「おや、敵にまわりましたか。僕にはあまり関係ない事ですが」
出撃命令すら聞く間もなく、宇宙空間を飛行するタキシードを思わせる白と黒のツートンカラーの機体『マジシャンIII?(以降マジシャン)』では、エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)が楽しげな笑みを浮かべ、レッドシェイド(以降・赤陰)とブルーファントム・スペシャルカスタム(以降・青幽)を品定めするかのように交互に見比べ、あいも変わらず装甲を全て脱ぎ捨てた薄氷のような機体で、常に全速で戦場を駆けまわるのであった。
「どうあろうと、俺はいつも通り目の前の敵を撃つ。
ナイトヘーレだ。エクリプス、出るぞ」
皇 夜空(
ja7624)が『エクリプス・ヴァンガードオーバードブースト(以降エクリプスVOB』のコックピットで、左右10個ある指輪状の操縦桿を指にはめて起動させると、カタパルトで射出、変形して飛んでいった。
地上モデルだった黒をメインに白で彩られた『ネメシス』のバックパック両脇に高出力のエナジーウィングを搭載し、空・宇宙仕様にして臨む狙撃主・如月 千織(
jb1803)はデブリに覆われた戦域を見渡している。
「うん、障害物が随分多くて射線を通すのがなかなか難しい――けど、そこが腕の見せ所。
ネメシス、及び如月千織、発艦します……!」
背中の折り畳み式スナイパーライフルを構え、発艦する。
「あなたまで裏切ったというんですか……残念です、冴木さん。
だから、それなら僕はあなたを超える。あなたを倒して真のエースになり、人々を守る!」
改修が終了し、向こう側のオーバーテクノロジーから生み出されたニーベルンゲン・リングが機体の周囲に浮遊する『ラ・ピュセル“ニーベルング”(以降ラピィN)』で、夢前 白布(
jb1392)は顔をあげて真っ直ぐに見据える。
「誰が相手だとしても、僕はもう迷わない!
ラ・ピュセル、ニーベルング! アクション!」
出撃と同時に【ヘブンズヴォイス】を起動させた。
「重力制御、使えるかは分からないけど、使いこなしてみせる――ニーベルンゲンリング、アクティブ!」
(リングが空間に触れ、声が伝えてくれる……敵影2――いや3……離れに1、デブリ多数捕捉!)
見えてないものすら見据えて、ラピィNは冴木を目指すのであった。
「きゃはァ、誰が相手でも問題ないわァ♪」
楽しそうな黒百合(
ja0422)が、至高の肌触りを追求した表皮を持ち、どこかの猫型ロボのように可愛いらしい姿の『ユリ・クマ』(本来イベントマスコット用に作ったが落選した違法改造品)の胴体背部に露出しているカプセルのようなコックピットに滑り込み内部へとすっぽり収まると、両腕を広げて宇宙空間へと飛び立つ。
「そう。私は戦う事しか知りませんから」
パイロットの居住性や衝撃緩和などを最低限に収め、かなりの小型化に成功した黒一色の機体『ニーズホッグ』のパイロット雫(
ja1894)は表情を作る事無く、出撃していった。
ほとんどが出撃した格納庫の外、全長85m、全幅48m、全高182mという規格外サイズのAB『ゾス・サイラ』の出撃準備も完了していた。
深紅ではあるが、その特異な外見から『サンフィッシューマンボウ』とも呼ばれているそれは、北米に本拠を置く巨大軍産複合体『D社』の開発した宇宙重巡洋艦型ABの実験艦であり、天魔の技術を利用したバグアドライブを主動力炉とした、異形の宇宙船である。
そんな奇怪なABのパイロットは、その開発にも手がけたであろうリリル・フラガラッハ(
ja9127)中尉。
「裏切りかー……まぁ敵として立ちはだかるなら理由は問わず容赦なく討つのみだよね。
