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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/01/06


みんなの思い出



オープニング

●西目屋村北部

 ゲートからかなり離れた村のはいり口で2人の女性が立っていた。
 1人は金髪で軍服の女性、もう1人は全身が髪と同じ黒ずくめの女性。大天使アルテミシアと真宮寺 涼子(jz249)の2人であった。

「ここから見た限りでも、ずいぶん変化したものだ」

「襲撃を受けたわけですから、警戒心が高まるのも仕方ないことでしょう」

「あの男はそういう警戒をしなさそうなものだがな」

 西目屋村ゲートである洋館から目を逸らさず楽しげに笑うアルテミシアからは、後ろにいる涼子の曇った表情が見えない。涼子の口が何か言いたげだったが、結局、言葉が出ることはなかった。

「前と手段としては変わらんが、上に見える番兵だけでも釣れれば十分だ。近接戦闘ができんわけでもないが、やはりあの手合いは私と相性が悪いからな。
 真宮寺、頼んだぞ。くれぐれも引き際を間違えるな」

「はい――シア様もどうか、お気をつけて」

 涼子の言葉にアルテミシアは「心配するな」と笑うばかりであった。


 涼子が居なくなってしばらくすると、アルテミシアは弓を引き、力を収束させてその時を待った。洋館の上に立つ黒い人影が動き出し、数瞬の間をおいて爆発したかのような轟音と煙が南の方で立ちこめる。

 それを合図に、アルテミシアが引き絞った矢を解き放つ。

 力の激流はまっすぐに全てを飲み込み、瓦礫の堤防もその中で蠢く影もまとめて塵に還し、さらに洋館の壁を穿きぽっかりと大きな穴を開けるのだった。

「さて、楽しませてもらうぞ。与一」




●悪魔の相談

「こんな速報が入ってんだけどよ、知ってるか?」

 そういうと黒頭巾の少女は編み上げの籠からタブレットを取り出し、アップロードした画像を映してベッドの上にいる全裸に等しい若林 優(jz0390)へと投げつける。画像に映し出されているのはニュースサイトですらない、ただの個人の画像ではあるが、撃退士そのものを危険視する団体『力無き者の声』がデモの最中に撃退士達へと詰め寄っている様子である。

「さすがにそれは知らんが……これが面白い事を考えている集団なのか?」

「いやぁ、そうとも言えるしそうとも言えねえとも言える。こいつらはよ、扇動されてるだけだぜ」

「扇動? その手のリーダーにか」

「そのリーダーが煽られてんだよ、ちょいとあたしの知ってる連中にな。
 でだ、直接こいつらの手伝いは難しいかもしんねーけど、あたしはあたしでこいつらの流れに乗っかってやろーかと――」

 少女の黒頭巾が赤い頭巾に戻り、そして可愛らしい顔で優を上目づかいに見上げる。

「あたしは魅了するのが得意なの〜」

「ディアボロの素材にするため、何度もバスで連れてきたのはお前だったものな。猫かぶりは私も得意な分野だ」

 まさしく悪魔な少女と、悪魔に限りなく近い元人間の少女は2人して唇の端を持ち上げる――と、爆裂するような音と共に洋館が激しく揺れた。

 見上げる赤ずきんと優。

 すると赤ずきんが「ちょっと見てくるわ〜」と、スキップする様に部屋を後にした。残された優は再びタブレットに視線を落とし、「早く力を付けねばな」と独りごちるのであった。




●女3人、あいまみえる

 土煙が巻き起こる中、洋館に開いた穴がゆっくりと塞がっていくが、塞がりきるその前に絨毯を踏むアルテミシアの姿。まずは手を握りこんで感覚を確かめていた。

「ふむ……これでは確かに真宮寺に限らず、私にもきついか。だが多少のハンデと思えば、ちょうどいいくらいだ」

「誰を相手に、ハンデでしょうか」

 もうもうと立ちこめていた通路の土煙が少し晴れ、アルテミシアからほんの数歩先に腹当を着けた巴が抜き身の刀を持ち、冷ややかな目をアルテミシアに向け待ちかねたと言わんばかりに立っていた。

 今にも斬りかからんばかりの雰囲気だが、それでもアルテミシアは鼻で笑い「さてな」と、あくまでも強気の姿勢でいる。

 一触即発のピリピリとした空気を全く無視し、鼻歌を歌いながらスキップでやってくる赤い頭巾の少女が巴の横で立ち止まると、巴を見上げた。

「追い払うの、メイジーちゃんも手伝う〜?」

「当然のことを聞くものではないですよ、バレット」

 メイジーと名乗りバレットと呼ばれた少女の頭巾が黒く染まり、この場にふさわしい凶悪な顔つきになると編上げの籠から拳銃を取出し、愉快そうに顔を歪めて銃身を舐めると、何の前触れもなしにアルテミシアへ向けて発砲するのであった――




