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マスター:マメ柴ヤマト
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/02/22


みんなの思い出



オープニング


「できた……完成だ」
 遠野冴草(jz0030)は、久遠ヶ原の裏山にそびえるそれを眺めて満足気につぶやいた。
 それは、一見すると3階建ての小ぢんまりとした城だった。
「サエ、中の仕掛けも完璧だったぞ」
 ジェームス・富原が城から出てきた。
 内部の最終チェックをしてきたのだ。
「去年も大掛かりだったが、今年のは違った意味で大掛かりだったな」
 汗を拭う遠野。彼らは年明け前から協力してこれの製作にあたっていた。
「楽しんでるだろ、サエ」
「そう見えるか?」
 その答えは、遠野の顔に溢れる笑顔が物語っている。
「今年のチョコレート争奪競争も荒れそうだな……」
 城を見上げながら、ジェームスは遠い目をしてつぶやいた。
 その城はからくり屋敷だった。否、トラップハウスだった。
 入り口からまっすぐ廊下が伸び、最初の角を曲がるとアロースリットがあらわれる。
 そこを抜けた突き当たりには3枚の扉。正解は1枚で2枚はトリックドアだ。
 扉を抜けると仕掛け階段がある。
 階段の先の通路にはシュート。
 その先の突き当たりには左右に扉。もちろん、正解は片方だけ。
 扉の先の通路はスライドウォールになっている。
 そこを抜けると螺旋階段があらわれ、登りきった先が最上階。
 最上階にも扉が4枚あり、3枚はトラップとなっている。
 最上階のゴールに一番でたどり着いたものが優勝となる。
 もちろん、こんな城を遠野ひとりで建設することなど不可能だった。
 トラップのほとんどはジェームス監修になっている。
「お前はチョコの新作発表。俺は生徒の鍛錬。ふたりの利害が一致しているんだ。気にすることはないぜ」
 遠野の豪快な笑い声が城を包みこんだ。


「――ありがとうございました〜」
 高峰真奈(jz0051)は、今日もジェームスの店で接客のバイトをしていた。
「さすがバレンタインが近いだけあって、お客が途切れない……」
 パティストリー【スウィートショコラ】は、チョコレートを買い求める女性客で賑わいを見せている。
「高峰さん、休憩入っていいよ」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて休憩入りま〜す」
 先輩店員に礼を告げ、休憩室に行くことにした。
「おい、高峰」
 厨房を抜けるとき、ジェームスが声をかけてくる。
「何ですか?」
「今年のバレンタイン、チョコレートを使ったスウィーツを1品作れ」
「え、それってもしかして、チョコの催促ですか? 大丈夫。ちゃんと店長にも用意しますよ☆」
「心を込めた本命のスウィーツを作れ」
「しょ、職権乱用!?」
 ジェームスの真剣な眼差しに盛大な勘違いをして後ずさる高峰。
「そうだな。職権乱用だ。今日までの成果を見せてみろ」
 ジェームスの店でバイトをやるようになってから、高峰はケーキ作りに興味を抱くようになっていた。
 そして、最近ではジェームスからパティシエの修行もつけてもらっていた。
「ま……まさか店長のハートを射止めてしまっていたとは……」
「誰が俺のために作れと言った。今年のチョコレート争奪レースの副賞にする」
「そして、私は店長命令で強制的に真心込めたチョコレートを作らされ、チョコレートと一緒に私は副賞に……副賞?」
 きょとんした表情を浮かべる高峰。
「去年のチョコレース第2弾をやる。優勝商品はこの新作チョコレートだ。去年は男性参加者も多かったからな。お前が作ったスウィーツはそれを見越した上での副賞だ」
「あれを今年もやるんですか……?」
「うむ、そういうことだ。だから、今年もチョコレートガールを頼むぞ。もちろん、店の業務の一環としてな」
「職権乱用だーっ!」
 ジェームスの台詞は、特別報酬が出ないことを意味していた。


