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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:12人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/08/13


みんなの思い出



オープニング

 一部で、こんな話題が飛び交っていた。
 それは依頼での話。
 3000円以内のコンビニで買える物、それでどこまでの物が用意できるのか。
 地域特性で、ちょっとしたホームセンターくらい色々揃っているところもあるだろう。だがそれでも、足止めの役に立ちそうなワイヤーがあるかと言えば、ないと言ってしまってもよいだろう。
 それならコンビニで買えて、依頼に役立つ物ってなんだろうか――そんな議論である。
 単品で売られていて役に立つ物は、そう多くはない。せいぜいテープや電池など、細かい物が関の山だ。防犯用カラーボールも、最近は逆に犯罪に使われる危険性を考慮してか、見かけることはなくなった。
 こうなってくると、本当に難しい。
 そこで、100円で買えるような風船(もしくは風船のようなもの)に墨汁や絵の具を溶かした水を詰め、カラーボールの代替を作り出した生徒がいた。
 こうなってくると、組み合わせでいったいどんな物が作れるのか、興味が尽きない。何ができて何ができないのか知っておくのは、今後の依頼でも重要だと。
 そこで数人の生徒は団結し、調査委員会的な物を一時的に作り上げたのであった――

「ということで、そのとりまとめ役を黒松さんにお願いする事になりました」
「ふぇ!?」
 他人事と聞いていた私、黒松理恵(jz0209)だが、思わず奇妙な声をあげてしまった。
 聞き間違いかと左右を見渡してみるけど、視線はどう見ても私だ。
 どゆこと!?
 立ち上がって、クラスメイトの視線がすごく感じるけど、高々と真っ直ぐに手を突き上げる。
「なんで私がまとめ役なんですか。今初めて知った、関わっていない委員会なのに」
「それは黒松さんがいない間に、クラスで話が進んでいたからです」
 なんと……壇上の生徒の言葉に、続けて言おうと思っていた言葉を飲み込んでしまったぜ。
 ちょっとの間いなかったのは確かだけど、だからといってそれで決めるというのは横暴じゃない?
「それはちょっとお――」
「ちなみに推薦してくれたのは、隣のクラスだけど、若林さんと中本君です」
「おぐ……」
 みぃぃぃやぁぁぁびぃぃぃ! いや、これはささやかな仕返しか!? ついこの前の事、ちょっと根に持ってる……?
 顔を押さえ首を左右に振りながら、大人しく席に座り直す。
 もしささやかな仕返しなら、甘んじて受けるしかないよねぇ。酷い事言っちゃったし、迷惑もかけたんだし。
「納得してくれました?」
「はーい……」
 納得も何も、反抗のしようもないじゃない。
 でもとりあえず、ささやかながらの反抗として頬くらいは膨らませてもらおう。
「わりかし真面目な調査にはなりますが、きっと真面目にふざける人がいると思うんですよ。その点、黒松さんなら的確なツッコミを入れてくれるだろうって事で、満場一致――」
「待ったぁぁぁぁ!
 私はツッコミキャラ認定されてるの?!」
「ええ。今まさにツッコんできましたし」
 しくった……ッ! しかもみんな、頷いてるし。
 まさかそんな認識されてたとか、思ってなかったよ。普通に男女分け隔てなく接して、それなりの人あたりで普通くらいよりやや可愛いかな? ポジで固定しようと思ってたのに……いつからこうなった。
 ちょっと顔を隠して、大きく息を吸ってー吐いてー。
 よし、少し冷静になれた。
「わかった、わかりましたよ。お望み通り、きっちりそのまとめ役やらせていただきます。
 ただし!」
 キッと、ふざけたモノを作って持ってきそうな生徒を順に睨み付け、それから真っ直ぐに壇上へ顔を向けた。
「ただし。私がやるからにはシビアに、ばっさりやるから、そこは覚悟してね」


