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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/11/30


みんなの思い出



オープニング

●KOB開催中!

 最も優れた撃退士を決めるべく行われるスポーツの祭典、KOB。
 求められるは能力、そして知能。手加減無用の熱きフェスティバル。
 幻の名匠が手がけた自分だけの武器を手に入れんがため、ここでも戦いの火蓋が切って落とされようとしていた――。

※このシナリオは【KOB】連動シナリオです。
 優秀な成績をおさめたキャラクターには「メダル」が配付され、
 その数が多いキャラクターには、オリジナルの魔具が与えられるチャンスが与えられます。
 詳しいルールについては【KOB】特設ページをご確認ください。




●有無を言わせず


「……それを私に伝えて、なんとする」

 分かりきったという顔だが、与えられた個室でシェインエル(jz0387)は御神楽 百合子(jz0248)へ、そう問いかけていた。

「いえね、学園としては盛り上げていきたいところなんですが、なにせ職員の手はなかなか空いていませんので。
 それでですね、シェインエルさんは現在、万全とも言えませんが少なくともこの前に受けた傷は撃退士の方に癒してもらっていますから、だいぶよろしいですよね?」

「まあ……そうだな」

「で、ですよ。現在、職員の手が足りてないわけです」

 百合子が何を言わんとしているのか、考えるまでもなく、わかる。わかりはするが、理解はし難かった。

 自分はつい先日、1人の撃退士を誘拐し、撃退士達と戦闘までした。その結果はわりと穏便に学園へ一緒に帰るという運びにはなったが、事件を起こした張本人なのは間違いない。

「つい先日、騒ぎを起こした天使を人手として使うのは問題ないのか。外出が前よりは厳しくなって、軟禁されているという身ではあるのだが」

「それこそ今さらです。ゆるっゆるなのは今も昔も一緒ですよ――ただし、学園内部で何かすればシェインエルさんを友だとか味方だとか思っていない人、それも生徒よりも遥かにおっかない教師によって今度こそ、命を落とすでしょうけどね。
 まあそんなわけですので、手伝ってもらいますよって言う御用です。人権的に拒否権はありますけど、まさか騒ぎを起こしたのに命を取られず、さらにタダ飯までいただいてるシェインエルさんが断ったりしませんよね?」

 何も言い返せない部分を突いていく百合子に、シェインエルはそれこそ何も言い返せない。

「――何をすればいいのだ」

「さっすがシェインエルさん、快く引き受けていただけますか。
 ま、やる事はあんま変わりませんよ。むしろシェインエルさんに向いているからこそ、声をかけたわけですからね」

 そう言って百合子がカバンから取り出したのは――マスクであった。




●金網に囲まれて


 少し広めのリング、その周辺を取り囲むのはやや物々しい、金網フェンス。四方だけでなく、天井すらも囲まれていてその圧迫感は凄まじかった。

 はらりと木葉が一枚、金網に張り付き――派手な火花をあげ、燃えていく。

 そんなリングの中央に腕を組んで立っている大男が、1人。筋肉質ながらも均整の取れた身体に肩から走る黒い痣と、長い金髪。その顔はレスラーがするようなマスクで隠されていた……が、見る者が見ればシェインエルだろうと分かる。

 そんな彼は突如、デモンストレーションなのかロープへと向かって走り反動で勢いをつけると反対に向かって勢いよく駆け、跳躍してロープを蹴ってさらに跳躍、金網を蹴って上へと跳ぶと、天井に着地し、マットへとダイブ。

 マットにぶつかる寸前で反転し、マットを大きく振動させて着地すると、何事もなかったようにまた、腕を組んでその場で待つのだった。

「……日本プロレス的な動きだけでなく、ルチャリブレもできるんですね」

「ヤツに勝つため、何でも取り入れたまでだ。もっとも、私の性にはしっくりこなかったわけだが、この催しにおいては受けて勝つプロレスよりもこちらの方が適しているのでな。何よりもマスクならルチャ、ルチャならマスクだ」

