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マスター:真人
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/05/01


みんなの思い出



オープニング

●黒鳥の誘い
「貴公に仕事を持ってきた」
 いつものように前触れも無く現れた女悪魔は、開口一番でそう言った。
 人間として疲れた身体を休め、心地良い癒しの時間に意識を漂わせていた南原 拓海は、一瞬で悪魔・ナハラ (jz0177)の顔に変貌した。
「俺に何かして欲しければ1週間以上前に言え。そう言ったはずだが?」
 凶眼で睨まれてもベネトナシュ (jz0142)は怯むことなく、一方的に言葉を続ける。
「私ではない。上からの命令だ。我らにフェトルの尻拭いをせよ、との話だ。貴公は何も聞いておらんのか?」
 通達はあった。その時は『近々やってもらう事がある』と言われただけで、具体的な内容は聞かされていなかった。
「……フェトルか」
 ナハラは数年前に一度だけ会った事のある男を思い浮かべた。
 外見に似合わず粗野な男だった。
 己の力に陶酔し、身に不相応な野心を抱いた結果、あっけなく粛正されたと聞いたのは、最近になってからだ。
「貴様が奴の後釜に入るのか?」
「そうだ。だが、先にやらねばならぬ事がある」
 ベネトナシュはわざとらしく肩を竦め、困ったような表情をしてみせた。
「奴の置き土産が厄介でな。数が多い上に近づくものは人も魔も区別なく襲うため、守りを固めることもできん。
 即急に役立たずどもを排除し、新たな陣を敷く。それが我らに課せられた使命だ」
 ナハラは心の中で損得を計算する。
 自分が掃除し、ベネトナシュが眷属を配置する。極めて単純な共同作業。
 黒鳥とセットで数えられるのは不本意だが、いつまでも鳴かず飛ばずと言うわけにもいかない。ここで断って、より面倒な仕事を押し付けられても困る。
「判った。ちょうど明日は公休が入っている。片付けてこよう。だから……」
 直後、ナハラの眼に再び殺気が宿った。
「さっさとここから出ていけ!」
 言葉より早く投げられた洗面器がベネトナシュの身体を擦り抜け、背後の壁にぶつかった。
「アルカイドを好きに使うが良い。奴は役に立つぞ?」
 くすくすと満足げな笑みを浮かべ、ベネトナシュは壁の向こうに姿を消した。
「貴様よりは確実にな」
 1人残ったナハラは、前髪を掻き上げ、深く深くため息を吐く。
 日頃から不行儀な輩ではあったが、至極プライベートな空間にまで遠慮なく入り込んでくるとは。

 ――本日の入浴剤が濁り湯タイプだったのは、不幸中の幸い。

●深紅から依頼
「お願い。ボクと一緒に太歳を探して!」
 集まった撃退士達に、神代 深紅 (jz0123)はそう言って頭を下げた。

 埼玉県北西部に位置する廃集落を訪れたマニア達が、奇妙なモノに襲われた。
 それは赤黒い色をした直径1m程の塊で、無数の目を持っていたという。
「太歳は木星の鏡像と言われ、木星の動きに合わせ土中を移動する。それが示す方位は凶。もし出現したなら、すぐ土中に埋め戻さなければならない。
(その小一時間ほどマニアックな説明が続く)
 太歳はけっこうノロかったみたいで、マニアさん達は無事に帰還することができたんだけど……
 この話、何か気にならない?」
 一呼吸おいて、深紅は好奇心いっぱいの瞳で撃退士を見つめた。
 “埼玉県北部”。
 冥魔の手によって隔絶されたという、グンマとの県境。
 距離は離れているが、栃木県西部の県境付近で奇妙なディアボロが発見されたのは、撃退士達の耳にも新しい。
「ボクはこの太歳をディアボロだと予想しているよ」
 そして、撃退庁から調査・破壊が命じられている半球型ディアボロと、無関係ではないだろうとも。
「今回の依頼人はボク自身。内容は、太歳と半球型ディアボロの関連を突き止めること」
 半球自体が見つかればめっけもの。何も見つからなくても、“関連はない”という情報を得ることができる。
 そう言って、深紅は改めて頭を下げた。

