●着ぐるみ舞踏会
設置されたテーブルの上に並べられたお菓子とジュース。流れる音楽。そんな中を楽しそうに(?)歩く着ぐるみたち。
やや奇妙な光景であることは間違いないが、子供が見たら大喜びするかもしれない。
そんなどこかメルヘンチックな会場の隅には電柱のオブジェ……いや、違う。鎌海 健人(jz0081)がいた。
今は完全に手足を引っ込めているため、見る方角によってはオブジェに見える。どうやら参加したものの、後一歩の勇気がなく壁の花になっているようだった。
「お友達、いない。食べ歩きもダンボーじゃ無理。ん〜何しましょうか」
ぶつぶつと呟きながら近くを通りがかったアーレイ・バーグ(
ja0276)は、その素晴らしいぼでぃをダンボールの中に押し込めていた。その名も……『ダンボー』!
ダンボーは、きょろきょろと会場を見まわした後、電柱を発見した。
「電柱さんお一人? 着ぐるみだとそもそもものが食べれませんよねー」
名前が長かったので電柱と呼びかけると、心なし電柱がしぼんだ気がする。
電柱はダンボーの声に手を生やし、口元のチャックを開いた。ぱくぱくと口を動かして、プラカードを出す。
【これで食べられます】
「チャックはそのためだったんですか」
納得しているダンボーに、電柱が「自分が喋られないこと」を説明した。どこかおびえた様子を見せるが、ダンボーのあまり気にしていない様子に少し肩から力を抜く。
「いやーそれにしても、暇ですね……女友達がいたら紹介してあげても良いのですが……デスソース料理が得意な知り合いならいますけど」
【ですそーす?】
「おや、知らないんですか? デスソースとはですねぇ」
デスソースの説明をダンボーがし始めた時、ドラム缶がやってきた。
ドラム缶の着ぐるみを身に付けたルーナ(
ja7989)だ。名札には『ドラムーナ』とある。
(お菓子いっぱいあるんだ。私、いっぱい食べるんだ)
花より団子、色気より食い気。なドラムーナは片手にジュース、もう一方の手にお菓子を持ち、食べ歩きを満喫していた。
「あれも美味しそう。……うん。美味しい。あ! あれも……ん?」
そんなドラムーナと電柱の目があった。ドラムーナの目が据わる。電柱がびくつく。
「お菓子、美味しいよ? 食べる? ジュースもたくさんあるよ。飲む?」
返答のために電柱がプラカードに文字を書こうとすると、
「私のジュースが飲めないって言うのかー!」
ドラムーナが開かれたチャックの隙間からジュースのビンを突っ込んだ。電柱が両手足をばたつかせる。
「あははははっ飲むんだーー」
完全に酔っぱらいである。
だが会場にお酒はなく、そして持ち込みも禁止。ドラムーナもお酒は飲んでいない。ならなぜかというと、
(ドSなんだよ! ボク!)
なるほど! 納得した。
「楽しそうですねぇ。あ。次はお菓子でどうですか?」
「うん。ありがとう」
ダンボーがにこやかにお菓子をドラムーナに手渡す。チームワークはばっちりだ。
危機感を覚えた電柱は、
【ととっトイレ行ってきます!】
慌てて逃げ出した。
しかし、緊張は大分ほぐれたようだった。
●
会場には多種多様な着ぐるみが勢ぞろいしていた。
参加者の1人、アトリアーナ(
ja1403)もデフォルメされた栗、という変わった着ぐるみを身に着けていた。
名前は、『栗太郎マークツー』。……ワンがあるかは不明。
栗太郎マークツーは、着ぐるみ観察をしていたのだが、そんな彼女に一輪の花が差し出された。
見上げた先にはすみれ色の大きな洋菊が揺れている。頭から足元の部分は茎を現しているのか緑色。『ばいおれっと』と名乗っている菊開 すみれ(
ja6392)だ。
ぼっちなあの人やこの人やあ〜んな人に花を配っている。
「お花はいりませんか? たったの1久遠ですよ?」
「金取るのかよ!」
思わず通りすがりの誰かがそう突っ込んだ。しかし、差し出された栗太郎マークツーは、じっと顔(であろう部分)を見つめ、ぽつりとつぶやく。
「……もしかして、すみれ?」
ぎくん。
