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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
形態:
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2013/07/24


みんなの思い出



オープニング

●海ちゃんに振り回されて
 蝉が鳴き、夏が本格化してきたとはいえ、そこは北海道。地域により差はあるが、津崎 海(jz0210)の住む所は夏でもかなり涼しい分類に当たる。
 日中でも25度に達する日はまだほとんどなく、夜は10度前後をうろつく事がまだある。そんな地域であった。
 だからまだ、キャンプは早い。
 その証拠に展望台もあり、川遊びも出来るかなりしっかりとしたキャンプ地でさえも、1人旅などを満喫するライダー以外に、キャンプを楽しんでいる者はいなかった――そう、海達以外にはだ。もっとも、要因は他にもあるのだけれども。
「何でこの時期に土日の休み使ってまでキャンプなんだろうか……幸い、今日はちょっと暑いくらいだけどさ。夜はまだ少し冷え込みますよね」
「まあまあ、修平。ここまで来たんなら、楽しまなきゃだめだよ?」
「そうですけど……」
 ぶつくさと文句をたれながら、中本 修平はテントの固定金具を金槌でやや激しく打ち付ける。その様子に、大人びているけどまだまだ子供だなと白萩 優一が小さく笑っていた。
「用意できた? 修君」
「はーいはい、できましたよっと」
 口をへの字にし、金槌で肩を叩きながら立ち上がった修平は後ろを向いたが、ぽかんと口を開け、視線を横にずらす。
「何で、もう着替えてるのさ。着替えるから早くテント設営してって言ってたのに」
 白にブルーの縁取りが施されているタンキニ姿で腰に手を当て、堂々としている海。
 そして同じような形の、黄色にオレンジの縁取りをしたタンキニだがパレオを巻いて胸に手を当てながら、少しだけ顔を赤くしてうつむき加減の矢代 理子。
「いや、うん。ちょっと探してみたらね、更衣室あったんだ。どう? 似合う?」
 修平をまっすぐに見ながら理子の肩に腕を回し、海が引き寄せる。引き寄せられた理子は目を丸くし、さらに顔を赤くしながらも上目づかいで修平の言葉を待った。
 やがて目が泳ぎ気味だった修平の視線はちらりと動いただけだったが、ばっちりと理子と目が合い、再びそっぽを向いてしまう。
「ああ、うん。似合ってると思う」
「修君、今りっちゃんしか見てなかったよね?」
 海の言葉に、もはやトマトの如し理子は完全にうつむいてしまい、きつく目を閉じ唇を噛みしめ、微かに震えていた。
「いやいや、そんなことないって――いいから、陽が高いうちに川遊びしてきなよ」
「それもそうだね。行こっか、りっちゃん」
「う、うん……」
 棒立ち状態の理子を、半ば強引に引っ張る。管理の行き届いた道を進み、森の奥へと2人は入っていくのであった。
 しばらく呆然と見送っていた修平の頭に手を置いた優一が、後ろから耳元に顔を近づける。
「で、どっちが好きなのかな? りっちゃん?」
「違います! 女子の水着姿なんて、まじまじ見れないだけです!」
 久遠ヶ原学園には普段着からキワドイのもいたはずだけど――そう口から出そうだったが、結局、優一は何も言わない。
 ただ目を細め、懐かしむようでいてどことなく寂しそうに、いつしかの風景を重ねあわせていた。
 だからこそ。
「そうやって意地もいいんだけど、伝えたいと思ったらすぐに伝えないとダメだよ。想いは色あせないけど、膨らみ続けるからね」
「だからそんなんじゃ……りっちゃんとは一番家も近いってだけだし、海ちゃんは昔からこういう面倒な事を聞いてただけですから」
「ま、今はそれでもいいかもしれないけど、ね」
 片思いの大先輩は、笑いながら外に置いてあった荷物をテントの中へと移動させると、先ほどまでの笑みとは一転、引き締まった険しい表情を浮かべていた。
「さて……ここに『いる』のは間違いないのかな」
「まだ被害はないんですけど、目撃情報は多数。ただただ進軍を繰り返している風である、とか」
 優一の雰囲気に合わせ、修平も眼鏡を外し表情を引き締める。
「だから、依頼としてはまだなかったわけか。ここに来ることを渋った理由や、僕に引率を頼んだのも頷けるよ」
「すみません、まきこんじゃって」
 ナックルをはめて手をほぐしていた優一が、パタパタと手を横に振った。
「従兄弟なんだから、遠慮しなくていいよ。それに僕は護ると誓って撃退士やってるんだから、当然なんだ」
 誓った相手の顔を思い返し、伏し目がちに自分の拳を見つめる。つい最近、改めて再認識した自分の誓いに、握る拳の力も強くなる一方だった。
 話の見えない修平は首を傾げていたが、口を挟める雰囲気でないことだけは察し、口を閉ざしていた。
「さて、それじゃ行こうか。海ちゃん達には、できれば気づかれないようにしないとね。せっかくの思い出作りに水差しちゃ悪いし」
「ですね。学園の方にも応援はいれてますから、もうじき来てくれると思います。注意をひいてもらうというか、万が一に備えてもらうってことで海ちゃん達に合流するようお願いしてあります」
「そっか。こっちは2人でもなんとかなるけど、できれば誰か他にも来てもらいたいね」
 資料を手にして目を通し、続けた。
「範囲が広いからばらけて探索したいし、どうにも攻撃らしいのがないみたいだから、たとえ1人で会っても容易に撃破できるはずだしね」
「今回のは小さいらしいですけど、タンク型は結構堅いですよ。生命力低いけど」
「堅くても、僕はただ拳で打ちぬくだけってね。とにかく早く終わらせて、キャンプの続きだよ」

