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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/02


みんなの思い出



オープニング

 夜の闇に紛れ――る事なく、昼間から堂々と仙北市街を歩いている金髪のやや大柄な男性と、黒い髪の冷ややかな眼をした女性。
 雰囲気が住民のそれとは明らかに違うのだが、それでも通行人達はさして気にしていなかった。撃退士かなと思う程度で、まさかそれが敵対している天使や使徒だとは思いもしなかった。
「平和ボケ、というわけではなく、これが慣れというものなのだろうな」
「そういう事です。緊張感を維持する事は可能でも、最大限の緊張感には程遠い。それが今現在、ここの様子です」
 女性の方は歩きながら視線は動かさずに周囲の様子をまんべんなく、窺っている。それのわりに、男性の方はそういう事をする気が無いのか、やや上向きにただ前を見ていた。
「それが撃退署にも浸透している、そういうわけか」
「Ja。だからこうやって歩けるわけです。市内の見回りも、ごく狭い地域しかしていませんので。
 今現在がどういう状況かという危機感が、まるで足りていない」
 足を止め、ここからは見えないが撃退署のある方角へと冷ややかな眼を向ける。
「お前達の油断とぬるさ、穿らせてもらう」
(制圧こそできなかったものの、そのために仕込んだのだからな)

 御神楽百合子(jz0248)が数日篭りきりだった資料室から出てきた時、最初に感じた違和感は、撃退署の室内を見回した時だった。
 もともと、広さのわりに人数が少ないな、とは思っていた。だが今はそれに輪をかけて、少ない。
 不審に思って尋ねようと、同僚の背に声をかけた。
 するとビクリと肩を大きくすくめ、恐る恐る振り返る。その顔は強張っていたのだが、百合子の顔を見るなり、少しだけ安堵の表情へと変化した。
(何かに怯えている?)
「ああ、御神楽さんか……」
「そうですが、どうかしたんですか? それになんだか閑散としていて、他の署員の方達はどうしたんです?」
「……みんな辞めたり、別の地域に転任してったよ」
 その答えに百合子は首をひねる。
「どうして、いきなり?」
「どうもここ最近、署内では何もないところで怪我をするとかの怪奇現象が起きてて、みんな怯えてしまってね……」
「へぇ。怪奇現象ってのは不思議な話ですね」
 背中からの不意に声が聞こえ、まったく人の気配に気づけなかった署員と百合子は2人そろって、肩を大きくすくめてしまった。
 ただ声には覚えがあり、2人は顔を見合わせ後ろへと顔を向けると、ここしばらくずっと入院していた仙北撃退署アドバイザーとも言えるフリーの撃退士、白萩 優一が2人の様子に首を傾け立っていた。
「どうかしたかな?」
「いえ。まさか来るとは思いもよらず、驚いただけです」
 驚いたのニュアンスは違うのだが、悟られまいと努めて平静を装う。
「退院できたんですね」
「まあね。といっても、肩がこれ以上上がらないからポンコツのようなもんだけど」
 両肘を肩の高さまで掲げ、肩をすくめる。
「それはそうと、不思議な話とは?」
「本物か偽物かはともかく、天使も悪魔もいる世の中ですよ? 不思議な怪奇現象ではなく、何かしら関わりがあると考える方がとても自然な気がするんだよね」
「ええ、そうですね」
 百合子はさも当然と答えるのだが、署員の方はというとまるで思い至らなかったと言わんばかりに大きく口を開け、何度も頷いていた。
「悪い虫が潜んでいる。それに怯えてここの人員がどんどん減る。ついでに士気もどんどん下がっていく。
 どう考えても敵側が何か仕掛けているとしか思えないんだけど、思いつかないものなのかな」
「思いつくような方々は、だいたいもっと厳しい地区に回っていますからね。仕方ないです」
 暗にここの署員はぼんくらばかりだと辛辣な事を言われたのだが、事実、そういう考えが全くできていなかった署員は押し黙るしかなかった。
 鋭い目つきで署を見渡す優一。
 調べ物をするでもなく、コーヒー片手に談話する署員がいたり、部屋の隅できょろきょろと無駄に何かを警戒しつづけている署員がいたり。
 しばらくして頭を振る。
「さすがに見ただけでは何がどうなってるかまではわからないけど、どうにかしなきゃいけないね。原因だけでなく、この署内の空気も。
 タイミング的にどう考えても、この前の襲撃時に何か置き土産があったという所だろうけど――」
「どんな置き土産かは、おおよそ察しがつきます。ただ対処がどうするか、という話ですけど」
 そこかしらにある影に目を向ける百合子――口元に人差し指を持っていき、軽く噛む。
「こんな状況で資料室にいたにもかかわらず、私は何もなかった――何故? 扉が開けれなかったから? でも透過すればいいだけの話。透過しなかった、いや、できない? 何かに特化させるため、そんな風に作られたのか……」
 ぶつぶつと呟き続け、優一に顔を向ける。
「今夜にでもすぐ退治しようと思うんですが、いけますか」
「急だなぁ――ま、今の状況で言えば悠長なことは言ってられないか。他の署員は、帰した方がいいね」
「ええ。わかっていて警戒さえしてくれるなら問題ないのですけど、今からそれを教え込むのは面倒ですので――というわけでスミマセンが、皆さまにお帰り願うよう伝えてもらえますか?」
 言われた署員は実に不愉快そうな顔をするのだが、それでもしぶしぶ頷くと他の署員へ声をかけに行く。
(言い方とかってものが、あると思うんだけどね)
 丸まった背中を気の毒そうに見送り、それから自分も動き出す。
「僕の方から署長には話しておく。それと、僕1人じゃまず間違いなくどうしようもないから、応援も呼んでもらおう」
(こんな事なら光平君を学園に帰すんじゃなかったな)
 この地域の危険性を感じ取り、その危険に立ち向かうには能力不足だと感じ取った従兄弟を学園に帰した事を今だけ少し悔やんだ――が、それも一瞬の事。すぐに切り替えて、署長室へと向かうのであった――


