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マスター:舞双和子
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/02/20


みんなの思い出



オープニング

●悩む生徒思いの教師達

「う〜む……」

 久遠ヶ原学園の職員室で、中年男性教師が悩ましげな声を漏らす。
 それに気づいた若い女性教師が、その中年の教師に声をかけた。

「どうしたんですか、先生」
「ああ、実は少し困った生徒が居てね……」
「えっと、それは成績が悪いという意味で、ですか?」
「いや、むしろ優秀なのだが……そのせいで少し慢心しているところがあるのだよ」
「え、先生もですか?」
「ん? そう言うと、君もかね?」
「ええ。戦闘力はあるんですけど、最近一人で突出するような事が多くて、心配で」
「おや? お二人共どうしました? そんな深刻そうな顔で」

 二人が話していると、他の教師達も気になって寄ってくる。
 事情を聞き、集まった教師達も口々に言い始めた。

「ああ、俺の担当している奴にも居ますよ、そういう生徒」
「あたしもです。最近アウルに目覚めて入学した子なんですけど、力を持て余しているのか、自分ならなんでもできると思いがちで」
「ああ、撃退士なら誰もが通る道ですね……」
「その時の自分を思い出すと死にたくなりますよね……」
「撃退士の黒歴史は一旦横に置いておくとして」


 中年男性教師は話を止めさせてから、真剣な表情を作る。

「今は何も起きていないからいいが、このまま放っておけば、いつか強力な敵と相対した時に取り返しのつかない事になる。自信を持つのはいいが、慢心はいけない。なるべく早いうちに伸びた鼻を折っておきたいのだが……」
「難しいですね。そういうのは実際起きるまで本当の意味で理解する事はないですから」
「危険を冒さず、なんとか分かってくれるような方法があればいいのですけど……」

 教師達が頭を悩ませるが、一向に良い意見が出てこない。
 そんな所に、新たに筋骨隆々の男性教師が現れた。

「どうしました? 皆さん難しい顔で」
「ああ、剛田先生」

 剛田――と呼ばれた教師は、集まっていた教師達から事情を聞く。
 全てを聞き終えた剛田は、重々しく頷いた。

「なるほど。それは一刻も早く手を打たないといけませんね」
「しかし、その方法が思いつかなくてね」
「いえ、簡単ですよ。ここは一つ私に任せてくれませんか?」
「剛田先生にですか? それは構いませんが、一体何をするつもりで?」

 若い女性教師の問いに、剛田はニヤリと笑って答えた。

「なに、少し教えてやるだけですよ。自分だけの小さな世界に閉じこもるな――とね」



●ありがた迷惑の特別授業

「たく、なんだよ特別授業って」

 ある生徒達は、特別授業と称して体育館に集められた。しかし、何故自分達が集められたのかの説明は受けていない。それぞれの担当教師たちは、意味深な笑みを浮かべるだけで何も教えてはくれなかったからだ。
 集まった生徒達に、共通点はない。学年、性別、戦闘スタイルもバラバラだ。なおさら理由が分からず、一部の生徒は不満そうな態度を見せる。
 

「こんな所に呼び出しておいて教師も来ねぇしよ。人を待たせといてのんびりしてんじゃねぇってんだよ」
「さっきからうるさいわねアンタ。グチグチグチグチ文句ばかり。少しは黙ってなさいよ」
「あ、テメェ今なんつった?」
「耳が悪いわね。それとも悪いのは頭かしら?」
「テメェ……死ぬか?」
「やだやだ、大した男じゃないくせに大物ぶっちゃって」
「……ふぅ、この僕がこんな低俗な連中と一緒に集められるなんてね」
「「はぁ!?」」 

 争い始める生徒達。
 肉体を使った喧嘩に突入しそうな険悪な空気の中、ガラッ! と、体育館の扉が開かれた。そこには、ジャージ姿の教師が立っていた。

「待たせてすまん。少し準備に手間取ってな」
「――ゴ、ゴリオだと!?」
「あんた、仮にも教師に向かってなんてこと言ってるのよ。確かに見た目はゴリラだけど――プッ!」
 
