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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/07/12


みんなの思い出



オープニング

●とある町の駐車場、その一角

「優ちゃ〜ん、そろそろ行くわよ〜? 表向きは同盟している以上、材料の調達はこっそりなんだから〜。それに〜また募集もしておかないと〜。新しい力の試運転したいのはわかるけど〜私のチャームは不完全なんだから〜」

 バスの横で歳も性別も統一されていない30名ばかりの人達が整列された前に立つ赤い頭巾の悪魔、メイジー・バレットがスマホ片手に、ピッチリとした黒い全身スーツを血に濡らした若林 優(jz0390)へ釘を刺す。

「分かっているさ。死にたがっていたわりにいまさら生きたいと愚図るやつだけ――」

 優の言葉が途切れ、自分の胸を見下ろした優は三本爪が突き出ているのにやっと気づいた。

 だがその程度が致命傷になるはずもなく、ゆっくりと後ろを振り向けば、全く知らない女が貫いている。

「この人達が望もうとも、連れて行かせません!」

「あら〜撃退士の方が混ざってたのかしら〜? でもおかしいわね〜、身分証明は確認したのに〜」

 指を鳴らした優が振り向きざまに彼女へ掴みかかろうとしたがその手は空を切り、優の動きを見透かしていたのか音もなくしなやかに後ろへと下がっていた――が。

「ぱん♪」

 メイジ―が手を叩くと、退いた彼女のすぐ横、こんな状況にもかかわらず立ち尽くしていた男性がいきなり花火のように弾けた。肉片の爆風に押し倒された彼女は地面へ転がり、ぐったりと倒れ込んでしまう。

 身体の下で腕をもぞもぞと動かし、なんとか腕で身を起こそうとするが、震える腕では上半身を起こすだけが精一杯だった。

「動きも鈍いし〜打たれ弱いから〜、元撃退士ってところかしら〜」

「それは憂さ晴らしにちょうどいいな」

 胸から血を流したままの優がずかずかと近寄り、彼女の頭を左手で掴んで持ち上げると、右の掌でむき出しとなった彼女の白い脇腹を掴み――肉をむしり取った。

 相当な激痛のはずだが、それでも彼女は自分の悲鳴が助けるべき人間の絶望になると知っているから悲鳴をあげず、歯を食いしばる。

「悲鳴もなければ許しての一言もない。きっと昔からそんな強い女だったんだろうな……気に入らん」

 肉をむしった傷口へ拳を叩きこむが、それでも彼女は負けない。

 ただ、奇妙な事に彼女を殴った瞬間、優の胸の傷は跡形もなく消えていた。

「あのご主人、こんな便利スキル持っていて使わなかったのだな。
 さて……ヒーローなんてゴミだな。お前のしたことは全くの無意味だったと絶望しながら――死ね」




「これはもしかして、優かな?」

 スマホに彼女から届いた撮影動画を優の双子の姉である若林 雅に見せる、白萩 優一。顔見知りで腕の立つフリーの撃退士という事で優一を雇って、西目屋村周辺を調査していた雅が、見せられた動画に頷いた。

「なんでこんなものが……」

 とてつもなく嫌な予感を覚えた優一の元に、撃退署から連絡があった――




 その現場に、見るも無残な姿となって残された3人の女性を確認しにきたのは優一と、雅。遠縁で合う回数は少なくとも、そこそこ昔から優一の事は知っている雅だが、それでもこんな青ざめた表情は見た事がなかった。

 優一は唇を震わせ、膝を突き、恐る恐る布をどけ、遺体の顔を確認し――額をアスファルトに打ち付けた。

「なんで……なんで、彼女が……! 僕らが幸せを願った、彼女が、なんで……!!」

 砂利を握りしめ、背中も唇も震わせながら、何度も何度も、額を擦りつける。何度も何度も。

 そんな優一の背をさすりながら、雅は重そうに口を開いた。

「……優を、止めたい。止めたいが、今、優達がいる西目屋村は三界同盟に従っている体をとっていて、学園は明確な証拠がない限り警告くらいで、直接的な討伐はしないだろう」