リプレイ本文

 1件のコンビニ――銃だとか剣だとか置いているわけもなく、たいして珍しい物を置いているわけですらない、ごく平凡なただのコンビニ。
 そこに可能性を求めて、撃退士達は集う。
「まぁ! こんなに沢山のお買い物がこんなに小さなお店だけで揃うなんて……っ!」
 コンビニというものすら知らなかった唯・ケインズ(jc0360)が扉を開けて入ってくるなり、手を合わせ目を輝かせていた。小さいというくだりは、ともかくとして。
 その声に驚いたのか、文具コーナーを覗き込んでいた客が唯を一瞬見たが、すぐに興味を失ったのか視線を棚に戻していた。
「唯……とても吃驚ですわ。もっとお勉強しなければ」
 どんなものがあるのかと、端から端まで丹念に見て回る唯だった。
「いっそ学園の購買で拡声器とロープと火炎瓶を常備すればいいと思うんだ」
 冗談めかした事を言い放つ九鬼 龍磨(jb8028)だが、その顔は真顔である。
「対天魔には意味がない、とかで置くにおけないのかもしれないな」
 その呟きが聞こえたのか、カゴを手に卵と毛染め液などをぽいぽい抛りこむミハイル・エッカート(jb0544)が口を挟んでいた。
 それに龍磨は「なるほど」と納得する。
「ホームセンターで買えずに、こういったところ限定となると本当に選択の幅が狭まったなー。
 ま、嘆いていても仕方ないし探してみるかな」
 龍磨がウォッカを手にしようとすると、横から伸びてきた手が先に瓶を掴んできた。
「なんや、考える事は似てるもんやのう」
 どう見てもチンピラな秋津 仁斎(jb4940)が龍磨にウォッカを振って見せ、ニヤリとどう見てもあくどいとしか言いようのない笑みを浮かべる。
「昔はヤンチャやっとったんやで? オモチャ作りなんぞ飽きるほどやって来た……!」
 そんな彼のカゴには、ライターオイルやガスはともかく、電池に砂糖や新聞、安全ピンといった、それと言って危険性の感じられないものばかりだ。
 それが龍磨の顔にも出ていたらしく、仁斎は「楽しみにしとれや」と買い物を続けるのであった。
「取り敢えずアイス食べたい! 暑いし! あのたっかいやつ買おうぜ!」
 入ってくるなりそう叫んで、真っ先にアイスを買いに走る海城 恵神(jb2536)。コンビニでなくともかなりお高い分類に入るカップアイスを手にして、うっとりとしている。
「アイス様は偉いよ。冷たくて甘くて、疲れてないけど疲れた私を癒してくれる!」
 カゴに投下した直後、きょろきょろと見回す。
「あとはあれだ、腹が減っては何とやらってやつだぜ。
 んー、作るとしたらそうだなぁ……コロッケかな? 台風対策にね! 最近のコンビニに野菜売ってるし余裕だろーふははん♪」
「作るならピッツアなのです!」
 カッと力説し、オブリオ・M・ファンタズマ(jb7188)が注目を集める。
 その手にはチーズと小麦粉――有言実行が見て取れた。
「それ、ボクも手伝っていいかな」
「許可、なのです! 僕の事は先生と呼ぶのです!」
 水無月 ヒロ(jb5185)は「はいオブリオ先生!」と言ったノリで、買い物を続けるのだった。
 騒ぐ一画にそれほど関心を寄せず、のんびりと過去の依頼の話も交え、世間話をしながら東城 夜刀彦(ja6047)とジーナ・アンドレーエフ(ja7885)が肩を並べ、買い物をしていた。
「作ったり使ったりが多かったのって、風船に墨汁入れたペイントボールもどきかしらねぇ……」
「夜間時の敵の時なら、風船の中に墨汁じゃなくて液体の入ってるタイプの蛍光ペン分解して蛍光ペイントボールとかしたよね」
 棚に指を向け、上から順に横へと動かしては次の段へ下げて同じ事を繰り返す夜刀彦が、指を止めた。
 防災グッズのコーナで手に取ったのは、ヘッドライトだった。
「これとか、一番利用率高いかな。こういったライト系、明るくて便利なの増えたよね」
「そうねぇ。夜間散歩用としてあるのか、それを用意できた時が有難かったかしら。
 暗闇戦闘でそれぐらい重宝するの、他に無いわよね」
「だよね。あ、あとこれとか念のために身に着けたりもしたね」
 ヘッドライトを戻すと、身体に巻きつけるタイプの蛍光バンドをかわりに手に取った。
「そっか、夜の散歩用か。こういうのが増えたのって」
「でしょうねぇ。ま、たまーに無いところもあるから、油断はできないんだけどね
 ――あと、こういうのも最近は使うようになったわよねぇ」
 梱包用の紐にジーナが指を向けると、龍磨がヒョイッとカゴに入れる。
「一般人の捕縛用とか、ですよね」
「そうそう。頑丈なロープとして使ったりとかだね……人がぶら下がるには、ちょっとだけど」
「僕はこれをちょっと、編んでロープにできないか試してみるつもりですよ」
「大変そうですね、がんばってください」
 夜刀彦の応援に「にはは」と笑って、龍磨はレジへと向かっていった。
 もう色々な人がさまざまなものを持って、レジに向かい始めている。見た限り、まじめに選んでいる者もいれば、そうでない者もいたりする。
 とくにピザの具材を前に「お遊びじゃない、なのです」と言っているオブリオを見てしまっては、もう何だってありのような気がしてきた。
「ついでに私らも作っておくかい?」
 カット野菜に手を添えたジーナの微笑みに、夜刀彦は大きく深く頷くのであった。


