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マスター:真人
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/02/25


みんなの思い出



オープニング

●格闘料理研究会の日常
 気合の入った掛け声と共にニンジンが、ダイコンが空を舞う。
 程よい大きさの短冊切りに姿を変えた野菜達を、傍らの女子生徒がキャッチした。
 その斜め横では、槌を打ち合わすようにゴボウをささがきにしていく男子生徒。入部直後は覚束なかった包丁さばきも、今では全く危なげがない。
「「「A班、ミッションあコンプリートです!」」」
「A班の皆さんはお疲れ様。ではB班、スタンバイお願いします」
 格料研部長・杵島 紫の指導の下、部員達は素早く鍋を持ち出し、コンロの上に置く。もちろんその間もジャグリング等のパフォーマンスを忘れない。
 一応断っておくが、彼らは別にふざけているわけではない。
 完成した料理だけではなく、様々な技を魅せ、完成までの過程も楽しんでもらう。それが格料研の目指す道なのだ。
 炒めた材料に水を入れ、くつくつと煮込んでいく。くつくつくつと煮込み続け、程よい味噌の香りが立ち込める頃、廊下を歩いていた数人の生徒がお裾分けを目当てで見学に訪れる。
「うーまーいーぞー!」
「おかわりお願いしていいですかぁ?」
「レシピ教えてください」
 叫ぶ者、感動する者、反応は人それぞれだが、美味しい物を食べた時の笑顔は共通している。
 それは格料研にとって最大のご褒美だった。
 さて。美味しい物を食べた後は当然お片付けが待っている。
 この辺は、常連なら何も言わなくても手伝うし、一見さんも空気を読んで右に倣ってくれる。
「そういえば副部長さんの顔が見えないようだけど……どうしたの?」
 あの元気な声が聞こえないことに気付いた常連の一人が、風邪でも引いたのかと尋ねた。
「仕入れです。明日の発表会のために、『おととは新鮮な方が良い』って、自分で釣りにいったんですよ」
 部員の説明に、実習室は大きなざわめきに包まれた。
 普段の天然系な姿しか知らない者が任せて置いて大丈夫かと心配する一方、彼女の行動力をよく知る者は、よっしゃ! とばかりに拳を握りしめる。
「僕、明日が初陣なんですよね。天魔退治よりドキドキするのって変かなぁ」
「演目(メニュー)は何ですか? 絶対、明日も見学に来ます」
「タイの潮煮ですよ」
 もっともそれはあくまでも予定。仕入れ状況が良ければメニューが増えることは確実である。

 美味しい料理と明日への期待で胸をいっぱいに膨らませ、見学者達は一礼をして、実習室を後にした。


●格闘料理研究会(副部長)の危機
「ど、どうしてそうなるのですっ!」
 漁港に辿りついた都築 希は、とても深刻な表情で自分を出迎えた漁師さん達を前に、ありったけの声で叫んだ。
 予定では、到着後すぐに釣りポイントへ案内してもらえるはずだったのに。
 鯛や鮃をたくさん釣り上げて、皆に喜んでもらうはずだったのに。
 直前になって港はディアボロに占拠され、船を出すことができないのだという。
 またしても絶妙なタイミングで邪魔をするとは。天魔ゆるすまじ!
「皆さんは避難していてください。希も撃退士の端くれです。天魔1匹ぐらい、華麗に捌いてみせるのです!」
 そう、凛々しく宣言した希は、お守り代わりのヒヒイロガネから中華包丁を顕現させた。
 ――1分後、全身真っ黒になり、乙女の尊厳を失いかけた希は、虚しく港を後にすることになる。
 漁師のおじちゃん おばちゃんに慰められながらも、組合の電話を借りて久遠ヶ原学園へ連絡をいれるのだった。