 大会は、雪が降りしきる中で開催された。
 高峰はホワイトチョコレートをイメージしたファー付きの真っ白なコートと、その下にミルクチョコレートをイメージしたチョコレートブラウンのミニワンピース、板チョコを模した飾りが付いたヘアゴムで髪を縛ってツインテールという、去年と同様の格好をしていた。
 大会本部テントには、遠野とジェームスの姿もある。
「諸君。今年もチョコレースの季節がやってきた。心の準備は整っているか?」
 視界台に出てきた遠野。マイクを持つ手の小指は立っている。
「今年の優勝者には、パティストリー【スウィートショコラ】の新作チョコレートのほかに、副賞としてチョコレートガール高峰が心を込めて作ったガトーショコラもついてくるぞ!」
 高峰は本部テントで、愛想笑いを浮かべながら手を振った。
「チョコレートが食べたいかーーっっ!!」
 遠野のハイテンションな問いかけに、観衆と参加者が「オー!」と答える。
「このレースは、スキルの使用を禁止する。正々堂々と戦え!」
 参加者にむかって、遠野はびしっと指をさす。
 レースが開始する時間が、刻一刻とせまってくる。
 城はまるで参加者を飲み込もうとしているかのように、ぽっかりと入り口を開いていた。


リプレイ本文

●スタート
 冬の寒空のした、遠野城の前に7名の勇士が集まっていた。
「おぉ〜、なんか立派な城が。まんま言いたくなるなぁ、風雲とか、遠野城とか」
 城を見上げながらリューグ(ja0849)。
 感心する一方で、心配なことも一つだけ。
「……所で、おにーさんこの城に立って入れれるのか?」
 遠野も巨漢だが、彼は遠野よりさらに1m以上も高い。
 流石に規格外だ。
 あえて言おう、無理であると。
「チョコはついでとして、鍛錬目的には良さそうですね」
 準備運動をしながらファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)。
 そんなファティナに友人の牧野 穂鳥(ja2029)が声をかけてきた。
「勝負とあれば、手加減は無しの全力で。がんばりましょう、ティナさん」
 力強く宣言する牧野。もしチョコをゲットできたら、ふたりで分け合って一緒に食べるつもりでいる。
「たまにはこういう競技も面白いかもしれませんね」
 そんなことをつぶやくソフィー・オルコット(jb1987)は、優勝商品の高級チョコを全力で奪取する気満々である。
 表情には出さないが、腹の中も真っ黒だ。
 綿貫 由太郎(ja3564)は、あまりやる気がなさそうな高峰をぼんやり眺めていた。
 あの表情からすると、店から特別手当ても支給されていないのだろう。
 半ば無理やりチョコガールをやらされているであろう高峰のことが、ほんの少しだけ気の毒いなった。
 スタート台で遠野がピストルを構える。
「機は熟した! いざ、参らん!」
 草薙 雅(jb1080)はスタートダッシュの構え。
「高峰殿、男の生き様、サムライ魂をとくと見ているでござる!!」
 見た目も声もまるっきりの美少女だが、彼はれっきとした男である。
 高峰の男の娘レーダーもしっかりとキャッチしたようで、目を爛々とさせてガン見している。
 彼女に熱い(?)視線を注がれ、草薙のテンションもMAXだ。
「行ってこい!」
 掛け声とともに銃声が鳴り響いた。
 全員が一斉に城内へ――と思いきや、我先に突入していったのは、リューグと草薙だけ。
 ソフィーなど、スタートと同時に足をもつれさせて転んでいる。
「おいおい、大丈夫か?」
 手を差し伸べる綿貫に対し、
「あまり体力には自信が無いのですよ……」
 弱々しい笑顔を見せる。
「あまり、無理をするなよ?」
「優勝に興味はありませんが、訓練にもなりそうですしね」
 気遣ってくれる綿貫に、健気な笑みをかえす。
 大事なことなのでもう一度言うが、腹の中は真っ黒だ。
「さて、いくか……」
 矢野 古代(jb1679)が動きだす。
 他のメンバーもそうだが、別にやる気がないわけではない。
 誰かを先に行かせて、どんなトラップがあるのか見極めようという算段なのだ。

