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マスター:京乃ゆらさ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/07/02


みんなの思い出



オープニング

 ぺらり、ぺらり。
 点けっぱなしのTVから23時台特有のちょっと安っぽくて賑やかな声が流れる中、劇団猫の手主宰の宇野ひかりはベッドにうつ伏せになって本のページをめくる。
「ふむ、すた……すたにすすらふらふすき……システム……メソッド……で、こっちが……ぶれぶれひと……いかこーか……。フラフラとブレブレ。へんなの」
 舞台の経験もなく劇団をやっていこうとしている以上、せめて知識くらいはちょっとでも持っていた方がいい。そんな考えで図書館の舞台芸術コーナーから適当に借りてきた2冊だったが、これがなかなか難しい。
 1冊目。すた……何とかシステムとかいうもの。こっちは全体的にまだ分かる。
 身体表現や人間が活動していく上での肉体の流れなどの、身体についての項目。そして自分の体験や想像を駆使して本気で感情移入しろというような事を書いているらしい、精神に関する項目。他に、それらを踏まえた上での舞台上での所作的な何かを書いている部分もある。たぶん。まぁ日常生活に置き換えられるレベルの話だ。
 問題は2冊目。ぶれぶれ、もといぶれひと……のいかこーか……とか何とかいうやつだ。
 何かもう、意味が分からない。違和感がどうとか、客観視がどうとか。もう初っ端から謎である。それとも舞台を経験すれば理解できるようになるのだろうか。
 両脚をぽてんとベッドに放り出し、ため息をつ――こうとして、やめた。ダメだ。初めからこんな事ではこの先やっていけない。劇団を作るならば自信満々でいなければならない!
「ふ、ふふ、ふははははは! わ、私とした事が何を弱気な! イカちゃんが何だ、こんな時こそ私は私らしく毅然として進まねばならない! そう……」
 がばぁ!
 ベッドから跳ね起きて拳を握る。
「この! 果てしなく長い!! 舞た」『うるせぇ今何時だと思ってんだ!!』
「ぴぃっ……すすすいません!!」
 ひかりが咄嗟に縮こまってお隣さんに謝る。本の読んでいたページに栞を挟み、ぱたんと閉じると、小声で、しかし不退転の覚悟で決意を口にした。
「ふ、ふ。私の戦いはまだ始まってもいない……ならば盛大に始めてやろうではないか……!」
 劇団猫の手の最初の目標は1ヵ月後、でっかくゲリラ公演でもやらかしてやろう。

 ◆◆

 来たれ舞台人! 新規劇団立ち上げのお知らせ!
 キャスト、スタッフ共に募集中!
 経験の有無は問いません。必要なのは熱意だけ! 学内のサークルではない、独立した劇団としての気概を持ちたい方大歓迎。将来の目標は国内巡業です!
 他劇団、集団との掛け持ちOK! 活動時間は相談に応じます!
 みんな仲良し、たのしい職場です!
 ………………
 …………
 ……

 久遠ヶ原学園から島内まで、様々な掲示板に劇団員募集のビラを貼り終えると、ひかりは島内の小さな公園に立ち寄った。
 公園と言っても遊具はあまりなく、砂場と滑り台とブランコがあるだけのほぼ空き地といってもいい空間だ。周りは住宅に囲まれ、数本の木が周りと公園を隔てている。
 忘れられた公園。そんな寂寥感が、あった。
 公園の東端まで歩く。そこから数mだけ中央へ進み、脚で地面に線を引いた。
「端っこからここまでが舞台として……」
 広さはどれくらい必要なのだろうか。大道具は保管場所的な意味で作れないが、周りの木から木へ幕のようなものを渡して舞台のような雰囲気を作る事はできる。照明もなし。音響は……いざとなれば端末等で使えるだろうがよく分からない。夕方になると西日が差してくる。つまりその日射しの中、クライマックスをやれば何かカッコイイ、気がする。
 青空舞台。ゲリラ公演。初舞台がこんな状態でいいのだろうか。いや、初舞台だからこそここから出発できるのだ。失うものなど何もない。
「……い、いざという時は……わ、わ、私が怒られればいいだけだし、うん。だいじょぶ、だいじょぶ」
 後は稽古と、何を上演するかだが――後者については、ひかりに考えがあった。勿論集ってきた劇団員から異論や別の案が出れば変更するのも吝かではないが、個人的には思い入れがあり、また季節的にもちょうどよいものだ。
 夏の夜の夢。
 ひかりが舞台というものを初めて観て、魅了された戯曲である。
「……よし。やるぞ……私の劇団猫の手は、ここから始まるのだ! ふーはははははははははー!!」


