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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/09/18


みんなの思い出



オープニング

 決して静かではない音を立てながらも空を行くヘリコプター。倒せないのならばせめて偵察くらいはと、制止も聞かず、ここへとやってきた。
「昔と比べれば荒れている気もするが、さほどビビるほどじゃあないだろ。こっちは空なんだ」
 若い彼にとって、目に映るものだけが全てである。目の届いていない範囲の事などまるで絵空事のようだと、危機感を抱いていなかった。
 だからだろう。視界の縁、道路の向こう側に黒いような緑色の何かが見えたと感じただけで、躊躇なくそこへ向かおうとする。
 あまりにも不用心。自分が空にいるという優越感が、警戒心を麻痺させているのだろう。
 まっすぐそこへ向かった彼がなんなのかに気づくと、言葉を漏らしていた。
「戦車……?」
 知識のない彼にとって、それしかわからない。厳密には違うのだろうが、そんな違いがわかるはずもない。
 そして迷彩服姿の骸骨兵が2人ずつ、後部の握りを掴んで張りついている。
「現在、農免農道を戦車6両がかなりの速度で北上中。戦車の上部には銃を装備した骸骨兵2体ずつ、乗車中。映像を送ります」
 もっと近づいていい絵を撮ろうと、操縦桿を操るのだが――それがいけない。
 細長い砲身が向けられ、彼がやっと危機を感じたときにはすでに遅い。フロントに穴が開き、一面ヒビが走る。
 運転する者を失ったヘリは自らの運命に抵抗するかのように空を蛇行し、やがて地面へと向かって直進するのみであった――

「また戦車か……これはゲパルト自走対空砲だね」
 前回の騒動が気になって仙北に駐在していた白萩 優一が、撃退署にてヘリから送られてきた映像を確認していた。
「最高速度65キロだけど映像から見る限り、50キロ前後――どちらにせよここにたどり着くまで、残り30分ちょっとかな。射程は道路の白線と、電柱の間隔から見て、80mくらいはありそうか……」
 映像から得れる情報を分析していく優一の横顔を、若い女性署員が感心しながら眺めていた。
「見た所、ほぼ減速もしないで90口径35mm対空機関砲を撃っている。反動がほとんどなさそうだし、ここら辺が人類兵器との違って厄介だなぁ」
「どうしますか?」
「こちらから出向いて、迎え撃つしかないかな。と言っても、撃退署の署員が動くわけにもいかないだろうから、僕がとりあえず行ってみますよ」
 モニタから離れ、頭の後ろで手を組んで大きく背中を逸らし左右に捻ると、ゴキゴキと骨が鳴る。
「1人で、ですか?」
 不安げな女性署員。敵が戦車の形をしていて、それを生身で迎え撃つというのだから、いくら天魔や撃退士の知識はあれども、常人にとっては考えられない話である。
「いや、半分偵察みたいな数減らしと言っても、さすがにちょっと厳しいですから。1人応援を呼びます――で、移動用にバイク1台まわしてもらえると、ありがたいんですが。できればタンデムシート」
「バイクはすぐご用意できますが、それでも2人だけですか……お気をつけて下さいね」
 心配する署員に、屈託のない笑みを返す。
「僕らはそう簡単に、死んだりはしないさ」
(どっちがもう化物か、わかったもんじゃないけどね)

 用意されたバイクの後ろに腰を掛け、ぼんやりしていた優一。その姿を見つけ、1人の男子高生が駆け寄る。
「待たせましたか、優一さん」
「ああ、いや。全然待ってないよ。急に呼び出して悪いね、光平君」
 従兄弟にして現在久遠ヶ原に在籍している中本光平へ、メットを投げつける。
「すまないね、時間がないからさっそく行こうか」

