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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/10


みんなの思い出



オープニング

「そういえば、気まぐれで試したあれはどうなってるかな。生命力と再生力だけが見ものだけど」
 八咫烏を呼び寄せようとした手は宙で留まり何度か回すと、座っていた枝からぴょんと飛び降りる。
「たまには自分の目で見てこようかな――面白い物が見れるかもしれないし」




 復興はそれなりに進んでいるが、それでもまだまだ襲撃の余波が残る仙台市。
 そんな仙台市から船形山までの道のりを、がっちり防寒を着込んで地道に歩き続ける一般人の団体があった。
 彼らの目的は捜索――襲撃によって行方不明になった人々を捜していた。むろん、生きているとは思わないが、せめて家族の元にという願いを込めての一団である。
 寒さに耐え、喋ることもせずに黙々と捜していたが、寒さによる幻覚のようなものなのか、周囲の雑木林に見張られているような錯覚を覚えた。
 いつしか誰かが「あれは何だ」と、脇の雑木林を指さした。
 その指の先、雑木林の間を縫った向こう側の枝に、何かがぶら下がっていた。
 そして緩慢な動きをする大きな人影が、その隣にもう一つ、ぶら下げる。まるで大きなテルテル坊主だ。
 双眼鏡をのぞき込んだ男はしばらく眉根を潜め、やがてヒッという短い悲鳴とともに双眼鏡を落とす。
「子どもの……おそらく子どもだった遺体を、つるしてる……」
 その言葉に一団は青ざめ、率いていた撃退署の人間が双眼鏡を拾い上げのぞき込む。
 嫌な話だが、人の死体に慣れてしまった彼がじっくり見ても、間違いなく子どもの死体だったものが吊されていた。あれからもうずいぶん経っているのだから、かろうじて人の形をしているだけにすぎない。
「むごいな……」
 当たり前だが慣れていても、嫌な気分にさせられる。
 吊している人型――おそらくは棺乙女――に焦点を当てると、その背中に光る、枝のような物が突き刺さっているのが見えた。
 さらにじっくり見るため、目の前の枝をたゆませると、なんとか張り付いていたという雪が落ちて大きな音を立てる。
 棺乙女が――振り返った。
 そこにあるはずのモノがなく、ただ窪みがあるだけの漆黒の眼孔からは赤い血のようなモノが流れ落ちて、雪を染め上げていた。
「あ゛あ゛ア゛ぁ゛ァ゛ア゛あ゛ア゛ア゛ッ!」
 さらには大きく開けた口からは、まるでこの世の全てに恨みを叩きつけるかのような、呻き声。
 大きな背丈の長い腕で籠を振り回し、機敏ではないが大股で彼らに向かってくる――と、籠から何かが飛び散り、それが恐怖で立ちすくんでしまった彼らの顔に当たった。
 胃液が込み上げてくるほど強烈な腐敗臭は、嫌でも彼らに現実を思い出させてくれる。
 そこからはもう、彼らはただただ、必死だった――


