「今日もいい天気じゃあごぜぇやせんか。ちげぇねぇと思いやせんか、いろはさん、かずはさん」
いつも眠そうで細めがちな目をさらに細め、頭上に輝くお天道様を眺める点喰 縁(
ja7176)。その肩と懐にいる、狸顔で毛がもっふもふの三毛猫が2匹そろってニャアと応えた。
実にまるっとしていて福々しいが、それでも縁は涼しい顔である。
そしてぶらりぶらりと、人の気が少ない校舎に足を運ぶのであった。
縁が校舎に着いた頃、にらみ合う理恵と雅の前に現れたのは、和装の少女・藤宮真悠(
jb9403)だった。
「一番のペットはこのエリンギくんです!」
満面の笑みで自信満々に宣言する本人の後ろから、ぬっと現れたのは全長130cmほどの歩く――エリンギだった。
エリンギと呼んでいいのかも怪しいサイズだが、その見た目は紛れもなく、巨大なエリンギ。
その胴体をパシパシと叩き、真悠は少しはない気を強くする。
「元は術をかけてイタズラ用に作った子ですが、意思疎通も可能な上お手伝いもしてくれる!
こんな万能なキノコ、世界中探してもいないと思いませんかっ?」
その自慢のキノコは飼い主の横を通り過ぎ、ソファーの上に寝転がって、その上に飛び乗ったスズとミーシャを相手に戯れていた。表情は読めるものではないが、心なしか、楽しそうである。
その様子に真悠は目を細め、手をワキワキさせて身悶えながらも力説を続ける。
「立派な傘に白く艶やかでなめらかな肌! もちろん、きめの細かさは言うまでもなく、触り心地も抱き心地もふんわりしているのにひんやりとしている!
もはやこの子に死角なしですよ!」
エリンギ愛を叫び続けるのだが、その視線がどうにも先ほどから、スズとミーシャに向けられているような気がしてならなかった。
それはともかくとして、少しの間、呆気にとられていた理恵だが、我に返るとすぐに雅へ顔を寄せて声を忍ばせる。
「……あれって、天魔の類ではないんだよね?」
「だろうな。どちらかといえば、アウルが具現化したようなものなのだろう」
ぼそぼそと話し合っている間も、ずっとスズとミーシャをチラチラと見ながらもエリンギ愛を説き続ける真悠。
「そう、最高に愛しきペットちゃんは――……」
「ぺっとなら私のだって、すごいんだよぉ!」
部室の引き戸を倒して入ってきた、謎の4つ脚歩行生物。戸をぶち破ったばかりか、猫脱走用の柵すらも強引に乗り越えてきた。
反射的に身体が動いた理恵は、すぐに戸をはめ直し、それから振り向いてエリンギと戯れる猫たちを確認しては安堵の息を漏らす。 振り返り、謎生物の正体がエルレーン・バルハザード(
ja0889)と気付いた理恵が「ああ……」と、がっくり力なくうなだれる。
(何かが起こりそう……)
地に腹をつけ、「うふ、これが私のぺっとだよぉ!」と小さな虫カゴを掲げてみせた。
「茶色い、ぐねぐね動くスライムー。
この子の名前は『ちょこ太』くんだよっ!!」
紹介されたそれは「シャゲー!」と、チョコとは思えない獰猛な声で威嚇してくる――いや、そもそも普通チョコは威嚇しないが。
不審物でしかないそれを見る理恵達の視線も気にせず、イチゴを取り出したエルレーンが虫カゴの中に投下してみせた。
「イチゴとかをあげたら、ほーらねっ」
うねうねと動くそれがイチゴに絡みつき、その表面を溶かすのではないかというほど活発に、何度も何度も這いずりまわる。その様はまさしくスライムという名にふさわしい光景で、少しばかりキモい。
――だが
「……なんか甘くて、いい匂い」
「チョコだからね!」
「ギョギョー!」
飼い主の声に反応してか、ちょこ太くんが鳴き声を上げる。もはや生物的な定義はどうでもいいかもしれない。
ふと気づくと、猫と戯れていたはずのエリンギが立ち上がり、頭に2匹を乗せたままスライムを覗き込んでいた。