 光平が運転するバイクのタンデムシートに優一が座り、見通しのいい道路を疾走する。ほんのちょっと走っただけだが、すぐに向こうからやってくる黒い物体を発見できた。
「あれですか」
「うん、あれだろうね――射程は100mないけど、近しいくらいあるから気をつけて」
 そう言ってからタンデムシートの上に足を乗せ、しゃがむような座り方へと座り直した数秒後、それまで直進だけを続けていた光平は急に車体を傾けるた。
 そのすぐ横を、圧力を持った見えない何かが通り過ぎ去る。そして後ろではアスファルトが砕け、弾け飛ぶ。
 急な操作だったがうまくバランスを取った優一は、メットの下でうっすらと笑っていた。
(さすがは従兄弟か。ああいう気配を感じ取るのは得意ってことだね)
 蛇行を繰り返すたびに後方でアスファルトが弾けるが、お構いなしに前進を続ける。
「側面、いけるかい!?」
「もちろんです」
 道路の端に寄り、砲塔が全てこちらに向いた――と感じた時点で切り替えし、一瞬にして反対側へと回り込むと同時に加速。
 追いきれない砲塔。機銃で追いかけてはいるが、相対速度も合わさってバイクの加速の方が勝っていた。
 側面へと回り込んだバイクではあったが、ゲパルトの後部に張りついていた骸骨兵が銃を向け、掃射。だがそれは光平達を包む祝福を受けた強烈な防壁によって阻まれる。
 最後尾の6両目を通過するというタイミングで、優一が高速の拳をその場で2度繰り出すと、骸骨兵は激しい衝撃を受け脆くも崩れ去った。
 そしてあろう事か、躊躇なくバイクを蹴ってゲパルトへと跳躍。
 高速の中、宙返りを決めた優一が砲塔へ急降下。垂直に落とされた強烈なケリが砲塔を貫く。
「ひとつ!」
 次へと飛び移ろうとした時、通り過ぎていった光平のバイクが突如転倒。激しく甲高い音を立てながら光平が地面を滑っていく。
「光平君!?」
 ゲパルトへは飛び移らず、蹴って後ろへと跳んだ優一はかなり前のめりで着地。脚甲から火花を散らし、甲高い音を立てアスファルトを削りながら減速する。
 止まったところで地面に横になっている光平の元へと駆け寄ると、大剣を身体の下に敷いて、その上で光平は安堵の息を吐いていた。
 その手には猫が。
「ふう……危なくはねる所だった」
「猫をはねないよう助けるために転んだのか……! こっちの寿命が縮んだよ! もっと自分を大事にしないと!」
「猫をはねるくらいなら、はねずに転ぶ道を選びます」
 キリッと真顔でそう返されては何も言い返せない。さらには、それが彼の信念だと知っているだけに。
「……昔も猫を避けてこけてるよね。まあ今回は無傷だからいいけど、心配してくれる人がいるんなら自分の身も大事にしなきゃ」
「そこは撃退士に言っても仕方ない事ですよ、優一さん」
 猫を解放し立ち上がると、大剣を拾い上げた光平が走り去っていくゲパルトを目で追った。
「それにしても、こっちを無視してそのまま行ってしまいましたね」
「うん、どうやら目標まで止まる気はないみたいだ」
 バイクに目を向けるが、タイヤがそこら辺に転がっている。頭を振る優一が携帯を取り出す。
「仕方ない、さらに応援を呼んでおこう。あの数のまま仙北にいかれると、ちょっとおいしくないからね」