「苦労して聞きあげた断片的な情報を組み合わせてみたところ、おおよそそのような事があったようだ」
 仙台市撃退署の出向臨時職員の臨時代理・真宮寺 涼子(jz0249)が、見てきたかのように事細かな状況を説明する。
 ホワイトボードにはおおよそだがかなり細かい地図と、発見地点、高低差や積雪量など色々書き込んでいった。そして撃退士達に向き直り、ボードに棺乙女という文字を書いて丸で囲む。
「調べてみたが、あまり人類側に情報はなかったようなので、少し棺乙女について説明しておこう。
 大型サーバント、棺乙女。全長としては平均4mくらい、運搬、防衛用として作られていて、基本的に向こうから攻撃してくることはなく、侵入者などに対してのみ、その腕を振り回してくる程度だ。
 だがその動作は酷く緩慢で、攻撃能力としてもただ押し戻すだけのような一撃で、普通の人間ですら直撃しても死ぬことはそうそうない。吹き飛んだ先が運悪く崖だったとかでもない限りな」
 説明を続けながら、ボードに縦長の何かを描いていく。
「ただ、とにかくタフだ。
 防御力という意味では低い分類だが、生命力の高さだけは異常を呼んでもいい。ちょうど、シェインエル様と同じようなものだな」
 縦長の何かの横に、これまた何かよくわからないモノを描くのだが、かろうじてその両脇に生えた翼っぽいもので、それが天使なのだと気付かされる。
 すると最初に描いたものは――
「棺乙女で恐らく一番印象に残っているのは、その聖女のような顔よりもむしろ、手に持っている籠の存在だろう」
 最初に描いた何かの真ん中あたりの細い部分に、わかりやすい籠が描かれて、それが棺乙女である事を示す。とてもではないが聖女のような顔と呼ぶには無理があり、せいぜい粘土細工の不定形生物というレベルだ。
「あの籠で死体を回収し、運ぶのが主だった目的だ。
 そのため、あの籠から中身を落とさないようにということで、動きが緩慢になっているだけでな、あの籠を手から離した途端、一つ一つの動作はやはりゆっくりに見えるのだが、それでもあの大きさであれば十分すぎるほどの動きを見せる。
 伸ばしてくる腕の距離、歩幅が大きく増えるため、思いもよらない射程と移動力があったりする――が、攻撃力に関しては相変わらずなので、あまり怖い相手ではない」
 むしろその絵が気になると、言ってしまいたい。
「だが今回は情報から推測すると、どうやら一般的な棺乙女とは違うらしい。
 その背には枝のような物が見えたというからには、おそらく鳥海山あたりにあった『神樹の枝』なのだろう。それにそんな作用があるとまでは知らなかったが、恐らくそれが原因で、更なる巨大化と凶暴化を果たしたと思われる」
 捜索メンバー4名行方不明という部分に丸をつけ、生存は絶望とその下に付け足した。
「嫌がらせで放置されたような野良とは違い、忠実に命令をこなすだけがサーバントの役目。恐らく人を吊るしては回収し、また吊るすという無意味な事を命令されているのだろう。恐らくトビトの命令で。
 ――嫌がらせ、という点は一緒だな」
 苦い顔をする涼子は、何となく悪い顔をしている小さなトビトらしきモノを描くが、納得いかなかったのかクリーナーでさっとかき消した。
「ま、実験的で未知数の棺乙女ではあるが今回、まともに相手する必要はなく、吊るされた遺体の回収が主たる目的だ。退治しなくとも、どうせ範囲から離れればその作業を繰り返そうとするだけだろう。
 どれほどあるかはわからんが、吊るしきってから回収しきってを繰り返すのであれば、そのどちらかが完了した時を狙うのが一番だな。
 もちろん、神樹棺乙女を排除してゆっくり回収しても構わんが、大きな作戦の最中で無茶はしたくない、もしくは実力的に不安があるというならば、無難な方を選ぶべきだ。これは恥ではなく、冷静な判断と呼べる」
 マジックを置くと、撃退士達の顔を順に眺める。
「どんな手段をとるかは、お前らに任せるが――あまり無茶はするなよ」
 人類に絶望をしたはずの使徒は、優しい笑みを向けるのであった――



