さてさて、誰か……お、あいつは全裸で旅館を全力疾走してたミハイル・エッカート(
jb0544)じゃねえか。こんびに帰りだな。いっちょあいつの後をついて行ってみようか。
ほほー、これは結構お高そうな……でも1人にはちょっと広すぎだろ。
「大丈夫だ、盗聴盗撮電波ジャックの対策はできている。俺にそんな抜かり、あるわけないだろ?」
テレビ電話ってやつだな。画面には覚醒者テロ対策部とかって文字が見えるな。
誰かに聞かれたくねーから対策はずいぶんしてるみてだが、俺っちの対策はできてなかったな。
まーともかく、小難しい話してんなー。ちょい聞き、どうやらこいつが緊急時の対応とか育成の責任者になるかもって、俺っちにはどうでもいいか。
それにしても殺風景な部屋だぜ……と、気づいたら会議が終了して今は同僚との雑談ってとこか。
『特殊任務に戻らないのか』
「俺は何かを奪うよりも守る仕事をしたい」
ひゅーかっこつけー。
「安心しろ、俺を育ててくれたことには感謝している。だから裏方以上に会社に利益をもたらすさ」
おーおー、晴れ晴れとした顔しちゃって。あれか、父が事故死して気力を失った母が病死したとか、そんな人生歩んだか?
でもよー絶対なんか裏があって、そのもう死んだお偉いさん、お前さんを引き取って育ててくれたんだと思うぜ。
「もう学園に対して工作活動するような指示は出すなよ。俺の幸せを壊すな」
『ウォン部長に言え』
笑う同僚さんには安堵が含まれてっけど、ミハ公の幸せの部分に安堵している感じがするぜ。ミハ公も一度、幸せを壊した事があるってそんな後姿してやがるしな。
どうやらミハ公は工作とやらを断り続けてたみてーだが、まあ正解だろ。こんな規格外な学園じゃ返り討ちだ――ってのは建前で、ミハ公の奴、学園を裏切りたくないんだな。
「学園の誰かを消す指令だったら俺はウォン部長を殺しに行くつもりだったぜ」
ほらな。
『本当にお前は変わった』
「だろうな、俺もそう思う」
あとはホントにたわい無い事ばっか……おっと、終わったようだな。で、終わったら脱ぎだしてシャワーへ。出てきて頭拭きながら、全裸のままで台所かよ。
冷蔵庫からつまみとはいぼーるか。つーか冷蔵庫の中、酒とつまみしかなかったぞ。
人生の苦い思い出を、一緒に飲み干すみたいに飲むな。。
「俺、社会的通念から見れば相当な酷いことしてきたが……幸せになってもいいよな?」
いいんじゃねーか?
さて、こいつの部屋は殺風景すぎるし、どっか他をあたるとするかね。じゃーなミハ公、幸せはつかんだら離すんじゃねーぞ。
邪魔するぜーって、飯の支度か。適当に作っているみてーだが、男1人のわりに感心感心。こいつの名前は……ええと、長田・E・勇太(
jb9116)ね。
「おいデ、エーリカ」
あれ、男1人じゃ……でけー犬だ。つか青い目してやがるし、気配的にもただの犬じゃねーけども。それにしても主人より前を歩きたがるたぁ、気がつえーぜ。
んで飯を食い終わったはいいが、そふぁーとやらに寝転がって酒を飲んでやがるぜ。これは「今日は何にもねェしな。酒デモ飲みながらゆっくりスルネ!」とかそんな気分てやつか。
ところでさっきから犬コロが俺っちを見てやがるんだが……今朝といい、あんま犬との縁はよくねー気がするんだが。おっと、ごろごろしてた勇太の目つきもなんだか鋭くなったぜ。
「なんだ……? 妙な気配がシヤガル――エーリカ、何か居るゼ……気を抜くナ」
そふぁーから立ち上がって、拳銃? を持ってうろうろし始めたか。俺っちの気配に気づくとか、やっぱりこいつらは侮れねえなぁ。
ま、さすがに見えてはいねーみたいだけど、そのエーリカとやらが俺っちを見ている気がする。見えてるのか、気配に目を向けてるのかわかんねーけど、右行っても左行っても目で追いかけてきやがるな。
勇太もそれが分かったみてーで、エーリカの見ている方向、つまり俺っちに向けて銃を突き付けてきやがった。
「HEY。どこのどいつかしらネーが、イルンダロ? 良いかテメーが出来ることはたったの2個ダ」
乾いた音がして、俺っちの頭の横を何かが通り過ぎてった。後ろの壁になんか小さな穴が……
「1つ。とっとと、この部屋から消エロ」
もう一回、あの音が――童回避!