リプレイ本文

「随分、慌ただしい事だな……」
 緊急と言われ急遽参加した一月=K=レンギン(jb6849)がバイクを走らせながら、そう漏らす。
(これで4回目だったか? ……やはり何かあるのか)
 タンデムシートにまたがっているアルジェ(jb3603)は、これまでに受けた戦車サーバントとの関連性を考えていた。
 だが圧倒的に、情報が足りなさすぎる。
(せめてもう少し、生態について調べておくか)
 一月のバイクに、城里 千里(jb6410)のバイクが併走していた。その後ろには黒羽 拓海(jb7256)の姿もある。
「側面から飛び移る。行けるか?」
「……命の保証はしませんよ」
 涼しい顔で答える千里だが、内心、冷や汗ものであった。訓練以外でバイクに乗らない彼にとって、今の言葉は冗談や軽口ではなく、かなり本心に近い。
(女性署員の話だと、バイクを使って先行した人が1両撃破している。何したかは大体わかる……問題は俺の身体がついてくるかどうかだ。もし自らの計算と身体能力が違えば――ちっ。緊張してんのか、俺)
「後続車、配置に着いたか?」
 緊張を誤魔化す様、インカム越しに話しかける。
「はいはーい、こちら後続車両でっす。もう少しですよねー?」
 狭い車内、後部の氷月 はくあ(ja0811)が首からぶら下げた無線で陽気に応え、月野 現(jb7023)へと問いかけると「ああ、もう少しだ」と騒音に負けないよう大声で答える。
「今回は宜しく頼む。しっかりエスコートさせて貰うよ」
「こちらこそです」
 ぺこりと頭を下げると、頭の上のハッチを開き身を乗り出す。
 2人が乗っているのは車ではなく、ややものものしい装輪装甲車である。
(味方の命を預かる訳だ。気を引き締めていくか)
 ――と、ふと思い出したように徐々に速度を落とす。到着したのではなく、あらかじめ地図で確認した、目的地より700mほど手前の所だ。
「氷月さん、ここらへんに配置するんですよね」
「あ、そうです。ちょっとだけ待っててください」
 
「ちょっと急制動のチェックしますので、多少揺れますよ」
 結城 馨(ja0037)が一言断りを入れると、少し思考にふけっていたフランツィスカ=K=レンギン(jb6455)が我に返り「わかりました……」と告げると、宣告通りに急ブレーキ、そして急加速を試す。
「なるほど、こんなクセですか。こんなもの運転したことがないですが、相手が相手ですからね」
 ハンドルを左右に振り、アクセルワークも繰り返し、入念に感覚を確かめていた。馨が運転しているのは現と同じ、装輪装甲車である。最低限の知識はあれども実際の運転はとなるとさすがに、である。
「一月達が上手くやって下されば……一気に行けるでしょうし……そのためにも……」
 天使の名を冠した銃を手に、続けた。
「私達の働きも……大事となってくるのです……」
「そういう事です――そろそろ向こうは始める頃合いですね」
 経過時間を確認した馨が呟き、坂道のカーブに差しかかったところで横道へと逸れて停車。静かになった車内で、その時が来るのを待つ。
(一月……無理をしなければいいのですが……)


「さて、始めるとするか……?」
 ゲパルトサーバントを目視できる距離にまでくると、一月が千里へ目配せをする。千里は視線を合わせ頷くと、左手の親指で自分を指しては人差し指を先へと向ける。
 俺が先に行きます――そう伝えていた。
 少しだけ視線を道路脇に向け、ゲパルトと自分との間にある電柱の数を確認。
(5本……4本……3本……2本――今か)
「……作戦、開始です」
 インカムで全員に告げるとバイクの速度を一段上げ、先頭車両の砲塔のみに注視する。
 砲塔が自分に向けられる、というところでグリップを握ったまま右手の人差し指を立て、右へと重心をずらしステアリングを右へと切る。拓海も指の合図に合わせ重心をずらしていたため、よりスムーズに動く。容易には狙いを定めさせない。
 下手な蛇行はせず、一直線に駆け抜けようとする。タンデムシートで飛び移る準備を済ませた拓海はこんな時だが、ちょっと前までの自分を思い出していた。
(生身で自走対空砲を潰す……少し前までは、自分がこんな事をするなんて考えもしなかったな。
 まあいい。今はただ、自分の役目を全うする事に集中しよう。余計な事を考えて飛び移り損ねて、挽肉になりたくはないからな)
 苦笑し、左手でヒヒイロカネを握りしめる。
 右端に寄っていた千里へ再び砲塔が向けられると、ギリギリまで引き付け今度は左手の人差し指を立てると一気に左へと。
 タンデムシートで片膝をついていた拓海はグラブバーとタンデムベルトをしっかり握りしめる。
 切り返しに追いつけない砲塔に替わって機銃が追いかけるが、すでに遅い。先頭車両の左側面へ回り込んでいた。
 拓海は躊躇する事無くシートを蹴った。
 骸骨兵達の狙いが拓海に定まる――が、左で構えていた拳銃で千里がPDWを撃ち、狙いを逸らさせる。
 ほんの少しかすり傷はあるが、ほぼ無傷でゲパルトの上部へと着地した拓海が氷の様に透き通った美しい刀身に炎の波紋が浮かぶ小太刀2本を抜き放つと、骸骨兵の頭が転げ落ちる。
 砲身で邪魔者を振り払おうとするゲパルトだが、その砲身すらも叩き斬られ、もはやなす術もない。
「観念するのだな――沈め」
 小太刀を振り上げ、力の限り砲塔へ十文字に斬りつけるのだった。

