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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:5人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/07/18


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはIFシナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。




 中本 修平(jz0217)が目を開くと、そこは殺風景な教室だった。

 教室なんてどこの学校も造りは似たようなものだが、ここが、1年ちょっととはいえ、かつて通っていた久遠ヶ原の教室だという事だけは確証していた。久遠ヶ原だという確たる証拠は1つもないのになぜ確証しているのかはわからないが、とにかく、間違いない。

 外へ通じる窓が幾枚もの鉄板で乱雑に塞がれ、時折ある手しか通らなさそうな隙間から入りこむ、とても頼りない光が教室全体をわずかにぼんやりと照らしてくれている。

「……? 何でこんな所にいるんだろ。それにこの窓……」

 窓を塞ぐ鉄板に触れ、体温を全て奪われそうな錯覚に陥りそうなほどの冷たさに一瞬、恐れも抱いたが、どれくらいしっかり固定されているのか揺さぶってみる修平。

「素手では開けられそうにないか。それなら――」

 意識を高め、精神を集中する――だが、いつもなら感じる力の流れを感じない。ヒヒイロカネすらも反応してくれなかった。

「アウルが使えない――そういうことがあるものなのか」

 不思議な現象に首をひねる修平の耳に、女性の悲鳴とバタバタと廊下を走る音が聞こえた。廊下に面した窓の向こうで2人の女生徒が何度も後ろを振り返りながら走っている光景――その後ろからものすごい勢いで距離を詰めた女生徒が口を大きく開き、1人の女生徒に肉薄してその首に歯を突き立てる。

 修平が見ていたガラスに液体が降りかかり、滴り落ちる。

 ノドと頸動脈へ歯を突き立てられた女生徒は目を大きく見開かせ、声が出ず、息が漏れるだけの口をぱくぱくと金魚のように開き、彼女がもう間もなく絶命するのは明らかだった。

 もう1人の女生徒は悲鳴を上げるよりも逃げることを優先し、殺戮者からどんどん遠ざかっていく。逃げる背中に目を向けた殺戮者は持っているシャベルを振りかぶり、投げつける。

 床面ギリギリをまっすぐに飛ぶシャベルが、逃げる女生徒の足首に突き刺さり、女生徒は悲鳴を上げ、シャベルへ血に濡れた足を絡ませ勢いよく廊下を転げていく。

 泣きわめく女生徒へゆっくりと近づいていく殺戮者。シャベルを引き抜き、間欠泉の様に吹き出す血など気にも留めず、女生徒の髪をむんずとつかんでは引きずってどこかへと行ってしまった。

 ――あまりにも突然の光景に修平は動く事も出来ず、ただ立ち尽くすだけだった。光纏出来ない以上、常人よりはちょっと丈夫なだけの人でしかないという事実に恐怖してしまっていたのかもしれない。いや、確実に恐怖していたのだ。

 教室の戸を静かに開け恐る恐る廊下の左右を確認し、それから女生徒の死体へと近づく。

 むせ返るほど強烈な匂いではないが、紛れもなく血の匂いが漂っていた。

(人が殺された所を見るのは、初めてだ……)

 隠しきれない動揺を見せる修平はどれだけの間、死体を見下ろしていただろうか。やがて外を見る方法はないだろうかと考え、屋上を思い立って気配に気を付けながらも慎重に屋上へと向かった。

 幸い、屋上の戸は塞がれておらず、すんなりと行く事が出来た。

(でもこの高さから光纏もなしに落ちるのは、ちょっときついかな……せめて下が芝生とかならともかく、コンクリは危ない)

 校舎から出れないかと試行錯誤していると、視界に動く何かを感じて校庭を覗き込んだ。

 ガーデンライトに照らされた校庭の木へ近づいていく2つの影――1つはあの殺戮者で、もう1人はだいぶ弱々しくなったがそれでも何かを喚いている女生徒だった。そんな女性がやかましいのか、顔をシャベルで叩く殺戮者。そして木の側にぽっかりと開いている小さな穴へ、女生徒を頭から落とす。

 女生徒の喚き声がくぐもり、恐怖と圧迫感、それに体勢の辛さに苦しんでいるようである。

 ――その穴へ、あろうことか殺戮者はシャベルで土を入れていく。

 だいぶ弱々しくくぐもっていた声だったが、ここにきて最後のあがきと言わんばかりの大声で助けてと叫ぶのだが、1回、2回と土を入れられると徐々に声は小さくなり、やがて大人しく――いや、静かになるのだった。

 そのあまりな光景に、目が離せない修平。殺戮者が振り向き、視線が合ってしまった。

(やばい!)