「2つ。二度とココに来るナ。モシ来たら……テメェの存在自体を必ず消してヤル! 必ずダ」
うおぉぉぉぉ童回避! 童回避!! 童回避!!!
くっそ、言われなくても出てってヤンヨ! 二度と来るかこんちくしょーめ!!
「……行ったカ。あとで穴を隠しておかネーとな――まアそれはあとネ」
顔だけ出して覗いてみてるテスト――おっとあっぶね……くっそーワンコロといちゃつきやがって。
しゃあねーなー、次は……あ、あいつは逢見仙也(
jc1616)じゃねーか。よし、次はあいつの後をついて行こう。
「今回の分は少なかったな。これくらいならすぐ終わるだろう」
んー? なんだありゃ……課題とかそんな奴に見えるけど。おっと、今、俺っちをチラ見したな。気にしてねー様子だけど。
って、ずいぶんぼろっちい二階建ての長屋じゃねーか。いや、アパートって言うんだっけか。
うおっ部屋もせめーし、厠がねーぞ。廊下にあったあれだけか。
にしてもこいつ以外に住んでる気配がしねーし、なんか俺っちですらもぞくぞくしてくるぜ。
やっぱり課題なのか、帰ってくるなりすんげー速度でやってくぜ。
「人間ごっこも面倒なもんだ」
なんか予定があるのかね。人付き合いとかほっておいたら後々、すげー面倒って聞いたことがあるぜ。
「爆発とか姦しいのに耐えればやりやすい方だからな、人間界では。
あとは人魔問わず襲撃する奴も、噂くらいで滅多に聞かないし――ま、いてもやりやすいけど」
俺っちに説明でもしてくれてるみてーな言葉だ――よし、ご褒美に前髪を輪ゴムで留めてやろう。
お、なんか荷物が来たようだぜ? そのまま出るのか、さすがだ。
「……最近消化し始めたけど、また溜まる一方だな」
ついでに抹茶と煎餅で一休みか。一枚失敬して……うめぇ。
にしても、狭いながらも物が一杯だぜ。流しがあって、布団とテーブルでもう手狭か。さらに床やテーブルに本とかあるしな――さっき届いたのも本じゃねーか。兵法書とか、ずいぶん古い時代の本ばっかりだ。
どうやら課題は終わったみてーだな、洗濯を始めやがった。今は自動でやってくれるから、楽だよなぁ。洗濯している間に箒で掃除だが、これは一瞬で終わっちまうわな。
んでお次は……部屋を出た? で、お隣の部屋に――ってなんだよここ、武具だらけじゃねーか。手入れを始めているからには、これ全部、こいつのモンか。
いやぁ、懐かしいぜ。昔はこうして手入れしてるヤツがたくさんいたけど、今はとんとみねーからな。
おっと蹴躓いて音を立てちまったが、こっちを見ようともしねえ。慣れてるって様子だ。
で、このピーピーって音はなんだ? 鎖と斧を持ち出して、部屋に戻っていったけど……おいおい、それは物干しに使うもんじゃねーぞ?