●川辺
 それなりに広くて腰ほどの深さまでの本流に、支流ではないが中州で区切られほとんど流れのない緩やかで冷たい川。遊ぶのに適したそこで膝まで浸かった海と律子は、川の冷たさに黄色い声をあげていた。
「冷た……!」
「でも今日暑いから、気持ちいい――来てよかった」
 先ほどの修平の言葉を思いだし、眼鏡のずれを直すふりをしてにやける口元を隠す。そんな理子を意地の悪そうな笑みを浮かべた海が腰に手を回し、後ろから抱きすくめた。
 突然の暴挙に、うひゃうとよくわからない声をあげてしまう。
「がんばっておへそ出した甲斐があったね!」
「そ、そうかな……?」
 努力が報われたのはまんざらでもないものの、背中に当たる同い年の自分とはずいぶん格差のある確かな質感に、すぐ複雑な顔をするのであった。
 話題をそらそうと、動かせない身体はそのままに首だけを捻り、後ろを向いた。
「今回のキャンプも、神様のお告げ?」
 神様のお告げ――存在がはっきりしているような天界側の神様というものではなく、海にだけ囁くという謎の神様の事である。ただし1人でいる時にしか聞こえないらしく、しかも圏外があるらしい。
 海が中学2年生である、と言うと多くの者がああなるほどなどと、納得してしまう。
「うん、そうだよ。ここに行けばいい事あるってさ――それと、ここって知ってる? 地に降りた天の川って呼ばれてるって。
 今私達のいるこっちの溜まり池、夜は月と天の川映す時があるんだって。その時に川を渡ったカップルは、深い絆で結ばれるとかなんとか」
「へ、へぇ……」
「今日は夜更かししようよ。展望台で星見たりとか、ね」
「う、うん。そうだね」
 夜まで起きている口実を、律子のために作り上げる海。友人の動揺を心底楽しんでいた。
 そんな彼女たちの元に、護衛という任務の名のもと、撃退士達は川遊びに合流するのであった――


リプレイ本文

「間に合ったようやねぇ」
 華奢な体には似つかわしくないほど、大荷物を抱えた宇田川 千鶴(ja1613)が今にも出発しようとしている優一と修平を見ながら、ゆったりと呟いた。
 荷物を草むらに置いた櫟 諏訪(ja1215)は頷くと、優一達に向かって手を挙げる。
「初めましてー! 櫟 諏訪と言いますよー! 気軽に声をかけてもらっていいので、よろしくお願いしますねー!」
「よろしくお願いします」
「では早速ですが、川に向かいますかねー?」
「準備万端!! もう着てきた!!」
 襟に指を引っ掛けバサバサと扇ぎながら答えた藤咲千尋(ja8564)。諏訪と一緒に遊べる事を楽しみにしていたのだろう。
「水着に着替えてたら、レッツゴーですよー!」
 駆け出す千尋。笑顔の諏訪はすぐに後を追って行くのであった。
 草むらの荷物を持ち上げた優一が、自分達のテントへと移動させる。そして皆に微笑んだ。
「お越しいただき、ありがとうございます。僕は白萩 優一、彼が中本 修平です。
 とりあえず皆さんの荷物は一旦、僕らのテントにまとめてもらって、すぐに川へと向かってもらってもいいですか?」
 すぐと言われては、まず行動するしかない。各々は知らぬ顔と軽いあいさつを済ませながら、荷物をテントへと運び込んだ。
 ただ優一と面識のあったアスハ・ロットハール(ja8432)は荷物を持ったまま片手を挙げ、挨拶をする。
「久しぶりだ、な。優一」
「お久しぶりです、アスハさん。護衛とはありますが、気楽に遊んできてください」
「そうさせてもらう、さ――今年も、こうして夏らしい遊びに興じれた、な」
 メフィス・ロットハール(ja7041)に微笑みかけた。
「退院したばかりなんだから、無理しちゃだめよ?」
「ああ。そのつもり、だ」
 妻の優しい言葉に甘え、幹を背にして木陰に座り込んだ――のだが。
「でも日頃のワビってつもりなら、全然まだ足りないからね?」
 手を取られ立たされる。だが嬉しそうな表情でアスハは手を引っ張られ、更衣室へと連れて行かれるのであった。
 振り回されながらも嬉しそうにしているアスハの背を目で追い、柊 夜鈴(ja1014)は柊 朔哉(ja2302)に視線を移す。
 キョトンとして首を傾げている朔哉。
(ひさびさに朔と遠出だ。最近あまり相手できなかったからな……今日明日くらいはしっかりと……)
「俺達も行こう、朔。宇田川さん、釣り道具借りてもいいですか」
 水遊びも考えたが、同行者に男性がいる以上は色々な面で厳しいだろうと、夜鈴は朔哉を気遣ったのだ。
「ええよー柊さん。一緒に行こか」
 スマホから千鶴は顔をあげ、テントの中から釣り道具を発掘する。
「夜鈴の横で見ているだけで楽しいから、1つでお願いします……」
 そんな申し出をする朔哉が微笑ましく、目を細めた千鶴は、釣り道具を自分の分と含め2つだけ持つのであった。
「おっし。せっかく泳げそうだし私は着替えてこようかね」
 サングラスを外し、亀山 絳輝(ja2258)が駆け出す。少しだけ思案顔だったグレイシア・明守華=ピークス(jb5092)は何か吹っ切れたのか、笑みを浮かべた。
「とりあえず、何とかなるわよ」
 これから戦闘に向かうであろう男2人を、横目でチラリ。
(この暑い盛りに少しは和らいでいる北海道に来たんだし、川遊びぐらい多めに見てもらっていいわよね。あたしとしても、楽しみたいから)
「俺はそちらにまわります」
 美森 仁也(jb2552)が優一達にそう、申し出た。
(彼らも楽しみたいだろうし、なにより人のいる所で戦闘になったら俺は色々面倒だから)
 仁也が大事な少女、美森 あやか(jb1451)の頭をなで、ニコリと微笑んだ。
「あとで行くから、川に行っててくれるかい?」
「わかりました、お兄ちゃん」
 素直に頷いたあやかは1人、川へと向かうのであった。
「こちらを手伝ってもらえるなら、助かります」
「……アルも中本の手伝いに」
 初等部男子の制服に身を包んだアルジェ(jb3603)に、修平が軽く頭を下げる。
「ありがとう、アルジェさん――君って、呼んだ方がいいかな?」
「どちらでも」
(勘違い、している)
 だがどうでもいい。些細な事であると、あえて訂正はしなかった。