 リングサイドにいた百合子へ、くぐもった声のシェインエルが答える。

「ルールはわかってくれているようですね」

「わかっている。リングは電流金網で囲まれていて私の抵抗あり、参加者同士の妨害もあり、勝敗はマスクをはぎ取った者から順に抜けていく方式だな」

「そうですね、でもスキルとか禁止ですから。とはいえ撃退士さんの方には電気を通さないバンテージか、小銃のどちらかが支給されますので、シェインエルさんはちょっと不利ですよ」

「私ばかりが有利だったり、同一条件では勝負がつきにくくなる。何よりもお前らは学んでいる物によっても得手不得手があるのだから、そういった選択は大事だろう。
 お前らは勝たなければいけない、私は負けなければいけないというわけなのだからな。」

 そういいながら身体をほぐすシェインエルからは、そう簡単に取らせないという気が満々である。何よりもリングの上で少し、興奮している節もある。

 百合子は大丈夫ですかねと不安になりながらも、解説席へと戻っていく。

 マイクを取り、息を吸った。

「さあいよいよ始まります、金網デスマッチ! 動けなくなればそれまでだが、動く限り常に戦い続けろ! 隣にいるそれはいつもの味方ではなく、敵だ!
 さ〜あ、敵の手を掻い潜り、さらには栄光のマスクを手にする事ができるのは果たして誰だ!」


リプレイ本文

『さあやってまいりました、金網デスマッチ? 解説は私、御神楽百合子がお送り致します。さて、ここで選手を紹介しておきましょう。

 そのたわわを支えるにはいささか不安な、紫のホルターネックとホットパンツで妖しく惑わす狗月 暁良(ja8545)選手! ポロリに期待しちゃいます!』

「ンの解説、そっちかヨ」

 足場を確認する暁良が百合子に視線を送ると、百合子がサムズアップで応える。

『さてお次は学園の指定の競泳水着にタイツ一体型のリングシューズと、何とも色気が足りないように思えますが、その成長に期待が持てるアルジェ選手(jb3603)! 青い果実はこれから熟成していくのです!』

「最近少し大人しいかと思ったが、相変わらずだな。百合子は」

 指のバンテージにゆるみがないか確認するアルジェ。

『白水着とロングブーツはアルジェ選手と似たようなものですが、こちらは179センチの長身と見事なプロポーション。だがその素顔は犬耳マスクで隠されている遠石 一千風(jb3845)選手! 真っ赤な髪がその隆起具合を物語ってくれる!』

(堅牢な金網の中でマスクの剥ぎ取りね――ちょっと興奮するわね)

 百合子の解説などまるで耳に入っていない一千風は、金網をぐるりと見渡すのだった。

『そしてお馴染み歌って踊れて闘うアイドル! 水無瀬 文歌(jb7507)選手! ミスティローズのヒラヒラとしたワンピース水着はさながらアイドルの衣装のようですが、いやはや、こちらもなかなか立派です!』

 恥ずかしい紹介でも、観客に手を振るのはさすがアイドルである。

『なんかもう見慣れた? でも今日は胸元に白いラインの入った蒼いチューブトップハイレグに白い膝パット、蒼い編み上げリングシューズの桜庭愛(jc1977)選手! 今日の彼女は水を得たターボ全開の魚、このリングの中で一番危険なのではないでしょうか!』

 こちらも笑顔で愛嬌をふりまいているが、鷹の様に鋭い目を他の選手に向けているあたりで、その内心を現していた。

『そしてこちら新参者ながらも抜け目が無さそうに見える、黒ハイレグに黒タイツ姿の大空 彼方(jc2485)選手! まだまだ経験も能力も不足しているでしょうが、それでも彼女は何か魅せてくれる、そんな気がしてしまうのが彼女です! 唯一のザンネンは他の選手よりちょっと控えめな部位でしょうが、それもまた良し!』

「ちぇきッ」

 自分を誇示するように、片目を挟むような横向きのピースサインを観客に向ける。

 一通りの紹介が終わり、全員がアルバトロスを取り囲みながら向かい合っていた。高まる緊張に観客の声も次第に小さくなり、静寂が訪れた瞬間――ゴングが鳴った。




「いただくぞ、そのマスク」

「派手にヤるゼ?」

 一千風と暁良が同時に動き出すのを見て、アルバトロスを挟んで出口と反対側にいた彼方も「本気で行くよ」と動き出した。その一方ですぐに動きださず、その場から様子を窺うアルジェと愛。

