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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/01/01


みんなの思い出



オープニング

●西目屋村巴ゲート周辺

「ずいぶん、景色が一変したものよのう」

 見晴らしがよい、ゲートである洋館の屋根の上、アルカードは腕を組んだまま眼下に広がる光景にそんなことをつぶやいていた。

 最初に見た時は与一が天使に復讐を誓う少女を保護して間もない頃で、いくらかのディアボロを使い、人間を追い出してゲートを作ったが、いくらか破壊された町並みにディアボロもまばらにしかおらず、ほぼ支配する気がないのだなとアルカードは思ったものだった。

 実に与一らしいし、それを咎める気はなかった。むしろゲートを保有すらしない自分よりましだろう、くらいに思っていたほどである。

 だが今はゲート周辺の建物は全て破壊され、集められた瓦礫でゲートの周囲に小高い山のようなちょっとした堤防ができあがっていた。

 一本だけ残された道路が辛うじて使えるが、それ以外に道はない。とはいえ瓦礫の山が登れないほどではないので、道がないとも言えないのだが、そこを乗り越えようとすればその姿が洋館からはっきりと見える。

 さらには地上では大量の狐火が常に動き回り、その残り火がほとんどの範囲を埋め尽くしていて、踏んだところが消える仕組みで目立つため、昼も夜もその警戒レベルは相当なものといえる。ひとつめ入道がぼんやりと立っているように見えるが、そのひとつしかない目はずっと上空を捉えていて空への警戒も高く、気づかれないように潜入するのは、もはや不可能といえた。

 そして瓦礫の山をじっと見れば、獲物を待って陰で蠢く人蜘蛛の姿もわずかに確認できる。

 防衛すべき拠点であるからには、ここまでの警戒は当然である。が、この状況にアルカードの眉根は寄ったままであった。

「まあよかろう。我が従僕が動けるようになり次第、頃合いを見計らって外へ出向くとしようではないか。それにしても――」

 腕を組んだまま、首を傾けた。

「持病のシャクとは、ずいぶんと治りが遅いものよ……ぬ?」




●悪魔よりも

 一糸まとわぬ姿にシーツだけの若林 優はベッドの上で上半身を起こして、険しい顔をしたまま右手の親指の爪を噛んでいた。

(まだだ、今は我慢するんだ、私。ベッドの上で我慢は得意だったろ)

 ときおり頭をかきむしり、そしてまた爪を噛んでいる。とそこでいきなり部屋の扉が勢いよく開けられた。

「お元気かしら〜?」

 入ってきたのは赤い頭巾に布をかぶせた編み上げのカゴを持った10歳前後の少女で、優とは対照的に明るく朗らかな笑顔を浮かべていた。

「まあどちらでもいいんだけど〜ちょっと聞きたいことがあるの〜。
 あたしのえーちゃんの姿が見えないんだけど〜、どうしたのかしら〜?」

「英純なら死んだ」

「ああンッ!?」

 赤かった頭巾が黒く染まり、朗らかだった少女の顔が一変して野犬のような卑しく狡猾なものへと変貌し、優を下から睨みあげる。

「香も英純も死んでんのに、テメーだけが生きてるってかぁ? テメーだけ助かろうと、犠牲にしたんじゃねえだろうなぁ!?」

「悪魔でもそれは悪いことなのか? だとしたら、とんだ偽善ならぬ偽悪だな。自由に生きるのが、そんなに悪いのか」

 格上の存在を見下すかのように、優が睨み返す。お互いの息が吹きかかる距離まで顔を近づけ睨み合いを続けていると、黒頭巾の少女は途端に破顔する。

「いいじゃねえか、そのノリ。悪魔ってのはそうでねーとな! 与一のヤローや巴は人間に関わりすぎて人間くせーし、筋肉バカはバカだしよ。

 ここもまー、与一っつーか巴に協力しろって言われたから協力してやってるだけだし、あたしも危なくなりゃーとんずらするつもりだけどな。どうせならオメーもくるか? なんかおもしれー事考えてる集団がいるらしいからよ」

