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マスター:真人
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/03/30


みんなの思い出



オープニング

●久遠ヶ原学園・会議室
 天使撃破、コア破壊――先日行われた依頼は『成功』という評価を受けていた。
 大成功に至らなかった理由は、数体のサーバントを逃がしたためだ。
「そのサーバントが、山梨県の山間部で確認されました。皆さんの任務は、その追討です」
 職員が落ち着いた口調で資料を配っていく。
「サーバントは『コアトル』の亜種。身体能力は高くありませんが、被ダメージを半減させるため、結果的に高い耐久力を持っている事になります。それ以外にも地味に厭らしい能力を持っているので、注意が必要でしょう」
 地図、光信機、登山具、バナナひと房……
 任務に必要な支給品を手渡した職員は、御武運を祈る、と撃退士の背中を見送った。
 そして。

『民間人を発見』
 撃退士からの緊急報告が入ったのは、それから十分ほど過ぎた頃だった。


●証言
 僕達A大学ワンゲル部は、五日間の日程でK山系に入った。
 雪崩の兆候に気付き迂回した先で滑落。装備の大半を失った挙句、現在地も見失った。
 避難場所を探し一日歩き、岩陰で夜を明かした時だった。『悪魔』と遭遇したのは。
「五人か……多いな」
 連れ込まれた小屋で、ベネトナシュと名乗った女悪魔は僕達を品定めしているようだった。
「お前達、生きたいか?」
「当たり前だっ!」
 チーフリーダーのユウマが怒鳴った。
「ならば一人で良い。お前達の中から選べ。そうすれば、命だけは助けよう」
 沈黙が生まれた。とても長い、十数秒の後。
(遭難したのは僕が原因だ。それに……天涯孤独で悲しませる身内もいない)
 そう思った僕は、自ら前へ出た。滑落時の負傷で視力が落ちていたから。もう足手まといになりたくなかった。
 ベネトナシュは愉しげな笑みを漏らした。
「その男で良いのだな? では上総、そやつ以外を縛れ」
 直後にベネトナシュが放った言葉で、皆は一斉に抗議の声を上げた。もちろん僕も。
「話が違う! 皆は逃がしてくれるんじゃ」
「はて? 私は『解放する』と約束した覚えはないが?」
 そう言って、ベネトナシュは満足げに笑った。
「妙な考えは起こすでないぞ? もしここから逃げようものなら、その時は命の保障はない。死にたくなければ、大人しくしている事だ。撃退士が来るまで……な」
 ベネトナシュに促され、傍らに控えていた男が頷いた。僕はその男に抱えられ、小屋を後にした。そして。
「……戻ろうとしてはいけない」
 男はそう言って僕をここに残し、姿を消した……。


●優先すべきは
 報告を聞いた職員は動揺隠し切れなかった。
 入山届によれば、彼らは直線で五キロ離れた別の山にいるはずだったから。
「あぁ、やっぱりそのパターン……」
 現場が地元だというオペレーターが指を差す。
「ワタルさんの証言は、この辺りで滑落し、ここをこう通って……M山方面へ復帰を目指したって事です」
 そのM山からS山へ迷い込むと事例は、年に数度あるという。
 数年前に発生した大規模崩落で道が立入禁止になって以降はさすがに減ったが、壁が作れた訳ではないため、山菜採りの地元民は今でも偶にやらかす。
 不運に不運が重なった上の、不運。
「避難小屋は、多分ここですね。危ないんで今は使われていませんが」
「そうですか」
 職員は心を落ち着かせ、悪魔・ベネトナシュの思惑を探った。
 人間の感情に興味を持ち、獲物に『約束』『賭け』を持ち掛け、葛藤する姿を堪能する。
 我儘で飽きっぽい性分だが、小さな子供など純真な者に対する慈悲の心を持ち、交わした約束は極力守るという。
『一人を選べば、命は奪わない』
 誰の命を? 選ばれた一人を? それ以外を?
 素直に受け取るなら、『一人』とは生贄の意味だろうが……選ばれたワタルは、撃退士に保護された。
『死にたくなければ大人しくしろ』
『撃退士が来るまで』
(……守っているつもりなのでしょうね)
 あえて主語を省いた外連味のある言い回しは、他者の反応を楽しむ彼女の性分故か。
「皆さんはサーバントの討伐を優先してください」
 職員は落ち着いた口調で現場の撃退士に指示を出す。
 先に救出に向かい、その後討伐という選択もあるが、それではサーバントに逃走の猶予を与える事になる。
 ならば危険を排除するまで、彼らをベネトナシュに預けておいた方が無難である。
 『悪魔』の念押しを、押すなよ押すなよのコントと受け取る程、彼らも愚かではないだろうから。
「そしてその後、ベネトナシュに捕縛(保護)された大学生の救出(引き取り)に向かってください」