まったく……しかし、ここはなかなか良さげだし、住んで――あれ、なんだ先客がいたのかよ。嫌な気配ってお前さんのせいか。それじゃあさしもの俺っちといえども、一緒には住めねえな。
しゃあねえ、別のところを探すか……
「またね」
おう、またな。
さてどこに行こうかなーって、ここは寮だな。あ、深森 木葉(
jb1711)だ。懐かしい顔だぜ。
お友達と一緒にいるみたいだけど、なんつーかなー……笑ってはいるけどよ、なんつーか、こう、そんなに楽しんでいる風に見えねーなー。表面上は楽しそうなんだけどな。
部屋に戻るみてーだから、俺っちも着いていってみるか。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
おいおい、一人になるなりその溜息。どれだけストレス感じてるんだよ。しかもさっきまでの作り笑いすら消えて、なんつーか、冷たさすら感じるぜ。
鞄を長持の横に置いて――お、俺っちと視線が合った、合ったけどきょとんとしてて、見えている感じじゃねーな。辺りを見渡して結局、気にした風もなく写真立てを手に取ったし。
「お父さん……お母さん……ただいま……」
寂しげな顔だ……こいつもいねー口なのか。それもまだ、傷が全く癒えてないようだな。写真立てをギュッと抱きしめて、机に戻して――おーいおい、長持にもたれかかったまま、ぼぉ〜っと天井なんか見てねーでよ、何かしようぜ。若いうちから枯れるもんじゃねーよ。
……結局、日が暮れるまでそうやって時間を過ごしやがったぜ。
そんで飯の時間ってお呼びがかかって、やっとのろのろと動き出したか――お? こっち向いた。
「以前、どこかで会ったね……えっと……ざしきわらしちゃん……だっけ?」
おう、旅館で一緒に遊んだ仲だぜ。
「伝承によれば……憑く家に、幸をもたらす……とか」
お、おう。伝承ではな――俺っちにはもう、そんな力もねーけど。
そんな儚げにうふふって笑うなよ、俺っちまで寂しくなるぜ。
「あたしは……幸はいらないから……。他の……必要としてる子の所に……行ってあげて」
……一礼して、出てっちまった。外から聞こえるのは普通に明るい声なんだが、あれは全部作りモンなんだな。
幸はいらない、か。
ここは6畳の和室に押入れがあって、布団やら長持、和歌用の指揮が見や硯と筆が置かれた文机に炬燵と、かなり俺っち好みの和風で住みやすそうなんだけどなぁ。ぬいぐるみたちがアレだが。
だが俺っちがいる事であいつが苦しむみてーなら、他の所に行くとするかね。残念……
くそー、もう真っ暗だぜ……適当にどっか入ってみるか。今日も野宿は気分的に嫌だしな。
おう、邪魔するぜ。
「よ、よーし、切るぞ……」
良く切れそうなハサミ片手に水槽前でにらめっこか、天城 絵梨(
jc2448)ちゃんよー。
てか水槽の中、アナカリスでびっしりじゃねーか。なんか生体もいれてんのか……? とにかくそんな状況じゃ魚やエビも見つけらんねーし、枯れる水草も出てきちまうぜ。
旅館にも立派な水槽があってよ、業者が手入れしてるのをずっと見てたから俺っちもちょっとは詳しいんだぜ?
さあハサミで今! ってやめんのかよ!
「ダメ、折角ここまで生長したのに切らないでよーってこの子たちが訴えてくる!」
気のせいだ!
ていうかオーバフロー120L水槽か? それにみっちり水草ってどういうことだよ! ネイチャーアクアリウムなのか、おめーさんは!