「そうだな、目的を達成できたら行ってもいいかもしれん。ところであんたみたいな悪魔がなぜ、人間の少女の願いを聞き入れている、こんなぬるい集団とつるんでいるのだ」

 目の前の悪魔にちょっとだけ沸いた興味から出た、おまけのような質問だった。

 だがその質問に黒頭巾少女は苦虫を噛み潰したような顔をして、身震いしながら自分の身を抱きすくめる。

「巴のヤローがおっそろしいからだよ」




●瓦礫上で

「ずいぶんと様変わりしたな……ここまではまだともかく、これ以上先は潜んで行けんな」

 アルカードと似たような事を呟いたのは真宮寺 涼子だった。そこに来るまではディアボロをやりすごすなど潜んで来たのだが、瓦礫の上では姿を隠すことなく堂々と立っていた。

「ある程度は聞いていたが、ここまでとはな。もうシア様と私のみでは手が出しにくいものだが、それでもシア様は行くのか……あの悪魔に拘りすぎな部分がある。このままでは危険だな――と、来たな」

「ちぃぃぃぃえすとぉぉぉぉぉおおッッッ!」

 ミサイルのごとく、上空から黒い影が涼子の居たところに突き刺さり、瓦礫を粉砕、巻き上げて煙がもうもうとする中、拳が涼子に飛んでくる。

 それがわかっていたかのように涼子は頭を振って拳をかわすと、瓦礫の上をバク転で離れて距離をとった。

「よぉぉぉくぞかわし――」

 口上の最中でも涼子は銃口を向け、容赦なく発砲する。だが蠅でも払うようにアルカードは手で払いのける。

「きぃぃぃさまもぉぉぉ、風情がわからぬ者なのかぁぁぁ!?」

「知ったことか。生きるか死ぬかの戦いに、そんなものを持ち出す方がどうかしているのだ」

 涼子がナイフを逆手に構えたその瞬間、遠くの方で大きな音と共に瓦礫の一角が吹き飛び、きれいな一本道を作りだしていた。

「ぬぅぅぅ貴様は我が輩を呼び寄せるためのよ陽動かぁぁぁ!」

「まあそうだ、姿を見せればすぐに跳んでくるとわかっていたさ。
 シア様はお前に用事がないのでな、しばし私につき合ってもらおうか」

「まぁぁぁよかろぉぉぉう! どうせ中には巴もおるのだし、我が輩をたのしませてもらおうかぁぁぁ!」

 叫ぶアルカードは黒い部分甲冑に覆われ、アーカイザーへと変身して涼子に拳を向けて構えるのだった。




●百合子の決断

 普通であればそこまで静まりかえらない臨時斡旋所の教室で、御神楽 百合子はパイプ椅子に、足を組み、腕も組んだままの姿勢で黙って座っていた。

 目の前のデスクには手書きで整理されていない情報が書かれたメモと、その横に書かれた『不介入』の文字。

「ま、もともと介入するには小さな案件でしたし、現状だと学園がどちらか一方に肩入れするのは避けたいところですからね……どういう手段かよくわかりませんが、人間を連れ込んで勢力を増してきているから監視を続けていただけですし」

 アルカードと涼子が確認され、戦闘が開始されたと言う報告があっても、学園は学園の意思で動かない事が決定されていた。

 たとえ、涼子が関わっていても。

「……しかたないなぁ。涼子さんを放置するわけにもいきませんし、身銭をきりますか。あとまあ、私の独断になってしまいますが、涼子さんと連絡が取れるようにはしておきたいですよね。
 とりあえず今回、シェインエルさんに教えないでおきますか。まだ二の舞になるだけの情報量ですし」

 そう言って百合子は監視を続けている撃退士達へ、追加の仕事を依頼するのであった――


リプレイ本文

●走れ!

