.


マスター:舞傘 真紅染
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/05/16


みんなの思い出



オープニング

●合宿へ行こう! 
 それはある日のことだった。

 『春季合宿のおしらせ』

 黒板に大書した教師が向き直り、熱く語りだす。
「諸君らはいついかなる時も、天魔と戦うための修行を欠かしていないと思う。
 しかし、春になり、新しい生活が始まって、多少気が緩んでしまうことがあるだろう。
 天魔はその隙を狙ってくる!故に、春季合宿を行う!」
 背筋を伸ばす生徒達を満足そうに見まわし、教師は詳細を記したプリントを配る。

 行き先は東海地方にある温泉をメインとした複合施設。温泉の他、遊園地、花畑、プール、スイーツ製作体験…等々、豊富なアミューズメントが揃っていた。
 …というより、どう見てもアミューズメントしかない。
「あの、これって遠そ――」
「違う!合宿だ!!」
 一人が恐る恐る尋ねると、教師は断言した。教師が合宿と言うからには合宿なのだ。さすが久遠ヶ原。
 かくして、『合宿』旅行が敢行されたのである。


●これは修行である!
「諸君! 撃退士に必要なのは戦闘能力だけではない。深い山や森の中で敵と戦うこともある。その際に必要なのはサバイバル能力? うむ、それもまた間違いではない!」
 やたらと熱血そうな引率の教師が、誰も何も言っていないのに一人で納得しながら語っている。

「そう――方向感覚だ! これは方向感覚を鍛える修行である!」

 教師がすごいどや顔をした。生徒は、とりあえず「おー」と関心の声を出すことにした。教師の後ろに見える看板に『ミラーハウス』と書かれていようが、そこはやはりつっこんではいけないのだ。
 さすが久遠ヶ原の生徒諸君。良く分かっている。
「ふっふっふ。このミラーハウスはこちらが頼み込んで、撃退士仕様にしてもらっている。なめてかかると痛い目に遭うぞ」
 撃退士仕様のミラーハウスってなんすか?
 なんてことも問いかけたりしない。――内容に関しては、お察しください。

「入口は無数にあるが出口は1つだ。同時にスタートするぞ。
 ああ、単独で入っても、複数で入ってもかまわない。タイムを計るからな。成績優秀者には……ふふ、楽しみにしておくと良い」
 不気味に笑う教師。あまり良い予感がしないのは、なぜだろう。

「いいか!? 最後にもう一度言っておくが、これは修行だ!
 決して中で『いちゃいちゃきゃっきゃうふふ』なことしたり、『モテるためにやたらとがんばった』り、するんじゃないぞ!
 絶対だぞ! べ、別にうらっうらやましくなんか、ないんだからな! 先生だってな、昔は――」

 半べそになった教師は置いておき、修行開始である!


リプレイ本文

●笑顔が一番!
 ミシェル・ギルバート(ja0205)が、スッテーンと転ぶ。
「あぅっ! こ、こんな所に罠だなんてっ!」
「ちょ、ミシェル、大丈夫? っきゃ」
「罠って……お前がドジなだけだろっと。大丈夫か、アシュリ?」
「あ、ありがと」
 そんなミシェルを助けようと駆け寄った同行者、天河アシュリ(ja0397)が同じ場所でこけかけるとカルム・カーセス(ja0429)がミシェルをからかいながら、アシュリの腕を引っ張り転倒を防ぐ。
 立ち上がったミシェルは、見つめ合う2人を微笑ましく見守りつつもつつ、少し羨ましいなと思った。彼女はまだ片思い中なのだ。
 そしてアシュリはそんな視線に気づいて、恥ずかしげに顔をそむけた。カルムは
(こんなところも可愛くて好きなんだよなぁ)
 と、益々見つめるわけだが、
「早く行こう、カルム、ミシェル」
 震えた手で服の裾を掴まれながら言われれば、否とは言えない。3人は再び歩き出す。