●遭遇
 新緑に包まれた渓流を、撃退士達は登っていく。
 昨夜降った雨の影響で水量は多い。撃退士達は十二分に注意を払い、一歩ずつ進んでいた。
 “それら”が現れたのは、目的の廃墟群が目前に迫った時だった。
 情報にあった通りの赤黒い塊――太歳が3つ。
 撃退士達はそれぞれの武器を呼び出し、襲撃に備えた。
 しかし、太歳が襲いかかってくることはなかった。直後に黒い稲妻に撃たれ、悪臭を放って蒸発したからだ。
 代わりに撃退士達の前に現れたのは2つの影。
 1つは雷を放った黒衣の剣士。もう1つは、虫の複眼を持った男。
「デビル?!」
 深紅はとっさに仲間を背に庇い、身構えた。
「……撃退士か?」
 複眼の男はあからさまに不機嫌な表情で舌を打った。ぞっとする不気味な両眼で、撃退士達の顔を確認するように見渡す。
(なんで親玉がほっつき歩いてるわけ?)
 これではRPGゲームで、最初の町から出た途端にラスボスに会ったようなものだ。
「帰れ」
「……へ?」
 この場をどう切り抜けるか。必死にそれだけを考えていた深紅は、予想外の言葉に思わず聞き返した。
「お前達の目的を詮索するつもりは無い。黙って帰るなら、この場は見逃してやる」
 しっし、と犬を追い払う仕草で言い捨て、複眼の男は踵を返した。剣士も影のように続く。
 複眼の男は数歩進んだところで一度足を止めて振り向き、
「俺達の邪魔をするようなら、容赦はしない」
 不遜な笑みを浮かべ、渓流の上流へと姿を消した。
 一難が去って、深紅は腰が抜けたように其の場へ座り込んだ。
「帰れと言われましても……」
 悪魔の言葉を聞いてすごすご帰ってきました。なんて報告書を、頭の硬いお偉いさんが受け取ってくれるとは思えない。
 自分が罵詈雑言を受けるだけなら耐えられる。でも、学園全体の信用が関わるなら?
 深紅は仲間の顔を見上げ、立ち上がった。
 そして、意を決して歩きだす。前へ――

「……やはり帰る気は無かったか」
 廃墟群に到着した撃退士達を遠目に眺め、ナハラが息を吐く。
「いかがなさいますか?」
「放っておけ」
 感情の無い声で尋ねたアルカイドに、ナハラは素っ気なく答えた。
 撃退士達の目的が“アレ”とは限らない。
 下手にこちらから行動を起こし、ここに何か重要な物がある、と勘繰られる事は避けたい。
「ですが、もしアレを見られては」
「その時は追い払えば良いだけだ。後はお前の主がどうにかしてくれるんだろ?」
 ナハラは意地悪げに笑ながら、廃屋の軒下にぶら下がる塊に手を伸ばした。
 ぞろぞろと這い出てくる蜂――のディアボロへ撃退士の監視を命じ、悪魔達は静かに身を潜めた。