リプレイ本文

「はぅ、たい焼きを食べれる依頼じゃなかったのですかー!?」
 10時過ぎ、長閑な公園の空気を切り裂いたのは影山・狐雀(jb2742)の痛切な悲鳴だった。
 ひかりの呼びかけやチラシに応じて集った人が一斉に狐雀に目を向ける。びくぅ。狐雀が狐耳と翼を折り畳んで縮こまった。
「み、見間違えたのですー……」
 あ、この子放っておいちゃダメな子だ。シルヴィア・エインズワース(ja4157)が聖母のように微笑む。狐雀はチラッと窺い、1歩だけシルヴィアに近付いた。
 桜井・L・瑞穂(ja0027)が苦笑し
「まぁ、狐雀でもできる事はありますわよ。公演は1ヶ月後、しかもこの少人数。まさに猫の手も借りたい状況ですわ。劇団猫の手だけに!」
 ドヤッ。瑞穂が胸を張った。
「……」「……さて。稽古に入ります、か……」
「えっとぉ、あたしは悪くないってぇ、思いまぁす」
 淡々と散っていく小田切 翠蓮(jb2728)、桐亜・L・ブロッサム(jb4130)。椿 青葉(jb0530)が精一杯フォローすると、瑞穂はうっうっとイジケてみせた。アウルの白百合を散らせて。
「いいですわよいいですわよ。高貴たる者は所詮孤高の存在なんですわ……」
 うわぁこの子も放っておいちゃダメな子だ。シルヴィアが何故か楽しげに狐雀へ見せた微笑と同じそれを瑞穂に向けた。
「ミズホ、一緒に頑張りましょう。頑張ったらお菓子あげますよ?」
「わ、わたくしは子供じゃありませんのことよ!?」
「ゴメンナサイ。やっぱりジュースの方がよかったですよね?」
「そういう事じゃありませんわ!」
「じ、じゃあ僕、たい焼きがいいですっ」「えっ」
「おや、ではたい焼きパーティですね!」「ですからっ……」
 瑞穂を置いて盛り上がる狐雀とシルヴィア。早くも徒労感に襲われ、瑞穂は肩を落した。
「……狐雀、そっちはお願いしますわよ。ひかり」
「え、あ、うん」
 トボトボ歩き出す瑞穂とひかりである。
 ツッコミ役が足りない。瑞穂は切実に思ったとか何とか。

●朝は声出しから
 舞台、というと桐亜にとってそれは歌だった。
 無論人間界で知った戯曲や物語も少なからずある。が、何かをする時、そこに至る手段は歌以外に有り得なかった。それが世界の全てに等しかったから。
「――――、――――」
 凛として清冽な歌声を響かせる桐亜。瞑目して浮かぶのは天界の風景で、そこに身を委ねて独りたゆたう。ただ発声練習をするのでは逆に喉の調子を崩すに違いない。
 首に手を当て、桐亜は快い幻想に浸る。悪くない。これなら『夏の夜の夢』に入れそうだ。桐亜が我知らず声を高め――た、その時。
「素晴らしい、グッドです! キリアはどこかで声楽を学んだのでしょうか? その言葉は天界のものですか? 美しい響きです。私も負けられませんね。歌や音楽を少々嗜んでいますので、全力で付き合います!」
 シルヴィアが、勢い込んで桐亜に突撃してきた。辛うじて舌打ちを我慢して瞼を開く桐亜である。
「……お願いします、ね。客観的意見を交換できれば……いいかと」
「はい。私はどうにも早くちゅ……早口言葉が苦手でして。どうしたものやら」
 テヘペロと苦笑するシルヴィアだが、次の瞬間にはぐっと気合を入れ
「しかし夏の夜の夢の為にも頑張らねばです! あぁシェイクスピア、Excellent! ヒカリに感謝です」
「お好きなんです、ね……」
 今にも歌い出しそうな、もとい既に歌い出しているシルヴィアに桐亜が呆れ、発声を再開する。
 前半2週間を基礎、後半を演技に当てれば見苦しくない程度には固められるだろう。桐亜が腹の底を意識し、声が体という筒を通って頭から抜けるイメージを描く。長音。クレシェンドで10秒、20秒。
 そこにシルヴィアが加わり、高音がユニゾンして空気を震わせた。

