※注意・周囲に人がいない事を確認し、読みましょう。また、ご飯時など、飲食時はお控えください。サツバツ。
月夜に浮かぶ、真っ直ぐに伸びたウサ耳――と、ひょっこり生えた猫耳。
「ふふふ……今夜の私はもこもこせくすぃーなのです」
兎の耳に猫の耳、真っ赤なバニースーツが覆い隠すはモコモコの黒い毛、そして丸くてふわふわのの尻尾――ではなく、そこから伸びるのは黒くて長い自慢の尻尾。
黒猫スーツにバニー姿というもはや存在がカオスなカーディス=キャットフィールド(
ja7927)が、両手を天に向け合わせ、くるくる回っていた。
ぴたりと止まって、威嚇するようなポーズでキメる。
「猫み……うさみみ忍者にクラスチェンジ☆ さあ、いざ行かん!」
意気揚々とテントへ向おうとして、足が止まった。1人では入れない……そのルールを思いだして。
自分のぼっちぶりに絶望を抱き、地面へ崩れ落ちると、大地を涙で濡らす。
「……お嬢さん、お体が汚れますよ……」
呼ばれた気がして顔を上げると、後ろ髪を1本に束ね、男物のスーツだが何とかサラシ(2本使用)でギリギリ押し込んだ感のある、隠しきれていない胸の月乃宮 恋音(
jb1221)が、手を差し伸べていた。
その後ろには、ふっさふさの髪が違和感をかもし出す別の意味でバニーをギリギリ着れているまんま悪魔丸出しのUnknown(
jb7615)に、その陰に隠れコソコソしている和風バニーとでも呼ぶのか、バニーに羽織、足は黒ストッキング、ナチュラルメイクにロングのカツラと、隠れている割には見事に完璧な女装で女子力武装を完備した、青空・アルベール(
ja0732)がいた。
「にゃんにゃも、似合っているのだ!」
女子力フルパック詰めしているわけではないのに、擬態により、スリムで妙に艶めかしいUnknownがカーディスを褒める。純粋な彼の言葉に嘘はないのだと知っているカーディスが、上半身を起こす。
「……一緒に、行きましょうかぁ……」
棒駄の涙を流し拝み崇め奉り「ありがとうございますー」と、その手を取るカーディスであった――
「サーバントオークションなど、捨て置けぬな……誇り高きディバインナイトとして!」
誇り高いでぃばいんないとさんのラグナ・グラウシード(
ja3538)がきりっと、仁王立ちしてテントを睨んでいた。
ただその姿は、細マッチョだからこそ比較的普通に着れてはいるが、ちょっと……その……股間が厳しい。映像がない事が、せめてもの救いだ。
そんな、いつ国家権力に屈してお縄を頂戴しそうなバニーな彼が振り返ると、スーツ姿の2人がいる。
雪室 チルル(
ja0220)と六道 鈴音(
ja4192)の2人であった。
「チルルさんは、なんか個性的な格好ですね!」
「凛々しいな、雪室殿! ところでその虹色のネクタイ……派手だな!」
ラグナと、スーツでビシッと決めた鈴音が感想を述べると、チルルはピースで応える。
「そうだね! 何の意味があるんだろ!」
ショート丈のスーツに6色レインボーのネクタイ、尻ポケットに黄色いバンダナまで仕込んでいる。
年齢的にまだ若いせいか、そのケのある少年に見えなくもないというのが、また……
「六道殿も似合っているぞ! いつもに増して凛々しいな!」
「ありがと。さすが私。男装もバッチリ決まってるわね」
そして褒め返そうかと、ラグナを見るが――げんなりした溜め息しか出てこない。
「……これも依頼のためですね、ラグナさん」
慰めたつもりだが、当の本人は「こんな煽情的な衣装でも、私の美しさは変わらんな!」と、少々――いや。だいぶ、頭の中の消費期限が過ぎ去ってしまっている。ただ、ギリギリでまともな思考もあるのだから、脳キビヤックとでも言うべきか。
