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マスター:舞双和子
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/16


みんなの思い出



オープニング


 ――夏。
 都心から離れた田舎町。
 うだるような日の下でも、子供達は元気に外を走り回っていた。
「よっしゃ! 今日もカブトムシ取りに行こうぜ!」
「クワガタもだ! クワガタ!」
「いっぱい取って売り払うぜ! ヒャッハー! 今日も稼ぎ時じゃあああ!」
 子供達の目はキラキラ輝いているが、その目的は随分と俗物的なもののようだった……。


 山の中に入り、少年たちは順調に虫を取って回る。
 虫かごにいっぱいの昆虫を見て、少年たちははしゃいだ。
「よっしゃ! 今日もいっぱい取れたな!」
「全部で千円くらいはいくだろ!」
「売った金で菓子でも買って、俺んちでゲームしようぜ! クーラーの効いた部屋でな!」
 少年たちにとって、虫取りとは金稼ぎの手段でしかないようだ。純粋な子供心とはどこへ行ってしまったのか、嘆かわしい。
「ゲームやる前にさ、川で泳ごうぜ」
「暑いし良いんじゃね?」
「よしっ、じゃあ行こうぜ!」
 三人は山を下りながらこれからの予定を話し合う。
 その中の一人が、トンッと背中を叩かれたと感じ、振り返った。
「ん、なんだよ?」
「は、何が?」
「どうしたんだよ、急に立ち止まって」
 しかし、横にいる二人の返事に、あれ? と疑問に思う。
「今背中叩いたろ?」
「はあ? 叩いてねえよ。ガキじゃあるまいし」
「そうだよ、くだらねえ。早く川に行こうぜ」
 心外そうな二人の顔に、ますます不思議に思う少年。やはり勘違いだったのかと思いなおしたところで、音が聞こえた。
 ――シュル、シュル。
 何かが這うような音に、三人は地面に視線を向ける。
 ――長い蔦が、ひとりでに地を這いずり回っていた。
「な、なんだコレ?」
 顔を青くする少年。そして、さらに驚かせるような事が起きた。
 ――バキッ、バキバキッ、バキッ!
 茂みを無理矢理かきわけて、枝を折りながら現れたそれは――
「わ、わああああああ!」
「木、木の化け物だああああああ!」
「逃げろおおおおおお!」
 少年たちは泣きながら、荷物を放りなげ一目散に山を駆け下りた。
 虫が大量に詰まった虫かごが、寂しくその場に取り残されていた。


「植物型のディアボロ?」
 集まった生徒達の一人が呟く。それに、壮年の男性教師は頷いた。
「植物というより、木だな。町に隣接する山の中で、子供達が遊んでいる途中に遭遇したらしい。幸いにもすぐに逃げたから怪我はなかったようだ。町に被害が出る前に、このディアボロの討伐を諸君らに頼みたい」
「出る前って……まだ何も被害が無いんですか?」
 生徒の疑問に、教師はさもありなん、といった顔を見せた。
「木の形を取っているせいか、意識が希薄なのかもしれんな。偵察に行ってもらった者の話によると、近づいてくる者には防衛の為に襲いかかるが、自分から積極的に何かを狩るという事はしないそうだ。山の一定の範囲でじっとしていることに終始しているらしい」
 教師は一息ついてから、続ける。
「動かずにじっとしているならば危険性はそこまで高くはないが、偵察に行った者によれば、むしろそれが厄介なのだそうだ。普通の木と見分けが付きにくい為、発見するのが困難だとか。そいつがディアボロを見つけられたのも、偶然近づいて襲いかかられたからだ。慌てて逃げだした為に姿を見失い、それから再び見つける事ができなかったらしい。『木を隠すなら森の中』を地でいくような奴だな」
 その困難さを想像したのだろう。
 うへぇ……と、生徒達はしかめっ面になった。
「木という形態をとっているなら、弱点もそれに準じたものだろう。対処法はいくらでもありそうだが、先ほども言った通りこの敵は発見が困難だ。『いかにしてこのディアボロを見つけるか?』――そこに諸君らの知恵が問われるだろう。根気が問われる、ある意味難しい任務だ。大変だろうが、頑張ってくれ。ああそれと、火を使うならば扱いには十分注意するようにな。ディアボロを倒せても、山火事になっては目も当てられん」
「ええ、もちろん分かってますよ」
「そうか、それならいい。最後に、発見者の子供達からメッセージがある」
 唐突な教師の発言に、生徒達の興味が集まった。
 教師は手元の資料に書かれた言葉を読み上げる。
「『俺達の夢と希望を取り戻してくれ!』――だそうだ」
「なんですか、それ?」
「なんでも、山に虫を捕りに行っていて、逃げる際に虫かごを落としてしまったらしい。その中には、カブトムシやクワガタがいっぱいだとか」
 それを聞いた途端、生徒達の――特に男衆の顔が明るくなった。
 ふっと何かを懐かしむ笑みを見せ、一人の男子生徒が力強く言う。
「なるほど。それなら、取り戻さなければいけませんね」
「ああ、取り戻してやれ」
 男性教師もまた、ニヤリと笑った。