 川辺に着いた千尋は衣服を脱ぎ捨て、南瓜のピンキーリングだけは外さず水色のタンキニ姿になると、川へと飛びこんだ。
 その冷たさに騒いでいると、追いついて千尋の服を拾い集め畳んでいた諏訪に気付き、駆け寄る。
「おー、千尋ちゃん。水着、よく似合ってますよー?」
 ぽふっと頭に優しく手を乗せ撫でると、千尋は顔を赤く手で覆い隠すとヒーヒー言って後からやって来た千鶴達へと。
「千鶴さーん一緒に遊ぼー!!」
「逃げなくてもえぇのになぁ。素直に楽しんだらえぇ」
「そうなのだろう、な」
 水着に着替えたアスハとメフィス、それに絳輝、明守華、あやかまでがやってくる。
 急に人が増えた事でやや肩身が狭くなりつつあった海と理子だったが、見知った顔を1人見つけ手を挙げ名前を呼んだ。
「明守華ちゃんだー! お久しぶり!」
「お久しぶり、海に理子。元気だった?」
 真紅を基調としたホルターネックのツーピースで、首元まで隠しているトップは横縞があり、ボトムにはフリル付きと、なかなかにイメージとピッタリな水着姿の明守華が駆け寄る。
「明守華ちゃんがいるってことは……」
「そうね。みんな撃退士よ。半ば合宿みたいなノリで、キャンプをしに来たの」
 千尋は元気よく挨拶し、あやかは人見知りだが幸い、歳が近いと言うこともあり、すぐに打ち解ける事が出来た。海と千尋、あやかと理子が似た者同士だから、というのもあったかもしれない。
「ほなら、ポイント探しに行こかぁ」
「そうですね――行こう、朔」
 朔哉の手を引き、千鶴と共に夜鈴は上流へと向かうのであった。
 そして同じく、大事な人の手を引き本流へとざぶざぶと浸かっていく赤い髪の夫婦。
「水着、良く似合っている、よ」
 アスハの言葉に、ただ微笑みで返すのであった。
 少女達が浅い所で水をかけあったりなどしているその横で、準備運動を終えた絳輝が白いTシャツを脱ぎ捨て、シンプルな赤いビキニ姿で自由気ままに川で遊び、諏訪も軽くだが泳いでいた。
 そして絳輝が潜ったかと思えば、唐突にじゃれあっている少女達へ水鉄砲で奇襲をかける。
 真っ直ぐに伸びたそれは明守華の背中へと直撃し、予想外の不意打ちに海を正面から抱きつくような形で前のめりによろけてしまった。
 海にしがみついたまま、首だけを捻り、抗議の声を上げる。
「冷たいわよ、亀山先輩!」
「ほらほら、お姉さんを混ぜてくれてもいいんだよ?」
「大丈夫? 明守華ちゃん」
「ええ、大丈……」
 はたと気がついてしまう、明守華。いや、見ないフリをしていたのだが、その目の前には確かな格差を感じさせるモノが。
 学年は自分のが下と言えど、身長的には自分の方が10センチ以上高いというのに。
 明守華が何を見て言葉が途切れたのか理解した千尋や理子、それに絳輝までもが少しだけ憂い顔をして一斉にそむける。
 ちょいちょいと水鉄砲で手招きをすると、指名されたわけでもないのに何故か3人が無言のまま絳輝の元へと集い、何事かを囁き合っていた。
「どうしたんですか?」
 海が不思議そうに首を傾げると、キッと唇を噛みしめた明守華が睨み付ける――が、すぐに直視しないよう目を逸らす。
「羨ましくないわよ!」
 何の事かわかったあやかだが、内気な彼女はさすがにその話には関われないでいた。
 微妙に重い空気。
 それを吹き飛ばしたのは、スイカを頭の上に掲げた諏訪であった。
「やーや。ここらでスイカ割りなんて、どうでしょうかねー」
 彼の出現に全員の視線が集まり、どんな空気をも吹き飛ばす屈託のない笑顔を浮かべながら首を傾げる。
「うまく割れますかねー?」
「貫いてみる、か……?」
 いつの間にかバンカーを装着したアスハが至極真面目な顔でそんな事を呟き、メフィスに小突かれるのであった。

