・早朝、始業前
姫路 ほむら(
ja5415)はその日妙に寝起きがよかった。
珍しく目覚ましが鳴る前、ついでに言えば同室の人間が起きる前に起きられたのだ。
仕方なしに、自分で朝食を準備する。
するとどういうわけか、まっとうなトーストが焼きあがった。
はて、普段と違うような‥‥? などと思いながら朝食を食べ、登校の準備をする。
ためらいなく男子制服に袖を通し、外に出る。
すると同じ寮のレギス・アルバトレ(
ja2302)の部屋から、
「う、嘘だろー!?」
という叫び声が聞こえてきた。
当のレギスの方は、自身の身に起きた事態に軽く混乱していた。
おかしい、自分は確かに昨日まで女だったはずだ、格好はともかく。
ところが朝起きてみると、上がしぼんで下が膨らんでいた。
一体どうゆうことかと頭を抱えるが、その間にも時間は過ぎてゆく。
仕方なしに着替えて学校へ、一日このままか、という諦めと、なんとか原因を探らねばという覚悟をあわせて向かった。
・登校中
ほむらが通学していると、学年問わず女生徒から黄色い声が上がる、いくらかの年上の男子生徒が怨嗟の視線を大人げなく向けてくるが、どうにもそれすら心地いい。
「ああ、ほむら様今日もお美しい‥‥」
「付き合ってる人とかいらっしゃるのかしら?」
女生徒の囁きを聞いて、ああ、同性から向けられる恋慕の視線が無い、ようやっと自分のことを周囲も男として認識したか。
そんなことを考えながら登校していると、学園の時計が左回りに回っていて故障中の張り紙がしてあった
宮田 紗里奈(
ja3561)はその日浮かれていた。
たまたま授業が休講になり、恋人と休みが重なったのだ。
「二人とも授業のない日、なんて、滅多にない、のですから、して」
今朝方そう言って恋人に連絡を取り、デートをしようということになったのだが‥‥
学校に着くと、校舎中の時計に故障中の張り紙がしてあり、針が逆回転していた。
「時計が、逆‥‥?」
妙な胸騒ぎを覚えたが、気を取り直して待ち合わせ場所に向かった
・授業開始〜
どうやらおかしいのは自分だけではないようだ。
レギスはそう結論づけた。
何しろ、SHRからして、担任が教室を間違えるというヘマをやらかしたのだ。
ついでに休み時間には、女子トイレに入って顰蹙を買っていた男子中学生(喜屋武 響(
ja1076))に知り合いと間違えて声をかけられたり。
(当の本人は「あ、ああああの、ご、ごめんなさいーっ!」と真っ赤になりながら慌てて走り去っていったが)
少々露出過多な服装の大学生(沙耶(
ja0630))が校舎に迷い込んでいたり。
廊下では逆立ちして女生徒に迫る男子を成敗したら、女子に囲まれて辟易したり。
そんなこんなで、自身の身に起きた自体の手がかりでもないかと図書館に来てみたものの、こっちでも案の定大変なことになっていた。
「あ、あれ?」
そんな声のした方を見ると、女生徒(森部エイミー(
ja6516))が手にとった魔装一覧の本が、近代軍装史になっていた。
ついでに背表紙の向きが逆さまに本棚に入っている位はまだましな方で、幻想文学の棚に収まっている鉄道時刻表や地図、魔法関連が収まるべきところに物理の参考書が収まっていて、さらには検索情報では返却済みの本が存在しなかったり、司書の先生や図書委員がかわいそうになるほどの惨状である。
これでは調べ物をできる状況ではなさそうだと、レギスは今日何度目になるかわからないため息をついた。
紗理奈の抱いた嫌な予感はものの見事に的中していた。
待ち合わせの場所の屋上に向かっていたはずなのであるが、どういうわけか、たどり着かない、確かに自分は屋上へ向かう階段を上っていたはずなのだが、気がついたら正面玄関に出る階段を下っていた。
恐く、誰かに言っても信じてもらえない事態である、何しろ自分自身が何が起こっているのかわからないのだから。
気を取り直してまた階段を上り始めるが、やっぱり気がつくと降りている、そんな状況が何度か続く。
瞬間移動だとかゲートのちょっとした応用だとか、そんなちゃちなものでは断じてない事態に疲れた紗理奈は、とりあえず待ち合わせ場所の変更を恋人に伝えるために、食堂で一休みしていた。
「はい、待ち合わせの場所、校舎の入口、に変えて欲しい、のですが‥‥」
電話で恋人から了承の旨貰えた紗理奈は、いつも以上に騒々しい食堂内を見回してみた。
どうやら券売機がおかしいらしく、希望するメニューが出てこないなんて状況が、そこらじゅうで起きている。
近くに座った男子中学生が頼んだソースカツ丼には、どう間違えたのかめんつゆがかかっていた。
(最も当の本人は「あ、でもこれはこれで」と言って元気よくかき込んでいたが‥‥)
また、食堂の外に目を移すと、一見冷たそうな顔立ちの女性が歌を歌っているが、内容の方は服装の方に似合った激しい曲調の洋楽で(どうやらイギリスのロックバンドの曲のようだ)、どうにもちぐはぐな印象を受けたが、まあそんなものだろうと思考の縁に追いやる。
ともかく、待ち合わせ場所に向かわねばと紗理奈は立ち上がり歩き出した。
ほむらが放課後向かったお菓子部では、どうにも周りと違った人が待っていた。
部員の大谷 知夏(
ja0041)が大量の飲食物を持ち込んでいた。
曰く、あべこべになったら甘くなりそうなものを、片端から集めてみたっす!
