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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/05/27


みんなの思い出



オープニング

 春。
 北海道と言えども季節外れの大雪に見舞われ、やっと雪解けがほとんど終わったので、その日、ある農家の男が中学生の息子を連れて牧草地を見てまわっていた。
 近場から順に牧草地を車でぐるっと見て回るが、まだ地面が柔らかく、ぐじゅぐじゅ音を立てている。
「歩きにくそうだね」
 少年が窓から下を覗き込みながら言った。
「まだ下の方が凍ってるから、水がなかなか引けないんだ。だからホントは車でも入るべきじゃないんだが、歩くには遠いからなぁ」
 車を走らせながらも、L字の防風林、そして道路を挟んで逆L字の防風林に囲まれた丘状になっている自分の牧草地を眺め呟く。
 比較的小規模とはいえこれだけでも36ヘクタールはあるのだから、外周だけで2km強。男の言葉通り、様子を見るためとはいえ、ただ歩くには距離がありすぎると言えた。
「さて、メインの方は見終わたから、残ってるのは川を挟んだ向こうのだけだ」
 牧草地から道路に出ると、なだらかな下り坂を降りて橋を渡り、今度はなだらかな上り坂を登ると牧草地の入り口にいったん車を停めた。
「なんか牧草地、変じゃない?」
「ああ……なんだ?」
 少年に言われるまでもなく異変に気付いた男は車を降り、小高くなっている細長い牧草地を見上げ――絶句した。
 やや小高い丘状の牧草地には、不思議な跡が残っていた。幅広く地面をえぐり、一定の感覚で山なりの跡。
 そんな跡が無数に、牧草地の奥までまっすぐ伸びているのだ。
 この様子を見て愕然としていた男はやがて、憤怒の形相を浮かべる。
「誰だ! 人の畑に重機で進入したアホたれは!」
 まだエンジンのかかっている車のタイヤを蹴り飛ばし乗り込むと、荒らされた牧草地で車を無理やり走らせ、何処までも続いている跡を追った。
「絶対、整地してもらうぞ。馬鹿ども……!」
 苦々しく呟き、細かいでこぼこで速度も出せず、何度もハンドルを取られそうになる。それでもなんとか丘の頂上までたどり着いた時、その先の光景にあんぐりと口を開け、目を見開かせてしまう。
 重機にしては平べったく、細長い砲身の付いているモノが4台。いや、4両と呼んだ方がしっくりくるかもしれない。
「戦車?」
 男と違ってずいぶん冷静な少年が眼鏡を押さえながら、ぽつりともらす。
 そして冷静だからこそ、4両の砲身がこっちに向けられている事に気がつく事が出来た。
「父さん、下がって!」
 反応のない父。4本の砲塔は旋回し、刻一刻と狙いを定めようとしている。
 少年はシフトロックを解除して無理に『R』に入れると、それこそ無理な体勢で足を伸ばしてアクセルを踏み込んだ。
 下りもあって車はスムーズに後ろへ――と同時に、凄まじい轟音。丘が弾け飛ぶようにえぐられる。
「父さん!」
 呼びかけで我を取り戻した男はバックしたままハンドルを切り、方向転換させるとあらためて加速させる。
 が、なかなか思うように進まない。
 丘の上に戦車が姿を現し、砲塔を旋回させる。
(仕方ないか……!)
 少年は車から飛び降り、眼鏡を胸ポケットにしまうと突如、金色の粒子でできた焔に包まれた。紛れもなくそれは撃退士の証、光纏だった。
 車の後ろに回り込み背中を押し当て、持ち上げながら足で踏ん張ると車はゆっくりと動きだし、徐々に加速を始める。
「止まらず逃げて、父さん!」
 埋まった足を引き抜きながらも両手で腰の後ろから小さな筒を取り出すと、それが瞬時に2丁の銃へと変化した。
 砲身の仰角がぴたりと合わせると同時に、各車両の砲身に1発ずつ叩き込む。
 3発が砲身の外に当たり、1発が砲身の中へと吸い込まれ――少年は直感的に全力で横に跳んでいた。
 その直後、轟音。
 少年のいたところが弾け飛び、ごっそりとえぐり取られる。
 幸いな事に少年は泥を被ったくらいで済み、男の乗った車はすでに遥か先であった。
(誘爆しなかった?)
 この程度でするかどうかは戦車に詳しくない少年は自信こそなかったが、それでも何の問題もなしに撃って来た事に疑問を感じていた。
 戦車の機銃から激しい音が流れるが、およそ中学生とは思えない速度で横に駆け抜け、とにかく手当たり次第に銃を撃ち続ける。
 何処に撃ってもいくらかめり込む程度で止まる弾丸。連続で弾け続ける地面。
 駆けながらも少年は、自分の銃に視線を落とす。
(いくらこれの威力が低くても、ただの鉄ならばもっと潜ってもいいはず)
 戦車に目を向けると、機銃を撃っていない1両の砲塔が自分の進行方向に向いていた。
 足を止め、後ろにステップ――鳴り響く轟音が地面をえぐりとり、真正面から地面の弾け飛ぶ様を見れた少年が目を細めていた。
(やっぱり。目で追えないんじゃなく、確実に目に見えない物を撃ちだしている)
「どう考えても、サーバントかディアボロか。そういえばどこかでも出たとか言う話は耳に……!」
 もう1本、農振がこちらに向いていたのに気付いたが時すでに遅し。少年の言葉は轟音でかき消され、後方に吹き飛ばされると急な斜面を転がり落ちていく。そして激しい水飛沫。
「ぐぅ……っ!」
 身体の悲鳴を無視し、増水して濁った川からちゃぷんと頭だけをだして、川岸の草むらに息を殺し身を潜める少年。
 急な斜面の上では戦車4両が並び、砲塔を左右に何度か振り――やがて後ろへと下がっていった。
(アレが頭部みたいなものなのかな? 目が悪いようで助かったけど)
 そうして少年は川に浸かったまま、ゆっくりとその場を離れるのであった。