「北海道はまだ涼しくてえぇねぇ」
 釣り糸を垂らしていた千鶴が川下に視線を向けてぼんやりと。そして時折、デジカメで色々な物を撮影していた。
「ですね……ん」
 ウキに注目していた夜鈴――ラインを通し、確かな重みが手に伝わる。腕にしがみつくようにして見守っていた朔哉が、思わず息を飲む。
 折れんばかりにしなる竿で引き上げると、丸々と太ったヤマメが針に食いついていた。手を叩いて喜ぶ朔哉に、夜鈴は口元に笑みを作りながらも、肩をすくめる。
「俺はちょっと料理ダメな感じだから、任せた。朔」
 任された朔哉は嬉しそうに、こくりと頷く。そんな微笑ましい後輩夫婦の様子を、デジカメに収めるのであった。

 湿地帯ながらも鬱蒼とした林の上空。そこに2本の角と翼を生やした銀髪の悪魔が辺りを見回しながらゆっくり、慎重に飛行していた。なるべく目立たぬよう、木々の間をすり抜けながら。
(あまり目立たないようにしませんとね)
 一旦地上に降りた悪魔は角と翼を隠し、銀髪が黒髪へと変化する。そして眼鏡をかけたその姿は、仁也であった。
 周囲を見わたし、かなり離れた位置にいる修平とアルジェを見つけたその時、この場には似つかわしくない音が微かに聞こえた。その音に気付いたのはアルジェ達も同様のようで、周囲を見回している。
 ただ、音が小さすぎる上に木々に反響していて、方向が絞れないでいた。
(上から……!)
 眼鏡を外し、再び悪魔の姿へと変貌。上空へと飛び立ち、眉間にシワを寄せゆっくりと首を動かし――びしっとアルジェ達に指を向け、ついと横に。
 それだけで何を伝えたいのか察したアルジェと修平が、指の向けられた方向へと駆け出す。
「――足を止めます!」
「わかった。前回より小型か、攻撃はしてこないようだが……油断せず行く」
 方向を切り替えた修平が湿地車サーバントの正面に立ち、2丁の拳銃を構え、集中。車体が下り始めたところを狙って、撃ちだした。
 地面を抉り取ったその一撃。
 突如生まれた穴による高低差と速度に押され、車体は前転するかのごとく垂直に立ち上がる。そこへもう1発。倒れ込もうとしている車体を弾き返し、車体は垂直状態でぴたりと安定した。
 漆黒色の大鎌を構え、後ろから追い上げてきたアルジェが、水平に一閃。
 激しい金属音。
 断末魔のような金切り音をあげ、両断された湿地車はその場で崩れ落ちるのであった。小さく息を吐きだし、修平へ向かってぐっと親指を立てた。
「……いい援護射撃だ、GJ」
 崩れる事の無い表情で褒められ、一瞬だけ戸惑った修平も親指を立て返すのであった。

