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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/16


みんなの思い出



オープニング

 固唾を飲んで教師の背中を見守る、緑色の髪の少年。
「あ」
 不吉な声にギクリと、少年の表情が強ばった。
 振り返った教師の手には、黒い、砕けたビスケットのようなものが。
「……すまんな」
「おいらの弓がぁぁぁ!」
 悲痛な声を上げる半泣きの少年――スズカ・フィアライト(jz0323)は、がっくりと肩を落とすのだった。

(うう、せっかくいい感じに手の部分が和風チックな弓だったのに……)
 科学室を後にしたスズカの足取りはふらふらとしていて、ショックを引きずっているのは明白である。
 が、それでも腹は鳴る。
 適当な教室をガラス越しにのぞき込み時計を確認すると、昼をだいぶ過ぎていた。
「ご飯……」
 仕送りはさっきので、使い果たしてしまった。
 ――ヤバイ。
(母さんに連絡したら怒られるだろうし、父さんになんて頼りたくないし……!)
 ガラスに映った、全然天使の血を引いているとは思えない父親似のクセ毛を指先で弄り、眉根を寄せる。
 しばらくの間そうやっていたのだが、やがてよしと頷くと、学園に来てから初めて、斡旋所へと向かうのであった――


 そんな軽い気持ちでお試しの依頼を引き受けたスズカだったが、今、全力で走って逃げている。
 その後ろを全身包帯姿で目だけが赤く輝いている、虚無僧のような奴らが追いかけていた。
「偵察くらいで、そんなに危険はないって言ってたじゃないかぁ!」
 事態が改善するわけがないとわかってはいるが、叫んでしまう。
 走りながらも振り返りざまに、手にだいぶ馴染んだショートボウで2本、矢を射るのだが、虚無僧のような奴らは手の周りをうねうねと動く包帯で1本を簡単に叩き落す。
 もう1本に至っては落とすどころかかわすまでもなく、横を通り抜けていった。
「少年よ、しゃがめ」
 半泣きになりそうだったスズカだが、まるで母親のように凛とした女性の声に身体が自然と従い、前方に向き直った。
 正面に立っているブロンドをハーフアップにした緑色の軍服ワンピースの女性は、限界かと思えるほど弦を引いていた白銀のコンパウンドボウを、呼気を吐き出しながら腕が開ききるほど、さらに引く。
「コォォォ……」
 ギシギシと音を立てていたボウに光が灯り、それが矢先へと集まっていった。
「邪な生物よ、滅びよ!」
 彼女の放った矢が光の帯となり、ほんの一瞬、一直線に並んだ虚無僧達を次々に飲み込んで跡形も残さない。
「少年、ここは危険だ。即刻立ち去れ」
 消滅を確認した彼女はそれだけを言い残し、スズカが礼を述べるよりも先に踵を返し雪を踏みしめて、どこかへと行ってしまう。
 呆然とするスズカだが、彼女の簪の様に使っている櫛を食い入るように、いつまでも眺めているのであった。


「おいらもあんな風に強くなりたいなぁ!」
 依頼を再開して小一時間過ぎたあたりで、またも追われていた。ただし今度は白い全身鎧の戦乙女達である。
 足が遅い分、さっきよりは攻撃する余裕はあるのだが、鎧に阻まれて一向に効いてくれない。
「そこの君、止まって」
 今度は男性の声だが、またも声を駆けられて反射的に止まってしまうスズカ。
 正面には先ほど見た変わった色と同じ色の着物を着た黒髪の男性が、黒炎を纏った和弓を上に向けていた。
 その直後、突然のどしゃ降り――雨だと思われた物は全て矢だった。それがスズカの周辺だけ残し降り注ぎ、白乙女の鎧の隙間という隙間に潜り込んでいく。
「大丈夫かい?」
 柔和な笑みを浮かべる男性に礼も言わず、スズカの目は着物の色に釘づけであった。
 それが男性にもわかったのか、自分の着物をつまみあげ「変わった色だと思うかい?」と尋ねてきたので、スズカは素直に頷く。
「着物に使われていたりするようだけど、誕生色って言うらしいんだ。
 これは1月の誕生色、想紅――春に恋い焦がれながらも、雪の中で強く、華やいで咲き誇っている寒椿のような色」
 白一色の世界で徐々に小さくなっていく、真っ直ぐに伸びた背筋をスズカは思い返し、知らぬうちに小さな拳を握りしめていた。
(もっと……本当に強くならなきゃ)
 どうしてそこまでの想いが生まれたのか、スズカにもわからない。
 だがそれは、そうならなければいけないという焦燥感すらも湧き立たせてくれる。
「助けてくれて、ありがとうございました!」
 男性に頭を下げ、走り去っていく――残された男性は穏やかな笑みで手を振り少年を見送り、その背中が見えなくなったあたりでまだ息のある白乙女に向き直った。
 そして白乙女の眼球に、矢先を向ける。
「とりあえず、ご退場願おうか。天の僕達――」




