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マスター:マメ柴ヤマト
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/06/05


みんなの思い出



オープニング


「てめぇ、フザけてんのか? カレーパンつったろ!?」
 そうなじられて、気弱そうな生徒が柄の悪い同級生に蹴り飛ばされた。
「ご、ごめん、カレーパン売り切れてて……」
「パシリもろくに出来ねぇのかよ!」
 柄の悪い生徒がよろよろと起き上がろうとする少年を踏みつける。
「罰として、これはおめぇの奢りな」
「マッちゃん、一度も金払ったことねぇじゃん」
 取り巻きの生徒がそう言うと、他の取り巻きたちが盛大に笑った。
「キヨ、ちょっと金貸してくれや。返さねぇけどな」
 ニヤリと笑いながら柄の悪い生徒は、自分が蹴り飛ばした生徒のポケットに手を忍ばせようとしたとき、
「先生、こっちです!」
 不意に女生徒の声が飛び込んでくる。
「ちっ!」
 柄の悪い生徒たちは、舌打ちをして早々に退散をした。
「清彦、大丈夫!?」
 駆け寄ってきたのは、彼の幼馴染の由美だった。
「起き上がれる?」
「やめてくれよ!」
 由美が差し伸べた手を払う。
「清彦……」
「……ほっといてくれ」
 悲しそうな瞳を向ける彼女の表情にいたたまれなくなり、清彦はその場を走りさった。

「……もう、無理だよ」
 校舎の裏山で清彦が呟いた。
 埼玉県との県境の山間にある都立高校は、校舎の裏に小高い山がある。
 そこを登ると、ちょっとした崖があった。
 先ほど由美が見せた表情が頭から離れない。
 彼女にだけは、あんな同情されたような目で見られたくなかった。
「僕は酷いやつだよな……」
 彼女は自分のことを思って手を差し伸べてくれたに違いない。
 そんな彼女の気持ちを踏みにじるような態度をとってしまった自分に自己嫌悪した。
 とはいえ、今の状況を打開する方法など、彼には思いつきもしない。
 崖の高さは20mくらい。ところどころ突起した岩肌が見える。
「もう、辛いよ。もう、全て終わりにして良いよね……」
 崖のふちから身を乗りだそうとしたとき、
「お前、死ぬの?」
 突然、声をかけられた。
 声の主が太い木の枝の上で上半身を起こす。
 スタイリッシュなサングラスをかけた鮮やかな金髪を持つ青年。
 胸にはシルバーのファングネックレスが光る。
「だ、誰!?」
 同じ高校の生徒ではない。言葉こそ流暢だったが、そもそも日本人ですらないように見える。
「よっ……と」
 木の枝から飛び降りた青年は、清彦の前にふわりと着地した。
「俺がお前の未来を変えてやろうか?」
 サングラスを下げ、清彦の顔を覗きこむ。
「そんな事が――」
「出来るさ」
「どうやってだよ!」
「お前ら人間の言葉を借りるなら『契約』するって言うのか?」
 青年は清彦の隣にならび、景色を眺めるように手すりへもたれ掛かった。
「あんた……」
 その背中に生えたコウモリの翼に気付く。
「悪魔と契約するために、何が必要なのかは言わなくても分かんだろ?」
 青年はニヤリと笑みを浮かべ、清彦を掬い見るようにみつめた。


「ぎゃああああ!!」
 男子生徒の悲鳴が校舎内にこだました。
 腕をちぎられ、ぼろ雑巾のように全身を切り裂かれた柄の悪い生徒が廊下を這うように逃げる。
 この学校の制服を身にまとったワーウルフがうなり声を上げ、爪から血をしたたらせながらゆっくりと近づく。
「く、来るな、来るなぁあ!」
 必死に逃げようとするが、身体が思うように動かない。
「僕がやめてとイッテ、キミはやめてクレた事がアルかい?」
 ワーウルフの胸元についたネームプレートが目に入る。
「お、お前……キヨ――」
 男子生徒が言い終わる前に、ワーウルフの右手が彼の頭を粉砕した。
 生徒たちが悲鳴を上げながら逃げまどう。
「き、清彦なの!?」
「由美……。ボ、ボク、こんナにナッちゃっタヨ」
 清彦が由美へゆっくり近づく。
「いや……」
 由美の表情には恐怖の色が宿っていた。
「コンな姿になっタケど、僕ハボクダヨ?」
「いや、来ないで!!」
 逃げようとした由美の腕をつかむ。いや、少なくとも彼はそのつもりだった。だが、彼の爪を彼女の腕を掴むのではなく、その身体を引き裂いていた。
 二つに裂かれた由美の身体は、周囲に鮮血を撒き散らしながら廊下に転がり、ビクンと大きく痙攣する。
「え……? ゆ、ユミ……?」
 清彦は自らの意志で動いているつもりだった。だがそれは彼の勘違いで、その身体は彼の意思とは関係なく動いていたのだ。
「ユミガ……ユミガニクノカタマ……カタマリ……ニ……グガァアアアアアア!!」
 絶叫のなか、彼の意識が掻き消えていった。 