「ふわぁ」
 白熱する発声を横目に、狐雀は端末を覚束ない手付きで操作する。選択、登録してある全ての人へ。本文。
「7月……中旬? 島内で、舞台を、します……劇団猫の手、初公演……詳細は追って連絡します……と」
 宣伝文を何とか捻り出し、送信。画面に完了の文字が現れ、狐雀はホッと胸を撫で下した。鞄に手を伸ばしたい焼きを――なかった。しまった予備がない。涙目の狐雀だが、ぐっと堪えて園内を見渡した。
 ――演劇は初めてだけど、僕のできる事を頑張るのです!
「あ、あのっ」
 狐雀がシルヴィアに声をかける。
「こういう屋外の舞台って、何をどうすればいいのです?」
「舞台作りの話ですか? ふむ」
 顎に手を当て思案するシルヴィア。そういえば、と自信なさげに口を開いた。
「私の母国にはRSCという劇団があるのですが、シェイクスピア演劇で世界中の演出家に影響を与えた舞台があるそうです」
 それは何とかという人が演出した夏の夜の夢。真白な舞台。妖精王・女王と、人間のカップルを同一人物が演じるという配役。
「詳しくは知らないのですけれど……」
「ほえ〜」
 屋外では白一色にはできない。緑の幕でこちらとあちらを区別し、観客は中を覗き見る感覚にすればどうだろう。
 狐雀は必死に考え続ける。

 学園。瑞穂とひかりは登記簿を調べるべく島外への外出許可を得ようと事務室に行き、事情を話してみる――と。
「あぁあの公園かね。あれは私有地でね、誰だったかな、確か島の……」
 なんと個人所有の公園だと判明した。僥倖、いやこれも日頃の行いのおかげに違いない。
「おーっほっほっほ、天は自ら助くる者を助くのですわ!」
「悪い事に使う訳でもないようだし、お願いしてみなさい。勿論、自分達でね」
「ありがとうございます」
 トントン拍子に話は進む。事務員から地主の電話番号と住所を教えてもらい、2人は早速連絡する。瑞穂が咳払いし
「突然のお電話申し訳ございません。わたくし久遠ヶ原学園高等部の桜井――」
 流暢にアポを取り、瞬く間に電話を終えた。ひかり、唖然である。
「……慣れて、ます、ね」
 思わず敬語だ。瑞穂が行きますわよと促した。
「ひかり」
「?」
「こういった対外的な雑務もまた組織の運営者として大切になる……独立して歩みたいのでしたら尚更ですわよ。解りまして?」
「うん……ありがと」
 しおらしくひかりが首肯するのを瑞穂は見、気分一新、手を叩いて気合を入れた。
「さて。本番はこれからですわよ!」

「えっとぉ、こっちが女子の分でぇ」
「これが男の衣装であるの」
 青葉と翠蓮はひとまずイ●ンのフードコートで衣装案の整理をしていた。
 皆の希望を聞き、それを踏まえてデザインする。一から舞台衣装を作った事などある筈もなく、大変なのは目に見えていた。が、初めから妥協してはダメだ。やってみる事が大切なのだ。
「よぉーっし、超絶カワイイあたしのセンス爆発よぉ!」
 青葉が腕を捲ってノートに向かう。翠蓮はそんな一直線な青葉を見て薄く笑い、自らも筆を取った。
 まっさらの半紙を見つめ、想像を膨らませる。衣装。見栄え。動きやすさ。夏の夜の夢。視界に何かが浮かび上がってきた。その輪郭に筆を重ねるや、一息に半紙へ想像を落し込む!
「……む、う」
「え? わ、すごぉ!? 翠蓮先輩早ぁい! 何か習ってたんですかぁ?」
「いや」
 翠蓮が筆を置き、半紙を覗く。墨で描かれた衣装は、線が簡素すぎてどうもしっくりこなかった。
「ううむ、シンプル且つ見栄えのする衣装とは難しいものよ」
「でもでもぉ、これならイケるかもぉ! ふふん、じゃあ今度はあたしの番ねぇっ!」
 イオ●、そこは何でも揃う夢の場所。2人は現代の楽園で幻想の楽園に思いを馳せる。

●昼は全力で
 正午過ぎ。学食に集まって経過報告した一行は、腹ごしらえも程々に再び公園へ。主宰のひかりが咳払いし、無理矢理威厳を示すように告知した。
「お昼は皆稽古のようです。ガッツリ頑張りましょう!」

