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マスター:真人
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/05/18


みんなの思い出



オープニング

●予兆
 三月下旬、栃木県の西で行われた戦闘の末、久遠ヶ原学園の撃退士たちはあるディアボロを破壊した。
 それは『かの地』に陣取る悪魔にとって、特殊で、特別で、必要不可欠な存在。
 各地に散らした他の個体を死守すべく、群れ成す魔が行動を開始する。





●二の太刀を磨く
 会議室のホワイトボードに、数枚の写真が貼られている。
 1つは無数に蠢く異形のディアボロ、太歳。
 複眼の悪魔と、それに従うヴァニタスの姿。もう1枚、ヴァニタスの写真を加工した女性の写真も。
 歪んだ大樹の根に抱かれた白い繭は、“半球型”と同種の装置と思われる。
 最後に、数十年前の物と思われる、現場周辺の地図。そこには『群馬』の2文字が、はっきりと記されていた。

 これらは全て、調査に赴いた者達が危険に身を投じて手に入れた情報だ。
“太歳”こそ既に排除されているが、破壊すべき半球型の位置と形状、それを守護する妖樹の存在を確認できたことは、今回の破壊任務に対し、大きな援けとなった。
「複眼の男の名はナハラ。“惑いの蜂”と名乗る通り、虫型のディアボロを操ります。
 小型であればあるほど、それは暗殺者のように獲物へ忍び寄るため、決して侮ることはできません」
 斡旋所職員が資料を元に、丁寧な説明を続ける。
「剣士風のヴァニタスはアルカイド。性別不明。“黒鳥の騎士”という異名を持つことから、昨年秋、埼玉県北西部で確認された嘆きの黒鳥・ベネトナシュの配下と思われます。
 彼女は人の精神に影響を与える能力を持つ、バンシーに似た眷属を従えていたと報告書にあります。
 なぜヴァニタスが主以外のデビルと行動しているのかは不明ですが、もし彼らが協力関係にあるなら、皆さんは最悪、この3名を相手にすることになるでしょう」
 もちろん、悪魔達は眷属も投入してくるだろう。厳しい戦いになる事は間違いない。
 一通りの説明をした後、職員は会議室の隅で待機していた神代 深紅に視線を向けた。
「神代さん、あなたはどうしますか?」
 落ち着いた声で問われ、深紅は俯き唇を噛む。
 往路の渓流で、そして上流の滝で、撃退士を適当にあしらっていたデビル。
 ――二度と来るな。
 次は殺す、と言った彼の言葉は、ただの脅しではないだろう。
 あの両眼を思い出す度に、今でも心が凍りつく錯覚に陥ってしまう。
 でも……。
「行きます」
 これは自分が持ち込んだ仕事だ。自分を信じ、調査に付き合ってくれた皆のためにも、無責任に逃げ出すわけにはいかない。
 深呼吸を1つして、深紅は迷いのない瞳で答えた。
 職員は無言で頷くと、依頼書の末尾にオペレーターとして神代 深紅の名を書き記した。
「半球型ディアボロ破壊作戦は明朝。本日の内に麓の市に入り、早朝に進軍を開始します。皆さん、怠ることなく準備を整えてください」