「大小さまざま、トイレも含めると60ほどの部屋があるこの建物。もちろんどの部屋にも物はあり、影を完全に消し去るのはとても困難。
 加えて、敵はおそらく壁などはすり抜けれない、影に潜むタイプであろうという不明瞭な点しかわからず、数も、その性能も不明。
 もちろん、どこにいるとかそういうのも現時点では不明――ですが、それでもなんとか今夜中にはケリをつけたいのです」
 説明に都合がいいと、使い続けていた1階の第一資料室で説明を続ける百合子。
「署内に天魔がいる。この事実は今の署員達にとっては衝撃的すぎる事実でして、下手をすれば明日から来ない人が多数出てしまう状況で、のんびり日数なんてかけていられません。
 ということで、索敵、殲滅をよろしくお願いします、みなさん」
「どうやって殲滅が完了したのかを確認するか、それも難しい問題だなぁ……ま、兎も角君達に任せたよ。僕は今夜の拠点となる此処で、頑として帰ろうとしない厄介なご婦人の護衛をしなきゃいけなくなったからね……っ!」
 がっつり足を踵で踏まれ、一瞬声が曇ってしまう。だがそれでも、にこやかな顔を崩さない。
「建物内にある道具は基本的何でも使っていいと署長から許可は貰ってあるから、ある物は好きに使って構わないよ。ないものはないから、無理だけど。
 それと多少の被害は目をつぶるとは言ってくれた――けど、一応気をつけてね。部屋が使えなくなるほどの大惨事になるのはちょっとね……それじゃ、がんばって」