●西目屋村・調査隊

「今のは、アルテミシアさん……!」

 西目屋村の監視依頼とは別に、支配地域より外の調査依頼の最中だった一行の中に、スズカ・フィアライト(jz0323)がいた。そしてちょうど北部付近にいて、アルテミシアが放った力の激流を目の当たりにし、そして消えゆくその激流の後を追いかけていくアルテミシアの姿を見つけていたのだった。

 アルテミシアの行く先は、一目瞭然である。

 駆け出しそうになるスズカだが、自分が弱い事、弱いなら人に任せる事も大事なのだという言葉を思い返してつんのめりながらも足を止めた。

 唇を噛み、眉間に皺を寄せて言葉にならない言葉で唸っていたが、やがて他の撃退士達へと振り返った。

「追加依頼を、お願いだよ」

 調査依頼の依頼主が、そう告げた。

「今向かったアルテミシアさんを、おいらの前に連れてきてほしい。連れてくるのが無理でも、せめて生きのびらせてほしいんだ。
 きっとあそこの中じゃ、アルテミシアさんでも生きて出てこれないと思うから――お願い、します」

 実にシンプルなお願いだが、行く先はそう見えないだけであってゲートの中であり、そこで最低でも1人は居る騎士クラスの悪魔と高確率で戦闘になる危険を犯してまで、学園の味方をするわけでもない大天使を連れてくると言う、危険極まりないものである。

 だがそれでも少年の願いを聞き入れた撃退士達は、アルテミシアの作り上げた道を駆け出すのであった。


リプレイ本文

●少年の内

「行きますか」

「これも1つの縁かな」

「ま、やるだけはやってやるさ」

「しゃーねーなー」

「……わかったよ、スズカちゃん」

 雫(ja1894)、浪風 悠人(ja3452)、向坂 玲治(ja6214)、ラファル A ユーティライネン(jb4620)、新田 六実(jb6311)が頼み込むスズカを尻目に、アルテミシアの後を追いかける。

 だが川内 日菜子(jb7813)だけが動かず、冷たいもの含んだ瞳をスズカへと叩きつけていた。

「私は……他力本願の心得を教えたつもりはない。それでも熟考した上で全面的に頼るというのであれば、これ以上もう何も言うコトはない」

 想いを叶えたいのなら、多少なりとも自分の足と口を使うべきだ――そう口にして走り出す日菜子だが、唇を強く噛みしめていた。

 自分が無茶苦茶な事を言っているし、皆が聞けば猛反対するのも当然だと分かっている。わかっているが、自分の想いや教えが何もかも否定されたような気がしてしまい、「クソッ……私は子供か」と毒づくのであった。




●乱入

 弾をアルテミシアは手甲で受けるが、弾かれて衝撃が手を痺れさせる。そして距離を詰めてくる巴に対して痺れていない左手で腰のショートソードを引き抜き、抜刀を受け止めた。

「楽な相手ではなさそうだな」

「騎士2人相手にこの状況で勝つつもりでいるのでしたら、ずいぶんな自信家ですね。貴女は」

 アルテミシアが何か返そうと口を開きかけた時、穴が閉じようとしていた壁に大きな亀裂ができたかと思うと、そこから銀髪の少女が飛びこんできて巴とアルテミシアを分断する。

 そして道すがら聞いていたアルテミシアの髪の色と顔を確認、巴を一瞥してからバレットの存在に気づき、用心の為か、自分に聖なる刻印を焼き付けてから巴に切っ先を向けた。

「損害は少ないとは言え、かなりきつい戦闘になりそうですね」

「それでもやるしかないな――情報からするに、あっちが巴って悪魔か。しかし、どうにもやりにくい相手だ……」

 誰か大事な人の顔でも思い浮かべたのか玲治は頭を振り、「いやこっちの話だ、なんでもない」とトンファーを構えつつも少し後退してアルテミシアに背を向けたまま口を開いた。