「チガイマスヨー。ワタシ、キクサキではナイデスヨー」
すみれ、と聞かれてキクサキと答えれば、同意しているのを意味しているが、ばいおれっとは身体を大げさに動かして否定し、そそくさと逃走した。
追いかけようとした栗太郎マークツーだったが、ある着ぐるみに目を引かれて動きを止めた。
一瞬『本物か』と見間違えそうなほどリアルな熊の着ぐるみである。
表面の毛皮は本物で、目の部分も生きているかのように精巧だ。赤いジャケットを着ている辺りが、唯一着ぐるみらしさを持っていた。
中の人は雫(
ja1894)。名札には『くまの……』。
ぴんぽんぱんぽーん。
大変申し訳ありませんが大人の事情により、クマさんとさせていただきます。
ぴんぽんぱんぽん。
「……これは良い作りなの」
「ありがとうございます。そちらも……栗太郎さんのもすごく可愛いですね」
「ありがとうなの」
お菓子を食べているクマさんに近づき、一緒にお菓子を食べながら楽しく着ぐるみ観察をする。
一方の『ばいおれっと』は、がつがつがつがつとひたすらにお菓子を食べているカエルに近づいた。
「お花はいりませんか? たったの1久遠ですよ?」
コック帽をかぶったカエル、『げろげろキッチン』こと鳥海 月花(
ja1538)は、ばいおれっとを見て、口を開き。
「げろっぱ」
「きゃ」
ラッパのような音を立てながら舌を伸ばした。仕掛けをしていたらしい。驚いたばいおれっとに、着ぐるみがどや顔をした気がする。
そしてまた食事に戻る。てっきり、その口から食べるのかと思いきや、頭を少し持ち上げ、その隙間から素早く、的確に物を口へと運んでいた。
夢見る子供たちの夢を壊さずに食事するとは、こいつ。できる!
ごくり。
と、ばいおれっとが息を飲んだかは定かではないが、兎にも角にもお花を渡し、恋人と参加できなかった寂しさをお菓子へと向けていたげろげろキッチンの心を慰めることに成功した。
「着ぐるみ着用とは面倒だな。まあ、タダで飲み食いできるなら文句は無いが」
黄色のキツネ――アホ毛が突き出ているのは、つっこんではいけない――を身に付けた殺村 凶子(
ja5776)がお菓子を食べながら呟く。沢渡真琴(さわたりまこと)という偽名で参加している彼女は、食事目当てのようだった。
お菓子は着ぐるみの口から入れ、ジュースはストローを使って飲んでいる。
食事だけに専念していたことと、もともと大食いでもないため、ある程度食べたところで食欲は落ち着いた。
そこで、とぼとぼと歩いている電柱が目に入る。しきりとお腹をさすっている。
「あははっ♪ なにしてんの〜?」
普段とはまるで違うキャラで話しかける真琴。演じきっているらしい。
【ジュースを飲み過ぎてお腹がたぷたぷしてます】
「え〜、大丈夫〜?」
そうして会話している2人に、声がかけられる。
「あの……一枚、いいですか、なの」
栗太郎マークツーだ。可愛いキツネに心ひかれたらしい。栗太郎の横にはクマさんもいる。
「いいよ〜。可愛く撮ってね」
【あ。じゃあ僕が写真を】
「せっかくだし、みなさんで撮りませんか?」
電柱が写真を撮ろうとしたがせっかくだから、と4人で撮ることに。
栗と電柱とキツネとリアル熊、というよく分からない一枚ができた。
●
再び1人で会場にぽつんと佇んでいた電柱……と似た境遇の人物がいた。
(他の人と話したいけど、うまく話せるかな?)
美術室にいる黒やぎさんの格好をした冬樹 巽(
ja8798)は、胸に『くろろん』と書かれた名札を付け、ホワイトボードとペンを手にうろうろとしていた。話しかけようと何度か他の人に近づくものの、きっかけがつかめず断念を繰り返す。
そんなくろろんは、同じような動きをしている電柱に気付いた。
『はじめまして』
ホワイトボードに文字を書いて電柱に見せる。電柱もまた、【はじめまして】とプラカードを掲げた。
人見知りする彼らだが、人見知り同士、何か共感でも覚えたのか。文字での会話ではあったものの、スムーズに会話している。
会場の隅っこで!
