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マスター:マメ柴ヤマト
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/06/15


みんなの思い出



オープニング


 空は雑に塗り潰したような厚い曇天。時折地面が小刻みに揺れ、遠くからは歪な咆哮が聞こえてくる。
 悪魔は腕を組み直し、眼下に並ぶ面々に強い視線を送った。傍らには、仏頂面でぷかぷかと浮かぶ小柄な金髪の悪魔の姿がある。
「既に耳に入っていると思うが、先だって、東側に配置されていたディアボロが破壊された。呼称はなんだったか?」
 ドクサは頬に空気を溜めたまま、明後日を向いて小さく答える。
「……ドクサスペシャル」
「あの半球型のディアボロの能力は――」
「なんで名前言わせたんだよ!? 言わせたんだから使えよ!!」
 ぎゃんぎゃんと飛んでくる抗議を一瞥し、悪魔は言葉を続ける。
「――改めて言うまでもないことだが、この地を原住民共の意識から逸らす、という代物だ。
 破壊されたのは1つだけ。数ある中の1つだけだが、原住民共には確実に影響が出ている。
 だが所詮は脆弱な原住民、ほんの僅かだ。破壊された直後に襲撃を受けなかったことが裏付けとなる。そして、あの半球を新たに用意するには百年単位の時間が必要となってしまう」
 悪魔が再びドクサを見遣る。すっかり背を向けてしまった彼女の横、二の腕では落ち着きなく指が暴れていた。
「以上を踏まえ、命を下す。
 方々の、残りの半球を守れ。
 これは何よりも優先される事項だ」
「繊細な子たちばっかりなんだから、しっかり護れよな!!」
「……と、いうことだ。手段は問わん、なんとしても守れ。寄る原住民や撃退士共は皆殺しで構わん」
 死力を尽くせ。
 釘を刺してから悪魔は翼を広げ、くすんだ曇と荒れた地の間を飛び去った。


 三月下旬、栃木県の西で行われた戦闘の末、久遠ヶ原学園の撃退士たちはあるディアボロを破壊した。
 それは『かの地』に陣取る悪魔にとって、特殊で、特別で、必要不可欠な存在。
 各地に散らした他の個体を死守すべく、群れ成す魔が行動を開始する。

「ってことで、これを守れとよ」
 ヴァナルガンドは半球型のディアボロを指してキーヨにいった。
 半球が設置されているのは、今は廃村になった埼玉県北東部の村にある小学校の体育館内だ。
「えぇっと、ドクサスペ――」
「球で良い」
 半球の名称を言おうとしたキーヨを阻止するかのように言葉をかぶせる。
「…………」
 苦笑いを浮かべるキーヨ。
 どうやらキーヨのマスターは『ドクサスペシャル』という名称がお気に召さないようだ。
「それで、マスターが直々に守護なさるのですか?」
「いや」
 ヴァナルガンドはニヤリとした笑みを浮かべた。
「はっきり言って、俺はこいつに興味がねぇし、どうなろうと知ったこっちゃねぇ」
 マスターは何しに来たんだろうと、キーヨは心の中でつぶやく。
 ヴァナルガンドはキーヨを使って久遠ヶ原学園に半球型ディアボロ発見の通報を入れさせていた。
「まあ、遊びに混ぜてもらう以上は、守ってるという態度はしめさねぇとな」
 ヴァナルガンドは半球守護用として、既に白いケルベロス型の大型ディアボロを配置済みだ。
「これだけで守護しきれますか? 最近の撃退士は前以上に力をつけてきているように見受けられますが……」
「さっき言ったろ? これがどうなろうと知ったこっちゃねぇって」
 ヴァナルガンドの笑みに邪悪さが増す。
「俺のゲームはこいつが破壊されてから開始になるのさ」
「…………?」
「任務を達成した撃退士どもは、達成感から気を抜くはずだ。
 もしかしたら抜かねぇかも知れないが、それはどうでも良い。俺は撃退士どもを包囲しながら殲滅をはかる。
 俺が撃退士どもを全滅させれば俺の勝ち。無事に脱出できればやつらの勝ちってことだ」
 つまり、ヴァナルガンドは半球を餌に撃退士をおびき出したということだ。
「あの……僕らは……?」
「今回も高みの見物と決めこもうぜ」
 どうやら、今回も撃退士たちとは刃を交えずに済みそうだ。
 キーヨは無意識で胸をなでおろしていた。