腰に手を当て、片足を誰かが置いた衣装ケースの上に置いているので、厳しいところがさらに厳しく強調されていたりする。
もはや何も言うまいと決めた鈴音は表情を引き締め、クイッと顎でテントを指し示す。男前すぎるほどにキマっている。
「それでは、行きましょうか」
「あー、あー……ん、こんな物かな」
スーツというよりは軍服に近い服のRehni Nam(
ja5283)が声のトーンを調整していた。
そしてしっとり落ち着いた、魅惑のテナーボイスで亀山 淳紅(
ja2261)に手を差し伸べる。
「さあ、それじゃあ一緒に行こうか、ジュン子ちゃん」
ゴシックシャツにミニスカ、そして黒ストッキングと肌を一切露出しない白黒のバニーを着た淳紅が、はにかんだ。
「ふふー、気合入っとんねレフニーさん? ほならエスコートよろしゅうお願いするわな」
その手に重ね合わせると、グイッと引き寄せられ、腰に手を回される。
「……今日も、可愛いね」
「お世辞いうても、なーんもでーへんでっ」
Rehniの唇に指を当てて押し戻すと、そう言いながらも、なぜか嬉しそうに腕を絡ませる。
身長差や淳紅の女顔のせいか、全く違和感がない構図。あべこべであっても、本人達が幸せならそれでいいか。
「調査は僕に任せて欲しいな、だからジュン子ちゃんは、僕の癒しとなってくれるかい?」
「嬉しいわぁ」
「ひゃっはー! 両手に花! 両手に花っ!」
ちまっとしているが、夜会用の礼服に身を包んだシルヴィア・マリエス(
jb3164)のテンションは際限なく上がっていた。
(これも友情の為)
シルヴィアに手を引かれるのは、目立たない普通のバニーを着ているがやや辛そうな表情の早見 慎吾(
jb1186)と、背後に隠れてもじもじしている黒井 明斗(
jb0525)だった。きっとバニー姿が恥ずかしいのだろう。
「うん。耐えられない試練じゃないな」
目が遠い。
「は、はやく見つけましょう」
「そんな、勿体ない! ロリ眼鏡ばにーだなんて、眼福すぎるのに! 人間のオトコノコは性別欄の表示間違い的な感じだね!」
おどおど恥ずかしがる明斗を、上から下までねめ回すようにガン見するシルヴィアの目は、天使にあるまじきケダモノの目である。 ねめ回すどころか、今にも舐め回しそうなほどスイッチが入っている。いたいけな中学生が喰らい尽くされそうだ。
「そんな見ないで下さいぃ!」
だが恥ずかしがれば恥ずかしがるほど、火にハイオク満タンでしかない。そのうちに慎吾がシルヴィアの頭をつかんで強制的に前を向かせるのだった。
「すまない、黒井君。あとでしっかり言って聞かせる――それにしても遅い。先に入ってしまいますか」
黒バニー一式に網タイツ、そしてハイヒール着用して2mに届かんばかりに大柄な小田切ルビィ(
ja0841)。上半身の筋肉を隠す為にバニー用燕尾服も着用し、メイクもバッチリ、普段1本にまとめている髪は解いてある。
大柄ではあるが、かなり見事な大人女性にしか見えなかった。
だからこそ、後から来た緋月(
jb6091)は声をかける事を忘れ見惚れてしまっていた。
「お、緋月! ……じゃなくって――緋月さん。今夜は宜しくね?」
「そ、その、似合ってます……女性に見えました」
「どうも――ありがとうございます」
(ちょっと似合いすぎて……私としては心境が複雑と言いますか……っ!)
自分のコスプレモドキな、黒スーツに白いワイシャツと見比べてしまう。髪は髪ゴムで、普段のルビィのようにひとまとめにしているが、やはり女性らしさがにじみ出てしまっていて、あまりにも自分とは気合の入れ方が違うななどと思ってしまう。
(小田切さん、綺麗な容姿してるだけに……!)