 拓海が跳んだあと、千里は攻撃を加える事無く真っ直ぐに最後尾へと駆け抜ける。さすがに速度があっても運悪く当たる事もあり、右腕から血が流れていた。
 そんな千里の後を追いかけて、一月とアルジェが敵陣の真っただ中へと突撃。いち早く気付いた骸骨兵が2人に向けてPDWを掃射する。
 大鎌を回転させアルジェが弾をいくらか弾き落すが、連射の速いそれを弾ききれず、腕や肩にかすり傷を作る。だが距離を保ったことで、反撃のチャンスを生み出した。
 回転させた大鎌をそのままの勢いで小さく手に収め、その手にはタロットカードが3枚、握られていた。
「お前に相応しいカードは決まった」
 顔の前に掲げ、広げてみせる。
「……驕れる者の末路the tower。……突き進むものthe Chariot。……静かなる夜の主the Moon。撃ち走れ……サンダーブラスト!」
 月の光のように丸みを帯びた雷を纏った戦車が具現化。骸骨兵へと襲い掛かり2体まとめて葬り去ると、翼を展開させて骸骨兵が排除されたゲパルトへ飛び移る。
 その手には再び大鎌を携えて。
「お迎えだ……嫌だと言っても強制連行だけど」
 鈍く黒い光を放つ大鎌が、振りかぶられた――

「私も続くか……」
 そうつぶやく一月に骸骨兵が狙いを定めた瞬間、あろうことか運転している本人がバイクを蹴り高々と舞い上がる。
 鴉の様な漆黒の翼を広げ、その手には焔が如き大剣が。
 旋回する様に追いすがるPDWをゆうゆうとかわし、焔の刃を横一閃。骸骨兵の頭が砕け散り、頭部を失った身体は地面へと投げ出される。
 車上へ着地した一月が後ろに目を向けると、主人のいなくなったバイクは横転し、ゲパルトによって無残にも踏み砕かれていた。
「すまないな……」
 そう一言だけ謝ると、大剣を大きく振りかぶる。
「新しいものを覚えると使いたくなるというものだ……」
 力任せに振り下ろされたその重い一撃が、砲塔に深々と食い込むのであった。