「最近、相次いで発見されている半球型ディアボロの発見報告が届いた。場所は埼玉北東部の廃村にある小学校だ」
 遠野冴草は、黒板に張った埼玉県の地図に記された赤丸を叩く。
「これが何なのかは分からないが、冥魔どもの重要施設であることは明白だ。ただちに出撃し、これを破壊しろ。以上だ!」
 そして、集まった撃退士たちに向かって檄を飛ばした。


リプレイ本文

●ケルベロスと半球型ディアボロ
「想定以上にここまで敵は出会わなかったな」
 龍崎海(ja0565)がそうつぶやくのも無理はない。
 最近、ちまたを騒がせている『半球型ディアボロ』の発見報告をうけ、討伐のため久遠ヶ原学園から派遣された彼らがいま立っているのは、廃村の中にある小学校の前。
 半球体はここにあるらしい。
 通報で発見の報告があったことを考え、敵の数は少数だろうとは予想していた。とはいえ、敵の数が未知数だったので、たしかに侵入ルートはよく考えた。
「うぅむ、半球型は奴らにとって相当に大切なモノの様じゃが……」
 それにしては無防備じゃな、と白蛇(jb0889)は心の中で続けた。
 というのも、ここにいたるまで一度も会敵していない。
 白蛇は召喚獣で周囲の偵察も行ったが、敵の発見にはいたらなかった。
「行って半球体を破壊。解り易いのですワっ!」とミリオール=アステローザ(jb2746)。
 口調は能天気だが、今まで一切の戦闘が発生しなかったので、戦闘狂の気質がある彼女は少し退屈しはじめている。
「相変わらず悪魔の勢力圏は酷い臭いだ……」
 別に特別な臭いが漂っているわけではない。
 周囲に香るのは、土の匂いと緑の匂い、それと少しの埃っぽさだけだ。
 不動神 武尊(jb2605)が言う臭いとは、あたりにたちこめる冥魔特有の『気』のようなものだろう。