リプレイ本文

●港に居座るアクマのサカナ
 天魔出現の報を受け駆け付けた撃退士達は、係留されている船の前に陣取る天魔の姿を見て脱力した。
「騙されてはいけないのです!」
 依頼人である都築 希はそう力説する。
 気力を失ったオヤジのようにダラけているが、油断して近づけば、手痛い目に遭う、と。
「区別しやすいように、大きい方は『オクト君』、少し小さい方は『八ちゃん』と名付けておいたのです。……吸盤の並び方は、どちらもオスだったのです」
 特殊攻撃をする際に前兆などはあるのか――白面のクライシュ・アラフマン(ja0515)に問われ、希の顔は茹でダコのように赤くなった。
「……とても、すごかったのです」
 ブツブツと何かを呟きつつ、地面に『の』の字を描き始める。
「船は猟師の命、港はその命の在処。 それを占拠するだなんて……許せません!」
 きっとよほど恥ずかしい思いをしたのだろう。そう察した或瀬院 由真(ja1687)は、さりげなく話題を逸らした。
「今はゆっくり休んでて。その無念はギア達が必ず晴らすから」
 蒸姫 ギア(jb4049)は希の頭を撫でて慰めてやる。
「あんだけでかいタコやったらたこ焼きいくつできるやろうなぁ……」
「普通のタコでしたら、きっと食べ放題でしょうね」
 天魔相手に食欲をそそられた亀山 淳紅(ja2261)。タコ焼きという言葉に、蒼波セツナ(ja1159)が反応を示した。
「でかいタコは大味っちゅーし、煮ても焼いても食えんとは本当に迷惑なやっちゃなぁ」
 大阪国民である以上タコ焼きに心を惹かれるが、古島 忠人(ja0071)はアレは不味いと断言する。
「メスの方が柔らかくて美味しいのです……」
 タコ食談義に盛り上がる仲間を、クライシュは何とも表現しがたい気持ちで眺めていた。
「……この国ではタコも食べると聞いてはいたが、初めて食った人間はどういう気持ちだったんだろうか」
 出自上、鱗のない魚を食する習慣のなかったクライシュにとって、それは自然な疑問だった。
 他にもウニとかナマコとか……異国の食文化は限りなく謎が深い。
「知っとる? タコの8本の足の内、1本は生殖器なんやってー。……その一本に捕まったら、嫌よなぁ」
 淳紅の発言何気ない発言に、周囲が凍りついた。
 そう考えていれば、必死になって回避能力が上がるかも、と軽い冗談のつもりで言ったのだが、近接戦を挑む者達にとって、それは気付きたくもない事実だったろう。
「こ、今回の相手は、然程苦戦も無さそうですし、九十七ちゃんは後方支援に徹しますのですのよっ」
 十八 九十七(ja4233)はあからさまに狼狽し、ぎこちない動きでスナイパーライフルを顕現させる。
「皆さん、気を付けるのです!」
 タコ墨対策のためゴーグルを装着した撃退士達は、希の声援を背に、それぞれの持ち場に向かう。
 まず考慮すべきは港の設備を守ること――少しでも船から遠くへ引き離すため、黒百合(ja0422)は単身、タコの前に仁王立った。
「タコは大人しく酢の物か刺身に成り果てていればいいのよォ……♪」
 挑発と共に繰り出した技は忍の奥義『ニンジャヒーロー』。
 黒百合の圧倒的な存在感を無視することはできず、タコは遠目でも判る程に興奮し、移動を開始した。
 雷霆を撃つより速いスピードで……

●港に吹き荒れるセクハラの嵐
 2体同時の攻撃を受け、黒百合の小さな身体はあっという間に16本の足に囲まれる。
「……早すぎや!」
 全周囲を囲まれた状態では、空蝉の術も効果を発揮しないだろう。
 黒百合の身体にウネウネの足が絡みつく、何ともうらやまけしからん想像を振り払い、忠人が間に割って入る。
 しかし黒百合は自前の回避力で軽々と危機を脱出。その結果、彼だけが足に絡まれ、簀巻き状態で引き寄せられてしまった。
「おらー! 舐めんにゃ……」
 オクト君の足の付け根に口らしき穴を確認した忠人は、体内に火遁をぶち込もうと右手を突き出すが……直後、その『口』から現れたオウムのような鋭い嘴を見て、慌てて腕を引っ込めた。
 カチカチを打ち鳴らされる嘴に恐怖するも、タコの足で猿ぐつわされているため、声を出すことができない。ジタバタする手足だけが、彼の危機を周囲に知らしめていた。
「今、助けます」
 ――Ihnen wird nicht ausgewichen(汝、逃れることかなわず)」
  Geb Ihnen ein Verbrecher einen Freund(罪人よ、汝に友を与えん)……
 セツナの唇と音が織りなす詠律と共に、幻影の鎖がタコに絡みついた。
 巨体故に完全に拘束することはできなかったが、動きは十分に鈍くなった。すかさず由真が魔具をツインエッジ持ち替えて救出に向かう。
「ちょっと待ってくださいね。今、叩き斬りますから!」
 そう励ましながら、根元から足を斬り落すため、鷲掴みにした直後、
「ちょ、やめ、ひゃわっ、あはははははは!?」
 1本の足が由真の腰を絡めとり、隙間から鎧の内部へ潜り込んできた。
「や、やめ……っ、やめて下さいってば! んっ」
 ミイラ取りがミイラになった状態で、由真は息も絶え絶えに笑い、悶絶する。どうにか正気を保ち、自力で脱出を試みるが、振り回す剣は空を切るばかりだ。
「悪いけど、仲間は返して貰うよ……熱い蒸気に抱かれて、蒸しダコになるがいい!」
 このままでは希の二の舞になってしまうと判断したギア。蒸気のチカラで炎の球を呼び出すと、タコの本体を狙って投射する。
 本来、炎陣球は射線上にいる者を敵味方関係なく焼く危険な術である。しかしタコ達は足を限界近くまで伸ばしていたので、捕えられた仲間を巻き込むことはなかった。
 程良く表面を炙られたタコは、微妙な匂いを漂わせて弛緩した。
「悪いが、貴様は俺の敵ではない。在るべき場所へと還れ」
 クライシュはエネルギーブレードを構えた。その刀身を作り出している眩い光は、彼自身のアウルだ。軽くステップを踏んで一気に肉薄。2本の足を根元から斬り落すと、捕えられていた仲間を解放した。