さて、それじゃ始めるよ……!」
ゾイ・サイラが発艦し、次々とエイ型のビットを射出する。
全員が出撃したか、というタイミングでやっとふらっと出てくる1機。
「さて、最高の相手です☆ いいデータを期待しますよ♪」
白と黒で統一され、一部青いラインとライトが用いられているが、とても矮小で地味に見える機体『Phantasmagoria(ファンタスマゴリア)』を操縦するのは、ここでもブラックパレード商会社長・ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)であった。
Phantasmagoriaが動く度に尾を引くような残像の幻影が付いて回り、ビットもすでに出せるだけ出して戦場に赴くのであった――
真正面の巨大デブリ群をジグザグに高速で潜り抜けてきたマジシャンが、敵2機の間を高速で駆け抜けていった。
「速いな……総合ではこちらに遠く及ばないだろうが、特化機であればこちらをはるかに凌駕している」
「ええ。
と言っても、人類の強さはそれだけじゃないけどね」
2機が同時に半身を逸らすと、−の右手と+の左手を合わせて謎のパワーを得た手刀突きで突進してきたマジシャンが通過していく。
その際、青幽が真横を通る瞬間に合わせて突き出してきた小太刀の鞘がマジシャンの装甲を掠め、それだけで大きく揺らぐほどに機体はギリギリの状態であった。
まともに直撃すれば間違いなく一撃で死ぬというのにもかかわらず、エイルズレトラは平然としている。
「まあ多少のハンデは必要ですからね」
まるで自分の方のが強者のような振る舞いで、デブリ群の中へと消えていった。
「お、冴木じゃないか。お前もこっちに来てたか」
「その声……君田大尉ね。また昔の様に後方を任せるわ」
1人で戦場を駆ける事の多かった冴木がその昔、短い間だがその背を預けた事のある君田 夢野に、今回もその背を託して地を駆けるようにデブリを足場にして、前線へと向かう。
赤陰もその進攻に合わせ距離を保つように前へ動き出すと、夢野の『ヴァダーニア・ナイトメア(以降・夢魔)』もゆるゆると動き出す。
「さて、お姫様の手伝いと行くか。専門外なんで、大目にな? エイトメロディ、アインザッツ」
夢魔が4基8門の射出口から、細い槍のような物を一斉掃射すると、青幽と赤陰を狙いデブリ群をすり抜けあらゆる角度から猛烈な速度で飛来するマイクロミサイルを相殺する。
「そこかッ!」
デブリを駆ける青幽の上から、エクリプスVOBがビームを纏いナイフの様に鋭い機首の先で気迫を込めて突進。それを先に読んだ青幽は退き、太刀の横一閃――するかと思えば、軌道を変えてエクリプスVOBが通り抜け様に射出した2連装グレネードランチャーを払いのける。
エクリプスVOBはそのまま止まらずに、赤陰へと目指したかと思えば、急に方向を変えた。
――直後。
「目標を捕捉……」
雫のニーズホッグの正面に小さな火花が集まり、そこから一直線に伸びる光の粒子がいくつもの巨大なデブリを貫くが、3機が散開してそれを避ける。
そして砕けたデブリをビットで蹴散らしながらも、ニーズホッグが強制的に雫の生命を吸い上げ加速し、青幽に肉薄する。
ハルバードにショックウェーブを乗せて払うが、下からの斬撃で上へと弾かれ、小太刀の突きがニーズホッグのメインカメラを狙うも、その刃が実弾の狙撃により弾き飛ばされる。
そこへ間髪入れずに、複数のビットが高圧エネルギーの射出で青幽をニーズホッグから引き離す。
退きぎわにアウル網で護られていたのニーズホッグの腹部に蹴りをいれるほどの余裕を見せた青幽だが、跳弾した弾がかすめたのか頭部には少しの損壊が見えた。