「鏡って神秘的。先が、見えない」
「ぅー、鏡たくさん。面白い……けど、早く出たいなぁ。出口どこだしっ」
 やや不安そうなアシュリと楽しそうにしつつもやはり不安の表情を浮かべるミシェル。カルムはそんな2人を励まそうと口を開き、ミシェルの腕を引いた。
「ミシェル!」
「あぅっ?」
 バランスを崩すミシェルを抱きとめながら右手で飛んできた何かを防ぐ。
 ピチュ、ピチュ、ピチュ。
 と、腕に貼りつく感触が。カルムが腕を見てみると、先に吸盤のついたおもちゃの矢が3本、腕にくっついて揺れていた。
「あ、その、ありが」
「なんだよ。これなら防がなくてよかったな」
 感謝を述べようとするミシェルの額に、カルムはニヤっと笑って矢をくっつけた。
「似合ってんじゃねぇか」
「なっ、何するんだし! 似合うわけないし〜」
「いや似合ってる似合ってる」
 からかうカルムに、怒るミシェル。まるで仲の良い兄と妹のような微笑ましい光景。アシュリは2人に何もなかったことを安堵しつつ、心の中ではもやもやを抱えていた。
(あれはミシェルを庇っただけ……だから仕方ないことで)
 分かっていても嫉妬してしまうのが恋というものだ。
 それでも顔には出さないアシュリだったが、ミシェルは何となくその気持ちを読み取って、カルムを突き飛ばした。
「カルムはアシュリを守るんだし!」
「うおっ?」
 背中を押されて一歩踏み出したカルム。その床が、急に動き出した。その先にいるのはアシュリで――。
 床がピタリと止まる。前のめりになったカルムが手をつくと……アシュリの顔が目の前にあった。
「あ」
 そして水が降ってきた。
 頭上にはバケツが見える。二段構えの罠だったらしい。もちろん、カルムもアシュリもびしょぬれだ。
「2人ともだいじょう……あうっ? 何こ……ぶへっ」
 慌てて駆け寄ろうとしたミシェリは、再び何もないところでこけかけて壁に手をつく。と、壁の一部がへこみ、そこから出てきた水鉄砲が彼女の顔に向けて放たれた。
「…………」
 びしょ濡れになった3人の間に、沈黙が降りる。

「…………くくっ」
 だが互いに顔を見合わせた彼らは、同時に噴出した。

 その後、3人は仲良く出口をくぐった。


●全制覇
「方向感覚を鍛える……うちには無理な気がする」
 すでに諦めながら進んでいるのは九十九(ja1149)だ。無理だと思いつつも、彼の態度に常と変った様子はない。
「迷子の特技を持つうちにこの修行は……意味無い気がするのさねぇ」
 そう。もはや特技の域にまで達した彼の『迷子』は、目の前の別れ道を適当に選んだ時にも見て取れる。

 ……九十九さん。ゴールは真逆ですぞ!

 ことごとく正反対のルートを選んでいた彼だが、ふと思いついたことがあったのか。おもむろに、A4サイズの紙とペンを取りだした。
 そして紙に『出口は→』と書いて鏡に貼りつける。そんなことを何度も続けていた九十九だが、次第に筆がノってきた。

『リア充は恋人の名を、非リア充は思いの丈を叫べ』

 貼りつけた紙をどこか満足そうに眺めた後、再びミラーハウス攻略へと乗り出す九十九。

 彼は、ミラーハウス内の『全通路』を制覇してから脱出した。


●メっ!
 スナック菓子の袋が床に転がっていた。
「ん〜っとこれがあるということは、戻ってきちゃったてことよねぇ〜」
「だね。じゃあ、今度はあっちに行ってみる?」
「そうしましょうかぁ〜」
 持ってきたおやつを食べながら歩き、食べ終わった袋を道しるべとしているのは森浦 萌々佳(ja0835)とNicolas huit(ja2921)だ。
 タイムアタックを目指しているわけではないらしく、歩みはゆっくりだ。
「バナナっておやつに入りますかね〜?」
 私は入ると思います。
(バナナの皮とか置いたら誰か引っ掛かってくれるかしら〜?)