 ウォッカの瓶に新聞紙が刺さっていて、それに火を付けた仁斎が理恵の前で空高く抛り投げる。
 重力に負けて落ちてきたそれはアスファルトに叩きつけられ砕け散ると、その辺りに火が燃え広がり、ユラユラと燃え続けている。
 アルコールに引火しただけと思っていたが、一向に消えない火に理恵が訝しると、仁斎は得意げに腕を組む。
「どうよ、モロトフカクテルの出来上がりや。砂糖で粘り気を出すと、肌に着いていつまでも燃えるねん」
「へー……ウォッカに工夫を凝らした火炎瓶ってとこだね。でもウォッカだけじゃ、そんなに燃えないよね?」
「そこもま、1個工夫してんな――あと、あれを見とけや」
 得意げな仁斎が、段ボールに指を向けた。
「電池は端子を繋げると発熱発火する。それを応用した――」
 仁斎の言葉を遮るかのように、爆音。
 段ボールが木端微塵に破裂する。
「ペットボトル爆弾や。そこらのコンクリ程度ならぶち抜くで!」
 高らかに笑う仁斎の足元に、無残な姿のペットボトルの欠片が落ちてくるのだった。
「うーん、それなりに恐ろしいけど……天魔にはきっと微妙なんだろうなぁ」
「せやな。主に人間相手のテ――」
「ストーップ! うん、色々危ないってのはよくわかったから!
 とりあえず作り方はあんま公開しないでね、一般人が真似した時、一般人相手には十分脅威だから」
 面白くなさそうな顔をする仁斎だが、肩をすくめるとあっさりと引き下がる。
 言い分を理解したというよりは、やんちゃな奴は自分でここまでたどり着くと知っているからだろう。
「えっと秋津さん、ウォッカ火炎瓶と時限式ペットボトル爆弾、受理と……次の方ー?」
 顔をあげると、まだ燃えていた火に、唯が消火剤を吹きかけていた。
 持っているサイズは殺虫剤くらいの小さなものだが、それでもそのくらいの火には十分効果的で、すぐに鎮火する。
「別の使用目的で買った物でしたが、役に立ちましたわ。これこそが本来の用途ですけれども」
 そう言って唯が理恵の前に置いて見せたのは、エアゾール式簡易消火器。
 消火能力は低いが、片手で使える代物である。
「これなら敵への目潰し、カラーマーキングと幅広く使えそうですもの。お値段も手ごろですし、それにかさばりませんわ」
「へー、こんなのがあるんだ……でもこれ置いてる所、少なそうだね。
 夏の火災予防運動とか、そういうフレーズが出回ってる時の便乗商品って感じ」
「そんなものなのでしょうか……それならばこちらはどうでしょう。逆に火を吹く装置なのですわ」
 そう言ってみせたのは、本当にごく平凡なヘアスプレー。
 それと――ライター。
 構える前に、理恵は手を掴んで静止する。
「うん、何をするかはわかったから。人の目がある所ではやらないようにね、子どもが真似したら危ないんで」
「そうですわね――あとはちょっと思いつきませんわ。意外と難しいですのね」
「そのための調査だからね。次の方ー」
「僕いきます」
 手を挙げた龍磨が軽やかに走ってやってくる。
 その手にあるものはガスボンベ、ウォッカなどは見たまんまでわかるのだが、短いロープや、色とりどりの砕いた物が入ったペットボトル、カラフルな色の液体が入ったビニール袋だった。
 まず先に、カセットコンロ用のガスボンベとウォッカを目の前にドンと置く。
「こっちのボンベは火に投下して爆薬替わり、もちろん緊急事態以外ではそんなことしないよ。
 それとこっちのウォッカは、消毒用アルコールの替わりなんだけど、どうかな」
「んー……確かにありっちゃありだけど、ボンベを火に入れても即座に爆発しないから扱いが難しいかも」
 理恵が難しい顔でひょいっとボンベを持ち上げて底を見つつ、何か閃いた顔をする。