「こちらの諸事情――スズカがお前さんに伝えたい、大事な話があるんだと。悪いが一旦でも構わないから、退いてくれないか」

「私がお前達の事情に付き合えと?」

「アルテミシアさん――……」

 重くなった体を引きずり、六実が何かを伝えようとするのだが、顔が歪み、唇を噛みしめて顔をそらしてしまった。

 玲治が次の言葉を選んでいるうちに、「初めましてシアさん、波風悠人と言います」とアルテミシアの隣に立った悠人が、バレットの射線に割って入る。そして面白くなさそうな顔のラファルもまた、バレットの射線を横切った。

「スズカさんの頼みで助力しに来ました。勝手に背を預けさせて頂きます、シアさん」

「まあ、そんな訳でアルテミシアさんよぉ。加勢してやるから後で顔貸してくれや」

 玲治が短い溜め息を吐き出す。

「そういうことだから、俺達はあんたに手を出さない。そのかわり、あんたも俺らに手を出さないでもらえると助かるんだが」

 ちょうどその時、壁の穴から炎が吹き荒れたかと思うと、巴に向かって一直線に炎が襲い掛かる。巴が刀身で受け止め、見せかけだけの爆風に押されるかのように後ろへと跳んだ。

 燃え盛るその中には不機嫌そうな顔の日菜子がいた。

「話の通じない敵よりも、通じる敵に生き残って貰った方が助かる。少なくともアルテミシア相手に騙し討ちみたいな真似はしたくない――何よりバランサーになるのが今の撃退士としての使命だから、一方に死なれても困る」

 吹き荒れる炎が拳へと集まっていく。

「それでも納得いかないなら、いつかの借りを返しに来たと思えばいい」

「――アルテミシアさんまで、死なせたく、ないんです……」

 血が伝うアルテミシアの手甲を手に取り、消え入りそうな声で懇願する六実。痛みと痺れの取れた手を振ったアルテミシアが溜め息を吐きだし、六実の頭を撫でる。

「顔を貸すかわからんが、私の敵にならんのであれば、いいだろう――だが、まだ退くつもりはない。与一の顔も見ていないしな」

 与一の名前に六実は言葉を紡ごうにも言葉にならず、先に銃声が響き、六実の顔の前で今しがた治したばかりの手が血を滴らせていた。

「呑気に話してんじゃねーのな」

 銃口から硝煙を立ち上らせたバレットの黒い頭巾が赤い頭巾へと変化し、「メイジーちゃんを〜無視しないでほしいな〜」と可愛らしくウィンクする。

「まとまったようですから、こちらからも。
 お嬢の願いは天使の殲滅ですが、天使に与するのであれば――私は貴方達を斬り捨てるだけです」




●大混戦

 メイジーの赤い頭巾が黒く変わり、舌打ちをするバレット。

 そこに悠人が踏み込んで白銀の槍を突きだすも、肘で横から押しながら身体をくるんと回転させてかわす。

「これだから撃退士ってのはよー。魅了なんか、まるで効きやしねえ」

「あいにく、俺には可愛い奥さんがいるんでね――俺は波風悠人、あんたも名前くらい聞かせてほしいな」

「ああん? しゃーねーな……あたしはバレット」

 黒い頭巾が赤く染まる。

「そして私はメイジーちゃんだよ〜」

「赤はメイジーで黒はバレットってか。まーどっちにしろ、悪魔ヤローはぶち殺してやるぜー」

 ラファルの偽装が解除され、ウォーウォーと唸りをあげてラファルの身体は凶悪な機械へと変貌。そして巨大化した身体の四肢などが分離し、6体のラファルとして悪魔の前に顕現する。

 その間に和弓を引き絞り、「このゲートの主は誰になったんだ」とバレットへ向けて矢を放つ。銃底で叩き落そうとしたバレットだが、それがかえって腕に刺さる結果となった。

「教えてやんねーよ、バーカ。つっても予想してる通りで間違っちゃいねーわけだがな……おっと、分離とかジョーダンみてーな事しやがって。巴ー」

 6体のラファルが詰め寄ろうかという前に、バレットがピョンとその場で飛んだ。

 次の瞬間、赤い絨毯の上を紫電が縦横無尽に駆け巡り、全員の身体に衝撃と焼け焦げる臭いが立ち込め、1体あたりの能力が人数分で割られているのかラファルの分身が膝をつき、動けぬ体となっていた。

「さすが雷帝さんだぜ――うおっ!」

「おめーさんはなにもしねーんだな」

 分身など元から当てにしていなかったと言わんばかりに、分身の間をするりと抜けてきたラファルがバレットとの距離を一瞬にして詰め、その目が怪しく輝くと、バレットが戸惑いを見せて足を止めた。そこへ「以後お見知りおきを」と悠人は一歩下がって、魔力によって伸ばされた槍先をバレットの肩に突き刺す。