 文歌も動かないのかと思われたが、アルバトロスが向かってくる3人に視線を巡らせ、少し身を屈めたそのタイミングでロープの反動を使って勢いよく飛びあがると、後頭部へドロップキックをお見舞いしていた。

「先日、斥力の攻撃で頭を打ったお礼ですっ」

 着地と同時に3人の囲い込みに合わせ低いタックルで、前のめりになったアルバトロスの足を掴み引き寄せながらも肩を押し付ける。そこに正面から飛びこんだ暁良の、真上へ突き抜くような蹴りで顎を打ち抜く。そして一千風のラリアットが容赦なく、剥き出しになった喉を刈り取った。

 そして彼方はというと、ほんの半歩、アルバトロスと距離を詰めずに手を出さないでいた――すると。

「ンっどーん!」

 文歌、暁良、一千風、アルバトロスがまとめて彼方の方へと吹っ飛んできた。試合前に散々、情報がいくらでも手に入る全員の動きを研究し、アルバトロスの動きも観察してタイミングや癖を覚えてきた彼方でもこの突然の雪崩は予測しておらず、巻き込まれるようにまとめてロープまで弾き飛ばされた。

 そこへ踏み込みと背中全体で吹き飛ばした張本人の愛が跳躍し、捻りを咥えながらも団子と化したそこへとボディープレスで潰しにかかる。

「もーこれは、美少女プロレスの試合でしょ♪ 目一杯、友情を語り合おうよシェ――アルバトロス!」

 2度目の攻撃は喰らわないと、文歌と一千風はすぐに団子から抜けだし、一番下にいた彼方もロープを掴んでアルバトロスが身をわずかに起こした隙間から一瞬で抜け出るとロープづたいに避難しながらも、愛を目で追っていた。

「マナとあのマスクマンの友情? へぇ、見せてもらおうか♪」

(囲い込みもうまく行かなかったし、少し離れて様子見させてもらいたいしね)

 アルバトロスもその場から離れようとした気配に、ロープに腕を絡ませた暁良が両足でアルバトロスの頭を絡めとり、引き寄せながら太腿でがっちりと押さえこむ。

「あンま馴染みはねェンだけどよ、プロレスなんだロ? ショッパイ感じはナシだゼ」

 そして暁良もろとも愛によってアルバトロスは潰される――かと思いきや、太股と側頭部の間に手を入れ強引に頭を引き抜くとマットを蹴り、愛のボディープレスは暁良だけを潰すのだった。

「悪いが、これも勝負だ」

 一千風の小銃から撃ち出されたトリモチが、ロープに腕を絡めた暁良と正面から抱き合うような形の愛をまとめてマットに貼り付ける。

 跳躍したアルバトロスはロープの上に着地し、さらに反動で飛び上がると金網を蹴り、さらに高く跳んだ。文歌が追って跳躍し、金網を駆け上がるように蹴りあがる。

「空中さっぽーか……なるほど、これは空中戦での身のこなしを鍛えるのに良さそうだな」

 それまで見るに徹していたアルジェが、アルバトロスと同じようにロープへ飛び乗り斜めへと跳んで、バンテージを巻いた指で金網に一瞬だけ張り付き、アルバトロスとのタイミングをずらして金網を蹴った。

 空中でアルバトロスのソバットが見えていた文歌は足の裏を手で受け止めたが、その勢いに押されて金網へと飛ばされ、もはや背中で金網に叩きつけられる未来しか待っていなかった。

 そこにアルバトロスの背後へと跳躍していたアルジェが、すれ違いざまにマスクへと手を伸ばしていた――が、下から一千風の小銃による攻撃をアルバトロスが首を傾けてかわしたため、すんでのところで手は届かなかった。だが天井の金網を蹴り、もう一度狙う。

 しかし今度は不意もつけなかったせいもあり、縦に回転したアルバトロスのあびせ蹴りのような回し蹴りが飛んでくる。アルジェは脚をつかみ、脚を軸に回転して自ら金網へと飛んでいた。