●絶望を孕む
 深い闇の中、真白い揺り籠に抱かれた偽りの月は眠る。
 妖しき樹の根に守られて、妖鳥達の声を子守唄にして――

「調子はどうだ?」
 背後から掛けられた声に、ベネトナシュ (jz0142)は満足げな笑みを浮かべて振り向いた。
「まさか貴公のほうから訪ねてくれるとは。……待ち侘びたぞ」
 上機嫌のベネトナシュをすっぱりと無視し、ナハラ (jz0177)は白い繭へと歩み寄った
 後を追う蜂の羽音に呼応し、周囲の妖樹がざわめく。
 異変に驚き逃げ出したフクロウに蜂が群がり、ものの数秒で肉を食らい尽くした。
 後に残ったのは束の間の静寂。
「ここへ来る途中、久遠ヶ原の連中を見た。明日……いや、もう今日か。こいつを破壊しにくるだろう」
「予想以上に早いではないか。彼奴等にはよほど優秀な“眼”があるようだな」
 忌まわしげに舌を打ったベネトナシュ。怪訝な顔をしたナハラに、自嘲を交えた笑みを見せる。
「……準備が足りぬわ」
 ベネトナシュの眷属は、先日までこの地に放たれていた木偶とは違い、1体で多少経験を積んだ程度の撃退士を屠るだけの力を与えられている。
 もっともそれは素材を厳選し、時間をかけて練り上げてこその賜物。故にまだ両手で数えられるほどしか完成していないのだ。
 立場を勘違いした人間共に己が愚かさを叩き込むためには、もう少し数が欲しい。
 もう二度と、彼の地に近づこうなどと思えなくなるほどに……。
「“娘達”も多少の援けになるか。……もちろん貴公も連中の相手をしてくれるのだろう?」
「無理」
 きっぱりと即答するナハラ。
 今、ナハラ――南原 拓海が務める花屋は、母の日を前にした多忙の時期だ。今日も休みを返上し、残業を終え駆け付けたのがこの時間である。
「代わりに眷属を置いていく。お前達の命令を聞くよう躾けてある。うまく使え」
「……たった“それ”だけか?」
 数が多く貪欲とは言え、たかが蜂。粗製濫造と大差はない。
 不満を漏らしたベネトナシュだったが、不意に揺れた足元に目を向け、満足げに頷いた。
「そういえば、お前……」
 先ほど気になった疑問を口にしようとしたナハラは、ベネトナシュの傍らに控えるアルカイドと視線が合い、喉まで出しかけた言葉を飲み込んだ。
「撃退士を甘く見るなよ。奴らは予想以上に貪欲で強かだ」
 代わりに忠告を1つ吐き、ナハラは翼を広げ、禁断の森を後にした。

 ――先日この地で繰り広げられた茶番劇を、黒衣の剣士は主に何も伝えていないらしい。





 それぞれの思惑を闇の帳で覆い、偽りの月は未だ微睡の中。
 黎明の刻は、訪れるのだろうか?


リプレイ本文

●魔が巣食う森
 町は数日前と変わらない姿で撃退士達を迎え入れた。
 でも、何かが違う。
 表現しがたい不安と恐怖が蘇り、神代 深紅(jz0123)は自分の腕で身体を抱きしめる。
 森に足を踏み入れた時、それは確かな現実として現れた。
「全く……こんな森林浴はごめんだね」
 点々と転がる獣の骨を前に軽口を叩くギィネシアヌ(ja5565)。微妙に口元が引きつっているのは、それが強がりである証だろうか。
 そんな少女達の背中を、デニス・トールマン(jb2314)が威勢よく叩いて景気をつける。
「今回失敗すれば、恐らく後は無ェ……。しっかり潰すぞ」
 奪われた“グンマ”の情報を得るために頑張った仲間のためにも。
 デニスに勇気づけられた少女達の横で、九 四郎(jb4076)は彼女達と正反対の反応を見せていた。
「最高の戦場っすね」
 こちらは強がりでもなんでもない。これから始まるであろう任務に対する、純粋な意欲。
「深紅、目標は白い繭だったよね」
 森の中に広がる光景に息を飲んだ砥上 ゆいか(ja0230)は、思わず自分の頬を摘まんだ。
 ほんの数メートル先、下生えの上に白い物体が無造作に転がっていた。それは提供された情報にあった“白繭”とよく似ていた。
「壊せば良いのって、これの事?」
大山祇を構え持った雀原 麦子(ja1553)が警戒するように軽く繭を突いた後で、ざっくりと入刀した。
「だだの塊みたいですね。ディアボロですらないみたいです」
 白繭が簡単に両断されたことに疑問を持った佐藤 七佳(ja0030)は、足元に落ちていた木の枝を使って観察する。
「……小賢しい」
 茂みの陰、木の上――所々に同じような物が転がっている事に気付き、久遠 仁刀(ja2464)は苦笑いを隠せない。
 大人しく破壊させてはくれないだろうと思っていたが、こんなセコい手を打ってくるとは。
「目的は白繭の破壊。出来れば他は無視してそこに集中したいが、難しそうだ」
 何処からともなく聞こえてきた耳障りな音に、天宮 佳槻(jb1989)は顔をしかめた。
 生い茂る枝葉の合間から姿を現したのは、軽く百を超える蜂の群れ。
 真っ先に群がられたのは麦子。即座に払い落とすも、噛まれた右腕に生じた痺れは、瞬く間に全身に広がっていく。
「ナハラの蜂ね」
 この耳鳴りにも似た羽音を、ファレン(jb2005)は知っていた。
(動物たちが屍になっている理由、はこれかしら?)
 かつてが遭遇したものと比べて形は小さいが、同様の能力を持っていると思って良いだろう。
 ならば……と遠くに投げたスポーツドリンクを苦無で撃ち抜いてみたものの、彼らはその匂いに引き付けられることなく、ひたすらに肉へ食らいつく。
「このままではジリ貧だぞ」
 次第に数を増す蜂を蛍丸で振り払う仁刀。彼もまた蜂の牙を受けていた。
 幸い麻痺はすぐに消えたが、このまま蜂を相手にしていては、破壊すべき白繭の元へたどり着く事すら難しい。
「では、雑魚の排除からですね」
「バラバラになりてぇヤツからかかってこい、だぜ! BANG! BANG!」
 ショットガンを構えたジェイニー・サックストン(ja3784)の横で、ギィネシアヌが蜂の群れにアウルの散弾を撃ち放つ。
 蜂は無数の弾丸を避け散開。その開けた道に身を割り込ませ、撃退士達は走り出した。
 ただ1点、妖樹に抱かれた白繭を目指して。