●証言の裏側
(一人……決まりよね?)
(あぁ。計画とは違うが、天魔被害なら保険金の額も跳ね上がる。好都合だ。)
 視線で語り合った大学生達は、自分達が半歩下がる事で、狙い通りワタルを差し出す事に成功した。
 あとは無事に下山し、警察でありのままを話せば良い……はずだった。
「はて? 私は『解放する』と約束した覚えはないが?」
 その一言に、大学生達は息を飲んだ。
 ベネトナシュは『一人を選べば、命は助ける』と言ったが、『誰の命』とは断言していない。
 つまり生贄になるのは、、自分達の方なのか……?
 愕然とする大学生の反応を眺め、ベネトナシュは満足げに笑った。
「妙な考えは起こすでないぞ? もしここから逃げようものなら、その時は命の保障はない。死にたくなければ、大人しくしている事だ。撃退士が来るまで……な」
 ベネトナシュに促され、傍らに控えていた男がワタルを抱えあげ、小屋を後にした。
 それを確認した後、ベネトナシュは再び残された大学生を眺め、目を細める。
「私もそろそろ運動しにいくとしよう。上総、お前は見張りとしてここに残れ。良いな?」
「はい。姉様……ふぁいとです」
 ベネトナシュは小屋を後にする。
 最後にもう一度、逃げるなと念を押すように大学生を見据えて。

 十分後。
「ねぇ、縄を解いてくれない?」
 トイレに行きたい、と懇願するリナに、上総はオロオロした。
 お漏らしはとても恥ずかしい事だ。自分も失敗し、主や兄様に迷惑をかけてしまった経験がある。
「分かりました」
 上総はリナの縄を解いた。
 避難小屋にトイレはない。外で用を足す事にしたリナは、自ら茂みの中へと入っていく。
「お姉さん、そっちは危ないです……」
 引き留めようと追った時、上総の身体をドンという衝撃が襲った。
 突き飛ばされた先に足場はなかった。十数メートルの高さから谷川へ、上総は真っ逆さまに落ちていく。
 それを見届けたリナは、すぐさま仲間の元へと戻る。
「ナオヤ、あんたの言う通りだったわ!」
 最初に現れた時、あの娘はヴァニタスの男に抱かれていた。飛べないという予想は、正解だった。
「リナ、早く縄を解いてくれ。あの悪魔達が戻る前に逃げるぞ」
 再び自由を取り戻した大学生は、ザイルやナイフなど、必要最低限の荷を持って小屋を後にした。
 サーバントが潜む、山の中へ……。