 
 逞しすぎる肉体、厳つい顔、そして頭頂にいくにつれ丸まっていく髪型。
 まさしくゴリラといった姿の教師を見て笑った女生徒に、隣に居た男子生徒は有り得ない物を見たような目を向ける。

「はぁ!? まじかよ知らないのかお前!? アイツは『剛田理緒』――略して『ゴリオ』! アウル発生の黎明期から活動していた生粋の撃退士! 制裁された生徒は皆、奴を鬼教師と恐れて卒業まで逃げまわるらしい」
「そこの生徒、説明ご苦労」
「あ、いえ、スイマセン」

 本人を目の前にゴリオ呼ばわりした生徒が、恐縮そうに頭を下げる。
 剛田は気にした様子も見せず、集まった生徒達を見回して言った。

「さて、今日集まってもらったのは他でもない。最近お前等が調子に乗っているという話を聞いたからだ。身に覚えがないとは言わせんぞ?」

 反抗しようと生徒達だが、剛田に鋭く睨まれ口を閉ざす。しかし、その目からは不満の色が見て取れた。
 そのような瞳を向けられているのに、剛田は満足そうな笑みを浮かべる。

「先生方は、そんなお前等を心配していらっしゃる。そこで、俺が一肌脱いでやろうと思った訳だ。お前達の勘違いを正してやろう、とな」
「い、いえ、剛田先生自らそんな事をしていただかなくても……」
「ハッ、面白いわ。やれるもんならやってみなさいよ」
「同感ですね。先生の方が自信を失わなければ良いのですけど」
「ちょっ、お前等っ!」

 生意気な生徒達の反応に、剛田は不気味に嗤った。

「ほう、その意気は良し。褒めてやろう。だがまぁ、そう心配するな。何も俺と戦うという訳ではない。そうだな、変則的なドッジボールでもしようじゃないか」
「はぁ? ドッジボール?」

 集まった生徒達は怪訝そうな瞳を剛田に向けた。その手にはどこから取り出したのか、硬質のゴムボールがある。どうやら本気でドッジボールをやるようだ。

 ドッジボールを選んだ意図は伝わるが、たかがドッジで……生徒達の呆れた表情を無視し、剛田は説明を続ける。

「俺 対 お前等全員の勝負と行こうか。範囲はコートではなく、この体育館全体。顔面も有り。逃げるもよし、隠れるもよし、連携を取るもよし。ああ、体育館を壊さない範囲でならスキルを使ってもいいぞ。このボールも特別性でな。そう簡単には壊れんから、存分にやるといい。理解したか?」
「まぁ、理解はしましたけれど……」
「よし、それじゃあ始め」
「構えろオオオオオオオオオオオオ!」

 剛田がボールを振りかぶった瞬間、男子生徒が全力で叫んだ。
 腰を落とし警戒する男子生徒に、女生徒がバカにしたような口調で言う。

「なに必死になってんのよ。たかがドッジで――」

 言えたのはそこまでだった。
 次の瞬間、男子生徒の頭からドゴンと有り得ない音が聞こえた。同時に、男子生徒の体が真後ろに弾き飛ばされる。何度かバウンドをし、ようやく男子生徒は止まった。

 男子生徒の顔面にはボールの跡がくっきりと残り、シュ〜ッと煙のような物が発生している。
 
 ――何も見えなかった。
 生徒達に戦慄が走り、体育館が無言で満ちる。テン、テン、テンと、ボールがバウンドする音だけが響いた。

「言っておくが、手加減など考えん方がいいぞ。そいつのようになりたくなければな。まぁ、本気で来ようがあまり変わらんがな」

 剛田の声が、死刑宣告のように聞こえた。













リプレイ本文

●脅威! ゴリオ先生!