 そう思った時にはもう遅く、殺戮者は下卑た笑みを浮かべ一目散に修平に向かってくる。シャベルを窓に打ち付けられた鉄板に引っ掛け、身体を引き上げると隙間に足と手を入れて固定させると、次の窓へシャベルを伸ばす。

 まさか直接登ってくると思わなかった修平は慌てて引き返し、室内へと逃げ込んだ。

 だがどこに逃げればいいのかもわからないまま、階段を下りていく。何段飛ばしかわからないが、それでも極力足音は立てないようにして駆け下り、2階から1階へ行く途中の踊り場に着地して反転したその時、目の前に女生徒がいた。

 勢いづいていた修平は前のめりになりながらも止まり、衝突は免れた――免れはしたが、目の前の女生徒に身震いしてしまった。

 つい先ほど見た、殺戮者に歯を突き立てられた女生徒だったが、首がブランとしていてその目に生気は感じられない。感じられないが狂気だけはしっかりと宿っていて、死んだはずの女生徒が頭をブランブランさせたまま歯をむき出しにして噛みつきにくる。

 思わず修平は理解不能な目の前のそれを突き飛ばし、階段を転げ落ちさせる。だがそのさい爪でわずかに頬を引っ掛かれ、頬がじんじんと熱を帯びていく。

 熱を帯びているなと思った時には、修平の膝は折れ、その場で倒れてしまっていた。

 意識は、ある。あるのだが、身体は全く言うことを利かない。

(ヤバイヤバイヤバイ!)

 ヤバイと思っていても、身体は全く動かず、でも困ったことに目も耳も、その機能は正常だった。下からゆっくり上ってくる女生徒、上から階段を降りてくる足音、それだけははっきりとわかってしまう。

 いっそのこと気を失えたらいいのにと思うのだが、そこは撃退士として慣れてしまっているせいか、どんな絶望的な状況でも失う事だけはなさそうだった――……




 そして修平が目を開いたのとあまり差のない時刻、他の教室でも同様に目を開いた生徒達がいるのであった。







 地獄のような学園へ、ようこそ。


リプレイ本文

●雫(ja1894)の章


「……非常にまずい状況ですね」

 自分のアウルが消えている事に気づいた頃には、すぐ目の前で行われた惨殺に割って入る暇すらなかった。

 何はなくともと身体は武器を求め、掃除用具入れを開けてモップの柄だけを持って廊下へと出る。

 すぐ目の前の死体はもはや確認するまでもないと背を見せたのだが、起きあがる気配にまさかと思いながら振り返ると、胸を貫かれたはずの男生徒が虚ろな目で見下ろしていた。

 そんな彼が雫へ歩み寄る――前に、雫は柄で突き飛ばし、全力でその場から駆け出す。目の前で死体が動いたからと言って驚くほどのかわいげなど、とうの昔に忘れてしまっていた。

 とはいえ殺戮者相手には不利すぎると承知しているので、見つからないよう周囲に気を配る事も忘れずに家庭科室へ。

 包丁を見つけると、モップの先端にテープでぐるぐる巻きにし、布も巻き付ける。

「少し心許ないですが、ないよりはマシですね」

 大量の廃棄ストッキングを見つけ、それを何重にも重ねて氷を詰め込むと、振り回して外へつながる窓の鉄板に叩き込んでみるた。さすがに開きはしなかったが、なかなかいい手応えを感じる

「ふむ……これなら伸縮性があって遠心力が増しますから、非力な私でも殺傷力は高い筈です」

 ガス栓を開け、ストッキングブラックジャックとモップ槍を手に再び廊下に出て、次なる目的地を目指す――が、「く、こいつめ!」と言う声を耳にして、そちらへと向かうのであった――




●ミハイル・エッカート(jb0544)の章


 ハッとしたミハイルは頭を振り、周囲を見回して息を飲む。すぐ前の廊下には倒れて動かなくなった女生徒が転がっていた。

「……いったい何が起きたんだ、バイ○なハザードか。ここはアン○レラ社か――とにかく外に出なくては。死んでたまるか」

 窓に目を向けるが、見ただけで無理そうだと判断する。

(玄関――は危険な気がするぜ。ロープのようなもので屋上から逃げ出すか……? とにかくまずは武器だな)