 萌々佳は『バナナの罠』を設置した!(置いただけ)。

「また別れ道か。僕は……こっちだと思う」
「そうですねぇ〜。私もそう思いますからそっちに……あら、これは」
 Nicolasが指差した方向に頷いた萌々佳は、壁に貼りつけられた紙に気付く。Nicolasが文字を読みあげる。

『リア充は恋人の名を、非リア充は思いの丈を叫べ』

 奇妙な張り紙に2人は互いの顔を見た。それから楽しそうな顔をした萌々佳が書き足す。

『リア充は恋人の名を呼んで相手とキスを、非リア充は思いの丈を泣き叫んで走れ!』

「誰か引っ掛かるかな?」
 楽しそうなNicolasは、壁に手をついて歩く、のをすっかり忘れているようだった。鏡に映る彼は、満面笑みを浮かべている。
 そして床が無くなったのは、そんな時だ。
「にゃー!」
 落下していくNicolasを、とっさに発動させた羽で避けた萌々佳が「あらあら」と見下ろした。
「羽ずるい……」
「すみません〜。今行きますから〜」
 萌々佳はそのままNicolasを救助し、通路に戻る。
「あ、このお菓子美味しいですね。Nicolasさんもどうですか?」
「くれるのか? ありがとう! はむっ……おおっおいしいな。
 しかし、こんなおいしいもの食べながら遊べるとは……幸せだな!」
「ですねぇ〜」
 始終お菓子を食べつつのんびり会話をしながら、2人は出口にたどり着いた。……が。

「お前たち、お菓子の袋を落としてくるなんて、メッだぞ」

 ちょびっと怒られた。



「…………」
 真剣な顔でテグスを握っているのは永月 朔良(ja6945)だ。さらにはマッチ、テッシュにハーブなどをカバンから取り出す。
 どうやら罠を作っているらしい。
「ふぅ。これで完成です」
 朔良が作っていたのは、作動すると少しだけ興奮作用のする香り(煙)が漂うという物。この煙を吸うと、恋人がかっこよく見えたり好きだという気持ちが加速する。朔良はこのような罠を曲がり角にいくつか設置していた。
「トラップの回避は、良い戦闘訓練になりますね」
 頭上から落ちてきたスポンジの塊を避け、落とし穴が発動しきる前に跳び上がり、壁の張り紙に無言を貫きながら進んでいく。

 そして、彼女は出口を見つけた。

 のだが。なぜかひとつ前の曲がり角まで戻る朔良。
「……出口が安全だとは限らないのですよ」
 そこにトワイライトを設置。光の反射で出口を分かりにくくしてからゴールした。


●2人なら
(苦手な部類だけど一人じゃないから大丈夫……って思ったのに)
「……直哉先輩? せんぱい? しきみ先輩?」
 気付いた時には彼女、澤口 凪(ja3398)は1人だった。すぐ隣にいたはずの恋人も。すぐ目の前にいたはずの先輩も。
 きょろきょろと見回しても、同じように首を振る自分の姿が見えるだけ。不安そうにぽつんと突っ立っている自分だけがそこにいる。
(私? ここに写っているのは本当に……?)
「いやぁっ……直哉さん!」
 耳をふさぎ、目をつむって凪は走りだした。

「しきみちゃんと理人とはぐれて、凪ちゃんともはぐれるとは……とにかく凪ちゃんをすぐに探さないとな」
 こちらは、桐生 直哉(ja3043)。最初は同行者と4人で挑戦していたはずが、凪と2人きりになり、その凪ともはぐれてしまった。
「凪ちゃん!」
 必死に名を呼び、耳をすませる。どんな小さな声でも聞き逃さないとばかりに。

「――さん」

 そんな時、かすかに聞こえたのは愛しい彼女の声。直哉は走りだした。
(どこだ。どこから……)
 もう直哉の頭には凪のことしか浮かんでいない。だから走っている途中、通路に張り巡らされた糸を切ってしまったことに気付かなかった。
 うっすらと、煙が漂っていることにも。
「凪ちゃん! どこだ」
 叫ぶように名を呼ぶ。その時、「直哉さん!」とはっきり聞こえた声。直哉がそちらに駆け寄ると……床にぽっかりと穴が開いている。
 凪はその穴の中で、目に涙をこらえながら直哉を呼んでいた。
「待って。今助ける」
 ようやく見つけ出せて安堵の息を吐いた直哉は、『お使いください』となぜか置いてあった縄を使って凪を救出した。