リプレイ本文

 レグルス・グラウシード(ja8064)が頷き、息まく。
「撃退署のおそうじですね……がんばります!」
「おそうじ? ミーはちょっとしたサーバントの撃退と聞いてますネ」
 顎に手を当て、片眉を吊り上げる長田・E・勇太(jb9116)。
 大量に購入してきたガムテープでジャグリングをしていたエイルズレトラ マステリオ(ja2224)はそれを聞いて、手を止めた。
「大差ない話ですよ。小物サーバントを掃除するだけなんですから」
「そうだな。ただ、こそこそこそこそ……めんどくさいなぁ」
 正直な感想を漏らすゼロ=シュバイツァー(jb7501)へ、親指を横に立てた藤井 雪彦(jb4731)が舌を出す。
「地道に調査するしかないね♪」
(でも女の子とペアじゃないし〜御神楽さんに良いとこ魅せる方向性で頑張ろう……うん☆)
 きらりと歯を見せて笑顔を百合子に向ける――が、百合子はアルジェ(jb3603)に付きっきりである。
「まさか、鼠を仕込まれてしまうとはな……次善の策をきちんと用意してる辺り、さすがの周到さということか」
「それだからこそ、任されているんでしょうね」
「まだ本調子ではない優一には一刻も早く、調子を戻してもらわないといけないな……恐らく再襲撃は近いだろう」
 肩の上がらない優一へと目を向けると「そうしたいところだね」と苦笑していた。
「ま、早いとこ終わらせましょうや。下の階は頼んますね、藤井さん☆」
「お任せ☆ さぁて、効率を上げるために皆集まって〜♪」
 言われるがままに雪彦の周囲へと集まる――と、雪彦が印を切った。
 すると全員の脚に風が纏わりつき、脚の軽さが楽しいのかレグルスがピョンピョンと楽しそうに跳ねる。
「わはー! 軽い軽い! 行ってきまっす!」
 軽やかな足取りのレグルスが廊下へと跳び出していくと、ゼロは再び上を見上げた。
「ほな、先行っとくで!」
 地を蹴り机を蹴ると闇の翼を広げ上へ飛びあがり、身体は天井に傷をつける事無く吸い込まれていく。
 廊下を疾走し、3階を目指すレグルスも十分に速いが、それよりも先にゼロは3階に到達していた。
「じゃあ僕らも行きますか」
「そうだな」
 エイルズとアルジェも、2階を目指し走り出す。
 残った雪彦と勇太――勇太が廊下を指さした。
「ミー達も行きますカ」

 一足先にたどり着いたゼロがすぐに阻霊符を取出し、アウルを流し込む。
「まずは戸締りか」
 廊下へ出ると、戸が閉まっているかチェックしに歩き出す――と、やや息を切らしたレグルスが駆けこんでくる。
「お早い到着やね」
「すごく軽やかでしたから!」
 それから2人で戸締りの確認と、人が残っていないかをまず入念にチェックしていた。
 そして所々、消えている部屋の照明を点けて回る――が、その際にゼロは怪訝な表情を浮かべていた。
(照明は全部、点けておいてもらったはずだが。そう俺も頼んでおいた)
 だが所々が消えているという事実は、何かがいるのだと確信させてくれる。
「生き物がいるかどうかチェックしますね!」
 目を閉じ、意識を集中させるレグルス。その周囲にアウルが漂い、波紋となって拡がっていく。
「ゼロの気配……他に4つ、感知――いや、もう1つゼロのすぐ近くに感じます……!」
 次の瞬間、ゼロは体を捻っていた。
 そこを小さく細い、黒い錐が掠めていく。
「残念、警戒済みや!」
 昔からの癖で影から狙う殺気に敏感だったのに加え、背後と腰から下を最初から警戒していたゼロが悠々とかわし、カラースプレーを吹きかけた。
 着色された錐が収縮を開始し、平べったい小さな楕円形になるとゼロの影に隣接している物の影へと移動する。
 そこへゼロが手にした強力な灯光器を照らし、影を消し去った。すると着色された楕円形のそれはぶるぶると震え、どこかに移動しようとすらしない。
「そーれ、お掃除です!」
 ロッドを振るうと物理的ではない力がそれに重くのしかかり、それは破裂するように潰れる。
「あーこちらゼロ。今1匹退治したところだが、敵はやはり陰に潜んでいる」
「発見場所は廊下、ゼロの影に潜んでいたよ。5cm位の小さな楕円形の黒いヤツだったね」
 ハンズフリーにした携帯で状況を説明すると、携帯からは「奇遇ですねぇ」という声が流れてくるのであった――

