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マスター:舞傘 真紅染
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/10/22


みんなの思い出



オープニング

●これが正しいハロウィンです!(きりっ
「トリックオアトリート」
 おかしをくれなきゃいたずらするぞ。
 とくれば、ハロウィンである。
 友達同士ふざけあいながら。恋人同士でいちゃつきながら。時には片思いのあの子からお菓子をもらおう(渡そう)と画策しながら。
「トリックオアトリート」
 そんな声と共に渡されるお菓子たち。
(ハロウィンか……ボク、初めてだな)
 鎌海 健人(jz0081)は、そんないつもとは少し違う学園の門をくぐり、初めてのハロウィンに胸を躍らせていた。
 そんな彼の今日の衣装は、魔女……の帽子の着ぐるみだった。
「あなたもハロウィン参加者ですか?」
 そんな健人に話しかけてきた女生徒は魔女の格好をしていた。にこにこと笑っている彼女は『ハロウィン盛り上げようの会』と書かれたたすきをかけていた。
 ハロウィンがどういうものか具体的に知らなかった健人は、こくりと頷いた。
「一名様ごあんないでーす」
 すると女生徒が声を上げ、どこからか現れた男子生徒たち(やはり仮装している)が健人の身体を掴んでどこかへ引っ張っていく。
(え? え? え?)
 害意は感じなかったがさっぱりわけが分からない健人は引っ張られるままに足を進め、その場にたどり着いた。

「トリックオアトリートゥーっ!」
「なんのこれしき」
「ダーリンっあたしの愛の結晶よ受け取ってぇっ」
「むしろいーたずーらしーてくーださーい!」
「じゃっくー、新しい顔よー!」

 そこはまさしく戦場であった。
 互いにお菓子を投げては避け、時折愛の告白や趣味の告白をはさみつつ、真剣勝負を行っていた。
「はい。これ君の分ね。がんばって」
 棒のついたキャンディーを10個手渡された健人は、はじめて見る生のハロウィンに興奮していた。
(こ、これがハロウィン!
 なるほど。投げて当たれば飴を受け取ってもらえて、逆に当たれば受け取らないといけない。そして最終的に飴の数が少ない人が勝利……とても鍛錬になりそう)
 一般的な『ハロウィン』とはだいぶ違うのだが、ハロウィンというものについてよく知らない健人は、目の前で行われているのがハロウィンという『修行法』だと理解した。

(よーし、ボクもがんばろう!) 
 そうして参戦していったのだった。


リプレイ本文

●ハロウィンという修行!
「……ニホンジン、変なお祭好きなのだ」
 部活に向かっていたはずのフラッペ・ブルーハワイ(ja0022)は、いつのまにやら狼男の格好をして参加することになっていた。
「なんで飴投げがハロウィンなのだ?」
 ひたすらに首をかしげながらも、これもまた『最速を目指す修行』、そう思って対戦相手を探すために歩いていた。
 目の前を不思議な物体が横切っていく。それは巨大な帽子……いや手足が生えている。もしかして、とフラッペが前に回り込むとびくっとしたそれは鎌海 健人(jz0081)だった。
「此処で会ったのも何かの縁っ……キミの為にボクが、相手になるのだっ!」
【お願いします!】
 狼男と魔女の帽子が対峙した。

「ふふ、これは面白そうなイベントね」
 少し離れたところで周囲を眺めていた雪女。もとい月臣 朔羅(ja0820)は妖艶に微笑む。白い衣が風になびくその姿は、どこか幻想的であった。
「流石は久遠ケ原。普通のハロウィンには成らないのですね」
 呆れを通り越して感心していた雫(ja1894)は、黒のローブとフードを着用し、手に漆黒の大鎌を持っていた。死神の仮装だ。フードを被っていて見えにくいが、骸骨を模した精巧なマスクを被っている。
 相手を探そうと周囲を見ていた雫は、同じく飴を持つ朔羅に気がついた。周囲には通行人もそこそこいる。
「ト、トリックオアトリート」
 声が段々としぼんだのは、人がいる中で勝負を挑むのが予想以上に恥ずかしかったからだ。
「ふふ、私? もちろん受けるわ。トリート!」
 観客が大勢いる中で、2人の勝負は始まった。