 これまで、母さんみたいな弓の名手になりたいと漠然としたものを抱いていたが、それだけで強くなれるわけがない。
 自分に足りないのは何か――ようやく、そんな事を真剣に考えてみる。
「おいらに足りない物……どっちかっていうと、足りない物しかないんだろうなぁ」
 自分が弱い事はよくわかっている。ならば強くなるには――それを教えてもらうために、ここがある。
 訓練用の広場に来てはみたが、こういう訓練に付き合ってくれそうな友達はいない。なあなあでやってきた自分のまわりには、やはり、なあなあな友達ばかりなのだ。
 どうしたものかと、手にした弓をぶらぶら。
 ――と。
「どうかしたのかな?」
 栗毛色をしたショートの、眼鏡をかけた少女が話しかけてきた。
 どことなく誰も彼もが隙の無さそうな雰囲気を持ち合わせているのに、その少女からはそういうものが一切感じられない。
「……おいら、強くなりたいって思ったんだけど、どうしたら強くなれるのかよくわかんなくて」
「じゃあ、聞いてみたらいいよ」
「聞く相手がいないんだよぅ!」
 駄々をこねるようなスズカに、眼鏡の少女は少しだけ考えると、躊躇なく手を大きく振り上げた。
「すみません、誰かこの子に強くなる方法を教えて頂けませんか!」
 周囲の撃退士達の視線を集めるのだが、少女は全く怯まず、むしろスズカの方が委縮してしまう。
 ただその言葉で興味を持ったのか、何人かの撃退士が集まって来る様子を見せると、少女はスズカに「これで大丈夫だよ」と微笑んでくれるのだった。
「あとは大丈夫だよね。私は見学に戻るから、それじゃあね」
 そして北海道から見学に来た少女は、スズカを残して後にする。
 残されたスズカだが、集まってくる撃退士達を見てさすがに覚悟を決め、自分の言葉で自分の想いを伝えた。
「おいらが強くなるために足りない物を、教えて下さい!」



リプレイ本文

「あー……強くなりたいってのは皆同じだと思うし近道なんてないけれど、まずは君について聞かせてもらえるかな」
 礼野 智美(ja3600)の言葉にスズカはそれもそうだと気づき、まずは自分の自己紹介、それから大まかな経緯を話す。
 凛々しく凛としたあの女性の背中を見て、強くなりたいと願った事も含め。
「強くなりてぇ、ねぇ」
 煙管をふかす百目鬼 揺籠(jb8361)が目を細め、スズカに、かつて『鬼』になる事を決めた時の自分自身をほんの少しだけ重ねていた。
 だが自分にはない輝きだと頭を振り、吸い口を口から離すと雁首をスズカへと向ける。
「訓練場ですし、ひとつ手合わせでもしてみませんか? とにかく現状を知らねぇと話になんねぇですし。
 怪我すんのも莫迦くせぇですし、ここは1つ、この煙管を時間内に壊せるかどうかで競いやしょうか」
「そんな小さいの、当たらないよ!」
 スズカ非難も無視し、揺籠は後ろへと跳ぶ。
 慌てて追いかけるスズカ。バタバタとした足さばき。止って弓を構える――そして空気になりつつあった城里 千里(jb6410)が、スズカの動きを目で追っていた。
(漠然と強くなりたい、か。このままだと難しいな)
 腕を組み壁によしかかると、すぐ横では霧谷 温(jb9158)がしゃがんだ状態の膝に両肘を乗せて、手合わせを見学している。
(なるほどね……戦い方すらよく知っていない。そんな感じなんだね)
 ポリッと首裏を指で掻き、横にいる千里にたった今気づいて頭を下げる。千里も言葉をかわすでもなく、頭を下げた。
 他にも強いくせっ毛の新田 六実(jb6311)も壁際で手を組んで待っているし、やんわりとした目をスズカに向けている亀山 淳紅(ja2261)までいた。
「青春やねぇ。単純に、微笑ましいというか」
 オブジェの陰に揺籠がすっと隠れスズカがその先へ狙いを定めるのだが、逆の方向から出てきた揺籠に接近を許してしまい、煙管がスズカの首筋に押し当てられた。
 ――勝負あり。
「そんなに戦闘が得意な方じゃねぇですが、それでもこれくらいの動きはできるでさぁ」
 咳き込んで手を振って煙を散らそうとするスズカの頭の上に、いつの間にか来た千里の手が置かれた。
「ま、なんだ。話すだけならここじゃ寒い」
「ですねぇ。外はたけぇですし、学食に行きやしょうか」




