●AB格納庫
「毎度おなじみ緊急出撃か……まあこちら、報酬があればたとえ火の中水の中のだがね」
遠目で見るとゴリラか熊といった、ゴツイイメージのAB『ギガント』の中で、藤堂 猛流(
jb7225)はGOサインを待っていた。
「まだ反抗作戦は始まったばかりなんだ――」
日下部 司(
jb5638)少尉の落ち着いた声。だが量産型アウルブレイカー(ただし細部を見れば所々手が加えられており『AB改修型』と呼ばれている)の中で、指の跡がつくのではというほど力強く手を組んでいる。
(俺の力が、少しでも役に立ってくれればいいんだけど……)
「日下部少尉、少し肩の力を抜きましょう」
水中での格闘戦を想定した人型の機体『ヴォルテックス』の楯清十郎(
ja2990)が、声をかける。
「力んだところで何もプラスにはならんぞ、日下部司少尉」
格納庫を歩きながら水を一口含み、悠々としているファング・CEフィールド(
ja7828)。
ユニコーンをモチーフとした一本角が付いた頭部に、左肩にある牙のようなデザインで『F』と描かれたエンブレムが特徴的な、クロムコーティングされた蒼い機体カラーの『クロムナイツ・インペリアル』へと向かっていた。
特務大佐だけあって、実に堂々としている。
「余裕は持っておくと、どんな物事にも対処できるからな」
どんな時でも知識をえようと、ゴーグルをつけた黒い本体に紫のローブのような分厚い装甲人型機『ビショップ』の中にまで本を持ちこみ、ページをめくる鴉乃宮 歌音(
ja0427)が、歳のわりに淡々と告げる。
「そうそう。常に余裕、これ大事よ☆」
もっともこの場の雰囲気にそぐわぬ、明るい口調のジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)。
それもそのはず、彼は軍人や傭兵ですらなく、それどころか本来はこう言った戦場にいる事すら不思議な、兵器開発民間企業の若社長、ジェラルド=ブライヤー氏であった。
データを取る為だけに、美しさと禍々しさを兼ね備え、脈動する赤黒い光の線と茨の冠をつけた骸骨の様な頭部がアクセントの黒い自社最新機『ブラックパレード』と共に、参番艦に乗り込んでいるのである。
(それにしても実に良いタイミングです。良いデータが録れそうです☆)
「おっと出撃か。さて、仕事きっちりこなしてしまおうかね――アイア――じゃないな。ギガント、出るぜ」
「日下部司。出ます!」
「ヴォルテックス、楯清十郎。出撃します」
「……鴉乃宮、行きます」
「ボクちゃんも、出撃ー☆」
最後に『蒼き閃光の死神』が、カタパルトへ。
「ファング・クロスエッジフィールド、クロムナイツ・インペリアル、出る!!」
張りつめた空気を纏い、球状のコントロールスティックに手を重ねファングが叫ぶと、クロムナイツも勢いよく射出された――
射出されたクロムナイツがマルチスラスターを駆使し、反転しながらも上を向くと腕を突き出した。
「行け! ウィスプ!! 一番質量の高い氷塊だ!!」
「こっちからも、行っとくぜ」
背中のハンガーから翼状の物が射出されると、それがコの字に変形し、大きな氷塊へと向かって行く。それを追随し、ギガントの予め射出しておいた3基のビットが追いかけ、氷塊に攻撃を開始する。
そしてクロムナイツは再び反転し、足から着水。
「すでに敵影の反応ありだ、油断するなよ!」
見た目やその性格からは意外かもしれないが、周辺を警戒しながら前進する猛流のギガント。
クロムナイツとヴォルテックスが前に、そして中衛として司の改修型、殿というよりは速度差があるため後ろから追いかける形のギガント達。まだ距離があるとはいえ、敵機を確認できた以上は上への警戒よりもそちらへ注意を払う。
それに上では、歌音のビショップと、ジェラルドのブラックパレードが氷塊をメインに狙っている。