「わぁ、お祭りの中にも修行の精神を忘れないなんて、流石ニンジャの本場日本!」
 なんということだ。勘違いが広がっていく。
 嬉々として参戦した犬乃 さんぽ(ja1272)の言葉に、天が泣いたとかいないとか。
 ちなみにさんぽの仮装は日本らしいものを、と妖怪猫又! のつもりらしいのだが、猫耳、しっぽに学ラン、鉢巻きというどこか間違った猫又であった。
 そしてそんな彼の後方にいた大狗 のとう(ja3056)は、期待に胸を膨らませていた。
「はっろうぃーん! 仮装して皆と遊ぶだなんて、なんてワクワクするんだろう!」
 獣耳としっぽ、キバもきちんとつけて犬……げふん。狼人間の仮装だ。近くを通った子供に
「がおー! 食べちゃうぞ!」
「キャー! あはははっ」
 などといって遊んでいる。
「のとさんは飴を沢山持って帰りたい。……でも持ってたら負けちゃうし……うー」
 悩んでいるのとうにさんぽが気づいた。
「あ、大狗先輩! 先輩も参加してたんだ」
「おお、さんぽもなのか」
「じゃあ日本のハロウィン、ボクに教えてね。いざ尋常に、トリックオアトリートゥ!」
「トリートゥ! なのな!」

「なーんだ。ハロウィンって、こーゆー『特訓』だったんだ!」
 そしてここにも、目の前で行われているハロウィンを見て勘違いしている者がいた。並木坂・マオ(ja0317)である。頭の上にある猫耳とお尻につけられたしっぽが、動くたびにひょこひょこ揺れる。
 マオは安堵の息を吐きだしていた。仮装パーティと最初は聞いていたので、どう盛り上がればいいのか悩んでいたが、これなら大丈夫だ。
「よっし、ガンバって一番になるぞー!」
 ツッコミ不足である!
「それにしても、随分と奇抜なハロウィンだね……」
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)は頭にクエスチョンを浮かべながら、渡された飴をいじる。仮装は魔女。化粧をいつもと違う雰囲気にしている。そんなソフィアと拳を振り上げていたマオの目があった。
「とりっくおあとりーとう」
「受けて立つよ!」
 キャットウーマンと魔女が動き出す。


 健人とフラッペ。その距離はいまだ離れていたがその隙にフラッペはアウルの力で青い風を起こし、それがまるでスケートボードのようになった。それに乗ってフラッペが駆け回る。自ら起こす風で耳やしっぽを揺らしながら。
 一方の健人はじっとその動きを見ていた。いつものおどおどした様子はない。飴が投げられる。
「おおうっ?」
 飴は見事にフラッペに命中。
「中々やるのだ! でもボクだって当てる距離まで近づけばっ……外さないのだ!」
 すぐさま反撃したフラッペの攻撃は健人の着ぐるみ部分に当たって地面に落ちる。健人はそれを拾って投げるが、離脱したフラッペの姿はとらえられない。
 互いにプライマイナス0だ。残り攻撃数は3回。
 その間も足を止めない2人。
 次に動いたのは健人の方が先であった。横へ回り込もうとしたフラッペの腕に飴があたる。しかしフラッペもカウンターの要領で投げ返すが、健人は後ろへ倒れ込むようにそれを避ける。
 その後2回、攻撃を互いに当て続けたがここでタイムアップ。
 健人−1。フラッペ+1の結果になった。互いに笑顔で握手をする。
「ケント、Nice fight! なのだ!」
【ありがとうございました】
 

 雫と朔羅の戦いは、朔羅が優勢に見えた。
「さすが鬼道忍軍の方、Death」
「ふふ、ありがとう」
 左右にステップを踏みながら、朔羅が両手を振った。直前まで袖に隠されて飴の動きが見えづらい。
「さてさて、悪戯はどっちから飛び出すと思う?」
(どちらから――右っ)
 直前で気づいた雫だが一歩遅く、飴が当たる。すぐさま投げたことで体勢の乱れた朔羅へ反撃するが、するりと避けられる。その動きはさすがとしか言いようがない。
 人がなるべくいるところを選んだものの、朔羅もまた開けた位置へ誘導しようと動く。互いに譲らない。
 その後雫も障害物を利用して奮闘したが、雫+1、朔羅−1の結果に終わった。
「ありがとう。楽しかったわ」
「いえ、こちらこそDeath」
 互いに最後は互いを褒め合い、別れる。
「折角ですもの。より多くの人と勝負しないと」
 笑顔で去っていった朔羅を見送った雫に
【とりっくおあとりーとぅ、です!】
 そんな看板が目に入った。