「同盟なんてのは学園が勝手に決めたことだ、フリ―の僕には関係ない……!」

 皮がずり剥けるまで擦った額をあげた優一の目にははっきりと、濁った火が灯っていた。

「憎しみは何も生まない、だからやられた事は全部水に流して世界の平和のために手を取りあえって? やられた方は我慢しろと?
 そんなのは知ったこっちゃない!!」

 立ち上がった優一は、全く知らない人と結婚してしまったけど、それでも忘れられない感情を抱きながらも幸せを願った彼女、瀬川・美鈴へと向け、言った。

「あいつらは必ず殺すよ、美鈴」




●久遠ヶ原斡旋所

「リザベルの侵攻の通り道でこの周辺の被害が酷かったため、結構長い期間人が居なかったんですけど、同盟やらまあ色々な要素もありまして人もだいぶ戻ってきていたんですが、仮設住宅住まいで人付き合いの悪いお隣さんがある日を境にまったく姿を見なくなったとか、そう言った失踪なのかただの夜逃げなのかわからないものが青森県の小さな町でここ最近、起きているんですよ」

「……はあ」

 御神楽 百合子(jz0248)の突然始まった説明に、黒松 理恵(jz0209)は生返事を返す。

「それと雅に、どんな関係が……?」

「お教えしたじゃないですか。若林 優と言う、ヴァニタスとなった雅さんの妹さんの事。そして雅さんが優さんをどうにか止めようとしているのだという事も」

「その失踪に、絡んでいると?」

「おそらく、ですね。
 地域が日本海側に絞られていて、西目屋村の地域に近いからというあやふやな理由ですが――学園に送られてきたモノなので本当はお見せできない代物ですけど、黒松さんは依頼人という事でお見せしますが、この撮影動画が美鈴さんという方から今朝、届けられました」

 百合子が理恵に見せたのは、美鈴の撮った優とメイジーの映像だった。

「で、先ほど確認したところ撮影者は殺されたようですが、それでも証拠とは言い難いしで、学園としては優やメイジーのいる同盟先である西目屋村に『なにしとんじゃいわれぇ』くらいしか言えないのですよね。
 ですがこれで私は失踪に関わっているとほぼ確信はできたわけで……ここからは私からのお願いなんですが、黒松さんの『雅さんの行方を捜す』依頼に、こちらの失踪調査依頼を被せさせていただけませんかね」

「学園からの指示は出せないけど、私個人の依頼にして動くって話?」

「まあそうですね。個人依頼でいきなり西目屋村に攻めることは無理でしょうけど、それでも今回の失踪に関わっていると証明できれば、ガサ入れの口実くらいはできるでしょう。
 それに自分の腕では不足していると思って依頼して来ているのでしょうから、雅さんが関わっているのは結構大事になりそうな案件なので、腕に覚えのある方が乗り出してくれるとは思いますよ」

 腕を組む理恵だが、すでに答えが決まっているという顔だ。

「これまでの規則性から次の犯行は深浦町で、ある程度の日数サイクルがあるからまだ時間的余裕はあると予測はできるんですが……とはいえ手口に関しては多少のヒントがあってもまだよくわからないわけでして、よく考えてもらわなければ無駄骨に終わってしまうでしょうね。
 時間を無駄にできませんし、さっそく募集をかけてよく考えてもらいましょう――これ以上の誘拐を防ぐためにも」


リプレイ本文

●斡旋所

 一通りの説明を受け、例の動画を見ていた一同――。

「なるほど。主人から解放されて今や好き放題と」

 千葉 真一(ja0070)がポツリと漏らすと、浪風 悠人(ja3452)は頷く。

「いい加減、優を止めなければな」

 アルジェ(jb3603)の呟きに、「そう、ですね……」と水無瀬 文歌(jb7507)が浮かない顔で頷く。

(雅さん、優さんの事で責任を感じて……? 早く追いつかないとっ)

 そんな文歌を見透かして、城里 千里(jb6410)が「どのみち」と文歌に言う。

「目的は同じなら、辿り着く先も同じですよ」

(早いか遅いかが明暗を分ける事は知っているけどな)

「部長が先に現地入りしているようなんで、先に出ます。これ、俺の連絡先なんですいませんけど登録しておいてもらっていいですか」

 立ち上がり斡旋所のメモ用紙にSNSのIDを書きこむと、千里は返事も待たず先に行ってしまった。

「一昔前にアングラサイトで自殺志願者を募集した事例があるが、あの手口の類例か――今ならネットよりSNSの方が不特定多数を引っ掛けて、痕跡を残しにくいか」

「募集と言ってますし、そうでしょうねえ。そのあたりをローカルサイト含め探ってみたいところですね」

 それまで横目で悠人が繰り返し見ている画像を見ていたエイルズレトラ マステリオ(ja2224)が腰を上げると、「そうですね」と悠人も立ち上がった。

「署や警察に協力してもらい、被害者の情報を探ってそこから少し絞ってみましょうか」

「募集段階で篩に掛けてるようだし、こっちの本当の身元を取られないように対処しておかねぇとな。そこも御神楽さんや撃退署の協力を願おう」

「私は美鈴さんが気になりますので、そちらに回ってみます」

 真一や文歌も動き始め、少し考えるアルジェ。

「ならアルは少し別の方向から、足を使って情報を集めるとしよう」




 美鈴が発見された鰺ヶ沢撃退署に真一、エイルズレトラ、悠人、文歌の4人が訪れた――が、表面上はともかく、署員の反応は芳しくなかった。

(まあ元とはいえ撃退士が1人殺されているわけだし、そろいもそろって瀬川さんよりも若いからな。不信感を持ってしまっても不思議ではない)