リプレイ本文

 白い粉塵を巻き上げて、雪上をスノーモービルが駆けていた。
 1人が遠い木々の中で、揺れ動く樹木のようなものを指さして停まる。
「きっと、あれがそうですねぇ」
 手で庇を作り、目を細めて木々の間に視線を向けるエイルズレトラ マステリオ(ja2224)と同じ方向へ、陽波 透次(ja0280)は双眼鏡を向けた。
 蠢く木々――間違いなく、神樹棺乙女である。
「気づかれない位置まで、こいつで行きましょうか」
「とはいっても、これだけ静かな所でこれだけ音の出る乗り物では、気づいていない可能性は低いんでしょうけどね」
 モービルから降りて、同じく双眼鏡を覗き込んでいた亀山 淳紅(ja2261)が苦笑する。
 晴天で風もなく、これだけ静寂に包まれた中でこのモーター音では、気づかれていないとは考えにくい。
 だがそれでも、神樹棺乙女は『作業』を繰り返している。
「テリトリーにさえ入ってこないんなら、関係ないんだろ」
 装備を一通り白いテープで巻き終えたカイン=A=アルタイル(ja8514)。
 淳紅の運転するモービルの後部で、立ちあがり、目を細めていた千葉 真一(ja0070)は神樹棺乙女の背中をじっくりと観察していた。
「神樹の枝……ああ、なるほどあれか」
 横並びで作業を続ける神樹棺乙女の背中、人間であれば心臓のあるあたりに、枝が刺さっている。
 そのまましばらく行動パターンを見ていたのだが、籠に手を入れる。遺体を取り出す。首から伸びた紐を木の枝に縛り付ける。次の木へ移動と、ただただ、それだけを繰り返していた。
 双眼鏡から目を話した透次は顔をしかめ、雪の上に降り立つ。
「惨い事をする……」
 吐き捨てるように言葉を絞り出しながらも、ざくざくと足を踏み込ませ雪の感触を確かめるのだが、所によって深く沈みこんでしまう。
 水上歩行を試していたようだが、表面が融けて水が少しでも浮き出ているなら行けるようだが、日陰など融けていない所では効果が無いようである。
 白い布も羽織り、編傘を手で持ち上げる墓森 妙玄(jb8772)がその視線を吊るされた遺体から皆へと向けた。
「いやぁ、渡りに船な依頼でしたぜ。
 日本全国津々浦々、野晒しになった仏さんを埋葬して回ってやしたが……雪山ってぇのはまだしも、おっかない奴が居るとなるとあっし1人の手にゃ負えやせんからね
 見ての通り――」
 イヒヒと笑い、ちゃぽんと瓢箪を揺らす。
「ひ弱な坊主なもんで」
 ひ弱な坊主は再びイヒヒと笑い、視線を吊るされた遺体へと戻す。それから神樹棺乙女、その周囲へと視線を巡らせる。
「仏さんを吊るすたぁ酷いことするもんで――ま、500年近く見続けて慣れましたがね。
 しかし目のない乙女が、どうやって見てるのやら。周りに仕掛けがないか探してみやしょう」
 上を見上げて翼を広げるのだが、妙玄の姿がそこにあるようでないという、非現実のあやふやなものとなり、気づけばそこにはいない。
「ま、もう始めちまってもいいんじゃねぇか。どうせあいつら全部ぶっ殺すってだけだし」
 スキー板を装着し、ストックを手にカインがアサルトライフルの照準を覗き込む。
(できれば銃の調整しておきたいんだけどなあ。あと、射撃の感覚掴むのも寒いし、スキー板付けて射撃なんて初めてだし、ピンポイントなんて考えずに当たればいいか。寒冷地だし弾道だいぶズレそうだけど)
 まるっきり未体験で、予測でしかない。
「雪中戦なんてやったこと無いんだけどな、そもそも雪自体が初めてだ」
「僕もあまり自信はないですが、そこはひたすら修練するのみですね」
 スノーシューに履き替え、雪上を何度も踏み込み加減を身に着け、ただひたすらに慣れる事をまず優先している透次。戦うための準備が徐々にできつつある。
「とにかく、倒しませんとね。回収はその後です」
 淳紅が繋いでいたソリを外し、ずらしていたゴーグルを装着するとモービルにまたがり、エンジンを始動させる。
 そしてこれまでずっと死者を見上げていたエイルズレトラが、やっと口を開いた。
「死者は泣きも笑いもしません。
 魂の抜け殻の回収なんかより、新たな死者を出さない努力の方が大切です」
 脳裏をかすめる、名も知らぬ少年の笑顔と死者の顔――頭を振ってそれらを追い払う。
「だからこそ。
 敵を見たら、必ず殺さなければいけません」
「そうだ。亡骸を回収する上で、棺乙女の妨害は避けられまい――ならば、後顧の憂いを絶ってからにさせて貰おう!」
 淳紅の後ろへと飛び乗り、ヒーローの証、赤いマフラーを握りしめた。
 そしてばっと腕を広げる。
「変身っ!」
 身体から溢れ出る赤い光纏が収束し、身体を締め付けるように密着して全身を覆うと、最後にメットをかぶってそのバイザーが下りる。
「天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」
 真一の変身が終わるとモービルが一斉に動き出し、空からも妙玄が戻ってモービルに腰を掛けた。
「盛り上がっていやすね。
 周りにはそれらしい仕掛けもありやせんし、目ではなく範囲内の音にでも判断してんでしょうか――それじゃま、あっしらしくこそこそ嫌がらせをしやしょうか」