「少し、砕きやすくしておくか」
ウィスプとビットによりだいぶ削られた氷塊へ、ビショップがアサルトライフルを放つ。
黄土色の飛来物が氷塊に当たると、じわりじわりとその表面から溶かされて、そこへさらに続けて撃ちこんだ。
まっすぐに伸びた弾丸は溶けた部分から潜りこみ貫通すると、その後ろの氷塊さえも打ち砕く。
「後の処理は任せた」
ばらけた破片と、他の大きな氷塊をTB隊が狙いを定めたその直後、ミサイルの雨が地上から空へ降り注ぐ。そのこと如くがピンポイントで氷塊に当たり、爆散。
ブラックパレードが30連装ミサイル・ウロボロスを空に向け、構えていた。この揺れる甲板の上でも全くもって揺るがず、堂々と。
「ボクがいる限りは、この戦艦は沈まない……あ、このコピー、いけるね♪」
さらに砕け散った細かい破片すらも、ビショップのローブから射出されたビットが丁寧に砕いていく。
「沈められては困るからな。こちらでも敵機捕捉、これよりジャミングを展開する」
ビショップが高音を発し、ローブの下からアウルが広がっていった――
「あれは以前報告にあった白き悪魔…それともう1体、あの機体は?」
「白い機体……あの動き、まさか生きていたのか!」
清十郎が歯ぎしりをする。それと同時に、前腕と脚部についている円筒状の回転機構が、唸る。
「深追いしすぎるなよ、楯清十郎」
再びウィスプを射出しながらも、アサルトライフルで凪機を狙う。撃った直後、クロムナイツの横にギガントがシールドを構え割り込み、回転する錐のような物を正面の角度からやや流す様にして受け止めた。
「おっかねーな。こいつを突き抜けてくるとか、どれだけの威力だよ」
(攻撃の瞬間を狙って、攻撃を被せてきた……そんな芸当が可能なのか!?)
センサーで捉えてはいるものの、まだ目視できる距離ではない。何より見えていても、そうそうできる芸当ではないと司は驚愕していた。しかも今は、ジャミング下のはず。
それだけではない。
今さっきの攻撃は盾で防がなければ、ピンポイントで頭部に直撃していた。恐るべき命中性能に、予測能力である。
「全ジェネレーター、フルドライブ! 打ち砕け!!」
清十郎が咆え、真っ直ぐに突き進む。
その正面にはすでに白い悪魔、凪の『MOBY DICK』が二刀の幅広い剣・ディフェンダーを構え、迫っていた。
全てを引き裂く渦を四肢に纏ったヴォルテックスに剣を振るう――と見せかけ、大型魚雷を目の前で放つ。それが渦により引き裂かれると、目の前で爆散し、凪機が急停止する。破片でヴォルテックスの全身に細かな損傷が。
目の前に広がる、気泡のカーテン。
凪機を見失い、動きを止めたヴォルテックスの片腕が斬り落され、その肩にも深々と錐が突き刺さる。
「そこまで!」
凪がさらに追撃を駆ける前に、司の改修型は頭部バルカンで寸断を図る。ほんの少しだけ後退した凪にめがけ、全身淡い緑色に輝かせたギガントが一瞬で距離を詰め、ドリルを突き出した。
それをディフェンダーで受け流そうとする。
力技で強引にねじ伏せ、突き進むドリル。だがその腕が小さな球体により弾かれ、ギガントにショックが突き抜ける。
「ちぃ、システムエラーだと……?」
動きを止め、自動でシステムの再起動が始まる。
「そんなんでもうちらのボスなのっさー。簡単にやらせるわけには、いかないのさね」
間延びした女性の声。今の仕掛けが彼女の仕業なのだと、皆が察した。
その隙を凪が見逃すはずもなくディフェンダーを振るおうとするが、ウィスプによる真後ろからの攻撃を察知し寸前で身をひるがえして攻撃を受け流す。
それだけでなく、続けざまに潮流を利用した急激な下降で、クロムナイツのアサルトライフルをかわすのであった。
「悪いが2度はない。蒼き閃光の死神は、伊達ではないッ!!」
クロムナイツも撃つと同時に身を捻り加速し、錐のような弾をシールドで受け流してみせた。