 それならば自分がすべきことはこうだと、真一は躊躇する事無く頭を下げた。

「人の命が掛かってる。そして美鈴さんたちの犠牲を無駄にしないためにも、俺達に協力してほしい」

 飾った言葉ではないが、それでも署員の心に届いてくれた。それほど、真一の謙虚で真摯な言葉には力があった。

「勘だが、ローカル路線の無人駅辺りを集合場所に指定して、そこからバスで纏めて移動とかやってそうな気がする。あの映像だと、駐車場で殺人をしても見咎められないようだったしな。
 俺は個別対応していた場合を想定して、被害者の携帯とかメール履歴などを調べるつもりだが……そこまで手間をかける連中かどうかだな」

 確かめたい事を真一はグループチャットに書きこむ。

アルジェ
『以前、手間のかかる小細工もしていた。
 大雑把な部分もあるが、手間は惜しまないタイ
 プだ』

「ふむ……僕個人としても、手間を惜しまないタイプな気がします」

「俺もそう思います」

「間違いはないと思います、調べて損はないと思いますよ――美鈴さんの住所を確認しましたので、向かいますね」

「それじゃあ俺は住所が近い被害者宅を回りますか」

「僕は遺留品からブックマークや履歴めぐりですかねえ」

 エイルズレトラは真一と共に殺された人の遺留品を漁り始めた。

 アルジェから『思ったのだが』と前置きが流れてくる。

アルジェ
『様子を見るに、何らかで集まった所を集団
 催眠的な事で操られていそうだな。
 傷心ツアー等だろうか。
 出発が早朝か深夜で人気の少ない駐車場等
 に集合するような、一般人限定とかのツアー
 に的を絞ってみてもいいかもしれない』

「殺された方の履歴を見ると、地元バスツアー会社の登録はされていますねぇ。無駄に期間だけが長い面白くなさそうなツアーです。同じ日に申し込んでいるようですから、そのツアーに参加するよう伝えられていたのかもしれませんねえ」

「それと瀬川さんを含む3人は顔見知り――いや、顔は知らない知り合いだったようだ。主犯が個別に連絡ではなく、個人が個人へと連絡網のように伝えている」

悠人
『失踪した方のPCメールにもありました。
 それとそのツアーのチラシも――被害者の意思で
 集まらせておいて、直前に魅了して連れて行く罠
 なんでしょうか。ツアー自体も偽装されている?』

 情報を流すと同時に、そんな情報が流れてくる。そしてアルジェからも『ふむ、なるほど』と納得している様子を見せた。

アルジェ
『あの車両が盗難車かどうか調べたが、ツアー会社
 が手配しているバスだとわかった。ツアーもある
 ただ周辺のバス会社に手配したわけではなく、西
 目屋村のバス会社のバスを手配したということだ
 なぜわざわざそこなのか、理由までは教えてはも
 らえなかったが、きな臭いツアー会社だったから
 には裏であいつらと繋がりがあってもおかしくは
 ないだろう』

「他でも同じようにバス会社を指定したツアーに失踪者が申し込みしているかどうかで、裏が取れそうですね」




 ほんの少し前。

 撃退署から出てくる文歌と悠人を、ずいぶん離れにある喫茶店から目を凝らしている千里。すぐ前には理恵がいた。

 理恵に直接連絡して、辿り着く先は同じだと文歌へ伝えた言葉を理恵にも伝え合流したのだが、千里の行動は見ているだけである。

「何してるの、千里君」

「……敵が敵だけだったら、別にそれでいい。だがあいにく俺はひねくれものだからな……送信者が敵である可能性を俺は捨てたわけじゃないぞ?」

「そんなことって……」

「可能性のひとつだ。
 あそこにある死体は間違いなく動画を撮影した本人だろうが、いつ動画を送ったのか――仮に、彼女が最期に敵への一撃ではなく動画を送るという行動に費やしたのなら。三界同盟中とはいえ、誰にも助けを求められなかったのは何故だ。敵中に単身乗り込んで、自身を火種にしても暴き、守りたいのは何だ?」

