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マスター:真人
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/06


みんなの思い出



オープニング

●転生
 死ねば良いと思った。
 くだらない逆恨みで私の顔に傷をつけた級友も。
 電車の中で、あれでよく生きていられるよね、と私を見て笑った女子高生も。
 容姿など何も気にしないと言いながら、結局あの女を選んだ隆一も、あの女も。

 だから私は願った。
 私を嘲笑う者全てをこの手で殺せるなら……魂なんか要らない、と。
 

●手探りの未来
「今回の任務は、デビルに浚われた人々を奪い返すことだよ」
 神代 深紅 (jz0123)は地図上の一部を赤いペンで丸く囲った。それは説明するまでもなく、デビルが支配する領域を示したものだ。
 場所は群馬県――神流町。

 そもそもの発端は、久遠ヶ原学園が追い続けた“ラビュリントゥス”というデビル協力団体が関わった事件だった。
 先の調査・救出任務に参加した撃退士達は、多くの一般人を結界の中に誘い込んだという、主宰者の宣言を聞かされていた。
 その言葉を裏付けるように、団体が主催したセミナーに参加した者の殆どが、短い間に行方不明となっていることが確認されたのだ。
 断片的な手がかりを繋ぎ合わせ、突き止めたゲートの場所がここ、神流町だった。
 慌ただしく救出のための作戦が立てられていく中、支配領域の内側に居たという人物が2名、相次いで発見された。
 1人は撃退士・高崎優。
 もう1人は一般人の近藤雅美――ラビュリントゥスの情報を久遠ヶ原にもたらした、チーム飛狼が捜索を依頼されていた女性だった。
「雅美さんは先月の初め、千葉県内の海岸で意識不明の状態で保護されていたんだ。丁度、飛狼の鳩羽さんが居なくなった直後かな。
 結界の中で意識が朦朧としていた時、“黒ずくめの撃退士”に助け出された、って証言してる」
 雅美を連れ出した撃退士が、なぜ彼女を群馬から遠く離れた千葉まで運んだのかは判らない。これほど距離が離れていなければ、もっと早くに関連性を疑うこともできたはずだ。
 それ以前に、直接病院へ搬送しなかった理由も気になるところだが、湧き上がる疑問は口にせず、深紅は先に説明を続ける。
「高崎さんは昨日、結界の偵察に向かった調査隊に発見されたんだ」
 彼が所属する“緋翠”というフリー撃退士チームは、町に縁あるリーダーの決断で状況を確認に向かった。
 その先で多くの人が捕えられていたのは予想外の出来事が、助けを求められては見捨てるわけにもいかない。近く訪れるだろう救出隊に望みをつなぐため、なし崩しに行動を共にすることになった。
 当初はほぼ全員が支配領域内の中学校で身を寄せ合っていたが、人間関係の悪化から分裂。チームは二手に分かれ、両方のグループを同時に守り続けていた。
 2人の証言に共通しているのは、ディアボロが積極的に人間を殺戮することはなかったという。
 もちろんそれは、単に“魂を無駄に消さない”だけの話だ。
 彼らは生きる希望を失いかける程度に人を襲い、外界との境界に近づいた者は容赦なく切り裂いた。
 現に情報を託された高崎は、脱出するまでの間にディアボロの執拗な追撃を受け、瀕死の重傷を負ったほどだ。
 深紅は改めて集まった撃退士達の顔を見つめる。
「作戦の内容を復習するよ。最終的な目標は、結界内に捕われた人々を奪い返すこと。
 先行するボク達の任務は、脱出を円滑に行うため、結界内部に捕えられている人達を可能な限り合流させること。
 侵入・脱出の経路に国道299号線を使用する予定。でも、これは皆の作戦に合わせて変更可能。
 翌朝8時に後続の仲間が迎えに来るまで籠城することになるから、避難所の選定も重要になってくると思う」
 先行する撃退士はサポートの深紅と西田笑子を含めて12人。決して十分と言える人数ではないが、これが敵を刺激しないギリギリの人数だった。
 結界内部に居ると緋翠メンバーと協力すれば、後続隊が到着するまで持ちこたえられるだろう。
「高崎さんの話だと、すでに生還を諦めている人は何人かいるみたい。でも、救援がくることを実感できれば、きっと素直に従ってくれるはずだよ」
 これ以上デビルの掌で玩ばれないためにも、依頼を成功させよう。
 そう言って、深紅は深々と頭を下げた。