 体育館にそれはあった。
「ほう……番犬にケルベロスか……其れなりに重要な施設と見える」
 ルキフグスの書を手に臨戦態勢をとるケイオス・フィーニクス(jb2664)。
「如何にケルベロスが強力とは言え、護衛が1体だけとは些か腑に落ちないですね」
 ミズカ・カゲツ(jb5543)は、ふむと鼻を鳴らす。
「まずは目標破壊の為に、護衛を撃破しないと……」
「そうですね。まずは目の前の障害を排除することに専念しましょう」
 リアナ・アランサバル(jb5555)の言葉に高虎 寧(ja0416)も同意した。
 撃退士たちの姿を確認したケルベロスも、3つの首をもたげて応戦の構えをとる。
 そして、ケルベロスの背後。体育館の奥にあるステージ上には半球体が鎮座していた。
 白蛇の狙撃銃による攻撃が戦闘開始の合図になった。
 猛突進をかけてくるケルベロス。
「向かってきおったか。ならば」
 白蛇は堅鱗壁を召喚しなおし、ケルベロスの前に立ちむかわせた。
 不動神も天獄竜をすばやく召喚する。
 不動神は召喚した天獄竜をケルベロスの右の首と対峙させた。
「首は3つだし、前衛は最低でも3人いたほうがいいね」
 それぞれが独立して攻撃してくるのではと警戒する龍崎。
 中央の首にむかって向かってスキルを開放した。
 現れた聖なる鎖は、首のひとつに絡みつく。
 龍崎の予想どおり、首はそれぞれが独立して攻撃してきた。
 左首は白蛇が召喚した堅鱗壁に牙をむき出しにして噛み付いてくる。
 牙が暗青の鱗を突きやぶり、そこから鮮血がほとばしる。
 堅鱗壁へのダメージは、そのまま白蛇にも伝わる。
 痛みに眉をひそめる白蛇。
 ケルベロスの右首の口元に熱気がはらむ。
 その熱気を右首が吸い込んだ次の瞬間、紅蓮の炎が吐き出され、天獄竜を包みこんだ。
 ケルベロスは首をゆっくりと振り、まるで薙ぎ払うかのように広範囲にまき散らす。
 炎は龍崎も巻き込み、陽のアウルを持つ彼らに大きなダメージを与えた。
「結構な大仕事ですワ!」
 そう叫んでミリオールが放った不可視の触手は、周囲の気体を集めながら飛翔しケルベロスの左首に絡みつく。
 触手はすぐに消失したが、追随した暴風がケルベロスの肉体を切り刻み、白い獣毛を真っ赤に染め上げた。
 左首は堪らず堅鱗壁から離れる。
「一度に1本、まだまだですワ……」
 操空の第二腕を放った掌をみつめ、苦々しく呟くミリオール。
 堕天する前の力には、まだまだ遠く及ばないようだ。
 ケルベロスの側面へと回り込んだミズカは、渾身の力を込めて建御雷を振るう。
 切っ先がケルベロスの肉体を斬りさき、鮮血が獣毛を染めるが狙った効果は得られない。
「ふむ。伊達にでかい図体はしていないようですね」
 ミズカは淡々とつぶやくと、狙いを胴から首に切り替えた。
 皆がケルベロスを相手にしている隙をつき、ケイオスは大きく迂回して半球体を直接狙うべく動く。
 炎ブレスの射程内であると思われるが、ケルベロスがケイオスのことを気にするような素振りは見られない。
 ケイオスの掌の上でルキフグスの書のページがパラパラとめくれ、そこから黒いカード状の刃が生まれる。
 生み出された黒い刃が半球体に当たって砕けた。
 どれほどのダメージが通ったかは不明だが、これで直接半球体を狙えるということは知らしめたはずだ。
 だが、ケルベロスは目の前の敵に夢中で半球体を守ろうという素振りを見せない。
「意に介さずか」
「今までの半球型の護衛と比べて見劣りしすぎる」
 違和感を拭えない龍崎。
 半球体の護衛にしては行動がずさんすぎる。
 もしかしたらダミーかという考えも浮かんだが、それも少し違い気がしてならない。
「ボーっとしている暇などないぞ。今はこやつを排除することに専念するのじゃ」
 白蛇は堅鱗壁に咆哮を上げるよう指示を飛ばした。
 堅鱗壁は呼応するように咆哮を上げる。それを聞いた仲間たちは身体の中から力が漲ってくるような感覚をおぼえた。
「こいつは良い。さあ天獄竜よ。潰せ、壊せ、破壊しろ。踏み潰し、引き裂き、噛み砕け」
 天獄竜はケルベロスの側面へと周り、右首の付け根に噛みついた。
「そうだ、貴様と俺の怒り、そして破壊衝動を抑えることなく暴れろ」
 天獄竜の顎に力がこもる。
 その時、左首が動きをみせた。
 左首が攻撃のモーションに入ろうとした瞬間、手裏剣が飛んできて左首の頬に突き刺さる。
 左首の動きが一瞬止まった。
「召喚獣にブレス攻撃をする気のようです。気をつけて」
 手裏剣を投げたのは高虎だ。
 敵の行動をつぶさに観察していたので、ブレス攻撃の挙動にいち早く気付くことができた。
 そこへ、更に蒼い稲妻の矢が飛来する。
 矢は左首に当たると、ケルベロスの周囲に極小の閃光のようなものが発生する。
 ケルベロスは認識を起こしながらも薙ぎ払うように炎ブレスを吐き払った。
 挙動から2テンポ遅れたことによって退避が容易になり、撃退士たちは被害を最小限に止めることができた。
 退避した前衛と入れ替わるようにケルベロスの懐に潜り込んだミズカは、右首に向かって刀を横薙ぎに払う。
 喉元を切り払われた右首は、そのまま天を仰ぐように仰けぞり動かなくなった。
「ふむ。まだ浅かったみたいですね」
 刀を握る手に伝わった手ごたえを冷静に分析するミズカ。スタンを取れただけで討ち取るまではいかなかったようだ。
 審判の鎖から解放された中央の首が再び動きだす。
「やっかいな相手だな」
 龍崎は吐き捨てた。
 ケルベロスは先ほどの仕返しとばかりに、龍崎に向かって炎ブレスを吐いた。
 龍崎も迫る炎を掻い潜り、文字通りその身を焦がしながらケルベロスへと肉薄する。
 そして、その勢いを乗せて十字槍を突き立てた。
 下あごを貫かれるケルベロス。
 そこへカード状の黒い刃が飛んできて中央の首を刻んだ。
 更に気体の触手が追撃をかける。
 連続で攻撃を叩き込まれた中央の首は、そのまま活動を停止した。
 これで残る首は左右の2つ。
 高虎は比較的ダメージの少ない左首に狙いを定めて手裏剣を打つ。
 高虎の打撃力ではダメージは薄いが、敵の注意を散漫にさせる効果はある。
 そこへリアナと白蛇が召喚した堅鱗壁が波状攻撃をかけた。
 左首も必死の反撃を試み、堅鱗壁にダメージを蓄積させるが、最後はあえなく撃沈される。
 残った右首もミズカに連続で薙ぎ払いによって、なす術なく倒された。
 全ての首の活動が停止すると、ケルベロスはその巨体をぐらりと揺らせ、そのまま横倒しになって動かなくなった。
「とっととあれも潰すぞ」
 ケルベロスの死体を足蹴に不動神。
 シルバーレガースを収納し、アームドリルを展開しなおす。
 護衛を失った半球体を破壊するのは、容易い作業だった。
 半球体は頑丈だったが、それ自体に攻撃する機能は存在しないようで全員から集中攻撃を浴び、砕けて散霧した。