とのことだが、どういう事だろうか? 確かに学園中の様子がどこかおかしかった(みんな何がしか間違いや失敗を繰り広げていた)が、さすがにそんなところまで間違えているとは思えないのだが‥‥考えていると
それでも、いやいや、知夏の推理が正しければ、普段苦かったり辛かったりするものも、きっと甘くなっているっす! と豪語している。
まあ、それでは普段甘いものは塩っ辛くなっているのか、などと思いつつ、部長の二階堂 かざね(
ja0536)がお菓子を作っている厨房へ足を踏み入れる。
「あ、ほむらくんも後で食べてね?」
ひと足先に完成したかざねが、ほむらに声をかけて完成したブツを知夏に渡しに行った。
普段なら自分も失敗作(粘着性の何か)しか作れないはずだが、いや今日こそは、と気合を入れるほむら。
一方厨房の外では、かざねの作ったお菓子を食べた知夏が、最初は、
「おお、予想通り美味っす! これならいくらでも‥‥」
と、調子のいいことを言って、それにかざねも当然とばかりに喜んでいたが、しばらくすると、
「あ、あれ、体がしびれてきたような‥‥はっ、もしや即効性から、遅効性の異次元料理に変わっただけっすか!?」
と言ったかとおもうと、ぐおーとも、ぬおーとも、表現しきれない断末魔を上げ悶絶していた。
(また、かざねはそれを見て、可愛らしく、ぐお〜♪ と同じような声を上げていたが‥‥)
とまあ、そんな喧騒をBGMに調理を進める。
そして出来上がったものは、至極まっとうな洋菓子、見た目だけでなく、味も問題なさそうである。
ついにやった、日頃の努力が実を結んだのだと、ほむらは歓声を上げた。
「どうして、たどり着けない、ので、しょう。 今すぐ、会いたい‥‥」
食堂からでて、再び待ち合わせ場所に向かった紗理奈は半べそをかきながら、弱音を吐いていた。
あのあと、今度は食堂から1階に降りる階段を下っていたと思ったら、上の階に向かう階段を上っていた。
いかんいかん、と気を取り直して再び下ってみても、やはり気がつくと階段を上がっている。
もういい加減頭がどうにかなりそうな状態に、精神的に限界に来ていた紗理奈はふと、踊り場の窓から外に身を乗り出してみた、ひょっとしたら恋人が下にいるかもしれない、そう思って携帯片手に下を覗き込む、その時うっかり携帯が手から離れ落下していく、そして落ちていった携帯が消えたかと思うと、紗理奈の頭上に現れ‥‥
・4月1日早朝
「‥‥痛い」
紗理奈はベットから落ちた状態で目を覚ました。
相当暴れたのか、寝具はぐちゃぐちゃになっている。
かざねと知夏はほぼ同時に妙なうめき声を上げているところを起こされた。
レギスは目を覚ますなり胸のあたりを慌てて触ってみた、ちゃんと膨らんでいた。
沙那や響、エイミーを筆頭とした複数の人物も、どうにも妙な記憶があることに寝起きのはっきりとしない頭で思い当たる。
最後に歓声を上げているところを、同室の先輩にたたき起こされたほむらが、ぼんやりとした頭のまま言葉を発した瞬間、皆の口から同じセリフがこぼれた。
「なんだゆめか」