「ああ、何だか探検みたいでワクワクしますねえ。 いつもキ○○イみたいに強い連中と戦ってますが、たまにはこういうのも良いですねえ」
 照明が消え、暗い2階の廊下の照明を点けて回りながら、足音はしないが不思議な歩き方で歩くエイルズが呟いた。
「変わった歩き方だな」
 おどけたような歩き方だが、人界にまだ疎いアルジェには変わった歩き方程度にしか感じない。
「祖母から教えてもらった歩法なんですよ」
 その回答に「そうか」と短い返事をし、思考を切り替えた。
 視線は、消えている照明に向いている。
(照明は点けてもらいっぱなしで帰ってもらったはずだが……やはり『いる』のか)
 窓の施錠を確認し、開いているところは閉める。施錠しても古い建物だけあって、引き違いの窓からは隙間風が微妙に入ってくる。
 それをガムテープで隙間を塞ぎつつ、探索していた。
「おや……向こうは照明を全部、点けたはずですけどねぇ」
 エイルズの言葉に振り向いたアルジェ――確かに消えていた。
 顔を見合わせゆっくり頷くと、物陰に気を配りながら照明が消された区間までやってくる。
 ロッカーの影にかぶさっている照明のスイッチに、エイルズが手を伸ばす――
「……エイルズッ」
 お互いの死角を補い合っていたアルジェの鋭い声に、エイルズの鋭い目は窓ガラスへと向けられ、自分の背後で伸びてくる黒い錐を確認した。
 振り返るエイルズ。
 その腹へ黒い錐が突き刺さった――と思ったその瞬間、エイルズの姿はトランプに成り代わり、崩れ去る。
 攻撃に失敗して収縮を開始する錐の後ろから、ペイントボールがぶつけられた。
 小さな楕円形のそれを見て、背後に立つエイルズは口元に笑みを浮かべる。
「おやおや、貧相な姿ですねぇ。なるほど、子供のいたずらみたいな被害しか出ないわけだ」
 その貧相な姿が動き出す前にカードが突き刺さり、その活動を止めるのであった。
 デュエルカードを構えているアルジェが、ほんの少しだけ得意げな気配を感じさせる。
「札投擲は執事の嗜みだ、外しはしない」
「なかなかやりますねぇ」
 ピッと1枚、ごく普通のトランプを取り出すと、襲撃により押せなかった照明のスイッチへと投げつけ、見事に点けてみせた。
 そこにゼロから撃退の報告。
「奇遇ですねぇ。僕らも1匹退治したところです。これより部屋の探索を開始する予定ですよ」
 すると携帯からは「先、越されましたネ」という声が流れてくるのであった――

