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マスター:舞傘 真紅染
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/26


みんなの思い出



オープニング

●クラゲが出た!
 要するに事はそれだけだった。
 しかしまあ、それだけならば問題は……あるが、学園に依頼は来ない。つまり依頼が来たということは
「クラゲ型のディアボロかよ」
 というわけなのだ。
 巨大なクラゲ型ディアボロが海に現れ、すでに周辺の漁師やサーファーたちが数名犠牲になってしまっていた。
「犠牲者も出ているんだ。笑い事じゃないぞ」
「分かってるって」
 海岸で話し合っている撃退士たちの顔は険しい。
 海へ目をやると、半透明の触手のようなものが海から出て、空を飛んでいた海鳥に巻きついて再び海へと潜っていった。おそらくはあの周囲にいるのだろう。沖からそう遠くはないが、周辺の漁師に聞いたところあの辺りはぐっと水深が低くなっているのだとか。
 船ごと吸い込まれたという話もあるので、泳いでいくべきだろう。
「それはいいんだが、問題は」
「海から出てこないってことか」
「だなぁ」
 もしも地上で戦うことになったのならば、脅威と呼べる相手ではないと思われた。行動は単純で知能が低そうだからだ。
 だが海の中での戦いとなると少し勝手が違う。
 引きずり出したいところだが、見たところ自力で泳いでおり、大きさも考えると船が転覆させられる可能性の方が高い。
 となれば

「水中戦か。ま、いけるだろ。焦らなければな」


リプレイ本文


●この季節だけど海です
 ざばんっと音を立てて海から飛び出た半透明の触手を見つめ、永連 紫遠(ja2143)は深く呼吸を繰り返した。
(初めての依頼……緊張するけど、みんなの足を引っ張らないように、十分注意してかからないと)
 緊張するなという方が酷だろうが、それで仲間の足を引っ張ってしまうわけにはいかない。心を落ち着かせる。
「クラゲ型のディアボロですか。水中船は初めてですが頑張りますね」
「どーでも良い事だけど、クラゲは普通に物理法則に従って水の中にいるのよね?
 透過能力封じたら水から弾きだされたりしたら笑えるんだけど」
 鑑夜 翠月(jb0681)の言葉に、アレーシャ・V・チェレンコフ(jb0467)が真面目な顔で言って緊張した場を少し和ませた。
 程よい緊張は保たなければならないが、緊張しすぎもよくない。
(まあ、長時間の緊張が苦手なだけだけど)
「でもほんとこんなに寒いのに水中魔物退治なんて……これも修行と捉えて頑張らないとな」
 指定の水着姿の杉 桜一郎(jb0811)が少し顔を厳しくさせる。
 常人よりはるかに優れた肉体をもつ撃退士とはいえ、同じ人間。寒さで動きが鈍ることもある。
「このクソ寒くて荒波立ってる海の中で敵を片付けなきゃなんないのかよ……。
 しかもこっちは寒い中必死に泳がなきゃいけないのに、あちらさんはただ遊泳するだけだから楽だわねぇ」
 っと、文句を言っているのは相羽 守矢(ja9372)。しかし文句を言いつつも、パートナーを組むアレーシャや仲間たちとの打ち合わせにはしっかりと耳を傾ける。
「だね……ジェスチャーはこれぐらいかな。みんな、覚えた?」
 同じく冷たい風に身をすくめた紫園路 一輝(ja3602)が、全員に確認をとる。
「ええ、だいじょ……っくしゅん! もうっ。何でこんな季節に海に出るのよ」
 くしゃみをしながら頷く鬼灯 アリス(jb1540)の横で、クロエ・キャラハン(jb1839)が元気に返事をする。
「うん、バッチリだよ! みんな、よろしくね!」
 たがいに頷きあってから、海へと向かう。
「波は高いですけど、透明度が高くて助かりますね」
「そうだねぇ……」
 翠月に頷いて海へ足を入れたアレーシャ。しかしすぐに動きを止められる。
「あ、アレーシャさん、服!」
 アレーシャは下着姿で海へ入ろうとしていた。止められて尚「それが?」と首をかしげている彼女に、とにかく服を着るように促す。
 なんとか説得には成功した模様である。
「何時もの病気はもう起きた、例え水中でもアウルの補助で多少は衰えるが何時もの様に動ける。良し、行こう」
 水の中での動きを確認した一輝の言葉に、全員が空気を吸い込んだ。冷たい水が、まるで歓迎するように全員の身体を覆った。