リプレイ本文

●捜索開始
 駐車場で保護したワタルを地元警察に託した撃退士達は、後方に聳え立つ山に目を向けた。
 サーバントが潜む山。そこには未だ四人が取り残されているという。
「喪服の女悪魔さん……確かナハラさんのお友達……?」
 ベネトナシュという名前に、水無瀬 文歌(jb7507)は覚えがあった。
 何度か会った事がある。某高級温泉旅館で、そして埼玉の地底湖で。
「悪魔さん達が守ってくれてるなら、ひとまず安心だね!」
 状況を前向きに捉える私市 琥珀(jb5268)の横で、鈴代 征治(ja1305)は慎重に悪魔の思惑を探る。
「どうしたんだい、具合でも悪いのかい?」
 俯いたままの浪風 悠人(ja3452)に気付いた狩野 峰雪(ja0345)。心配そうに覗き込まれ、悠人は何でもないと笑顔で取り繕った。
(……胸の傷痕が疼くけど、抑えなきゃ)
 山の中には、きっと『彼』もいるのだろう。
 黒鳥の騎士・アルカイド――ベネトナシュのヴァニタスが。
 悠人はかつて彼と剣を交えた事があった。数年の時を経た今でも、それは苦い記憶だ。
 やはり当の悪魔達と何度も邂逅を重ねてきた雪室 チルル(ja0220)は。
「さっさと敵をやっつけて助けてあげないとね!」
 両の拳をギュッと握り、気合に満ちた鬨の声を上げた。


●東班と黒鳥の騎士
 チルルと峰雪、悠人が捜索するのは、谷川を挟んだ東側の地域だ。
 早春の恵みを享受する人々が訪れる山も、今は静けさに包まれている。
 そんな山道を、コアトルが興奮するという黄色い旗を振って歩くチルルは、まるでツアーコンダクターのよう。
「いないみたいね!」
「いるとすれば、もっと上の方だろうね」
 峰雪の呟き誰ともなく頷いて、一行は更に上を目指す。
「……これは」
 ふと、悠人が足を止めた。道端に残る雪が不自然に抉れている事に気付いたのだ。
「動物じゃないですね。これは明らかに『靴』の跡です」
「もしかして大学生の子達かい?」
「一種類だけですから、たぶん違うと思います」
 足跡は本道を外れ、林の中へと続いていた。忍んでいる様子はない。
 何かを追っていたのか、それとも追われていたのか、二度三度、足跡は乱れた。
 その軌道をなぞるように立つ樹々の幹には、鋭い爪で抉られたような傷が刻まれている。
「ねぇ、これって血よね? ……!」
 薄紅色に染まる痕跡を辿ったチルルは、そこに広がる光景に息を飲んだ。
 倒木の枝に絡みつくように、コアトルが垂れ下がっていた。
「これは……悪魔達の仕業なのかな?」
 血がまだ乾いていないという事は、他のコアトルも近くにいるかも知れない。
 索敵を行使した峰雪の目が、木陰に佇む満身創痍の人影を捉えた。
「アルカイドッ!」
 反射的に警戒態勢を取るチルルと悠人。
 アルカイドは目を細め、撃退士の爪先から頭まで観察するように視線を巡らせる。
 我彼を見定める緊迫が十数秒ほど続いた後。
「…………撃退士?」
 沈黙を破ったのは、やや緊張感に欠けたアルカイドの呟きだった。