「水で濡らしたタオルで包んで、さらに爆破のタイミングずらした時限式とか、そういうネタもありかもね。どちらにせよ、時間はわりと不確定なんで、そこらへんは考慮しないとね」
「なるほど、そういう方法もありますか」
「あとウォッカで消毒だけどさ……小さい傷用なら普通に消毒液売ってるし、大きな傷なら消毒しないで水で洗ってラップで止血とかのが良いと思うよ。
 まー……これならさっきのネタがあったから、その場でどっちにするかっていう応用は利くんだけどさ」
「なるほど、勉強になります!」
 目を輝かせ、眩しいスマイルに理恵は思わす目を細めてしまう。
(アイドルの後光が見える気がする……)
 とにかく仕事を続けねばと、ロープを手に持ったが、思っていた質量との違いに驚きよく見てみると、ビニール紐を編んだものだった。
「それね、結構いい感じだと思うんだ。頑丈でしょう?」
 両端を掴んで引っ張ってみるが、そう簡単に切れそうもない。
 これには理恵も笑みを漏らす。
「うん、これなら一般人とか縛りつけたり、人がぶら下がったりできそうだね。
 ちょっと滑りやすいけど所々結び目作っておけば全然問題ないし、これはいいものかもしれないね。コンビニに頑丈なロープなんて普通ないから、今後も役に立ちそう」
「にはは、ありがとう!
 でも、1分で30cmくらいにしかならないんだ。慣れればもっと早いかもしれないし、そこは個人差かもしれないけど」
「でも依頼に行くのは1人じゃないし、みんなで――例えば6人なら1分で合計1・8mくらいにはなるかもって計算だし、もっと作れるかもしれないしだからね。
 うん、これはちゃんといいものだと思うよ」
「そっかそっか。じゃあこれはどうかな、ペットボトルに釘と入浴剤と――」
 説明を続けようとした龍磨の口を、理恵が手で塞ぐ。
 その頬には一筋の汗。
「そっから先はデンジャーなネタだからね――それと1つ言っておくと、ソレ、思ったより威力ないよ。釘、飛ばないし」
 何故知っているのか――それはともかくとして、思ったより威力がないと言われては却下せざるを得ない。
「おーなかなかええ発想じゃのう、まだまだ改良の余地ありやが」
 仁斎がそれを手に愉しげな顔をして、持ち去ってしまった。
 仁斎の目に留まった事で危険性は認識したのか、龍磨はコクコクと頷き、口を塞がれたままだが、カラフルな液体の入ったビニール袋を手にぶら下げ、投げる仕草を見せる事で何の用途かを伝える。
 もちろん、そう言った物の出番が多いだけに理恵もそれだけで察しがついた。
「カラーボールの代用ね。材料は――えっと、ボールペン、のインク。それと……液体洗剤か」
 順番に手に持って身振りで伝える龍磨。
 一般人がマネしてはいけないような危険なモノではないと納得した理恵は、やっと口から手を離す。
「中の物は現地で詰めれたりするからいいんだけどさ、ビニール袋って思いのほか投げにくいよね。
 それに、当たっても破裂しないって事もあるしさ」
「そういえばそうだね――そうなるとこれも、いまひとつか。残念だ」
 気を落したのか、少しだけしょげる。だがそれも束の間で、ニカッと笑みを浮かべるとポケットに手を突っ込んみ、それから手を開く。
 その手に、やや多めの小銭が。
「これだけ余ったし……コンビニ限定の高いおやつ買おう!」
「あーそれくらいの役得はありだよね。いってらっしゃーい、美味しそうなのあったら分けてね」
 手を振り見送る理恵に「うん!」とやや幼さを感じさせる返事をしては、再びコンビニに向かうのであった。
「さって次の――」
「やあやあ、もう始まってましたか」
 遅れてやってきた事をさほど悪いと思ってはいなさそうな飄々とした声――エイルズレトラ マステリオ(ja2224)が、会釈しながら前を通り過ぎていく。