 点いていたはずの電気を点けながら、雪彦は静かな廊下を見渡す。
(何かいるのは感じるけど……パターンとしては、自分の影に潜まれちゃったりするんだよね〜それだけは気をつけよう)
 気を付けようというワリに軽い足取りで、影になっているところをランタンで照らして歩く雪彦。
 勇太はというと、反対の出入り口側付近から捜索を始めていた。
「ルーキーにも出来ることはアルはずね」
 自分の感覚を研ぎ澄ませながら、ペンライトで物影を丹念に調べていく。他の階に比べ物が多い分、影となる部分もだいぶ多かった。
 調べているうちに、携帯からはゼロ達の報告、それとエイルズの報告が流れてくる。
「先、越されましたネ」
「大丈夫さ。競争してるわけでもないしね☆」
 雪彦の言葉に「それもそうネ」と頷き、探索を続けていた――すると。
 激しい物音。それから雪彦の声が、携帯から。
「こーゆー場合って、やっぱ背後からだよね☆ そっち行きましたよ、長田さん。色着いてるんで、対処よろしく〜」
 目を細める勇太。
 廊下の向こうから、鼠のようなサイズだがカラフルな物が影を移動しながらこっちへとやってきているのが見えた。色が違っていても影を移動するため、かえってその存在がはっきりとわかる。
 それでも気づかないフリをしてギリギリまで引き付けると、青色をした鋭い金属製の糸でそれを絡めた。
「通行止めネ」
 糸を引っ張る手に力がこもる――すると着色されたそれは細切れとなり、活動を停止した。
 倒した瞬間に背後から嫌な感じを察知し、振り返るより先に前へ出る。
 背中すれすれを、何かが掠めた気配。
 振り返る際に拳銃を手に取り、視界に伸びた錐を捉えると同時に発砲していた。
 直撃したそれは慌てて収縮を開始し、移動する。だが今の勇太には、その場所がはっきり手に取るようにわかる。
「そこネ」
 動きを止めたところを見計らって、発砲。直撃を受けたそれは今度こそ、弾け飛ぶのであった。
 さらに蠢く気配を感じながら、声を張り上げる。
「2匹排除したネ!」
 廊下の向こうの声に頷いた雪彦が、不穏な気配がする所で印を切る。
 雪彦を中心にアウルの結界が広がり、地面から立ち昇る細い筋の光がその範囲にいる全てのソレに絡みつく。
「一網打尽、ってね♪」
 絡みつかれたそれは動きを止め、そのまま光によって潰されていく。
「うん、やっぱ物陰も多い分、敵も多いね」
 カラースプレーを縦に振りつつ、部屋へと踏み込む。物陰も多く、確認するだけでも結構な手間がかかるのだが、それでも雪彦は意外と地道に探っていく。
 影に光を当てると、何かがさっと動いたなと感じた瞬間に、スプレーを吹きかけていた。
 ちょっとした範囲が着色され、その一部が少し盛り上がっていて、それが動いているのだとはっきりとわかる。
 そこにレグルスの声が。
「報告です――」

 階段の方から順に、反応のあった部屋を捜索するレグルスとゼロ。
 ゼロから灯光器を渡されそうになると、手でそれを制し、首を横に振る。
「僕ってば、ライトが要らないんです!」
 そう宣言したレグルスを中心に、美しさを感じさせる光が溢れ全てを照らす。その状態で部屋へと踏み込み、外へと移動する影を作らないようにしながら扉を閉める。
 部屋の中央に立つレグルス。煌々としたレグルスの光が大きな影をほとんど消し去り、新しく生まれた影をゼロが灯光器を当てて確認していた。
「お、発見」
 不自然さにも敏感なゼロの言葉に動き出した楕円形のそれが、ゼロの影に移動しようとしているところを、レグルスの投げたペイントボールが色を付けた。それでも馬鹿の一つ覚えの様に、人の影へと移動しようとしてくる。
「賢くはないな」
 見えているモノを逃すはずもなく、ゼロの一撃によってそれは切り裂かれた。
 やはりそうだと言わんばかりに頷いていたレグルスが、携帯を取り出す。
「報告です。敵の姿は平常時、楕円形で統一。サイズはまちまちですけどそんなに大きくなくて、知能も低いのか、物陰に潜んでいても人の影へと優先して移動するみたいです」