 その途端、「いた〜い、プンプン!」と赤い頭巾のメイジーになったかと思うと、悠人とラファルがいる左右の壁から無数の弾丸がばら撒かれ、2人の身体にたくさんの小さな穴が穿たれた。

「クレイモアトラップとか、ずいぶんご機嫌なモン、使うじゃねーか」

 かわしきれなかったラファルへ「メイジーちゃんの趣味だから〜」と笑ったそこへ、アルテミシアが後頭部を肘で打ちつけ、前のめりに倒れた。

(今の攻撃、物理的な弾丸のようでいて魔力がしっかり込められていたな)

 一瞬の出来事にシールドが間に合わなかった悠人が腕の傷を舐め、大きく退いて和弓へと持ち替えるのだった。

 幸いにも痺れが残っていない日菜子は「範囲で麻痺か――なら」と、炎のような色をした布を拳に巻きつけ、燃え盛る炎が集約された拳は揺らがぬ火箭の如く、巴を貫こうとする一矢となって放たれる。

 そこへ闘気に満ちた雫が身を低くして距離を詰め、巴へ下から斜め上へと切り上げた。刀を折るつもりの一撃だったが、しなりを上手く使われ上へといなされる。

 そんな巴が拳を肩で受け止めると烙印が押され、爆風をまき散らした。

「ま、今のうちってな」

 玲治の周囲に7人の騎士が現れ、日菜子と雫にもその加護を与える。

 油断なく雫と日菜子が構えていると爆風の中から一瞬、火花のような紫電が――そう思った時にはもう、巴が雫の前で刀を振り下ろしていた。

 咄嗟に大剣を引き寄せて柄で受け止めたが、腕から肩にかけてバッサリと斬られる。幸いなのは大剣が握れなくならなかった事だが、それなりに大きな怪我なのは明白である。

 雫の血が絨毯を濡らす前に、日菜子の首にも身を低くした巴の刀身が迫っていた。

 体に染みついた空手の型がそれに反応し、拳で上へと払う。腕と手の甲から血が噴き上げ、頬からこめかみにかけても血の筋を作った。

 拳を振って払った頃にはもう紫電が玲治の前へと続き、玲治の盾に拳を当てていた。

(刀を使わない……?)

「貴方は硬そうですからね」

 巴が絨毯を踏み込むと、玲治の体内に激しい衝撃が伝わりかけ巡る。その威力は相当だったが地味すぎたため、クルセイドで軽減する事を思いつかなかった。

「貴方達のまがい物と違い、これが戦国時代で磨かれた本物の『徹し』です」

 玲治の前で紫電を帯びた刀が伸ばして振り返る巴、雷光の横一閃。それがアルテミシアを背中から、悠人とラファルの正面から襲い掛かる。

 悠人は淡桃色をした糸の束で受け止めるが、止めきれぬ勢いに押されて刃が肩を削られていく。ラファルは分身達がかわせなかったが、本体は身を後ろに投げ出して華麗にかわすのだった。六実の所までは届いていない。

 膝から崩れ落ちたはずの玲治が踏み止まり、巴の後頭部へ魔力を帯びたトンファーを突き入れた――のだが、見えていない角度の攻撃が見えているかのように、頭を少し動かしただけでかわされてしまう。

「ひひひひ! さすが巴だぜ、あたしが寝転がった意図を組み取ってくれてよー!」

 倒れていたバレットががばりと起き上がり、倒れているアルテミシアの頭へ1発叩き込むと、赤い頭巾へと変わり、起き上がろうとしていた悠人を踏みつける。

「あなたは〜メイジーちゃんの方がいいみたい〜。それと〜こんなのじゃ、物足りないよね〜」

 籠の中へ銃をしまい肘まで腕を籠の中に入れてまさぐると、引きずりだした。その手には腕ほどの太さをした長大な筒の先端に菱形の物がついたそれ――RPGー7と呼ばれる物が握られていた。

 腕を踏みつけ防がせないようにすると、悠人の腹へその先端をあてがう。

「どーん♪」

 可愛らしい掛け声とは裏腹に、凶悪な轟音と爆風が悠人の声をかき消すのだった。

 楽しそうに笑っているメイジーへ、爆風に紛れジグザグに駆け寄ってきた雫が大剣で薙ぎ払い、引き剥がす。そして転がっているメイジーに対してラファルが、刀状にナノマシンを集積したそれを突き立てる。