しかもこれ以外にもそこそこの水槽が4つありやがるし、それらがどれもこれも水草でいっぱいたぁ、どういう了見よ。あん? さらにはこの水槽、セット水槽じゃないお高い奴だろ。もったいねーなぁ……部屋も外部式フィルター、CO2添加剤、PH測定とかとか、水槽関連の物でずいぶん溢れてるな。それでいて、化粧品の類ってあんまねーのな。
うら若き乙女的に、どーよ。
「でもここで切らないと全体の景観が……うぅ」
わかってんならとっとと切れ、いいから切れ、さっさと切れ。
よーしよし、ずいぶん悩んだがようやくトリミングを始めたか。そんで今度はカッティングハイになりつつあるな……おお、でも上出来上出来。綺麗な仕上がりじゃねーか、にわか仕込みって感じじゃなく、だいぶ長い事、趣味にしてやがんな。
景観が綺麗になってやっとわかったけど、数種類のテトラがいたんだな。しかも1種類あたりの数もけっこういるし。水槽の前でニヤニヤしながらずーっと見てやがるぜ。
とはいえ、熱帯魚とか観賞魚を見てるだけでも結構時間が過ぎるよな――さすがはお魚さんだぜ、俺っちに気づいて寄ってきやがるか。絵梨っちは集まる様子を特に不思議がることもなく、ただただ見てるだけか。
んーいいねぇ。ここに住んじまうか――ま、一応もう一軒くらいは見てみて、それから判断するかね。
そんじゃ、またな。
さてさてお魚さんを見てるだけで恐ろしく時間が過ぎちまった。もう真夜中だぜ。
そしてあそこでぷらぷらしてるのは雪室 チルル(
ja0220)だな。こんな時間に女の子が出歩くもんじゃ……いや、さいきょーに疲れてる様子を見る限り、仕事帰りって感じだ。
どれ、こいつの部屋にもお邪魔――ん〜普通といえば普通か。教科書とか山のようになったまんま放置されてるし、勉強とか全然してねーな。台所はわりと綺麗に使って――いや、使ってねーから綺麗なのか。そのわりに鍛えるための器具とか、昔懐かしぶら下がるだけの器具とか今も使用してます感がバリバリだぜ。
ベッドは脚がずいぶんたけーな。その下でなんか作業できるようになってるし……そして床に転がってるのはまた懐かしい、目覚まし時計だぜ。ジリジリうるせんだよな。
で、こいつはこんな時間に弁当か。テレビを適当にポチポチ替えて見ながら食ってるから、ぽろぽろと……なんだ、テレビは消しちまうのか。ま、あんま興味なさそうなもんばっかりだったしな。でもニュースくらい見ろよ。
俺っちの声が聞こえたか、きょとんとしてら。
「なんかいる気がする? ……気のせいね!」
それだけか……食い終わったらそのままにして、らっぷとっぷに向かうのか。確かブログって奴だな、今こいつが書いてるのは。
「今日も天魔をやっつけたわ! さいきょーのあたい、大活躍よ!」
口に出しながら出ないと書けねーのか。
書き終えたら風呂って牛乳を一気、それからさっきの器具ですとれっちとな。もう少し背が欲しいんだな、涙ぐましい努力というべきかね。
んで、ベッドの下の作業スペースでこいつも武具のお手入れか。砥石使ったり、ハンマーで叩いて綺麗に直してるみてーだけど、こんな時間に立てていい音か?
……すげえな、お隣で耳を澄ませてみたけど、全然聞こえねー。
直して素振りとはさすが――アテッ。
「? 今なんか当たった――たつじんはもうそうで誰かと戦った時、受けた傷で怪我をするってあれね! さすがはあたいね!」
ちげーよ。キョトンとしたかと思えばそのドヤ顔って、なんかむかつくぜ。
時計を拾ってベッドによじ登り、「明日もがんばる!」とか寝る前のテンションじゃねーけど、電気消したら一瞬で寝息が。どんだけお子ちゃまなんだよ――あ、落ちた。けど起きる気配すらしねーとか、どんだけ大物だこいつ。
んー住やすいっちゃ住みやすいけど、こいつ、ほとんど家にいねーわ俺っちが悪戯挟む隙間時間もねーわで、なんだかなぁ。
よし、決めた。
やっぱり絵梨っちのとこへ御厄介になろう。そんでお魚さんと絵梨っち以上に仲良くなってやるぜ。
へっへ、待ってろよー絵梨っち。幸も運ばねー俺っちが今日から住み始めるからよ! よろしくな!
ワンコロじゃねえ、座敷童だよ 終