男性姿も女性姿も、色々負けてしまった気がする。だが、いつまでもそんな事は気にしていられない。微笑みを浮かべる。
「エスコートなんですよね? えと、お手をどうぞ?」
ルビィは差し出された手を取り、そのまま何も言わずに腕を絡める。それに驚きはしたものの振りほどきはせず、やや緊張した面持ちで、ぎくしゃくとエスコートする緋月であった。
その横を黒スーツ姿に同色のソフト帽を被った、天風 静流(
ja0373)が颯爽と通り過ぎ去る――と。
「すみません、お待たせしました! よろしくお願いします♪」
静留の腕に絡みつく、白バニー姿の姫路 神楽(
jb0862)。In PADの胸を腕に押しつけるようにし、特に何も言わない静流を引っ張って強引に入場を果たすと「ありがとうございました♪」と、更衣室に向かって行くのであった。
その様子に呆気を取られていた緋月は、笑う。
「色々な方がいますね――行きましょう」
緊張がほぐれたのか堂々とした足取りで、ルビィと共に入場を果たした。
それに遅れ、スーツ姿に結い上げた髪はシルクハットの中という弥生丸 輪磨(
jb0341)よくわからず連れられてこられたほわっほわな森田良助(
ja9460)の手を引いて、ずんずんと進んでいく。
入口のチェック担当のバニーさん(男)に「更衣室はあちらかい?」と、シルクハットのつばに手を添える少女紳士。
「なーにー? 輪磨。着替えるのー?」
自分に待ち構えている運命などつゆ知らず、のほほんと尋ねる良助に「ああ、そうだよ」と手を引いて更衣室へ――
「きゃあ! 何するの! やめて!」
良助の悲鳴が聞こえ、更衣室で犠牲者を待っていた神楽の「やるからには本格的に、ね♪」の言葉。
更衣室から出てきた良助は、メイクもバッチリ、ムダ毛も(強制的に)処理し、見事なバニーへと変身していた。
「良いね、似合っているよ」
そんな事言われて、まんざらでもない――わけがない良助。恥ずかしがりながら、輪磨と共にカジノを練り歩くのであった。
ルビィがテントへ向ったなというタイミングで、ひょっこりと城咲千歳(
ja9494)がまさしく明後日の方向に叫ぶ。
「マスターさーん、何やってもいいんすよねー? どうせコメディっすからー?」
満天の星空に、流れ星がひとつ。
満足げに頷くと、デジカメを構え輪磨が更衣室を尋ねている隙に、足音を殺し、こっそりと忍び込む。
目の前に広がるカオス空間に興奮し、袖口を利用してこっそり撮影しまくっていると、関係者らしい男に呼び止められた。
「男装しろ? けち臭いこと言わないー」
その開けたせくしーな背中にバチーンと平手をかますと、男は喜びの声を上げ、それ以上の注意をしてこなくなった。そんな男の肩口から、今しがた更衣室から出てきた完璧武装の良助が見える。
「森田君……流石その手の依頼受けてるだけあるっすね」
ニヤニヤしながら、本人の許可なく1枚。
そして次なる獲物を求め、千歳は彷徨うのであった。
「うんまぁ面白そうだから俺としては無問題だが……レイ。おまえなんでそこで死にそうな顔してんだよ……」
「……どうして私はここにいるんだろう……」
苦い表情のラウール・ペンドルミン(
jb3166)と、死んだ魚のような目をしたレイ・フェリウス(
jb3036)が、シルヴィアと同様に夜会用礼服で凄まじいテンションのファラ・エルフィリア(
jb3154)に手を引かれていた。
「ひゃっほぅ! バニーバニー! ハーッ!」
「おっ慎吾先に来てやがったか……あいつふつーに楽しんでねぇか?」
スロットの前で真剣な顔をした慎吾を見つけ、ラウールが肩をすくめる。ただ、彼のバニー姿を見てから、レイ、そして思い出したくはないが自分の姿を見る。
「なんだろうなこの一蓮托生感……レイ。お前、あとでなんか奢れよ」
レイが引き受けた依頼のとばっちりで、こんな所に来ている彼らは実に友達想いだ。
「いいじゃんいいじゃん! お腹いっぱいだよあたしは! まだまだイケるけど!」
ジロジロとギョロギョロと周囲を忙しなく見回しているファラ。実に生き生きとしている。
「ドリンクをどうぞ。先ほどはありがとうございました」
赤バニースーツに網タイツ、ハイヒールにウサ耳尻尾を完備した、かなりレベルの高い女装姿を披露している白桃 佐賀野(