「この先にアルカード……アーカイザーがいるのですか。出来るならここで倒したくはありますが、そう言うわけにも行きませんね、二重の意味で」

 Rehni Nam(ja5283)の視線の先で、瓦礫が煙に包まれていた。

「あいつ、アーカイザーの情報を集めないといけないですしね――転・成ッ」

 雪ノ下・正太郎(ja0343)が青竜をモチーフにしたスーツに覆われ、リュウセイガーへと変身する。そしてその横で制服を脱ぎ捨て、蒼いワンピースのハイレグ水着となった桜庭愛(jc1977)が「そうですよ」と賛同する。

「倒すのは私達じゃないですから」

「俺には事情ってもんがわからねえけど、涼子助けてちらっと見えた筋肉ヤローをからかえばいいんだろ」

 煙草を咥え、赤坂白秋(ja7030)が「お安い御用だぜ」と、笑みを浮かべた。

「妙な縁だが、目の前にいるのに何もしないのは性に合わん。せっかく百合子が身銭を切ったのだし、できることはやるとしよう」

「そうです、せっかく涼子さんを見つけたんですから――」

 筋肉をほぐすアルジェ(jb3603)と、スマホを握りしめる水無瀬 文歌(jb7507)だった。

(涼子先……さん。できれば去った理由を聞きたい所ですが……せめて涼子さんが帰ってくるのを待っているって事だけは伝えないと)

「まあ、ここでもう少し詳しく情報を集めつつ、城壁となりかねない堤防を破壊といきましょう。まずはシングウジさんとの合流から、ですか」

 Rehniおおよその行動指針を示し、行動を開始と言わんばかりに「ユキノ……」と言いかけ、「リュウセイガー、頼みましたよ」と言い直す。

「任せろ!」

 大空へと飛びあがるリュウセイガーがRehniの掲げた両手を掴み、2人が空へと行く。

「アルはこの隙に、堤防の破壊を先にやらせてもらう」

 2人とは違う方向へと向かうアルジェ。

「……っし、おおよその位置と数は確認したぜ。ちっとだけ遠回りだが、ついてきな。女の子の道は俺が拓くぜ!」

「すいません、いいですか」

「うおっとッ!」

 走りかけた白秋が足を止め、呼び止めた愛の背中に目を向ける。

「えっと――赤坂センパイ。近辺だけでもいいので、人蜘蛛のいる位置と数を教えてもらえませんか」

 ついてこなさそうな雰囲気に白秋は銃口で位置を示し、「あそこまでで、28だ」と告げて文歌を連れ、走り出すのだった。

 1人残った愛はいつもの笑顔のままだが闘気に溢れ、深く、強烈な殺気が宿っていた。

 そこに瓦礫の隙間から人蜘蛛が飛び出してきた――が、天へ突き上げる様な左足の蹴りでまさしく蹴散らすのだった。

「親友のためにも、戦いの場は整えておきませんとね。ありていに言ってしまえば――」

 蹴り足にかじりついてきた人蜘蛛を手ではがし、掌底で挟み込むように押し潰す。

「雑魚は引っ込んでてもらえますか?」




●接触

 リュウセイガーの手を離し、残り火の絨毯へ降り立ったRehniは足の裏が燻ぶろうとも、真っ直ぐに全力で駆けていく。人蜘蛛がRehniの足にかじりつくが、白狼が彫られた鞘で払い落とし、2人の所まで最短最速で辿り着いた。

 盾を構えると光が収束し、短槍と背中へ翼のようなものを形作る。

(まだシングウジさんに余裕がありますね――それなら)

 手をかざすRehniを視界に入れていた涼子が下がると、天から降り注ぐ無数の彗星。瓦礫の堤防を次々に抉っていった。

「むぅぅぅん、邪魔がはいりおったかぁぁぁ!」

 彗星を正面から拳で払いのけようとするアーカイザーだが腕は爛れ、足が瓦礫へとめり込んでいく。

 飛びかかる人蜘蛛を手で払い落とし、三脚を立て、比較的撮影しやすく安全そうなところに機材を設置したリュウセイガーが、「アルカード、いや、アーカイザー!」と名を叫んだ。

「ヒーローを名乗るわりに人間界じゃあ知名度0だ。人の世に喧伝するから、撮影させてもらおうじゃないか」

「ほぉぉぉう、よかろう。吾輩の肉体美を存分に撮るがよいぃぃぃ!」

(馬鹿だな)(馬鹿ですね)(馬鹿でよかった)