 掃除用具入れからモップの柄を手に入れ、椅子に手を伸ばしたが思い直し、机を片手で引きずりながら廊下へと出た。

 柄を置き、机を両手で高々と掲げる。

「すまんが、俺が生き残るためだ」

 動かぬ女生徒の手足へ机を何度も振り下ろし、肘や膝の先が使い物にならないほどまで痛めつけた。

 一息をついてから、すぐ近くにある購買部を目指しながらスマホを取り出し、警察に――呼び出し音が鳴り続けるばかりで取る気配がない。

「こうなると火災報知器で消防車を呼ぶのも無理だろうな……まあいいさ」

 購買へたどり着くと陳列棚を漁り、死体は呼気に反応するのではと使い捨てマスクを装着し、心細いモップの代わりに雪かきスコップと盾代わりのシルバートレイを装着する。

「これで少しは安心できるか。あとはスクールウィップを……」

 その時、背後に気配を感じて振り返ると、男生徒が立っていた。

 ――だがその胸には明らかな致命傷が。

 生前と変わらぬ動きで噛みついてこようとするのを、シルバートレイを口に押し付けて押し返す。

「く、こいつめ!」

 掴みかかろうとしてくる手も振り払うのだが、スコップを構える暇がない。同じ事の繰り返しで、このままでは非常にまずいと思っていた矢先、横から伸びてきた雫のモップ槍が死体の胴を突き、ブラックジャックが側頭部に叩き込まれる。

 動く死体は頭から壁に激突して床に倒れる。

「これくらいでは無理でしょうね。氷よりもっと硬いものを探さないと……」

「トドメは任せろ――返り血は浴びたらやばそうだしな、こいつで」

 頭へスコップを振りおろし、スコップが変形した頃にはピクリとも動かなくなっていた。

 安堵する2人の耳に新たな足音が聞こえ、緊張が走る。

 そして闇の中から姿を現したのは――




●遠石 一千風(jb3845)の章


「あら……」

 思わずそんな声が出てしまったのは、自分が今、卒業したはずである高校の制服姿で高校の教室に立っていたからだ。そしてそんな事に気づいた直後、目の前の廊下では女生徒が右肩から股までシャベルで真っ二つにされる映像だった。

 そして去っていく殺戮者に憤りを覚えた一千風だが、アウルが出てこない事に戸惑い、気が付けば廊下から見えないように廊下側の窓の下にへばりついて愕然としていた。

 カラカラという乾いた金属音は遠ざかっていくのを確認し、モップを手に恐る恐る廊下へ出て真っ二つにされた女生徒を見下ろして唇を噛みしめたその時、死体が左腕と左足を使い一千風へと這いずり寄って来る。

 息を飲み、ゴルフクラブの様にモップで動く死体を遠くへ打ち上げた。

(アウルの力が使えない上にこんなことって……すぐにでも醒めたい悪夢、ね…… )

 慎重に歩を進めながらそんな事を考え、購買部に向かっていた。

(窓からは無理そうね……この分じゃ玄関も怪しいものだ)

「でも、ここで無残な最期を遂げるつもりは無い」

 決意を口にし、言い聞かせる一千風。

 その時、何度も叩きつける音と走り出す音が聞こえ身構えたが、足音が遠ざかっていくのに胸をなでおろす――が、目の前の十字路から男生徒が不意に出てきた。

 こんな状況で足を引きずって、呑気に歩いている相手がまともなはずはない。

 暗闇が功を成し、気が付かれる前に一千風はわずかに刺しこむ月の光すらも当たらぬ、窓下の暗がりで息を潜める。

 ゆっくり、ゆっくりと前を通過していく男生徒。

 気づかれる様子はなさそうだが、向かう先も一緒である。気配を悟られないほど距離を空け、様子を見ながら後ろをついて行く一千風だったが、「く、こいつめ!」という声に立ち上がりかけた。

 だが先に雫が駆け抜け、すぐに静寂と化す。

 会話するのが聞こえたので、一千風は暗がりから出てミハイルと雫の前へと出たのであった。

「他にもいたか……やはりアウルは」

 一千風の質問に2人は首を横に振り、やはりという顔をするしかなかった。

「アウルは使えませんが、武器の使い方を忘れた訳じゃありませんからね。とはいえもう少し装備を調えたいので、科学室に寄りたいところです」

「それなら屋上に行くついでに寄って、そのあと屋上で脱出経路の確保だな。全員で行動する方がいいだろう」

「そうね。使えそうなものと言う点では体育倉庫も悪くない、寄れそうならそっちも寄ってみよう」

 3人は廊下を慎重に進んでいくと、原形を留めていない肉塊に遭遇する。

「こいつは……」

「おや、その声はもしかしてミハイルさんではありませんか?」




●袋井 雅人(jb1469)の章


 気が付いた雅人は眉をひそめるがそれほど狼狽したようには見えず、むしろ飽き飽きという顔である。

「ううっ、なにやら学校は違いますが、また、またこの夢ですかっ!!
 もう何度目ですかね、いい加減飽きましたよ。毎度することに変わりもありませんし……まずは目の前のコイツを原型を留めない肉塊にしないといけませんね」