「さて……続けていくぞぉ!」
「先生、ちょっと待った♪」

 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)の軽すぎる声に意表を突かれ、ボールを振りかぶった剛田はピタリと動きを止めた。

「なんだ?」
「V兵器は使用不可とは聞いてないけど、ボールに向かって使うのは有りだよね☆」
「それは構わんが……むっ?」

 散らばり始めた生徒達を見て、剛田はジェラルドの行動の真の意味を理解する。

「なるほど、時間稼ぎか」
「あははは☆ ゴメンね♪」

 慌ててジェラルドは逃げ出すが、剛田は怒るどころか感心すらしていた。さりげないファインプレーだ。あのまま硬直したままだったら、数人は剛田の餌食となっていただろう。

「立体避難〜」

 白野 小梅(jb4012)は背中から天使の翼を生やし、剛田に見せつけるように体育館の天井を飛び回る。
 小梅に剛田の意識が裂かれた隙に、御堂 龍太(jb0849)は近くに居た者達を集め、剛田に聞こえぬように囁いた。

「あなた達、分かってるわよね。協力しないと勝てっこないわよ?」
「ああ、もちろんだよ。皆で協力しよう」
「ドッジボールなんて久々ですね」

 日下部 司(jb5638)とカッツ・バルゲル(jb5166)は、御堂の言葉に進んで賛成した。流石に、剛田を相手に一人で勝てると自惚れている者は、この場に居なかったらしい。
 多くの者が協力的な姿勢を見せ、味方に心強さを感じていた。だが、そんな時、ネイ・アルファーネ(jb8796)の呟きが耳に入る。

「ドッジボール……?」

 小さい声だった筈なのに、その言葉はやけにはっきりと聞こえた。
 ――いや、まさか、でも……。
 無邪気な、しかし不吉な、その言葉。その疑問を孕んだ声の意味を、皆が薄々分かってはいたが、怖くて誰も確認できなかった。