 薄い煙が、その場に漂っている。

 凪は直哉の姿を見て、思わず抱きついた。
「直哉さん!」
「ごめん、こんな事ならちゃんと手を繋げばよかったな」
 涙目になった凪をみて直哉が謝ると、我に返った凪も顔を赤くして謝る。
「ご、ごめんなさい! こんなことくらいで(どうして私、あんなこと)」
 その後、2人はしっかりと手をつないで、鏡屋敷を脱出した。


●さすが!
「おー鏡がいっぱいだねーゴール目指してがんばろー」
 鬼燈 しきみ(ja3040)が、ずんずんとミラーハウスの中を進んでいく。
「僕は右が正解……って、人の話を!」
「次はあっちー」
 そんな彼女の同行者、天上院 理人(ja3053)が眼鏡のズレを治しながら言うが、しきみは全然聞いてない。仕方なく理人はしきみの後をついていく。
 と、
「あ! リヒト、イイコト思いついた。壁走りして行ったら早いんじゃないかな」
 ぽんと手を叩いてしきみが発案した。罠だらけのミラーハウス。壁を走っていけば罠も回避できるのでは、と。
「それは妙案だ。しかし僕は壁走りが使えない。どうするんだ?」
 使えない、となぜか胸を張って言う理人。しかし答えを聞く前に、彼は前のめりになった。
「ボクが引っ張ってあげるー 」
「うおっ?」
 しきみが理人の手を掴んだまま壁に足を駆け、走りだす。一瞬、浮き上がった理人だったが……すぐに引きずられ始めた。
「痛いっ! というより熱い!」
「……リヒト、重い」
「僕のせいなのかっ?」
 少しだけ眉を寄せたしきみが床に降り立って、文句を言った。理人の名誉のために言っておくが、彼は決して太っているわけではない。
 話を聞いているのか。いないのか。しきみは服の埃を払っていた。
「そんなんじゃ、ナオヤのお嫁さんになれないよ?」
「嫁って言わないでくれないか。というか、桐生と僕はデキてない!」
「しょうがない。普通に歩いていこうか」
「だから話を……はぁ」
 再びズンズン歩き出した彼女に、理人は長く息を吐き出した。後を追いかける。
「そういえば、リヒトってすごいね」
「ん? 突然どうした」
 隣に並ぶと、しきみは感心の声を上げた。

「だって、あれだけ引きずられたのに眼鏡割れてないよ。さすがディバインナイト」

 本当に感心しているらしい彼女に、理人はとりあえず

「ああ。そうだろう」

 と、ドヤ顔しておくことにした。
 その後、脱出した理人がやたらとボロボロだったとか、焦げていたとか。


●おめでとう!
「たしかに、これは訓練になるわね」
 ミラーハウス内を冷静に観察しているのは高虎 寧(ja0416)だ。鏡像の屈折と光具合をじっと見つめ、
現況の位置関係と進むべき方向を見出していく。
「周囲が鏡だらけという非日常な状況でも冷静になること。さらにはタイムを競うことですぐさま決断し、実行する能力が鍛えられる、と」
 感心している寧。……あの教師がそこまで考えていたとは思えないが。
「でもねー、きらきら反射は眼にとっても悪いから、早めに抜けてお休み眠々した……ん?」
 とある鏡の前を通り過ぎようとした寧は、違和感を感じて立ち止まる。足元の不自然な屈折に気付いたからだ。問題の鏡を見つめると、どうやら隣の鏡と少しずれているようだった。

 それは先ほどしきみが壁走りした際に生じたものだが、寧にそんなことが分かるはずはない。

「もしかして、この鏡」
 寧が指でそっと鏡を押すと鏡が回転した。向こうには別のルートが広がっている。どんでん返しになっているらしい。寧はしばし考え込む。
「こっちの方が近いわね」
 寧はどんでん返しの鏡をくぐった。
 その後も微妙な違いからどんでん返しの仕掛けを見つけていった寧は、最短コースで出口を発見した。


●ぼっち組
『一緒に行く相手がいない者同士、一緒に行こうぜ』
 という久遠 栄(ja2400)の一言で集まった者たちのチーム。その名も『ぼっち組』。

 総勢――9名!