「ずいぶん身軽ではないか!」

「今日は外套を外している、つまりいつもより素早いということだ――あれには当たりを重くする為、重り代わりに色々と暗器武器を仕込んであるからな」

 アルジェは金網へ着地すると、垂直の金網を駆け抜ける。そんなアルジェに意識を向けていたアルバトロスの後ろから、金網の反動で戻ってきた文歌が迫っていた。水着の中、胴にバンテージを巻いていたので、電気による痺れはない。

 身体を捻り、文歌へと向こうとするが、余分な筋肉のせいでアルバトロスの方がワンテンポ遅い。

「体格の良さが仇となりましたね!」

 アルバトロスの後頭部へ曲げてそろえた両膝を打ち付け、マスクを両手で掴むとそのまま太腿で頭を挟み込んで身体を下方向へと捻じり、アルバトロスを頭からマットに向けて投げつける。

 頭から落下してくるアルバトロスに向かって一千風が跳躍し、頭を両手でつかんでさらに加速をつけてマットへ突き刺すように頭を叩きつけ、片手でマスクを掴んだままアルバトロスの背後から足の付け根を空いた腕で挟み込むと、持ち上げた。

 視界の隅に見えていた小銃を構える彼方に向かって駆け寄り、投げつけると見せかけて回避動作をさせると、トリモチからやっと逃れそうな愛と暁良の上へ小ジャンプ、アルバトロスを落とす様に叩きつける。その際、マスクに当てた手を捻り、立ち上がる動作とともにマスクを奪い取っていた。

 華麗に着地を決めた文歌がすかさずトリモチを警戒し、体勢を崩しながらも小銃をこちらに向けていた彼方が一瞬マスクに視線を送った隙を逃さず足払いで転ばせリングから飛び降りると、マスクを掲げ出口から優雅ながらも颯爽と脱出する。

「ディーヴァ☆撃退士、颯爽退場です♪」

 観客の声援に両手を振りながら応える、文歌であった。

『空中で見事な瞬間判断力とバランスを見せてくれた水無瀬 文歌選手、一抜けです! さあお次はどうなる、すでにマスクは一千風選手の手にあるが、果たして無事に脱出できるのか!』

「してみせるわ」

 アルバトロスと愛と暁良に最後のトリモチを撃つと、シノビさながらの機動力を見せる一千風が出口へ向かい、通り道に降りてきたアルジェへドロップキックを食らわせ、金網まで吹き飛ばす。

「やはり着地間際が危険だな」

 身体を反転させ、金網の反動に加えて腕と足の力で再びリングへと戻った――ところを一千風が背中から腕を回し、後ろへと投げ捨てる様なバックドロップで彼方を牽制し、マットへと倒れ込むと転がってリングから降りて脱出を果たす。

「ッシ!」

 大きくガッツポーズを決め、マスクを握り固めた拳を天に突き上げた。

『おおっと、二番手はやはり遠石 一千風選手でした! ここまでは実力的にも順当と言わざるを得ませんが、この後は果たしてどうなるのか!?』

 アルバトロスが離れると、身体のあちこちにトリモチの残骸を付けた愛や暁良も立ち上がる。

「3枚剥ぎ取ってカラが本番と思ってたケド、どうせなラ、アイツ叩き潰してカッコよくリングを去ろうゼ」

「美少女プロレス対マスクマンの試合するだけだね♪」

「ふむ……シェ――アルバトロスを倒すまで、停戦というわけか」

「まーいいんじゃない?」

 4人が共闘の意思を見せ、一斉に動き出した。

 小銃でアルバトロスの上空を牽制する彼方の肩を踏み台に、アルジェが再び空中へと跳び、片膝で正面からアルバトロスの顔を狙うが、見え見えの一手に頭を下げて膝をかわす。そこへ一歩踏み込んだ暁良のローキックでアルバトロスの意識を下に向け、続けて放たれた後ろ回しのハイキックが下がっていたアルバトロスの頭部に炸裂する。