 その時、堤防が揺れるのであった。




(さて、ここら辺でいいか)

 正面入り口につながる唯一の通路手前へとたどり着いたアルジェが低く飛んだまま、堤防を見あげた。

「どさくさ紛れだが、崩せるものなら今後のために崩させてもらおう……まぁまた再建されるだろうが……」

 レガースを装着したアルジェの足が輝き、目の前の空間を蹴り抜くと黒い光の衝撃波が一直線に堤防を貫き、瓦解の連鎖を引き起こす。そしてもうひと蹴りからも放たれた衝撃波が、その瓦解を加速させた。

「まあまあ上手く――む? 館の窓に格子がはめ込まれているな。あからさまに窓からの潜入を警戒している、あれでは罠であっても玄関から行くか、破壊して侵入するか……どちらにせよ堂々と乗りこむことになりそうだな」

(あの悪魔がいるということは、優とかいうヴァニタスもいるかもしれないな……もしかして人間を連れ込んでいるのは、優の身体の再生のため? だとしたら、確認したほうがいいかもしれないが)

 もう少し近づこうかとしたところで、舌がアルジェへと襲い掛かるが蹴り上げて下がった。

「この先に踏み込めば入道の範囲か。単独ではやはりあまり深く調べられないな、まずは頼まれたことをきちんとこなさねば、か。どさくさに紛れ調べるなら、今、この瞬間が好機だが……下手に刺激せず、加勢し――」

「やあぁぁ――……!」

 残り火を踏み蹴散らし疾走する蒼い影。その後ろを狐火と人蜘蛛が群がっていた。

「――ぁぁあアッ!!」

 押し迫ってくる雑魚達へ向け、その背中に力の全てを乗せて爆発するような一撃で全てを粉砕し、「さあ次です!」と噛み傷や火傷を負いながらも、笑顔で愛は次を求めて走るのだった。

「人蜘蛛や狐火は少し脆すぎる傾向にあるな。あれは生きたトラップという認識の方がいいかもしれんな――まぁ行こうか」




「ッとォ――――――――うッ!!!」

 白の獣が瓦礫の上に降り立った。

「待たせたな、戦いはこれからだ! 愛のタッグ、ラブラブ☆クオンガハラーズが揃ったからにはもうてめえには負けねえぜ!!」

「馬鹿が増えた」

 華麗なステップを踏む白秋に冷ややかな声が投げられるも、まるで気にせずビシッとポーズを決める。後ろの涼子がノッてこなかったのが不満なのか、チラチラ見ては銃先でおいでおいでするが、涼子は一切無視していた。

 流石の白秋も諦め、銃を撃ちながらアーカイザーの側面へと回り込む。

(涼子さん、文歌です。今、涼子さんにだけ聞こえる声で呼びかけています……質問については首を振って答えて下さいね)

 虹色に輝く剣を収め、マイクを手に持つ文歌が涼子から距離を保ちながら涼子にだけ声を届ける。

(今後の為にも連絡を取りあえた方が何かと便利だと思いますので、どうか、こちらのスマホを受け取っていただけないでしょうか。百合子さん個人で用意した、学園に知らされていない物ですので、受け取ってもらえるようなら少し下がってもらえませんか)

 わずかに涼子が頷き、銃口をアーカイザーに向けたまま下がるそぶりを見せる。

 そこに破壊活動を済ませたアルジェが空からやってくると同時に、Rehniの呼びだした無数の彗星がアーカイザーもろとも堤防を再び抉り取り、先ほどよりも激しく堤防が揺れて大きく崩壊するのだった。

(機材をやはり手に持つしかないか)

 崩壊する足場でカメラを手に取り、脇腹に噛みつく人蜘蛛を肘で打ち払いカメラを片手にリュウセイガーは飛ぶ――直後、崩れ落ちた瓦礫の中からアーカイザーが高く、真上に跳躍していた。