 ――こうして、生徒達は意気揚々と学園を出発した。


 時は少し遡り、生徒達の派遣が教師たちの間で決定された頃。
 件の子供達は、集まって話し合っていた。
「撃退士の人が来てくれるってよ。母さんが言ってた」
「おお、ならもう安心だな! きっと虫かごを取り返してくれるぜ!」
「……なぁ、本当にこのままでいいのか?」
 ボソリと呟いた一人に、視線が集まる。
「何言ってんだよお前、来てくれるっていうんだから任せりゃいいじゃん」
「でもさ、虫たちを置いてきたのは俺らだぜ? ならせめて、それくらいは俺達で取り戻すべきじゃないか?」
「バカッ、相手はディアボロだぞ! 俺達じゃ無理だって!」
「そりゃ倒すのは無理だよ。でも、虫かごを見つけて戻ってくるくらいならできるんじゃないか? だって、俺ら一度逃げ切ってんだぜ? 落とした場所も分かってるし」
 三人は顔を見合わせる。
「いける……か?」
「いけるん……じゃないか?」
「あんな小さな虫かごにずっとぎゅうぎゅう詰めでほっとくとか、可哀そうだよ……」
「そうだな。俺達は虫を金に変えてるけど、だからといって命を軽く扱うような屑じゃない……」
「むしろ、だからこそ感謝してるもんな……」
「ああ、俺達にもプライドがある」
「なら、行くか」
「ああ、行こう」
「虫たちを助けに!」
「見つかったら怒られるから、ばれないようにこっそりな!」
「「おお!」」
 どうやら学園側の知らないところで、事件は少々厄介な方向へ進むようです。