 冷たく、強い流れをかき分けて進む。その巨体はすでに全員の目に見えていた。
(近くで見ると予想よりデカイな。ほんと、ハタ迷惑なクラゲだよ)
 守矢は軽く肩をすくめるようなしぐさをした。それからアレーシャにジェスチャーを送る。2人1組でクラゲを包囲するのだ。
 クラゲは逃げなかった。むしろ嬉々として――本当に喜んだかは分からないが――触手をうごめさせた。餌が来た、とでも思っているのかもしれない。
(……このクラゲに死角はあるのかな。まあどちらにせよ、僕は近接主体だから近付かないと)
 一輝の方を向いて紫遠は頷いた瞬間、近くにあった岩を蹴って一気にクラゲの本体へと近づき、雷神の名を冠した大剣を振り降ろす。
 それは見事にクラゲを捕らえたが、紫遠の顔はあまり良くなかった。周囲に合図を出す。大剣は微かにその身を切り裂いたが、ほとんどはただ沈み弾かれただけ。
(物理攻撃が効きにくいなら――魔法ではどうっ?)
 クロエが紫遠の様子を見てからすぐにロザリオを振るう。どこからともなく現れた闇の刃がクラゲの触手ごと身の一部を切り取った。
(魔法は通りやすいみたいだね)
(だとすれば、あとは逃がさないようにしませんと……)
 配置に着こうとしていた一輝の方へと向かっていた触手を、翠月が魔法で切り落とす。
 荒波とクラゲの身体の大きさ。また後衛が多いこともあって、遠回りせねばならぬ分、配置には時間がかかる。
 互いにフォローをし合いつつ、なんとか包囲することに成功した。
(近くで見たら本当に大きい……怖い、けどこんな所で躓いていたら復讐なんてできない)
 アリスは大きなクラゲを見てひるみそうになる心を、必死に。必死に叱咤し、奮い立たせる。
 恐怖を覚えるのも無理もない。初めての依頼なのだ。
(……お願い、ストちゃん!)
 それでも、あらかじめ呼びだしておいた召喚獣を前へ行かせてストレイシオンに魔法で攻撃させ、自らは少し離れた所から全体を眺められるようにする。
(ボクたちは……ここらへんでいいかな)
(はい)
 桜一郎は翠月へ右手を振るう。翠月も頷きを返したのを見て、すぐに炸裂符をくらわせる。
(……動きは多少しずらいけど、なんとかなりそうね)
(俺たちも行くか)
 アレーシャと守矢は、クラゲの意識が前衛に向かっているのを見てその隙に魔法を放つ。だがぐにゃりと形を変形させてクラゲは1つの攻撃を避けた。
 クラゲの動きは単調で、知能は高くなさそうだった。だが速度は海の中での動き悪さもあって、同等といったところだろう。

