●
『サーバントは見えるだけで6体。窓がないから小屋の中は見えないのだ。あと情報通り、北からは回り込めそうにないのだ』
先行して状況を調べていたフラッペ・ブルーハワイ(
ja0022)の知らせに、鴉乃宮 歌音(
ja0427)が眉を寄せた。
「厄介な状況だ。
しかしこのアウェイを打開できてこそ、かな」
そして空を見上げる。昼間だというのに厚い雲に覆われているため暗く、薄いキリまで出ている。そして向こうには救助しなければならない人たちがいるのだ。
少しも気は抜けない。
「味方が獣耳を抑えてる間が勝負ってか。随分タイトだが――やってやるぜ!」
「兄さん。やる気になるのは良いけど、1人で突っ走らないでよ」
「分かってるって」
張り切っている兄、小田切ルビィ(
ja0841)に「ほんとかしら」と巫 聖羅(
ja3916)は思いつつも、小屋の方角を見る。
「厳しい状況だけど天使が居ないのが不幸中の幸いね。……でも、敵の目的は一体何?」
あらかじめ天使が愛を求めている、とは以前かの天使と対峙した者たちから聞いてはいるが、だからといってその意図までは分からない。
それに
(愛、か……)
彼女にとっても、愛はよく分からないものだった。
「……何を想って誘拐したのでしょうか」
疑問に思ったのは聖羅だけではない。神城 朔耶(
ja5843)もそう首をかしげた。
「全員で帰ってこいと言われたら断れませんね。……じゃあ、全員無事で救助してきますか」
戸次 隆道(
ja0550)は、自分たちを送りだした斡旋員たちの言葉を思い出して、気合いを入れる。
「うん。皆で無事に帰りましょう……なの」
横で声を聞いた若菜 白兎(
ja2109)も小さく頷く。自分たちを送りだした人たちの顔を思い出す。
帰ってこい。
心の底からのその言葉。かけられたからには、絶対に皆で帰る。そんな決意が見えた。
「ええ。そのためにも慎重に行きたいですが、でも地形も視界もこれだけ悪いとなると、時間は待ってはくれませんね」
天候と地形を実際に目の当たりにした牧野 穂鳥(
ja2029)の顔は険しい。また1つ、岩を飛び越えながらなるべく静かに目的地へと向かう。
天候はどんどんと悪くなるばかり。
「…………」
そんな中、龍崎海(
ja0565)は静かに拳を握った。海が気にしているのは、前回の依頼で天使と共に姿を消したとある家族のことだ。
(天使に会ってしまったら聞くかな。最悪、今回の中になれの果てがいるかもしれないと覚悟しておこう)
どんな姿で現れようと、倒す。
「獣耳の男とやらが来る前にケリをつけたいが……」
「……そうだね」
南雲 輝瑠(
ja1738)のそんな声に同意を返す。直接刃は交えていないが、強敵には違いない。
そうして一行は目的地に着く。視界の悪さで小屋はぼんやりとしか見えない。
「サガ様……どう…される……のですか?」
一行より少々離れたところで華成 希沙良(
ja7204)がサガ=リーヴァレスト(
jb0805)に尋ねた。
「単純な戦闘以外にも必要な事はある」
サガはそう答えてから、希沙良には周囲の警戒を頼んだ。
「(そろそろ作戦開始時刻ですね)奇襲。態勢を整えられる前にどれだけ倒せるかが勝負、ですか」
時刻を確認したレイル=ティアリー(
ja9968)の横で、御影 茉莉(
jb1066)は小さく、小さく疑問を呟いた。
「……天使は、何故愛を知りたいのでしょう?」
「さあな。天使が何を考えているのかは分からない。とにかく囚われた人達が無事で居てくれることを願うばかりだな」
「そう、ですね」
レガロ・アルモニア(
jb1616)の言葉に、茉莉は疑問を胸に封じ込めて前を見た。霧の中、小屋が怪しく浮かび上がっていた。
そして作戦が開始される。
木々の影から飛び出た姿に、サーバントたちが気づく。慌てて仲間を呼びよせるその姿をしり目に、すでに整っている陣形のまま突撃していく。
「さーって、ひとっ走りしてくるのだー!」
