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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/06


みんなの思い出



オープニング

(何を以て陥落とするか……護れなくなった状況とするなら、やはりこれだな。さて、いつに攻めたものか――)
 夜の闇に紛れ、カメラの死角から撃退署の様子をうかがう真宮寺 涼子(jz0249)。
 たまに傍を人が通るのだが、彼女に気づいた様子がない。
(多少の切り崩しはできたが、それでも予想より人が残ったものだな。仕込みの補充もしたかったが、シェインエル様をそこまで当てにするわけにもいかん)
 ほうと白い息を吐く。
 撃退士達の顔を思い浮かべ、そして今現在も残っている撃退署の署員の顔を思い浮かべると――自然と唇を、痛いほど噛みしめていた。
 次々と思い出される、苦々しい過去。
 破壊される街。逃げ惑う人々と同僚。なかなか来てくれない撃退士達。そんな中でも必死に、逃げ遅れた人がいないか捜してまわる自分に訪れた、生命の危機。
 それを助け出してくれたのが、天使だった。
 そして助けてくれた天使はこんな強硬手段ですまないと詫びを入れ、天使を前に萎縮も畏怖もしない自分に笑顔で言ってくれた。
「気に入った。お前さん、俺の女になれ」
 それが共に来いという意味なのだと理解するまで、面を食らったような顔をしていた涼子であった。
 その言葉とその時の笑顔はこれまでにも何度となく思い返し、色褪せる事の無い記憶。
「ダルドフ様……」
 頬に当たる冷たい感触に、ハッと目を開ける。
 涙でも出たのかと拭ってみるが、そうではない。
 天を仰ぎ見ると、ふわふわと落下してくる白いモノ――雪だった。
 それは徐々に勢いを増し、夜の街が白く染まる。それでもアスファルトに落ちた雪は瞬時に溶けて消え、積もる気配は感じさせない。
 季節外れの大雪。足下に気を付ける必要もなく、視界だけが悪くなる最高に最悪な状態。
「絶好のチャンス、ということか」
 その場で動かず、上空にいるはずのヤタガラスへと思念を飛ばし、命令を伝えるのであった――