●夜と朝の間
『イツマデ、イツマデ……』
 宵闇が近づいた町に化鳥の囁きが谺する。
 お前はいつまで生きているのか?
 そう責められているように思えて、人々は己の耳を塞いだ。
 怨嗟。後悔。苦悩――赦されたと思い込んでいただけに、蘇った罪悪感はより深く心を抉る。
(美海、待たせてごめんな。パパも行くよ。)
(あたしのせいで、あんな小さな子供達まで。あたしが我慢さえしていれば……。)
(許してくれ。頼む……俺が悪かった。)
 抗う心を喪った者達は、陰鬱な時間に浸り、魂の終焉を待ち続ける。


 黒鳥は嗤う。
 何も考える必要はない。
 無駄に悩み苦しみ足掻くより、全てを忘れ我に魂を委ねよ、と。

 鳩は言う。
 人間は決して弱くはない。
 絶望が渦巻く暗黒の海に漂流しようと、必ず希望の一葉を手繰り寄せるのだ、と。

「ならば賭けをしようではないか?」
 黒鳥はその翼で鳩を包み、甘美な声で誘いかけた。
「お前の言葉通り、希望が絶望より勝るのなら、我が領地の人間を解放すると“約束”しよう」
 逆に絶望が勝ったなら。
 賭けのチップにできるものなど何一つ持たない鳩に、黒鳥は血のように赤い唇を歪め、妖艶な笑みを見せた。
 耳元で囀った言葉は、死を宣告するよりも残酷な提案――。


 先の見えない絶望の中、それでも必死に前を向く人々は、居る。
「諦めるな」
「絶対に助けは来る。俺達の仲間を、撃退士達を信じろ」
 励まされて仰いだ空はに、血のように赤い不気味な夕焼けが広がっていた。
(まだ死ぬわけにはいかない。)
(後悔しないって決めたじゃないか。)
(私を捨てたあいつにもう一度会って、グーで殴ってやるんだから。)
 例えここが地獄の底であっても、存在していること自体が責苦だったあの時代と比べたら、ずっとましだった。
 だから生き延びてやるのだ。
 閉ざされた箱庭の世界で、泥水を啜り、荒れた畑に育つ草を貪る。

 永遠にも思える夜の世界に、撃退士という希望の光が差し込む瞬間を信じて――。


リプレイ本文

●煉獄の中へ
 薄蒼い空を鳥が舞う。
 嘴が異常に長いカラスや鉤爪を持つスズメ。見慣れているはずの鳥達はみな不気味で。
 中でも一際目を引くのは、蛇のような身体を持つ鳥。
『イツマデ、イツマデ』
 不明瞭であるが故、その鳴き声はより不快な響きを孕む。
「何とも趣味の悪い鳴き声だな」
 千葉 真一(ja0070)は忌まわしげに呟いた。
「気に入らないさね」
 音楽を嗜む九十九(ja1149)にとって、耳障りな雑音は存在自体が許せない。
 ふわりと舞い降りた1体に藤咲千尋(ja8564)が狙いを定め……すぐに腕を下ろした。
 ディアボロ達は様子を窺っているだけのようだ。もっとも周囲に殺気が満ちていることから、隙を狙っているだけかも知れないが。
「救助者は105人……」
 御守 陸(ja6074)は渡された名簿を指でなぞる。キイ・ローランド(jb5908)も、迅速な救助ができるよう、顔と名前を頭に叩き込んでいた。
「出来るだけ、……いや、全員助けなきゃ」
 エルフリーデ・クラッセン(jb7185)に、グレイフィア・フェルネーゼ(jb6027)が頷いた。
「大丈夫よ! あたい達ならできるはずよ!」
 雪室 チルル(ja0220)もそう力説する。
「そのためにも、急がないとな」
 ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)は時計に目を向けた。
 人々を集めるだけが任務ではない。守り通すことができなければ、明日に望みを託すことはできないのだ。
「黒鳥……」
 フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)は、町の何処かに潜んでいるだろう女デビルの二つ名を呟いた。
「キミは、何処で、何を見ているのだ……?」