●1F
 最初の角を曲がると、あからさまに何かが飛び出してきそうな穴が3つ、廊下の壁にあいていた。
「見るからにアレだな、なんか出てくるって言う」
 リューグは上着を腕に巻きつけ、穴の前そっと差し出してみる。
 その瞬間、突き刺さる矢。
 最初の矢が放たれるのが罠起動のスイッチなのか、3つ並んだ穴から定期的に矢が射出される。
 普通の体格なら匍匐前進でスルー出来そうだが、リューグの身体は規格外。
 どうやっても矢が当たる。
 V兵器でもない普通の矢など、撃退士にとってはちょっと痛い程度だが、だからと言って好き好んで刺さりたくもない。
 腕に巻いた上着を肩に巻きなおしていると、
「これが最初の愛の試練でござるな。いざ!」草薙は止まることなく駆け抜け、
「ぐっ! がっ! ごっ!」 ことごとく矢の餌食となった。
 それでも止まらず駆け抜けたのは偉い。
 リューグはその様子に感心する。
 リューグの後ろには他の選手が続いているのだが、彼自体が障害物よろしく横をすり抜けることが出来ずに立ち往生していた。
 伏せても意味がないので、肩に撒いた上着で矢を受けながら一気に抜けるリューグ。他の選手は匍匐前進や盾を展開して矢をやり過ごしながら追随してきた。
 通路の先は少し広めの部屋になっていて、左右と前方に扉がある。
 草薙は右、リューグは左の扉をそれぞれ選び、ほぼ同時にあけた。
 落ちてきたバケツがリューグの頭にはまる。
 そこから流れ落ちてくる透明粘液。
 その様子は、城の外に設置されているスクリーンにも映し出されており、観客たちが微妙な表情を浮かべていた。
「いや、男がかぶっても見た目嬉しくないよなぁ」
 顔に流れてきた粘液を拭いながら、リューグも微妙な気持ちになる。
 ちなみに草薙の姿はもう無い。
 次にやってきたのは、ファティナと牧野。
 牧野は左の扉を選ぼうとしたが、リューグの状態を見て別の扉を選ぶことにした。
「穂鳥さん、お先に失礼し……はうっ!」
 ファティナは迷わず正面の扉を勢いよく開け放ち、飛び出してきたパンチンググローブに顔面を打たれて仰け反る。
 リューグとファティナの働き(?)によってハズレ扉が明らかになり、残りの選手はみな正解の扉へ迷わず進むことができた。

「うーむ、これは改善の余地があるな……」
 スクリーンを眺めながら遠野。
 あの手の罠は、一度発動すると後続にはバレバレになってしまう。
「まず粘液をやめろぉ!」
 粘液にあまり良い思い出がない高峰がすかさずツッコミを入れた。

 右の扉を開けると、すぐに2階までまっすぐ伸びた階段があらわれる。
 一同が駆け上がろうとしたとき、右の横穴から悲鳴とともに草薙が滑り落ちてきて、目の前を通過し左の壁にぶち当たった。
「大丈夫ですか?」
 ソフィーが手を差し伸べ声をかける。
「か、かたじけない」
「……いえ、私は優勝には興味ありませんので」
 あくまで優勝に興味が無いことを強調する。
 ぞろぞろと階段を登りだす選手たち。
 階段は傾斜が急で勢いをつけて上がれない。
 選手の半数以上が階段の半ばまで過ぎたとき、粘液を拭い終わったリューグがやっと階段を登りはじめた。
「気をつけろでござる。この階だ――」
 草薙が何か言いかけた瞬間、階段が消失し、足元が滑り台と化した。
「うぉお!?」
 不意に足場を失い、皆が折り重なるようにリューグの上に降ってきた。
「俺の体重で落ちたんでないよな、違うよな!?」
 タイミングの良さに慌てるリューグ。
「おっさん坂上るのとか辛い年頃なんだけどな」
 綿貫はため息を吐く。
「一つ刺しては娘のため! 二つ刺しては娘のため!」
 矢野は双剣を展開させ、壁や床に突き立てながらじりじりを2階を目指す。
 娘への愛が彼の原動力なのか。
「三つ刺しては……結局俺のためぇ!」
 結局は自分のためらしい。
 いち早く戦線復帰したリューグが矢野の後ろを追う。仕掛け階段では、両手を広げれば両壁に手が届くというでかい図体が役に立った。
 他の選手は悪戦苦闘しながら必死に這い登っていた。