 一息に言いきってから、アイスコーヒーで口の中を湿らせる。苦みとほのかな甘みが喉を通過し、ふと思い立つ。

(水無瀬先輩あたりは撃退署の密偵とか考えていそうだが――それならもっと学園が把握していてもよさそうなもんだ。俺からすれば彼女こそが自殺志願者だ)

 そんな事を考え遠ざかる文歌の背に視線を戻すと、消えきる前に腰をあげるのであった――




(美鈴さんはなぜあの場所に? 旦那さんが失踪? もしくは撃退署密偵? それで自力調査してたのかな……映像を送ってきたという事は弱い事理解してて、万が一手に負えなかった時の事考えてたのかも)

「それなら他に手がかりを残しているかもしれません」

 瀬川の表札がかかった一軒家を見上げ、チャイムを鳴らす――が、やはり反応はない。開くかどうか試すと、抵抗なく開いた。

(鍵もかけずに……?)

 人の気配を探ろうと一通り見て回り、誰もいないことを確認してやっと安堵し調査する。

 ――そして。

「やはり旦那さんは……」

 かもしれないという予想はあったが、電源も落とされていないPCを確認してはっきりわかってしまった。

「ゲーム内友人の誘いでツアーに参加した旦那さんが、音信不通になったんですね……」

 旦那が板柳へ出向いてツアーに参加した日から連絡が一切取れないと、残されていた。それも『捜査する方へ』というファイルに。

「万が一を想定してPCも落とさず、こんなファイルを用意した――まだツアー期間ですから行方不明だと警察に届ける事もできず、署や学園には組織ゆえの不自由さを知っていたから……。
 自分の身に降りかかる最悪の事態も考えられるくらい聡明な方なら、きっと旦那さんの事にも気づいて……」

 それでも彼女は1人で乗り込んだ。何故なのか――そんな事はもう、わかりきっている。

「貴女の想いは、私が継ぎます」

 美鈴の残した記録は今まさに調べ上げようとしている事で、初期はもっと雑で無関係なツアー客も巻き込んでいた事、募集の手段が複数ある事、ねずみ講の様に人から人へと伝わっている事などであった。

アルジェ
『ふむ、その裏付けはとれた。他の地域の被害者
 宅を訪れて確認したが、確かに同じSNSやゲ
 ームを登録していた』

悠人
『そしていま俺が調べている人が、楽に死ねる方
 法といった類のサイトばかりを見ていた形跡が
 あって、その中の一つから直接メールを受け取
 っています。自殺志願者をツアーに参加させて
 いる、という証拠にはなるでしょう』

千里
『そこまで確定した情報なら、次の募集も予測が
 つきますね。流れから言っても近隣の都市で長
 期でかつ、人気のないツアーが組まれていて、
 出発が最も早いところが当たりでしょ』

 それまでずっと沈黙していた千里の推測に、誰もが頷くのであった。




●その日の早朝に

 その町ではバスターミナルと兼用している、ローカル路線の無人駅が集合場所だった。

 その近く、2階建て宿泊施設の屋根から駐車場を見ていた文歌が、バスの到着を確認した。動画で見たものと一致し、中に数名と優達の姿もある。

「やはり間違いなさそうですね――あっ」

 裏からするりと屋根から飛び降り、連絡を入れながらもそこへと急ぐ文歌。

 文歌が急いだ先には雅と、連絡を受けて急いだ理恵と千里、それに悠人とアルジェがいた。優と接触する前に確保ができて、悠人は胸をなでおろしている。

「落ち着いてくださいね、雅さん。私も同じ想いですが、まずは証拠を押さえてからです」

「大丈夫だ、落ち着いている」

 普段通りの雅――だが千里の顔にはその言葉が信じられないと書かれていた。だから千里は柄にもなく、理恵と雅の前に立ち塞がるようにする。

「近目が効かない、傍にいてくれ――いま触れられた6人に、爆発物系のトラップが仕掛けられました。起爆方法などはあいにく俺の目じゃわかりませんけど」

「逃走対策、でしょうね」

 参加者が順次到着し、ばらけて集まっていたのだがメイジーの目が怪しく光ると、バラバラだった人達が綺麗に整列する。

「いままさに、か――いかん、優一がいる……! フリーの撃退士暗いなら潜り込まれてもかまわないと言うのか、やつら」

 アルジェが整列した中に優一を発見したと同時に、雅が走り出していた。それを予期していたかのように、千里も。

 優とメイジーの視線が雅に注がれた瞬間、優一が動き出す――が、整列されていた人々に阻まれ、阻まれた優一よりも先に、エイルズレトラと真一改め赤きヒーロー『ゴウライガ』が、メイジ―へ向って真っ直ぐに向かっていた。

 そして悠人と文歌もまた、優一が動き出すのを確認するより先に飛びだして優へ一直線に向かっていく。

 低空をヒリュウのハートと共に翔けるエイルズレトラの一閃がメイジーに到達するかという絶妙なタイミングで、間に一般人が割り込んでくる。その一閃が一般人へ到達する直前、ゴウライガがその身で受け止めながらも、メイジーの腹を殴りつけた。

 メイジーの体は軽々と飛び吹っ飛ばされるが、地に足で着地する。

(やはりまず優先するのは……!)