「東西、ほぼ同時にサーバントの目撃情報あり! 残っている署員は速やかに、現地で住民の避難指示にあたってください」
 今日も家へと帰らずに居残ってモニターを見ていた御神楽 百合子(jz0248)が、街の色々な箇所に取り付けられた防犯カメラに映る、倉庫の壁を突き破って出てくるサーバントを確認するなり、署内放送を流した。
 しかしその顔はあまり芳しくなく、すぐに立ち上がるとロッカーから雨合羽を引っ張り出す。
(果たしてどれほどの人が動いてくれるのか、わかりませんけどね……!)
 口に出しはしないが遠方から来た彼女からすると、ここの署員達の評価はずいぶんと低い。ちらっとした脅しや、多少の危険にすぐ怯んでしまう彼らに、呆れていたりするのだ。
 足早に廊下へ飛び出す。
 すると目を丸くさせて、足を止めてしまった。
 廊下を走ってやってくる署員達。玄関からは家へ帰ったと思ったはずの者も、コンビニの袋を下げて次々にやってくる。
「御神楽さん、現場の正確な位置を!」
「みなさん、どうして……?」
 自分もここに居るというのにもかかわらず、それでもその質問を投げかけてしまう。
「ここは自分達が守るべき所――外部の奴らばっかりに見せ場なんて、これ以上は作らせない!」
「と言っても俺達にできるのは、避難させることくらいだけど――それでもやれる事をやらなければいけないんだ」
 今までとは目の色が違う。
 いや、これが彼らの本来なのだろう。気の抜けた連中はほとんどがいなくなった今、感化されて気が抜けていた彼らも、ようやく自分の姿を取り戻したのかもしれない。
「だから御神楽さんはここに残って、俺達に指示を出してくれ」
 目頭が熱くなる――だが、泣いている暇などないのだ。
「わかりました。全員、通信を常時聞き取れるようにしておいてください」
 威勢のいい返事と共に、一斉に署員が外へと出る――が、すぐにたたらを踏む。
 正門に佇む真宮寺 涼子の姿に、覚悟を決めているはずの彼らでさえも止まらずをえなかった。
 さすがにそれを、百合子は責める事などできない。自分だって確実に足を止めたであろう。サーバントよりも危険な相手を前に、無謀な突撃など、本当にただの無謀でしかないのだ。
「大人しくしているのだな。もっとも、大人しくしていても怪我をさせないだけで、この施設の設備は破壊させてもらうがな」
「やらせはしないよ」
 2階の窓を蹴って降りてきた白萩 優一が、涼子の前に立ちはだかる。
「顔をあげて前を向け! 怯まず、僕らを信じて突き進んでください!」
 優一が喝を飛ばし前へと駆けだすと、下がりかけていた署員達が頷き、一斉に走り出す。
「御神楽さんは撃退士達に状況説明を!」
 珍しく盾を手に、優一も駆け出す。
 雪国出身なだけあってか、視界が狭まるからとあえてゴーグルをつけずに目を細め、涼子の動きに注意しながらの突進。視線を追い瞬時にその方向へ切り返すと、銃が撃たれる直前、盾を弾道上に乗せていた。
 力などろくに入れられない腕が、弾かれる――が、弾丸をきっかり地面へと逸らし、自身はコマの様に回転して衝撃を逃がすと足を止める事無く突き進む。