●西班と無垢なる幼女
 征治、琥珀、文歌が向かった西側は、ありのままの自然を残していた。倒木や落石が残雪の下に埋もれていて、非常に歩きづらい。
「立入禁止になっているだけありますね。……きゃっ」
 聴覚に意識を集中させた直後、すぐ頭上で響いた野鳥の雄叫び。文歌は思わず肩を竦めた。
「反応はいっぱいなんだよ」
 ほんの少し遠ざかり、じっと身を潜める。そんな動きから、生命探知に掛かったのは野生の動物だと琥珀は思う。
「コアトルはいないの?」
「動物が逃げ回ったような痕跡もありませんね」
 そう言って、征治は頭上に目を向けた。
 数年前に崩落した崖は想像以上に大規模で、未だに生々しい土色を曝け出している。視線を東側に向ければ、土砂に削られた谷の対岸に、避難小屋が確認できた。
 ここからでは内部の様子を確認する事はできず、征治は残念そうに双眼鏡を下ろした。
 結局その後もコアトルの痕跡は見つからず。一行は捜索場所を沢へと移す。
 雪解け水の交じる沢は冷たく水量も多い。
「川の中に何かあるんだよ!」
 琥珀が声を上げたのは、浮石に足を取られて落水しかけた、そんな時だった。
 橋が架かるように倒れた樹に引っ掛かった塊。それが小さな女の子だと認識した時には、驚きのあまりカマーと叫んでいた。
「君はヴァニタスの子かな?」
 救出した少女を怖がらせないよう、バナナを手渡して。
「はい、上総です」
 それを受け取った少女が礼儀正しく頭を下げたので、征治も思わず会釈を返す。
「お兄さん達は、撃退士ですか?」
「おにーさん達はカマキリ探索隊なんだよ!」
 そうだと答える前に、琥珀が横から口を挟む。何やら恰好よさげな名称に、純真なお子様は瞳を輝かせた。
「上総ちゃんは、どうしてここにいるのかな? 他の人達は?」
 優しく問いかける征治。
「姉様と兄様は、さーばんとと戦っています。上総は……落ちてしまいました」
「落ちた?」
「はい。後ろからどーんと。あれはきっとイノシシです。前にもありました」
 イノシシは勢いよく突進し、直線状にある全てを撥ね飛ばす。そう身振り手振りで説明する上総。
 それは本当だろうか?
 騙そうとしている訳では無さそうだが、判断に困り、撃退士達は顔を見合わせた。


●嘆きの黒鳥と愚かな学生
「若い子たちが捕まっているって聞いたのだけれど……」
 峰雪が最初に確認したのは、捕らわれている大学生の安否だった。
「……はい。無事です。サーバントに見つからないよう、隔離しています」
 アルカイドは指で避難小屋の方向を指し示す。
 ――悪魔勢が目撃したコアトルは三体。
 ベネトナシュが頂上から、アルカイドが麓から追い立て、戦っていた。
 斬りつけても何故かあまり効いている様子はなく、攻撃を受けてもいないのに、何故か自分が傷を負っていた。
 一つでも多く有益な情報を引き出すため質問を重ねる悠人。
 アルカイドは促されるまま淡々と答え続ける。それは学園が把握している物と大差ない。コアトルの特殊能力などは、むしろ自分達の方が詳しいぐらいだ。
(何か、苦手なタイプだな。この人)
 重傷を負わせられた相手という先入観を切り捨てても、どうもテンポが掴めない。
 悠人はため息を吐きながら、別行動をしている仲間と情報を共有するため、光信機の手にした。

『アルカイドと接触しました』
『こちらきさカマ、上総ちゃんっていう女の子を保護したんだよ!』
『兄様? 兄様ーっ』
『ちょっ……あんた、場所も知らないのに行く気なの?』
『コアトルはこちら側にいるようだね。すでにアルカイド君が一体倒したそうだよ」
『分かりました。すぐに合流します』
『では、楠のお地蔵さんで落ち合いましょう』