「ふむ、放って問題なしか」

 脅威なしと剛田は判断し、小梅から視線を外す。その瞬間、事態を察した日下部は声を張り上げた。

「すぐに次が来る! 耐久に自身が有る人は前衛に、そうでない人は後方に下がって前衛の支援を!」

 剛田を恐れ多くが後方に下がる中、勇敢に二人の生徒が前に出る。
 藤堂 猛流(jb7225)と、獅子宮 レイ(jb7212)だ。
 
「さあ、獅子宮。壁を目指し、そうであろうとする俺達がやれることを精いっぱいやってみようか」
「ああ、不屈の騎士の心で、受け止めて見せる!」

 藤堂は深く腰を落とし、獅子宮は盾を構え、剛田を睨み付ける。
 藤堂は不敵に笑うと、挑戦的な言葉を剛田に放った。

「ゴリオ先生。俺が今どの程度の存在なのか、アンタの攻撃を受けることで試させてもらうぞ」
「良い覚悟だ! その言葉、どれだけ本気か確かめてやる!」

 剛田からボールが放たれる。残像が残るような速度。藤堂はそれを視認した瞬間、咄嗟に腕を持ち上げた。

「ぐっ……はぁ!」

 腕と胸に当たり、藤堂の巨体は後ろに吹き飛ばされた。ボールは高々と上がり、ゆっくりと落ちようとしている。

「ぐっ、ごほっ! 誰か……」
「良い根性だ。だが、アウト――なにっ?」

 自分の方へ落ちてくるボールを眺めていた剛田だが、パンッ、と乾いた音がしたと思うと、ボールは方向を変え、カッツの腕の中へ落ちた。

「なるほど、お前か」
「ふふっ、まぁね☆」

 弾丸でボールの軌道を変え、悪戯っぽい笑みを浮かべるジェラルド。
 感心する剛田に、カッツは全力でボールを投げた。

「はぁ!」

 力強い踏み込み、流れるような体重移動。運動エネルギーのロスがまったくない完璧な投球に、カッツは勝利を確信する。

 ――パシッ。

 だが、それはあっさりと崩れ去った。

「まさか! そんな簡単に――」
「うっ、ほおおおお!」
「ぶふぇあ!?」

 まともに反撃を受け気絶するカッツ。
 転がったボールを再び手にした剛田を目にし、ジェラルドは小さく冷や汗を流した。

「いやぁ、流石にお強い☆」
「ふん、正面からでは俺を倒すことは出来んぞ!」

 そして、剛田の攻撃は続く。
 次にそれを受けたのは、獅子宮だった。

「くっ、あああっ!」

 盾でボールを受けるが、余りの衝撃に体ごと後方へ吹き飛ばされる。生身の藤堂と比べダメージは少ないが、防ぐ事が精一杯で、上手くボールを上げることができない。

「簡単にはボールの元にはいかせませんよ!」
「ちっ、取られたか!」

 再び剛田の元に転がるボールとの間に、日下部が割って入る。日下部は味方に蹴り飛ばし、ボールを確保した。
 高速のボール回しで、生徒達は剛田の攪乱を狙う。隙を見つけ投げつけるが、しかしこれも剛田はあっさりとキャッチした。

「あらやだ、あれでも駄目なのね」
「この程度で俺を惑わす事はできんな。さて、お前等はあと何回俺の攻撃を防ぐ事ができるかな?」

 剛田の言う意味を察し、御堂は盾となっている藤堂と獅子宮を窺う。
 確かに、たった一撃しか受けていないにも関わらず、二人は既に足に来ている。

「最後まで壁で有り続けて見せるさ。ぶっ倒れるまでな!」
「私は倒れない! この後ろに、守るべきものがある限り!」
「よくぞ言った!」

 その後、二人は言葉通り剛田の攻撃を受け止め続けた。時折他の者が狙われ数を減らされたが、二人のその献身的な動きはまさに壁、盾と呼べるものだった。しかし、度重なる剛田の攻撃は確実に二人を蝕んだ。
 
 まず限界を迎えたのは、生身で攻撃を受け続けた藤堂だ。藤堂の腕はボールを打ち上げ続け、青く変色すらしている。
 そしてとうとう、藤堂は限界を迎え、前のめりに倒れ込んだ。

「ちっ……まだまだ、だな。想いだけでは護れないものもある。もっと鍛えんとな」
「藤堂! ……くっ!」

 悔しげな瞳を藤堂に向け、獅子宮は剛田を強く睨む。
 ある意味、剛田が一番驚いているのがこの獅子宮だ。藤堂と違い盾を使っているとはいえ、藤堂よりも多く剛田の攻撃を受け止めている。その体に溜ったダメージは、決して剛田に劣る物ではない。

「もう楽になったらどうだ?」
「これしきの負傷、まだ立てる!」

 それは明らかなやせ我慢だ。しかし、その瞳から不屈の闘志を感じ、剛田はその想いに応えた。

「いいだろう! ならば食らえい!」
「ぐああああああっ!」

 剛田の渾身の一撃が、盾を遠くに弾き、獅子宮を吹き飛ばす。今度こそ終わりかと思った剛田だが、盾を失いながらも立ち上がった獅子宮に、目を瞠った。

「くっ……皆、すまない……どうやら私は限界のようだ……」

 そう呟き、獅子宮は藤堂の横に倒れ込んだ。
 意識を朦朧とさせながらも、獅子宮は隣の藤堂の顔を見て、言った。

「見事だったな……騎士道精神を感じたぞ」
「ふっ、馬鹿な事を言うな。本物の騎士はお前のほうだろうに……」
「ふふっ……その言葉ほど、嬉しい言葉は……」

 満足そうな表情をしたまま、獅子宮は気絶した。
 床に這う獅子宮を、剛田は敬意すら感じる温かい眼差しで見つめている。生徒とはいえ、彼女のやったことは剛田の尊敬に値するものだった。