●ふたつの砦
 情報の通り、中学校には多くの人々が集まっていた。
「わたし達は久遠ヶ原学園の生徒だよ!!」
 見知らぬ者の乱入に、人々は怯えの色を見せた。即座に千尋が素性を明かし、不安を取り除く。
「君達が“緋翠”だな。応援に来たぜ」
 真一はこれまで頑張ってきたフリー撃退士達を労った。
 捜索に向かう仲間を見送った後で、真一と千尋は持参した食料を配る。
「腹が減っては何とやら、だ」
「大丈夫、大丈夫だよ!! みんな揃って生きて帰るよ!!」
 そのために自分達が来たのだ、と千尋は胸を張り、人々を励ます。
 おにぎりと飲料を1つずつ。僅かな差し入れにも人々は感謝し、貪るように食べ始めた。



 庁舎に身を寄せていた人々は、提供された食料に複雑な表情を見せた。
「悪いが、今は受け取るわけにはいかない」
 リーダーの男性が申し訳なさそうに告げる。
 今、仲間が食料を探しに出ている。彼らを差し置いて、自分達だけが腹を満たすことはできない、と。
「なら、せめて中学校への移動を承諾して欲しいさね」
 作戦の説明した九十九は、リーダーにそう掛け合った。
「より多くの人が、より安全に明日の朝を迎えられるように。色々思うところがあるとは思うが……ちょっとだけ堪えて協力して欲しい」
 ロドルフォも真摯に向き合う。
 説得には時間が掛かるかもしれない。2人はそう覚悟していたが、人々は意外にも快く受け入れてくれた。
 人間関係の悪化が原因とは言え、そこに横たわる川は、憎悪などではない。
 軽度とはいえ、半身に障害が残る負傷をし、外で活動する危険性を体現した男性。
 意志はあっても、能力的にそれが不可能な者がいることを知る女性。
 相容れなかったのは、一番に護るべき者の順位だったのだから……。

 庁舎に仲間が戻るのを待ち、合流作戦は決行された。
 目立たないよう小人数で。まずは女性と未成年、老人を優先し、移動を開始する。
 以津真天の鳴き声が谺する中、避難は不気味なほど順調に進んでいく。
 このまま何事も無ければ……。
 誰もが抱いた願いは、ここぞという時に裏切られた。
 2組目が中学校の敷地内へ入り、人々の緊張の糸が緩んだ時、狙いすましたようにバンシー達が立ち塞がった。
「落ち着いて!!」
『ムダ、諦メロ』
『キヅケヨ、イイカゲン』
 人語を発する人面犬や以津真天もいた。千尋の言葉に茶々を入れ、嘲笑う。
 女性が耳を塞いで座り込んだ。嬉々として襲いかかる人面犬を、真一……否、ゴウライガが熱い拳で叩き潰す。
「ヴァニタスが居るかもしれない」
 ロドルフォが警告を発した。
 緋翠の話では、ディアボロ達は特に連携することなく、攻撃も威嚇程度だったという。
 しかし、今ここに集まっているディアボロは非常に統率力が高い。直接指揮を取っている者がいるはずだ。
 千尋は周囲を索敵するが、それらしき姿は見当たらなかった。
 パニックに陥り走りだした男性を、バンシーの爪が襲う。
「危ない!」
 ロドルフォの庇護の翼は、開かれなかった。
 足元に胴長の猫――すねこすり。愛らしい姿で油断をさせ、アウルの力を封じ込めたのだ。
「させません!!」
 千尋が射た回避射撃が爪の軌道を逸らし、直撃だけは免れた。九十九が馨風で包み、切り裂かれた肩を癒す。
「この人を頼むさぁ」
 緋翠メンバーに負傷者を託し、九十九は弓を引いた。猛き虎の異名を持つ弓は、咆哮と共に鋭い一矢を放ち、以津真天の身体を貫いた。