リプレイ本文


「これから向かう高校の見取り図だ」
 人数分の紙を取り出した鷺谷 明(ja0776)は、それを仲間に配布した。
 彼が出発前に調べ、プリントアウトしておいたのだ。
「これも持って……」
 夏野 雪(ja6883)が取り出したのは、依頼斡旋所で借り受けておいたスマートフォンだった。
「自前のがある人も、自動通話アプリというのがあるから、これをインストールしておいて……」
 スマートフォンを操作しながら説明をする。
 目的地が近いのか、怒号や悲鳴が風にのって微かに聞こえてきた。
「じゃあ、手筈どおりに」
 諸葛 翔(ja0352)の言葉を合図にして、撃退士たちは事前に打ち合わせたとおりの行動へとうつる。
 紅葉 虎葵(ja0059)は、学校下層で逃げ送れている人間がいないか探すことにした。
 途中、この学校の教師と思われる人間に遭遇する。
「僕たち撃退士が来たからもう大丈夫。生徒の避難誘導に強力してもらえませんか?」
「分かった、他の教師とも連絡をとろう。どこに避難させたら良い?」
「ひとまず、体育館に。僕たちも仲間と連携して逃げ送れた生徒をそこへ送りますから」
「頼んだぞ」
 教師はすぐに携帯電話を取り出し、他の教員へ連絡を入れた。
「皆! 慌てず避難して!」
 教師と別れた紅葉は、叫びながら校舎へと入っていく。
 玄武院 拳士狼(ja0053)と機嶋 結(ja0725)は、細心の注意を払いながら下層の捜索を開始した。
 生徒玄関の扉は派手に壊され、ガラスが散乱している。
「ここから進入したみたいですね」
 機嶋はあたりを見渡す。この周辺は人的被害が見当たらなかった。
「事件発生の時間帯が、たまたま生徒の往来が少ないタイミングだったようだな。とにかく先を急ごう。これ以上野放しにする訳にはいかんのでな」
 玄武院は指の関節をボキボキと鳴らしながら答える。
 水無月 神奈(ja0914)は諸葛と一緒に校舎屋上からの人狼捜索にあたった。
 そこかしこに血と臓物が飛び散り、転がっている生徒の死体も四肢が引きちぎられているのもが多い。
 ディアボロの足跡を追えないかと思ったが、校内はかなり混乱しているようで、血だまりは幾人もの人間に踏み荒らされており、どれがディアボロの足跡なのか判別できないほどの状態だった。
(突然の出現にこの高校の学生服を着用した状態……。ディアボロ化してからそれほど時間が経っていないのか……?)
 事前に得られていた情報では、ここに現れた人狼はここの制服を着用していたらしい。
 水無月はゲートから生み出される通常のディアボロとは、明らかに異なる不自然さを感じていた。
「安心するの……天魔が出ても……僕が絶対に守ってみせるのっ! 仲間もいるから」
 九曜 昴(ja0586)は、物陰にうずくまって隠れている生徒やパニックに陥っている生徒を見つけては、声をかけながら上層を目指す。
 眠たそうな半眼とおっとりとした口調は、このパニック下で声をかけられた生徒に不思議な安堵感を与えた。
「より安全のために……みんなに協力してもらいたいの。とにかく整然と避難してほしいの」
 避難場所として体育館を指定し、彼らの移動を促す。
 校舎内には、まだ悲鳴や怒号が響き渡っている。逃げ遅れた生徒を見つけるため、九曜は先を急ぐことにした。
「狼は中世において森の恐怖を象徴する存在で――」