 携帯で連絡し、崩れ去った湿地車の後始末を終えテントに帰ってくると、仁也がいの一番に口を開いた。
「さて、荷物をこのままというのもあまり良い気がしないので、テントを張りますか」
「まだしばらく僕らのテントに置きっぱなしでも大丈夫だから、まずは君の大事な人の所に行くといいよ。テント張りも、みんなでやる方が楽しいだろうしね。僕がずっとここで荷物番するしさ。保護者の義務ってやつだよ。
 それに、思い出は作れる時に作れるだけ作らないと」
 思い出を作れるだけ作る――寿命を感じ始めていた仁也にとってはそれは重要な事であった。仁也は優一の親切を素直に受け取り、川へと向かうのであった。
 折り畳みの椅子と本を手に、優一は木陰へと。
 残された修平はどうしようかと思っていたところ、しっかり手をつないで夜鈴と朔哉が戻ってきた。その後ろからすでに着替え終わった明守華が、追い越してくる。
「あれ、少しお早いお帰りですね」
「みんなはまだしばらく川にいるよ。僕らはこの戦利品をどうにかするために、戻ってきたんだ……と言うわけで、朔。頼んだ」
 名残惜しそうに手を離し、魚を受け取った朔哉は任せてと、調理場へと向かう。
「あたしはそろそろ、かまどの用意をしようかとね」
 明守華がかまどの準備を始めると、修平はふと、アルジェの事を思いだし、すぐ後ろでずっと立っていたアルジェへと声をかけた。
「えっと、アルジェ君も川に行ったら?」
「……水着が無い。食事の準備を手伝ってくるから、修平は気にせず楽しんでくるといい」
 そう返答されどう返そうかと口元に手を当ててから、はたと気がついた。
「僕の事を名前で呼んでたっけ?」
「だめか?」
「ああいや、全然問題ないよ――僕もこっちで火の準備してるかな」
「ではお互いに、協力し合うということで。よろしく」
 自然に差し出された手を修平は握り返して、各々の役割を果たすべく動き始める。
 本から目を外し、2人の様子を遠巻きに見ていた優一は目を閉じ、しばらくの間うーんと唸っていた。
(修平、あの子が女の子だって気づいてないよなぁ。ま、僕が言う事じゃないだろう)
 そんな結論に達し、再び本へと視線を落すのであった――

 少しだけ早めに川から戻ってきたアスハと仁也、それに夜鈴が慣れないテント設営に四苦八苦していた。
「大丈夫、だ。人間、その気になれば野宿なんてどうということは、ない」
 2人は頷きそうになってしまった。
 だが、アスハの背後から不意に伸びてきた手が首にかけられると「……冗談だ」とアスハは、震え声で告げる。
 その後ろでニッコリと微笑むメフィス。
 夜鈴も仁也も頷く事を止め、黙々とテント設営を続けるのであった。そこに優一と修平が手伝いにまわる。
 テント設営班の不穏な空気を振り払うように、明るく陽気な声が響いた。
「皆でいろいろ分担して準備すればすぐできますねー? テキパキやっちゃいましょー!」
 せっせと朔哉は魚を串に刺して塩をまぶしたり、ホイルに包んだり。カレーの具材があるからと、あやかがカレーを作り始めると千尋がそれを手伝っている。
 千鶴はサポートにまわるよう忙しなく動き、特に一番不慣れな海と理子の面倒を見ていた。
 そして絳輝はと言うと、スポンジ片手に待機。調理器具をとにかく洗う役に徹し、明守華はテーブルの準備や食器を並べる。
「こうすると美味しいのですよねー」
 透明な容器に数種類の缶詰、それに星形の小さいゼリーを混ぜ込み、それを一旦サイダーと共にクーラーボックスへと。
 アルジェはなにやらメフィスとともに、危険な香りのする別鍋カレーを作っているのであった。
「あと足りないものとかあるかしら。皆がお腹を満たしてくれるような物にしないと」
「大丈夫だ、朔。十分すぎるほどにあるから」
 朔哉の頭に額をこつんと当て夜鈴はそう囁くと、包んだホイルと通した串を手にし、呆けている朔哉へと微笑みかける。
「さあ、そろそろ始めよう」

「みんなで食べるご飯はおいしいねー!!」
「自分達で頑張って作った分、なおさらおいしいですよねー?」
 諏訪と千尋の言葉には、誰もが納得していた。
「相変わらず、仲えぇなぁ」
 アスハがメフィスに塩焼きを、メフィスがアスハにホイル蒸しを食べさせあっている姿をカシャリと1枚。見事なタイミングで撮られたアスハはばつの悪そうな顔をして、顔を諏訪の方へと向けた。
「仲の良さで言えば、諏訪も相当、だ」
 塩焼きを互いに食べさせあっている2人をからかったつもりだったが、2人は「仲良いですもんねー?」「ねー?」とまるで意に介していないというか、むしろ褒め言葉と捉えた風であった。
「弱いやつで1本、頼めるか?」
「えぇよー」
 クーラーボックスからカクテルの缶を1つ取り出し、絳輝へと投げ渡す。そして優一にも飲むか尋ねてから放り投げ、自分用にも1本。食事中もずっと撮影だったり補充だったりと、忙しなく動いている千鶴の、短い息抜き。その様子をアスハは千鶴の恋人に為にもと、手持ちのカメラで1枚撮るのであった。
 メフィスにカレーを差し出され受け取ったアスハはふと、彼女のカレーを見て尋ねてしまった。
「そっち色違う、な……?」
 ニンマリとした彼女がすくって向けると、何の警戒も抱かずアスハは口に含み――口を押さえ、声にならない絶叫をあげる。その額から、どっと汗が噴き出ていた。
「特製辛口……」
 作る段階から協力していたアルジェはぼそっと、それでいてシレッとしている。
 なんとなく楽しそうだなと、無表情なアルジェの感情を感じ取った修平。騒がしくもある食事風景だが、仁也とあやか、夜鈴と朔哉は騒いだりもせず、静かながらも雰囲気と空気を楽しみつつ食を進めていたのであった。
 作りすぎた感もあった料理だがなんとか全てたいらげ、明守華が率先して片付けを開始する。
「この辺が自然に対するマナーなのよね」
 海相手にこれがさも当然と胸を張り、丁寧に丁寧に後を片付けるのであった。