「動物以外にも種類が豊富ですね……っと、あれは」
デフォルメされたハリネズミ、ハリーこと楯清十郎(
ja2990)がそんな2人に気付いた。ふむ、と頷いた後、2人へとゆっくり近づく。
「ここに来たけど壁際にいるってことは、人に近づくのが怖いけど友達が欲しいってことかな?」
声をかければ、びくつく黒やぎと電柱。どうやら図星らしい。ハリーはなるべく優しい声で続ける。
「ヤマアラシのジレンマってやつですね。僕はハリネズミだけど……もしよかったら、一緒に行きませんか?」
『いいんですかっ?』
【いいんですかっ?】
勢いよく示される文字に、内心苦笑しつつハリーは頷いた。
3人で会場を回って行く。……別に男3人で回ったって寂しくないんだからね!
引っ込み思案組がいる一方で、積極的に周囲と交友を持とうとしている人もいた。
「我輩はホワイトさん! 白さん、クマさんでも構わない、貴方の好みの名前で呼んでくれたまえ、ワハハハ♪」
デフォルメされた白クマの着ぐるみ、ホワイトさんだ。ふわふわもふもふなホワイトさんを操るのは黒百合(
ja0422)。せっかく着ぐるみを着ているのだから、と普段とは違うキャラを演じていた。
「貴方は、アヤメさんか。よし、アヤメさん。このお菓子が中々おすすめなんだが、どうだろう?」
全身を黒い包帯でぐるぐる巻きにし、背中に大きな剣を背負ったアイリス・ルナクルス(
ja1078)――アヤメに明るく話しかけている。
包帯の隙間からのぞくアヤメの赤い目が、不安げに揺らめいた。どこか寂しげな目だ。
手足をばたつかせ、ジェスチャーで何かを伝えようしている。ホワイトさんは、それらを必死に読み解き、大げさに反応する。
「つまり、今口がぱさぱさシているからジュースが欲しい、と。ならばこれがスッキリしているぞ」
一体全体、どうやって伝わったのかは不明だが、アヤメはジュースを受け取り頭を下げた。正解のようだ。
「あの、ホワイトさん? よろしければ触らせてもらっても?」
げろげろキッチンこと月花が、愛らしい姿のホワイトさんに若干目を輝かせながら尋ねると。アヤメの空いたコップにジュースを注いでいたホワイトさんは、「構わない」と頷く。
「で、では……すっごくもふもふです」
すっごく、幸せそうです。
その後、そばを通りかかったキツネの真琴や黙々と食べているアヤメも交えて、会話を楽しんだ。
「ということで、とりあえず踊りませんか?」
何がということで、何がとりあえずかは分からないものの、ふらもの恰好をした大城・博志(
ja0179)が神喰 朔桜(
ja2099)を誘った。
黒猫のフェレスとして参加していた朔桜は、知り合いもおらず暇だったのと、せっかくここに来たのだから、とその手を取ることにした。
着ぐるみというハンデのもと。両者ともに決して動きやすいとは言えなかったが、そこは撃退士。最初こそ戸惑ったものの、すぐにコツをつかみ、華麗にステップを踏んでいく。
終わった後は互いに礼を言い合う。
「ん、ありがとう」
「こっちこそ。楽しかったよ。えーっと、DTSでも行動中、さん?」
「よーし、じゃあ次は……そこのブリキングー! 一緒に踊ろう!」
博志……否。『DTSでも行動中』は、どこかしょんぼりとしたブリキ? の着ぐるみを身に付けた佐藤 としお(
ja2489)ことブリキングに声をかけた。踊る阿呆にみる阿呆ならば小粋に踊らにゃ損だろう、という心情のもと、男であろうと女であろうと気にしないらしい。
積極的に交流を持とうとしていてそれがうまくいっていなかったブリキングは、DTSでも行動中の誘いに乗った。
ブリキのブリキングは、ダンスには自信があった。
社交ダンスとは少々勝手が違ったものの、段々と乗って来たらしい。次第にステップが軽くなる。
ふらもとブリキロボのダンスは、とても楽しそうな雰囲気を醸し出していて、それを見た他の参加者たちも続々と踊りだしたのだった。
踊り終わって再び暇になったフェレスは、そんな2人を眺めていたのだが……うずうずとダンスを眺めている電柱に気付いた。傍にはハリネズミと黒やぎもいる。
「んー……暇、かな?