 鷺野はそんな解説をしながら、放送室へと急ぐ夏野に同行する。
 放送室へ向かう途中、夏野は足の怪我で身動きが取れなくなった男子生徒を見かけて治療を施した。
 生徒の傷はみるみる塞がり、千切れかかっていた足もつながり、破れたズボンと付着した血だけが、傷の名残としてのこる。
 放送室までは、事前に鷺野が用意していた校内見取り図のおかげで、迷うことなく到着できた。
 放送室のドアに手をかけると、中から鍵がかけられている。
「中に……誰かいるの?」
「だ、誰!?」
 夏野の呼びかけに、中から反応があった。
「私たちは撃退士です。ここを開けて……」
「ほ、本当に撃退士……?」
 夏野の言葉に半信半疑な反応をしめす。
「ディアボロならわざわざ声などかけないと思うが?」
 鷺野の言葉に納得したのか、ドアを開錠する金属音が聞こえた。
 放送室のドアが開き、中から眼鏡の少女が顔をだす。
 少女は2人の顔をみると安堵の表情を見せた。
 夏野は放送室に入ると、マイクのスイッチを入れる。
「ディアボロは私たち撃退士が必ず退治します。だから、諦めないで」
 全校放送にスイッチを押し、静かに、だがはっきりと言った。
「みんなに協力してもらいたいの。とにかく整然と避難してほしいの」
 九曜は逃げ行く生徒たちを体育館へと誘導しながら先を進む。
 そんなとき、廊下の先から女生徒の悲鳴が上がった。
 アサルトライフルを展開し、悲鳴があがった方へと急ぐ。
 そこには、引きちぎられた女生徒のくわえた人狼の姿があった。
 人狼の目の前には腰を抜かして廊下にへたり込み、顔面蒼白のまま仰向けになって這うように後ずさる女生徒の姿。
「僕は守りには向いて無いけど……がんばるのっ!」
 気を引くために放った鋭い1撃は人狼の肩へと当たり 、血と体毛を散らせた。
「こちら九曜、人狼を発見したの。場所は3階廊下なの。教室へと誘導するのっ!」
 スマートフォンを使って仲間へ居場所を素早く周知する。
「こっちなのっ!」
 再び人狼を射撃し、狭い廊下から無人の教室へ誘いこんだ。 
「近いな。急ぐぞ」
 屋上から4階へ降りてきたところで連絡を受けた水無月が駆け出す。
「これ以上はやらせねーよ!」
 諸葛もそのあとを追った。
「ディアボロは3階で発見されました。今、仲間が押さえてくれてます。大丈夫、安心してください。必ず守るから」
 報告を受け、夏野は再び全校放送をする。
 この呼びかけが、どれほど避難している生徒や教員を落ち着かせ、余計な混乱を防ぐことになったか、その効果は計り知れなかった。
「3階か、すぐ上だな。行くぞ」
 鷺谷が急かす。
「みんな体育館へ避難してます。あなたも行って……」
 眼鏡の少女にそう言い残すと、夏野は鷺谷とともに3階へ急いだ。
「よりによって九曜が鉢合わせたか……」
 玄武院は舌を鳴らす。
「彼女は避難誘導のため一人で行動しています。急ぎましょう」
 機嶋は玄武院に移動をうながし、自らも3階へと急いだ。
「3階か……。ここからは結構離れてるな」
 紅葉は体育館の入り口から校舎を眺めながら小さくつぶやく。
「僕はディアボロ討伐へ向かうけど、終わるまでここから出ちゃダメだよ!」
 体育館内へ避難を終えている教員、生徒に向かって言い残すと、紅葉も校舎3階へと全速力で移動を開始した。