「で」
 稽古開始して30分。地に這い蹲るソレを眺め、瑞穂は呆れて声をかけた。
「何をしているんですの、貴女」
「ぜぇっ、ぜぇっ、うぷ……べ、べつ、さぼっ、わけ、な……」
 尺取虫の如く突っ伏したソレ、もといひかり。確かにサボってはいないがそういう事じゃない。
「ヒカリ先輩、大丈夫です?」
「うー」
「僕も初めてですし、一緒に頑張りましょうですっ」
 外見小学生の狐雀に慰められる女子高生である。青葉が首を傾げ
「ひかりさんはぁ、先に筋トレする為の体力をつけた方がいいと思いまぁす」
「し、仕方ないし! 人間の体は腹筋するようにできてないの!」
 瑞穂が嘆息し、声を張り上げた。
「ひかり、ランニング20周ですわ!」
「ぴっ!?」
「ただし、頑張りすぎて初日からヘバらないように」
 涙目で小鹿のように走り始めるひかり。一方で瑞穂、青葉、狐雀、桐亜は腹筋背筋を終え、長音、さらに短音に入る。
 息んで横隔膜を押し下げ、膜を張ったまま息を出す。それをア行からパ行までやると、次は外郎売だ。プリントを前に持ち、脚は肩幅に。大地の力を取り込むように、ゆっくり発声する。
「拙者親方と申すはお立会いのうちにご存知のお方も……」
 快いリズム。青葉などは千里の道も一歩からとばかり基礎練自体を楽しんでいる。が。
「……お上りならば右の方、お下りならば左側……」
 桐亜は、肩で息をつきながら横に目をやっていた。
 ――これ、だから……基礎というのは嫌いです、ね……。
 すぐ近くではシルヴィアと翠蓮が舞のように何かをやっている。できれば今すぐあっちでやりたい。朝は幸せだった。なのに。
「……書写山の社しょうじょ……社僧正、粉米のなまがみ……」
 早口言葉につっかえつつじーっと2人を見つめる。ふとシルヴィアがそれに気付き、ふにゃんと笑ってきた。なんというか人生幸せそうな笑顔に若干イラッとした。
「……」
「この後は少し休憩にしませんとね。台本に入る前に体を壊しては元も子もありませんわ」
 瑞穂が提案する。その気遣いが逆に桐亜には自らの体力の無さを自覚させられ、気分が暗くなった。
 走りこみと筋トレで痙攣する全身を辛うじて制し、桐亜は気力で外郎売を読みきる。
 ――これでは……自由にやれもしない。朝も体力作りをしなくてはなりません、ね……。
 苦虫を噛み潰した表情で深く息を吐く桐亜をよそに
「薬師如来も照覧あれとほほ敬って、外郎はいらっしゃりませぬかー!?」
 青葉は元気一杯に読み終えていた。

 シルヴィアと翠蓮の舞は優雅に続く。
「ここでパックのダンス、そして媚薬を間違って振り掛けます!」
 シルヴィアがイメージを言葉にし、それを受けた翠蓮がしゃなりと舞う。英国古典と日舞の融合。それは期せずして『NINAGAWA十二夜』的な異質の化学変化が垣間見えた。
「感覚は相解った。非現実の表現。つまりそういう訳かのう。しかしその為には」
 わしも精進せねばならぬ、と翠蓮が頷き、話を変える。
「次は立ち稽古という訳ではないが、軽く身振りを示しつつ台詞合せを頼む。体を動かしておった方が覚えがよくての」
「いいですよ。あ、じゃあ明日からビデオで撮って確認もしましょうか。きっとヒカリが買ってくれます!」
「……さらっと人使いが荒いのう」
「ふふふ、実は秘かに張り切ってます私。シェイクスピア! 我が英国が世界に誇る古典! 頑張ります!!」
 ほんのり上気した顔で並々ならぬ覚悟を口にするシルヴィア。翠蓮はそれを眺め、薄く笑った。
 ――ほんに人の子は恐ろしく、そして面白きものよ。

●夜はこっそり反省会!
 夕方。
 走りこみの疲労を結局ずっと引き摺っていたひかりは時計を一瞥し、打って変って跳ねるように言った。
「お菓子会! お菓子パーリィだよね夜!」
「たい焼きぱーりぃですっ」
 狐雀の顔がぱぁっと明るくなる。次の瞬間、ひかりが邪悪に口角を歪めてのたまった。
「ふははははは! 私は知っているぞ、こんな時のお約束を! ふふん、それは……」