あっ、私は神じ――……いや、うん。えっと……そうそう。フェレス!」
本名を名乗りそうになって、慌てて偽名を思い出す。
「僕はハリーです」
『くろろんといいます』
【ケントーンジャーです】
「うん。よろしく。ね、よかったら一緒に踊らない?」
自己紹介をし合ったところで、電柱を誘う。ハリーもくろろんも、電柱が踊りたそうにしていたのを知っていたため、「行ってきてください」と優しく背中を押す。
2人の声援に、ケントーンジャーは勇気を出してフェレスの手を取った。
【よ、よろしくお願いします】
「そんなに緊張しなくても……大丈夫。力抜いて」
【はっはい!】
「……ぷっ余計力入ってるよ」
【あう。すみません】
緊張しつつも、どこか嬉しそうな電柱を見て、ハリーとくろろんも嬉しく感じた。
それから自分たちはどうするか、と周囲を見回したその時!
「貴様の魂など食らってくれるわ!」
良く分からない声が聞こえてきた。
首をかしげつつそちらへと顔を向ける。そこにはどこかの海底に眠っていそうな、旧支配者的な宇宙的邪神……の着ぐるみがあった。名札には『宇宙的邪神』。傍に設置された看板には『宇宙的邪神のお悩み相談コーナー』の文字。
舞踏会でお悩み相談コーナーを開催しているらしい。……なぜ?
よく分からないがどうも人気らしく、数人? の着ぐるみたちが列を作っていた。
(悩み……か)
くろろんは、誰かと話すのが苦手だ。人見知りな上に口下手で……そんな自分を変えるために参加したのだ。
『ちょっと、行ってきます』
コーナーに向かって行ったくろろんを見送ったハリー、の傍を通りがかった狐。ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)扮するヴォルペリッサが声をかける。
「あ、ねぇねぇ。そこのジュースとってもらっていい?」
交流を求めてあちこち歩き回っていたので喉が渇いていた。ジュースの近くにいたハリーに頼むと、彼はコップに注いで手渡してくれた。
「ありがと……んー、おいしい」
ほどよく冷えた甘いジュースが身体にしみわたる。飲み食いできるように、と口の部分だけ出ている着ぐるみを探してきたかいがあった。
「格好には気を付けないと、飲み食いが大変とかもありそうだね。えと、ハリーさんは食べられるの?」
「大丈夫ですよ。一応飲もうと思えば飲めますし。お気づかいありがとうございます」
「あ、そうなんだ。……でもこれ、いつもと違う感じでお話したりするのも、楽しいよね」
「たしかに、不思議な感じがしますね」
穏やかに話し合っている2人の元に踊りを終えたフェレスと電柱が戻って来る。
「楽しかったね」
【はい。ありがとうございました】
ダンスを満喫したらしい。顔は見えないが、とても満足そうな雰囲気が漂っていた。
「あ。お疲れ。ジュースいる?」
【もらえますか?】
「はい、どうぞ」
「ありがと」
それから4人で踊ったり話したりと、いつもとは違った交流を楽しむ。
「マスカレードとは少し趣が違うが、悪くない催しだ」
そう呟いたのは正義のヒーロー戦隊(レッド)っぽい恰好のアスハ=タツヒラ(
ja8432)。名札にはハンターレッド、とある。
飲み物を片手に会場の雰囲気を楽しんでいたのだが
「しかし、あそこの電柱は一体何なのだろうか。……って動いた」
たまたま見つけた電柱が動いたことで、参加者の一人だと気づく。周囲には数名が集まっているようだ。
「少し、話しかけてみるのも良いか」
近づいて話しかける。
「電柱の着ぐるみか。中々良い出来だな」
【あ、ありがとうございます】
【ハンターレッドさんも、お似合いです】
ハンターレッドも4人の輪に加わり、ますます和やかな空気がその場に漂い始めた。
●お悩み相談
宇宙的邪神、の中の人。佐倉 哲平(
ja0650)は、やってきた黒やぎの話(筆談)を真剣に聞いていた。
見た目は邪神(アレ)だけど!