 タコの足数とリーチの長さに、撃退士達は予想以上に苦戦を強いられていた。
 麻痺や束縛を与えたからといって、動きを完全に封じられるわけではない。不用意にリーチ内に踏み込めば、不自由な足で容赦のない擽り攻撃を仕掛けてくるのだ。
 だからギアは間合いを計り、タコの足が届かない位置で雷帝霊符を掲げた。
「行け、蒸気の式よ!」
 ギアの声に呼応し生み出された雷の刃。八ちゃんは器用にも足でキャッチするが、実際はどう見ても突き刺さったという状況だ。
「皆、ちと離れといてや」
 仲間達を巻き込まないよう忠告を入れ、淳紅はマジックスクリューを行使した。
 八ちゃんを囲むように浮かび上がった円形楽譜が赤く光り、そこから巻き起こった激しい風で6本の長い足が縦横無尽に舞い踊る。
 器用にも蝶々結びの状態で絡み合った八ちゃん。自力で足を解こうと必死に暴れるが、余計にこんがらがってひっくり返ってしまった。
「亀山さん、その調子ですのよ」
 九十七の掛け声に、淳紅は慌てて身を伏せる。
 直後、彼の頭上をアウルの光弾が迸った。九十七のスナイパーライフルが、まるでバズーカー砲のような効果音を響かせながら、八ちゃんの足を1本1本着実に吹き飛ばしていく。
 ――Gehorchen Sie meinem Willenseis(氷よ我が意に従え)
  Sie sind eine Kugel(汝は弾丸なりの理を)……
 セツナの詠律により生み出された氷の結晶が、陽の光を浴びてキラキラ輝きながら螺旋を描く。狙いは満身創痍の八ちゃんの顔面――
 光輝なる螺旋の洗礼を受け、ピクリとも動かなくなった八ちゃんを、セツナは爪先でツンツンと突いた。
 全く動かない。完全に力尽きたようだ。
 不敵な笑みを浮かべる彼女の背後に、密かに忍び寄る影があった。
 そう。敵はもう1体いることを、忘れてはならない。
「女の子に手ぇ出させへんで!」
 オクト君の思惑に逸早く気付いた忠人は、咄嗟にダイブするとセツナを後方へ押しやった。そして、当然のように身代わりになる。
「うひゃひゃひゃ、やめ。そこだけはやめー」
 五肢を絡め取られ思う存分弄られた後で、ぽいっとゴミのように捨てられた。
「あ、安全地帯と思って油断したらあかんで……」
 たった十数秒の間で色んなモノを喪ってしまったけど、女の子を守り抜いた結果なら名誉の負傷だ。
「忠人、安らかに眠れ。ギアはきっと君のことを忘れない」
 放っておけば踏みつけてしまいそうなので、ギアは魂の抜けきった忠人の身体を引きずって移動。後方で待機している九十七へと託した。
「……で、九十七ちゃんはどのようにいたせば良いのでしょう?」
 見る限り、全身の索条痕以外に目立った外傷はない。彼がココロに受けた傷も塞がってくれることを祈りつつ、九十七はとりあえずの応急処置を施した。
 降って沸いた新しい獲物に興味を持ったオクト君、さっそくつまみ食いをしようと食足を伸ばしてくる。
「足だろうが■■■だろうが■■なら■で■■■■!」
 その足先が触れるより先に、危険を察知した九十七は脱兎のように逃れ、修正音を発しながらショットガンで反撃を行う。
「ひゃわー?」
 再びオクト君に足を絡めとられた由真。なぜか集中的に弄られている気がするが、それはきっと彼女が前衛で、避けられない子だから。
 実際、ニンヒロ効果でキラキラオーラ(タコ目線)を纏う黒百合のほうが、狙われる率は高かったりする。
「こ、これ以上汚さないで下さいっっ!」
 ひとしきり悶えた後で、由真はランスを一突きして無事脱出。次の獲物を求めて蠢く足を、クライシュが根元から足を切り落とした。
 オクト君の好みに合わないのか、クライシュが積極的に弄られることはない。しかし何度もタコ墨を浴びせられているため、彼のトレードマークはすっかり黒面に塗り替えられていた。
 淳紅が赤い革張りの魔法書を開いた。紡いだ詠唱は、死にゆくものへの鎮魂歌だ。音符の形となって可視化した祈りは、全ての足を失ったオクト君を包み込む。
 追撃は黒百合。身長を超すほどの銃剣を頭部に突き刺し、体内で散弾を撒き散らせた。
「五臓六腑は綺麗にシェイクされたかしらァ、あはははははァ♪」
 鮮血のようなタコ墨を全身に浴び、黒百合は愉しげに笑う。
 それは紛れもない決定打となった。
 オクト君の頭部は殆ど原形を留めることなく吹き飛ばされ、短いディアボロ生を終えたのだった。