 森は進軍を阻むほどに過密ではない。
 けれど立ち並ぶ木々は銃の射線を塞ぎ、大剣の一振りを阻害する。
 天魔最大の特長である透過能力を封じても、ディアボロ達は物陰を巧みに利用し、全周囲から襲い掛かるのだ。
 奥へ進むにつれ、敵の種類も増えた。
 蛇の尾を持つ鶏と、カラス大の骨だけの鳥……飛行型ディアボロが入り乱れる中、撃退士達は方向感覚を奪い足止めする蜂を優先的に狙い、落としていく。
「見えた! あそこだよ」
 先頭を走る深紅が指し示した先に、歪にねじくれた樹があった。その中央、一際太い樹の根に“白繭”が見える。
「あれで良いんすか?」
「うん。前と一緒。全然変わっていないもん」
 余りにも呆気ない発見を訝しむ四郎。
 偽物である可能性は、妖樹の陰から現れた人型のディアボロが否定してくれた。撃退士を騙すためだけに、ここまで戦力を割くずはないのだから。
「邪魔な樹だぜ! そら、喰っちまいな悪食(ニドヘグ)!」
 ギィネシアヌの放った紅き弾丸の蛇が、生き物のように蠢く妖樹の根に絡み、食らいつく。
 妖樹は痛みに悲鳴を上げる事も、振り解こうともがく事もない。ただそこに立ち、忌むべき来訪者を阻むだけ。
「反応なしかよ」
 せっかくのプレゼントを無碍にされ毒づくギィネシアヌ。
 しかしその効果は間違いなく、じわりと広がりを見せていた。


●夜明けを掴むために
 妖樹の懐に潜り込んだ撃退士達は互いに頷きあうと、それぞれの役目を果たすべく陣を敷く。
 白繭の破壊に集中する者と、彼らを護り、敵の注意を引き付ける者に。
「いくよ〜っ♪」
 これまでずっと堪えてきた戦意を解放し、麦子が先陣を切った。
 妖樹は枝を伸ばし、その攻撃をがっしりと受け止める。しなやかな見た目からは想像もできないほどの剛腕だ。
 鍔迫り合いを続ける麦子の無防備な背を狙い、コカトリスが舞い降りた。
「臥せてください」
 警告を受けた麦子が体勢を低くするとほぼ同時、佳槻の放った六花護符が頭上を横切った。
 僅かに羽を散らせたコカトリス。七佳が自慢の脚力を生かし一気に間合いを詰めるが、斬撃に特化した建御雷でも一撃で仕留めるには至らない。
「逃がしませんよ」
 上空へ逃れたコカトリスは、ジェイニーによる掃射で力尽きた。
「チッ…どうやら数だけ用意したってワケじゃなさそうだな…ッ!」
 忌まわしげに舌を打つデニス。
 3人掛かりで落した鳥は、ようやく1体。
 群体で攻める蜂とは比べ物にならない地力の高さに、撃退士達は彼らが守護する“白繭”の重要性を再認識する。

 妖樹の射程を離れ、後方に陣取った四郎。
 足元に転がる鳥の骨を警戒しながらも、白繭の狙撃を試みる。
「……ここからじゃ無理っすね」
 零してしまったのは落胆の声。
 的は辛うじて視認できるものの、下生えや仲間が障害となる上、敵の攻撃を掻い潜りながらでは、狙いを定めることすら難しい。
 ベストなポジションを探し妖樹の足元に辿りついた四郎は、そこから白繭を狙う事になる。

 戦場を駆けまわる七佳に向かい、骨鴉が吠えた。
 破れるかと思えるほどに鼓膜が震え、強烈な眩暈に襲われた七佳は、尻餅をついて座り込んだ。無防備な状態を逃さず、蛇の尾が首筋に牙を立てる。
 初撃を凌いだ彼女が直後に視界に捉えたものは、コカトリスの瞳に映った自分自身。
 悲鳴を上げる間も無く、七佳はそのままの姿で冷たい石と化した。
 間髪を入れずバンシーが石像に鋭い爪を突き立てる。
 咄嗟に放った佳槻の牽制を軽々と躱し、バンシーは喉が裂けるような悲鳴を発した。
 魂を鷲掴みにされる感覚。目の前の石像をその手で砕きたいという衝動を堪え、佳槻は護符を手に、倒すべき真の敵に向き直った。