「ふむ、そうだな。儂が思うに無理して話そうとせずともよいのではないか?」
上手く話せない、に対する答えはかなりまともだ。
見た目は邪(以下略)。
その後も真剣な相談は続き、終わったころ、くろろんは晴れやかな気持になっていた。
『ありがとうございました』
「うむ。がんばるのだぞ」
最後に声援を送った宇宙的邪神は、次の相談者を呼び、
「貴様の魂など食らってくれるわ!」
と叫んだ。
どうやらお決まりの文句らしいが、近くを通った着ぐるみがびくっとしていた。
『あ、すみません。長々と』
「いえ〜、気にしないでください」
くろろんと入れ違いに宇宙的邪神の前に座ったのは、ふわもこの兎。うさぴょんと偽名を名乗った雪成 藤花(
ja0292)だ。
実は哲平と藤花は知り合いなのだが、着ぐるみ効果か。両者に気付いたそぶりはない。
「質問うさ。ちょっと鈍い片思いの人が振り向いてくれるようになるには、どうしたら良いうさ?」
「う。れ、恋愛の悩みか。う、うむ。そうだな」
うさぴょんの女の子らしい相談内容に、宇宙的邪神がちょっと動揺した。恋愛相談は苦手らしい。
しかしどれだけ苦手だろうと投げ出さず、真剣に考え始める。とても真面目かつ親身だ。宇宙的邪神なのに!
「儂が思うに……」
「ふむふむ、なるほどうさ」
向き合って話しこむ愛らしいウサギと宇宙的邪神。……すごくシュール、でございます。
思わず口調が変わってしまうほどにシュールだ。
「参考になったうさ、ありがとうさー」
最初はどこかしょんぼりとうな垂れていた(ように見えた)ウサギの耳がしゅんと空へと立ち上がる。相談して元気が出たらしい。
宇宙的邪神は、苦手な相談ではあったものの、相談者が元気になったので安堵の息をついた。
●私たちは機材です!
和やかなパーティ会場に、ひっそりと侵入してくる一団がいた。
スポットライト×2。信楽焼の狸×1。電柱×1。電球×2。マイク×1。
明らかに、会場で浮いていた。
しかしその歩みは堂々としている。彼? らは機材。ならば問題はない!
「ふ、見える。見えるぜ」
七種 戒(
ja1267)……げふん。女将軍スポッティが立ち止まった。首をかしげた柊 夜鈴(
ja1014)、スポット大佐がハッとする。
「見えるって、まさか」
「そう。非リアのオーラがな! いくぜ、スポット大佐、デン=チュー!」
「分かりました」
どこかで見たような電柱の着ぐるみを身に付けた夜来野 遥久(
ja6843)は、スポットライトたちの電気供給係として、走りだした女将軍スポッティとスポット大佐の後をついていく。
「そこだぁ!」
叫び声と共に女将軍が照らしたのは……
「マブシイデス」
踊っているブリキングと電柱だった。スポット大佐も同じように2人を照らす。
まさか、誰が見ても非リア充なこの2人を、会場の隅から発見したというのか! くっ。恐るべし。女将軍の(非リアの発見専用)高性能レーダー。
「む。天からも非リアの気配が」
うおっまぶしい!
「大丈夫、いつかいい人が見つかるよ」
スポット大佐が優しく声をかけてくれた。……スポット大佐!
「ま。俺はもういるけど!」
良い笑顔で肩ぽん→ぐはぁっ!?