jb6761)が、トレイに乗せたドリンクをさし出す。
入口でエスコートしてくれる女性がいないと入れない事を知り、途方に暮れていたところをファラに食いつか――いや、声をかけてもらったのだ。
目を輝かせるファラは佐賀野の似合いすぎると言うか、女性にしか見えない女装をねめ回す。
「細いけど骨格男だよ、太腿男だよ。筋肉むっきーんもいいけど、細い子も美味しすぎるよ!」
「似合うでしょ?」
ドヤ顔でポーズをとると、ファラは余すところなくジロジロと。にっこり微笑んで「では楽しんでくださいね」と、給仕の仕事にもどる佐賀野。
その後ろ姿も好物らしく、やいのやいのと騒いでいる。
そんなファラを見ても、レイもラウールも全然気にしない。いつもの事過ぎるから。
「男がバニー服着てりゃ、そりゃ暴走するよな。うん、いつものこといつものこと」
「もう私は何も言わないよ」
少しだけ立ち直ったレイだった。
が。
「あ、ヤトちゃんだ」
(見られてたまるかぁああああっっ)
声を押し殺し、必死でラウールの背中に隠れるレイ。幸いにもファラが行ってくれたおかげで、顔をあわせずに済みそうである。
隠れながら夜刀彦の姿をじっと見ていると、肩を叩かれる。
「やっと来たか。ああほらレイ、なにこの世の終わりみたいな顔色してんだよさっさと荒稼……もとい仕事しにいくぞ!」
2人に気付いた慎吾が、箱一杯のメダルをジャラジャラとさせながらやってくる。
「おまえ、ふつーに遊んでるな」
「ええ遊んでいるだけですよ、稼いでるわけじゃありません本当です――だから遊ぶぞ!」
2人を引き連れ、再びスロットへと向かうのであった。
「怪しい所を探しに来たわけだけど、むしろどこか怪しくない場所があるんだろーかココ……」
似合っているバニーの人もいれば、まるっきり似合っていないだろうと言う油ギッシュなバニーの人までいる魔空間。
こんな世界もあるのかと汗がぶわっと噴き出て止まらない東城 夜刀彦(
ja6047)だが、無論、似合う側のバニーである。
「大丈夫ヤト強い子がんばる」
声、震えてますが。
「おーい、ヤトちゃん!」
デジカメ構え、いい笑顔のファラが駆けよてくると、有無を言わさずデジカメで様々な角度から撮り続ける。
「ああうん普通に似合うというか胸無いことのほうが違和感だけどよしキタ! バニーバニー!! タイツなんかいらんよ生足でいいさ、うおー綺麗綺麗!!」
「うう、静かにしてほしいかも。エスコートなしで忍び込んだ身としては……」
「ちっこいことはきにすんなーい! ほら、もっと大胆に足広げて」
「ファラー、落ち着け―!」
暴走しかけたファラを止めようとシルヴィアの後頭部頭突きが炸裂し、ずしゃぁっと地面に倒れる。デジカメだけは死守して。
「あれ、シルヴィアも来てたんだ……って、よく見ると知ってる人がいっぱいいるな……?」
慎吾やラウールの姿も確認した夜刀彦は、色々と安堵して微笑みを浮かべる。
むくっと起き上がったファラに、シルヴィアが耳打ちした。
「ところでファラさん。怪しくない所ドコ? って感じだけど、あてくしさんはトイレがなんか怪しそうなんだよね!」
「ほうほうシルヴィアさん。それは実に怪しそうですな。それならあてくしはモニタールームをすねーくしてくるよ!」
それぞれの怪しげな分担が決まると、ガッとお互いの腕を交差させ、各々散らばっていく――己が戦場へ向けて。
「うーん、俺もどこか調べるかな……とりあえず、トイレには近寄らないでおこう。うん――あっ淳ちゃんがいる!」
てててとドリンクバーでRehniの隣にいる淳紅めがけ、駆け寄っていった。
「ジュン子ちゃん、爪の形が可愛いね。それだけじゃない、手もすらっと細くて可愛いよ」
「そーぉ? いややわーレフニーったら、口がうまいんやから! あんま嘘ばっかり言うてるとーこうや」
指で唇を抑えると、その指に指を絡ませ下げさせると、手の甲に口づけをする。もはや色々、何がどうなってるんだ。
「淳ちゃーん、かわいーかわいー! 写真写真!」
「写真OKやで。今日はハムちゃんやなくてバニーちゃんやな! 可愛ぇー!」
お互い自分の姿を自覚してるかよくわからないが、もふりあい、はぐりあう(こっそり匂いも嗅いだり)と、2人並んで自分撮り。