「既にこれだけ居ればぼっちでも無いような気もするが」
 ぞろぞろと歩きながら鳳 静矢(ja3856)が冷静にツッコミをいれた。そこは「シーッ」。
「それで、迷路の攻略法なんですけど」
 迷路が得意だ、という権現堂 幸桜(ja3264)が声を発すると、
「か、壁に左手つけて歩けばゴールできるって聞いたことあります!」
 一生懸命な様子で菊開 すみれ(ja6392)が発言し、幸桜は笑顔で頷く。
「そうですね。それでだいたい出られますけど、でも出口が中央にあった場合は抜けられなかったりします」
「へぇ〜、そうなんだ」
「なのでその応用であるトレモー法を使えば、確実には出れるんですが、なにぶん時間がかかるんですよねぇ。下調べできたらよかったんですが、作りかえられたばかりですし」
 情報が何もない迷路内を予測するのは難しい。中を歩いていけば、把握していけるだろうが。
「先生から出入口の書かれたものはもらってますから、あとは方向感覚さえなんとかなれば」
「方向感……うち、大丈夫なのかな」
「まあまあ。もっと肩の力抜いて、楽しんでいこうぜ」
「ほらこんなにたくさんの鏡なんて、そうそう見れないんだし」
 不安そうに呟いた天音 みらい(ja6376)に、鐘田将太郎(ja0114)とメフィス・エナ(ja7041)が声をかけて励ます。
「そうですよね。楽しまな……いとっ?」
 鏡を眺めたみらいの声が跳ね上がった。メフィスがどうしたのかと同じように鏡を見て、勢いよく振り返った。
「ちょっと、何してるの!」
「ふふふ、これで驚いて道に迷……へっ? 俺?」
 顔をひきつらせたメフィスに、栄がきょとんとした。そんな彼が持っているのは、虫。
「何って罠を……いやっ、玩具だからっ! ほらっ玩具おも……ぐぁっづ」
 誤解を解こうと近づいた栄が、ステーンと転んだ。バナナの皮を踏んだのだ。
「おいおい、何してんだよ。こんな古典的な罠にぃっ!」
 助け起こそうとした将太郎が栄に近づこうとして、もう一つのバナナを踏んで転んだ。もちろん、2人はすぐさま起き上がろうとする。
「わわわっちょ、止めてくださいー」
 そんなところに御手洗 紘人(ja2549)が、滑ってくる。どうも、油の罠に引っ掛かったらしい。
「お二人とも避けてー」
「無茶言うなぁ!」
 今まさに起き上がろうとしていた2人に紘人を避けられるわけはなく、勢いよく激突。
「ちょ、虫離さないでよ! こっち来るー」
「メフィスさん、落ち着いて。これただのおもちゃで」
「ほいっと。ほら、捕まえたから落ち着いて」
 虫嫌いのメフィスが話されてしまった虫のおもちゃに悲鳴を上げると、星杜 焔(ja5378)がニッコリ笑いながら虫のおもちゃを回収する。

「ダメですよ。そんな他の人の迷惑に…」

「ん?」
 すみれの声に、メフィス、幸桜、焔が顔を上げると、まず目に見えたのは床に画鋲をまく静矢の姿。
「古典的な手だが……屋内では有効かねぇ」
 どうやら罠を仕掛けているらしい。
 見て見れば静矢だけでなく栄も紘人も罠を作っている。すみれはそんな皆を止めつつ、どこかうずうずしているようにも見えた。
「このおもちゃを壁に貼りつけて、この紐を吊るしてってっ、うおぅっ?」
「この紐なにっ、わあああああっ」
 天井にひもをつりさげようとした栄が腕を伸ばした時、すでに垂れさがっていた紐を将太郎が引っ張った。
 床がぱっかり開きました。
「2人とも大丈夫か?」
 静矢が穴を覗き込むと、敷き詰められたマットの上で2人は手を振った。ホッと息を吐き出す。
「これは……意外と楽しいのです! あ、すみれさんたちも一緒に罠作りしませんくぅぁっ?」
 トワイライトで目くらましの罠を作ろうとしていた紘人が罠作りに目覚め? すみれに見せようと近づいて……穴に落ちた。そしてトワイライト発動。
「なんだこれ、眩しい!」
「何が起きてるんだ」
「目がぁ〜目がぁ〜」

「……とりあえず、助けよう」
「はっ。そ、そうですね。……あ。あそこにロープが用意されてますよ」
 静矢の言葉に我へと返った幸桜は、落し穴の近くにあったロープを見つけた。
 2人が3人の救出を行っている後ろでは、