というやり取りがあったかどうかは、ご想像にお任せするとして。
(スポットライトが僕たちに向けられている……眩しいけど、なんだかすごく楽しくなって来たのであ〜る)
スポットライトの照らす攻撃! ブリキングのテンションが上がった。
「ボクタチ トモダチデアール」
電柱とブリキロボのダンスがヒートアップ。そのうちブリキングはソロで、ロボダンスを披露しはじめる。
会場は大盛り上がりだ。
「大丈夫、いつかいい人が見つかるよ。リア充ってのはいいもんだよ」
大盛り上がりの会場の中、非リアたちを慰めているようでトドメをさしているスポット大佐の周囲は、違う意味で大盛り上がりだった。
「リア充になりたいかー!」
「「「おー」」」
誰が拳を振り上げていたかは、プライバシー保護のため黙秘させていただこう。
と、盛り上がる中。静かに見つめ合っている者たちもいた。
デン=チューと電柱である。つまりは電柱同士である。身長は違うものの、作りはそっくりだ。
「おい、はる……っと、チュー、どこ行ってたんだよ」
そこへ月居 愁也(
ja6837)ことデン=キュー次郎がやってきて、電柱の肩に手を置く。
「え? 電柱が、2人」
まさかのダブル電柱に動きを止めるデン=キュー次郎。そんな電柱たちの後ろには、いつの間にやら信楽焼の狸がひっそりと存在した。
(うん、動きづらいですねコレ)
実は中に石田 神楽(
ja4485)が入っている。無Dに……上手く気配を消し、あからさまに違和感があるのに違和感がないように会場のあちこちに出没していた。カメラで写真を撮った方は、よくその写真を眺めてみよう。もしかしたら、狸が写っているかもしれない。
デン=チューが口を開いた。
「まさか……生き別れの、弟?」
「弟いないだろ! ってかぶふっ」
ツッコミいれてから腹を抱えて爆笑する次郎。電柱は、しばし戸惑いを見せてから、文字を書き始めた。
(たしか、『人と話すコツ109選』によると……こう言う時は、ノリが大事!)
【お、お兄さん!?】
次郎の腹筋が壊れかけた。
●トイレに100Wは無駄なのか否か
ステージ上に置かれた信楽焼の狸……ポンタの頭をデン=キュー太郎こと加倉 一臣(
ja5823)が笑顔で撫でまわす。
「着ぐるみか本人か分からなーい♪」
鼻歌交じりの上機嫌な声だ。
しかし、この時は誰も知らなかったのである。彼のこの声が、絶望に染まることを。
にこにこと中で笑っていた神楽が光纏し、狸の目の穴から赤く染まった瞳を一臣へと向けた。
「何それこわい……」
今先ほどまで元気に輝いていた一臣の光纏が解除され、電球が静かに消灯。代わりに全身に絶望をまとった。
そんな不幸な事故(?)があったかたわらで、マイクのマイキー(小野友真(
ja6901))が声を上げた。
「名実況者、マイキー参上やでー!」
いつの間にか、ステージの上にはデン=チューとデン=キュー次郎がいた。絶望していたデン=キュー太郎が復活し、そこに並ぶ。
やっぱり背後にはポン太がいたが、深く気にしない方が良いのだろう。
音楽に合わせ、電球と電柱が踊りだす。どうやら、ダンスバトルを披露してくれるらしい。
さきほどのブリキングで温まった会場の熱気が、さらに暑苦し……上昇していく。
「フッ……俺をただの絶望戦隊だと思わない方がいい」
最初に仕掛けたのはデン=キュー太郎。セリフから正体ばれそうだが、気にしない。
そんな太郎にこたえるのは、次郎。兄弟(設定)なのかは不明だ。
「どこから見ても本物! 当然100W!」
「おおっと、電球たちがしかけてきた! ダンスと空手を組み合わせた動き、実に素晴らしい! これが撃退士の実力かー!」
ペカーっと光り輝く電球たちが片手の型っぽいものをまぜて激しく、しかし社交ダンスの雰囲気も混ぜながら踊れば、会場から感嘆の声が漏れる。
「あ、でもトイレに100Wは無駄だよな」
「トイレの100W……なるほど、無駄すぎる」
「ああ、たしかにトイレに100Wは無駄やな」
しかしデン=キュー太郎の小さな呟きに、デン=チューとマイキーが同意すると、会場からも無駄コールが上がった。
「無駄とか言うな!」
次郎に大ダメージ。
デン=チューは「揃って絶望的だな」とデン=キューたちを鼻で笑い、指をくいくいと曲げた。
「おおっとこれは電柱の挑発! 電球どう応えるかー!?」
「いい機会だ、その電柱(鼻っ柱)折らせてもらうぜ!」
「電球が挑発に乗った! さあ、この勝負、どうなるー!?」
バトルは白熱した。どきどきはらはらと観客が見守る中、電柱を中心とした扇のポーズが音楽終了と共に決まった。
「最後は……扇、決まりました! 十点です! 競い合った者同士の手を取り合った素晴らしいパフォーマンスです。皆様、どうか彼らに温かい拍手を!」
審査員どこにいたの!?