微笑ましそうに微笑を浮かべるRehniは夜刀彦の顎に手をかけ、クイッと顔を上げさせると瞳を覗き込む。
「ヤトちゃんも今日はいつも以上に美人さんだね」
距離の近さが不満なのか、頬を膨らませる淳紅。それに気づいたRehniは夜刀彦を手放すと、淳紅の手を引き、引き寄せるとその頬に口づけした。
「ふふ、妬かないで。こんな事をするのは君だけなんだから」
もう、ノリノリすぎる。
オークションが始まるまではと、少しだけ遊んだりもした静流が歩いていると、不意に腕に誰かが絡みついてきた。
「さっきはありがとう。ねぇねぇ、あっちに面白いものあるみたいだから、行かない? ね?」
「ふむ……構わないよ」
(服装規定がおかしな事になっていたが……あまり気にしないほうが良いな。久遠ヶ原ではそんなに珍しくもないし)
かなり本格的で似合いすぎている神楽を見ると、そんな事を思ってしまう。ただ。
「なんでアンノそんな堂々としてるん……」
「女装ではないと言われた、だから着たのだ。変に触られなければ、どうという事はない」
「もしかして、酔ってる?」
「ジュースごときれ酔ってなどいないぞぅ!」
炭酸ジュース片手に細マッチョな悪魔の妖艶なバニー姿(しかも裸足)のUnknownの陰に隠れている、羽織りだけは絶対に脱ごうとしない、和風バニーな青空。
そして多分誰もが誤魔化そうと努力しているのに、まるで気にしない股間が厳しいラグナ達も見てしまうと、首を捻らざるを得ない。
それは休憩していた先客の鈴音も、そうだった。
「女装はまだしも、男のバニーはあんまりみたくないわね……」
ぐったりしているのは、どうやら精神的な疲労の方が大きいようだ。かなり真面目に調査しているようである。だが気を取り直し、再びどこかへと行ってしまう。
「マスター、プッシーキャットをお願いします♪ あ、『彼』にもお願いします♪」
注文を受け、オレンジ、パイナップル、グレープフルーツの各種ジュースを取り出すバーテンダーに、何か知っていないかと声をかけようとした静流。
すると。
「やぁ、どうやら此処は男性同士が多くて女性は余るからね、女性同士で楽しもう?」
そんな口説き文句に、先制された。輪磨である。
「失礼、先約があったかな?」
「いえ、とくにありませんので、お気にせず」
紳士的な態度の輪磨に、静流はまるっきり気にしていなかった。
「あちらの彼と彼女のドリンクが切れそうだね。あちらにも何か頼むよ――君の華麗な技を魅せてくれるかい?」
腕を組み、決してカウンターに肘を乗せない見事な少女紳士は2人の世界になりつつあったRehniと淳紅の方に目配せをすると、バーテンダーにニコリと微笑みかけた。気遣われたRehni達が、軽く会釈する。
「最近、何か変わった人や変わった事を、見かけたりしていないかい?」
静流も聞こうと思っていた事を輪磨が尋ねると、バーテンダーはシェイクしながら答える。否と。
「ここで変わっていない人を探す方のが難しいですから。私含めて、ね」
神楽、静流、輪磨、Rehni、淳紅の前にプッシーキャットを置く。そのうち男装の3人のコースターの裏に、名前と電話番号らしきものが書いてあった。
「なるほど。これは一本取られたね」
笑みを崩さず、輪磨はコースターを胸ポケットに押し込めるのであった――
「ネクタイって以外と窮屈だ……ふおぉ……! 何か賑やかで、キラキラしてます……!」
色々戸惑いがなくもないが、それ以上に好奇心が勝ってしまった緋月は感嘆してしまっていた。
「小田切さんは、ゲーム得意ですか?」
「わりと、か」
「フルハウス! どうだ、まいったか! ……あ、そちらはフォーカードですか……そうですか」
打ちひしがれている良助の首根っこを輪磨が掴み、引っ張られていくのを見ると、緋月の興味がテーブルゲームに向かってしまう。
そうなると黙って、ルビィがディーラの前に立つ。
「勝負と、いこうか」
ディーラーの視線を感じ取り、足を組んではわざと組み替え、動揺しておろそかになったシャッフルをじっと凝視する。もはや場の支配権はルビィにあった。
呑まれた方は、ただのカモでしかない――つまりはルビィが圧倒していた。
「ハッ! 勝負事で負けてたまるかよ……!」