 つまり、たった一体のディアボロとはいえ、油断をすればやられるのはこちらということ。

 数えるのも嫌になるほどの無数の触手が、海の中で蠢く。
 そのうちの一本が紫遠へと巻きつき、触手の先についている毒針が深く刺さる。
(しまっ)
 鋭い痛みとともに、紫遠の動きが唐突に鈍くなる。そのままクラゲへと引き込まれそうになったのを、守矢が触手を断ち切って阻止する。
 だが紫遠の痺れはとれず、先ほど大量の空気を吐きだしてしまっていた。少し苦しげに顔をゆがませ、一輝にハンドサインを出す。
 それらを見ていたアレーシャが盾へと切り替えて前へ出る。アリスもストレイシオンに指示を出して紫遠が息継ぎへと戻れるように援護させる。クロエもストレイシオンの攻撃に合わせて魔法を放つ。
 追いすがろうとした触手は翠月と桜一郎が阻害し、2人はなんとか会場に顔を出す。
「ぷはっ」
「大丈夫?」
「うん……ふー、ありがとう」
「痺れはどう?」
「……まだちょっと」
 患部を見てみれば、赤黒く腫れていた。なんとも痛々しい。
 でも、
「でも負けるつもりはない。あの厄介な触手ごと、叩き斬ってあげる」
 2人は頷いて再び海中へ。すると横を触手が通り過ぎていく。
(うっ)
 アリスが苦痛に顔をゆがめた。ストレイシオンが傷を受けたためだ。
(こ、これくらい全然平気! ストちゃん)
 だが痛みに耐えてストレイシオンに指示を出す。こんなところで止まってなどいられないのだ。
 翠月と桜一郎はクラゲから距離をとって遠距離での攻撃をくわえていたが、クラゲの触手もまた長い。伸びた触手の毒針が桜一郎にも突きささる。
 そうして動きを止めたところで巻きつき、引き寄せる。クラゲが行う行動はそれだけだったが、何せ触手の数が多い。全てを避けるのは――ましてや流れの早い海の中では――難しい。
(杉さん! させませんよ)
 目を見開いた翠月が、手にした魔道書からなんともまがまがしい刃を生み出し、触手を断ち切る。
(触手が……ありがとう)
(いいえ)
 クラゲは飽きることなく何度も同じ行動を繰り返し、少しずつ撃退士たちの体力を削っていく。
(なら、こちらはもっと削るだけ!)
 周囲の動きを冷静に眺めていたクロエが、一輝の動きに合わせて魔法を放つ。先ほどからクラゲは何度も攻撃を避けてきている。同時に攻撃することで少しでも命中率を上げるのだ。
 クラゲは一輝の攻撃はなんとか避けたものの、同時に放たれたクロエの攻撃を避けることはできなかった。
(なるほどね。それなら)
 じっとクラゲの動きを見ていた守矢が、紫遠とアレーシャにサインを送る。
 知能が低いクラゲは、動きこそ素早くとも連携した動きにはついてこれない。紫遠が剣を振りかぶってクラゲの意識を引きつけている間に、2人が同時に攻撃する。
 攻撃は見事に命中するが、2人の顔は険しい。
(ちょっと浅いわね)
(……地上ならこんな苦労はしないってのに)
 水の流れに身体をとられ、いつものようにとはいかない。大分威力が下がってしまっている。
 そして反撃とばかりに伸ばされた触手の毒針が2人を貫き、口からは空気が大量に漏れ、刺された個所が赤くはれ上がる。
 アレーシャはとっさに、用意していた入浴剤で浮輪を作りだそうとしたが、手が上手く動かない。
(ボクに捕まって)
 近くにいた桜一郎と翠月が、守矢とアレーシャを引っ張って海上へ。翠月はアレーシャの代わりに簡易浮輪を作り出して浮上速度を上げた。
 そして4人が抜けた穴を埋めるように両隣りにいたアリスと一輝が位置をずらし、包囲から逃げようとしていたクラゲを閉じ込める。
 前衛の紫遠とストレイシオンもクラゲの巨体を阻む。
 中々に連携はうまく行っているようだった。

 時折押されつつも、仲間と連携を取り合い、徐々にクラゲを追い詰めていく。
 何度か呼吸をしに戻り、どこまでも晴れ渡った青い空に下で起きている戦いを忘れそうになっても、また再び潜る。
(ああ、もう!さっさと死んでください)
 クロエが苛立ったようにクラゲを見つめる。その動きは最初に比べて大分鈍っていた。あと少し。
 紫遠が切り込み、アリスの指示に従ってストレイシオンが魔法を放ち、呼吸が必要になれば全員で協力してその動きを支援する。

 合図をし合う。
 そう。次で決めるため、全員の渾身の一撃を決めるため、力をためる。

(これで)
(終わりよ!)