「奢らんぞ。自分で頼め」
 食堂に着き、ほっとコーヒーを頼みながら千里の無碍な言葉。
 それはわかっているという顔をするスズカだが、正直な腹が抗議するかのように音で訴える。
 一向に頼もうとしないスズカへ、溜め息1つ。
「……何がいい? おやつは300久遠までだ」
「飯くれぇ、俺が奢ってやんますよ」
 有無を言わせずに、2つ定食を頼む揺籠。
 そしてやっと全員、お互いの声が届く位置に集まり、順に自己紹介していく中、淳紅はふふーと笑う。
「大学部の亀山 淳紅。弱くはないレベルのダアトやで」
 ほんのちょっとした見栄だが、どちらかと言えば謙遜だろと知る者は言うに違いない。
 そして最後に、六実がぺこりと頭を下げる。
「スズカさんと仰るのですね。初めまして、私は新田 六実と言います。
 それにしても強くなるための方法、必要な事ですか……人それぞれだと思いますけど――まずどうして強くなりたいのか、強くなって何がしたいのかを考えてみてください。
 大切な人や土地を護りたい、憧れている人に少しでも近付きたい、色々理由があると思います。
 心の奥底、中心にブレる事の無い……そう、信念と言いますか。あとはそれを目標に強い意志を持って、鍛錬や実践を繰り返す事でしょうか」
「ひたむきになるのも大事な事だ。じゃあ俺はあえて精神論ではなく、現実問題として今を考えてみようか」
 お茶で口を湿らせてから、智美は足と腕を組み背もたれに背を預ける。
「まず、専攻の問題。
 弓が強くなりたいのと、和風物が好きなの……主体はどっち? ある程度武器は状況に応じて使い分け出来る人も多いけど」
「おいら、そんなに器用じゃないし――確かに和風物は好きだけど、だから弓って訳じゃないんだ。母さんみたいな弓の名手になりたいんだよ」
「そうか。君は陰陽師みたいだけど、弓というか、飛び道具を効果的に使うスキルってやっぱりインフィルトレイターに多いと思うんだ。
 破魔の射手・精密狙撃・○○ショット系だったら変更しても……インフィでの習熟度と専攻変えた時の力にもよるけど、使える筈だし、陰陽師のスキルだって取ったら取ったで、自分で回復とか出来たり、束縛とか使えるしね」
 様は使い方次第と言って区切り、一旦、お茶を口に含み一呼吸。
「それから装備。
 和風のデザイン好きなら……改造に回すお金貯金して、購買で売っている和弓や狩猟弓、強弓買う方が早くない?」
「それはそうだけど……お気に入りを屑っちゃって……」
 智美のもっともな話に、スズカは俯き加減で指先をつつき合わせて報告すると、苦笑を浮かべる。
「ある程度必要な物揃えた後で改造考えた方が……後は3段階までなら改造で大失敗は無い筈だし、後は強化の際に強化保証書を出来るだけ発行してもらう事、かな? 値段が凄いからきついとは思うけど、安心には代えられないと思うぞ。
 俺の場合、装備よりもスキルの習得と改造に重点を置いている。よく使うスキルは使う分使用回数もあげたいし、装備との兼ね合いもあるから減少率低くしたかったし。
 まあ、それでも武器をって言うんなら、後は改造室のキャンペーン利用かな? 今やっているのは強化費用半額だけど、必要な時に集中して利用するとかね」
「安物買いの銭失いって言葉もありますでさ。
 さっき見て思ったんですがねぇ、当たるよう撃たせて貰う必要はありますねぇ。動きながらでも狙えるよう練習してみるでも、前衛と連携をとるでもいい。実戦なら遮蔽物を利用するでもいいですぜ」
 スズカの脳裏には先ほどの、オブジェに隠れた揺籠の姿が思い出される。
「弓道みてぇに狙い澄ますのはなかなか難しいですし、敵は俺らより強い。時には卑怯な手使う必要もありまさぁ」
 うんうんと頷く温がそうだよねと言って、続ける。
「まず戦い方を知ってることだろうね。場数を踏むのが一番だけど、過去の報告書を読み解いてもいい。どんな戦場があるか、どんな敵がいるか、どんな武器があるか、どんな戦い方があるか……引き出しは多いほどいい。武器も、使いこなせる種類が多いほどいい。
 千の戦場で、千の戦い方で千の勝利を収める。つまり、その時々に最適の一手を選べるようになるのが1つ」
 一度喋り始めると、口が止まらない。
「それに通じるのが、戦闘での優位性、だね。