頭の上でスズとミーシャがスライムに毛を逆立てていたが、スライムもエリンギもしばらくの沈黙する――謎の生物達は互いにコクコクと頷き合っていた。
「エリンギくん?」
真悠が呼びかけるもエリンギくんに反応はなく、また、エルレーンがカゴを揺さぶってもチョコ太くんに反応はない。互いにただ黙って、見つめあっている。目があるかはわからないが、そんな雰囲気だ。
エルレーンはそっとカゴを降ろして静かに移動すると、ちゃっかりスズを背に乗せ「もふもふだぁ〜!」と八の字に走り回ってはしゃいでいた。
それにならってか、真悠もエリンギくんを心配そうに覗き込みながらも、その手はエリンギくんの頭の上にいるミーシャを撫でようとして、引っ掻かられる。
まだちょこ太くんへの警戒心で、気が立っているご様子のミーシャ。それでも真悠は負けじと、手を出そうと頑張るのだった。
「ふ……これだけいても、やはりベロリン優位は変わらんな」
「待ってください!」
反動で戸が軽く閉まるほど全力で開き、手を突き出して乗り込んできたのはゲルダ グリューニング(
jb7318)だった。
「可愛さならば、うちのヒリュウに勝る子は猫と犬以外ないと言っても過言ではありません」
その背後からヒリュウが顔を覗かせ、ひと鳴き。
そしてそのまま飛んでは、スズとにらめっこをしているエルレーンの背に乗り、ダンスを始める。
「わたしの上で、何してるなのっ」
その場でくるくる回るエルレーンだが、ヒリュウにとってはただの回転する台でしかないのか、かまわず楽しそうにダンスを続けていた。
「つぶらな瞳、ぽっこりしたお腹、そして何といっても魅惑のヒリュウダンス!
バラバラなパーツだと唯の爬虫類の出来損ないだのに、全部が合わさるとぷりてぃヒリュウという奇跡の生き物が誕生するのです。
あ、エミューやラクダ、アルパカもつぶらな瞳が良いですね」
「つぶらな瞳なら、ベロリンも負けていないぞ」
ずいっと雅がヒリュウの顔の前にベロリンを突き出すと、つぶらな真ん丸お目目が交差する。
ベロリンの鼻面と、ヒリュウの鼻面がくっついて――ベロリンの舌に驚いたヒリュウが鼻を押さえ後ろに飛んで逃げた。生物としての強者は間違いなくヒリュウなのだが、それでも怯えてしまうあたりは可愛いものだ。
飛んで逃げた先はやはり、飼い主の後ろ。影から覗き込むヒリュウの頭をゲルダは撫で、それからどうだと言わんばかりに腰に手を当て胸をそらす。
「これは天然記念物に指定しても良いレベルです」
「その天然記念物を戦闘に駆り出すわけだけどね……」
「可愛くも強いのです!」
「なになに? ペット自慢!?」
騒ぎを聞きつけてか、廊下と部室を繋ぐ窓を開けて六道 鈴音(
ja4192)が身を乗り出してくる。
猫とヒリュウを見ては(エリンギくんとちょこ太くんもペットだとは、さすがに思えなかったようだ)、パチンと指を鳴らしてヒリュウを召喚する。
「私のヒリュウちゃんも相当かわいいわよ、ほら」
抱っこしてみせるが、ヒリュウは手足をバタバタとさせて腕にしがみつくと、腕から肩へ、そして頭へとよじ登っていく。
鈴音は「こら、くすぐったいからっ」と注意するのだが、注意している本人の顔がすでににやけていた。かわいい子には何をされても可愛いものなのである。
「ちょっとわんぱくだけど、でもそこがまたかわいいのよね」
頭の上に顎を乗せ、ギャアと鳴くヒリュウの頭をなでる。
「そのこのなまえは、なんてゆーの? うちの子はちょこ太ってゆーんだよっ」
「え、それも……?」
虫カゴを自慢げに見せるエルレーンに鈴音は戸惑い、そしてふと思い立って言葉が止まった。
(あれ……そういえばまだ名前を付けてなかったな……いつもヒリュウヒリュウ呼んでたからな……)
「まぁいっか」
「いえ、よくもないと思うのです!」
鈴音のヒリュウに対抗して、自分もヒリュウを肩車するゲルダが拳を作り大きく頷いた。