リプレイ本文

●手掛かりを求め
 町はずれの空を、赤い翼が舞う。
 切り立った崖より更に高い位置から、不動神 武尊(jb2605)は周辺の地形を探っていた。 
 眼下に細長く広がる廃墟群。周囲に広がる森を割くように、自分達が登ってきた渓流が見える。
 北側に目を向ければ硬い岩肌を晒した山があった。その先は……濃密な黒雲に包まれ、窺うことはできない。
 一通りの確認を果たした武尊は、崖の中ほどに口を開けた洞へと身を滑らせた。
「何かあったか」
「今の所は何も。あとは……」
 問われたナナシ(jb3008)は端的に答え、最奥の祠に目を向けた。
 岩を掘り抜いただけの小さな祠だ。
「中に像があるけど……この元号、かなり古い。400年ぐらい前よね?」
 当時の人間が身一つでこの崖を登り、奉ったのだろうか。
 ナナシは地面に膝を付き、静かに手を合わせた。
 神聖な場に土足で踏み入ったことを詫び、この任務が滞りなく終わる事を祈願する。
「……くだらんことを」
 武尊は人類の神に祈るナナシを一瞥し、再び外へ足を向けた。そこで地上を這う赤黒い物体を見つけ、口元に笑みを浮かべる。
「我が元に来い、天獄竜」
 武尊の呼び掛けに応え、現れた赤い竜は戦いの歓喜に身を震わせ、吼える。その身に滾る闘争心のままに、赤竜は下劣なる魔の眷属共を吹き飛ばした。

 ◆

 高みから流れ落ちる水に小さな虹が映る。
 廃墟の西側に位置する滝の周辺は、長閑な光景が広がっていた。
 虎落 九朗(jb0008)が行使した生命探知も無反応。念のため岩場を登って確認したが、人間1人が座れる程度の岩穴に、何かが隠れている様子は無かった。
「お疲れ様だね!」
「やれやれ。とんだ無駄骨だったな」
 タオルを差し出した神代 深紅(jz0123)に、九朗は自嘲めいた言葉を漏らす。
 何かを見つけるだけが手柄ではないと深紅は主張するが、やはり空振りは痛い。
「すっかり冷えちゃったね。いったん戻ろうか? ……って、あれ?」
 ようやく袋井 雅人(jb1469)の姿が見えない事に気付いた深紅。どこに行ったのかと周囲を見れば、少し下がった所にある岩陰に身を潜めていた。
「どうかしたの?」
 尋ねた深紅に、雅人は指を口元に添え、静かにするようジェスチャーをする。
 彼の視線の先に居たのは、複眼の悪魔ナハラ (jz0177)と太歳の姿。
 素手で太歳を引き裂く姿をファインダー越しに観察していた雅人は、シャッターを押した直後にナハラと視線が合い、背筋が凍る思いをした。
「……何か見つかったのかな?」
 ナハラは無断撮影を咎めることなく、自ら声を掛けてきた。
 どう答えるべきか。返答によっては交戦の可能性もあるため、雅人は視線で深紅に援けを求める。
(この場合、ノーコメントってケンカ売ってるのと同じだよね?)
 焦りまくる深紅の代わりに、九朗が堂々と立ち上がった。
「何も見つかってねぇ。そっちはどうだ?」
「俺は別に何かを探しているわけじゃないけどね」
 返ってきたのは意地悪な笑み。撃退士達は鎌をかけられたのだと気付く。
 失言を悔やむ撃退士達に、ナハラはゆっくりと近づいてきた。
「お前達の探し物……教えてやろうか?」
 掛けられたのはまたも意外な言葉。
「これ以上うろつかれるのも迷惑なんでね」
 そう言って、ナハラはある方向を指し示した。

 ◆

 注意深く家々の様子を探っていた牧野 穂鳥(ja2029)が仲間を呼び止めた。
 彼女が注目したのは平屋の建物だ。他の廃屋と比べて広く、傷みが少ない。
「今、奥の鏡に何かが写りました。おそらく太歳です」
 その報告を受け、鷺ノ宮 亜輝(jb3738)が呼び出したヒリュウが偵察を開始する。
 共有した視界の中、窓の向こうに見えた物は6体の太歳。これまでにない集団だ。
 もしやここに半球型が? 撃退士達の胸に、そんな期待が広がった。
「俺に任せるっす」
 すでに1体を屠っている川崎 クリス(ja8055)が銃を構えた。しかし。
「ちょっ!?スライムにしては強くね!?」
 さっきは一撃で粉砕できたはずの物理攻撃が効かない。反撃してきた太歳を、亜輝の放った稲妻が焼きつくした。
「物理型と魔法型がいるみたいだな」
 続く2体目は雷撃を物ともせず、クリスの銃撃で簡単に墜ちた。