「いや怖かったけど、センチュリオンなんて……いいもん見たなぁ」
 林の脇に止めてあった車に水浸しの少年が赴くと、男の第一声がそれだった。
「センチュリオン? ああ、元の名前ね。でもあれ、生体戦車と呼ぶべきなのかもしれないよ」
 水を絞りながら、自分の父が戦車好きだったことを思い出す。
「無事で何よりだが、大変だなぁお前ら達も。あんなのとかと、戦うのか」
「まあね。1年程度しか訓練してない僕から見てもあいつらはまだ足も攻撃動作も遅い分、戦いやすいのかも。
 と言ってもさっきの1発で骨もバッキバキだし、内臓もいくつかイったから、しばらく安静にしないとダメかも」
 事もなげに言ってのける少年に、男はギョッとして目を見開かせ「大丈夫じゃないだろ、それ」と慌てるが、少年は苦笑する。
「こういうのも茶飯事なんだよ。さって、学園に連絡して誰かに退治してもらわないとね」
 どさりと助手席に座りこむと、突如訪れる睡魔。ダメージの深刻さを物語っていた。
 薄れる意識の中、ふと思い浮かぶ。
(習った事の無い敵だったけど、アレがサーバントなのかディアボロなのかはっきりさせてもらおう。今後も似た系統のやつの参考になるだろうから……)