 その横顔をじっと見て、何かを思い出そうと首を捻る理恵。
「どうかしました?」
「いや……なんかどっかで見たことあるなーって――暗いところで見たような気が……」
「気のせいですよ」
 調査費用を受け取りながらしれっとした顔のエイルズレトラは肩をすくめ、早々にコンビニへ入っていった。
 まだ思い出そうとする理恵だが、肌が焼けつくような炎天下の暑さで我に返り、早く終わらせようと「次!」と声を大にする。
 だがそこに、それほど見ているわけでもないはずなのに馴染み深いあの名曲が流れてきた。
「トンテンテテン、トンテンテテン……このテーマは、おもちゃの兵隊のマーチ――」
 番組も思い浮かべた理恵の前には、どこから持ち出したかはよくわからない机の上で、ヒロがおもちゃの木琴で器用に演奏していた。
 その隣には、オブリオ。
 曲が終わると、2人は一礼する。
「こんにちは。今日はピッツァを作ります。こちら、ピッツァの第一人者にして評論家、オブリオ先生です。
 オブリオ先生、今日はよろしくお願いします」
「お願いします、なのです」
 やや緊張しているヒロだが、オブリオは落ち着いたもので、妙に貫禄をかもし出している。きっとそれは、目がマジだからだろう。
「オブリオ先生、まずはどのようにするのでしょうか」
「はい。まずは土台となるシートを作るのです」
 小麦粉の窪みに水と塩を入れ、手でこねる。それを球状にしてラップでくるんだ。
「そしてこれを冷蔵庫などで、30分ほど寝かします。そしてこちらがすでに寝かせたものなのです」
 お約束を踏まえ、取り出したそれを机の上で薄く引き伸ばし始めた。
 それの上に手際よくケチャップを塗り、ミックスチーズを散らしてさらにベーコンやサラミなどを乗せていく。ついでにカット野菜からもいくつかチョイスした野菜を乗せ、鮮やかな彩に。
 そして再び、チーズをまんべんなく散らしていく。
「この具材とチーズの厚みをほぼ均一にする、それが火の通り加減に直結し、美味いピッツァになるかどうかが決まる」
 ゆっくり慎重に、戦闘の時と同等の緊張でいつしか口調までそれになっている――それこそ、命を懸けているというレベルに到達しているのかもしれない。
「あとは焼くだけですが、ここからがピッツァとの真剣勝負です」
 炎の力を秘めた赤い短剣をピザに突き立てると、そこを中心に延焼し、ピッツァに火を通していく。
「ではここで、ボクがサイドメニューを作らさせていただきます」
 炎と格闘するオブリオの横で、助手・ヒロが紙コップを取り出すと、その外へ丁寧にメモリをマジックで書き込んでいく。
 そこに勢いよくお茶が注がれ、少し泡立ったそれを「はい」と理恵に渡す。
 ヒロの仕草は可愛いのだが、それよりも理恵の目にはそれがどう見ても検査用のアレにしか見えず、思わず(別の意味で)つばを飲み込んでしまう。
「お次はマンゴーソフトに――」
 やや黄ばんだソフトに、黄土色の粉をまんべんなくまぶしていく。
「これでカレーソフトの完成です! ご賞味あれ」
 とぐろを巻いた黄土色なアレを受け取ってしまった理恵だが、味よりもその見た目に頭が揺れる。
 頭を振り「君が食べていいよ」と、ヒロに返すのであった。
「だめですか?」
「いやほら――君の方がなんか顔赤いから、体温冷ます意味でも食べた方が良いよ。頬もなんか熱いし」
 そう言ってヒロの頬に触れる理恵だが、ヒロは硬直したかと思うとうつむいてもじもじしてしまう。
「親切、ですね……ボク、頂きます」
「何惑わしてんですか、部長」
 理恵の後頭部がぺしっと小さな何かで叩かれ、振り向いたそこにはかなり見知った顔、城里 千里(jb6410)が呆れた顔で立っていた。