午前10時――合流完了。


●捜索組・A班
「もう大丈夫。出てきていいよ!」
 4体の鳥型ディアボロとの戦闘を終えたチルルは、周囲にもう敵がいないことを確認してから声をかけた。
 横転したトラックの陰に身を隠していた深紅が顔を出す。続いて、1組のカップルも。
「5番・上野充さん、32番・渋谷佳子さん、保護完了よ」
 無事車までたどり着いた後、陸はリストにチェックを入れると同時に他班へ連絡を入れる。
 救助した者達を搬送役の神代 深紅 (jz0123)に託し、残った3人は再び捜索を始めた。

「五反田さんが言っていたのは、この辺りのはずだけど……」
 地図と照らし合わせ、陸は周囲に目を配る。
 ――精神的にかなり参っている子がいるから、気を使ってほしい。
 それは庁舎グループのリーダーから託された情報だった。
 最後に姿を確認したという家に向かった撃退士達は、囁くような声を聞き、奥へと急いだ。
『マダ、生キテル』
『シブトイネ』
 四畳半の和室に、人面犬が2匹。
 弱い相手には吠え立てるくせに、反撃の構えを見せると逃げていくチキンな連中だ。今もチルルと目が合っただけで、尻尾を巻いて隣室へ逃げていった。
「田町ひかりさん?」
 部屋の隅で蹲っていた少女は、チルルの問いに体を強張らせた。
 足元に血で汚れたカッターが転がっている。俯いて膝を抱える左手首は、度重なる自傷行為のため醜く腫れていた。
「僕達は撃退士です。助けに来ました」
 陸の語りかけを、少女は頑なに拒んだ。自分に生きる資格はない、と呟き続ける。
「まだ8ヶ月だったんだよ」
 少女の口から洩れる声は、ひどく震えていた。
「あたしが痴漢って言ったの。だからあの人は、家族を巻き込んで、自殺した。あたしが5人を殺したの。だからあたしは、生きてちゃダメなんだ」
『死ネバイイノニ』
「あんたは黙ってなさい!」
 チルルは下卑な言葉を吐く人面犬を白直剣で貫き、永遠にその口を塞いだ。
「僕は、生きていて欲しいです」
 陸は耳を塞ぐ少女の肩を抱いた。アウルの光で手首を包み、深く刻まれた傷を癒す。
「苦しくったって、後悔にまみれてたって、今、生きてるんです。それを無駄にしちゃダメです」
 責めも叱りもせず、ただ存在を認めて。少女の心が希望を思い出すまで、2人は待ち続けた。