というツッコミは起きず、みな拍手を送ったのだった。
●仲良く踊ろう!
「よっしゃ。最後のお仕上げだ。機材集合!」
大盛況で幕を閉じたダンスバトルの後、女将軍スポッティが声を張り上げた。ぞろぞろと集まるスポットライトに電球とマイクと電柱と信楽焼の狸。
「アウルパワーがここに、溜まって……ナニ、足りないだと!?」
悔しげな声を上げたスポッティ。
(何してるんだろ)
首をかしげながらそんなスポッティたちを見ていたちっちゃい方の電柱。そんな電柱を発見するスポッティ。
「ケントーンジャーゲットだぜ☆」
一瞬で電柱(弟)をらT……ゆうか……スカウトし、ポン太の横に設置する。
「みんな、ポン太にアウルを!」
「アウルが俺にもっと輝けと囁いている」
デン=キュー太郎をはじめとした機材たちが各々光纏する。電柱(弟)もよく分からぬまま真似をする。
そして、みんなの高まり具合を見てポン太もまた光を纏う。
「わぁー。たぬき光ってるー……」
スポット大佐が驚きの声を上げる。
みんなのアウルを受け取(るのはできないので、そんなように見せている)ったポン太は、それはそれは神々しく輝き、会場内を優しく照らした。
「つーわけで、みんなで踊るぞー!」
「「「おー」」」
「ん。ところでこれ、合コンだった気が」
「合コンなにソレ美味しいのイェア!」
「「「イェア!」」」
「そうか、気のせいか。だよな」
「よっしゃ、じゃあみんな、行くで!」
また流れ出した音楽に合わせ、マイキーが素敵な歌声を披露。そんなマイキーの歌に合わせて皆が踊りだす。
「一緒に踊らない?」
DTSでも行動中が、クマさんへと声をかける。
「あのっ私、ダンス上手く踊れないんですが」
「大丈夫。大丈夫。俺がリードするから」
「じゃあ、お願いします」
お菓子やジュースに心ひかれていたクマさんだったが、着ぐるみを身につけていることで気持ちが楽になったらしい。純粋にダンスを楽しんでいるようだ。
「レディ。僕と踊ってくれませんか?」
ハンターレッドもまた、ダンスへと誘っていた。誘ったのは、花を配り歩いていたばいおれっと。電柱の横に並び
「なんか同じような格好だねー」
と笑っていたところでそう声をかけられ、どきどきしつつも誘いに乗ることにした。淡々とした声のハンターレッドだったが、優しくばいおれっとをリードしていく。ばいおれっとも、段々緊張が解けていった。
電柱は電柱で、勇気を出し
【ヴォルペリッサさん、踊りませんか?】
「うん、いいよー。楽しもうね!」
自ら誘いの声を上げ、踊る。
「君、そんな隅でじっとせずに、私と踊らない?」
「…………」
フェレスが、じっとダンスを見つめるだけのアヤメをダンスへと誘う。アヤメはやはりどこか不安そうな瞳をしていたが、手を引かれて踊りの輪に加わった。
何があったのか。お互いに何も知らない。だがそれでも、少しでもアヤメの気持ちが晴れるといい。
フェレスだけでなく、いろんな人たちがアヤメへ優しく声をかける。
ダンスが終わりに近づいたころ、少しだけ。ほんの少しだけ、アヤメの目が微笑んだという。
「……一枚、いいですか、なの」
「全然オーケイナノデアール」
栗太郎マークツーがロボダンスをしているブリキングを撮影。他にも気に入った着ぐるみを何枚も写真に収め、満足そうである。
そんな横ではげろげろキッチンが、うさぴょんと踊っていた。カエルとウサギのダンス……なんだか絵本の世界のようだ。
「げろっぱ〜」
「楽しいうさね」
普段の姿など関係なく。楽しく踊り、話しあう。いつもとは違う雰囲気を、みんな満喫した。
着ぐるみ舞踏会は、こうして無事に終了したのだった。