 2130時。
 多くの人が帰り、ひっそり静まった――学校。その、高等部の教室の片隅に、彼らはいた。
「ど、どうして待つ必要があったです?」
 小声で尋ねる狐雀。胸にはパンパンにたい焼きを詰め込まれた袋が3つ抱えられている。
「しっ」
「えと、僕はたい焼きさえあればいいですけど」
 まぁいっかと狐雀が袋から円らな瞳の魚達を出し、笑顔で皆に配った。
「疲れた時は甘いモノなのです。かんぱいっ!」
「か、乾杯?」
 ぶちゅー。7匹の鯛が気持ち悪げにキスをした。鯛だけど。

「そう、1人だけ媚薬が解けてない人がいるんですよ! 面白いからいいんですけれど」
 たい焼きやらお菓子やらジュースですっかり場が温まってきた一行。シルヴィアが熱っぽく語ると、桐亜が水を含み
「幻想を抱いたままでいられるのもある種の幸せの形と言えますけれど、ね……」
「はい。その一方で幻想の主たる妖精王夫婦は喧嘩という人間臭い現実に蝕まれている。面白い!」
「わしは未だ人間文学に詳しくないが、現実と非現実の対比等はよくやるのかのう」
 窓際で片膝ついて座る翠蓮。シルヴィアがリスの如く菓子を食べ
「2つの組というのは常道です。よく使うのは主筋組と道化組のようなものですけれど」
「道化、といいますと」桐亜がふと提案する。「パックのような役を増やしてもいいのでは」
「ふむん? どういう事でしょう」
 シルヴィアが座り直す。青葉が目を向けた。桐亜は体育座りのまま
「人数の関係で劇団は出せませんけれど……主筋に偏りすぎてはこの物語の雰囲気を損なうかと」
「道化を増やしてドタバタするって事ぉ?」
 ポテチを頬張り、青葉。
「例えば2人に別々の惚れ薬AとBを持たせ、Aを飲んだ人がBに惚れる、ですとか……」
「組合せですか」
『間違いの喜劇』的な面白みに繋がるかもしれない、とシルヴィアは思う。
「要話し合いですね。しかしキリア、貴女もかなりのフリークと見ました」
「人間界のお話で……5指に入る程好きな物語ですので……」
「ほう。わしはこの作者で言えば『ハムレット』かのう。やはり非現実が重要な復讐劇であった」
「でしたら『リチャード3世』等もぜひ!」
 熱烈に語る3人。瑞穂が突如起立するや拳を振り上げる!
「わたくしはこれ、特にタイターニアが良いですわね!」
 でろり。餡が鯛の口から零れた。
「夫の悪戯とはいえ媚薬に弄ばれ、それでいて失わぬ女王の矜持。おそらく彼女はこの話の後、王に悪戯し返して一矢報いたと思いますわ」
 疲れも知らず盛り上がる一行。稽古後特有の一体感と高揚感がそこにはあった。
「「?」」
 ただひかりと狐雀は話についていけていないが――ひかりは主宰、狐雀はマスコットなので問題ない。
 青葉がチョコを頬張るや、手を叩いて耳目を集めた。
「この辺で今日の反省会を始めようと思いまぁす♪ 公演まで1ヶ月だしぃ、しっかり明日に繋げないとねぇ! まずはぁ……」
 士気は高い。
 内緒のたい焼きパーリィは、0時間近、警備員に見つかりそうになって逃げるまで続いたのだった。

 そして、劇団猫の手初公演に向けた1ヶ月が始まる……。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ラッキースケベの現人神・桜井・L・瑞穂(ja0027)
 【猫の手】新進気鋭の星・椿 青葉(jb0530)
重体: −
面白かった!:5人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
Ms.Jブライド2012入賞・
シルヴィア・エインズワース(ja4157)

大学部9年225組 女 インフィルトレイター
【猫の手】新進気鋭の星・
椿 青葉(jb0530)

大学部1年177組 女 アストラルヴァンガード
来し方抱き、行く末見つめ・
小田切 翠蓮(jb2728)

大学部6年4組 男 陰陽師
アド褌ティの勇士@夢・
影山・狐雀(jb2742)

高等部1年7組 男 陰陽師
【猫の手】劇団員・
桐亜・L・ブロッサム(jb4130)

大学部4年137組 女 ダアト