「ハロウィン忍法トリック☆キャンディ!」
「あたっ」
 キャンディがのとうの額に当たった。軽くでこを撫でながら、しかしのとうは楽しげだ。
「いっししし! やったな!」
「甘いよ、先輩!」
「ありゃ」
 反撃のキャンディはひらりと避けられ、さんぽの尻尾が揺れた。のとうの目が輝く。
「さんぽの衣装、可愛いなぁ。ねぇねぇ尻尾触ってもいいか?」
「うえぇっ? ありが」
「隙あり! がおー!」
「わひゃっ。……うぅ、ずるい」
 恨めしそうに当たってしまったキャンディを拾うさんぽに対し、のとうは「いしし」と笑っていて怒る気力もどこかへ飛んでしまう。
 その後、周囲を盾にしつつ健闘したのとうはだったが+2、さんぽは−2という結果になった。
「楽しかったな!」
「うん! 楽しかったね!」


「先手が取れるかは凄く重要だね。こればっかりは狙えるものじゃないけど」
 ソフィアはそう思いながらマオの動きをじっと見つめた。彼女はダアト。回避には自信がない。ならば!
 地面を蹴った。
「やるかやられるか、的な?」
「そういうの、分かりやすくていいね!」
 マオもニヤッと笑い、互いに飴を構えた。
 先に動いたのはソフィアだ。
「わわっと、危ない」
 目の前を通り過ぎた飴にマオが声を上げた。外れてしまった飴を拾ったソフィアは、包み紙がはがれていないかをしっかりと確認してから懐にもどす。
(位置取りに注意して……って、ここ障害物が多いなぁ。ん〜相手を追い込めないかな)
 周囲を確認しつつ、どう動けばいいかと考え込むマオだが、ソフィアはそんな簡単な相手じゃないと理屈ではない部分で感じ取っていた。まずはトマトを食べて集中力を高める。
 最終的に引き分けとなった。
「やっぱり避けるの難しいね」
「でもきみの攻撃鋭くて、危なかったよ」
 笑顔で手を振り合う。


「僕の知ってるハロウィンとは大分違うけど、まあ楽しかったら何でも良いよね」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)はそう呟き、9個のキャンディを手でもてあそぶ。先ほどひと勝負してきたのだ。
 今日は黒いタキシードにシルクハット、マントにカボチャマスクを身につけている。はて、どこかでこんな着ぐるみを見たような……。
「ん、あれは」
 そんなエイルズレトラがしっぽを揺らしているさんぽを発見した。大きな音を立ててマントを揺らしながら駆け抜け
「我が名は怪盗パンプキン、ハロウィンの夜を跳梁する魔人なり!」
 驚くさんぽにビシッと指を向けた。
「トリイィック・ォゥア・トリイイイィィトゥゥゥウッ!」
 大げさすぎるほど大げさな動きに、周囲の子供が大喜び。
「もちろん、トリートゥ! だよ」
 互いに回避力の高い鬼道忍軍。先に動いたのは、さんぽだ。
「キミのハートにロリ☆ポップ!」
 避けられないよう近付いてから投げる。しかし
「甘いですよ、飴だけに!」
 ふわりと跳びあがって避け、すぐさまお返しの一撃。
「その言葉そのまま返すよ!」
 それまたさんぽに避けられる。互いに一歩も引かぬ攻防に、ギャラリーがおおっと歓声を上げた。
 互いに回避が高いゆえに、超接近戦での攻防。当て当てられを繰り返し、互角。次が最後のターンだ。
 先制したのはエイルズレトラ。彼の投げた飴はさんぽの腕をかすり、さんぽの投げた飴は――空を切った。
 エイルズレトラ−1。さんぽ+1。
「負けちゃった」
「良い試合でした」
 観客から拍手があがった。


 本日二度目のトマトを食べたマオは、朔羅と向き合っていた。互いに他の参加者と戦ったのか。7個と5個に飴が減っていた。
 マオは相手の動きをじっと見て次の行動を考えるが……。
「あ〜やめた!」
 頭を使った戦略など、マオには立てられない。しかも相手の方が回避が高く、正面から戦うのは不利。ならばもう
「負けなければいずれ勝てるって師匠も言ってたし、ね!」
 目指すは痛み分けだ!
「なるほど。では本気の投げ合いといきましょうか」
 朔羅もその挑戦を受けた。小細工など一切ない、投げ合いだ。朔羅は不規則なステップを踏み、相手に対して半身に構え、袖の中に飴を隠す。
 しかしマオはひるまない。当たっても当て続ければ負けはない。
 緊迫した空気の中、当事者の2人はどこか楽しげだった。
 繰り返された5回の攻防。結果は――。
 プラスマイナス0。
 痛み分けだが、ある意味マオの勝ちと言えるかもしれない。
「すごいわね。ふふ、ありがとう。楽しかったわ」
「ううん……はぁっ楽しかった」