「みんなでやろう!」
 両手いっぱいの花火を絳輝が持ち出してきた。しっかり水入りバケツに蝋燭、ライターも用意してまさしく、楽しみにしていた感丸出しである。
「あたしはこういう遊びは慣れてないので、教えてもらいたいのよね」
「オッケーオッケー。まずはね、これをこうして束ねて持って……ふふふ、見よ! これが伝説の光の剣……!」
 数本まとめた手持ち花火に一斉に着火(※良い子は真似してはいけない)したそれを掲げ、それを振り下ろす。打ち上げ花火に向かって。
「打ち上げるぞー!」
 さらにマネしてはいけない2段構えで打ち上げ花火を点火。夜空に小さな華が咲く。
「以上が玄人遊び。はい、これ持って先端に火を当てて――」
 やや年甲斐もなくはしゃいだ絳輝は一転、真面目に教える。
 着火が始まると、色鮮やかな火花が明守華の目を釘づけにした。その幻想的な美しさに、明守華の心は奪われる。
 手持ち花火をある程度楽しんだところで、夜鈴は絳輝に声をかける。
「亀山さん、少し貰ってもいいですか」
「どうぞどうぞー。あ、バケツも忘れずに」
 いくつかの花火とバケツを手に、夜鈴は朔哉にそっと耳打ちした。
(少し向こうで、2人きりになろう)
 その誘いに朔哉が断るはずもなく、バケツを2人で仲良く持ってはみんなの輪から少し遠ざかっていった。
「では僕も……ロケット花火、全部頂いてもいいですか」
 地味な花火を欲しがる優一に、アスハがその腕をつかんだ。
「どうするつもり、だ」
「どうって……修平でも誘って撃ちあうつもりですが」
 それを聞いたアスハは、思わずニヤリと笑ってしまった。
「それは欠かせないから、な。僕が相手、だ」

 ロケット花火を束ねて着火。優一に向けて撃ちだすアスハ。
 それに対抗して同じくまとめて火を点け、すぐに空中へと投げる優一。
 お互いの動きに合わせ地上を這わせてみたり、移動先を狙って撃ったりと、いい大人がなかなか大迷惑な遊び方をしていた。
「楽しそうやねぇ」
 少し離れて花火をしていた千鶴は、時折飛んでくる流れ弾ならぬ流れ花火をひらりと回避しながら、撮影を続ける。
 アスハと優一が距離を詰め、もはやお互いの動きを先読みしての近接戦闘を繰り広げていると、終止符は唐突にやって来た。
 アスハの背中に、激しい衝撃と炸裂音。
 不意を突かれ倒れ込んだアスハの後方で、打ち上げ花火を手に、やっちゃった感丸出しの表情でいる妻の姿があった。



 激しい戦いが繰り広げられている最中、そっと抜け出していた者がいた。仁也とあやかだ。花火も楽しんでいたのだが、やはり、何よりも優先したかった事があった。むしろこのために来た、とも言える。
 川辺で靴と靴下を脱ぎ、月の輝き、星の瞬き、そしてたなびく天の川へと、あやかは水面を揺らしながら入っていく。
 そして振り返り、そっと、自分だけの彦星へと手を伸ばした。
「お兄ちゃん――ずっと一緒にいてくれますか」
 差し出された小さな手を見つめ、そして一度空を見上げた。今も懸命に瞬き、その美しさを人々に伝えようとする星を。
 だがすぐにそれから目を離し、真っ直ぐに見つめ返す。
「……星は綺麗だろうけど、俺は、自分の見出した光を護る方がずっと良い。やるべき事を怠った伝説の様に離れたりしない」
 水面を揺らし自分の見出した光に己の手を重ね、抱き寄せる。絶対に離さまいと、力強く。
 そして、誓った。
「命ある限り、共にいるから」