「ぼっち組ここに参上! 私の気持ちなんか、あなた達に分かるもんですか!」

 すみれが覚醒した。彼女の目の前には、例の張り紙(『リア充は恋人の名を呼んで相手とキスを、非リア充は思いの丈を泣き叫んで走れ!』)があった。
「いくわよ! メフィスさん、手伝って! ほら、あなたも」
「……はぁ。仕方ないわね。」
「え、えと。はい、がんばります」
 何やら燃えているすみれにメフィスはため息をついて。みらいは良く分からぬままに頷き、罠の作成を手伝うことになった。
「あ。さっきはありがとう」
「別に気にしないで」
 思い出したようにメフィスから礼を言われた焔は、笑いつつ油を床にまいていた。そしてその油に、天井がうっすら写っていた。天井を見る。
(あれは……バケツ、か?)
 青いバケツの姿がそこにはあった。
「それで、次はどっちに進むんだ?」
「えーっとですね。静矢さんがつけてくれた目印があそこにあるから……こっちです」
 幸桜が指差した方角は、そのバケツがある方だった。くるり、とひっくり返るバケツ。
「うあぁ! なんで水が……びちょびちょだよ。あ〜! 地図まで」
 水にぬれて重くなった髪をかきあげる幸桜。妙に色気があるのは気のせい、と思いたい。
「私の方は網か。上はあまり気にしていなかったな」
 静矢が網から這い出ながら天井を見ると、空っぽになったバケツが見えた。他に落ちてきそうなものはないようだ。
「大変です。濡れたままじゃ風邪ひいてしまっ」
 壁にかけてあったタオルを取ろうとしたみらいの姿が……消えた。
 どうもどんでん返しの罠にかかってしまったようだ。しかしすぐにそうとは分からず、驚いた紘人が足を踏み出した。
「みらいさんが消え……うわぁっ?」
 足元でカチっと音がした。鏡の一部が開いて飛び出してくる、たくさんのピンポン球。
「いたっ! いや、痛くない!」
 痛くはないが、精神的には結構いたい。
「足が! 足が抜けねー!」
 そしてこちらは将太郎。片足だけの落とし穴にはまっていた。
「おーい、2人ともだいじょ……いづっ」
 金タライを頭に直撃させたのは栄……痛そうだ。
「なるほど。タライの罠もいいわね!」
「感心している場合じゃ……わぶっ」
 罠の創作意欲に燃えるすみれ。壁に激突するメフィス。わざと鏡を作らず、道があると思わせる罠のようだ。

 というか、もはや何が何だか分からない。

「えっと……つまり何をするんでしたっけ?」
 ようやくピンポンの罠が終了した紘人が首をかしげた。私にもわかりません。
「どうやら、みらいさんはどんでん返しで向こうに行ってしまったようだね。で、この仕掛けは一度切りだけらしい」
「怪我はないー?」
 冷静に分析した静矢。メフィスが声をかけてみると
「大丈夫です」
 ほっと安心した後、仕方なく別々の道を行くことになった。
 再び歩き出したぼっち組の一番後ろにいた焔は
(あれ? 7人……だったっけ?)
 首をかしげて、もう一度数えなおそうとして動きを止めた。なぜか鰹節を頭にのっけている栄が焔を振り返る。
「ん、どうした?」
「いや、なんか知り合いの声が聞こえたような……」


●リア充発見しました、隊長!
「わわっ、凄い……全面鏡だ」
 初めてミラーハウスに入るのだというレギス・アルバトレ(ja2302)は、興味深そうに鏡を見つめた。隣にいる柊 夜鈴(ja1014)と、しっかり手をつなぎながら。
「怪我しないようにゆっくり行こうなー」
「うん」
 恋人の優しい言葉に、レギスは嬉しく思いながら頷く。夜鈴はにこっと笑い、レギスに気付かれぬように虫のおもちゃを鏡から剥がして捨てていた。
(なんか、変な感じだ)
 写っている自分の姿をじっと見つめていたレギスは、足元への注意がおろそかになっていた。踏み出した足が、つるりと前へと滑っていく。
 油だ。
「きゃ……っ」
「レギス!」
 夜鈴がバランスを崩すレギスを支えようとするが、少し反応が遅かったようで……2人はそのまま倒れ込んだ。
 それでも夜鈴はなんとか自分の身体を下にしてレギスを守る。はたから見ると、レギスが夜鈴を押し倒したようだ。
 レギスもそのことに気付いたのだろう。顔を赤くし、慌てて立ち上がる。
「ごめん! よ、夜鈴、大丈夫っ?」
「大丈夫だよ……レギスこそ、大丈夫? 怪我はない?」
 立ち上がって謝るレギスに夜鈴は優しく話しかけて顔を覗き込み、そのままキスを――
「よ、夜鈴! こんなところで」
 しようとして顔を真っ赤にさせたレギスに、笑ってとある方向を指差した。そこには、