「まぁぁぁとめて、死ぬがいぃぃぃ!」

 空中で燃え上がり、アーカイザーRへと変身。落下を始めながら高速で横に回転する。

「かぁぁぁいざぁぁぁあ、びぃぃぃむぅぅぅ!」

 高速回転するRの目からビームが放たれ、崩壊した瓦礫の四方八方を粉砕していく。

 いつ誰に襲い掛かるかわからないビームの雨は、遠方で飛んでいたリュウセイガーにはまるで当たる気配すらなく、Rのさらに上へ向って回避するアルジェの足をわずかに傷つける。

 だが一番隙が大きい時だと判断した文歌が、涼子の元へ瞬間移動して手を伸ばした。

「涼子さん!」

 スマホを渡そうと伸ばした手に涼子も腕を伸ばし――文歌の腕を取って引き寄せた。文歌の手からスマホが滑り落ち、直後、ビームがスマホを破壊してそのまま文歌の前に立つ涼子を貫こうとした。

 ――瞬間、涼子の前に白き獣が立つ。

「ハッハー! いい女を護るのが、イケメンの仕事ってもんだぜ!」

 涼子の代わりに受け止めた白秋。服は裂け、胸から腹へと焦げ付く匂いを発しながらも激しい裂傷が刻まれていく――だが銀色の炎が胸元に灯り、それが白秋の全身へと駆け巡ると裂傷から吹き出す血を止めるのだった。

「白秋!」

「クソッ、あの合体技が完成していれば……ッ!」

 駆け寄りかけた涼子だが、涼子をチラ見しながら悔しがる白秋に「……損をした」と吐き捨てる。

 ビームの雨に臆せずRへと向かうRehni。正面からくるビームを盾で受け止め、真下まで来ると祈るようなポーズで魔方陣を展開した。

 そしてRがその魔方陣に触れた途端、ビームが消失した。

「封じるとは、なんと味気ない真似をしてくれるぅぅぅ! これでは吾輩『真の姿』を見せられぬではないかぁぁぁ!」

 地上に降り、憤慨するR自ら『封印されると変身できない』と暴露し、バカ認知度がさらに上げる。

 そんなバカの前に、もう1人の馬鹿がやってきた。

「こんにちわー♪ アルカードさん。ひとつ、どちらが馬鹿か勝負しませんか?」




●刮目せよ

「あなたの空手、私のプロレス。どちらが大馬鹿か」

 構える愛の挑発に乗ったのか、真っ直ぐに踏み込んできたR。その正拳突きを愛は胸に受け、鈍い音を耳の奥で聞きながらも背中へ滑り込むと両腕を回して、地面に根を下ろしたようなRを無理やり引っこ抜き脳天から瓦礫へと叩きつけ、突き刺すのであった。

 そこに容赦なくRehniが青いバラの花弁を渦巻かせながらも7尺サイズの千枚通しを投げつけ、貫く。

「どうです、私のプロレスバカは?」

 Rが埋まっている間にリュウセイガーは愛に近づき、「無茶をして……」と傷をわずかながらに塞ぐのだった。そして文歌も涼子へ声をかける。

「私たちに黙って出て行った事には何か理由があるんだと思います。できれば理由を話してほしいですけど……」

 その問いかけに、だんまりの涼子。だが文歌はそれ以上追及せず「私たちは涼子さんの帰りを待っています。その事は知っておいて下さい」と告げるのだった。白秋も頷いているような気がした。

 そして文歌がスマホを失った手に視線を落としていると、空からスマホが降ってきた。

「バックアップは常に用意しておくものだ」

 上空のアルジェにぺこりと頭を下げ、涼子にスマホを手渡した――その時、Rが燃え上がる。

「少し待った甲斐があるというものよぉぉぉ! 刮目するがいい、これが吾輩、真の姿だぁぁぁ!」

 飛びあがるように立ち上がったアルカードはこれまでと違い上半身が裸で、むしろ初期段階よりもさらに露出が増している。

「防御を捨てた究極のぉぉぉ、あぁぁぁかいざぁぁぁ、あぁぁぁるえぇぇぇっくす!」

 その姿がぶれたかと思うと、Rehniの正面へ。その鋭い拳をRehniは盾で受け止めたのだが、神聖なる力の影響でより一層その禍々しき力に蝕まれ吹き飛ばされるのだった。