 邪魔者を片付け、撃退士達は改めて調査を開始する。
「ここは民宿だったようですね」
 床に散らばった宿帳を丁寧に拾い上げ、穂鳥は有りし日の町並みに思いを馳せた。
「なぁ、この地下の風呂場って思いっきり怪しくねぇか?」
 案内図を見つけた亜輝が嬉々として笑う。
 暗く、それなりの広さがある浴場なら、何かを隠すには打ってつけの場所だろう。

 しかし、その期待はあっけなく打ち砕かれた。
 浴場、客室、食堂――そのどこにも、半球型はおろか、新たな太歳の姿を見つける事すらできなかった。
「なかなか見つからねぇなー」
 落胆しながら、クリスは地図に8個目のバツ印を刻みこむ。
 帰り際、ファレン(jb2005)は壁に掛けられたパネルに目を向けた。
 どうやら付近の地図らしい。手元の地図と見比べても、重なる部分が多い。
(何故かしら。気になるわね……)
 ファレンはカメラを取り出し、地図を写真に収めた。

●インターミッシション
 崖、滝、廃墟の調査を終えた撃退士達は、一度合流し、休憩がてら情報を交換しあう。
「散々だったな」
 滝の調査でデビルと遭遇した九朗に、雅人と深紅がため息と共に頷いた。
 ――向こうに行けば、お前達の探し物がある。
 ナハラが懇切丁寧に教えたのは、廃墟を迂回して山を下りる道だった。途中で気付いて引き返したが、だいぶ時間をロスしてしまった。
 でも、そのおかげで確信できた。やはりここには撃退士に知られたくない物が存在するのだ。
 同属を排除してまで手にしたい何かが。
「太歳は半球型の護衛。制御不能になっているから、悪魔達も退治しにきた?」
 ナナシは乏しい情報から推測を組み立てる。
 野放しにされているのも、ここには何もないと思わせるための策略でないか、と。
「何か蜂、多くないっすか?」
 まとわりついてきた蜂をクリスは素手で叩き落した。
「ミツバチですよね? でも大きさが……」
「それは多分、ナハラの眷属」
 穂鳥の疑問に答えたのはファレンだった。彼女は過去に受けた依頼で2度、ナハラと遭遇していた。
「そういえば、虫を使うって報告がありましたね」
 ナナシも以前に読んでいた報告書を思い出し、頷く。
「いきなり帰れとか、俺達の邪魔とか言っていたが、ずっと監視していたわけか。気に入らんな」
 忌まわしげに吐き捨てた後、武尊は不意に立ち上がった。
「奴らの手の中で踊らされるつもりは無い。逆に探ってやる」
「待てよ。単独行動は危険だ」
 亜輝の忠告を背中に聞かせ、武尊は1人行動を開始する。
「鉱山の中には入っちゃだめだよ!」
 空に身を躍らせた武尊に、深紅はそう忠告するのが精一杯だった。

●辿りついた先
 ブナの大木に手を添え、穂鳥は静かに目を閉じた。心を落ち着かせ、同調する。
「緑の多いところは心が安らぎます。直接触れなくても、多くの命が息づいているのを感じる」
 動物達は不思議なほどに落ち着いていた。
 自然の掟という鎖の中で、太歳はすでに存在を受け入れられているらしい。
「太歳の“敵”は、この森に存在していなかったもの……?」
 だから、多少大きくても動物達はあまり襲わない。たとえ同属のデビルであっても、排除の対象になる。
「理由はどうであれ悪魔達も太歳が邪魔らしい。彼らが始末をしてくれるのなら、任せておけばいいよな」
 亜輝は木々の合間に見え隠れするナハラに目を向けた。
 たとえ視線が合っても気にする素振りを見せず、ただ黙々と太歳を斬り続けている。
 だからと言って、野放しにされているわけではない。彼が放ったと思われる無数の蜂は、絶えず撃退士達の周囲を飛び回っているのだから。

