●控え席にて
「三枝先生、五行説によりますと鬼も豆も金行を象徴するもので、火で 豆を炒る事で豆は火克金となり、金行の鬼を克服する 。 と聞き及んでおりますが、今回豆を炒る作業は必要でしょうか?」
「うん、いい質問だね御堂(御堂・玲獅(
ja0388))君、今回使用する豆は、すでに炒ったものを使用しているのでその心配はない、また、五行説以外にも、炒り豆を用いるのは、豆と共に投げ捨てた厄が目を出さないように、という意味もあると言われている、そもそも、節分の起源は、宮中の年中行事であり、それが庶民に広がった結果、今のような形になったと言われている、それから‥‥」
ゼミ生と受講生の銃撃戦(笑)が行われている横では、出番待ちの生徒に対する講義が舞台スペースを用いて行われている。
後ろの方がドタバタとうるさいが、真面目に聞こうと思っている生徒には聞こえるもんである。
そして出番待ちの生徒の中には、
「なんていうか、三枝先生は災難ですね‥‥」
「ボクが企画したわけじゃないけど、なんだか申し訳なく思えてくるよ‥‥」
とイアン・J・アルビス(
ja0084)や桐原 雅(
ja1822)のように、教授に同情的なものもいれば、
「うっはー久遠が原の豆まきスゲー! まぁー尽力するわ」
「豆まきサバイバルか〜」
ケタケタと笑う金鞍 馬頭鬼(
ja2735)やどこか楽しそうな遊間 蓮(
ja5269)のような者もいて、
「先輩方の胸を借りるつもりで、今回は頑張らせていただきます」
桜宮 有栖(
ja4490)のように微妙に趣旨を取り違えている、といいきれないものなど‥‥
学園らしい、雑多な生徒で溢れていた。
また、なんだかんだ言いながら、みんな楽しむ気満々で、やめようという生徒はいないところも、学園らしいといえばらしい、と付け加えておく。
「あー、ちなみに言っておくが、MAMEMAKI≠豆まきなので、そこのところ留意しておくように」
●そんなこんなで‥‥
『さあ、三枝ゼミ対歴史民俗学講義の豆MAMEMAKIサバイバルもいよいよ最終戦、ここまで勝率は五対五の引き分け、この一戦で勝者が決まります!』
“私は快楽主義者のお祭り馬鹿です”とのプラカードをぶら下げられた司会のゼミ生のアナウンスにより、MAMEMAKI大会の最後の戦いが幕を開けた。
「それではみなさん、やるからには勝ちを狙って参りましょうか」
桜宮の一言共に、白組も配置につく。
まず動いたのは白組の桐原・イアンペア、白組はツーマンセル×3組で戦いを挑むようだ。
「カバーします、行ってください!」
「お願いするよアルビスさん」
壁から壁へ光纏の光を出したり消したりしながら、相手を幻惑するように移動する桐原、それに追従しながら、敵が仕掛けてくるのをイアンが待ち構える。
そんな桐原の行動に誘われるように、AK豆小銃を構えた紅組も動き出す。
「行動開始、捕虜はいらんぞ同志!」
「ウラーーーー!」
「ウラーーー!」
一応言っておくが、ここは東部戦線やインドシナ半島の密林ではない。
気を取り直して、若干ではあるが突出した形になった桐原・イアンペアに、紅組の注意が向く。
それに呼応するように動いたのは御堂・金鞍ペア、手鏡などを利用して壁の影から向こうを伺っていると紅組の面々が壁の影から出てくるのが見えた、御堂にそのことを伝えられた金鞍がスマホの録音機能を使い、ひと芝居うつ
「もしもし、今取り込んでて‥‥え? 聞こえない? いやだから今取り込んでて!」
大きな声のした方に紅組の注意がむいた瞬間、
「今です」
御堂が壁から銃身だけを突き出して紅組に豆を射掛ける、命中弾こそないが、紅組は慌てて元いた壁の向こうに隠れ、余計に正面方向に警戒をしだす。
微妙な差ではあるが、最後に動いたのが桜宮・遊間ペア、
「遊間さん、お願いしますわ」
「まかせてよぉ」