「そんな身体で1対1を望むか」
 ナイフを引き抜く涼子。優一とその後ろの署員達に目を配ると、どことなくその表情は面白くなさそうだった。
「あいにく、勝つ気はないんでね」
 ナイフの一閃。
 それが届かない範囲で一瞬だけ足を止めた優一が、かわされるのを見越して足を狙い蹴りを放つ。予想通りかわされるが、その蹴り足を軸足に切り替えて、1歩踏み込んだ後ろ回し蹴りを喰らわせた。
 足に激痛――ナイフの刃で受け止められたが、筋肉に力を込め、お構いなしに涼子を押し飛ばす。
「今のうちに!」
 言われるまでもなく、優一の後ろを通り抜けて署員達が門から次々と。向かう先は当然、サーバントの暴れている地域だろう。
(よし――あとは彼らが来るまでの時間稼ぎをするだけだッ)
 足の痛みを意識的に忘れるようにしながら、涼子との距離を詰めるのであった――


リプレイ本文

「あの女が真正面から……チッ、悪羅悪羅ソウルがうずきやがる」
 舌打ちをするメンナクこと命図 泣留男(jb4611)が現場に着くなり、正面へと急ぐ。
「こうやって、正面から出てくることそれ自体が最大に欺瞞かもしれないな……裏を読ませて、そのまま表? 警戒しすぎもよくはないか……?」
 並走するアルジェ(jb3603)が懸念を口にする。
「ふっ……ガイアが俺に囁くぜ。ポーンやナイトではなく、狙うはキングだとな」
 走りながら、しばしの沈黙――メンナクの言葉がようやく、自分の懸念に対しての物だと気が付く。
「優一が狙いか……?」
 大振りの白い扇子を手に取り顔の前にかざすと、相対している優一と涼子の間へ投げつけた。2人が大きく退き、その間へ割り込むアルジェ。
「優一、伏兵がいるかもしれない。裏や署内の警戒を頼む」
「――わかった」
 素直に油断なく退く優一を、涼子が追おうとする。だがその進路をアルジェが塞ぐと、足を止めた。
 その隙に、通りきれなかった署員共々署へと下がっていく優一達。
 メンナクの手から小さな光が生み出され、優一へ吸い込まれていく――と、優一の足の傷が塞がっていく。
「いいか、俺は見ての通り清らかなる癒し手……怪我なら俺が癒してやる、だから恐れるな!」
 阻霊符を輝かせ、優一の影を強く踏み込むとビシッと影へ指を突きつけた。
「闇に潜む魑魅魍魎が、お前達を見ているかもしれない――熱きシンパシーで乗り越えろ」
 何を言われているかわからない署員達だが、言葉を反芻していた優一だけは何となく分析できた。
「つまり、ダークストーカーがいる可能性も考慮して、お互いに影を警戒しつつ守りを固めてどうにかしろと」
「フッ……それとガイアが囁くには、あの女が射止めんとしているのはキングやクィーン――お前らの伊達ワル力に期待してるぜ?」
 ぐいっと、携帯番号と緊急時に召喚せよと走り書きしてあるメモを渡し、一定の距離を保とうとするアルジェと涼子の元へ走り出す。
「認めはしない! お前の悪しき誘惑、この俺の伊達ワル力で雲散霧消!」