 そしてこちらは魔女帽子と死神、健人と雫の戦いである。
「…………」
 健人はもとより雫も無言だ。
(思っていたより俊敏ですね。でも着ぐるみの視界はせまいはず)
 雫は思うや否や急激な方向転換をし、驚いた健人の隙を縫って側面へ回り込む。そして飴を投げれば、さすがに避けられなかったらしく、飴が着ぐるみに受け止められた。
(! 来るっ)
 当たった瞬間、着ぐるみの影から飴が放たれる。雫は身体をひねる――だが間に合わず、互いに飴の数は変わらない。
(見えない位置だというのにあの正確性――ですがやはり側面が弱点)
(横に回られたら不利ですね)
 駆け引きだ。距離を保ったまま、互いの側面を取ろうとけん制し合うが雫の動きに健人はついていけず、再び被弾。なんとか取り返そうとするも、二度同じ手は通じない。
 健人+2、雫−2。
 にこやかに会話した後、2人はまた別の相手を探しに行ったのだった。


「トリックオアトリートゥ、なんだな!」
 のとうが声をかけたのはソフィアだ。のとうは飴6つ。ソフィアは5つだ。断る理由はない。
 一撃一撃に集中するソフィアは回避よりも当てることに集中していた。それに対してのとうは周囲を歩く人たちを上手く使い、避けていく。だが人ごみの中、当てるのも難しい。
「そのような甘い攻撃はこの怪盗パンプキンには通用しませんよ」
「え?」
「かっこいいのな」
 攻めあぐねている2人の間を通っていったのはエイルズレトラ。彼を追ってきたのは健人だ。
「今!」
「おおわっ」
 目の前から意識が逸れたのとうにソフィアが飴を投げ、2人の勝負は終わった。のとう+1。ソフィア−1だ。
 さて健人とエイルズレトラは……。
 開始時は飴4個だったエイルズレトラは2個になっていた。

●最後
 その後もあちこちで行われた勝負。時間制限まであと少し。飴を0にしたものはまだいない。
 だが王手をかけた者がいた。
 朔羅が持つ飴は1つ。そんな彼女の前に立ちふさがったのは
「トリイィック・ォゥア・トリイイイィィトゥゥゥウッ!」
 カボチャ。否、エイルズレトラ。彼が持つ数は2。この勝負で優勝が決まる。
「さぁ、来なさい。ばっちりと避けてあげるわよ」
「行かせてもらいます!」
 目にもとまらぬ速さととはこのことか。そう言わんばかりの速攻。一般人には目に捕らえることすら不可能。
 両者一歩も譲らない回避合戦。
 最後の攻撃、エイルズレトラの飴が肩をかすった。飴を拾う朔羅。その手が袖の中に消える。
「さあ、悪戯はどっちでしょう?」
 これが最後の攻撃。白い着物と黒いマントが音を立てる。朔羅の投げた飴は……エイルズレトラの足に当たった。
「ふぅ、良い試合でした」
「こちらこそ、ありがとう」

●表彰式
 優勝 月臣 朔羅
準優勝 エイルズレトラ マステリオ
第三位 犬乃 さんぽ

 フラッペは再びおどおどしている健人に近づき、コーラ味の飴玉を渡す。
「ちょっとキミ、頑張りすぎたんじゃないのだ? その飴、あげるのだ」
【わあ、ありがとうございます】
 喜ぶ健人の肩を叩く姿は、姉のようにも見える。
「残念だったけど、楽しかった!」
「ええ、中々に楽しかったわ。たまには、こういうのもいいわね」
「普通のハロウィンとは相当違ったけど、楽しめたしいいかな。朔羅さんはおめでとう」
「おめでとう」
「ありがとう」
 マオと朔羅、飴を舐めつつソフィアが笑顔で会話する。
 息を吐きだす雫に健人が水を渡す。
「ありがとうございます。健人さん、魔女の帽子とは意外でした。大変だったんじゃ」
【つばのところがちょっと】
「いやー、楽しいハロウィンだったね。たまにはこんなハロウィンも良いかもね!」
【あ、あの、おめでとうございます】
「おめでとうございます」
「ありがとう」

「とりっくおあとりーと!」
「ひゃうっ何……わははっちょ、ま」
 和やかな会話がされている中、のとうがさんぽにこちょこちょ攻撃。うるうるしながら見るも、その相手は満面の笑顔で怒るに怒れない。
「少し吃驚しちゃったけど楽しかったし」
 最後は仲良くお菓子を食べる。

「なぁなぁ一緒に撮ろうぜ! 思い出残そうよ、うん!」
 のとうのそんな提案で、みんなで写真を撮ることになった。
 とりっくおあ?
「トリートゥ!」


依頼結果