『リア充は恋人の名を叫んで相手とキスを、非リア充は思いの丈を泣き叫んで走れ!』

 と書かれた張り紙があった。
「ね。だから……レギス」
「夜鈴……ん、ぁ」

 身体を話した時、今度こそ恥ずかしさでうつむいてしまったレギスの手を、夜鈴はもう一度握りなおした。
「行こうか」
「……うん」

 そうして2人はラブラブしながら脱出したのであった……ごちそうさまでした。


●先客1名
(うわっ、義姉さん達とはぐれちゃった! はやく探さないと)
 ミラーハウスの前で連れと別れてしまった東城 夜刀彦(ja6047)は、やや焦った顔で必死にゴールを目指していた。
 かなりの速度で進んでいる……ゴールとは全く別の方向へ。
「っとと」
 足元にひかれた油を壁走りで避け、天井から降って来た網は切り伏せて進む。
(お、俺も迷子になってる……?)
 罠を回避する姿は様になっているのだが、まったくゴールにたどり着ける気配のないことに不安を感じ始めたのか。半べそに近い表情になっていた。
「! また落し穴……って、え?」
「え?」
 鉤付きの縄を引っ掛けて落下を防いだ夜刀彦だが、落し穴に先客がいたことに驚いて目を見開いた。
 落し穴にいたのは、ぼっち組から別れてしまったみらいだった。
「あ、ちょっと待ってくださいね。今助けますから」
「すみません」
 涙目で必死になんとかしようとしていたみらいは、夜刀彦の言葉にホッと胸をなでおろした。

「お仲間さんとはぐれちゃったんですか。じゃあ良かったら一緒に行きませんか?」
「いいんですか? ありがとうございます」
 共に床に降り立ってから事情を話合い、2人でゴールを目指すことにした。
「あ、どっちだと思います?」
「え〜〜っと……たぶんこっち?」
 みらいは自信な下げに左を指差した。頷いた夜刀彦も指差したみらいも知らないが、そちらは正解ルートだった。

 2人は途中で何度か迷いつつも、なんとかゴールしたのだった。


●もうやめてぇっ
「うふっ、私はニンジャなんだからぁ……こんな迷路なんて楽勝だよぉ!」
 と、自信満々にミラーハウスに飛び込んだエルレーン・バルハザード(ja0889)。目指すは成績優秀者! と指差しつつ入口を越え、
「正しい道はこっきゃうっ?」
 見事に落とし穴にはまる。スポーンと綺麗に落下した。なんとかそこから這い上がる。
「ま、まだま……ぎゃー虫ぃっいやぁぁぁ」
 鏡に張り付いた虫に驚いて飛び退って、張られた糸を切る。
「えっ? つめたっって気持ち悪い!」
 天井から降ってくる水。そして、なぜかワカメ。痛くはないが、精神的ダメージは倍増だ。
 みじめな気持になったエルレーンがワカメを取ろうと顔を上げると、
『リア充は恋人の名を叫んで相手とキスを、非リア充は思いの丈を泣き叫んで走れ!』
 の文字が見えた。

「う、うあああああん、リア充なんてーーーーー!」
 文字通り叫んで走っていく。そして、床ではなくバナナを踏んでバランスを崩す。
「きゃああああっとっと……セーフぅぅぅぁ?」
 こけずに済んだー、かと思えばその先にあった油に足を取られて滑る。

――もうやめたげて。彼女のHPは0よ!