「あたし、参上です〜!」
 人のいない野球場から人のいる街道へ動き出したサーバント達へ、頭にライトを装着し、光纏の光が7色に変化し続けている森浦 萌々佳(ja0835)が駆け込む。
 ヤタガラス達と燈狼の視線が一斉に萌々佳へと向けられる――が、セレナイトヴァルキュリアだけは目もくれず、フレイルを避難誘導に来た署員へ向け、振るおうとしていた。
「被害は、増やしません〜!!」
 署員を包み込むアウルの翼――それがフレイルを受け止め、萌々佳が一瞬だけ苦悶の表情を浮かべ膝が落ちそうになる。
 だが、踏み止めて笑みを作り直した。
(同時襲撃なんて性格悪いですよ〜! 戦えない人達も闘ってるんです! その意志消させはしません〜!!)
 その意志の強さが、踏み止まらせてくれたのだ。
 それと。
(あなただけには絶対負けません〜!!)
 セレナイトを睨み付け、モーニングスターを握る手に力が篭っていく。
 萌々佳へと突撃してくるヤタガラスが1匹、空中でパッと羽を散らし、地面へと崩れ落ちた。
 そしてその直後、建物の影に身を潜める人物が。
(確かにこの雪で見えにくいが、当たらないほどではない)
 闘争心が沸き立ちながらも冷静さを保ったまま影野 恭弥(ja0018)が分析、またも飛びだしてはヤタガラスを撃ち落し、影へと潜む。
「さっさと片付けて、撃退署のサポートに回らないとね」
 アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)が小声で呟き、唇を湿らせるとアサルトライフルで署員を狙ったセレナイトに鋭い一撃。
 直撃してたたらを踏むが、それでもお構いなしにフレイルを再び署員へ振るおうとする。一切、撃退士に目を向けない。
「あたしは、みんなを護ってみせます〜!」
 先ほど肩代わりした傷が少しずつ癒えてきた萌々佳が、またもアウルの翼で署員に当たるはずのフレイルを受け止め、短く呻くも、足を止めずに前へ出る。
 目の色を変え、萌々佳へと飛びかかる2匹の燈狼――高速で飛来してきた棘付の鉄球がその身体をくの字に曲げさせると、2匹をまとめて吹き飛ばした。
 1匹はピクリとも動かず、もう1匹は立ち上がろうとしたところをレベッカが確実に仕留める。
「勇ましいものだわ」
 モーニングスターを振り回し先陣を駆け、燈狼やヤタガラスを引き付けながらも署員とセレナイトの間へ割り込もうとする萌々佳に、レベッカは関心しきりであった。
 3匹目のヤタガラスを撃ち落し物陰に潜む恭弥だが、その背筋に冷たいものが走り身をよじる。その直後に、脇腹が裂ける感触。
 背を預けていた建物の暗がりから鋭く黒い錐が伸びているのを見るなり、痛みに顔を歪める事もなく、その身を黒く染めると淡々と錐の根元に銃口を突きつけ、引き金を引く。
 弾け飛ぶ黒い物体。
 頬についたそれを手の甲で拭い、何事もなかったかのように次の標的を求め、離れてきた味方との距離を縮めるのであった。
 3度、セレナイトのフレイルが署員に向けられるが、その先端を横から伸びてきた鉄球が弾く。
「やられちゃいなさい〜」
 セレナイトとの間に割りこめた萌々佳が振り返り、追いすがる燈狼へ縦に振り下ろす。
 鉄球に押し潰され、新たな肉塊へと変えられた燈狼の横を通り抜けるヤタガラス。いつの間にか萌々佳の7色に輝く光纏が消え去っていた。
「……そこ!」
 ヤタガラスではなく、その通り過ぎ去った後の建物から伸びている影へレベッカが狙いを定めて撃つ。
 抉り取られるアスファルト――と思いきや、その上に覆いかぶさるように身を潜めていたダークストーカーが、破裂する様に弾け飛んだ。
 レベッカを通り過ぎ、急上昇を始めるヤタガラスだが、恭弥の銃弾によって虚しくも散っていく。
 1匹が遠吠えを繰り返し、その姿がぼんやりとはっきりしないものとなった燈狼がレベッカに飛びかかってくるとアサルトライフルで迎え撃つ。
 しかし手ごたえがなく、その牙が襲い掛かってきた。
「この距離ならこれかしらね」
 アサルトライフルからトレジャーウィップに持ち替え、後ろへと下がりながらも縦に打ちつけると、燈狼が地へと平伏す。そこにまた持ち替えたアサルトライフルを撃ちこみ、仕留める。
 そしてその距離から、署員へ疾走する燈狼の頭部を鋭い一撃で貫くのであった。空を飛ぶヤタガラスも同様に、撃ち貫かれる。
 鉄球とフレイル、それが空中で衝突しあう。
 再び激突かと思ったそこに、セレナイトの視界を妨げるようなレベッカの一撃が。
 空を切り地面を叩くフレイル。その隙に回り込み、背中へと鉄球をめり込ませる。
「まだまだですよ〜」
 さらに脇腹へと打ち付け、身体をくの字に曲げさせるが、まだその動きを止めようとしない。
(しぶといな)
 ヤタガラスを全て撃ち終えた恭弥が対戦ライフルをどっしりと構え、狙いを定めた。
(これくらいなら――当たる)
 戦車を思わせる激しい轟音が空気を震わせ、くの字だったセレナイトがのけ反るどころかそのまま地面へ叩きつけられるように後頭部を打ちつける。
「鈍器の力、自分で味わいなさぁ〜い!!!」
 高速で振り下ろされる鉄球がセレナイトの顔面にめり込み、アスファルトを陥没させる。
 さすがにそれっきり動かなくなったところで、やや驚愕している署員と住民へ笑顔を向けた。
「大丈夫ですか〜?」
 身を挺して署員を護ったその姿は、紛れもなくヒーロー。いや、女性であるからヒロインとして映ったであろう――