●脱出
「勢力圏内は危険だ。撤収」
 外に向かって歩きだす不動神。それを龍崎が止める。
「待って、外の状況がおかしい」
 念のために生命探知を使用してみたところ、体育館の壁越しにうごめく複数の生命体を感知した。
 無視や野性の動物ではない。明らかに統率されている動きだ。
「ふむ……どうやら囲まれたようだな……」とケイオス。
「かなり統制が取れておるようだな……一筋縄では脱出は厳しそうだ」
 扉の隙間から外を覗きながら苦笑いを浮かべた。
「くそ、罠だったのか! とはいえ、半球型を囮として嵌める人数がこれだけじゃあ、割に合わないだろう。敵は何を考えているんだ?」
 龍崎は体育館を見渡し、舌打をした。
「罠や追撃はよくあること……。目標の撃破は完了したから、落ち着いて脱出しよう……」
 リアナはそう言うと、自ら殿を申し出た。
「それなら私もお供しましょう。移動力は有る方ですから多少の遅れは追い付けると思いますし」
 ミズカがそれに続く。
「なら、うちが敵の包囲網に楔を打ち込みます」
 得物を手裏剣から槍に変えて高虎。ケルベロス戦では余力を残しているので妥当な判断といえる。
「一人じゃ大変ですっ! 私も切り込み隊に参加するのですワっ!」
 ミリオールは声を弾ませた。
「大丈夫、やれるのですっ! 正直、少し暴れたりなかったのですワっ!」
 逆境であるほどテンションが上がるのは、持って生まれた彼女の性格ゆえであろう。
「ならば、ふたりが開けた穴を俺がこじ開けてやろう」
 不動神は、最も思い切り暴れられそうなポジションに志願した。
 根本から叩き潰せるのならそうしたいところだが、こればかりは予測が困難であるため、来るものをとにかく叩き潰すしかない。
 護衛対象を囮に使ってまで自分たちをはめた冥魔に最大級の不快感を覚えた彼は、1匹でも多くの敵をすり潰して憂さを晴らそうというのだろう。
「我は上空より遊撃的な行動をしよう」
 視界が広がり状況把握もしやすいだろうと言うのはケイオスだ。
「わしとおぬしが中衛といったところかのう」
 白蛇は、召喚した千里翔翼に騎乗して龍崎に語りかけた。
「そうだね。陣形も決まったし、これ以上状況が悪くなる前に行こうか」
 白蛇と龍崎は互いに頷きあう。
 ここからは時間との勝負になるだろう。
 体育館から直接外に出るための扉を勢いよく開くミズカとリアナ。
 待ち構えていた白狼たちは、それを合図に一斉に飛び掛ってきた。
 殺到してきた白狼に向け、ケイオスはナイトアンセムを放つ。
 認識障害を起こした白狼たちが浮き足立った。
 その隙を突いて高虎とミリオールが突貫を試みる。
 白狼の中にコボルト型の個体が混ざっているのを確認したミリオールは、浮き足立っている白狼を無視して一気に間合いをつめた。
「一滴で充分ですワ……狂い舞え、アウラニイス……」
 ウリエルブレイズを手に舞い踊るミリオール。周囲に居た白狼も巻き込んでコボルトをなます切りにした。
 敵の編成は、1体のコボルトが数体の白狼の指揮をとる。そのチームが複数集まっているようだ。それが何小隊集まっているのかはまでは把握しきれない。
 不動神の天獄竜は、浮き足立っている白狼を引き裂き、噛み砕く。
「貴様ら悪魔は……1匹残らず俺の前から消え失せろ」
 絶命した白狼をも踏み潰す。
 3人がこじ開けた包囲網の穴を千里翔翼を駆った白蛇が抜け、騎上から狙撃銃で切り込み隊の支援をする。
 完全に包囲されないのは、殿のふたりが追いすがってくる敵を食い止めているからだ。
「視界が悪いね……。奇襲には、要警戒……」
 アンブルを巧みに使い、追撃してくる敵を翻弄するリアナ。
「ふむ。私達も孤立しない様、連携や周囲の味方に気を配る事も大切です」とミズカ。
 互いにカバーしあいながら、押し止めては退くを繰りかえす。
 だが、いかんせん敵の数が多い。
 少しずつではあるが、味方との距離が開き始めていた。
「左前方から新たな敵だ」
 上空から状況を伝えるケイオスの肩を矢が掠める。
 見ると数体のコボルトが弓を構えてこちらを狙っているようだ。
 木の枝に降り立ったケイオスは、掌を天に掲げてアウルを練る。
「大人しく我の魔法で逝くがいい」
 練り上げられたアウルは巨大な業火の火球へと姿を変え、そこから無数の炎弾がコボルトたちに降りそそぐ。
 体を穿たれ、焼き崩れるコボルトたち。
 高虎が影縛の術や目隠で敵陣を混乱させながら退路を先導し、ミリオールが楔を打ち込む。
 敵の陣形に生じた亀裂を不動神がこじ開け、龍崎、白蛇の中衛が一気に抜ける。
 回復は龍崎の役目だ。
 度重なる戦闘で回復手段は尽きかけているが、離脱は比較的順調に進んでいると言って良いだろう。
 本隊の離脱が順調なのは、ミズカとリアナの奮戦によるところが大きい。
 だが、ふたりの離脱には徐々に遅れがみられ、孤立しはじめていた。
「ふむ。そろそろ私たちも本腰を入れて離脱しなければ不味いですね」
 口調こそ淡々としているが、ミズカの尻尾には焦りの色がみられる。
「あなたが先に離脱して……」
 淡々と語るリアナの瞳に覚悟のようなものを感じたミズカは、首を振って拒否した。
「離脱はふたり一緒にです」
 ここで仲間を見捨てるほどミズカは薄情ではない。
 ふたりとも表情には出ていないが、通じるところがあったのだろう。再び敵と対峙した。
 そんな時、千里翔翼が飛び込んできた。
「おぬしら、何をしておるのじゃ。早ぅ離脱せんか!」
 白蛇が叫ぶ。
「わしの司があとを引き受けるゆえ、今のうちに離脱するのじゃ!」
 その言葉と同時に千里翔翼は周囲の白狼たちを薙ぎ払う。
 ミズカとリアナはお互いに頷き合うと、全速力で離脱した。
「司よ、後は任せた。主の痛みはわしが引き受ける」
 白狼たちは千里翔翼に殺到した。
 白狼たちから集中攻撃をうけ、千里翔翼が受けたダメージがそのまま白蛇へと伝わる。
 瞬く間に体力を削り取られた白蛇は、立っているのも覚束ない。
 それに気付いたミズカは、途中で彼女を抱きかかえて離脱。本隊と合流した。