「うぇっ、千里君来てたの!?」
「来てましたさ。目立ちはしなかったけどな」
 理恵の目の前に、色とりどりの小さな紙の束を突きつける。
 目を寄せ、それから千里を見上げた。
「……付箋紙?」
「いや付箋、役に立つぞ?」
 これを馬鹿にするなと言わんばかりの千里。
「市販のままでもいいが、水性・蛍光ペンから抜いたインクに浸して、目立つ色にしてもいい。
 赤は緊急、黄色は注意、青は良好。書かなくても貼るだけで伝わる。潜入・誘導、治療部隊や後方事務、進級試験でも大活躍だ」
 使用範囲は確かにわかるものの、理恵の顔は納得していない様子だった。
 その額に、青い付箋を貼る。
「シンプルでいいんだよ。
 んで、どうすんの。しいくらぶは」
「どうって?」
 付箋紙をはがしながら返した理恵のその言葉で、もうほぼ答えは出ていた。
(やはり、当初の目的はすでに蚊帳の外か)
「いや、もうわかった。少し買う物ができたんで、ちょっと行ってくる」
 そっけない言葉を言い残し、コンビニに戻っていく千里の背中に、理恵は首を傾げるのであった。
「そろそろ俺の番でいいかな、理恵」
「あ、どうぞどうぞ」
 ミハイルが卵のパックを目の前に置いた。
 ただ、そのどれも細い先端に穴が開けられていて、そこにテープが貼ってある。
「卵の中を抜き、そこに毛染め液を詰め込んでテープで蓋をした――これが何の役に立つか、わかるな?」
「あ、カラーボールの……!」
「ああ、そうだ。こいつなら作るのは簡単だし、投げやすいくせして割れやすい。それに運びやすいと来たもんだ。できればもう少し硬い容器が望ましいが、そこは二枚重ねとかでどうにでもなるだろう。
 三千円の範囲外で用意可の特殊パターン依頼で、これを使ったことがある。便利だぜ」
 前髪の分け目に人差し指を当てて、得意げな顔を理恵に見せつけるミハイル。
 だがそんなミハイルを気にせず、理恵は便利という言葉に激しく何度も頷き、手を叩いた。
「うん、これはお見事だよ! 下手すると既存のカラーボールよりも、ずっといいね!
 卵の外面に色もつけたら回避もしにくいだろうし、投げやすい割れやすいコンパクト、さらにお手頃価格でたくさん作れる!
 これはよくできましたって、報告しとくね」
 大絶賛の理恵に気をよくしたミハイルが、コトンと導火線がにょろっと伸びた調味料の小瓶を置いた。
 下の方には黒い何かがそれなりに詰め込まれていて、厚紙で仕切ったその上に赤い粉が。
「こいつについての作業工程は、ちょっと悪い子がマネするとあれだから詳しくは省くが、材料はこれだ」
 ミハイルが花火と唐辛子を見せると、言葉の意味を理解した理恵が先ほどとは一転し、苦い顔を作って頷く。
「圧力をかけ過ぎず、唐辛子とは混ぜておかないのがポイントだな。
 アウル覚醒者による犯罪制圧用だが、人型天魔にも効きそうな気がする。目がいたたた……のゲホンゲホンだぞ」
 そしてどこかに向かってビシッと指を突きつけ、「良い子は作っちゃダメだぞ!」と注意するのだった。
「確かに、これはマネしちゃいけない系だね。でも制圧用としてはそれなりにいいかも……ま、花火がない時期とかもあるから、いつも作れるとは限らないけどね」
「そうか、そういう場合もあるか……そこはまた、考え直す必要があるな」
「難しい話は終わり終わり! さ、温かいうちにお上がりよ」
 ジーナが渡してきた皿から、ほわっと温かく美味しそうな香りが漂う。
「最近のコンビニにはカット野菜や調味料が充実してて、有り難いねぇ♪」
 とてもいい匂いのする野菜炒めを、ジーナは皆へと配って歩いていた。
(あ、カセットコンロを使ったんだ。フライパンは――小さいけど何とかあった、レベルかな。今の時期だからたまたま置いてあったってレベルかもしんないけど……)