楽しそうにしているテーブルを尻目に、青空の顔は沈んでいた。
(あれ……私クリスマス前になにやってるんだろ……)
本日、何度目かわからない自問自答が脳裏に浮かぶ。潜入調査と聞き、インフィヒーロー的なお仕事な! なんて喜んだものだったが、衣装を見て愕然としたあの瞬間も、何度も思い返される。
出来うる限りの女子力武装で挑んで、ベル子だから恥ずかしくないもん! なんて覚悟を決めていたつもりだったが……
「み……みつからない……」
自分を見るかのような明斗の姿に、少しだけ青空は救われる。自分だけではない、と。
それにちゃんと、Unknownの陰に隠れながらも真面目に調査していた。特にカメラがないか全力で探知してみると、あるわあるわ。
もっとも、発見した物は全て興味津々なUnknownが触っているうちに「壊れてしまったなのだ」などと、排除済みである。映像は別の所に保管されているのだが。
「……怪しいところは、いくつかあるんですけどねぇ……」
マシン系統も何かおかしなところがないかと、調査しながらゲームをちょっとずつこなしていく恋音。スロットに関しては止まっているように見えるレベルのため当て放題で、随分メダルが溜まっている。
もっと本格的に荒稼ぎしている慎吾やラウール、レイ達も随分ドル箱が積まれていた。
ここまで来ると、レイもだいぶ落ち着いたもので、周囲を見渡す余裕ができていた。
「しかし人間界は不思議な所だね? なんでトイレがあんなに大きいのかな? 巨人族でも来るんだろうか。それに私達だけでなく、全体的に男の方が布面積少ない服多いんだが、そういう集いなんだろうか? 寒くないのか?」
「……いいから気にするな。とりあえずレイはあっち方向の足でも見ておこうか、ほら生足生足」
無論、似合っていても男なのだが。
そんな佐賀野に声をかけに行った、猛者がいた。ショート丈にレインボーネクタイのアレな装備をした、高橋 野々鳥(
jb5742)である。
「ヘイ彼女超かわいーじゃん! 写真撮らせてよー……って、バニー着てるってことはもしかして……男……? ま、まあこの際いいや! 男でもいいや!!」
今その装備で言ってはいけない危険な言葉を発した、野々鳥。ギランと、複数の視線が注がれた事に気づいていない。
「写真撮らせてください!!!」
「ん? 写真? いいよ〜可愛く撮ってね!」
セクシーなポーズに野々鳥は喜び勇んで写真を撮る。
「というか君、その恰好……」
「ん? ああ、俺みたいなフツーの男がさ、バニー来て許される場って滅多にないと思うんだよ! 堂々とバニーガールになれるチャンスなんだよ!
って思ってバニー着たんだけど、エスコートしてくれる相手がいなくて仕方ないから上に着てきたんだ。おかげでちょっとあちーののなんの」
シャツのボタンを外し、ネクタイを緩めると周囲の期待がより一層膨らむ。
(アッ狙われてるなぁ。掘られたら可哀想だしボディーガードしてあげよ)
腕を絡め、先約であるかのように振る舞う、佐賀野であった。
ちなみにここまでの間、潜み続けながらずっと千歳はばっしばしカメラに収めていたりする。
(んーそろそろ着替えよっかなー)
デジカメの要領も限界がかなり近いので、今度はバニースーツを強奪――いや、着替えに行く。自由すぎる。
「君は少し遊び過ぎじゃないかい、森田君」
「ちゃんと調査もしてるよー。さっきだってゲームしながら質問してたんだから――なに聞いたか忘れちゃったけど」
あははと明るく笑う良助に、輪磨は肩をすくめる。と、突如その目が鋭くなる。
関係者以外立ち入り禁止エリアでうろつく、ラグナとチルル。それに野々鳥と佐賀野までいる。そんな彼ら、彼女らを注意する事無く警戒しながらも決して扉の前から動こうとしない、ガードマン。怪しい、と。
一瞬だけ悪い笑みを浮かべると、ニッコリしながらガードマンに近づいていった。
「大変だね、ご苦労様です。あそこの男の人ね、どうしたら君を出しヌケるかな、とか言ってたよ?」
ラグナのいる方を指さす。誰とも言いきらないあたりまた、ニクイ。
「今夜は皆が楽しむ時、君が楽しんだところで誰も文句も言いはしないさ。ほら、今すぐソイヤしておいで」
(うわひどいよこの子! 恐ろしい子……!)