「なるほどですねぇ」
 レグルスの報告に、自分の影を見つめるエイルズ。
「つまりくまなく歩けば、自分の影にまとめる事が出来るという事か?」
「ということでしょうね」
 それがわかると、地道な作業はお終いだと言わんばかりに動きを速め、照らしながらも影へ影へと渡り歩くエイルズ。雑なような動きだが、しっかりと影へのチェックは入念である。
 そして自分の影に気配を感じつつも、さらに歩く速度を速め錐が伸びてくるよりも速く動いていた。
「意識してかわすまでもありませんね、そんな遅い攻撃。歩くだけで十分です」
 歩きながらも伸びてくる錐へ、ペイントボールを的確に当てていく。
 それなりの数が溜まったところで、エイルズが手を掲げた。その手から無数のカードが次から次へと溢れ出し、ペイントされたそれに貼りつき、がっちりとその動きを止める。
 そこにアルジェのデュエルカードが、投擲されるのであった。

 1階の部屋には全くいなかったが、やたらと廊下にいるソレへ、合流した雪彦と勇太は対処していた。
「うーん、署員さんが電気つける際についてきたんだろうね☆」
 印を切ると魔方陣が浮かび上がり、爆発してそれを次々と薙ぎ払う。アウルの爆炎は他へ燃え移る事無く鎮火していく。
「手っ取り早くてちょうどいいネ」
 雪彦の影へ金属の糸を走らせ影とは違う違和感を絡めとり、引き千切る。
「やっとるね、藤井さん!」
 格好良く空中で身をひるがえしたゼロの垂直降下蹴りが、雪彦の影に潜んでいたそれを踏みつぶす。
「あれ、上はもう終わっちゃいましたか」
「確認済みの部屋にはちゃんとわかるように、張り紙もしてきました! 探知もして、反応が無い事も確認済みです!」
「2階も終わりましたねぇ。ここほど数はいないようでした」
「基本的に使っているのが1階なら、当然か」
 ゼロに続き、階段から続々と降りてくる。
 対処に慣れた全員がそろえば、もはや殲滅は時間の問題――と言ううちに、終わるのであった。

「おかえり。思ったより早かったね」
「時間の許す限り1階から屋上まで最終チェックもしたが、問題ないやんな」
 手を添え首を鳴らし、目元をほぐすゼロがどっかと腰かける。
「生命探知でも確認しましたけど、もう大丈夫です!」
「多少ですけどスリルはありましたねぇ。ひりつく様な空気は流石に、なかったですが」
 そして「それでは」と、エイルズは顔だけ出してさっさと帰ってしまう。
「藤井君とアルジェちゃんは?」
「掃除しながらもう1回、総ざらいするそうネ。女の子と一緒だとテンション違うよねっやる気でるわぁ〜♪ とか言ってたヨ。
 ――ミッションオーバー。えっ? 居留守? NO、NO、ホントにミッションだったんだ」
 どこかへ連絡を取る勇太が電話越しに何やら言い訳を始めていると、そのうちに雪彦とアルジェが戻ってきた。
「優一、どれくらいで本調子に戻れる?」
「本調子、か……前と同じ状態の事を言うのならば、もう戻れないね。今この状態が、今の本調子だよ」
 上がりきらぬ肩を持ち上げる優一に、アルジェが顔を曇らせた様な気配を見せる。
「そうか……恐らく再襲撃は近い。できれば戦闘要員を少し、戻してもらった方が良いかも知れない」
「多分それは厳しいでしょうね。襲撃があったのはここだけではないですから、今この状態でどうにかなってしまっている以上はないでしょう」
 百合子がそっとアルジェの後ろに回り込み、覆いかぶさるように抱きしめる。雪彦の視線が、羨ましいと言っていた。
 その話が分からなくもないのか、アルジェはそれ以上その事には触れなかった。
 が、代わりに別の事で口を開く。
「……後、修平の事で少し……いや、これは本人に聞いた方がいいな。すまない、忘れてくれ」

 1人夜道を歩くエイルズが明るくなり始めた空を見上げる。
「ここにも、アホみたいに強い連中が来るんでしょうねぇ」
 不敵に笑い、やや冷えた空気に熱い吐息を吐き出すのであった――




【神樹】影に潜む   終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
BBA恐怖症・
長田・E・勇太(jb9116)

大学部2年247組 男 阿修羅