「いったぁぁぁぁぁい、くそ、このやろう!」

「テメーはちょーっと、苦しんでやがれ」

 ラファルがメイジーを見下している間に、雫が悠人の手を引いて助け起こす。

「大丈夫ですか。しかし……こんな凶悪な赤頭巾なら狼に食べられず、逆に狩りそうですね」

「まったくだ……」

 起き上がる悠人に六実が駆け寄り、その傷を癒すとすぐに「アルテミシアさん……!」と走っていく。

 六実が傷を癒すのだがアルテミシアはピクリともせず、青ざめた六実がアルテミシアの息を確認して、ホッとしていた。

「アルテミシアさん、今は引いてください。これ以上ここに留まるのは危険です。もう、聞く事は出来ないけど……きっと与一さんも貴女の死なんて望んではいないハズです……」

「引くというより――連れて行くしか、ない!」

 跳躍した日菜子。その蹴りを少しよろけながらも巴が腹で受けると同時に拳を突き出し、2人は弾かれるように後ろへと転がり、巴は腹部を押さえながら刀を杖代わりにして立ち上がる。

 玲治も胸をさすりながら、「お互い……いや、ややこっちの方が不利だしな」と漏らす。

「前情報が全くない相手は戦い辛いですね……相手の手札が見えない以上は、無理は出来ません」

 床で転げまわる赤黒頭巾に目を向け、そしてやはり同じく情報不足だった巴を真っ直ぐに見据える。

「ですが、天刃と呼ばれたあの男と比べたら聊か腕が落ちる様ですね……これなら、まだやり様があります」

「言ってくれますね」

 そう言いながらも巴はまだ、動かない。動けないようにも見えた。そこに雫が距離を詰め大剣を振り下ろし、巴がそれを刀身で流して肘打ちを放つが、雫は大剣の腹で受け止める。

「動きがだいぶ、鈍っていますね。先ほどの高速移動の反動ですか?」

「これほどの剣豪とやりあうのが、久しぶりなだけですよ」

「とにかく、撤退だ!」

 悠人の右手に光が、左手に闇が収束し白銀の槍で壁を抉るように突き上げ破壊すると、「さあ!」とみんなを促した。

「ま、それしかないか」

「ぶち殺せねーのはしゃーねーが、とっととずらかるぜー」

 玲治とラファルが外へと出て、アルテミシアを癒し続けている六実の背中を押した日菜子がアルテミシアを担ぎ、2人で外へと向かう。

 雫が退きながらも大きく大剣を一振りして巴を下がらせ、「この場は引かせてもらいます」と睨み付ける。

「いいでしょう――私は雷帝の巴。貴方の名を、聞かせてもらえますか」

「私は、雫」

「雫――石畳をも穿ちかねない、小さいながらも恐ろしい力を秘めた存在――剣豪・雫、しかと覚えておきました」

 踵を翻す雫を追いかける事無く、巴は雫を見送るのだった。




●無事とは言い難く

 殿の悠人も洋館を脱出すると、傷だらけのスズカが堤防の上で叫ぶ。

「こっちに! 逃げ道はおいらが確保しておいたよ!」

(自分でも、動いたか――スズカは確かに成長している。それなのに私と来たら……)

 複雑な表情の日菜子はスズカに向かって走りだし、それにみんなが続いていく。

 だが1人、立ち尽くしたままであった。

「むっちゃん、行こう!」

 六実に駆け寄るスズカが手を握るのだが、その手を振り払う。

「スズカちゃん、は。与一さんを助けたかった、よね」

「それは――そうだけど、もう、仕方ないよ」

 その途端、六実の目から涙があふれ、手で拭っても拭っても止まらない。そして「ごめんなさいごめんなさい……」とずっと繰り返すのだった。

 もしもあの時、自分が与一の傍に居れば、アルテミシアの様に助ける事ができたんじゃないだろうか――そう思うと、六実は涙が止まらず、スズカの顔をまともに見る事すら出来ない。

 そんな六実の振り払おうとする手をスズカは無理にでも掴み、強引に走り出す。

「むっちゃんのせいじゃない、おいらがまだ全然弱いのも悪いけど、きっと誰が悪いとかじゃないんだ。だから、むっちゃんは悪くないよ」

 その言葉に六実は泣きながら頷き、スズカに手を引かれて館を後にするのであった――




二矢の行方  終


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
Survived・
新田 六実(jb6311)

高等部3年1組 女 アストラルヴァンガード
烈火の拳を振るう・
川内 日菜子(jb7813)

大学部2年2組 女 阿修羅