 こんな言葉があるんだ。自分は好きなことをして、相手に好きなことをさせなければ、すなわち戦いには勝ちます……とあるゲームの言葉だけど、これはそのまま通じるよ。位置取りの仕方、味方との連携――どんな手でもいい。これが出来るだけで大分変ってくる。
 で、次は適度に負ける事、かな。
 強いってのは敵に勝つ事じゃない。どれだけ多くを学べるか、でもある。成長を止めたらそこで終わり。今なら弱いし、自分が足りないものだらけで負け放題じゃないかな? てなると、成長する要素は沢山あるからいいだろうね。
 あとはー、性能でなく、戦術・作戦で戦えることもかなー。性能だけじゃすぐ頭打ち。自分をどう使うか、味方をどう使うか、そこまで考えられたら凄いよね」
「やんな。撃退士ってのは単体で敵さんみたいに無双はできへんもんや、基本な。せやから自分達は数人単位で行動する、集団戦が基本になる。
 自分の友達で強いなって思う人は大体、戦略、戦術――このどちらか、もしくは片方に優れる人や」
 誰かの顔を思い浮かべ、指を1本立てて続ける。
「まず戦略。
 これは目的を達するために必要な全体的な方針・作戦、依頼の相談は大体これを決めるために行われてな、今いるメンバーならどんな作戦が可能か、どの手がとれるか、必要になるんはもっぱら頭やな。
 けど、これを考える事ができる人が一番強いと思う。苦手な人も多い分野やしな。スズカ君が武力に自信が無いなら、戦略を磨くんも手やと思う」
「うーん……そっちの方がおいらには厳しいな」
 難しい顔をするスズカに淳紅は「自分もや」と苦笑して、もう1本指を立てる。
「戦術とは、まぁ個人単位の強さかな。
 攻撃等のパラメータ的強さ、武器の精度、スキル、及びそれらから自身がとれる行動や。武器はともかく久遠がかかるから、懐事情との相談、スキルは経験あるのみ!
 最初は学園内の手伝いの依頼とかから始めるとか、戦闘は訓練頑張ってからの方が安心やろ?」
「ああ、そうだ」
 淳紅の話で温がポンと手を打ち、スズカの鼻に指を突きつけた。
「死なない事。死んだら終わり、どれだけ強い敵倒そうと次が無いもの。必ず生き残る――これに勝る強さはないだろねー。
 強くなるために生き残る、これは大事。あくまで俺の持論だけどさ、強いは敵に勝てるとイコールじゃないんだよ」
「そうだ。死ねば終わりだし、自分が死ぬ事で下手をすれば誰かも死ぬ事になる――度胸はあるようだが、無謀に走らないことだ」
 体の弱い姉を思い浮かべ「では失礼する」と、颯爽と食堂を後にする智美――何か、誰かを背負っているその背に、スズカはあの時の女性に近しいものを覚えた。
 そして「じゃあね」と手を振って去っていく温を見送るスズカの頭にポンポンと手が置かれる。
「その怖気つかねぇ前向きさは武器だと、俺は思いますけどね。
 最初はハッタリだって構わねぇ。胸を張って前を見て、誰1人嘘だと気付かねぇならそれは真実とほぼ同じじゃねぇですか」
 置かれた手がぐしぐしとスズカの髪を乱し、その手がやがてピタリと止まる。
「……かつて、それはもう人を止めようってぇくらいに強くなりたいと願ったガキがおりました。
 そいつは決して強くはなかったし、頭も良くなかった。負けることも逃げることも多々、ありました。かっこよくはなかったでしょう……でも、死ななかった。
 場数踏んでくと、不思議と肝が据わってそれなりに通用するようになってくるもんでさ。
 スズカさんもどうか、生き延びてくだせぇ――道を拓くでも、誰かを守るでも、死なねぇことが前提です」
 手を離した揺籠も後ろ向きに手を振るように煙管を持ち上げ振り、行ってしまった。
 人が減り、揺籠の置いていったしんみりとした空気が沈黙を生み出す――が、そういう空気でもたいして関係のない千里がやっと口を開いた。
「とりあえず、過去の報告書を読む事も勧める。例えばだ、こうして参加した依頼を調べれば憧れの先輩も特定できるし……?」
 端末を弄ってスズカの参加した依頼の報告書に目を通すのだが、奇妙な事にスズカの提出した物しかなく、他に誰かが参加したという記述すらない。
(フリーか? それにしたって報告書は挙げるはずだし、たまたま居合わせるような場所でもないだろ)