飛び出た青い風――フラッペは、敵の数、位置、詳細な地形、敵の死角などを確認しては仲間たちに知らせる。それが自分の役目だから。
「助けに来たなのー! 一緒に帰ろうなの」
白兎が小屋に向けて大声を発しながら前へと出る。中の状態が分からないからこそ、囚われている人たちを励ますためだ。
そして月詠 神削(
ja5265)や或瀬院 由真(
ja1687)もほぼ同時に飛びだした。
「悪いがお前たちを」
「倒させていただきます!」
特殊なオーラを纏った由真に、ケンタウロスのどんよりとした目がひきつけられる。そして陣形も整わぬままに飛び出て来たサーバントたちに巨大な火の玉が命中した。後方に控えていたソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)の魔法だ。
「Fiamma Solare」
太陽の炎を意味する火が、広範囲にわたって彼らを焼く。だが深く傷ついたケンタウロスに対し、マーメイドの傷はさほどでもない。
やはり防御が硬いのだろう。すぐさま魔法で反撃しようとしてきたのをルビィが妨げる。
(相手が相手だし、卑怯戦術もやるのだん)
黒猫(
ja9625)は気配を薄め、風景に溶け込んでいく。そんな黒猫へ注目が向かないよう、その姿を消すように輝瑠と虎綱・ガーフィールド(
ja3547)が前へと出る。
(ありがとだよん……っと)
そうして障害物を駆使して死角へと回り込んだ黒猫が、銃でケンタウロスの足を撃つ。がくんとその状態がバランスを崩した。
「(今!)行きます!」
八重咲堂 夕刻(
jb1033)が鎌へと武器を切り替えて傷ついた足を切り飛ばす。ケンタウロスの目が足を傷つけた2人へ向かい、鎌が振りかぶられる。
「そうはさせませんよ」
ケンタウロスの胴体を蹴りあげたのは隆道だ。前足が完全に浮き、身動きの取れないそのケンタウロスにレガロが腕に闇を纏わせた一撃を放つ。その際、射線上にいたマーメイド一体をも巻き込む。
「くそっしぶといな」
なんとかギリギリ踏みとどまったケンタウロスへ向けて槍を振るうマーメイドがいた。淡い光と共に、ケンタウロスの傷が少し癒される。
すぐさま茉莉がケンタウロスへダイヤモンドダストを振るった。それはぎりぎり避けられるが、ケンタウロスの傍にいた神削が止めを刺した。
倒れていくケンタウロスが、どこか安どの表情のように見えて、由真と海が少し唇に力を入れた。
シーカーは、わざと生前の面影を残したままサーバントにする。今倒れたケンタウロスも、どこかに彼の帰りを待つ遺族がいるはずだった。
だが彼らを救う方法はただ一つ。倒すこと。
『動きのあるサーバントは、今のところそいつらだけなのだ』
「ああ。こちらから見ても他には見受けられない。あの獣耳の方も、今のところは大丈夫なようだ……右からきている。気をつけろ」
戦場を少し離れた所から眺めていたサガは、敵の位置を正確につかんで仲間に知らせる。その声を聞いて海と由真は鎌の攻撃を受け止めた。
「……近づけ…させ…ません……」
サガへと向かって飛んできた弓矢は希沙良が受け止め、弾く。歌音はそんな弓持ちのケンタウロスを狙って魔法を放つ。
「たしかに素早いですね。私の剣とどちらが「疾い」か、勝負です」
レイルがぐっと腰を低くした次の瞬間、その姿が消えた。そして赤い血が宙を舞った後、剣をふるった音が遅れて聞こえてきた。
だがケンタウロスもやられっぱなしではない。身体に突き刺さったまま、鎌を振るってレイルに傷を負わせる。
「くっこの程度の攻撃を受けてしまうとは……私もまだまだ、ですね」
その一撃は、重い。海がその後喉を狙って攻撃するが、避けられる。それを見た由真が槍で足払いをして、体勢を崩させた。そこへソフィアの魔法が放たれるも当たらない。
この素早さは厄介だろう。
「でも帰るの。みんなで、一緒に」
誰1人欠けさせない、と。白兎は他の仲間を守ることに主眼を置き、矢を、槍を、魔法を。その身にうけ止める。