「これは、ちょっとヤバいの……」
 九曜は苦戦を強いられていた。
 あらかじめ阻霊符を使用していたので、少しは時間稼ぎになるかと思っていたのだが、鉄筋コンクリートの外壁と違い、内壁の材質は脆かったため人狼は壁をぶち破って教室に乱入してきた。
 その攻撃は予想以上に早く、重たかった。
 爪で裂かれた裂かれた九曜の制服は、腹部が血で赤く染まっていた。
 人狼は低いうなり声を上げながら、じりじりと九曜に迫る。
「早く避難するの……っ!」
 廊下でもたついている生徒に向けて言葉を投げ、再び人狼へ射撃を実行した。
 弾丸は確実に人狼の体を刻むが、それに全く動じるようすもなく爪を振り下ろしてくる。
 回避不能と判断した九曜はなんとか銃でそれを受け止めるが、その圧倒的なパワーを殺しきることは出来ず、彼女は身体に新たな傷を増やすことになった。
 九曜の半眼が激痛にゆがむ。これ以上の攻撃に耐えられそうにもない。
「待たせた」
 淡々としたその声は、半ば倒される覚悟を決めた九曜にとって救いの声に聞こえた。
「こいつの相手は私に任せ、いったん後退するんだ」
 水無月は九曜から人狼を引きはなすように割ってはいる。
「わかったの」
 九曜は牽制射撃をしながら後退した。
「悪いがこれ以上犠牲を出す訳にもいかないのでな……。せめてもの手向けだ……すぐ終わらせる」
 そう言うと、水無月は打刀を構えなおす。
「良く一人で頑張ったな。平気か?」
 諸葛は後退してきた九曜の治療をはじめた。
「ありがとうなの、モロクズ。助かったの」
 癒しの光に包まれた九曜の傷口はみるみるうちに塞がっていくが、傷口はどれも深く、治療には時間がかかりそうだ。
 人狼は乱入者に向かって爪を振るった。
 水無月はそれをぎりぎりでいなし、返す刀で人狼を斬りつける。
 切っ先は人狼のわき腹を切り裂き、鮮血がほとばしった。
「お待たせしました」
「狼は森に帰るがいい。さもなければ土に還れ」
 夏野と鷺谷も到着する。
 鷺谷はウォーハンマーを展開して人狼へと肉薄を試みた。
「星の力よ、貫くのっ!」
 九曜が鷺谷を援護するようにライフルを放つ。
 放たれた弾丸は光を尾をひき、人狼の肩を貫いた。
 肩を貫かれた人狼は、よろけながら数歩後ずさる。
 その隙を突き、鷺谷はウォーハンマーを振るった。
 部位破壊を狙ったそれは、しかし人狼の強靭な肉体に阻まれ思うようにダメージを与えられない。
 人狼は咆哮をあげながら鷺谷へと襲いかかった。
 人狼の素早い攻撃を避けそこねた鷺谷は、背中を大きく裂かれてしまう。
 服が裂け、血花が咲いた。
「これだと取り回しが不利なようだな」
 鷺谷は痛みに顔をゆがめるわけでもなく、不敵な笑みを浮かべながら、得物をジャマダハルに変える。
 蛍丸を展開した夏野は、人狼の足を狙って刀を払うが回避されてしまった。
 続く水無月の斬撃も避けられる。
「遅れました」
 遅れて到着した機嶋が魔力を込めた飛燕翔扇を放った。
 飛燕翔扇は人狼をかすめるだけにとどまったが、人狼のリズムを崩すことには成功する。
「ホゥアッター!」
 続けて飛び込んできた玄武院は、強烈な掌底打ちを炸裂させた。
 窓際まで吹っ飛ばされる人狼。
「派手に暴れたようだが……ここまでだ」
 玄武院は吹っ飛ばした人狼を見据えながら、指の関節をボキボキ鳴らす。
 人狼は咆哮をあげ、渾身の力を込めた一撃を玄武院にむけて放った。
 爪は玄武院の体に食い込み、胸元を引き裂いて血を滴らせる。
 玄武院は胸元に刻まれた傷を親指でなで、指先についた血を口に運んでから吐き捨てた。
 そして、低いうなり声を上げながら全身の筋肉を隆起させる。
「……楯破掌! ……破ッ!!」
 再び強烈な掌底を炸裂させ、人狼を吹っ飛ばした。
「今だ、たたみ掛けるぞ」
 水無瀬は、壁に叩きつけられて大きく体勢を崩した人狼に斬りかかる。
「私の前から……消えなさいっ!」
 蛍丸を展開した機嶋は、刀身に白く輝くアウルの光を宿し、それを人狼へと叩きつけた。
 天の属性を持つその攻撃は、人狼の体を深く切り裂く。
 その後、撃退士たちの攻撃は次々と炸裂していった。
 満身創痍になった人狼は、ひときわ大きな咆哮とともに最後の力を振り絞って強烈な一撃を繰りだす。
 だが、その攻撃は夏野が展開したカイトシールドによって阻まれた。
「どうすれば……あなたを救えるの……」
 秋野は悲しげな表情を浮かべてぽつりと呟く。
「遅ればせながら、僕登場!」
 ここで、この場所から一番遠くにいた紅葉が到着した。
「殘月光冷やかに、狂疾に因りて殊類と成り、相仍りて逃がるべからず。爪牙、誰か敢て敵せん――オン バザラ アラタンノウ オンタラク……ソワカ!!」
 祝詞を唱え、グレートソードを展開する。
 祝詞によって虎と化した紅葉は、人狼との間合いを一気に踏み込み、強烈な一撃を人狼へと叩き込んだ。
 人狼は断末魔の咆哮をあげ、そのまま仰け反るように倒れ、そのまま動かなくなる。
 人狼の死体は、みるみる人間の姿へと変貌していった。