リプレイ本文

●久遠ヶ原・空き教室
 簡単な自己紹介を済ませた6人の生徒達。小等部から大学部までと、なかなか幅広い年齢層の集まりである。
 黒板には大まかな地形が描かれており、6つの矢印と4つの矢印、それに作戦の内容が事細かに記されていた。チョークを静かに置いたアルジェ(jb3603)が振り返る。
「作戦説明は以上、質問は?」
 教室には授業が終わってからまっすぐ来たのか、髪をおろし、眼鏡を書けている弥生 景(ja0078)、机に肘をつき指で黒板の内容をなぞっている黒瓜 ソラ(ja4311)、腕のシュシュをいじりながら聞いてた松永 聖(ja4988)、姿勢を正し優等生の雰囲気をかもし出すグレイシア・明守華=ピークス(jb5092)に、隅の方でフードを被ったまま目立たないように着席しているノエル・シルフェ(jb5157)がいた。
 ピシッとソラが手を高々と挙げる。
「ボクは川から進行してもいいですかぁ? 儚い系インフィなんで、正面からはアレなんですよぅ」
「アル達よりも早くに行動してくれるなら、問題ない。でも来る以上、戦力として当てにしてるから……そのつもりで」
「当てにされるのは大丈夫として、当てられるのは困りますけどね! インフィだけに」
 自らの冗談めいた言葉に声を立てて笑うが、、本人以外は全くクスリともしていない。笑える空気ではないというよりは、単純におもしろくなかったからなのだろう。
 本人とてそんなに面白い冗談でもないと自覚しているのか、すぐに笑いを収める。どことなくへこんだ様にも見えた。
「私もまだまだ未熟だし、当てになるかはともかく、できるだけダメージを与えるかな」
 眼鏡を外し、コンタクトに変えて髪を結びながら景が力強く頷く。
「戦車でも何でも来いっての! 叩き潰してやるんだからっ」
 がたりと勢いよく立ちあがった聖と対照的に、明守華はすっと静かに立ち上がり、ソラに顔を向けた。
「いざ当たった時は適時、あたしが治しますのでご心配なく」
 それだけを伝えると、颯爽と教室を後にする。明守華が動き始めたのを機に、皆が一斉に動き出すとアルジェが最後に一つだけと、無口ながらも言葉を続けた。
「死ぬ気でやるのなら構わないが、死ぬつもりでやるなら来なくてもよい 」
 だがその言葉で動きを止める者は誰1人――いや、1人、その言葉を反芻していた。
 フードを目深に被ったまま、自己紹介以外でまともに言葉を発していないノエルであった。
(何か、違うの……?)
 死ぬ気と死ぬつもりの違いがよくわかっていない。そもそも死ぬ事への恐怖感が薄いのだ
(どうせ私が死んでも世界は何も変わらないもの……生きていても変わる事はないと思うけど)
「でも……守るだけだと1つしか守れない……その言葉の意味だけは理解、したい……」
 1人教室に残ったノエルは小さく呟き、皆の後を追うのであった――


●北海道の牧草地
「あれは……本当に戦車みたいね」
 林の陰から遠目でセンチュリオンの姿を確認した景は、見た目的にも普段見る敵よりも重厚な姿にやや威圧されていた。
(なかなかとりつく島もなさそうな状況と敵だけれど、なんとか隙を付きたいわね)
「気をつけてね、黒瓜さん」
『歩兵6人で戦車4両を刺せとは……普通に考えるとヒドい話もあったもんですねぇ』
 携帯から流れるソラのぼやきに、それもそうだと苦笑する景。
 景、明守華、ノエルの3人が林の陰で待機している間、聖とアルジェは身を潜めながら防風林の間を縫うように移動し、川べりの傾斜をハンズフリーにしたスマホを首にぶら下げたソラが慎重に進んでいた。
「とりあえずがんばって、あたし自身の向上を目指すわよ」
 スティンガーの弾倉を確認しながらやる気十分の明守華を横目に、ノエルがフードを軽くかぶり直し左目を瞑る。
「本気出さないと死ぬかな……私が死んでも泣いてくれる人いないから、安心して死ねるけど……」
 誰に聞かせるわけでもなく、小さな声で独白し木の陰で日の光から逃れていた。
 その声は他の2人にも聞こえていたかもしれないが、事情を知らないがゆえにそれを否定する事も肯定する事も2人はできず、ただひたすら出番を待った。
『こちら傾斜で待機中。とりあえず……止まらず駆け抜けましょう。突スナの怖さ教えてやります』
「うん、了解」
 ソラの配置が完了した旨を、景はすぐアルジェへと連絡する。
『了解……状況開始』
 その言葉で聖とアルジェもすでに待機しているのだと理解した景達は各々武器を構え無言でうなずくと、林の陰から飛びだすのであった。