リプレイ本文

●情報収集

 依頼を受けた生徒達は、早速目的の町に向かった。
 まずは準備と情報。意見が一致した六人は、手分けして捜索の準備と情報収集を進める。
「依頼を受けた者ですが――ええ、そうです。ディアボロの詳しい話を――」
 紅葉 公(ja2931)は教師から聞いた番号に電話をかけ、先行して偵察をした生徒に連絡を取った。ディアボロの情報を全て聞き終え、公は礼を言って電話を切る。
「だいたい分かりましたよ。地図はありますか?」
「はい。これを使ってください」
 天河 真奈美(ja0907)が用意していた地図を渡すと、公は教えられた範囲をペンで囲んだ。それを見て、真奈美は意外そうに眼を瞬かせる。
「思ったよりも狭いんですね?」
「そうですね。情報通り余り動きはないようです。捜索範囲がそこまで広くないのは助かりますね」
「迷った時も、この川を目印にできそうですね。それから、この場所なら休憩もできそうですし――」
 真奈美は目立つ場所を見つけると、サラサラと地図に書き込んでいく。公と相談しながらその作業を進めていると、二人に或瀬院 由真(ja1687)が話しかけた。
「役所から山の植生を確認しました。画像を皆の携帯に送っておきますね」
「あっ、ありがとうございます。お願いしますね」
「ですが、それを当てにしすぎても拙いかもしれませんね。偵察の人の話では、普通の木と見分けが付かなかったらしいんですよ」
「あくまで参考程度に、ということですね。分かりました」
 公の注意に頷き、由真は画像を皆に送る。
 そこに、ゲルダ グリューニング(jb7318)が何かを抱えてやってきた。
「人数分の発煙筒を用意しました。ディアボロを見つけたら、これで合図を出しましょう」
「これで連絡手段は確保できましたね。あとは――」
 ディアボロの情報、連絡方法、他に必要な物は……。
「子供達が虫かごを落とした場所、でしょうか?」
「それなら、饗さんが親御さんに事情を聴いている筈です」
 由真は饗(jb2588)の方へ眼をやる。見ると、饗は電話で受け答えをしながら、その美貌を難しそうに歪めている。その側にいるジェンティアン・砂原(jb7192)も同じような表情だ。
 饗が電話を終えると、二人は四人の元に近づく。気のせいか瞳に冷たい物を混じらせて、饗が口を開いた。
「虫かごとその落とした場所については、母親達が教えてくれました。たまたま子供達に聞いていたようです。ですが、肝心の子供達から話を伺う事はできませんでした」
 饗の言葉に、公は違和感を覚える。
「子供達から話を聞けなかったのは何故ですか?」
「なんでも、子供達の姿が見えないようですよ。気付いたのはついさっきのようですが」
 それは一体どういう……? 四人がその意味を完全に理解する前に、砂原が心配そうな表情で言った。
「あのさ、もしかしたら自分達だけで虫かごを取りに行ったんじゃない?」
 四人は目を大きく開いて体を強張らせる。十分に有りえそうな予想に、背筋に嫌な寒気を感じた。
「やれやれ、困った子達だ」
 砂原は苦みと呆れを含んだ笑みを浮かべ、独り言のように呟いた。

●捜索

 事態を重く見た六人は調査を打ち切り、手分けして山の捜索に入った。

 饗は山の麓から始め、虫かごへと範囲を狭めていくように捜索する事にした。饗を孤立させないようにと、公がそれについて行く。
 違和感のある木はないか? 蔦を引きずるような音や、他の足音はしないか? 二人は神経を尖らせながら、注意深く捜索を進める。
 麓を全て終えた辺りで、公は疲れたような溜息を吐いた。
「中々見つかりませんね。もう虫かごを見つけて山を下りたんでしょうか?」
「それならいいですけどね。まだ山の中に居るとしたら、ディアボロに襲われ……おや」
 饗は言葉を止め、空を見上げる。
「どうやらディアボロは見つけたようですね」
 その視線の先には、赤い煙が上がっていた。


「っと、ここだね」
 真奈美と砂原は、偵察した生徒が遭遇したという場所に向かった。
 教えられた場所に辿りつき、二人は周りを観察する。不自然な茂みの荒れ方や、何かを引きずったような跡。確かにここにはディアボロが居た痕跡があった。
「じゃあ天河ちゃん、やってみようか」
「ええ、それでは私はこっちの方を」
 二人は距離を取ると、目を閉じて心を落ち着かせ、周囲の生命力を感じ取る。
 辺り一面で感じる、数カ所で無数に重なる力。木に群がる虫の命が、二人に伝わってくる。しばらくしてから、二人は場所を変えてもう一度同じことを繰り返した。
「どうでした?」
「な〜んにも。虫の命しか感じ取れなかったよ」
「私もです」
「まっ、ここに居ないならしかたないね。それじゃ、虫かごを探しに行こうか。子供達も心配だしね」
「そうですね。早く行った方が――――砂原さん!」
 真奈美が指す方を砂原は見上げる。そして、小さく目を瞠った。
 そう遠く離れてない場所で、赤い煙が上がっている。
「少しずれていますけど、虫かごがある辺りですね」
「饗君と公ちゃんは麓の方から探しているはずだから、由真ちゃんとゲルダちゃんかな? 急ごうか」
 二人は目で頷き合うと、煙の方へ向かって走り出した。