そして鈴音の前まで来ると、その両手を握りしめる。
「ぷりてぃヒリュウの同志さんとして、お伝えします。
やはり愛を込めて呼ぶには名前が一番。私も愛を深めるために彼女の名前を何度も呼んだわと、母も言っていました」
力説するゲルダに鈴音も「そうかも」なんて思いつつも、内容から感じる違和感に首を傾げていた。
開けっ放しの廊下の窓、首を傾げる鈴音の横からスズが飛びだそうとするが、それを思わず正面から抱き止める。そこら辺の反射はさすがであった。
「わぁ、このコもかわいいですね!」
「ふっふー。でしょう? それはそうと、逃げ出しちゃうから窓閉めて部室に入ってきてほしいかな」
「あ、すみません」
スズを抱いたまま窓を閉め、改めて部室の戸をくぐる鈴音。スズを理恵に返した時、そこでやっとエリンギくんも生物らしきものだと気付き、手を伸ばそうとして引っ込めた。
「――触ってみてもいいですか?」
「どうぞです!」
真悠の許しを得て、再度手を伸ばしてエリンギ菌の肌に触れて、感触を楽しんでいた。
――背中に視線を感じて振り返ると、雅の、というか、ベロリンのつぶらな瞳がじっと見ている。それが触れという脅しのように見えた鈴音は、ゆっくり恐る恐る手を伸ばす。
するとその手をつたい、ベロリンが駆け上がって鈴音の首に張り付くよう陣取った。
「かかかかわいいですねっ」
首をすくめて目を丸くした鈴音がなんとかその言葉を口にすると、雅はそういう反応慣れているのか「ありがとう」と述べてベロリンを引きはがすのだった。
そんな鈴音の足元にエルレーンが走り回り、ちょこ太くんをアピールしていた。
「ちょこ太くんもかわいいよ! でもさわるなら要注意だ!」
要注意と言うだけあって「ショショーッシャー!」と、あからさまに威嚇してきている。というよりは爬虫類よりもはるかに、難度の高い生き物であった。
「だいじょうぶ、果物と人の手くらい見分けがつくくらいにはこの子も賢いんだよっ」
ここで部室の戸がノックされ、神龍寺 鈴歌(
jb9935)が静かに開けて入ってきて、頭を下げる。
「失礼いたします。
中等部1年の神龍寺 鈴歌と申しますが、少々気になりましたので、お邪魔させてもらってもよろしいでしょうか」
「どうぞどうぞ、遠慮しないで入ってきて」
「ふふふ〜、お邪魔させていただきますねぇ〜♪」
軽やかな足取りで部室を横切り、外へ続く窓に手をかけると解放する。
窓が開けられたことに一瞬驚いた理恵だが、先ほどで学んでいたのか、スズとミーシャの首輪にリードをほぼ無意識にひっかけて手に持っていた。
鈴歌が短い口笛を何度か吹き鳴らし「おいで〜、テトリ♪」と呼ぶと、空から薄黄緑色の鳥が飛んできては鈴歌の肩に留まった。
「えへへ〜、このコがテトリで、とある大きな森の主さまなのですぅ〜♪」
『よぉ、俺がテトリだぜ! 森の主もだが、今は鈴歌の家族だぜ!』
青目の小鳥が喋ったかのような気もしたが、気のせいだろうとその場の誰もが自分に言い聞かせる。
「テトリは熊さんを倒すほど身軽で、心が優しいコなのですよぉ〜♪
それで沢山の森の動物さんを守ってきたのですぅ〜♪」
指を差し出すとくちばしでツンツン突っつかれ、そのくすぐったさに鈴歌の頬がどんどん緩んでいく。
「ねぇ〜♪」
嬉しそうにテトリの頭に頬をスリスリとさせて、存分にその可愛さをアピールしていた――すると、鈴歌に差し込む太陽の光が突如何かに遮られた。
鈴歌が見上げると、ルティス・バルト(
jb7567)が吊り眉の垂れ目がさらに柔らかくなり、鈴歌とテトリを見おろし、目が合うと口元で笑う。
「大事な子なんだね」
「はい、そうなんです♪」
屈託のない笑みを返す鈴歌。その笑みに、ルティスは「うちのコ自慢か……」と振り返った。
「アリア、おいで。