「一瞬で終わらせてやるぜ」
 やってきた署員により状況を知り、人々が避難を開始する駅前広場の、放置されている車の影に身を潜めているラファル A ユーティライネン(jb4620)が不敵に笑う。
「一瞬かどうかはわかりませんが、手早く数を減らしていきたいところですねー」
 着物を襷掛けにし、髪を首の後ろで1つに括った澄野・絣(ja1044)もその隣で、弓を手に待ち構えていた。
(とりあえず状況を変えるには、真宮寺涼子かサーバントのどちらかを素早く撃退しないといけないのか……真宮寺涼子が時間稼ぎに来ているのだとすれば、サーバント撃退を優先かな……? 難しいところだけど)
 一抹の不安を抱えながら永連 璃遠(ja2142)が、近くを通りかかった署員にその旨を手短に説明し、それから2人とともに遮蔽物を経由して、気づかれないように前へと進む。
 やがて駅前広場に姿を現した、ヤタガラスに大燈狼。
 確認するなり阻霊符が光り輝き、ラファルが身体の偽装を解除。余分な装備も解除し、より身軽でより戦いに適した形態へと移行する。
 もはや敵との距離はそれほどないと悟ると、一気に躍り出た。
「このラファル様が来たからには、てめえらの好きにはさせねーぜ」
 3方へ散らばる動きを見せる大燈狼。
 その動きを先読みし、甲高い音を立てて飛来する絣の矢が大燈狼の足を止めさせる。
 もう1匹には璃遠が距離を詰め、白色の鞘から曲刀を抜刀すると、アウルの刃が大燈狼の行く手を阻む。
 その間にラファルが、敵陣の真っただ中にまで移動していた。
「俺式ロケットアーム『ヘカトンケイル』、展開!」
 ラファルの背中から無数のロケット推進式メカアームが出撃し、大燈狼もヤタガラスもまとめて拘束する。
 ただ、距離を保っていたエメラルドヴァルキュリアだけはその範囲に入る事が無く、淡々とボウガンを向ける――署員へと。
「させませんよー」
 後方で敵の動きに注意を払っていた絣がいち早く気づき、署員の前に壁となるように動きだす。
 放たれたボウガンの矢は扇状に拡がる。
「おらよっと!」
「う……!」
 身をよじったラファルを掠め裂傷を作り、かわし損ねた(というよりはかわすと住民に被害が出ると思った)璃遠の肩に深々と突き刺さった。
 そして署員に突き刺さる――その前に、花吹雪が如きアウルを纏った絣が立ち塞がり、その腕で矢を受け止める。
「つっ……!」
 だが残った矢が署員の足へと突き刺さり、痛みに耐性が無い彼らは大声で苦悶する。
 腕から血を流しながらも、絣がエメラルドを睨み付けた。
「ここから先には行かせませんよー」
「つーか、とっととやられとけ! 俺のブライトネスフィンガーは百万CDだぜ!」
 ラファルの掌から輝く超高圧のアウルが放たれ、束縛された周囲の敵を薙ぎ払う。
 ヤタガラスがことごとく蒸発するように消え去り、大燈狼がその身に焼けただれたような痕を作り上げる。
「おら、もういっちょだ!」
 さらにもう一周。
 焼けただれた痕をさらになで斬りにされた大燈狼達は、2発目に耐え切れず、ずるりとその身を2つに分けるのであった。
 何もさせずに一方的にまとめて終わらせる。理想的な状況である。
 残されたエメラルドが横へと移動し、ボウガンを構える。だがその移動を遮る形で、矢が地面へと突き刺さった。
 足を止めたその隙を、璃遠が見逃さなかった。
(距離を取られたら厄介なら……!)
 アウルが脚部に集中――爆発的な加速で一気に懐へ飛び込むと、本来は戦う事を好まないため控えめな闘争心を沸き立たせ、銀の刃を一閃させる。
 易々と翠玉の鎧を斬り裂き、肉へと到達するがそこまで止まり、血を流しながらも距離を取ろうと退くエメラルド。
(距離は取らせませんよ!)
 退く速度よりも早い速度で踏み込み、抜刀。ボウガンごと腕を切り落とす。
 それでもまだ足を止めないエメラルドだが、常に回りこむように移動していたラファルが横からぬっと現れた。
「はい、ごちそーさん!」
 古びた刀を高々と振り上げ、肩から足まで一刀両断にするのであった。
 そして絣が璃遠へ向け――いや、璃遠の影へ向けて矢を放つ。
 甲高い音を上げる矢が、影に潜んでいたダークストーカーを射抜き地面に縫い止める。もがき苦しむその姿を見下ろしながら、ラファルが足を振り上げた。
「とっとと、くたばれってんだよ」