 激戦はなおも続く。
 精神に悪影響を及ぼす能力を存分に発揮するディアボロ達を前に、撃退士達は予想以上に苦戦を強いられていた。
 数少ない回復の術も使い果たし、体力はじわじわと削り取られていく。スキルの温存や撃破の優先順位など、考慮している余裕もない。
「これじゃ近づけないわ」
 自分を絡め取ろうとした妖樹の枝を蹴撃で押し戻した麦子。開けた道に飛び込むも、枝はすぐに前方を塞ぐ。
「近づけないなら、まとめて薙ぎ払えば良いだけよ」
 気配を消して間合いを取ったファレン。その足元が、突然すり鉢状に崩れた。伏兵・アリジゴクの出現に動じることなく、ファレンは炎の蛇を解き放つ。
「それもそうだ」
 笑みを浮かべた仁刀もそれに倣い、白虹を放った。妖樹の根に阻まれ白繭には届かないが、立ち塞がる数体のディアボロを吹き飛ばした。
「もう少しだよ! 頑張ろう」
 深紅も打ち合わせ通り射線を交差させるように封砲を撃ち、確実にダメージを与えていく。
 撃退士の連撃により、戦況は撃退士の側に傾き始めていた。
 妖樹は防戦に徹し、ディアボロ達も己の防御を捨て、白繭を攻撃する者に対し、絶え間ない音波の波状攻撃を浴びせ続ける。

 その時、不意にディアボロ達の動きが変わった。
 白繭班を狙う事自体は変わらない。しかし、統率は明らかに乱れ、まとまりを欠き始めた。
 何があったのか?
 突然の変化を警戒する撃退士達の視界に入り込んだのは、剣を抜き放ったヴァニタス・アルカイドの姿だった。
「危ない!」
 その傍らには樹に得物を取られ、無防備になったゆいかの姿。
 ジェイニーの回避支援も間に合わず――呼吸をするような自然な仕草で、アルカイドは剣を翻した。

 ◆

 妖樹から少し離れた場所に不審な影を見つけたゆいか。
 それが情報にあったヴァニタス・アルカイドと認識すると、気配を殺し側面へと回り込んだ。
(もしかしてディアボロを指揮している……?)
 チャンスだ。
 アルカイドの意識は、白繭の周辺に向けられている。今ならいける。ここで集中力を削げば……。
 ゆいかはヴェパールソードを構え、呼吸を整えた。
 闘気と共に繰り出した技は八咫烏。
 渾身の力を込め一閃させた大剣は、アルカイドが背を預けていた幹に食い込んで止まった。
(避けられた?)
「危ない!」
 仲間の警告が耳に入った直後、ゆいかは焼けるような熱さを覚え、視線を下へ落とした。
 腹から剣が生えていた。それが目の前でゆっくりと身体に沈み、背中から抜ける。
 口の中に、錆臭い味が広がった。


「深紅、駄目よ」
 ファレンが止める暇もあらばこそ。仲間の危機に、深紅の体は考えるより先に動く。
 直後に放たれた雷撃は、救援に動いた者達をも飲み込んだ。
 咄嗟に盾で防いだデニスは大事には至らなかった。他の撃退士達は、奇しくも間に立つ妖樹に守られる形で難を逃れた。
 しかし、直撃を受けた少女達は地に倒れ伏したまま……
「これはこれは…騎士様が直々にいらっしゃるとは、ようやくケツに火がついたか?」
 少女達から注意を逸らすために吐いた軽口に、アルカイドは一度自身の背に視線を移し、改めてデニスに複雑な感情を秘めた視線を向ける。
 攻めるべきか引くべきか、相手の出方を探る撃退士を“攻撃の意志無し”と判断したのか、アルカイドはそれ以上動くことはなく、静かに剣を下ろす。
 剣を収めたわけではない。何かあれば、すぐにでも揮える構えだ。
(こりゃあマズい状況だぜ)
 この危機的状況をどう切り抜けるか。
 背の向こうに白繭班を庇いながら、ギィネシアヌはポーカーフェイスの裏側でそれだけを考えていた。