 ぽうっとした火が、屈んで顔を寄せ合っている夜鈴と朔哉を照らす。その手には線香花火が。もっとも、朔哉はこれがなんなのかわからない様子で、火を点ける前に顔の前に持ち上げ、覗き込んだりしている。
 朔哉の様子で察した夜鈴。自然に笑みがこぼれた。
「朔、これが線香花火だよ」
「おおお、これが線香花火……!」
 朔哉の手を握り、バケツの上へと誘導すると、改めて火を点けた。
 線香花火の淡い光で照らされる朔哉の顔を眺めていた、夜鈴。最初は期待に満ち溢れる表情をしていたかと思うと、火の玉を作り出したあたりで、やや失望したように口を尖らせた。
 だが。
「え、あ、わぁ……綺麗!」
 小さいながらも懸命に爆ぜている、その儚くも力強い火の華に朔哉は目を丸くさせ、満面の笑みを浮かべる。それを見ているだけで夜鈴は、花火以上の楽しみを噛みしめていた。
 そしてあっけなく火玉は小さな音を立て、水の中へと消えていった――再び訪れる静寂と暗闇。暗くて見えないが、朔哉がどんな表情でいるか夜鈴にはわかる。
「消えちゃった……切ないね。すぐ落ちちゃうんだ」
「ああ。落ちると、少し寂しい感じがするな」
 朔哉の頭をなで、頬をなで。そこに切ない顔があるのかと思うと胸が締め付けられた夜鈴は、そっと、唇を重ねていた。
 ――唇を離し、2人は見つめ合う。夜鈴が肩へと手を伸ばし、抱き寄せようとしたが2人そろって転がってしまった。
 草むらに倒れ込むと、どちらともなく小さな笑い声をあげ、横になったまま手をつなぎ、空を見上げる。天の川がはっきりと見て取れた。
「上の彼らはずっと一緒に居られない――けど俺らは違う。だよな?」
 顔を向けると、朔哉はしっかりとその視線を返す。
「出来ればいつまでも、どうか貴方の隣にいさせてね」



「やっぱり花火は夏の風物詩、きれいですねー?」
 やはり最後の締めにと線香花火をみんなで楽しむ。いつの間にか、抜けていた4人も戻ってきた含めて、である。
 この光景もしっかりと、千鶴はカメラに収めていた。
「さて。いい時間だし、後片付けはやっておくから、みんなもう休みなよ」
 この場では誰よりも年長者である優一の心遣いに、全員がそれぞれテントへと向かい、千鶴と絳輝は少しだけ手伝ったのち、ふらっとどこかへ行ってしまった。
「さあ、海、理子! 語りつくすわよ!」
 明守華に手を引かれ、海と理子は女子テントへと消えていった。朔哉とあやかも一緒のはずだが、その日の夜はまさしく「女の子同士の秘密」の会話が繰り広げられていたとか、とか。
 そして諏訪と千尋もやはり、ここへと足を運んでいた。
「本当に、天の川がそこにあるみたいですねー?」
 水面に映る白い川を眺め、自然と手をつないでいた。そして2人は手をつないだまま、天の川を渡る。
「今日は知らない人も多かったのに、がんばりましたねー?」
 あまり気がつかれはしないが、千尋は人見知りなのだ。いきなり距離を詰めるのは、敵じゃないという不器用なアピールなのだと言う事も、諏訪はお見通しである。
 どこの誰よりも、千尋を見ているから。
 わかってくれている人が目の前にいる。そう思うと顔はすでに赤いが、それでも真っ直ぐに彼を見据え、伝えた。
「あのね……誘ってくれてありがとうね!! すわくん、大好きだよ!!」
 精一杯の勇気だが、それでも目の前の彼は動じず、いつもの通り優しく包んでくれる。
 そしてそっと、耳元でお返しを。
「こちらこそ、一緒にいてくれて、ありがとうございますよー? 千尋ちゃん大好きですよー?」
 身体を離すと、俯いてしまった彼女の頬をなで顔をあげさせると――月明かりの下、影と影は重なるのであった。



 中本修平は歩くのが好きである。ゆっくり歩く事で、様々な発見ができるから。だから夜、やや遅い時間に一段高くなっている川べりを、ぶらっと歩いていた。
 少し雲がかかり、静かな夜の闇。川の音を聞きながら歩いていた。
「……ふぅ、気持ちいい」
 覚えのある声に川を見やると、うっすらとだが不思議な輪郭が見える。それがまさしく、羽を伸ばし、羽繕いをしている姿だと理解するのに数瞬を要した。
 すると先に、声の主が人の存在に気がつく。
「誰かいるのか?」
 近づいてくる影に、やっと修平は誰か思い当たった。
「アルジェ君か。そろそろ冷え込むから、あがった方がいいよ」
「修平か、今戻る」
 互いの顔がなんとかわかる距離になって、修平は違和感を感じた。
 その瞬間。
 雲から顔をのぞかせた、月のいたずらか。淡い光がアルジェの姿を映し出す。
 柔らかみのある膨らみに、整った曲線。それらを見た修平がやっと自分の勘違いに気付き、一糸まとわぬ彼女から、全力で目を逸らした――勢いで、足を滑らせ、1回、鈍い音を立ててから川へと落ちた。そして、流さていく。
 アルジェは息を飲み、川の中を駆け抜け修平を抱き起す。そして抱きかかえたまま対岸へと。
「意識不明、水を飲んでいるか……?」
 はっきりと確信はないが、それでも気道を確保し、大きく息を吸い込んだアルジェが横たわった修平に唇を重ね――そこで目を覚まし、がばっと上半身を起こした。
「大丈夫か」
「あ、いや、うん。ゴメン、大丈夫――それより、服着て欲しいんだけど」
「服ならもっと上流だ」
 それを聞いた修平は額を抱え、濡れた自分のシャツを脱いで水を絞ると、肩ごしにそれを渡す。
「せめてこれで、隠して」
「何故だ?」
「頼むから」
 首を傾げたアルジェはシャツを受け取り、不思議な人間だと、その背中を眺めていた。