「おっと、そう何度も使わせないぜ!」
再び回復させようとしたマーメイドにルビィが肉薄する。反対にマーメイドは動きが鈍いが、硬い。
「兄さん! 1人で突っ走らないでったら……もうっ」
聖羅はそんなルビィに声をかけながら、風の刃を生み出して援護する。風の刃が敵の身体を切り刻む。
だがその時、別のマーメイドが光り輝く槍を振り降ろした。
広範囲にわたって降り注いだそれは、雷に似ていた。ダメージを受けた数名に向かって槍を構えるマーメイドを見て、朔耶が声を上げる。
「やらせません!」
柔らかな風が仲間を包み込み、その傷をいやす。そして突撃してきたマーメイドには隆道が対峙して邪魔をする。
「その動き、止めさせていただきます」
集中力を高めていた穂鳥が生み出した風の渦が、ケンタウロスを飲み込み、体を大きくふらつかせる。
かかった。
「隙だらけだよん」
スライディングしながら下に入り込んだ黒猫が、銃を乱射する。
戦いは撃退士が優勢……に見えたが、サーバントたちもようやく体制を整えた。猛攻が開始される。
「くっ」
連続で攻撃を受けた海が、顔をしかめて自信を回復させる。
「おいっこっちだ!」
その回復を援護するために神削がひきつけてなんとか攻撃を受け止める。
元々地の利は向こうにある。段々と押され始めていた。だがほとんどのサーバントの意識は、彼らへと向いている。
『小屋の周りにもう敵はいないのだ』
「俺が方角を支持する。行ってくれ」
フラッペ。そしてサガの声を受けて救助班が動き出す。数名が抜けたことで崩れかけるが、必死にこらえる。
「皆、どうか踏ん張ってくれよ」
霧の中を仲間の指示で駆け抜けながら、神楽坂 紫苑(
ja0526)がそう祈る。仲間のためにも、早く助け出さなければ。
「……ここか。……敵の気配は感じないが」
天風 静流(
ja0373)が小屋を見て呟く。
(慎重に行きたいが、時間に余裕もない、か)
そして仲間を振り返り、頷きあって戸を開ける。戸には、鍵すらかかっていなかった。
狭い空間の中にはぐったりとしている人影と、その前に設置された鉄格子があった。
「大丈夫ですかっ? しっかりしてください」
慌ててシャノン・クロフォード(
jb1000)が駆け寄る。胸が上下しているのを確認して、一先ずはホッと息を吐きだした。
「あなた、たちは」
声で1人が目を覚ます。何かしゃべろうとしていたのを、しかし静流が遮る。
「話は後だ。すぐにここを出る」
お喋りしている時間はないのだ。険しい顔に状況を悟ったのか。撃退士は口をつぐみ、他の撃退士たちを起こした。
鉄格子の鍵は入り口横にかけられていたため、すぐに解錠し、助け出す。撃退士たちに至っては手錠もつけられていたため、それも外す。彼らは大分弱ってはいたが、自力で走ることはできそうだ。
「あとで返してくだされよ」
「すまない。助かる」
そんな撃退士たちに虎綱がひっそりと武器を貸し渡す。
「どうだ?」
起きる様子の無い一般人たちの様子をたしかめていたシャノンと紫苑に、輝瑠が尋ねる。
「……怪我はない。だが大分弱ってるな」
「命に別条はなさそうですが」
2人の顔は険しい。
使い終わった皿などを見るに、食事などは与えられていたみたいだが、常にサーバントに囲まれた状態だったのだ。その恐怖はどれほどだろうか。体よりも、むしろ心の傷の方が深刻だ。
「準備は良いか?」
外を窺っていた輝瑠に、虎綱が「了解でござるよ」と頷く。彼の背には意識を失った男性が2人乗っている。他の3人は、囚われていた撃退士たちが背負う。最初は少しふらついたが、なんとかいけそうだ。
「ヒリュウ! 頼んだでござるよ」
草薙 雅(
jb1080)がヒリュウを召喚し、小屋の近くにいるサーバントの気を引きつけさせる。
「今でござる」
そして小屋を脱出する。だがマーメイドの一体の目が向けられる。そして槍の先が輝く。それは範囲魔法の予備動作。