●戦の後は至福の時を
「皆さん、お疲れ様なのです」
 戦闘が終わったことを確認した希が、タオルとバケツいっぱいの湯を持って駆け寄った。
 撃退士達の活躍を見物していた漁師さん達も、心底安心した笑顔で拍手喝采する。
「何か、妙な方向で手強い相手でしたね。……お風呂、入りたいです」
 さんざんタコ墨を浴びていた由真は、一息ついてペタリと座り込んだ。
「早く洗い流さないと、匂いが染み付きそうだわ」
 合羽を着ていたお陰で服は無傷だが、戦闘中は脱げたフードを直す余裕も無かった。頬にべったり貼りつく髪を払いながら、セツナも汚れを気にしている。
 それは男性陣も同じだった。せめて顔だけでも洗おうとゴーグルを外した撃退士達。その顔はみんな逆パンダ状態で、誰ともなく笑い出す。
「おーい、船の準備ができたぞー」
 不意に掛けられた声に振り向いてみれば、釣り船の上から漁師さんが手を振っていた。
「そーいや希ちゃんは海の幸とりに来たんやったな」
「はい♪ 今度は希が頑張る番なのです」
 忠人の問いに、希は両の拳を握ってガッツポーズを取った。
 予定よりだいぶ遅れてしまったけれど、今から行けば、実習で使う分ぐらいは確保できるだろう。
「鯛食べたいっ!! 白身ほっくほくのー♪」
 炊きたての鯛飯を思い浮べ、思わず生唾を飲み込んだ淳紅。実習の料理をキープして貰えるよう、交渉を始める。
「希に任せてください。今日のお礼に、皆さんの分も、しっかりご用意いたします」
「おっし、ワイが手伝ったるで。コレでもガキの頃は釣りマスター忠ちゃんと呼ばれてたんや」
 人数が多ければそれだけ釣れる可能性だって上がる。忠人の申し出は、希にとって願っても無いことだった。
「……ギアも食料調達に付いていけないか?」
 追加の釣り道具を手配する希の横に立ち、嫌ならかまわない、と明後日の方を向くギア。そのお腹が、絶妙なタイミングでグーと鳴いた。
「べっ、別にギア、お腹が空いているわけじゃ、無いんだからなっ」
 暗に腹ペコですと宣言し、ギアは用意された釣り道具を抱えて先に走りだした。

「では、行って来るのです!!」
 釣り船の上から、釣り人達が千切れんばかりに手を振っている。
 港に残った撃退士達は、彼らを見送った後、ゆったりとお風呂に漬かって戦いの疲れを癒した。ついでに漁師飯もご馳走になり、お腹の中から温まる。
 美味しいボーナスは、もちろん船の上でも振る舞われていた。
 少々グロテスクな魚にパワーを貰い、釣果も上々。鯛以外にもいろんな魚をゲットして、釣り人達は誇らしげな気分で岐路についた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: オモロイにーちゃん・古島 忠人(ja0071)
 揺るがぬ護壁・橘 由真(ja1687)
重体: −
面白かった!:4人

オモロイにーちゃん・
古島 忠人(ja0071)

大学部5年312組 男 鬼道忍軍
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
アトラクトシールド・
クライシュ・アラフマン(ja0515)

大学部6年202組 男 ディバインナイト
憐憫穿ちし真理の魔女・
蒼波セツナ(ja1159)

大学部4年327組 女 ダアト
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
胸に秘めるは正義か狂気か・
十八 九十七(ja4233)

大学部4年18組 女 インフィルトレイター
ツンデレ刑事・
蒸姫 ギア(jb4049)

大学部2年152組 男 陰陽師