 ◆

 武尊は鉱山へ続く高台に立ち、眼下に広がる森を眺めていた。
 正確には、そこにいるヴァニタスの姿を。
「……やはり気に入らんな」
 こちらの視線に気付いているだろうに、全く意に介する様子はない。その態度が、余計に武尊の神経を逆撫でていた。
 耳障りな羽音を立て近づいてきた監視の蜂を握り潰し、武尊は高台を後にする。
 最も忌むべき存在、デビルの姿を探すために。

 ◆

 鉱山の前で蠢く太歳を始末した撃退士達は、ついに鈍重な鉄の扉の前に立った。
 錆びた扉を閉ざす閂は比較的新しく、絡みついた頑丈なチェーンが切られている事が判らないよう、細工されていた。つまりは誰でも自由には入れる状態。
「何か居るぞ。それも1つや2つじゃねぇ」
 九朗の生命探知には、不自然なほどに多くの反応があった。
 どうするべきか、撃退士達は視線を交合う。坑道の中へ入ることを、深紅は渋っていたが……
「確認はしておきましょう。どうせ鍵は役に立っていないようだし」
 ファレンは阻霊符を発動させると、扉に手をかけた。
 フラッシュライトの灯りを頼りに、撃退士達は慎重に歩を進める。
 しかし坑道の探索は、あっけないほど早く終わりを迎えた。
 入口からわずか30メートル直進した所で、天井が支えの枠組みごと崩れ、道を塞いでいたのだ。瓦礫を除くのは困難で、これ以上は進めそうにない。
「結局ネズミもコウモリもいませんでしたよね?」
 雅人は不思議そうに首を傾げる。これまで遭遇した太歳の移動力を考えると、奥に逃げたという事は考えにくい。
「透過能力で下階層に逃げたっすかね」
「それも無いわ。阻霊符があるもの」
 では、あの反応は何だっただろう? 再び生命探知を試みた九朗は、自分達の周囲に無数の生命反応がある事に気付き、愕然とする。
「おい、囲まれているぞ!」
 壁、床、天井――岩肌だと思っていた部分が、所々、脈を打っている。
 太歳は居たのだ。ただ、認識できなかっただけで。
「逃げるっすよ!」
 クリスは前方を塞ぐ太歳を異界の手で封じたが、別の個体に足を絡め取られて転倒してしまった。すかさずファレンが爪で引き裂き、解放する。
 雅人はPDW FS80を撃ち放つが、数が多すぎて退路を確保することができない。
 今度は無数の太歳が、絶え間なく撃退士達に襲いかかる。九朗はシールドを構えて防ぐが、衝撃で腕の骨が軋んだ。
 回避もままならない程の激しい猛撃を受け、今にも遠ざかりそうな意識を必死に繋ぎとめながら、撃退士達は少しずつ後退する。
 その行く手を阻むように、1つの影が立ち塞がった。
 黒衣の剣士、アルカイド。
 感情の無い冷めた視線で撃退士達を一瞥した後、彼は剣に纏わせた黒き稲妻で、坑道の中を劈いた。