 そうしてこんな季節に海を騒がしたディアボロは動きを停止した。



 海岸へたどり着いて二本の足で立つと、全身に襲いかかる重力にさらなる疲労を覚える。やはりいつもとは違う環境での戦闘は体力を削ったようだ。
 そのまま倒れ込めれば楽だろうが、砂だらけになるのは目に見えて明らか。さらには冷たい風が濡れた身体を追い詰めてくる。
「うー、寒いね」
 身体を震わせる桜一郎と服を絞る守矢に、隣で「髪が重たい」と言っていたアレーシャがタオルとカイロを渡した。あらかじめ用意していたらしい。
「悪い。助かる」
「わ、ありがとう」
 気にしないで、と礼を言う2人に手を振る。
「うぅ、びしょびしょ……」
 濡れてへばりついた服に眉を寄せている翠月。その仕草や細い身体は女の子にしか見えない。
「さ、寒……っくしゅん!」
 吹いた風に身を震わせて可愛らしいくしゃみをあげたのはアリス。このままでは風邪をひいてしまいそうだ。心の中でクラゲに文句を言いつつ、とりあえず召喚獣へ礼を言って世界へ還す。
 そんな翠月やアリスにも、
「なんとか退治出来た……僕は……えっと、ありがとう」
 隣で初任務を無事に終えることができて安どしている紫遠にも、タオルが配られる。
「(あと2人)……お疲れ」
「ん? ああ、ありがとう、アレーシャさん」
 少し離れた場所にいた一輝とクロエにも手渡す。
 全員に配った後はインナーを脱ぎ捨ててパーカーを着こむ。アレーシャに肌を見られることへの羞恥心は特にないようだ。
 そしてクロエもまた受け取ったタオルに身を包みつつ、海を振り返る。拳がぎゅっと握られる。
(たった1匹のディアボロだけど……それでも倒せたんだよね?
 この調子で、もっともっとあいつらをやっつけなきゃ……お父さん、お母さん、私がんばるから)
 心の中で両親に報告と誓いを。
「ふーっなんとかなった、ね」
 一輝は煙草で一服しながら、くつろぐ仲間たちの周囲へと気を配る。報告ではクラゲ一体とはいえ、気は抜けない。
 しかし一輝の外見は幼く見えるので、慣れた様子で煙草を吸う姿は少々違和感を伴う。
「紫園路さん、お疲れ様。そろそろ迎えがくるみたいだよ」
 着替えを済ませた紫遠に呼ばれ、一輝は頷いて足をふみだす。報告を受けたらしい依頼者の姿が見える。
「いや〜、助かっただ。ほんとにありがとな」
 依頼者から散々に礼を言われる。
 余談であるが、その日。依頼者でもある漁師たちに新鮮な魚介を使った料理をたくさんふるまわれたとか。
 そして海を振り返った。
 
 寄せては引いてを繰り返す海は、何物をも拒むことなく、ただそこに在った。

 まるで最初から何も異常などなかったかのように、何食わぬ顔でただそこに……在った。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

飛燕騎士・
永連 紫遠(ja2143)

卒業 女 ディバインナイト
『三界』討伐紫・
紫園路 一輝(ja3602)

大学部5年1組 男 阿修羅
撃退士・
相羽 守矢(ja9372)

大学部5年39組 男 ルインズブレイド
錆びず腐らず朽ちもせず・
アレーシャ・V・チェレンコフ(jb0467)

大学部4年195組 女 陰陽師
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
夜の探索者・
杉 桜一郎(jb0811)

大学部1年191組 男 陰陽師
能力者・
空木 アリス(jb1540)

卒業 女 バハムートテイマー
月華を謳うコンチェルト・
クロエ・キャラハン(jb1839)

卒業 女 ナイトウォーカー