ」
「そういうことでしたら」
「それよりも、そろそろ飯の準備が整ってきてるぞ。お前も浜へ戻れ」
「はい」
 山科は微笑みを返し、遠野の言葉に従った。
「あーこの果物は食べられるし、皆に持っていくと助かるんだよ♪」
 稲葉に色々とレクチャーをする藤井。気がつくと彼女を連れまわして人と絡む時間を与えられてないことに気付く。
 稲葉自身は、全く気にしていないのだが。
「そろそろ、戻ろうか」
「そうね」
 ふたりは浜へ引き返すことにした。
 秘密基地作りに没頭していた天道は、辺りが暗くなり始めていることに気付いた。
「はっ、私としたことが基地建設に集中しすぎてしっと団の活動を忘れていたのだわっ!」
 しっと団のアジトといえば、罠の数々。
 大抵はしっ闘士や天道が自爆するためにあるようなものなのだが、凝り始めたらキリがない。しかも、今日は天道がひとりで作っている。
「ぬぐぐっ、ここはひとまず腹ごしらえなのだわっ!」
 果たしてひと組でも粛清することは出来るのだろうか。

「やってみたいことがあるの」
 神埼はあらたまった口調で高峰に話しかけた。
「ん? なに?」
 神埼の手には木の実を砕いたものを捏ねたと思われるもの。
「縄文クッキー……」
「俺も真奈姉さんのお菓子作り見てみたいな!」
 瞳を輝かせて姫路。
「クッキーかぁ、卵無いけど大丈夫かなぁ」
 そんな会話をしていると、無垢な笑顔を浮かべた水無月がやってくる。
「おひとつどうぞ!」
「何だろう。ヒロくん、ありが……」
 そのまま表情が固まる高峰。
 水無月の手には、芋虫や蜘蛛を焼いたゲテモノの数々。
「高峰さん、ファイト……なの」
 神埼はエールを送りながら距離をとっていく。
 高峰は震える指でこんがり焼けた蜘蛛をつまみあげる。
「なにもいきなりそこにチャレンジしなくても……っ!」
 慌てて止めようとする姫路。
 高峰は意を決して口に放りこみ、
「はうっ」
 口から蜘蛛の足を出したまま卒倒した。
 そんなハプニングはあったが、生徒たちはそれぞれ食事を楽しんだ。


 食事のあとは温泉に浸かる者、散策に出かける者、そのまま眠る者に分かれた。
「みんなで温泉ー!」
「お湯の掛け合いっこ!」
 元気一杯の鴉女と瀧。
「入る前に綺麗にしないとね」
 群雀はふたりについたままの泥を拭ってやり、それから温泉に向かった。
「……こういう楽しみがあると、参加した甲斐が少しはありますね」
 楊は湯に浸かりながら1日の疲れと汗をとる。
 この時間は女子しか居ないようで、天道など水着すら着けていない。
「覗きを殲滅すればすむことなのだわ!」
 既にウニの殻を撒菱代わりに散布済みである。

 浜辺に並ぶふたつの陰。
「孤島だけあって、空気が綺麗なのかな。星がめっちゃよく見えるよ」
 藤井は優しく語りかける。
「綺麗だね……」
 稲葉は空を見上げた。
「なっちゃんは、もっと人に頼ってもいいと思うんだぁ……」
「!?」
 キッと藤井を睨む稲葉。
「……雪には頼ってるよ? ……この、おせっかい!」
 藤井に背を向け、その場でゴロンと横になる。
「枕」
 そして、背中越しに藤井の腕を引っ張る。
「お、お言葉に甘えてだからね? か、勘違いすんなよっ!」
 稲葉は顔を紅潮させながら藤井の腕を枕にした。
 夜の海を泳ぎながら歌う人影があった。
 織宮である。
「きれい! 泳ぎながら歌うなんてホント人魚!」
 浅上は、その姿を見て感動をおぼえた。
 フラッペと凪澤は、少し大きめのハンモックでふたり仲良く眠った。
 ハンモックは凪澤が愛情を込めて作ったものだ。
 お互いの身体に軽く腕を回し、向かい合って眠るふたりの表情はとても幸せそうなものだった。
「おやすみなさい」
 遊びつかれて眠る緋野と静馬の寝顔を見て、慈愛に満ちた微笑を浮かべているのは光坂だ。
 ふたりを寝かせたあと、温泉に向かう。
 時間も遅く、誰も居ないと思っていた温泉には先客がいた。
「あっ!」
 先客の鳳月は慌てた。
 女性が苦手な彼は、あえて皆が寝静まったこの時間を選んだのだ。
「お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「え、あ、ど、どうぞ」
 鼻元まで沈む鳳月。
 水着を着用しているのだが、なんだかとても気恥ずかしい。
 お互いに無言のまま、時間だけが過ぎていった。
 こうして夜も更け、浜辺に首まですっぽり埋まる下妻を背景に、歌音の遠吠えが響きわたった。