 結論が出せずそのまま端末をしまい込むと、替わりに碁盤といくつかの碁石をテーブルに並べる。
「あー……まあうん、簡単な偵察なのに、見つかった理由は偶然か必然か――結局、どれだけ見通しが甘かったかだな」
 スズカのルートと発見された時の状況から、敵がどう動いてそこに現れたのか、いくつかシミュレートする。その際にどこから来るにしても、どんなルートを歩けば発見されにくかったなどと、講釈をしていた。
 そして話しを戻し、初期の状態に並べ直すと、1つ碁石を付け加えた。
「だがお前が動いたことによって、戦場も変わった」
 スズカのルート、敵のルートに合わせ、増やした碁石を大きく移動させる。
「俺でも、見つかったお前を狙う敵をここで刺せるようにする。
 敵を読み、味方を読み、戦いに生かす――偉い人は言いました。己を知るだけなら勝率は5割だってな。
 ま、がんばれ。とにかく、強くなるならまず味方の事を調べろが俺からの助言だ」
 腕を組んで顔をそむけ、もうこれ以上は喋らんと全力で態度が示していた。
「そうですよ、味方を知るためにも友人を作ると良いと思います。お互い励まし合いながら切磋琢磨出来る良き友人はきっと支えになると思いますし、例えば私の知っている方は大切な方を護りたいと言っていました。そして同じ目標を持つ方達と共に歩んでおられます。
 スズカさんにもきっと、良き友人が出来ると思いますよ」
 六実の友人という言葉で、顔をそむけている千里の絵が泳いでいたりするが、そこは誰も気づかない。
「同じ目標の友達かぁ……」
 目を閉じて腕を組むスズカは何人かの名前をあげるが、全て「はだめか」とつながっていた。
 そんなスズカの前に六実は赤・白・黒の混じり合った弓『啄木鳥』をテーブルの上に置いて見せ、それをしまうと今度は和弓『残月』を見せる。
「スズカさん、和風のモノがお好きなのですよね? もしなんでしたら、この弓差し上げましょうか?
 偶然手に入れたのですが私は弓は余り使えませんし、私には少々大きすぎて……」
 スズカの喉が鳴ったような気がしたが、すぐに全力で首を横に振った。
「さすがに今日会ったばっかの人から、いきなりは貰えないよ!」
「そうですか……」
「けど……もし今度会った時にもくれるって言うなら、すっごく欲しい」
 少し沈んだ表情を見せた六実だが、スズカの馬鹿正直な言葉に「一応、考えておきますね」と些細な仕返しと笑みを返すのであった。
「青春やなぁ――さって」
 淳紅も席を立つ。
 だが少しだけ、神妙な面持ちでスズカを真っ直ぐに見た。
「自分には君が選択を『間違えない人』か『間違える人』かはわからん。
 けどもし間違える人やったら、例えその選択肢が間違えであったと気づいても――もしその間違えを知り、選択の時に戻れたとしても何度でもその選択肢を選んだだろう、と思えるくらい1つ1つ、悔いなき選択をしてや」
 自分はどうだと自問してしまった淳紅だが――自問する事すら死んでいった者達へ失礼だと、頭を振る。
 どうしたのかというスズカと六実の視線に気づき、にへっと笑った。
「……間違えへんのが、一番強いと思うけどね」
(そんな完璧超人、いないだろ)
 音もなく立ち上がった千里は気づかれないように、そっと離れていく。
 先に立ち上がっていた淳紅も「ほなな」と手を振り、スズカが再び切磋してくれる友人に頭を悩ませていると、六実が袖を引っ張る。
「もしよろしければですが――お友達になりませんか? 切磋できるかわかりませんが、少なくともお互いにがんばろうって気にはなると思うんです」
 まるでその提案が意外だと言わんばかりに目を丸くしたスズカだが――やがて手を差し出し、その手を六実は握り返す。
(――おいらも、死なないようにがんばろう)




【一矢】少年、決意す  終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
Survived・
新田 六実(jb6311)

高等部3年1組 女 アストラルヴァンガード
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
黒い胸板に囲まれて・
霧谷 温(jb9158)

大学部3年284組 男 アストラルヴァンガード