ここで一旦、凪が距離を置く。
思い思いに散らばっていたAB達も、まとまる。
「あっぶねーな。5秒も動けねーなんて、殺せって言ってるようなもんじゃねーかよ」
「次はないと、警戒しておくんだな」
「清十郎さん、大丈夫ですか」
「この程度のダメージでは落ちませんよ」
赤い結晶を生み出しそれを取り込むと、細かな損傷がみるみるうちに塞がっていくヴォルテックス。
距離を置き、緩やかな膠着状態――不意に司が口を開いた。
「ファング特務大佐、リミッター解除の許可を願います」
「許可する。存分にやれ、日下部司!」
「ありがとうございます――リミッター解除! オーバードライブ!」
司の言葉に反応し、全ての計器が異常値を示し、カウントが始まる。
「道は任せろよ!」
シールドを前に突きだして加速をかけるギガントを司の改修型が押し、凪機へと突進した。それをヴォルテックスも追いかけ、クロムナイツのアサルトライフルが凪を牽制。6基のウィスプが違う角度の死角からも攻撃を仕掛ける。
見えないはずの角度から変則的なタイミングの攻撃にもかかわらず、ディフェンダーで捌く凪機。
だが、その場から動けてはいない。
(これならどうだ!?)
ギガントの背後から飛び出し、上からハルバードの痛烈な一撃――上に交差しただけのディフェンダーで受けた凪機はその衝撃までは流しきれずに、下へと吹き飛ばされる。
「まだ届く!」
神速の突きを繰り出す。それが凪機の肩へと突き刺さり、右腕を一本切り落とした。
「もらった!」
明らかに回転速度も落ちてパワーダウンしている残った右腕でヴォルテックスが下で待ち構えると、凪機は反転し、ディフェンダーを突き出す。
(かかった!)
オーバーパワーで回転機構が再び唸りを上げ、ディフェンダーを弾くようにカウンターで右腕を被せる。防御も攻撃も兼ね備えたこの回転機構なら、という目論見だった。
だが。
「かかりおったな」
凪の楽しげな言葉。その場で全て魚雷を捨て、装甲が剥がれ落ちてスリムとなった凪機が水の中でもあり得ないほどの反応と速さで直角に切り替えし、横から凶刃を振り下ろすのであった。
「清十郎さん!」
司が声を張り上げたその瞬間、闇を辺りを包む。三番艦が真上に来たのだ。
ほんの一瞬だが、全ての意識が上に向いた――その刹那、闇に蒼い閃光が。
(今こそ狙う時!)
「だからこそ、クロムナイツ。俺に力を貸せ」
インペリアルシステム作動というAIのアナウンスと共に、バックパックバーニアが4つに増設、各装甲がスライド。装甲基部が白銀色に輝き、強制排気が行われる。
蒼き閃光は、今まさに閃光と化す。
錐はなおも襲い掛かるが、それは金属片とCGによる残像に過ぎなかった。
「蒼き閃光の死神は、ここにいるッ」
ファングの、クロムナイツの眼が、赤く輝く。
鬼神と化したクロムナイツがアサルトライフルを撃ちながら錐もみ状に突き進み、凪機へと肉薄。
「確かにマシンはいい、だが!!」
ディフェンダーを振りかぶるより早く、シールドを構えて強烈なタックル。その距離から顔面に拳を振るう。
「小癪な!」
恐るべき反射速度で拳をかわす。だが、本命はそれではない。
「沈め――蒼の元に」
光り輝く、もう一つの拳が、コックピットめがけ撃ち放たれる――が、その拳との間に球体が割り込み、一瞬で炸裂した。
「ぬうぅ!」
「があぁ!」
どちらも悲鳴を上げ、引きはがされる。
「だから、やらせないっさー」
再び距離が離れたかと思った時、動かなかったヴォルテックスが太陽の如き眩い輝きに包まれ、息を吹き返す。その両腕はビットで代用していた。
「……修復完了。後でマードックさんに怒られそうだし、このまま終われないなヴォルテックス!」
再生したばかりだが、まだ体勢を立て直していない凪機のすぐそば。
(代用の腕では1回きりでしょうが、今こそ!)