 常に持ち歩いている懐中電灯を点けて脇に挟み、椅子と机を装備して廊下に出ると、腹から飛び出してはいけないものを撒き散らして横たわっている女生徒に近づいた。

 懐中電灯を床に置き、そして顔色一つ変えず教室にあった大きな三角定規で四肢を貫いて、躊躇する事無く椅子を打ち下ろす。椅子で叩き続け、椅子が壊れたら机を使い、壊れてしまえばまた教室から運んできて叩き続ける。

 途中、動きそうな気配はあったが、結局、動く前に肉塊へとその姿を変えていた。

「よし、このくらいでいいでしょう。お次は精神を研ぎ澄ませて、次の戦いに備えなくては……」

 何事もなかったように澄ました顔で隣の教室に向かい、椅子と机を教室の窓と片側の戸を塞ぐようにして乱雑に積み重ね始めた。廊下のバリケードに満足した雅人は最初の教室に戻り、唯一になっていた出入り口に中から椅子と机を積みあげようとした時、「こいつは……」と言う聞き覚えのある声を耳にする。

「おや、その声はもしかしてミハイルさんではありませんか?」

「雅人か。お前もこんな世界に迷い込んじまったのか」

「ええまあ、いつもの事ですよ。ですから懐中電灯、十徳ナイフ、十徳ペンチ、十徳カード型ツール、鏡、方位磁石を必ず持ち歩くようになりました」

 道具を見せ、「いやー、いいですよねー、懐中電灯と十徳ツールと鏡と方位磁石、なんか持っているだけで安心します」と、こんな状況下で笑う。

「雅人も一緒に来るか? 屋上から脱出するつもりなんだが」

「いやー僕はバリケードを張って、しばらく籠城しますよ――ああ、そうだ。探索するなら懐中電灯と鏡、あとは十徳ペンチでも持っていってください。
 それでは、絶望的な状況ですがなんとかみんなで生き残りましょう!?」

 雅人と別れた後、鏡を使い曲がり角の先を確認しながら科学室にまで無事到着し、薬品をフラスコなどに小分けし、ストッキングの中へ沸騰石や金属、果ては鉱石までも詰め、雫の装備が充実していく。

 体育倉庫へ辿り着き、倉庫の重い鉄の戸を開けると、椅子の脚が口から飛び出た誰かがミハイルに飛びかかってきた。

 だがモップの柄がそいつの額を打ち、のけ反らせたそこへ足を刈りながらタックルを決めた一千風。倉庫へ押し戻してネットを片手で寄せると、そいつに絡めた。

 立ち上がる一千風が、「さあ、今の内に切り抜けよう」と倉庫から出てミハイルと共に戸を閉めるのだった。

 そしてやっと屋上へ急ごうと移動している時、火の明かりを背にして鼻歌まじりで歩く彼女に出会った――




●春都(jb2291)の章


「おろ?」

 目の前で人が殺された――だが出てきたのはいつもの口癖だけだった。

 異様に心と頭が冷めていて、それどころか高揚してしまっている自分に違和感を感じる。

「これは夢……? 夢なら楽しまなきゃですね♪」

 現実世界の自分なら、こんな自分は許さない。だがここは夢なのだ、夢ならこんな自分だったとしても不思議ではないと、椅子を片手に小さな鼻歌まじりで体育倉庫へと向かい、倉庫を開けると中で誰かがうつ伏せになっていた。