 飛びだした景は真っ直ぐに駆け上がりながらもまず牽制と己の存在を知らしめるために、届きはしないがモノケロースを数発撃ちこむ。
 それが発見をより早め、牽制として効果が十分にあったのか、4両のセンチュリオンが一斉に全身を始めた。
「できれば攻撃されたくないな……」
 若干斜め方向に牧草地を駆け上がっていくノエル。
「砲塔の向ける角度にさえ気をつければ、大丈夫よ」
 センチュリオンの射線から逃れるため、ノエルと同じようにまっすぐではなく弧を描くように明守華も駆け上がっていた。
 3人の突撃にタイミングを合わせ滑落防止にナイフを突き立て川べりの急斜面に待機していたソラも、一気に躍り出て、頂上から降りてきたセンチュリオンの横から強襲をかける。
「さぁ……タンクキルの開始ですよぅ!」
 4両とも視界に収めつつ、全力で真っ直ぐにセンチュリオンへと向かうソラ。
 そのうちの1両がソラに気がついたのか、砲塔がグリンと回転し、ソラに狙いを定めようとする。
「こっち向いた! 他が楽になりますね! 横ダッシュ重点!」
 直進から坂を下るように横方向へと移動を切り替えながら、じりじりと接近していた――と、突如1両の主砲が轟音をあげ、ソラの通り過ぎ去った地面を大きくえぐり取る。
「こっちは当たったら沈む儚い系インフィなんですから! もっと優しくしてほしーもんです!」
「ソラ先輩さん、突出しすぎないでよ!」
 後衛をつかさどる明守華は他2人よりやや距離を置きつつ、接近していた。
 そんな中、正面では一番近くまで来た景が足を止め真横へ飛んでみせる。その直後、轟音。地面がえぐり取られ、顔に泥が撥ねる。
 それをぬぐい、次々と砲塔が自分に向けられて射程に入った事を察した景は少し後ろへと下がり始める。
(アルジェさん、松永さん、頼みました……!)