うちのコは……ほら、このコだよ。メインクーンのアリアって言うんだ。ホワイト&ブラウンタビーのふわふわで、サラ艶な毛並みが自慢のレディだよ」
微笑みを浮かべ足元にすり寄る毛の長い猫・アリアを、淑女を扱うかの如く、優しく抱き上げる。
「食べる姿も優雅だし、靡く毛並も美しい。
滑らかで身体に沿って滑り落ちるような様子は、まるで上質の絹糸だね」
その毛を撫でる手は、女性の頭をなでる男性の手さながらだった。
そんなアリアに、理恵はふと気づいた。
「あれ、散歩猫なのにリードなし?」
「このレディは本当に懐いててね、リード無しでも一緒に散歩が出来る程なんだ。
呼べば応えるし、淑女としての礼儀も弁えている――それに見て」
喉の下をくすぐり顔をあげさせて、アリアの目がはっきり見えるようにする。
「何より、アリアのチャームポイントの瞳が、本物の宝石のようで美しいんだ。ブルーで、まるでサファイアのようだよ」
「テトリさんとお揃いですね♪」
「エリンギくんだって、その目はまるで……ゴマ?」
「ヒリュウだって、この真ん丸お目目がとっても愛くるしいですよ!」
鈴歌がテトリを、真悠がエリンギくんを、鈴音がヒリュウを見せびらかす様にルティスに突きつける。ゲルダは「ゲレゲレ? 山田さん?」と、浮かんでは消える名前候補に頭を悩ませていた。
ちょこ太くん参戦しなかったのは、恐らく、飼い主すらも目がどこにあるかわからないからだろう。
「他の皆の家族も素敵だね。
どの子もキラキラしていて、本当に大事にされているんだね」
「本当に皆のトコの子、可愛いねぇ」
いつの間にかルティスの横に立っていたジェニオ・リーマス(
ja0872)が、ペットを順に目で追っていっては目を細める。むしろ、デレデレしているという感じに近いかもしれない。
一通り見てから、小さく頷いた。
「でもうちの子が一番可愛いよ。ココには連れて来てないけどさ、写真とか動画、いっぱいあるよ!」
スマホを取出し、画面も見ずにとても慣れた手つきで素早く自分の猫動画を再生しては印籠の如く見せびらかす。
「うちの子達はねぇ、赤毛の柴犬のハリーと三毛猫のマイケルだよ。
2匹は小さい頃から一緒に育ったから、凄く仲良しなんだー。しょっちゅうくっついて寝てるよ。もふもふが2匹一緒にいる所とかいつ見ても可愛さ爆発だよ」
それがわかるのか、理恵は何度も頷いて、両肩に乗せているスズとミーシャの頭をがっしがしと力強く乱暴になでる。それがこの2匹のお気に入りだと知っているからの行為である。
その様子が羨ましくて恋しくなったのか、ジェニオのうちの子愛が止まらず加速する。
「マイケルは甘えん坊の食いしん坊で、ハリーが甘やかしてるから余計にね。
2匹が小さい頃とかくっついて寝てる写真とか、そりゃもう可愛くて! 同じポーズとか、たまにとってるんだようー」
「うぁ、これは反則に可愛いですねっ」
「ホントだ!」
真悠と鈴歌がスマホの画像にかぶりついて、魅入っていた。
こうなってくると理恵に対抗心も芽生え、携帯の画像からスズとミーシャの箱入り画像などを見せびらかす。
「スズのがちょっと年上のせいか親子的な接し方ばっかりだけど、うちだって仲良しなんだから!」
「ベロリンなんて1匹でも十分に可愛いのだがな」
「ちょこ太くんにも兄弟姉妹はいるんだよ!」
様々な対抗意識が渦巻き、うちの子自慢がさらにヒートアップする――そう思った矢先。
「ちょいとお待ちなせぇよ。なんでぇそんな剣呑なお声だっして?」
ジェニオとルティス、その背後で縁が怪訝な顔で立ち止まっていた。
「うちのコ自慢ですよ〜♪ テトリみたいにみんな可愛いんですけど、やっぱり一番は優しくて賢いテトリさんのものなんですぅ〜♪」
「うちのエリンギくんはお手伝いもしてくれるから、エリンギくんこそ一番優しくて賢いに違いありません!」
「それだったらヒリュウは戦闘のオトモもしてくれるし、すっごく言う事聞いてくれるよ?」