「Rehniさん!」

 リュウセイガーが呼ぶも、応答はない。

「第2ラウンドですか? いいですよ♪」

 そう言って愛がまた同じように構えると、先ほどよりも遥かに鋭い踏み込みで三角状の黒い炎に包まれた拳を愛の腹部へとめり込ませた。その圧力に負けじと愛が踏み込もうとした――が、その圧力に抗う前に意識が裏切った。

 瓦礫の上を鞠のように転がり、リュウセイガーが受け止めた。

「愛ちゃ――ダメだ、もうこれ以上は……!」

 アーカイザーRXを撮影しながらも愛を担ぐリュウセイガーがRehniも担がなければならないと視線を送ると、Rehniの手がひらひらと動いたのを見逃さなかった。頷き、離脱しようとするリュウセイガーをRXが追いかけようとした。

 しかし白秋が立ち塞がり、指でこいよと挑発する。

「てめえの必殺技、俺が愛と勇気とイケメンの力で受け切って見せるぜ……!」

「よかろぉぉぉ! 受けよ、必殺の真・正拳突きぃぃぃい!」

 RXが白秋と交差する刹那、白秋が腕に装着した小型の盾でその黒く燃え盛る拳を払い落とした。炎の消えた拳は勢いを失い、白秋の背中を拳が通過する。

 立ち尽くすRXへ至近距離で「ハッ!」と、叩きつけるようにシニカルな笑みを投げつける。

「情報提供どーも。謝礼金はあちらよりお受け取り下さい」

 あちら――気絶したフリをしていたRehniがガバッと起き上がり、走り出した。

 自慢の必殺技を不発にされて一瞬の間があったRXが白秋へ拳を振るうも、その頭が1回、2回と横に跳ねる。

「こんなところで空中殺法訓練が役に立つとはな」

 振り上げた踵をRXの脳天に落とし、「離脱しろ白秋」と言って離れていく。

「感謝するぜ、アルジェ!」

 白秋がRXから離れた時、Rehniの聖なる鎖がRXを捕らえ、離さない。

「ぬぅぅぅう!」

「少しの間、眠っていてください」

 文歌の周囲に立ち込める霧がRXを包み込み、RXは立ったまま目を閉じ、ピクリとも動かないでいた。この隙にRehniと文歌もその場から立ち去るのであった――




●成果は上々

「と、これが今回の収穫だ」

 動画のデータを複数作り、提出用とは別の1枚をベッドの縁に腰掛けるシェインエルへと渡す。ベッドには愛が寝かされていた。その横にはRehniが見舞いで置いていった花と果物がある。

「私に連絡もなく……仕方あるまいか」

「すまない。変身がおそらく強化系のスキルだと分かった今、封印が通じる。RXの時の移動速度や攻撃力は恐ろしいが、対処が見えてきた。俺やアルジェさんのように、空中にいたのはほとんど無傷に近かったのも大きいな」

 そこまで話したところで扉が開かれ、百合子がズカズカと入ってきた。

「ついでに報告書を見た感想として、強化は重ねがけしているものなんでしょう。だから時間制限がある――それと涼子さんにスマホが届けられたようで何よりです。しかもメールが1通だけ届きましたよ」

「ほう?」

「白秋は無事か。それと文歌にありがとう――だそうです。その赤坂さんは涼子さんの番号を聞き出そうとして、文歌ちゃんに脳天チョップ喰らってましたが。
 まーなにはともあれシェインエルさん、がんばってくださいね」

 百合子に「ああ」と返事するシェインエルが親友に目を向けると、熱に浮かされて愛の口が動いた。

「……プロレスは……負けません……!」




 シェインエル物語6  終


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
重体: 天真爛漫!美少女レスラー・桜庭愛(jc1977)
   <アーカイザーフェニックスの直撃>という理由により『重体』となる
面白かった!:7人

蒼き覇者リュウセイガー・
雪ノ下・正太郎(ja0343)

大学部2年1組 男 阿修羅
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
その愛は確かなもの・
アルジェ(jb3603)

高等部2年1組 女 ルインズブレイド
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