 千里が出血する右腕を左手で押さえながら敵陣を通過し、3人が跳び移ったあたりでちょうどコーナへと差し掛かる。
「そろそろ敵が通過するな――当たりだ」
 タイミングを計っていた現と馨の装甲車が道の脇から飛び出し、割り込んで弾幕をその車体で防いでみせる。
 阻霊符を手に、上部ハッチからはくあが身を乗り出す。
「ふっわぁー、話に聞いてたけど凄いねっ」
 ゲパルトの武装に目を輝かせながらも、PDWを構え「では、耐久テストと行きますかっ!」とお返しに弾をばら撒く。
 貫通力の高くなった弾は骸骨兵の全身をくまなく粉砕し、うち砕いた。
 だがゲパルトに当たった分は、あまり効いたふうな感じでもない。なにかしら学習しているのか、これまでの戦車に比べ側面も随分強化されているようであった。
 反撃に備え、撃った後はすぐに頭をひっこめるあたり抜け目はない。
「装甲車でも限界はある。無理するタイミングは見極めていこう」
 はくあに告げると速度を上げ、砲塔部を切り刻み、小太刀を突き立てた拓海の乗るゲパルトに近づくと、拓海が他の砲塔に注意しつつ飛び移る。跳び移った頃には足場であったゲパルトの色が抜け、白い塊になると自壊を始めていた。
「すまんな現」
「なに、これが俺の役目ですから」
 拓海が跳んだ時には一月の大剣も、ひしゃげた砲塔部に突き立てられていた。
「1つ……次はっと……馨、乗らせてもらう……」
 ばっと翼を広げ、跳躍。馨の車両も速度を上げ、上部ハッチから身を乗り出したフランツィスカが骸骨兵へ銃で牽制しつつ、飛び移ろうとしている一月に注意を払った。
 そして気がつく。ゲパルトの砲塔が――そう、対空砲が空を飛ぶ一月に狙いを定めている事に。
(一月……!)
 機銃で牽制されていた一月が、対空砲の射線に入り、音もなく撃ちだされる不可視の砲弾。
 その瞬間、フランツィスカは大きな白い翼を広げ、射線へと割りこんでいた。
 構えていた円形の盾に、激しい衝撃。鈍い音が響き渡り、受け止めたフランツィスカが踏ん張りのきかない空中で身体ごと弾き飛ばされた。
「姉さん……!」
 馨の装甲車に着地した一月の代わりに、装甲車に戻れず、地面へと着地した姉の姿が遠ざかっていく。
「ん……ダメージはほとんどないと、思う」
 一月の横にアルジェが着地すると、一月は自らに言い聞かせるよう、こくりと頷いた。
「外傷はとくにありませんでしたよ」
 猛然とした速度で後ろから追いついた千里が通り過ぎざまにそう伝え、まっすぐにゲパルトを目指す。腕の傷はすでに塞がっていた。
 千里の狙い通りに、まだ残っている骸骨兵が唸りを挙げるバイクに気を取られ、千里へPDWを向ける。
 その隙をつきはくあが装甲車から身を低くしながら飛び降り、転倒しないようにバランスを取りながら慣性を殺し、自らの足で走り出すと先ほど道の脇に停めておいたあるモノ――暖気したままのバイクにまたがり、猛然と追かける。
 狙われている千里は反撃せず回避に専念していると、その横をはくあが通り抜け小型の浮遊体を多量構築し、打ち上げた。
「わたしの軍勢も、中々のものなのですよー」
 何かを察知したのか、骸骨兵が乗っていないほうのゲパルトが道を塞ぐ形で横向きとなり、これまで一定の速度を保っていた無傷の1両が加速を始めていた。
 横向きとなったゲパルトが砲塔を旋回するが、それよりも先にはくあの構築速度が勝った。
「……行け、ルナティックレギオンっ!」
 多量にある小型の浮遊体から猛烈に、弾丸の雨が降り注ぐ。
 弾丸の暴風はゲパルトの装甲を数の暴力による力技で撃ち貫き、無残な鉄くずへと姿を変える。役目を終えた浮遊体が霧散した頃には、ゲパルトも崩れ落ちるのであった。
「逃がしませんよ……!」
 明らかに逃げの一手を選んだゲパルトへ、徐々に距離を詰めていく馨。もうすぐやや急なカーブに差し掛かる事は頭の中に入っていた。
「すみませんお2人とも。かなり危険な無茶をするので降りてもらえますか」
 何をする気かはわからないが、そう言われてはアルジェも一月も大人しく飛び降りる。
 すると急なカーブでやや速度を落し気味のゲパルトへ、あろう事か一切の減速なしで外へ弾くように激突した。
 ガラスの割れる音、車体のひしゃげる音。だがその甲斐もあって、不安定だったゲパルトは浮かされ横転し、激しい勢いで道路を削っていく。
(今なら、試せるか……?)
 横転し、横倒しのまま砲塔がこちらに向いているゲパルトへ、大鎌を正面に構えたままアルジェが駆け出し――その小さな体が撥ねられた様に宙を舞い、地面へと叩きつけられる。
「勝負所だ。荒れた運転になるが我慢してくれ」
 地面に倒れ伏したアルジェの横を現の装甲車が通過し、次弾に備えアルジェを庇うように車体を滑らせると側面の装甲が見えない何かによって抉り取られた。
「それ以上はやらせん!」
 だがそれよりも先に、拓海が跳んでいた。
 空からの一撃でまず砲身を斬りおとし、機銃に小太刀を突き立てる。
「貴様は許さん……!」
 下唇から血が滲むほど噛みしめた一月の大剣が、ゲパルトの底面から砲塔まで突き刺さるのであった――