「先手必勝♪」

 首へ椅子の脚をあてがい、春都は「とう!」とヒーロー的な跳躍をして、椅子の上に全体重をかけて飛び乗る。ずぶりという感触に春都は身を震わせ、笑みすらこぼしていた。

「さって、あるかなあるかなー……ゴマダレ〜♪」

 ネットをそこらにぶん投げ、伝説の剣でも手に入れたかのようにバドミントンネット用の細い支柱を両手で掲げる。

 そして「さて、どうしようかなぁ」と廊下をぶらついていると、死体が立って歩いているのを発見し、すぐ近くの教室へ誘導する。

 追いかけてきた死体の顔へ椅子をぶん投げ、のけ反った胴体へ持ち上げた机を押し付け、蹴り飛ばす。

 そして仰向けに倒れた死体の頭部へ、口元へ笑みを浮かべたまま支柱を力一杯、何度も打ち下ろした。

「おろ、もう動かなくなった……出口を探すのは面倒だし、これなら殺戮者を狙うのも一興……あ、この建物を燃やしてみる?」

 いいねと拳を振り回し、さっそく購買部でオイルライターとメタルマッチ、ウォッカを手に入れると、図書室でウォッカをまき散らし、ライターで火を着けた。

 火はゆるゆると燃え広がり、先ほどよりも大きな鼻歌まじりに廊下へ戻る――と、生きている3人に出会ったのだった。

「あ、この建物、燃やす事に――」

 そこまで言いかけて春都の胸が高鳴り、悦びに目をカッと開かせたと同時に、3人の後ろからシャベルを引きずる音が聞こえた。

「奴、ですね。ですが生憎と助けを待つ可愛げのある少女では無く、倒しに行く野蛮な少女なので――先に脱出してください」

「わかった――死ぬなよ」

 後ろを振り返り、雫が薬品を投げると同時に走り出すミハイルと一千風。かわした殺戮者へ一千風がタックルで壁に叩きつけ、2人は屋上へと向かう。

 駆け寄る雫の槍が殺戮者へ到達する前にシャベルでへし折られたが、ブラックジャックで側頭部を殴りつける事は出来た――が、鉱石のせいでストッキングが裂け、中身が散らばってしまう。

「でっきるかな、でっきるかな、はれはれほほー!」

 自分が無残な姿になる事にすら心躍らせ心地好い殺意を胸に、殺戮者へ向かっていく春都。シャベルの一撃こそ支柱で防げたが、支柱を振り回しても当たってくれる気配がない。

 そこに雫が短くなった柄で殺戮者の脚を払い片膝をつかせると、春都の手を引き駆け出した。

「逃げたりしませんよ、私」

「逃げるんじゃありません、家庭科室に行くだけです。科学室にはもう爆発物を残してきませんでしたから」

 それで雫が何をしようとしているのかわかった春都は「なるほどです」と、目を輝かせてスキップしながら雫と共に家庭科室へと向かう。

 家庭科室へ飛び込み、殺戮者が入ってきたのを確認してから反対の戸へ向かいながら、ライターを落とした春都はマッチを着火する。

 その瞬間、家庭科室は火に包まれ大爆発を起こす。

 押し出され飛び出てきた2人は廊下の壁に激突し、春都は大の字に寝転り、雫はそのまま気を失ってしまった――そこに、雅人と一千風が駆けつけてきた。

「終わりましたか――僕は雫さんを連れて脱出します」

 雫を抱えた雅人が走り出すのを見送った一千風が、大の字になって笑っている春都を起こそうとしたその時、胸がカッと熱くなる。

 胸を見下ろした一千風は、赤く染まったシャベルが突き出ているのを見つけてしまった。その途端、これまで抑えつけていた感情が溢れ、叫んでしまった。

 一千風の後ろには殺戮者がいたが、倒れ、自力で起き上がった春都はその頭部を何度も何度も踏みつぶす。

 そして叫ぶ一千風の方へその笑みを向けると、後ろからシャベルを引き抜いた。

「嫌だ、死んでゾンビのようなるなんて、助け……」

 一千風の懇願に、春都は笑ったままシャベルを水平に――




 無事に脱出できたミハイルだが、空の部室を見て愕然とした――のも一瞬、そこに愛する者の無残な姿がない事に希望を見出して安堵していた。

(大丈夫だ、きっと……)

 そう自分に言い聞かせていると校舎から爆発音がして、振り向いたミハイルが見たものは燃え上がる校舎と、屋上でシャベルを掲げ高笑いを上げている誰かの姿であった――




【夏夢】シンプルな悪夢  終








 チャイムが聞こえ、目を覚ました春都は突っ伏していた机から顔を上げると、いつもと変わらぬ久遠ヶ原の光景があった。

 ――やはり、今までのは全部、夢だった。

 夢は普段抑制されている意識や願望が反映されるとかしないとか聞くが、あまりにもあまり過ぎる自分に「うわぁ……」と声を漏らしながらも、次の授業の準備を。




 ――その時、悲鳴が響き渡る。




 悪夢はまだ




 終わらない――……


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
久遠ヶ原から愛をこめて・
春都(jb2291)

卒業 女 陰陽師
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