「翔太くーん! 居ませんかー? 聞こえたら返事してくださーい!」
 ゲルダの可愛らしい声が山の中に響く。
 由真とゲルダの二人は、子供達を探しながら虫かごを目指していた。
 ゲルダが子供達の名前を呼ぶ中、由真は植生の情報を脳内で反芻し、木々を観察しながら進む。しかし、見るのは情報通りのもので、特に違和感を感じる物はない。
「徹くーん! 和也くーん! 居たら返事を――」
 ――ガサッ!
 脇から聞こえた茂みの音に、二人は臨戦態勢に入る。だが、それは杞憂だった。
 茂みから出てきたのは、探していた子供達だった。気まずそうな顔をする三人を見て、由真がほっと息を吐く。
「良かった、無事だったんですね。心配したんですよ?」
「う、うん。……姉ちゃん達、もしかして撃退士の人?」
「はい! 依頼を受けてやってきました!」
 明るく返事をするゲルダに、子供達はなんとも言えない表情を作る。
「……姉ちゃん達、本当にあの化け物を倒せるの?」
「し、失礼な! 由真さんはこう見えて結構できる女ですよ!」
「私もです!」
 見た目はまだ少女と言って差し支えない由真と、自分達よりも少し年上にしか見えないゲルダだ。子供達が不安に思うのも仕方がない。
 頼りなさそうに二人を見る子供達だったが、由真の厳しい眼差しに表情が変わる。
「いいですか。こういう危ない事は、私達の様な人に頼むのですよ。何かあったら、怪我だけでは済まないんですから」
「ご、ごめんなさい。虫かごを取りにいくだけなら大丈夫だって思って……どうしても取り返したかったんだ……」
 さすがに悪い事をしている自覚はあるらしい。反省している様子の子供達に、由真は小さく苦笑を浮かべた。とはいえ、ここで簡単に許す訳にもいかない。
 そんな由真に、ゲルダは助け船を出す。
「由真さん。『意地を通すのが男の子だ』と、母も言っていました。反省もしているようですし」
「そうですね……。ところで、虫かごはもう見つけたんですか?」
「ううん、まだ。この辺にあるはずなんだけど」
「それなら、帰りながら探しましょう。途中で見つからなかったら、私達に任せてくださいね?」
「いいの……? うん、分かったよ!」
 ディアボロの捜索も大事だが、子供達を放ったまま捜索を続けるわけにはいかない。
 二人は子供達を連れ、周囲を警戒しながら子供達が逃げたという道を下る。
「あ、あった!」
 数分ほど歩いたところだろうか。思いのほかあっさりと見つかった虫かごに、子供達の顔が喜色ばみ、三人揃って虫かごに駆け寄る。由真とゲルダも思わず頬が緩むが、ある事に気づき怪訝な表情を作った。
 虫かごの周囲の地面に、何かを引きずったような跡。掻き分けた茂み。折れた枝。
 周りの荒れた風景の中で、一本の木がやけに目立つ。周りの木となんら変わらない筈なのに、何故その一本だけが気になったのか……。
 直感的に、由真はその木に強く意識を向ける。その目は木の正体を見破り、由真の顔が強張った。
「危ない! 下がってください!」
「え?」
 由真の声に、子供達は足を止めて振り返る。その瞬間、木から蔦が伸び子供達に襲いかかった。
「させませんよ!」
 子供達とディアボロとの間に由真が体を入れる。由真は盾を顕現させると、蔦による攻撃を受け止めた。
「――よし、これで! ヒリュウ、お願いします!」
 ディアボロの姿を確認したゲルダは、発煙筒に火を付け、視界を防がぬようにと遠くに投げる。赤い煙が立ち上るのを確かめ、ヒリュウを召還した。
 背後に子供達を庇いながら、由真は叫ぶ。
「今の内に逃げて下さい。早く!」
「う、うん! あ、虫かご!」