「えっく、ひっく……だ、だれかぁ、助けてぇ」
 とうとうしゃがみこんで泣きだしてしまったエルレーン。

「やれやれ。やっぱりエルレーンか」
 声をかけたのは焔だった。焔とエルレーンは友人で、焔はエルレーンの泣き声が聞こえてやってきたのだった。
「あっちに俺のツレたちがいるんだ。一緒に行こうよ」
 あっち、と焔がさした方角にはぼっち組の面々がいた。
「え、でもどうするの? 油が」
 しかし彼らとの間には油が大量にまかれていた……焔がまいたものだが。
 焔がにっと笑って意識を集中させると、彼の背中に羽が現れた。そしてエルレーンを抱き上げて飛び、仲間の元へと降り立った。

 こうしてぼっち組+エルレーンは、無事にミラーハウスを脱出した。


●表彰式
「タイムアタック。最優秀者は高虎 寧。優秀者は永月 朔良だ。良く頑張ったな。みんな拍手!」
 教師の言葉にみんなパチパチと手をたたく。
「あのそれで先生……」
「ん? どうした?」
「えと、成績優秀者には一体何が」
 寧が教師に尋ねると、教師はそれはもう良い笑顔をした。寧も朔良も。そして他の面々も、あまり良い予感がしなかった。

「お前たちは鏡屋敷をクリアするために努力した。それこそが何よりの宝物だろ?」

――それだけかよ!
 全員の総ツッコミが入った。

「ふむ……やはり時の運かねぇ?」
「でも結構楽しかったな」
「ああ。罠にはまりまくったけどな」
「みらいさんも無事に脱出できてよかった」
「すみません、ご迷惑を」
「気にしないで……あれ? そういえば紘人さんは?」
「え? ずっと一緒に……あれ? って、すみません。ちょっと電話」
「そういや、途中人数少ない気がしてたっけ」
 脱出後、固まって話し合っていたぼっち組では、いつの間にか消えてしまっていた1人の少年についての話題が上っていた。


●???
「出口〜出口は……どこですかぁっ? って、まぶしっ目が〜〜」

 出口直前で朔良の罠にかかった紘人の叫びが、ミラーハウスの中で空しく響くのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 先駆けるモノ・高虎 寧(ja0416)
 ┌(┌ ^o^)┐<背徳王・エルレーン・バルハザード(ja0889)
 万里を翔る音色・九十九(ja1149)
 飛竜殺し・永月 朔良(ja6945)
重体: −
面白かった!:14人

いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
ラッキーガール・
ミシェル・G・癸乃(ja0205)

大学部4年130組 女 阿修羅
恋人と繋ぐ右手・
天河アシュリ(ja0397)

大学部7年277組 女 鬼道忍軍
先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
My Sweetie・
カルム・カーセス(ja0429)

大学部7年273組 男 ダアト
仁義なき天使の微笑み・
森浦 萌々佳(ja0835)

卒業 女 ディバインナイト
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
幻の星と花に舞う・
柊 夜鈴(ja1014)

大学部5年270組 男 阿修羅
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
茨の野を歩む者・
柊 朔哉(ja2302)

大学部5年228組 女 アストラルヴァンガード
心眼の射手・
久遠 栄(ja2400)

大学部7年71組 男 インフィルトレイター
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
お洒落Boy・
Nicolas huit(ja2921)

大学部5年136組 男 アストラルヴァンガード
読みて騙りて現想狂話・
鬼燈 しきみ(ja3040)

大学部5年204組 女 鬼道忍軍
未来へ願う・
桐生 直哉(ja3043)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
天上院 理人(ja3053)

卒業 男 ディバインナイト
愛を配るエンジェル・
権現堂 幸桜(ja3264)

大学部4年180組 男 アストラルヴァンガード
君のために・
桐生 凪(ja3398)

卒業 女 インフィルトレイター
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
災禍祓いし常闇の明星・
東城 夜刀彦(ja6047)

大学部4年73組 男 鬼道忍軍
託された約束・
星乃 みらい(ja6376)

大学部6年262組 女 ダアト
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
飛竜殺し・
永月 朔良(ja6945)

大学部4年57組 女 ダアト
押すなよ?絶対押すなよ?・
メフィス・ロットハール(ja7041)

大学部7年107組 女 ルインズブレイド