 少々賑やかな定期報告を終えた、十数分の後。
 無事に合流を果たした撃退士達は、アルカイドに先導される形で山を登る。
「……なんか変な動きをしてる反応があるんだよ!」
 琥珀の生命探知に引っかかった、奇妙な動きの反応がふたつ。
 文歌は目を凝らして林の中を索敵する。
「確認しました。コアトルです。……あぁっ!」
 視界に入ったのはコアトルだけではなかった。
 頂上へと延びる登山道、その先に登山服姿の男女が四人。
 そして彼らの後ろには、黒いドレスに身を包んだ妙齢の女性――嘆きの黒鳥・ベネトナシュの姿。
「あ、悪魔が俺達を……!」
 助けを求めた大学生達は、撃退士の後に立つ上総の姿に気付き、表情を凍らせた。
 悲鳴をあげ、林の方へと逃げ込んでいく。
「そっちは危ないんだよっ!」
 しかし琥珀の制止が男達の耳に届く事はない。
「はぅっ……」
 雪に足を取られてバランスを崩したリナ。その拍子にどこか痛めたのか、起き上がる事ができない。
「ちょっと、まさか私まで見殺しにする気?」
「おねえさん、大丈夫ですか?」
「何で、生きて……」
 残されたリナの元へ真っ先に駆け寄った上総。リナは差し伸べられた小さな手を振り払う。
「あ、あんた達、撃退士なんでしょ? 早くこの天魔を倒してよっ」
「この方達は『友軍』です。心配は要りません」
(……何か、変、かも?)
 文歌が感じたのは漠然とした違和感。それが形となる前に、再び男達の悲鳴が上がった。
 黒い羽を散らし、男達の前方に瞬間移動したベネトナシュが行く手を阻んだのだ。
「逃げるなら命の保障はない。そう言ったはずだな?」
「待ってください。撃退士が来るまでって約束だったんですよね? 私達が来たので、この人達の身柄は私達が預かります」
「解放すると言った覚えはないぞ? そも、先に約束事を反故にしたのはそ奴らの方よ」
 痛い所を突かれ、文歌の顔に朱が差す。
「ベネトナシュさん、一方的な事は約束と言えないよ」
 口添えをした峰雪にベネトナシュは意味ありげに笑みを浮かべて。
「この者達は私が見ていよう。なに、壊しはせん。貴公らは疾く己が任務を全うするが良い」
 殺しはしない――その視線に偽りがないと判断した峰雪は、力強く首肯すると、仲間達を促して林へと向かった。


●獅子奮迅
 一条の光が風を切る。
 峰雪が放った矢は、前衛で押し留めるチルルとアルカイドの狭間を抜け、コアトルの胸元を穿った。
「効いてくれれば良いけれど……」
 命中した瞬間、その部分に虹色の波紋が広がった。
 被ったダメージを半減するコアトルの能力も、そこに込められた影響まで無効化する事はできない。波紋を追うように、じわりと腐敗が広がっていく。
「何かヒリヒリする! これが毒息ってやつ?」
 コアトルが纏う瘴気。それは生温い湿気を含んだ空気のように周囲に蔓延し、近づく者の肌を刺激する。
「あたいを近づかせないつもりなら、ムダな努力ってやつよ!」
 しかしチルルは少々のダメージに構う事なく、真正面から飛び込んでいく。
 氷剣を薙ぐ。両腕に伝わる確かな手応えとは裏腹に、コアトルは何事もなかったように空を泳いでいた。

 征治が編んだ星の鎖がコアトルを絡めとる。
 しかしそれは一瞬の事。コアトルは戒めを難なく引きちぎる。
「では、こちらはどうです?」
 鋭い爪をギリギリまで引き付けて、征治はランスを翻した。
 その切っ先が掠めると同時。アウルのスパークと共に、コアトルは大きく身体を痙攣させた。
「カマキリ流星群、ふぃーばー♪ なんだよ!」
 琥珀が叫ぶ。
 直後に降り注ぐ無数の彗星。即座にスタンから回復したコアトルを、今度はコメットが生み出した重圧で捕らえた。

「身体能力自体は高くないようですね。問題は……」
 文歌も己が歌声をチカラに変え、もう一体のコアトルの意識を刈り取った。
 とはいえ、地の抵抗力が高いコアトルはほんの数秒で復帰してしまう。半ばいたちごっこの状況に、峰雪が唸る。
「やはり攻撃を集中させた方が良さそうだね」
「えぇ。少しの間、足止めをお願いします」
 共に後方で狙撃に徹していた悠人がライフルを構えなおした。