 虫かごを回収しようとする子供達に、ディアボロが狙いを付ける。再び子供達に攻撃を向ける前に、由真はあえて前に出てディアボロを引き付けた。
 幾つもの蔦が唸りを上げて襲いかかるが、由真は冷静に見極め盾で防ぐ。しかし、一人で全てを防ぐ事は叶わず、ディアボロは由真の隙を掻い潜って子供達を狙った。
「ヒリュウ!」
 だが、ゲルダがそれを見逃さない。
 ゲルダの意志に答え、ヒリュウが弾丸のように蔦の攻撃を払い子供達を守る。その隙に子供達は虫かごを拾ってディアボロから距離を取り、ゲルダが子供達を庇うように前に立つ。
「くっ、しつこいですね!」
「ヒリュウ、頑張ってください!」
 子供達を逃がそうにも、執拗なまでの子供達への攻撃に逃がす隙がない。そして、それは二人にとって最も嫌な攻められ方だった。防御に集中するが、それを上回る本数が二人を躱し、子供達を襲う。
「うわっ! ――あ、あれ? 痛くない……」
「このままでは……!」
 子供達に庇護の翼を伸ばし、ダメージを由真が肩代わりすることでなんとか防ぐが、由真の顔は苦渋に満ちていた。
 傷を肩代わりできる限度。自分の体に蓄積するダメージ。一方的にやられるこの状況。
このままではジリ貧で押し切られる。由真の冷静な判断力は、現実的にその未来を予測した。
「うわぁ!」
「しまっ……!」
「逃げてください!」
 庇護が切れた事に由真が己の失策を悟り、由真が悲鳴染みた声を上げる。
 子供達が傷つく姿が二人の脳裏を過ぎりかけた瞬間、力ある声がそれを振り払った。
「やらせません!」
「ほらほら、危ないから下がってなよ!」
 煙を見て駆け付けた真奈美が薙刀を振るい、ギリギリで蔦を切り裂く。砂原は子供達を下がらせ、弾丸をディアボロに撃ちこんだ。
 砂原の強烈な弾丸がディアボロを怯ませる。その僅かな隙を逃さず、由真は攻勢に出た。
 隙を見てランスでディアボロを抉る。深く、深く、深く。蔦による攻撃を捌きながら、回数こそ少ないが、確実に同じ箇所を。砂原はそれを援護するように弾丸を撃ち続け、真奈美とゲルダはひたすら子供達への攻撃を防ぎ続けた。
 ディアボロが怯む姿が多くなり、蔦の動きが鈍くなる。このまま押し切れると四人が確信したその時、ディアボロの幹の部分がパッカリと上下に開いた。
『ギギャアアアアアアアア!』
 まるで口のように開いた穴から、甲高い耳障りな声と、今までとは比べ物にならない本数の蔦が飛び出す。最後の悪あがきとばかりの猛攻に、四人の表情が固まった。
「これはヤバいね!」
 砂原は咄嗟に大剣を取り出し、真奈美、ゲルダと共に蔦を止める。そのほとんどを切り払うが、その中の一本が子供達の方へ向かった。  
 四人の背中に冷たい汗が流れる。しかし、幸いにも子供達が怪我をすることはなかった。
「――ぐっ! 間に合いましたっ!」
 突然その場に現れた公が、その身を呈して子供達を庇ったからだ。現場に着き状況を判断した公は、咄嗟に瞬間移動を使って盾となることで子供達を守った。
 予想もしなかった救出劇に全員が固まっている中、茂みから闇色に染まった影が飛び出した。饗だ。
 饗がディアボロに距離を詰めると同時に、無数の蝶が現れディアボロに襲いかかる。すると、ディアボロは無差別に蔦を振るい始めた。
「――ふっ!」
 乱暴に振り回す中で自分に飛んでくる蔦を慌てずに捌き、饗はその勢いのままディアボロに大剣を叩きつける。
 ――バキィッ!
 傷の深い場所を冷静に見極めて放った饗の一撃は、破壊的な音を響かせ木のディアボロをへし折った。上下に真っ二つにされたディアボロは、上半分が地面に倒れ込むと、その鼓動を止める。
 こうして、戦いは終結を迎えた。