●2F
 階段を登りきると、また長い通路がある。
 床の一部がぽっかりと口を開いてる。草薙はここから落ちてきたのだろう、外れた床がぷらぷらと揺れていた。
 グリースを展開した矢野は、それを簡易足場として張り巡らせ、穴を難なく越える。
 自分が渡り終わった後は、他の面子に足場を残しておく義理もないので、即座にヒヒイロカネへと収納した。
「これは困った……」
 リューグは穴の前で立ち往生している。
 既に天井に頭が閊えているため、飛び越すことが不可能なのだ。
 後続の選手たちは、リューグが邪魔で通り抜けられない。
 まさに歩く障害物だ。
「まったく……通行の邪魔ですね。とっとと行って下さりませんか?」
 誰かが冷たく刺すような声色でぼそりと口にした。
 リューグはびくっと肩を震わせ後ろを振り返るが、誰が言ったのかは分からない。
 意を決して可能な限り勢いをつけ、飛――べるわけがなかった。
 天井に頭をゴリゴリ打ちつけ、そのまま落下。落とし穴にスッポリとはまる。
「すまんね」
 容赦なく踏み越える綿貫。
 牧野も心苦しく思いながら、リューグの身体を足場に借りた。
「お先に失礼しますね」
 ファティナは微笑みを残して通過。
「拙者の恋のため、すまぬ……」
 草薙は涙を残す。そして、
「貴方の犠牲は無駄には致しません」
 あの声の主はソフィーだった。

「……何か可愛そう」
 素直な感想を口にする高峰。
「女って……怖いな」
 遠野の言葉にジェームスが頷いている。

 先頭を往く矢野の前には、左右向かい合わせに設置された扉があった。
 恐らく片方は罠だろう。
 どちらの扉も全く同じ作り。確率は50:50。
 後ろからは落とし穴を通過した選手たち。
「えぇい、俺には娘たちの加護がついている!」
 叫びながら勢いよく左の扉を開いた瞬間、天井が落ちてきて、コントよろしく矢野の頭が天井を貫通した。
 フリーズする矢野の横を皆が素通りする。
 扉を開けると、再び長い通路。今度は何が仕掛けられているのか。
 皆が躊躇していると、がこんという音とともに左右の壁が少しずつ迫ってきた。
「誰か背の高い人がつっかえ棒になってくれれば楽なんだがなあ」
 綿貫がやる気のない声でつぶやく。
「次なる愛の試練はこれでござるか、受けて立つでござる!」
 動いたのは、参加者の中で一番背が低い草薙だった。
 迫る壁に立ちはだかり、力技で押し返そうとする。
「うぉおお、見ていてくだされ高峰真奈殿ぉ! 拙者の愛の力をぉおお!!」
 迫る速度は遅くなったものの、じりじりと押し返される草薙。
「あー、ご苦労さん、ご苦労さん」
 その後ろを飄々とした口調で通り抜ける綿貫。
 この男、何の苦労もせずにここまで来ている。
「ごめんなさい、すみません」
 牧野はただただ平謝り。ファティナとふたりでちゃっかり通過している。
「お、おぬしら……正々堂々と……っ!」
 声を絞り出す草薙。
「……正々堂々? ……ニホンゴムズカシイデス」
「…………」
 草薙はソフィーの台詞に言葉を失う。
「卑怯とか汚いとか! そんなものより娘の笑顔のが大切なんだ!」
 フリーズから復帰した矢野。お父さん、さっき結局は自分のためとか言ってませんでしたか?
 流石に心が折れそうになった草薙。
「思い出せ! 高峰真奈殿の笑顔を。愛の力で限界を超える。うぉおおおお!!」
 でも、そろそろ限界。
 限界点ギリギリ、修羅のごとき容貌で踏ん張る草薙を救ったのは、自力で落とし穴から脱出したリューグだった。
「か、かたじけない……」
「気にするな」
 肩で息をしている草薙に向かって、リューグはぶっきらぼうに答える。
 ただ単に通路が狭くなりすぎて、こうしなければ通り抜けられなかっただけなのだった。

 スクリーンを見ながら、高峰は嬉しさと困惑が入り混じったような表情をしていた。
「……良かったな」
 あまり興味がないのだろう、遠野の声に感情は篭っていない。
「いや……まあ、うん……」
 男の娘に好意を持たれて悪い気はしない。
 とはいえ、あれだけ暴走がむき出しだと、正直少し引く。
 高峰は複雑な想いでスクリーンを見続けた。