四肢の回転機構が渦を作り上げなおかつ、これまでにないハイパワーで巨大な渦を作り上げていた。
「フルメタル・スピン・インパクトォォォッ!」
機体ごと高速回転させて凪機へと突進するヴォルテックス。
「邪魔はさせませんよ!」
シールドを構えた司の改修型が渚機に近づき、バルカンでその動きを止めようとする。
だが鈍重そうな見た目と違い、バルカンの軌道の先へ先へと逃げていく。
「く、装甲があるのに機動性能が高くて狙いを定め辛い……けど機体性能だけじゃない。パイロットの腕も俺より遥かに……」
しかし役目は十分果たした。
ヴォルテックス渾身の一撃に、凪機はかろうじて左腕が吹き飛ばされながらも肘を打ち、足を犠牲に直撃を避ける。
だがもはや、かろうじて、だ。
闇が晴れ、再び辺りに光が差し込んだところで歌音から通信が入る。
「氷山地帯、突破した。帰艦せよとの命令だ」
時間切れ――凪機は再起不能にしたものの、まだ無傷の渚機が残っている以上、命令が優先である。そのためには渚機の横を通り抜けなければならない、という問題もあるが。
「装甲は抜けなくても妨害ぐらいなら!」
脚部の回転機構にビットを結合、高速回転させたビットを撃ちだすヴォルテックス。それに渚機が魚雷を当て爆裂させた隙に、横を通り抜ける。
「早くしてくれ」
甲板の上から歌音も、渚機の牽制を続ける。
「お前ら、早く行け。タフガイな俺が食い止めてやっからよ」
殿を務める猛流が軽口を叩いた直後、8つの球体に囲まれ、正方形のフィールドに閉じ込められる。
そこへ空間を渡ってきた大量の魚雷が、逃げ場のない狭いフィールドの中で大爆発を起こす――が、それでもギガントは耐えきっていた。自らの周囲にフィールドを築き、その威力のほとんどを防いでいたようだ。
「ふふふ……機体はいいけど……戦略は粗削りだねぇ――」
甲板に足を完全固定し、ブラックパレードのウロボロスが一斉に火を噴き渚機を襲う。
小型のミサイルで半数ほど相殺し、残り半分に対して、寸の動きでかわしてみせる――はずだった。
避けた方向に、ミサイルは曲がりかわしようのないそれが、直撃。
「っく、誘導式さね。これは耐えるしかないっさ――って、システムダウンのおまけつきとは、なかなかやるさね」
「ふふ、またのご来場をお待ちしておりますよ☆」
ウィンクを投げつけるジェラルドのモニターに、チカチカとデータの受信が。
「おや? 当てたご褒美さね?」
開いてみると、天魔側の兵器データであった。それはまさしく、人類にとってのお宝に違いない。
「……目論見はどうあれこれは、素晴らしいデータを頂いたね☆」
こうして参番艦は最速で無事、危機を乗り越えたのである。それに加え、敵である渚から新しき力の可能性を秘めたデータを受け取った一向。そして甲板でお母さんと呟く、津崎海。
いったいこの先、何が待ち構えているのか。
「ふう……仕事後の一服が大事なんだ」
紅茶を飲んでる場合ではないぞ、歌音!
「やかましいんです。これが嗜みなんだよ」
とにかく、次回へと続く!
【初夢】煉獄艦エリュシオン2海 終