「させません!」
シャノンが飛び出し、マーメイドは魔法をいったん止めて攻撃を受け止めた。
「行ってください!」
先に行かせる。目に浮かんでいるのは、守ってみせるという思い。鞘におさめたまま、ひたすらに耐える。
救助班の姿が見えなくなった後は、主力メンバーと連携して、ひたすらに耐える。
「おいっ大丈夫か? もう少しだからな。しっかりしろよ」
紫苑が気を失ったままの彼らに呼びかける。聞こえていないだろうが、それでも心に届くかもしれない。必死に励ます。
静流が飛んできた矢を弾きながら眉を寄せる。その時、一体のケンタウロスが接敵してきた。一番先頭にいた輝瑠は直前で気づいたものの、受け止めきれずに血を流した。
急所に入ったのか、出血が多い。
紫苑がすぐさまヒールを使う。その間に横から回り込んで挟み撃ちにした静流と雅がケンタウロスを傷つける。
「少し離れていろ」
「2人を頼んだでござる」
輝瑠が闘気を纏って飛び出し、背負っていた2人を降ろし虎綱も動く。最初は手足を狙ってみるが、中々当たらない。
(難しいか。なら)
目線を交わし合う。普通に当てるのが難しいなら、体勢を崩させればいい。
「シャァッ」
気合いの声と共に放たれた土の塊を、ケンタウロスは横に飛んで交わす。だが交わした先には雅が待機していた。その攻撃が頬をかする。
上半身がのけぞったところで静流、輝瑠が次いで獲物を振るい、その身体を地面に倒れさせた。動きを止めたことに息を吐きだす間もなく、4人は再び走り出す。
撃退士たちの足が遅く、時間はかかったものの、なんとか無事に安全地帯まで送り届けることに成功したのだった。
「あとは頼んだでござるよ」
「サーバントたちは拙者らにお任せあれ」
「こちら救助班。無事に救助は終了した。すぐにそちらへ戻る」
●
「よかった」
「ああ」
救助が無事に終わったと知らせを受け、茉莉とレガロが息を吐きだした。
「じゃあ、あとは倒せばいいだけだな」
「だからってあまり前に出過ぎないでよね、兄さん」
「そうなの。全員で帰らないとだめなの」
そんなやり取りをしつつ、全員の動きが先ほどよりも良くなる。
「それにしても、弓は厄介だな」
攻撃は確実に当たってはいるのだが、致命傷とはいかない。歌音は狙いをつける。ただ狙っただけでは中々当たらない。
隙を待つ。
その時、青白い光が横切った。
静流だ。
ケンタウロスの頭ががくりと下がる。気絶したようだ。そして歌音のクロスファイアがケンタウロスの手を撃ち抜き、弓が地面に落ちる。
朔耶もそのケンタウロスへ攻撃を放とうとした。
「――――っ!」
瞬間響き渡る咆哮。人の喉から発せられる、人ならざる声。特に近くにいた前衛の動きが、止まる。
振り降ろされた鎌が前衛数名に血を流させた。
「確実に数を減らしていかないとね」
「その命、刈り取らせていただきます」
だがそのすぐ後に放たれたソフィアと夕刻の攻撃がケンタウロスの一体を倒し、朔耶の魔法攻撃も弓兵に当たった。
あとはマーメイド4体とケンタウロス2体(弓一)。
ケンタウロスの方は比較的順調だったが、問題はマーメイドだ。
「華成殿、俺たちも行こう」
「はい……わかり……ました」
サガの矢がマーメイドに突き刺さる。
戻ってきた輝瑠を身にまとい、マーメイド班の応援に向かう。隆道もそちらの対応が先かと、カーマインを操り、マーメイドを締め上げる。動きが止まったところに、味方の攻撃が次々と当たり、倒れた。
マーメイドが魔法を使う所作を見せれば、穂鳥の傍に浮かぶ帯電する蕾が雷を撃つ。仲間が傷つけば白兎が放つアウルの光が星のように輝きながら降り注いで癒す。回復されそうになれば、神削がケンタウロスを弾き飛ばして範囲から出させる。
全員で生きて帰るため。
各々が自分にできることを最大限に駆使する。
「……どうか、安らかに」
そして最後の一体が静かに地面へ倒れ込んだ。
「悪いが、引き続き警戒を頼む」
『分かったなのだ』