 ◆

「仲間を信じろ、手を休めるな!」
 倒れた仲間は気になるが、ディアボロの攻撃が緩んだ好機を逃すわけにいかない。
 迎撃班の負担を減らすためにも、今は自分達の役目を果たすべき――仁刀の指揮の元、白繭を狙う者達は攻勢に出る。
 火遁が枝葉を焼き払い、白き虹が根を吹き飛ばす。四郎が放った炸裂符は、無防備になった白繭を狙い通りに包み込んだ。
「もう一息っす!」
 白繭が溶け落ち、ついに曝け出された“半球”の姿。四郎は勝利を確信し、歓喜の声を上げた。
 走り込んだ麦子の剣戟を受け、半球に細かなヒビが入る。
「これで終わりかしら」
 最後を決めたのは、ファレンが放った見た目にも頼りない小さな苦無の一撃。
 刻まれたヒビが一気に広がり、まるでガラスが砕けるように、半球型の物体は粉々に砕け散った。

●彼此の岸辺を抜け
「あなたに聞きたい事があります」
 銃を突きつけたまま、ジェイニーはアルカイドに問う。天使と戦った事があるか、と。
 僅かに目を細めたアルカイド。しかしその問いに答える事はない。
「ここだけ何でこんなに違う?」
 佳槻もまた、己の心に棘となって刺さり疼く疑問を投げかける。
「魂を集めたりゲートを作ったりするなら、わざわざ群馬を隠すなんて事をする必要はないはずだ。
 もしかして人間が考え出した事だったりするのか? だったら、いったい何のために……」
「そこまでだ」
 今にも食らいつきそうな佳槻の腕を取り、駆け付けた仁刀が制止する。
 白繭を破壊した以上、ここに留まり続ける必要はない。任務を完遂するためには、報復を受ける前に退散しなければならない。
「彼女達を頼む」
 決意を秘めた瞳で見据えられ、ジェイニーと佳槻は彼の意図を悟る。
 未だ倒れたままのゆいかと深紅、そして七佳。今は己の知識欲を満たすより、彼女達の命を救う事を優先させなければ。
「シツコイぞ、てめぇらっ」
 護るべき物を失い激昂するディアボロに向け、弾幕を張り続けるギィネシアヌ。
 デニスはタウントでそれらの注目を引き、撤退の隙を作り出した。天界の影響を受ける彼にとって、それは命を懸けた行為だ。
「早く行けっ!」
 仁刀は少しでもデニスの負担を減らすため、共に殿を守り抜く。
 避ける暇もない程の攻撃を受け、2人の体力は瞬く間に限界近くまで削られた。ここでヴァニタスの追撃を浴びれば、深手は必至。
 しかし、覚悟していた雷撃は、ついに放たれなかった。妖樹の腕を抜けてからは、あれほど激しかったディアボロの猛攻もぴたりと止み……
 ふと背中に視線を感じ振り向いた仁刀は、妖樹の袂に立つ2つの人影を見た。
 ヴァニタスと、死者を弔う黒衣に身を包んだ女悪魔、嘆きの黒鳥・ベネトナシュ。
 妖艶な笑みを浮かべた唇がゆっくりと動き、声なき言葉を紡ぐ。

 ――実に興味深い。

 そう、言ったように思えた。





 埼玉県北西部の鉱山地に発見された、いわゆる“半球型”の破壊作戦は成功裏に終わった。
 七佳が受けた石化の呪いは帰還後に解かれ、重傷を負ったゆいか、深紅も迅速な救援により一命を取り留めた。
 後日行われた調査でディアボロの姿は1体も確認されず、冥魔は完全に撤退したと結論づけられた。

 破壊された“半球型”はこれで4つめ。
 あと幾つ破壊すれば、かの地への道が開けるのだろうか。
 ゴールは深い霧に紛れ、未だ見ることは叶わない。
 しかし、1歩ずつ確実に、近づいていることは確かなのだ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
 紫電を纏いし者・デニス・トールマン(jb2314)
重体: Unstoppable Rush・砥上 ゆいか(ja0230)
   <ヴァニタスの反撃を身に受けた>という理由により『重体』となる
面白かった!:8人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
Unstoppable Rush・
砥上 ゆいか(ja0230)

大学部3年80組 女 阿修羅
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
闇に潜むもの・
ジェイニー・サックストン(ja3784)

大学部2年290組 女 バハムートテイマー
魔族(設定)・
ギィネシアヌ(ja5565)

大学部4年290組 女 インフィルトレイター
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
黒鳥の名を知る者・
ファレン(jb2005)

大学部3年320組 女 鬼道忍軍
紫電を纏いし者・
デニス・トールマン(jb2314)

大学部8年262組 男 ディバインナイト
葬送華・
九 四郎(jb4076)

大学部4年210組 男 ルインズブレイド