ナイスな説得でまんまとガードマン(となぜか色々おまけつき)をラグナ達に向かわせ、その間に部屋へと侵入を果たす。
もっともそこは、エゲツネェ商品が並んでるだけだったが。
「ぬ……いいだろう。古来より伝え聞く、みんなで一緒におトイレという奴だな」
「あたいと? うーん、まあいいよ!」
ガチムチなガードマンに囲まれ、ラグナとチルルは恐ろしい事にトイレへ。野々鳥と佐賀野は更衣室へと――運命や、いかに。
「おお、やとはむ殿もせくすぃーに忍んでらっしゃるな」
「カーディスさんこそ、かわいーっ」
偶然、顔を合わせた2人。ともに天井にぶら下がっている。
「先ほど何やら、集団で更衣室に入っていかれましたな。覗いてみますかー」
そう言い、2人して見たものは――
「えっ、ちょ、待って待ってタンマ……アッー!」
手で押さえたもののあ無理やり引っ張られ、スーツを引き裂かれ上半身バニーが露わになる、野々鳥。もはや色々ピンチ。
「仕方ないなぁ……俺、ノンケだけどいい男だらけだから今日は特別」
テーブルの上に座り、網タイツの足を絡ませるように組むと、自分の指を口元に持っていってチロチロっと舌で舐める。
「纏めて相手したげるよ……おいで?」
パタン。
「しつれいしました」
「早めに忘れるのが、コツですぞ〜。では私はトイレに向かいますので、さらばです〜」
夜刀彦と別れ、トイレを目指すカーディス。
「それにしてもトイレ……なぜこんなにあるのかしら? 不思議〜」
「何で大きめのトイレの個室が多いんでしょう?」
カーディスと声が被った緋月。その瞬間。
「何をする! やめろ、やめるのだぁぁぁぁあ!」
トイレから響く、ラグナの声。その後、天井を破る音が響き、尻尾をむしられ尻丸出しのラグナは月夜に消えていった。
「何すんだ、このー!」
チルルの声、そして様々な破壊音。そして訪れる静寂――その静寂に、遠い目をしたルビィの声が虚しく響く。
「……世の中には知らない方が幸せって事もあるんだぜ?」
(ファラ! トイレでいい絵が撮れたよ!)
(ぐっじょぶ! こちらもモニタールームで更衣室のもの凄いのが録れてる最中! データは全てあたしが押……ぎゃぁぁラウに没収された!)
シルヴィアと交信していたファラの背後から、ラウールがビデオもモニターのデータも含め全てを巻き上げる。
「おまえ絶対見るつもりだろ没収だ!!」
色々ヤバい絵が入ったデータだけに、もはやナイスとしか言いようがない。
オークションが始まり、暗闇で「これ忠志に見せたら喜ぶかなぁー」と、バニーに着替えた千歳がブツブツ言っていた。
「……あんなの何に使うんだろーな……」
アレやソレな品に、多くの者は遠い目で見守るしかなかった。
「火の無い所に煙は立たぬ、ってな? 呪いの着ぐるみ……とか出てきたら面白ェのになぁー」
適当に天魔っぽいかなと感じるものに入札を続けるルビィの期待に応え、呪いの着ぐるみが出品された。
しかもだ。
「こちらの着ぐるみ、何が呪われているのかと言いますと――中の人の大きいモノが小さくなってしまうという、いわくあ――」
「……25万枚!……」
まだ開始もしていないのに、小さくなるという言葉だけで恋音は自分の手持ち全てをかけていた。誰も太刀打ちできぬその入札に、ほぼ即決である(後日、青い顔をして大きくなってしまったなどと呟きながら、それをゴミに出す恋音の姿が目撃されたとか)。
オークションが進み、結局、サーバントだと思えるモノは出品されなかった――が。
「さあ、本日のメイン! 当店一押しバニーっ子、シュガーちゃんは誰の手に! 日当1万からどうぞ!」
可愛いと言うより筋肉なバニーっ子が舞台に立つと、途端に熱気が溢れ出る。
「……やっぱりぃ、給仕のほうでしたかぁ……」
恋音の予想は、当たっていた。ただし少し違っていたのは、詳しい説明を聞く限りでは違法性のない、健全なものであった。存在そのものが不健全ではあるのだが。
こうして、取り越し苦労に終わった調査。心に傷を負った者、溢れんばかりに充電した者、得るも失うも様々だったろう。
「だが天魔はおらず、平和に1日終わりました、まると」
ヤバそうな部分を省き、真面目に調査した結果を報告書に記載する鈴音。上手い具合にヤバい描写を避け、この報告書がお蔵入りになるのを防いでくれたとか、とか。
【冬服】男装スーツ女装バニー 終