「逃げられましたね……」
 遠くから眺めていたキーヨは、ヴァナルガンドの顔色を伺った。
「ああ」
 ヴァナルガンドは面白くなさそうだ。
「見たか、あいつらの編成」
「え?」
「人間よりも天魔の方が多かった」
「あ……」
 指摘され、キーヨもそれに気付いた。
「人間になびくやつらも、随分と増えたようだな」
「そうですね……」
 しばし無言の時間が流れる。
「やつらの駆逐も考えねぇといけないな」
 そして、ヴァナルガンドはぽつりとそう呟いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 慈し見守る白き母・白蛇(jb0889)
 銀狐の絆【瑞】・ミズカ・カゲツ(jb5543)
重体: −
面白かった!:6人

先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
元・天界の戦車・
不動神 武尊(jb2605)

大学部7年263組 男 バハムートテイマー
氷獄の魔・
ケイオス・フィーニクス(jb2664)

大学部8年185組 男 ナイトウォーカー
ファズラに新たな道を示す・
ミリオール=アステローザ(jb2746)

大学部3年148組 女 陰陽師
銀狐の絆【瑞】・
ミズカ・カゲツ(jb5543)

大学部3年304組 女 阿修羅
空舞う影・
リアナ・アランサバル(jb5555)

大学部3年276組 女 鬼道忍軍