●3F
 スライドウォールを抜けると、螺旋階段が現れた。
 先行している5人が一気に駆け上がる。
 階段に仕掛けはないようだ。
 それを抜けると天守閣。正方形の部屋の中央に出た。
 4面の壁にそれぞれ扉が1枚ずつ。
 ここまでくれば早い者勝ちだ。 
 5人は正面の扉は避け、右の扉にソフィー、左の扉に綿貫と矢野、背後の扉にファティナと牧野をそれぞれ選んだ。
「さあ、開けますよ」
 ファティナがドアノブに手をかける。
「ティナさん、チョコをゲットできたら一緒に分け合って食べま――」
 笑顔で頷いたファティナがドアを開けた瞬間、ふたりが立っている床がぱっくりと開き、ふたりは笑顔のまま床の中へと消えた。
 ふたりを飲み込んだ床は、何事もなかったかのようにすぐ元通りになった。
「きみたちの犠牲は無駄にしないよ」
 綿貫は、とりあえずカッコ良さげな台詞をはく。
 その影に隠れるように矢野。罠が発動しても被害を被らないような立ち位置のつもりだ。
(おっさんの小賢しい知恵だな……何時からこんな小手先の技を良しとするようになったんだろう……)
 ふっと小さく笑う矢野を爆風が襲った。
 綿貫がドアノブを回した瞬間、爆弾が起動したのだ。
 扉は吹っ飛び、ふたりは真っ黒く煤け、綿貫の手にはドアノブだけが握られている。
「まるで昭和のコントですね」
 そう言ってドアを開けたソフィーの頭に巨大なタライが振ってきた。
 派手な音を響かせぶち当たるタライ。
 最も昭和くさい罠に倒れるソフィー。
 そのあと、すぐにリューグと草薙が天守閣に到着した。
 左右の扉は明らかにハズレだ。一目で分かる。
 となれば、正解は正面か背後。
「まあ、ベタで違うだろうが……」
 リューグが選んだ扉は背後。
「武士道とは死ぬこととみつけたり」
 勝利の女神(高峰)を信じて、草薙は正面の扉を選んだ。
「恨みっこなしでござるぞ!」
 草薙の台詞に、リューグは無言で頷き返した。
 ふたりは同時に扉を開ける。
 足元の床が消え、再び落とし穴に落ち――ることなく胸から下がすっぽりと落とし穴に嵌るリューグ。
「ま、またか……」
 本日2度目である。今日は落とし穴に縁があるようだ。
 そして、草薙の目の前には、ゴールテープが姿をあらわした。

●フィナーレ
 優勝台に立つ草薙。
 目の前にはチョコレートガールこと高峰の姿。
「優勝おめでとうございます」
 高峰から『スウィートショコラ』の新作高級チョコレートが渡される。
「あと、これは副賞です。優勝する人のことを想って、一生懸命作りました」
 次いで少し照れくさそうに副賞のガトーショコラが贈呈された。
 会場から沸き起こる拍手喝采。
「実は、拙者からもプレゼントがあるでござる」
 草薙は着物の袖の下をごぞごぞとまさぐる。
「本職の料理人の指導のもと、拙者が作ったチョコレートクッキーでござる」
「わぁ、ありがとうございます」
「その……多分、この店のより美味しいでござる」
 鼻の頭をぽりぽり。
 照れくさくなって高峰から視線を逸らすと、そこには物凄く鋭い視線を投げつけているジェームスの姿があった。
「ひぃ!」
 目の前にスウィートショコラの店長が居ることをすっかり失念していた草薙であった。

 柔らかい日差しがカーテン越しに降りそそぎ、柔らかな暖かさが天風 静流(ja0373)の頬を撫でる。
「う……ん」
 天風は吐息を漏らす。気持ちの良い朝の目覚めだ。とても良く眠った。
 ゆるゆると覚醒する頭をもたげ、目覚まし時計に手を伸ばす。
 時計が示している時間は午前5時47分。
「…………っ!?」
 いつもクールな天風からは想像が出来ないほどの焦りのリアクションだ。
 秒針が微動だにしていない。
 すぐに愛用の懐中時計を手に取る。
「やってしまった……」
 顔に手をあて、落胆する天風。
 懐中時計の針は12時57分を指している。
 完全な寝坊だった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:14人

撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
歩く目印・
リューグ(ja0849)

大学部9年309組 男 インフィルトレイター
喪色の沙羅双樹・
牧野 穂鳥(ja2029)

大学部4年145組 女 ダアト
不良中年・
綿貫 由太郎(ja3564)

大学部9年167組 男 インフィルトレイター
イカサマギャンブラー・
草薙 雅(jb1080)

大学部7年179組 男 バハムートテイマー
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
UndeadKiller・
ソフィー・オルコット(jb1987)

大学部5年186組 女 インフィルトレイター