「目標頂上より囮に向かって進行中、作戦通り……行こうひじりん」
 それまで不可視化させていた天使の羽を広げ、空へと舞いあがる。いきなりひじりんと呼ばれ、口を小さく尖らせた聖を放置して。
「だ、誰がひじりんかな……!」
 見た感じは普段と変わらずだが、多少どもってしまう。実の所、戦車というものを初めて見て少し気分があがっていたりするのだ。
 気を取り直し、地面のぬかるみに気をつけながらセンチュリオンからは見えない後方の防風林から、聖も駆け出す。
「狙うは、1両でも多くの頭部……!」
「きついの……いくよ」
 センチュリオンのいる正面側とは高低差から死角になっている丘の後ろを駆け上がり、センチュリオンの後ろを取った聖は下り坂を全力で駆け降り、十分速度に乗ったところで高く、遠くから跳躍――アウルを溜めた鉤爪の一撃を放つ。
 一点に集中されたアウルは衝撃となり、2両の砲塔を突き抜ける。砲塔がへこみ、砲身をひしゃげさせた。
 4両の中央に着地。鉤爪を収納すると、ボーティスウィップに切り替える
 水平移動と同時に鞭で無傷なセンチュリオンの後部を打ち付け、後部は戦車の装甲とは思えないほどあっけなくへこみ深い裂傷が刻まれた。
 後部をへこまされた1両の砲塔が旋回を始めるが、そこに空から白い翼が舞い降り、漆黒の大鎌で強烈な一撃をお見舞いした。
 甲高い音を立てる大鎌――だが聖の時と違い、今度は表面に僅かな裂傷を作るだけに留まる。
「……どうやら、天側に寄ってるみたい」
 大鎌からエーリエルクローに切り替え、砲身がすでに曲がっている車両に肉薄し、継ぎ目を狙ってみたが爪の通りが今一つよくない。
 機銃が向くより先にステップで移動、的を絞らせないアルジェに聖。
「さぁ、ガツンといきますよう!」
 強襲組に気を取られている隙を突き、自分の射程に踏み込んだソラがスナイパーライフルを構え、狙いを定める。
「捉えた! ハチの一刺しスティレット! ぶっすりいきます!」
「合わせるわ!」
 ソラにあわせ、景も裂傷めがけ、数発。
 全身が震え上がったかと思うと、センチュリオンは文字通りに崩れ落ちていった。
 それで怒ったのかどうかはともかく、1両の砲身と2両の機銃がソラに狙いを定める。
「おやおや! 顔真っ赤ですかぁ!? だめだめですよ! さぶろくにげしか!」
 36計逃げるに如かずという事なのか、狙われるとすぐさま逃げの一手を打つ。
 主砲の射程からすぐに逃げ切れるものではないが、砲身に本のページのようなものが突き刺さり、さらに真上から黒いカード状の刃が出現、鋭利なその刃は綺麗に砲身を斬り落す。
 ダンタリオン写本を手にした明守華とルキフグスの書を片手にノエルがさらに詰め寄ると、それぞれカレンデュラと碧空へと切り替えひしゃげた砲身1本、打ち付け、薙ぎ払い、完全に斬り落した。
 止まらずに通り過ぎ去る明守華だが、ノエルはその場で足を止める。
「意味があるかどうかわからないけど、私の奥の手……」
 ノエルが手を掲げると色とりどりの炎が撒き散らされ、2両は爆発の渦に巻き込まれるのであった。
 炎に巻かれる2両――だがそれでも1両は機銃を動かし、ノエルへと向ける。
「やらせない!」
 自分への注意が薄れている隙をつき、景が雷桜の間合いに踏み込んで砲塔に正面から槍先を突き刺した。
(予想では、ここに頭脳があるはず……!)
 槍を引き抜き反応を確かめようと脚が止まった隙をつかれ、すぐ隣の車両に近距離から機銃で狙われた景。
 下がるのがほんの一瞬遅れ、伸びていた腕に見えない弾が数発めり込むが、槍の一突きで崩れ落ちる車両に確信を覚えた景は少々の痛みを無視し、叫ぶ。
「みんな、砲塔を狙って! 確実にあそこが頭だわ!」
 下がる景に代わり、主砲が失われた事で前へ出る聖が放たれた機銃を跳躍でかわすが、さすがに混戦しすぎているのか着地したその先には同士討ちを狙っていたアルジェを狙った機銃が火を吹いていた。
「たたたたたたっ!」
 両腕で顔を覆う聖の肌に見えない弾が深く食い込み、かすった弾は皮を切り裂く。そこに盾を構えた明守華が割り込み、弾の雨を途切れさせると目配せをし、2人はタイミングを合わせ射線から逃れる。
 機銃が弾をばら撒いたまま2人を追うが、聖を守ろうと前に躍り出たアルジェが機銃の根元を切り裂き、動きが止まったところで派手な音をたて、機銃は無残な姿と化した。
「もう一個、潰すよー!」
 距離を取っていたソラが愉しげに笑い、引き金を引く。弾け飛ぶ機銃。
 機銃から逃れた聖が「その……あ、ありがと」と小さな声で恥ずかしそうに礼を述べるが、明守華は飛びこむ際にかすった肩をさすり、小さな光を聖に送り込みながら向かい合った。
 徐々に体の傷が癒えていく聖を前に、明守華はいつもとかわらず冷静だった。
「後ろから見極めた限り、サーバントなのは確定なのよね。先輩の力は必要なんで、もう少し頑張ってください」
 センチュリオンに向き直ると、写本を取り出して明守華は声を張り上げた。
「まずは一匹だわ!」
「……それが妥当」
 本のページを展開し、明守華が撃ちだし砲塔にページが突き刺さると同時にアルジェも肉薄し、こじ開ける様に傷口に爪を突き立て、そこへ気合一閃、景の槍が追い打ちをかける。
「ならばこっちををいただきですよぅ!」
 これで終わらせると言わんばかりにありったけの弾をソラは撃ちだし、砲塔に銃痕の道が描かれた。
「そこを狙うんだから!」
「これで……おしまい」
 聖の鞭が銃痕の道をなぞり深々とした裂傷を作り上げると、ノエルが生み出した黒い刃がその裂傷に突き刺さり、貫通してみせる。
 そして、2両の車両は他と同じく崩れ落ちていくのであった――