「仲間は落とさせませんよ?」
邪魔なデブリをいくつか破壊しつつ、ネメシスがデブリとデブリの隙間を通して刃に当てたのである。狙撃主としてはこれ以上ないタイミングでの援護かもしれない。
「確実に落す一手を……!」
次弾を装填し、紛れるように飛んでいる赤陰のインプアタッカーを狙撃しつつも、千織はチャンスをひたすら窺い続ける。
Phantasmagoriaが分身と共に青幽を取り囲み、触れたモノを分子レベルで破壊する超強化マニピュレーターを飛ばすのだが、それに触れる事すら危険と察知しているのか、切り払わずに避け続ける青幽が、見た目とは裏腹に化物のような高速で機動するPhantasmagoriaの分身2機を太刀と小太刀で貫き、さらに返した刀で十文字に本体を斬りつけてきた。
2連撃のうち1刀が装甲にめり込むも、本体に届く寸前で装甲を脱ぎ捨てて更なる加速を得たPhantasmagoriaが大きく退く。
「ははっ! 最高ですよ、貴方☆」
ここで冷静に様子を窺っていたラピィNが前へと出た。
指で弾く様に不可視の弾丸を撃ちかわされるが、見えていた未来。夢魔の放った小さなAB『イミテイテッドファンタジア』がレイピア状の片手剣で背後から近づいているのも、見えていた。
真後ろにユニコーンホーンを突き出し、破壊。
「不意打ちなんて無駄だ、ラピィが全部教えてくれる!」
「んじゃ、ベテランの戦い方ってのを見せてやるよ、ルーキー」
夢野の挑発に、むしろ冴木の方が反応する。
(そう――この刹那で学び、超えてみせなさい……ッ!)
「もう少し、ですわァ……」
ユリ・クマがひょこひょことデブリに隠れながら大回りで移動。頭部から出撃したユリ・クマをスケールダウンした『チビ・クマ』が着いて回っている。
特殊薬液が全身に行き届いたユリ・クマの各部から怪しげな粒子が放出され、顔は目を回しているような感じに変化して真っ赤になていた。
そして頭部が膨れ上がったかと思うと、そこから実寸大のユリ・クマ弐号機、続いて参号機が出現する。明らかに収まるはずはないのだが、気にしては負けである。
準備を整え、ユリ・クマはじわりじわりと、赤陰に気付かれないように移動を続けるのであった。
「あれだけ接敵されてたら避けてくのは面倒だし、クリューニス、あっちを狙うよ!」
リリルがAIの名を呼び、隠れきれていないがデブリを盾にしてゾス・サイラの上下に張り出した部分から、各15基、合計30基の砲門から発射された光線が曲線を描き、直線軌道ではなく1本1本が蛇のようにうねり、細かなデブリもすり抜けて赤陰へと襲い掛かる。
さらに5体1組群体となったビット20組が編隊を組み、赤陰を目指していく。
だがほんの少しの移動で、いとも簡単にかわされてしまう。
「性能はいいが、色々なものをAIに頼り過ぎだな。パイロットとしての腕は並程度だ」
「そんなのわかって……!」
「パピー、今」
誰かの声。
もう1つのAI・バーデュナミスが警告を報せ、レーザー式の対空機銃が真下の生体反応へ牽制を続ける――が、盾鋏を構えてデブリを透過してきた大怪獣パピルサリアの巨体を止める事は出来なかった。
少しでも勢いを止めようと修理用のマニュピレーターで殴打するが、体当たりによる激しい衝突、そしてデブリの陰から炙り出された所で目の前に赤陰の姿が。
「鈍重な超巨人機と侮らないで……こいつのことはよく知ってるんだからっ」
散らばった表皮はナノマシンにより再生し、光り輝くゾス・サイラの表面に全てを断ち切るフィールドが張られると、躊躇する事無く赤陰にぶち当たる。
揺らぐ赤陰が不意に振り返り、剣を盾に振り下ろすが、マジシャンはそこから回避してみせた。