 一定の距離を保ちつつ、距離を詰められそうになると徹底してカウンターでさせずに膠着を図るアルジェ。2発ほど攻撃を貰っているが、それはメンナクがきっちりと癒していた。
「お前の過去に何があったかは知らないが、護ると言った以上、好き勝手はさせない」
 目的を探ろうと、言葉を投げかけ続けるもやはり無視される。時折視線を逸らしてアルジェの視線を誘導させようとするが、警戒済みである。
 そしてアルジェは耳からだが、メンナクはというと、その意思そのものに直接語りかけていた。
(また俺の伊達ワルぶりに見とれにきたのか?)
 反応はしてこない。
(だがこの俺のピュアソウルは、小細工を弄するオンナを受け入れない)
 心なしか、表情を崩さぬ涼子の眉間にシワがある。
(すまないな……せめてクレバーに抱きしめてやろうか!)
 耳からの情報は意識的にシャットアウトできるにしても、意思への語りかけは聞き流すしかない。そうするには、何とも言い難いほどの言葉の連続。
 そのためか涼子の動きは苛ただしげで、いつもより精細さを欠いていた。
 だからこそ、アルジェ1人でもなんとかなっているのだろう。
 ただ。
「お前は何を躊躇っている?」
 先ほどからずっと、涼子の攻撃が消極的なのを感じ取っていた。
「俺という黒騎士の悪羅悪羅ソウルに惹かれたのなら、来いよ」
 両腕を広げるメンナクを一瞥し、アルジェに視線を合わせると、その唇が動く。
「……お前らは元とは言え天使様。なぜ人類に加担する。
 そんなやつらなぞ、見限ってしまえば楽だろう」
「種族など、関係ない。護りたいから護る――全てを助けることはできずとも、目の前にいる者を見捨てるなどしない」
 険しい顔をする涼子。
 両腕を広げていたメンナクが、サングラスのブリッジに指をかける。
「例えこの身が天使でなくとも、俺はソウルに耳を傾け、迷い子を護るのが使命なのさ」
「そんな事をしても、見返りなぞないというのに……!」
 唇を噛みしめる涼子だが、車の接近する音に気付き、後ろへと目を向けた。
 車から身を乗り出した恭弥の銃口が、涼子の後頭部を狙う。
 それに反応できた涼子がかろうじてナイフで受け流すが、もう1台、ラファルの運転する車が突っ込んでくる。
 地を蹴り、ボンネットの上を跳躍し身をひるがえした。
(……やはり手札が足りなかったか。まあいい)
 着地と同時に繰り返されるレベッカと絣の追撃に退きながら、全力で後退を開始する。
(1ヵ所だけは被害が出せた。これでここはさらに手薄となる――頭に退場してもらうのは無理だったようだが、まだ時間はある)
 次の算段を考えながら去っていく涼子の背に、メンナクが仰々しく腕を天にかざす。
「お前らの目論見、俺のソウルがお見通しだぜ? 次こそはクレバーに抱きしめたくなるようなオンナになることだな!」




【神樹】顔をあげて前を向け!   終


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 仁義なき天使の微笑み・森浦 萌々佳(ja0835)
 日月双弓・澄野・絣(ja1044)
 ソウルこそが道標・命図 泣留男(jb4611)
重体: −
面白かった!:9人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
仁義なき天使の微笑み・
森浦 萌々佳(ja0835)

卒業 女 ディバインナイト
日月双弓・
澄野・絣(ja1044)

大学部9年199組 女 インフィルトレイター
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
ソウルこそが道標・
命図 泣留男(jb4611)

大学部3年68組 男 アストラルヴァンガード
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
風を呼びし狙撃手・
アルベルト・レベッカ・ベッカー(jb9518)

大学部6年7組 男 インフィルトレイター