●戦い、終わって

「倒した……?」
 動かなくなったディアボロを見ても、子供達の不安は拭えなかった。
 また立ち上がるのでは。そう思うだけで、ブルブルと体が震えてくる。
 そんな子供達を、饗は冷めた目で見下ろす。
「己の命と虫篭を天秤にかけた結果此処に来たのでしょう? 今更怯えているんじゃありませんよ」
「饗さん、もう少し言い方が……」
「確かに言い過ぎかもしれませんけど、自分達がやった事は理解させないといけませんね」
「公さんまで……」
 やんわりと窘める真奈美だったが、公の厳しい態度に困ったような表情を作る。 
「命を大切にするのはもちろん大切なことです。でも無謀と勇敢は違います。一度大丈夫だったからと言って、次も必ず大丈夫だという保証なんてどこにもありません。それは天魔に限らず、です」
 気まずそうに眼を逸らそうとする子供達だが、公の右手を見て目を見開いた。
 腕から手に流れ落ちる赤い血。それは、紛れもなく自分達を庇ってできたものだ。それを思うと、子供たちの目に熱いものが溜まっていく。
 今にも泣きそうな子供達に、砂原は拳を持ち上げる。それに、子供達は目を瞑った。
 砂原はフッと笑うと、ピンッ、と子供達の額を指で弾く。
 意外そうな顔をする子供達に、砂原は軽い口調で言った。
「君達が死んでも僕は哀しくないけど、ご家族の気持ちも考えようね」
「――! …………ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
「皆も、虫も、無事で良かったですね」
 ニッコリと笑うゲルダに、子供達は恥ずかしそうに眼を逸らす。
 そんな子供達に肩に手を乗せ、由真は明るい声を出した。
「さて。走り回ってお腹が空いたでしょう? お姉さんがハンバーガーを奢っちゃいますよ」
「え? いいの?」
「その前に、心配している親御さん達の所に行ってからですね」
「えぇ……」
 続く真奈美の言葉に、子供達は苦い表情を浮かべる。
 真奈美は苦笑したあと、安心させるような口調で言った。
「大丈夫だよ。あんまり怒られるようだったら、私も一緒に謝ってあげるから」
「……うん」
 真奈美の微笑みに、子供達が照れたような表情を見せる。そして、取り戻した宝に目をやった。
 子供達が抱える虫籠の中で、虫たちは力強い躍動を見せていた。





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 揺るがぬ護壁・橘 由真(ja1687)
 優しき魔法使い・紅葉 公(ja2931)
重体: −
面白かった!:2人

撃退士・
天河 真奈美(ja0907)

大学部6年91組 女 アストラルヴァンガード
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
優しき魔法使い・
紅葉 公(ja2931)

大学部4年159組 女 ダアト
悪魔囃しを夜店に響かせ・
饗(jb2588)

大学部3年220組 男 ナイトウォーカー
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
マインスロワー・
ゲルダ グリューニング(jb7318)

中等部3年2組 女 バハムートテイマー