遊間の力を借りて壁の上に登った桜宮は、慌てて隠れた紅組がスリーマンセル2組であることを確認、わざとらしく傘を広げ、敵の目がむいたところで、優雅に一礼し撃たれるよりかは早く地上に降りる、それと同時に、分かったことを携帯のメールで味方に伝える。
そして、敵の注意がそれていることに気がついた遊間が、回り込むように移動・接近、その際わざと目立つように、持っていた鏡を光らせながら移動し、敵の注意を惹きつける。
当然ながら、そんなことをすれば攻撃が集中するのだが、咄嗟に放たれた炒り豆は、全てあさっての方向に飛んでいく、
「へったくそ〜」
馬鹿にされたと感じた紅組が遊間にさらに注意を向ける中、更に桐原・イアンペアが動く、桐原が壁から飛び出す‥‥と見せかけて移動せず、その間にイアンが適度な距離を保ちつつ回り込むように行動、
「この隙に、後ろを取らせてもらいます」
その間も御堂・金鞍ペアが壁の影から紅組に狙いを付け、散発的な射撃を続ける。
「こちらにもいますよ?」
「やらせねーよ?」
紅組は、正面から撃たれ続けたせいで、左右方向への警戒を怠っていた。
結果、紅組が気づいたときには、白組に包囲される形になっていた。
慌てて背後に回った相手に対応しようとする紅組の面々だが、その間に御堂・金鞍ペアが距離を詰める。
さらに桐原・桜宮の両名がペアの相手に追いつこうと動いた。
これで紅組は、相手は後ろからくるものと勘違いしてしまった。
御堂・金鞍ペアも後ろに回り込むものと考えたのだ。
「鬼は外、福は内」
壁を背にして、背後の警戒をおろそかにした紅組に、御堂が、途中で拾い集めた豆を上に向かってばらまいた。
当然投げられたものは、放物線を描いて落ちてくるわけで‥‥
「なんだこれは!?」
「魔女のばあさんの呪か!?」
突然の空襲に慌てたのか、思わず壁からはい出てくる紅組、そこに、
「油断は禁物ですよ?」
「あったれ〜!」
「これで終わりです!」
白組から集中砲火が放たれる。
「ヒットー!」
「こっちもヒットー!」
一気に数の減る紅組、咄嗟に行なった反撃でいくらか命中弾は出すものの、むしろ、相手を怒らせる結果になり‥‥
「いったぁ‥‥もう怒った!」
特に遊間あたりは、おでこにあたってしまったのがお気に召さないようで、小銃を2挺使って弾幕をさらに厚くしてきた。
結果‥‥
「ヒットつってんだろー!」
「やめろー、叩くなー、俺は死体だー!?」
金鞍を筆頭に、距離を詰めての白兵戦にまで持ち込まれ、哀れ、紅組は一網打尽にされてしまった。
『試合〜終〜了〜! 受講生側の華麗な連携に、ゼミ生一方的に敗北しました! 最終的にゼミ生:受講生の勝率5:6により、MAMEMAKI大会は受講生の勝利に終わりました!』
司会のゼミ生が興奮したように告げる。
こうして、一部の暴走から始まったMAMEMAKI大会は、一応の決着を見た。
ひとりの教授の、怒りのやり場を残したまま‥‥
●兵(?)どもの夢の跡
「さて、豆まきの後は、(数え)歳の数だけ撒いた豆を食べよう、歳の数より1つ多く食べると、無病息災がかなうと言われる地域もあるぞ。 あと、食堂にお願いして、恵方巻きも用意してもらった、みんなで食べてくれ、ちなみにこれは、もともと大阪の方の風習で‥‥」
「先生。お疲れ様です‥‥楽しかったですよ‥‥?」
「お疲れさまでした‥‥」
イアンと桜宮が、豆を食べながら微妙に引きつった笑顔を教授に向ける。
やりきった顔をした教授の後ろには、天井から吊るされ
“私は敗北主義者です”
“私は伝統行事を茶化した大馬鹿者です”
“私は教授に逆らった愚か者です”
などといったプラカードを首から下げられ鬼のお面まで付けられたゼミ生に、福は内、鬼は外の声と共に豆を投げつている桐原ほか数名の姿があった。
追伸
なお、片付けはゼミ生がその格好のままで、総出でやらされたそうである。
さらに追伸
「敗北だ、次は負けんぞ同志!」
「ウラーーー!」
彼らは懲りていないようである‥‥