「今のは惜しかったですね――さあ、僕なんかよりおっかない人がきましたよ」
デブリからゆるふわな機体が一斉に飛びかかる。
「さあ、簡単に壊れないでもらいたいものだわァ♪」
丸い手からぬるりと4本の巨大な爪が生え、ユリ・クマのハッピー・ナックルが赤陰に襲い掛かる。
初撃はかわされたが、続けざまにチビクマのナックルが触れると装甲を溶断破砕し、まだまだ弐号機と参号機が四方から順に襲い来る。
それらをしのぎきれば終わりではなく、再びユリ・クマから順に襲い掛かっては何度も何度も何度も何度も、赤陰の体勢が整う前に襲い続ける。
10数発目で内部構造がむき出しになれば、そこにナックルを当てた瞬間、星形の傷がつくスターバルカンを叩き込む。
星形の傷と聞くとファンシーなイメージだが、損壊面積を増やし、内部構造に深刻なダメージを与えるのが目的のため、全然ファンシーではない。
肘打ちでの反撃がユリ・クマに当たった時もあったが、モフっと機体にはあり得ない感触で衝撃を吸収されて、ダメージにはならなかった。
「いい子ねェ。ご褒美よォ!」
これだけ打ちこんでもまだ回避運動を続ける赤陰の損壊箇所に、トリモチ付のクラッカーを置き土産にユリ・クマは離脱する。
爆裂した直後、再びユリ・クマが同じように襲い掛かりさらに赤陰を苛め抜くのだが、ユリ・クマが再び離脱してもまだ赤陰は墜ちてはいない。
「きゃはァ、丈夫ねェ♪」
「……色々冗談のような機体だな」
エミタが珍しくもぼやいたところで、エクリプスVOBが真っ直ぐに突進してくる。
「お前は人でいる事を諦めたのだ、自己犠牲が尊いか? ――笑わせるな。そんな物は何も産まん、何一つもだ」
機体が虹色に輝き始め、更なる加速でマイクロミサイルを掃射した。
「決して」
回避性能の低下した赤陰に、被弾。
「決して」
もう1発。
「決して」
また1発
「決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決して決してお前は認めないッ!!」
30発のミサイルを叩き込み、そのまま機首で赤陰へ貫かんばかりの勢いでぶつかると、機首がカシャカシャとスライドしていく。
「ユナイトライズ・ランス・オブ・ロンギヌス――シュート!!」
光沢↓機首からエネルギーの奔流が、赤陰を貫いた――はずだった。
突き刺さったはずのエクリプスVOBは赤陰を通り抜け、トドメとなる一撃が当たらなかったのだ。
そしてその直後、赤陰の姿が揺らめき、空間に消えていった。
「ちぃ……最後の一撃ではだめか。二撃でなければ……!」
赤陰が消えると同時に、まだ戦える青幽の姿も同時に掻き消える。
「引き時か――奴らと違い、お前らのために死ぬ気はないんでな」
(これでいいんだろう? リツ)
距離を取り続けていた夢野が戦域を離れると、「私達も帰ろう、パピー」とパピルサリアの内部にいるルナリティスが呼びかけると素直にパピルサリアも戦域を離脱した。
「逃げられたか……」
「頭のまわる人は撤退の判断も早いから、厄介だね☆」
1撃必殺の狙撃ができなかった千織が悔しそうに呟くが、ジェラルドの方はそれほど悔しそうでもない。むしろまたチャンスがあると嬉しそうだ。
「聴こえますか! そちら側に行っても、あなた達は僕の恩人で憧れの人です!
理由なんて知らない……だけど、戻ってきてください! あなた達は、それでも仲間だから!」
いなくなった後も白布が呼びかけるも、虚しい声が響き続けるだけであった――
寸前まで追い詰めるも倒しきれぬ強敵たち。きっとこれからも立ち塞がろうとするのであろう。
それでも先へと進むのだ!
【初夢】煉獄艦エリュシオン宇4 次回に続く!