 午前11時30分――保護完了数、71名。


●捜索組・B班
 耳を劈くような衝突音が響いた。
 高台の家屋で捜索をしていたフラッペとキイは、立ち上る黒煙を目印に現場へと向かった。
 車が電柱に潰され、ガソリンの匂いが立ち込めていた。爆発音と共に炎が膨らむ。
 倒れた男性に群がる三眼の鳥達を、紫の閃光が薙ぎ払った。
 2人が到着したのは、黒衣の剣士が男性を抱え上げた時だった。
「やっぱり、キミなのか?」
「黒ずくめの撃退士って、フラッペちゃんの知り合いだったの?」
 尋ねたキイに、フラッペは首を横に振った。
「違うのだ、キイ。あのヒトは撃退士なんかじゃない」
「え?」
「Vanitas」
 その一言で、キイの表情が変わる。優しき少年の微笑みから、気高き戦士の眼差しへと。
「アルカイド……風が来たのだ。ここは譲らない、のだ!」
 一気に間合いを詰めたフラッペ。素早く男性を奪回すると、鋭い眼差しで黒衣の剣士を見据えた。
 2人の視点はほぼ同じ高さ。睨むような紫の双眸は、顔が映るほどに近い。
「……蒼き疾風?」
 かつて名乗った二つ名を、彼は覚えてくれていようだ。反撃を受けなかったことに、フラッペは胸を撫で下ろす。
 しかし、まだ安心はできない。一刻も早く、この場から一般人を移動させなければ。
(ここは僕に任せて)
 意を決し、キイは一歩前へ出た。
「君は何のためにこんなことをしているのかな? こんなややこしい手段を用いてまで」
 注目を自身に引き付けるため、ゆっくりと移動しながら語り掛ける。
 アルカイドは質問の真意を探っているようだった。
「……趣味?」
 抑揚のない口調で言葉が紡がれる。
「……あの方は試しているのです。魂を得るまでの余興として。極限の状況に置かれた時、人は何を求め、どんな行動をとるのかを」
「そのために、君は撃退士の振りを?」
「……心当たりがありません」
 キイは落下防止用の柵に背を預けた。アルカイドの背の向こうに、フラッペの姿が見える。
(今だ!)
(了解なのだっ)
 完全に死角となった瞬間、フラッペは男性を抱えたまま、弾丸のように駆けだした。
「……?」
 反射的に振り向いたアルカイド。その時すでにフラッペの姿は遠く、彗星のような蒼い光の残滓が靡いていた。
「………………」
 アルカイドが再び正面へ向き直った時、キイも鉄柵を乗り越え、向う側へと身を躍らせていた。

 ◆

 仲間が向かった高台で立ち昇った黒煙を見て、グレイフィアの心に不安が過る。
 しかし今の彼女に、彼らの身を案じるだけの余裕は無かった。
 奇怪な叫びを上げ、異形のツバメが飛ぶ。小型とはいえかなりのスピード。直撃を受ければ、人体など簡単に貫かれてしまうだろう。
 グレイフィアは炎の大鎌を振るう。ツバメは紙一重の差で刃を避けた。
「護衛が減る時を待っていたのでしょうか」
 周囲を乱舞する敵は時を追うごとに増えている。このままでは数に押し負けてしまうかもしれない。
「センパイ、この人達連れて少し離れて。あいつらはあたしが抑える」
「あんな数……無茶よ」
「大丈夫。ちゃんと作戦があるから」
 エルフリーデはびしっと親指を立て、ウインクをしてみせた。
「お前達の相手はあたしだあああっ!!」
 そして自分の存在を誇示するように叫び、国道とは逆方向に走り出した。
 目指したのは両側を家屋に挟まれた狭い路地。ここなら敵の動きを絞ることができるはず。
 不敵な笑みを浮かべ、ナックルを構えたエルフリーデ。その直後、背後から突進してきた鳥を振り向きざまに叩き落とした。
 もちろん、全てのティアボロがエルフリーデに引き付けられたわけではない。
 5体の鳥が空を駆け、避難する人々の前方に回り込んだ。威嚇の一声に、人々の足が竦む。
「隠れてください。良いと言うまで、絶対に顔を出さないでくださいね」
 グレイフィアは道端に設えられえたゴミステーションの扉を開き、人々を押しこめた。
「さて、どこまで耐えられるかは判りませんが……」
 翻した大鎌は、今度こそツバメを両断した。
 続く一撃は避けられず。グレイフィアは咄嗟に電磁を纏いダメージを和らげた。

 足に一撃を受け、転倒したグレイフィア。体勢を整えるより先に、鳥は眼を抉り取ろうと襲いかかる。
 その時、駆け抜けた蒼い風が鳥を蹴り飛ばし、危機を救った。
「待たせたのだ!」
「これ以上敵が集まる前に、いったん戻ろう」
 多数の鳥を相手取っていたエルフリーデも、キイの援護を受け、包囲網を突破した。
「しっかり掴まっていてください」
 慌ただしく車に乗り込み、シートベルトを締める間もなくグレイフィアがアクセルを踏み込む。
 その後も鳥達の追撃は続いたが、やがて諦めたのか、バスを追うものは1体もなくなった。