 すでに神樹棺乙女は顔を向け、3体ともがゆっくりと身体も向けてくる。
 苦い顔をする透次の阻霊符が、淡い光を放つ。
「そうそう上手くは行きませんね……!」
 透次は片手で印を組むと、異世界への門が開いてケセランが押し出される様に出現する。
(あんま大きな音、たてへんようにせんとな)
 木の位置はだいたい頭に入っている。先に先にとハンドルを動かしながらも、雪崩への警戒を緩めない淳紅だった。その後部シートでは強靭な足腰に物言わせ、真一……否、ゴウライガが直立したまま運転を淳紅にゆだね、その時を待った。
「嫌な気配は感じるんですが、周囲にいませんねぇ――ま、まずは終わらせてしまいましょう」
 モービルのシートを蹴り、そこに床でもあるかのように空へと駆けあがっていくエイルズレトラだが、足音どころか衣擦れの音すらせず、木々の間を静かに駆けていく。
(クロスカントリースキーって結構面白いな)
 乗り捨てられ一気に減速するモービルのすぐ横、カインがシート後ろの手すりから手を離すとモービルの速度を保ったま地上を滑り、そしてコブに合わせて跳ぶと、そのまま翼を広げ空へ飛ぶ。
(すいやせんねぇ。あっしはコソコソさせていただきやすよ)
 飄々と木々の陰に身を潜めながらも回り込むように空を飛んでいる、妙玄。
 神樹棺乙女達が1歩2歩と近づき、両腕を広げて蚊を叩くような動作で先頭を走る淳紅のモービルを潰そうとして来た。
 だがそれよりも先に、淳紅の口から「Ti abbraccio. ‘dolciss.’」と、甘く囁くような歌声が響いたかと思うと、巨大で壮麗な炎の腕が地面から伸びあがり、真っ直ぐに神樹棺乙女を次々に包みこんで消えていった。
 神樹棺乙女の肌は焼けただれ燻ぶり、肉を焼く嫌な匂いが辺りに立ちこめる。
「さて。1匹、僕が遊びましょうか」
 正面ではなく横の木からエイルズレトラが滑るように空を駆け、黒ずんだ手刀を喉へと突き刺す。傷口から鮮血と共にジクジクとした黒とも紫とも言える泡と煙が立ち上り、手を引き抜くと傷口がすぐに塞がっていくがそこには大きな紫色の斑点が染みついていた。
 そしてそれはどんどんと広がっていく。
 腕を振り回す神樹棺乙女だが、エイルズレトラはその腕を蹴って身を翻し、軽やかにかわしてみせる。
 1匹がエイルズレトラへと向きを変えたその間に、淳紅のモービルは他の1匹を目指していた。
「これ以上、犠牲者を出させやしないぜ! ゴウライ、ブラストォッ!」
 ゴウライガのライフルが焼けただれて脆くなった神樹棺乙女の片腕を吹き飛ばし、腕ごと籠が雪の上に落ちた。
 腕を落された神樹棺乙女が地響きのような低い唸り声をあげると、木々の枝が鞭のようにしなり、淳紅達へと襲い掛かる。
「亀山先輩は運転に集中を!
 指一本、いや、小枝一本触らせん! ゴウライ・ソォォォド、乱舞!」
 蛇腹剣を縦に横にと振り回し、迫りくる枝という枝全てをゴウライガは叩き斬る。
 後方では透次も刃こぼれしていたはずの刀はいつの間にか金色の光に覆われ、美しい刀身を見せるそれで同じように近寄る枝を切り払っていた。
 そして切り払わなかった最後の一枝は頭を横に動かし、頬を掠める。
 背筋に走る冷たい感触に、口元が一瞬だけ緩む透次――その手には銀色の銃が握られていた。
「古来より伝わりし蠱毒を、受けてください」
 銃口から飛び出るは、蛇の幻影。腕を失くした神樹棺乙女の喉笛に噛みつき溶け込むと、紫色の斑点を染みあがらせる。
 そこに透次が、腕を引く仕草。
 途端、神樹棺乙女が膝を曲げ、体勢を崩す。ケセランが膝裏へ体当たりしていたのである。
 倒れながらも手を広げ掲げる神樹棺乙女に対し、透次は腕を横に振るい、振り下ろされるよりも先にケセランを逃がしていた。
「そのままぶっ倒れろ!」
 上空からカインが、アサルトライフルでなぞるように狙いをつけ撃ちながら急降下してくる。
 そして血のように赤いアウルを纏った黒鉄の大剣の切っ先を下に向け、速度に乗せて身体ごと突き刺す様に神樹棺乙女の頭部へと刃を突き立てた。
 刃を引き抜き額を蹴り、再び空へと舞いあがるカイン。
(空を飛ぶってのは落下傘とかよりやばくねえかこれ? やべえコレ、すっげえ楽しい病みつきになるな)
 これでも倒れずに止まり、立ち直るために片足を後ろに下げようとしたその時――
「Canta! ‘Requiem’.」
 淳紅の歌声にまるで吊るされた者達の怨念が応えたかのように、神樹棺乙女の片足に死霊の手が絡みつき地面に縫い止めた。
 背中が、ゴウライガの目の高さにまで。
「狙い撃つ……ゴウライアーク、シュート!」
 放たれた矢は甲高い音を立てながら背中に刺さっている神樹の枝を貫き、砕く。
 その途端、生命を感じさせる金色の粒子がそこから溢れ、風船のようにどんどん萎んでいく神樹棺乙女。力を失ったせいかあっさりと完全に倒れたその横を透次が通り過ぎる。
 最後の抵抗なのか腕を斜めに振り下してくるが、それを刀身で外側から受け力の方向を逸らして払うと、モービルから跳んだ。
「これでトドメですよ!」
 その首を透次が切り落とすのであった。