「さて、盾はなくなったぞ。あと何分耐えられるだろうなぁ!」

 剛田が狙ったのは、御堂だ。しかし、御堂は慌てず、手近にあった物を使ってボールを防いだ。

「人間ガード!」
「げぶぅ!?」
 
 倒れた生徒を盾に使う鬼畜的ガード。しかし、それが効果的なのは確かだ。

「ごめんなさいね、後でたっぷりお礼はするから♪」
「ぐっぷ……おえっ!」

 しなりを作って謝罪する御堂を見ないように、盾にされた生徒がうめく。彼がえづいたのはボールの衝撃によってなのか、御堂を見たからなのか。確かめる術はない。

「思い切った行動だな……。だが、逃げるだけでは俺には勝てんぞ?」
「そうねぇ……」

 確かに剛田の言うとおりだ。逃げてるだけでは勝てない。どこかで攻撃のチャンスを作らなければ。
 御堂はさりげない仕草で体育館を見回し、仲間の位置と表情を確かめる。そして、小さく笑った。どうやら準備は整ったようだ。

 ――なら、まずはボールを取らないとね。

 御堂は覚悟を決めた。
 ドンッ! 力強く床を踏みしめる。
 ズンッ! 深く腰を落とす。
 パンッ! と手を叩いて広げ、御堂は腹から叫んだ。

「こいやあああああああ!」

 女装では隠しきれない男らしさがそこにあった。見事なまでに逞しいオカマだ。

「いくぞおおおおおお!」

 御堂の覚悟に剛田も応えた。
 剛田の渾身の一球。まるで砲弾のようなそれに、御堂の顔が引き攣る。

(たかがボールだってのに、冷や汗が止まらないわ……ハハッ)

 しかし、それでも、誰かがとめなくてはならない!

「ふんがあああああああ!」

 雄叫びをあげながら、御堂はボールを迎えた。ボールは御堂の腹部にあたり、ドゴンッ! とありえない音を立てる。周りが一瞬、死を錯覚するその光景。しかし、御堂は見事にボールを受け止めた。

「ふっ、ふふ……や、やったわ――ごふぅ!?」

 しかし、御堂が負ったダメージは深刻だった。
 ボールは転がり落ち、もはや立つことも出来ず、その場で膝を着く。地獄のような苦しみを味わうが、しかしそれでも、御堂の心は充足感に溢れていた。

 ――あとは、任せたわよ。
 御堂の想いが込められたボールを受け取ったのは、ネイだった。

「ボール……♪」
 
 転がったボールに飛びつき、ブンブンと尻尾を揺らして遊ぶ様は、まさに犬そのものだ。
 あまりに予想外の光景に、誰もが何も言えなかった。ネイは夢中になってボールで遊び、弾いては追いかける。そして、何時の間にか剛田の側に近づいていた。
 見下ろす剛田と、無邪気なネイの眼が合った。

「お手」
「ワン♪」
「よしよし、良い子だな」
「ワン♪」
「……ボール」
「ワン♪」
「なにしてくれちゃってんのよぉ!」

 嬉しそうにボールを渡すネイに、御堂はガバリと起き上がって叫んだ。血の涙を流さんばかりの勢いだ。無理もないと思う。
 楽しげにするネイの頭を撫でながら、剛田はしみじみと呟いた。

「お前みたいな良い子がなんでこの場にいるんだろうなぁ……」
「ロリコン☆」
「ロリコンですか?」
「ロリコンよぉ!」
「やかましいわっ!」
「いやぁぁあん!」

 剛田は御堂にトドメを刺し、残った面々を眺める。

「さて、もう数人しか残っていないが、覚悟はできているか? 大人しくすれば痛みは軽くなるぞ」
「くっ……!」

 焦りを見せる日下部だが、ハッと何かに気付いたような顔をすると、大きく声を上げる。

「俺達は全力の先生に一矢報いて見せます。手心なんて加えないで下さい!」
「いい度胸だ! ならば食らえい!」

 日下部に狙いを定め、剛田がボールを振りかぶった、その時だ。

「ひっさーつ! ぜんりょくぅヒザカックン!」
「ぬおっ!」

 剛田の背後から、気配を消していた小梅が膝裏に体当たりをかます。バランスを崩した剛田の隙を見逃さず、小梅はそのまま手のボールを蹴り飛ばした。それは日下部の元へと転がった。