「姉さん、無事か……っ」
 後ろからゆっくりやって来たフランツィスカに駆け寄る一月へ、まず笑みで返す。
「ん……大丈夫ですよ……ありがとう……一月……」
「私の代わりに無理をして……」
「私の大事な一月には……怪我などしてほしくありませんからね……唇から血が……」
 そう言うと、一月の下唇に唇を当てるフランツィスカ。顔を赤くした一月から離れ、目を細めるとバイクを楽しそうに乗り回しているはくあをというか、バイクを眺めていた。
「……乗り物……私も本格的に乗れるように練習しましょうか……」

(疲れたな……)
「お疲れ様――ああ、うちの部の人か」
 1人ぼんやりしている千里に、ずいぶん遅れてやって来た光平が声をかけた。
「すまないね、猫を避けたらこけちゃってさ」
「……なにをやってるんだ、あんたは。部長が心配するだろ」
 罪の意識を背負いたくないという点はわかるけどなと、こっそり付け足して。

 鎌である程度防いだとはいえ、痛む身体を起こしたアルジェが自分の状態を冷静に分析する。
(当たった瞬間にはじけて霧散する感覚――ただの空気を魔力で圧縮した、そんなものなのだろうな)
「大丈夫ですか、アルジェさん」
 現が背中から声をかけ、温かな光をアルジェの身体に送り込むとアルジェの傷が癒されていく。
「あちらも大事だろうがな……」
 拓海の言葉通り、かなり無理をしほとんど大破した装甲車からのろのろと馨が降り、その場でへたり込む。2人は苦笑し、馨の元へと向かうのであった。
「アルジェさん、来てたのか。とりあえず、これではだけた部分は隠してね。女の子なんだしさ」
 優一が声をかけ、はだけた前を隠す様にジャケットを投げつける。手を繋いで戻ってきた一月たちがそのやり取りに目を丸くさせた。
「女性だったのか……」
 小声で漏れていたらしく、アルジェは「そうだが?」と不思議そうに首を傾げる。
「アルジェ様……私も解りませんでした……」
 そう言った勘違いはされやすいので特に何も言わず、アルジェが優一に顔を向けた。
「海振りかな優一。この辺りもキナ臭くなりそうだな。そろそろ向こうの目的が判ってくると良いんだが……」
「本当に、ね……」
 今回も撃退に成功したが、秋田の動向は不穏さを増すばかりであった――


『また戦車か…… 終』


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: クレバー姉さん・結城 馨(ja0037)
重体: −
面白かった!:5人

クレバー姉さん・
結城 馨(ja0037)

大学部8年321組 女 ダアト
ヴァニタスも三舎を避ける・
氷月 はくあ(ja0811)

大学部2年2組 女 インフィルトレイター
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター
撃退士・
ケーフィヒ=F=K=レンギン(jb6455)

大学部7年53組 女 アカシックレコーダー:タイプA
黒翼の焔・
一月=K=レンギン(jb6849)

大学部8年244組 女 阿修羅
治癒の守護者・
月野 現(jb7023)

大学部7年255組 男 アストラルヴァンガード
シスのソウルメイト(仮)・
黒羽 拓海(jb7256)

大学部3年217組 男 阿修羅