「ちょこ太くんだって、負け――プギュウッ」
詰め寄るエルレーンの上に、ゲルダとヒリュウが乗って息を合わせて踊っていた。
「こんな芸もできるうちのヒリュウさんこそ、最高ですね」
「私はお立ち台じゃないのだーっ」
回転を続けるエルレーンだが、その背中の上は実に安定していて落ちそうにもない。
そしてここまで話を聞けば大体分かったのか、縁は顎に手を当てつつも、懐の愛猫の喉をくすぐる。
「そんな話、非常に不毛でさぁ。
誰しも自分の相方さんが一等だとお思いになるでしょうに。自分だってあんまりの可愛らしさに誘拐――おっと。友人らが長時間、いろはさんやかずはさんをもふもふしてる事でさ。
とにかくそうさせるくらい気立てよくって賢い、いろはさんとかずはさんは大事にしてますし、可愛いと思いますよ、ええ」
自分の顎に当てていた手を、肩にいる、いろはさんかかずはさんかどちらかの顎を撫でる。
しばらくの間、黙って撫で続けている縁がやがて、ほんの少し寂しそうに口を開いた。
「競ってと、なんかちげぇ気がすんだよなぁ」
正論の前に、黙らざるを得ない。
そう、分かってはいるのだ。みんな自分の子が可愛くはあるのだと思い知らしめるには、十分な言葉だった。
沈黙する我が子自慢達だが、そんな空気の中でも縁は自分のペースを貫き、指をもう1つの窓から繋がる、外の猫用ベランダをさし示した。
「ちぃっとばかし痛んでやがりますが、直してってもかまわねぇですかねぇ?」
部室の中で縁を除く全員、外から聞こえる鋸と金槌とノミの音に耳を傾けていた。
「……まあ、確かに不毛って言うか、意味はないよねぇ。みんな横一列一等賞なんだもん」
「そうだな」
冷房効果もあってか、冷静になった理恵と雅。
真悠はよく冷えたエリンギくんの上で、抱きつくように眠っている。窓際では2匹のヒリュウとテトリがなんだか仲良くしており、鈴歌は「トモダチできてよかったね、テトリ♪」と嬉しそうにしていた。
「この子達が可愛すぎるのが、罪なだけだよ」
コンロでお湯を沸かしつつも、手軽なケーキをこしらえているジェニオの手元を、ちょこ太くんとエルレーンはじっと見て「まだかなまだかな」と、完成を楽しみにしている。
「そう、全ては可愛すぎる故がの――ああ、踊りすぎて足がっ」
もつれて転んだゲルダは、ソファーの上でぐったりしている理恵の上に倒れ込んだ。危機を感じ取ったスズとミーシャはさっと逃げたが、理恵はゲルダを受け止める。
「大丈夫?」
「ああ、はい大丈夫です――柔らかいコがいてくれて、助かりました」
もにもにっと指を動かすが、猫たちはすでに非難した後。何が柔らかいのか――その疑問は、理恵が少しばかりは頬を赤くしている事で何となく誰もが察した。
「起き上がれるかい?」
こういう時、さっと自然に手を差し伸べるルティスはさすがであった。ただ、礼を言いながらもゲルダがその手に重ねようとすると、ほんの少しピクリと手をひっこめそうな動きを見せたのを、理恵は見逃さなかった。
(優しくはあるけど……なんだかそれが本心なのか、怪しいな。なんか影があるって言うか……)
「ちぃっと誰か手伝ってくだせぇ。ホゾ穴に、ホゾを誘導してもらいてぇんですがね」
「あ、私手伝います」
紙にヒリュウの名前候補をいくつか書き込んでいた鈴音が立ち上がり、縁の手伝いの為に外へと出る。
ルティスへと向けていた思考がいったん中断された理恵はふと思い出したのか、立ち上がると、窓を開けてヒマワリの種をばら撒く。
ちょろちょろっとやってきたニホンリスに微笑み、そして部室にいるスズやミーシャ、それだけでなく、愛情をたっぷり注いでもらっているみんなのコ達を見わたすと、自然と何かがこみあげてきて悶えたくなってきた。
ここに居る全てのコが実に、愛らしい。
「ん――みんな一番だね!」
うちの子一番自慢! 終