だが誰1人気を抜かず、傷の深い者を癒し、すぐさま動けるようにする。
「……癒し…ます……」
怪我をしていない者は周囲を警戒し、レガロは獣耳の男の方がどうなったかと気になった。
霧が立ち込める中、目を凝らしてそちらの方角を見る。良く見えない。見えないが――。
ぞくり。
背中を駆け上がる悪寒に、レガロは注意を促す。
「来るぞ」
霧の中から1人の男が現れる。情報通り、獣のような大きな耳を持つその男は、多少の傷を負っていたが健在。余力を残しているようで、その手に握られた長刀からは血が滴り落ちていた。
誰の血なのかは、言うまでもないだろう。
そのまま男が長刀を
「フラーテル」
振り上げた手を止めた。そして膝を地面に着く。
「申し訳ありません、シーカー様。今すぐにこやつらを排除しますので」
いつの間に現れたのか。水色の髪の天使が、首をかしげてそこにいた。
「う〜ん〜……まあ、いいよ。戦うのとか僕嫌いだし」
相変わらず撃退士を視界に納めないシーカーに、海が問いかける。
「彼らは今、どこにいる?」
シーカーが首をかしげたのを見て、さらに説明する。と、ようやく理解したシーカーは笑顔で頷く。
「ああ。あの2人なら――死んだよ。遺書? ってやつ残して……読んでみる?」
笑顔のまま手紙らしきものを見せるシーカーを睨む。
「裏切ってごめんなさいって、たくさん書いてあるよ。むしろそれしか書いてないんだけど」
「っ! 愛が知りたいなら、まず同族に聞け」
その結果に、悔しさを感じるまま、言葉を発する。だが天使には届かない。
「不思議なことを言うね。聞いても分からないから君たちに聞いてるんだけど」
「他人の愛を知った所で、それは所詮、他人のモノ。愛を知るには程遠いです……!」
「じゃあどうやって君たちは愛を知ったの?」
天使はますます首をかしげる。虎綱が小さく「愛ねぇ」と呟いた。
聖羅が少し目を伏せて言う。
「友情、異性愛、兄弟愛、愛にも色々種類はあるわ。…でも、私も愛って良く判らない」
「愛……ですか。私にとっても中々に理解しづらい概念ではありますね」
「君たちも分からないんだ? じゃあ君たちもデキソコナイなんだね」
レイルも続けて言うと、シーカーの目が輝いた。仲間がいたのだと、嬉しげに。レイルはそんな様子を見ながら、しかしむしろ、と思う。
むしろ、知りたい。何故――。
「あなたは何故愛を知りたいのですか?」
そんなシーカーを見ていた茉莉が問いかける。レガロも足を一歩前に出した。
「お前は何が目的なんだ!」
そんな2人の問いに、ますますシーカーは嬉しげな顔をした。今までずっと我慢していたかのように、言葉を紡ぐ。
「命を賭して誰かを庇う。そんな不思議な行動の謎が知りたいんだ」
両手を広げて語る。どこか恍惚としたような表情で、「何よりも、その光景を見た時に胸が熱くなる原因を知りたい」のだと、シーカーは言う。
「そういうのを愛って言うんでしょ?」
ひたすらに愛を求めるその天使の姿は、まるで親に話を聞いてもらいたがっている子供のようだった。
「勇気ー、そんなところにいないでおいで」
誰かを手招きする。
木の影から姿を現し、すぐさま天使の影へと隠れたのは幼い子供。それはまさしく、以前に連れ去られた家族の1人。酷く怯えた顔をしてこちらを見ている。そしてその隣には、マーメイドが一体。
「そんなにおびえなくても大丈夫だよ、勇気。君はもう簡単に殺されるほど弱くはないからね。挨拶しとくと良いよ」
その言葉と先ほどの動きから、その子供がもう人間でないことを知る。
「ま、今回はこれでいいや。上から呼ばれてるし……行くよ」
天使が言い終わるや否や、強い強い風が吹き、彼らの姿は消えていた。
獣耳の男――フラーテルと戦っていた撃退士たちは、重体者はいたが死者はおらず、無事に全員帰ることができた。
気になることはあれど、目の前で抱き合う家族を見て、そして自分たちを笑顔で出迎えてくれた人たちを見て、今はただ……その喜びに身をゆだねた。