「……この人、学校の生徒だったのかな」
 打刀を静かに納刀しながら紅葉が呟く。
 そこに横たわっているのは、男性にしてはやや小柄な少年の遺体だった。
「…………」
 秋野は複雑な表情を浮かべながら少年の遺体を見下ろす。
 ディアボロになった者を救うには、倒してやる以外に方法はない。
 それは分かっているが、だからといってやるせない気持ちが消えるわけでもなかった。
 玄武院は少年の遺体に対し、静かに黙祷をささげている。
「……うん、後悔はしないよ。それでも僕は護るから……だから、今は眠っていてね」
 紅葉が少年に祈りをささげようとしたとき、唐突にそれは現れた。
「人間っつー生き物は、本当に見てて飽きねぇな」
 窓際に腰掛ける鮮やかな金髪を持った青年。
「悪魔……だと」
 諸葛が声を絞り出すようにつぶやいた。
「復讐のために力を求めたくせに、その力で大切なもんをぶっ壊しちまった途端に自我を崩壊させる」
 首にさげられたシルバーのファングネックレスが太陽の光を反射させる。
「かたや、化け物として全力で殺しておきながら、人間の姿に戻ったら祈りをささげるとか、俺には理解しがたい、実に興味深い行動だな」
 その背中からはコウモリの翼が生えている。
「どういう経緯があったにせよ、悪魔に力を求めた時点でこいつには同情の余地も無い」
 淡々と吐き捨てる水無月だが、剣を握る手には力が込められている。
「好きだぜ? そういうの。ぶっ壊したくなるくらいにな」
 青年が邪悪な笑みを浮かべる。
「悪魔め、消え失せなさいっ!」
 機嶋が問答無用で斬りかかった。
 だが、青年はそれを素手で受け止める。
「威勢の良いガキだな。ま、嫌いじゃねぇな」
「くっ」
 圧倒的な力の差、圧倒的な威圧感。その存在自体が周囲に絶望をまき散らす。
「何を……しにきたの……?」
「そいつの事が気に入っちまってな。だから回収にきた」
 少年の遺体を指しながら九曜の問いかけに答えた。
 剣を払って機嶋を壁へと吹き飛ばし、少年の遺体にゆっくりと近づく。
「……渡さない!」
 夏野が竦む足を奮い立たせて立ちはだかる。
「俺とそいつの間には契約が成されてるんだ。つまり、それは既に俺の所有物ってことだ」
 夏野の横を素通りし、少年の遺体を担ぎあげる。
「待て!」
 よろよろと立ち上がった機嶋が叫んだ。だが、青年に見据えられて動けなくなる。
「お前ら、俺を前にして頑張ってるから、特別に俺の名を教えてやるぜ。俺の名はヴァナルガンド。お前ら撃退士とは、また遊んでやるから、それまでにもう少し強くなってろよ」
 そして、笑いながら教室の窓を飛び降り、裏山へと消えていった。
「あれが……悪魔の力か……」
 ヴァナルカンドが去ったあと、玄武院の背中からはどっと冷や汗が噴き出した。
 結局、最後に少年をディアボロ化させた悪魔本人が現れるという予想外の展開こそあったが、撃退士の手際よい働きによって生徒への被害は最小限に食い止めることに成功した。
 生徒や教員たちから感謝の言葉をおくられたあと、撃退士たちはそれぞれ複雑な想いを胸に帰還の途についたのだった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

戦王の風格・
玄武院 拳士狼(ja0053)

大学部5年107組 男 阿修羅
堅刃の真榊・
紅葉 虎葵(ja0059)

卒業 女 ディバインナイト
『四神』白き虎、紅に染め・
諸葛 翔(ja0352)

大学部3年31組 男 アストラルヴァンガード
秘密は僕の玩具・
九曜 昴(ja0586)

大学部4年131組 女 インフィルトレイター
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
郷の守り人・
水無月 神奈(ja0914)

大学部6年4組 女 ルインズブレイド
心の盾は砕けない・
翡翠 雪(ja6883)

卒業 女 アストラルヴァンガード