 だがそれよりも今は目の前の野菜炒めだと、箸を手に取る。
「料理の材料がいる時も、コンビニ利用できるようになったの嬉しいよね♪」
 野菜炒めの隣に、夜刀彦が季節野菜のサラダを置いて回るっていた。
「うむ、確かに嬉しい限りだ」
 同意しながらも、ミハイルは涼しい顔でも必死にピーマンを除けている。
 そしてジーナが使っていたコンロで、恵神が鼻歌を歌いながらパン粉をフライパンに落としていたのを見て、ジーナが問いかけた。
「何を作るんだい?」
「台風と言ったらコロッケなのは常識だろ! 言わせんな恥ずかしい!」
 力強くバッシとジーナの背中を叩く恵神――実際に叩かれたのは、間を通り抜けようと身を低くした夜刀彦の頭だが――は、大きな声で歌いながらパン粉をまぶしたものを次々、油の中へ投下していく。
「あげれーば、コロッケだー……」
「キャベツはどおしたの、かな?」
 叩かれた夜刀彦が頭をさすりつつちょっとした疑問を投げかけると、恵神の手が一瞬止まった。
 だがそれも一瞬の事、揚げたてのコロッケをサクサクと口に入れては幸せそうな顔をする。
 全てを揚げ終え、そして全てを食べ尽くしてから、恵神がハッとして真剣な表情を作った。
「おかしい……私のコロッケが消失している……!」
「上手に焼けましたーなのです!」
 驚愕していた恵神だが、オブリオの魔法の言葉で一気に興味がそちらへと移る。
 できたて熱々のピッツァを、オブリオが切り分けると皿に盛りつけ、それをヒロが全員に見せるかのように前へ突き出す。
「こちらが完成いたしました、ピッツァです。彩り鮮やかで、コンビニの材料だけでできたとは思えないような、とても素晴らしい逸品です」
「もうこれは、ウルトラ上手に焼けましたなのです!」
 自信満々、腰に手を当て鼻をスピスピ鳴らすオブリオ。
「ところで先生、これと依頼はどうつながるのでしょうか」
 助手の問いかけに、天高く指を掲げる。
「そんな事よりピッツァ食べるのです!」
「以上、先生からのコメントでした。それでは皆様、また来週」
 おもちゃの木琴で〆のBGM。2人は一礼し、終了――そこからはすでにオブリオのターン開始である。
 ざっくり切って、アツアツのピザにかぶりつき、その熱さに耐えながらもピザを食べるオブリオは本当に幸せそうだった。
「これなら、お好み焼きもいけそうじゃのう」
 チンピラ座りの仁斎が顔を上に向け、口をあんぐりと開けてピザを食う様はなんだか美味そうに見える。
「これも美味そうだ」
 爪楊枝で懸命にピーマンをより分けるミハイル。そのピーマンは、しっかり横のハムスター……ではなく、夜刀彦がもぐもぐと食べている。
「こういう工夫もありますのね。唯、勉強になりましたわ!
 コンビニって、とっっっても凄いところなんですね!」
 唯が手を叩いて驚嘆しているが、わざわざコンビニでやるほどでは――と、何故か誰も言わない。
「にはは、ピザの後にはスイーツもあるよ」
 やや小ぶりだがシンプルなホールケーキを手に、龍磨が輪の中に戻ってくきた。
 そしてなにやら糸を手に工作していたエイルズレトラが、怪しいほど爽やかな顔を浮かべ立ち上がる。
 その腕の中に、ペットボトルのコーラが何本も。
「ピザなら、やはりコーラですよね」
 順々に配っていくエイルズレトラだが、雑誌を手にして理恵の所へ向う千里に向けて1本差し出す。
 それを「どうも」とそれほど気にせず受け取ったのを確認すると、エイルズレトラの目が一瞬、怪しく光る。
「こちらも持っていってあげて下さい」
 そっと、自然な動きで斜めにしないようにしながらもう1本を渡す。
 そして渡すなり、ごく自然に距離を取る――まるで、いつでも逃げられるように。