 午後4時――保護完了数、98名。


●そして月は満ち……
 午後9時。
 中学校体育館に集結した人々は、息を潜めて夜明けを待っていた。
 105人――無事、全ての人々を保護することができたが、中には未だ精神的に不安定な者もいた。
 チルルと千尋は傷の手当てをする傍ら、彼らを励まし続けた。
「逝ってしまった奴らのことを覚えている奴がいなくなっちまったら、弔いすらできやしないんだぜ」
 我が子の年を数え続ける老婆に、ロドルフォは少しでも長く生きることが償いになる、と諭す。
「きれいな音……」
 柔らかな旋律に、左手に包帯を巻いた少女が顔を上げた。
 九十九が二胡を奏でているのだ。心休まる音色に、人々はじっと耳を傾けていた。
 しかしその安らぎは、そう長くは続かなかった。
 突然、廊下に響いた悲鳴。用を足しに行った男が、血相を変えて戻ってくる。
「しょ、しょ……しょう……っ」
 震える指の先に、奇怪な鳥を従えた女が立っていた。デビルに魂を売り渡した、東海林が。
「裏切り者」
「俺達を皆殺しにするつもりか」
 かつての穏やかな面影は微塵もない。傲然な自信に満ち溢れ、人々の蔑みさえ、まるで褒め言葉であるかのように受け止めている。
「それ以上近づかないで」
 人々を守るため、エルフリーデが身体を張って東海林の前に立ち塞がった。
 上位種との交戦は避けたかったが、事情が事情である。真一は静かに光纏し、激戦に備えた。
 陸はライフルの引き鉄に指を添えたまま、動かない。
「戦う気はないわ。私はベネトナシュ様の言葉を伝えにきただけ」
 撃退士に囲まれても、東海林が余裕の笑みを崩すことはない。両手を広げ、武器を持っていないことをアピールする。
『――罪深き人間共よ。よく生き延びた。希望を求め足掻く姿は、実に興味深かった。その強欲たる努力に敬意を表し、褒美を授けよう』
 東海林は悪魔・ベネトナシュの言葉を諳んじる。玲瓏とした美しい声ではあるが、どことなく不快感がこみ上げてくる、そんな声だ。
『今宵は手を出さぬ。最期の夜を、ゆるりと休むが良い――』
「お待ちなさい」
 一方的に言葉を告げて立ち去ろうとする東海林を、グレイフィアが引き留めた。
「外に見張りがいたはずです。彼らをどうしました?」
「殺してはいないわ。少しの間、眠ってもらっただけ。では、明朝、お逢いしましょう。最高の恐怖を与えてあげる」
 私は“あの男”のように甘くはない、と宣言し、東海林は甲高い笑い声を残し、姿を消した。

「今の言葉、信じられる?」
 絶体絶命の危機が去り、安堵の息を吐くキイ。尋ねられたフラッペは、静かに首を振った。
「判らないのだ。でも……」
 黒鳥は自ら口にした言葉は違わず実行する。
 そんな予感がした。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 惑う星に導きの翼を・ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)
 災禍塞ぐ白銀の騎士・キイ・ローランド(jb5908)
重体: −
面白かった!:5人

蒼き疾風の銃士・
フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)

大学部4年37組 女 阿修羅
天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
冷徹に撃ち抜く・
御守 陸(ja6074)

大学部1年132組 男 インフィルトレイター
輝く未来の訪れ願う・
櫟 千尋(ja8564)

大学部4年228組 女 インフィルトレイター
惑う星に導きの翼を・
ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)

大学部6年34組 男 ディバインナイト
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト
信に応える翼・
グレイフィア・フェルネーゼ(jb6027)

大学部5年287組 女 アカシックレコーダー:タイプA
オーバーザトップ・
エルフリーデ・クラッセン(jb7185)

大学部3年151組 女 ルインズブレイド