「ああ。やはり枝がなくなると、戻るんですね」
 横に振り回される毒で少し動きの鈍った腕へと乗り、走るエイルズレトラが肩から跳躍したかと思えば、空で床でも蹴るかのように真下へ跳躍すると背中に刺さっている神樹の枝を両手で使いぶら下がる。
 がっちり握りしめ、背中を足蹴に引っこ抜こうとした――が、根が深いのか揺れはすれども、手では抜けてこない。
 と、そこに妙玄がふらりと現れる。
「お手伝い、しやしょうかね。掘るのは得意なんで」
「助かりますねぇ。こんな肉体労働は苦手なんですよ」
 妙玄がシャベルで突き立て、斜めに倒して左右に大きく振り回すと、根という名の神経がブチブチと切れていく感触が手に伝わってくる。
 そして今後こそ神樹の枝が抜け、その途端、枝は光の粒子となって散っていく。
 萎み始める神樹棺乙女――こうなると再生する力すら持たない、ただの棺乙女である。
 だが、もう1匹。
 そのもう1匹がエイルズレトラと妙玄を叩き潰そうと掌を振るうが、それはただ棺乙女を突き飛ばすだけに終わり、身体が泳ぐ。
「叩っ斬る!」
 空から強襲するカインが大剣で腕を切り落とし、神樹棺乙女の口から悲鳴のような低い声が漏れる、
 その悲鳴に混じって響く、モービルの音。
 淳紅の手から激しい風の渦が巻き起こり、激しく神樹棺乙女の頭を揺さぶると、意識というものがあるかわからないが朦朧として立ちすくんでいた。
「ゴウライ……」
 腰を落し、力を溜めるゴウライガ。
 モービルが横を通り抜けるという時、シートを蹴って高々と跳躍――その背中から焔の翼が如く燃焼させたアウルが吹き出し、一瞬にして姿が霞む。
「流星閃光キィィィック!!」
 足を突き出したまま、ゴウライガが瞬間移動かと見まごう速度で神樹棺乙女を突き抜ける。どこからか「BLAZING!」とカッコい発音のアナウンスが流れていた気がする。
 神樹の枝のあった所にはぽっかりと大きな穴が開き、そこからやはり生命を感じさせる金色の粒子が溢れ、神樹棺乙女は萎んでいくのであった――