 走る文歌の歌声を聞いた一般人はその場に倒れ、眠りにつく――これで優との道が完全に開けた。

 優が嬉々とした表情で、握った拳を雅へと突き出す。だが雅の前に割り込んだ千里がそれを受け、雅を巻きこみながら地面を滑っていった。

 続いて悠人を殴るつもりだった優の目の前を、銃弾が通過した。

「……死体を酷使すんな。寝させろ」

 倒れながらも千里が吐き捨てる。

 そして悠人が白銀の大剣で殴りつけるように優を叩きつけ、メイジーと同様に軽く吹っ飛ぶ。この間も文歌は人々を眠らせていた。

 後退した優とメイジーに向け、ゴウライガがビシッと指を突きつける。

「撃退署にも通達済みだ。逃げられると思うなよ!」

「別働隊がそろそろ応援を呼んでる頃だがまだ続けるか?」

 前に出て笑いながら告げる悠人。赤い頭巾が黒く染まり、バレットが頭をかく。

「……っち、まあケチがついた時点でそろそろ引き時とは思ってたがよ。おめーも力の無駄遣いすんじゃねーぞ、祭りが待ってんだからよ」

「わかっているさ。寝かされているのは置いて行くしかないか――人を辞め死にたいという希望を我々は叶えているのに、邪魔するとはおかしな話だな。こいつらの願いにヒーロー様なんて、ゴミだろ」

「お前らの理屈はいい。俺が決めてやる事だ」

「何を言っているんですかねえ。まるっきり詐欺師の手口ですよ」

 燃える瞳を向けるゴウライガと、シルクハットをケーンで持ち上げるエイルズレトラが、カボチャで見えぬ鼻で笑う。

 優が親指で行けという仕草をしてバスの上に飛び乗ると、ここへ来る間に乗せたであろう数名を乗せたバスが走り出す。バレットがカゴから本人には不釣り合いな大型バイクを取り出し、「バーン」と一声。悠人の後ろで爆発する音が響く。

 何が爆発したのか見るまでもなくわかっていた悠人は口元は笑みをたたえたまま、冷ややかな目をバレットに向けていた。

「いつか殺す」

「ッハ、できりゃいいな? 次会う時にはよ、俺に構ってる余裕がねーくらいの大物連れてきてやるから、楽しみにしてやがれ」

 悠人の宣言を鼻で笑い、バレットはバスと別の方向へ向かって走り出すのであった――




「久方ぶりだな、優一。積もる話もしたい所だが……どうした? 表情にいつもの余裕が見れないが」

 何も言わない優一へアルジェが声をかけ、そういえば美鈴のスマホから送信した先が学園と優一である事を思い出す。

「……そうか、今回の被害者は優一の親友の1人か。
 アルは、殺すな……とは言わない、優はそれだけの事を繰り返しているし、このまま野放しにしたら被害者は増える一方だ、誅殺含め何らかの形で止めねば。だが怒りは一瞬の判断を見落とす……死なば諸共なんて許さんからな」

「貴方が死んでは彼女の想いは継げませんよっ。彼女のPCに貴方が見る事を想定していたのか、貴方宛ての言葉が残されていました。それは――」

 文歌が告げようとしたその時、優一の拳が周囲一帯のアスファルトを粉微塵に変える。

「やめてくれ。今は聞く耳を持ちたくない――行こう、雅さん」

 理恵がえっという顔をするのだが、雅は何も言わずに去ろうとする優一について行く。

「憎しみは何も生まない!」

 去る背中にゴウライガが呼びかけるも、何も反応がない。むしろ千里が誰にも見られぬよう、口元を自虐的に歪めた。

(……冗談。憎しみからは何でも生まれる――が、美鈴が憎しみから行動したのかは半信半疑だが)

 悠人はバレットの去っていった北を向き、ポツリと呟いた。

「大物を連れてくる、ね……それでも、お前は俺が」




【残禍】ヒーローなんてゴミ  終


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
重体: −
面白かった!:7人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師