 この一瞬に、勝負を。
 征治のスタンエッジをまともに受けたコアトルが動きを止めた。
「今です!」
「いっけぇー!」
 両手に六花を咲かせ、チルルが白き突剣で子アトルの胸を貫く
 勢いで高く跳ね上がったコアトル。
「見えた……!」
 悠人が引き金を引く。放たれた弾丸は光と闇を纏いながらコアトルの頭を撃ち砕いた。
「お待たせしました!」
 一呼吸おいて、征治は残るコアトルの方へ向き直った、その時。
「きゃあっ」
 奇跡的な確率でスタンエッジに耐えたコアトルが、反撃の牙を文歌へ向けたのだ。
 避けきれず、衝撃に耐えるため身構えた文歌。
 その前方にアルカイドが割り込み、剣で牙を受け止める。
『シャアアア……ッ!』
 吐き出されたのは魂を握りつぶすような威圧の声。
 あれは危険。触れてはならないモノ―――本能が鳴らす偽りの警鐘を、撃退士達は歯を食いしばって振り払う。
 時が止まった一瞬の隙を突き、コアトルは空高く舞い上がった。
「申し訳ないが、逃げられては困るのでね」
 天頂へ達する前に、峰行きのイカロスバレットがコアトルを引きずり落とす。そして……。
 今度こそ完全に動きを封じられたコアトルは、撃退士達の怒濤のような連撃を前に、文字通り八つ裂きの状態となって地に転がった。


●戦い終えて
 大学生達は可哀想な程に怯えていた。
「誓って言うが、私は何もしておらんぞ?」
 勝手にどこかへ行かないよう、ただ『見ていた』だけ。それを相手がどのように受け取るかは、ベネトナシュの預かり知らぬ所。
 それを聞き、峰雪は首を横に振った。
「助けてくれた事にはお礼を言うよ。 でも、それだけじゃ駄目なんだ。
 悪魔にも色んな性格の子がいるように、人間にも色んな性格の子がいる。相手の性格を知ろうとするには、脅す以外にも、色んな方法があるよ」
「……心に留めておこう」
 一度大学生へ視線を向けたベネトナシュは、契約の証にと差し出されたバナナを受け取り、大人しく身を退いた。
 それを見届けた琥珀が大学生へと向き直る。
「もう大丈夫なんだよ! 僕らに連絡くれた人も無事だよ、良かったね!」
「なっ」
 本来なら喜ぶべき所だろうに、大学生は息を呑み、視線を泳がせた。
(どうすんだよ)
(まて、まだバレたって訳じゃ……)
「どうかしたんですか?」
 不可解な反応に、文歌が眉を顰める。
「……何か訳ありのようですね。少々、事情を聞かせて頂けますか?」
 悠人に問い詰められた大学生は表情を硬くして、互いに罪を擦り付け合うように全てを吐き出した。

 任務完了の報告を終えた後、撃退士達は町内の病院を訪れた。
 先に搬送されたワタルを見舞うためだ。
 滑落の際に受けた打撲と擦り傷は特に問題なく。一時は失明も危ぶまれた両眼も、手術による回復が見込めるという。
「そうでしたか。……お世話になりました」
 文歌から事の顛末を聞いたワタルは、ベッドの上に横たわったまま、静かに頭を下げた。

「……やっぱりショックだったようですね」
 それきり口を閉ざしたワタルの様子を思い出し、悠人が息を吐く。  
 無理もない。唯一の拠り所だった仲間達に裏切られた事を知ったのだから。
「でも、何も知らないよりマシです」
 文歌自身、よく考えた上での判断だ。
 ワタルには真実を知る権利がある。
 その上で、これから彼らとどう向き合うのか――それはワタル自身が決める事だと思ったから……。

 ふと足を止めて仰ぎ見た視線の先。
 遠く聳え立つ山々は、町を見守るよう静かに座していた。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: Mr.Goombah・狩野 峰雪(ja0345)
 種子島・伝説のカマ(緑)・私市 琥珀(jb5268)
重体: −
面白かった!:5人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
種子島・伝説のカマ(緑)・
私市 琥珀(jb5268)

卒業 男 アストラルヴァンガード
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師