「奇遇だ、な」
 夜、寝つけずにテントを抜け出したアスハはちょうどばったり、メフィスに出会った。静かにというジェスチャーで口を閉ざしたアスハ。代わりに青白い光球を手から生み出す。
 月の光とはまた違った淡い光を頼りに、2人は自然と川に足を伸ばしていた。月が雲に覆われ暗さが増した事で、天の川はより一層、その存在をはっきりさせる。
 川に足を踏み入れるアスハ。
「七夕はロマンチック、とは言われる、が……僕はゴメン、かな」
「そうね。ロマンチックっていうけど、年に1回は寂しいわよね」
 振り返り、青白い光を乗せた手を差し出した。
「1年に1回、など耐えられないから、な。できるなら、こうしてずっと、共に居たい」
 真剣な面持ちのアスハだが、共に居たいと言った相手はニヤニヤしている。
「病院で会うのが年に1回とかにしてもらえると、嬉しいんだけど?」
「……善処、する」
 メフィスはその手を取り、引き寄せたアスハは強く、堅く、誓う様に抱きしめるのであった。



 千鶴は人のいないところでひっそりと草の上に座り、夜空めがけてデジカメを構えるが――首を振ってポケットへ。
 その代わり、身じろぎもせずに夜空を見上げていた。ただ、いつもと違うのはその表情にいつもの明るさがない。
「……っ」
 何度も口を開くが、結局は何も言葉が出る事なく、閉ざす。しばらくそれを繰り返したかと思うと、スマホを取り出して何かを打とうとして、やはりなにも打てない。アドレス帳を開いては、閉じる。
 ずっと、そんな感じだった。
 みんなの幸せそうな笑顔を思い返し、唇を噛みしめる。頭を振って、右手の指輪を眺め――眉を震わせ、より一層、誰が見ても分かる寂しそうな表情を、浮かべていた。
 だが、誰かに見られるヘマはしない。
 それが宇田川 千鶴という人だから。



 星のよく見える所にシートを敷き、蚊取り線香を置いて虫よけスプレーまでかけてから、絳輝はごろりと横になった。
 すぐ横で上へとたなびく煙を見やり、それからその先、星空へと目を向ける。
「さすがにこんな山中だと、星は綺麗に見えるな」
 天の川に目を止め、不意に口から嫌味が飛び出た。
「お前らはまだマシだよ。1年に1回も会えるんだからな……」
 目を閉じる。
(人は死ぬと空に昇るとは言うが 、実際あれは落ちていってるのだろう)
「だって、あそこは人が生きられない。重力のある、酷く生き辛いこの地上こそが自由な場所なのだから」
 自分に言い聞かせ目を開くと、もう会う事はできない名前を静かに呟き、手を伸ばした。
「いつか私が落ちたら、お前が受け止めてくれるよな……?」
 滲んでいく美しい空の底へと、笑いかける。
 そして、手で目を覆った。
(次は誰かと来たいな。優しい言葉。撫でてくれる手。愛しい歌――そしたらこの星空もきっと、もっと輝いて見えるから)



 ゆっくり、身体を起こした絳輝。蚊取り線香はとうの昔にその役目を終え、あたりは静かだけれども、すでに明るかった。
 のろのろと火を熾しに戻ってみると、すでに優一が火を熾していた。というよりは、一晩中起きて焚き続けていたようである。
「おはようございます――とりあえず寝癖、直してきた方がいいと思いますよ」
 寝癖を直しに行っている間に、早起きしたあやかが仁也が魚だけでは寂しいと言うことで飯盒で米を研ぎ、葱とワカメの味噌汁と浅漬けを用意していた。程よく溶けた、冷たいお茶もある。
 意外と豪華になった朝食後、組み立てる時とは大違いの速度でテントなどを片付け、後始末をしっかりすると、全員、バスへと乗り込んだ。
 帰り道、ほとんどの者が寝こけ、千鶴も盛大に舟を漕いでいた。
 運転する優一はミラーで確認し、未来ある自分の後輩達に微笑みを浮かべる。
(今を楽しみながらも、時代を動かしてくれよ。後輩諸君)



【流星】地に降りた天の川 終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

幻の星と花に舞う・
柊 夜鈴(ja1014)

大学部5年270組 男 阿修羅
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
黄金の愛娘・
宇田川 千鶴(ja1613)

卒業 女 鬼道忍軍
いつかまた逢う日まで・
亀山 絳輝(ja2258)

大学部6年83組 女 アストラルヴァンガード
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
ArchangelSlayers・
グレイシア・明守華=ピークス(jb5092)

高等部3年28組 女 アストラルヴァンガード