 小梅は剛田から離れ、ビシッと剛田に指を突きつける。

「みんなー、反撃開始ぃ!」
「よし!」

 日下部がパスを回すと、また高速のパス回しが始まった。一度剛田に破られた手だ。それに、剛田は呆れた様子を見せる。

「通じなかった手を繰り返す事になんの意味が――む!?」
「えい……!」

 何時の間にか剛田の死角に入っていたネイが、足払いをしかけた。まるで飼い犬に手をかまれたような寂しい気分になりながら、剛田は咄嗟に躱すが、それを読んだジェラルドが追い打ちをかける。

「今度はお前か!」
「もらったよ♪」
「甘いわぁ!」

 しかし、それすらも剛田は躱して見せた。そしてジェラルドに勝ち誇ったような笑みを見せ――足を滑らせる。

「なにっ!?」

 剛田の顔が驚愕に染まる。よく見ると、剛田の足元は透明な蝋が塗られていた。明らかに人の手による物だ。
 一体誰が……と疑問に思った所で、剛田の眼に、静かに嗤うジェラルドの姿が映った。

「お前かぁ!」
「あは♪ ごめんね☆」
「いっけえええええええええ!」

 完全に体勢を崩した剛田に、日下部が渾身の一撃を放った。
 大きな隙に、完璧な一撃。流石の剛田でもこれは防げない。

 ――――誰もが、そう思っていた。

「そんな……」

 日下部の愕然とした声が、体育館に木霊した。
 剛田は、日下部の攻撃を受け止めたのだ。

「良いボールだ。そして、中々の連携だった。惜しい、実に惜しい。あと一手か二手あれば、流石の俺も防げなかっただろう……」

 さて……と、剛田は肩を回し、準備運動をする。

「次は、俺の番だな?」

 体育館から、生徒達の悲鳴が外にまで響いた。

●死闘を終えて

「むっ、んん! 意外と時間がかかったな」

 体育館の扉を開け、ゴリオは日の光を浴びぐっと体を伸ばす。扉の隙間からは、多数の生徒が転がっているのが見えた。

「しかし、先生方が思っているほど悲観する必要はないかもしれんな……」

 確かに調子に乗った生徒も居たが、中には芯のある者も居た。周りから危険と思われるような行動でも、それは自分の信念に従った、意味のある行為なのだろう。
 それは心配ではあるが、そういうやつは必ず強くなる。生徒達の将来を想像し、剛田は楽しみに思う。

「なに、度が過ぎるようならまた……いや、次はわからんかもしれんな」
「先生、はい」
「おお、ありがとう。……ん?」

 何気なく差し出されたスポーツドリンクを受け取ってから、剛田は不思議そうな声を上げた。隣を見れば、小梅が自分と同じスポーツドリンクをチビチビと飲んでいる。
 そういえば、と剛田は思う。最後の最後に生徒を焚き付けてから、姿が見えなくなっていたな、と。

「ボク、イイ子でしょぉー」
「……ああ、そうだな」

 してやったりという笑みを浮かべる小梅に、剛田も同じく笑って返した。

「だが、仲間を置いて自分だけ逃げるのは頂けんな」
「ん? ――ぎゃっ!」

 ゴンッ! と、小梅の頭に拳骨を落とす。
 きゅ〜っと目を回す小梅を置いて、剛田は快活に笑ってその場を去っていった。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 男を堕とすオカマ神・御堂 龍太(jb0849)
 この命、仲間達のために・日下部 司(jb5638)
 不屈の女盾騎士・獅子宮 レイ(jb7212)
重体: −
面白かった!:5人

ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
撃退士・
カッツ・バルゲル(jb5166)

大学部3年237組 男 阿修羅
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
不屈の女盾騎士・
獅子宮 レイ(jb7212)

大学部6年141組 女 ルインズブレイド
最高のタフガイ・
藤堂 猛流(jb7225)

大学部6年247組 男 バハムートテイマー
焼き芋焼けた?・
ネイ・アルファーネ(jb8796)

小等部5年5組 女 ナイトウォーカー