 人を化かす事に長けているだけあって、不審な点に気付けなかった千里はそのまま、後に渡されたコーラを理恵に差し出しつつ、付箋を挟んだ数冊の雑誌も差し出した。
 雑誌の間から、ペットも連れて歩ける旅行計画の計画書、それにかかる費用が書き込まれた紙が落ちる。
「……色々あったからな、代わりにやっといた。お前はうちの部長なんだから、その、なんだ」
 真っ直ぐに見れないのか、顔をそむけ、ポツリと小声で付け足す。
「……抱え込むな」
 言ってしまってから「あっ」と口を開き、さらに「仕事をだ」と付け足すのだった。
 だが理恵にとっては意図がどうであれ――笑みをこぼすのに、十分すぎた。
「ありがと、千里君」
「じゃ、部活行ってくるわ」
 理恵の顔も見ようとせず踵を返し、後ろ手を振って、そそくさと足早にそこから去っていく。
 千里の背中に手を振り、見送る理恵。その後ろ姿にほんのり、鼓動が早まる気がした。
(失恋の痛みを、上書きしてくれるかもね)
 そんな事を思い浮かべ、それはないかと頭を振りながらコーラを開ける。
 やたら軽い手ごたえ、そして錠剤のようなものがコーラに沈んでいったと思った瞬間、盛大に吹き出した泡が理恵の顔に直撃。それどころか全身を濡らし、髪からぽたぽたとコーラの雫が垂れる。
「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ……」
 ペットボトルを握り潰し、低い笑みを漏らす理恵に、誰1人として声をかける事が出来ない。
 即座にレシートを確認し、コーラと、それと一緒に買っている糸とミント系ソフトキャンディーでおおよそトリックに検討を付けた。
 そして領収書の名前を確認し、叫ぶ。
「マァァァステリオ、くぅぅぅん!?」
 本人はとっくに影も形もない。だが、何となくどこか物陰から覗いているのかもしれない。
 理恵の木霊する声に交じって、エイルズレトラの高笑いも聞こえたような気がする、暑い夏の午後であった――



コンビニ知り隊  終
※あくまでも理恵の主観のため、他の依頼でも確実に作れるとは限りませんので、ご了承ください


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
災禍祓いし常闇の明星・
東城 夜刀彦(ja6047)

大学部4年73組 男 鬼道忍軍
おまえだけは絶対許さない・
ジーナ・アンドレーエフ(ja7885)

大学部8年40組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
狭間 雪平(ja7906)

大学部6年254組 男 鬼道忍軍
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
常識は飛び越えるもの・
海城 恵神(jb2536)

高等部3年5組 女 ルインズブレイド
学園最強パティシエ・
秋津 仁斎(jb4940)

大学部7年165組 男 阿修羅
優しき心を胸に、その先へ・
水無月 ヒロ(jb5185)

大学部3年117組 男 ルインズブレイド
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター
アツアツピッツァで笑顔を・
オブリオ・M・ファンタズマ(jb7188)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプB
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
ブラコンビオリスト・
唯・ケインズ(jc0360)

高等部2年16組 女 ルインズブレイド