 翌朝、無人島を出発する生徒たち。
 行きと同様、帰りも遠泳である。
 だが、ここでリョウが秘密兵器を披露した。
 昨日、ひとりで黙々と作り上げた筏である。
 さすがに自力で戻るのは無理そうな生徒も散見されるので、遠野は筏の使用を許可する。
 リョウが作った筏は、体力的に自信がない秋桜やソフィア、遠泳することが困難な状態に陥っている高峰が利用することになった。
 今回のサバイバルツアーは、生徒たちの思い出にどのような形で刻まれることになるのだろうか。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

蒼き疾風の銃士・
フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)

大学部4年37組 女 阿修羅
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
繋いだ手にぬくもりを・
凪澤 小紅(ja0266)

大学部4年6組 女 阿修羅
死神と踊る剣士・
鳳月 威織(ja0339)

大学部4年273組 男 ルインズブレイド
撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
みんなのアイドル・
下妻ユーカリ(ja0593)

卒業 女 鬼道忍軍
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
『榊』を継ぐ者・
榊 十朗太(ja0984)

大学部6年225組 男 阿修羅
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
踏み外した境界・
黒須 洸太(ja2475)

大学部8年171組 男 ディバインナイト
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
久遠ヶ原の仲良し白鈴蘭・
瀧 あゆむ(ja3551)

大学部4年78組 女 阿修羅
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
しっ闘士正統後継者・
天道 花梨(ja4264)

中等部2年10組 女 鬼道忍軍
過去と戦うもの・
八角 日和(ja4931)

大学部5年96組 女 阿修羅
主演俳優・
姫路 ほむら(ja5415)

高等部2年1組 男 アストラルヴァンガード
魔族(設定)・
ギィネシアヌ(ja5565)

大学部4年290組 女 インフィルトレイター
京想う、紅葉舞う・
神埼 律(ja8118)

大学部4年284組 女 鬼道忍軍
妖艶なる三変化!・
恵夢・S・インファネス(ja8446)

卒業 女 ルインズブレイド
駆けし風・
緋野 慎(ja8541)

高等部2年12組 男 鬼道忍軍
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
凍魔竜公の寵を受けし者・
久遠 冴弥(jb0754)

大学部3年15組 女 バハムートテイマー
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
守護者・
アレクシア・V・アイゼンブルク(jb0913)

大学部7年299組 女 ディバインナイト
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
正義の忍者・
静馬 源一(jb2368)

高等部2年30組 男 鬼道忍軍
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
子鴉の悪魔・
鴉女 絢(jb2708)

大学部2年117組 女 ナイトウォーカー
忘れられない笑顔・
フレデリカ・V・ベルゲンハルト(jb2877)

大学部3年138組 女 アーティスト
水華のともだち・
エリーゼ・エインフェリア(jb3364)

大学部3年256組 女 ダアト
男装の麗人・
カレン・ラグネリア(jb3482)

大学部4年28組 女 ナイトウォーカー
『ぶれいかぁ』従業員・
倉敷 織枝(jb3583)

大学部7年215組 女 阿修羅
エロ動画(未遂)・
秋桜(jb4208)

大学部7年105組 女 ナイトウォーカー
鬼灯唄を宵の胸に・
群雀 志乃(jb4646)

大学部6年215組 女 アストラルヴァンガード
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
炎武 瑠美(jb4684)

大学部5年41組 女 アストラルヴァンガード
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
優しき心を胸に、その先へ・
水無月 ヒロ(jb5185)

大学部3年117組 男 ルインズブレイド
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
撃退士・
光坂 るりか(jb5577)

大学部8年160組 女 ディバインナイト
闇を祓う朱き破魔刀・
織宮 歌乃(jb5789)

大学部3年138組 女 陰陽師
力の在処、心の在処・
稲葉 奈津(jb5860)

卒業 女 ルインズブレイド
撃退士・
藤白 あやめ(jb5948)

大学部3年224組 女 ダアト
撃退士・
エイネ アクライア (jb6014)

大学部8年5組 女 アカシックレコーダー:タイプB
【流星】星を掴むもの・
ソフィア・ジョーカー(jb6021)

大学部1年49組 女 アカシックレコーダー:タイプB
弾雨の下を駆けるモノ・
山科 珠洲(jb6166)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
新入生・
浅上 響(jb6278)

高等部3年23組 女 ルインズブレイド
撃退士・
アリシュレッテ クレイズ(jb6305)

大学部6年99組 女 アカシックレコーダー:タイプA