 弱体化した棺乙女の処理が終わった後、吊るされた遺体の前で皆が合掌し、黙祷をささげた。
 ゴム手袋を装着し、一つ一つ丁寧に降ろしては遺体袋に入れ、わかる限り遺体の情報を書き記してはソリに乗せる。
 この間にカインは大剣を雪に突き立て、周囲に雪に埋もれた遺体がないかを確認し、妙玄は大きな穴を掘って、そこに棺乙女の亡骸を転がす。
「死ねば誰も彼も等しく仏ですからねぇ 。それに埋葬と墓守は、500年前からあっしの役目なんで」
 棺乙女を埋め、念仏を唱える妙玄に誰も何も言わない。
 そもそも棺乙女の元も、人なのである。文句を言うはずもない。
 念仏を唱え終わった妙玄は、ずっと感じていた奇妙な視線へ向け「仏さんを弄ぶとバチが当りやすぜ、仏法的に考えて」と忠告するが、返答はない。
「何故、平然とこんな惨い事が出来る?
 トビト、か……」
「いつかその身で償わせますよ」
 ずっと周囲に目を光らせていたエイルズレトラだが、やがて1枚のトランプを投げつけ木に刺さる。
「ま、もういいんじゃねぇの。ここは終わったんだしよ」
「そうだな。早く遺体を家族の元へ届けよう」
 カインがモービルで走り出すと、次々と皆も帰路へとつくのであった。







 さくりと雪を踏み、歩く少年。
 木に刺さったカードを指で挟み、抜いてその裏の文字を読む。
「神の種は芽吹いても、君の花は二度と咲かないよ――か」
 ただの嫌がらせでしかないそのメッセージカードを、少年はほんの気まぐれでポケットの中へ。
「……八咫烏が珍しくいないと思ったら本人自ら見学とは、暇なん?」
 少年の後ろから淳紅が姿を現す。
 落し物があったと伝え、離れでモービルを止めて歩いてここまで来たのだ。
「この前といい今回といい、器も身長も小さいにも程があるでクソガキ。
 今まで眼中にも無かった餌のせいで失態かませられたんが、そない気に入らんかったんか」
「うーん……そうだね。とっても、不愉快極まりないよ」
 笑顔で振り返る少年。
 その少年へ、淳紅は右拳の親指を立てて自分の首の前を、左から右へと切る。
「絶対しばく。
 耳かっぽじって待っとけ」
 それだけを伝え、淳紅は何をするでもなく少年に背を向けて来た道を戻っていった。
 少年もただ視線を送るだけで、何もしてこない。淳紅1人しかこの場にいないと分かっているからこそ、である。
 肩をすくめる少年。
「今にそれどころじゃなくなるだろうけど、ね」
 そして少年はどこかへと消えていった――




【神樹】てーるてーるぼーず……  終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
無傷のドラゴンスレイヤー・
カイン=A=アルタイル(ja8514)

高等部1年16組 男 ルインズブレイド
撃退士・
墓森 妙玄(jb8772)

大学部2年45組 男 アーティスト