 ◆

 森を捜索する撃退士達が手掛かりを掴むことができたのは、陽がだいぶ西に傾いた頃だった。
 捜索地域を北側に集中させてから、太歳の出現率が目に見えて増加したのだ。
「次から次と、きりがねぇ」
 バルディエルの紋章を構えた亜輝が軽い口調で毒づいた。
「……何か変ね」
 空から森を探っていたナナシも、微妙な異変を感じ取っていた。
 目印となるブナから北側に進んだ一画。そこだけ、鳥の姿が見えないのだ。
 もっとよく確認するため高度を落とした時、周囲の木々がざわめき、無数の枝葉がナナシ目がけて襲いかかった。
 自身を捕え貫こうとする枝葉を炎の剣で焼き払ったナナシは、距離を置いて地上に降り立った。
「……ナナシさん!」
「大丈夫か?」
 異変を察し、地上を探索していた仲間達も駆け付ける。
「私は大丈夫よ。それより、あれを見て」
 ナナシは不気味に歪んだ木に視線を向けた。その根は、白い繭状の物体を握っていた。
「見た目は違うけど、たぶん間違いないわ。“半球型”よ」
 撃退士達を取り囲む太歳が急激に増え、急に凶暴性を増し始めた事が、ナナシの言葉を裏付けていた。
「あれが奴らの目的か?」
 ティアマットを召喚した武尊。天獄竜の尾の一振りで太歳を蹴散らし、白繭に目を向ける。
 武尊の闘気に呼応し、再び周囲の木々が動き出した。その時。

「それ以上近づくな。撃退士」
 白繭に一撃を与えようとした時、当然のように撃退士達の前に現れたのは、悪魔ナハラとアルカイド。


●成功への岐路
「近づいたら、何だ?」
 冷めた表情で武尊が1歩を踏み出す。
「待って」
 一触即発の状態に水を差したナナシ。悪魔達の背後にある物に気付いた亜輝も、咄嗟に身を割り込ませて武尊を制止した。
 深手を負い無造作に投げ捨てられた仲間の姿に、深紅は酷く狼狽した。
「そんな顔をするな。まだ死んではいない」
 ナハラの言葉を裏付けるように、クリスの瞼が動いた。
 雅人が喉の奥から掠れた声を漏らし、九郎は力の入らない腕で起き上ろうとする。1人だけピクリともしないファレンも、その胸は僅かに上下していた。
「すみ…せ…、僕達…坑道……」
 駆け寄った深紅に、雅人は途切れ途切れに事情を伝えた。
 ヴァニタスが放った雷撃が、坑道に溢れる太歳のみを焼き払った事も。
「これが最後だ。立ち去れ。そして二度と来るな。拒絶すれば、命の保証はない」
 今までにない、抑揚を抑えたナハラの口調。複眼の目で睨まれた深紅は、まるで金縛りにあったかのように身を竦ませた。
 残った戦力は5名。スキルも大半を使い果たした今、例え白繭を破壊できたとしても、悪魔や眷属から逃げ切ることは不可能。
 その状況を考慮するまでもなく、撃退士達の答えは決まっていた。

 半球型ディアボロの存在を確認するという、当初の最大目的は、すでに果たしているのだから。

 ◆

 埼玉県北西部、鉱山地にて白い繭に包まれた半球型の存在を確認。
 5体の植物型ディアボロに守られている。
 当初護衛と推測した太歳は現場に現れた悪魔が排除、近日中に新たな眷属を配置すると思われる。

 破壊までには至らなかったが、悪魔との遭遇、半球型の位置、直衛の存在を確認できた事を考慮し、この調査の結果を以下のように報告する――


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ラブコメ仮面・袋井 雅人(jb1469)
 黒鳥の名を知る者・ファレン(jb2005)
 誓いを胸に・ナナシ(jb3008)
重体: −
面白かった!:6人

喪色の沙羅双樹・
牧野 穂鳥(ja2029)

大学部4年145組 女 ダアト
アネモネの想いを胸に・
川崎 クリス(ja8055)

大学部1年157組 男 ダアト
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
黒鳥の名を知る者・
ファレン(jb2005)

大学部3年320組 女 鬼道忍軍
元・天界の戦車・
不動神 武尊(jb2605)

大学部7年263組 男 バハムートテイマー
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
能力者・
鷺ノ宮 亜輝(jb3738)

大学部4年145組 男 バハムートテイマー