●学園へ帰還
 戦闘が終わり、アルジェが「アフターケアも、大事な仕事」と気を配って牧草地の抉れを埋め均しているのを見て、全員で一通り綺麗にしてから牧草地を後にした。
「思ったよりは手間取らなかったわね」
 狭く、座るスペースしかないようなバス停で、髪をほどき眼鏡にかけ直した景の言葉に、フードを深くかぶり直してサングラスを着用したノエルが無言でうなずいた。
「楽して美味しいなら、いいことなんですよぅ。早い安い美味い! 安いと困るでありやがりますがっ」
 こらえきれないと言わんばかりに笑い転げ、悶えるソラに明守華が「狭いので静かにしてくださいますか」とたしなめると、しゅんとして大人しくなる。
「ところで、アルジェはどうしたの?」
 明守華から応急手当てを受けていた聖が、今更ながらにアルジェがいない事に気がついた。
「気になるんですか、聖先輩さん」
「べ、別に気にしてなんかいないんだから……ただちょっと、外にいるのかと思ってたけどいなさそうだから――」
「気になったと」
「違うの、気にしてなんかないんだから!」
 素直にうんと言わない聖に景はくすりと小さく笑うと、その疑問に答えた。
「依頼人の少年に会ってくるんだって。お見舞いも兼ねた、報告なんじゃないかな」

 部屋をノックする音で目が覚めた少年はまだ少し痛む身体を起こし「どうぞ」と声をかけた。
 静かにドアを開け、無表情のままアルジェが部屋へと入ると、少年をしげしげ眺めてから、口を開く。
「初等部6年アルジェ、よろしく……それと見舞い、情報感謝」
「ああ、依頼を受けてくれた人ですか。僕の情報が役に立ったなら、なによりだよ」
「あと報告。全て撃退、正体はサーバントだった」
 戦果と分析結果を伝えると、少年は「ありがとう」と微笑んで感謝を伝えた。
「それではお大事に――名前は?」
 そう言えば教えていないなと思い出した少年。傷に響かぬよう、ゆっくり口を開いた。
「中学2年の中本 修平。また何かあったらお願いするから、よろしくだね。アルジェさん」
「ん、縁があったら。それでは失礼するよ」
 そして来た時と同じように、静かに去っていくのであった。
 1人に戻った部屋では、少年が窓から畑の方角を眺め、ポツリと漏らす。
「……意図はわからないけどきっとまた、出てくるんだろうな」


『生体戦車と呼ぶべき 終』


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・神凪 景(ja0078)
 闇に差す光輝・松永 聖(ja4988)
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
神凪 景(ja0078)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
インガオホー!・
黒瓜 ソラ(ja4311)

大学部2年32組 女 インフィルトレイター
闇に差す光輝・
松永 聖(ja4988)

大学部4年231組 女 阿修羅
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
ArchangelSlayers・
グレイシア・明守華=ピークス(jb5092)

高等部3年28組 女 アストラルヴァンガード
逃走不許・
ノエル・シルフェ(jb5157)

大学部6年257組 女 ナイトウォーカー