 そして後頭部に回したふくらはぎで引き寄せ、回転しながら戻ってきたアルジェが前のめりになったアルバトロスの背中を踏みつけ、前へ倒れさせようとした。

 だが、寸でのところで倒れきらないアルバトロス。

「あ、そーれ!」

 背後に殺気を感じた暁良が脚をかけたまま自らマットに倒れ、その上を通過した愛がフライングニールキックでアルバトロスの背中を打ち付ける。巻き込まれる直前にアルジェはアルバトロスの背から跳躍して、難を逃れていた。

「今、俺に当てる気だったロ」

「誤射誤射♪ 乱戦だもん、仕方ないよ!」

 暁良は「まあいいけどヨ」と追及せず、ふくらはぎと太腿でアルバトロスの頭を挟み込んで全身を捻ってアルバトロスを投げ、マットに背中から叩きつける。

 暁良が離れると、起き上がって追おうとするアルバトロスの腰に、背後から細いながらも力強い腕がまわされた。愛がアルバトロスを持ち上げ、どこに投げようか視線が一瞬だけ彷徨い、目標を決めると高角度からのスープレックスで彼方へと投げつけた。

「カナちゃん、どーぞ!」

「どーぞって言われてもね」

 消極的な動きを見せていた彼方だが、逃げようのないほどに巻き込まれた以上はやるしかないと身を沈め、後転して背中と手をマットに付ける。

「ッせぇい!」

 跳んできたアルバトロスにそろえた両脚を全身で突き上げ、上空へと飛ばす。そこに待っていましたと言わんばかりのアルジェが、制御しにくい空中で腹部へ回し蹴りを一発、二発、それから足を振り上げ頭めがけて踵を振り下ろす。

「ここでキめるゼ」

 下に向いた頭へマットを蹴った暁良が蹴り抜いて首を曲げさせると、そのまま首へ両足を絡め、頸動脈を絞めながらマットへアルバトロスの背中を叩きつける。愛とアルジェがロープで高々と飛びあがり、縦に一回転してから2人の華麗なボディープレスでフィニッシュを決めた。

 そしてすかさず、愛がマットを手で叩き始める。

「わーん、とぅーー、すりーーー!」

 カンカンカンカンカン――……

 試合が終わったわけでもないのに、勝敗が決したゴングが鳴り響く。

 そして暁良が最後のマスクをはぎ取り、掲げた――その瞬間、暁良と愛とアルジェがトリモチにまみれた。さらに掲げたマスクが訓練弾で弾かれ、連続する発砲音に合わせ、空中で踊るようにマスクが出口付近へと向かっていく。

 トリモチにまみれ、一塊となったそこに小銃を投げ捨て、その横を彼方が全力ダッシュで走り抜けマスクを空中でキャッチするとそのまま出口へと跳んで金網の外へと脱出するのであった。

『おおーっと虎視眈々と狙っていたか! 共闘してさらに部活仲間もいるというのに、裏切り行為だ! 汚い、美しくも汚いぞ、彼方選手!』

「ふっ、アタシはあんな善い人じゃないわっ!」

 ビシッとリングを指さして声高らかに宣言し、勝利を噛みしめるように両腕を高く掲げたまま、悠々と去っていく彼方であった。




 アルバトロス、もといシェインエルの首に脚を絡めたまま暁良が後ろに手をついて天を仰ぎながら「魅せられたケド、最高にカッコ悪ィゼ」と呟くと、シェインエルとプロレスをし、フォールも取れた愛は満足そうに、「盛り上がればこそのプロレスですから♪」と手足をばたつかせる。

 それには勝者である文歌が「こっちの方が目立ったかもしれませんね」と金メダルを握りしめながらもちょっと悔しそうであったし、一千風も「存分に暴れた方が良かったか」と犬耳のマスクを脱いで、銀メダルを見ながらも不完全燃焼気味に呟いていた。

 彼方は「勝てば官軍!」と言い残し、銅メダルを振り回しながら早々に退散していた。

 そして動けないアルジェはじっとしたまま、口を開く。

「報告書は読んだ、考えて動くタイプだと思ったが意外と衝動的な所があったんだな」

 シェインエルが自分に向けられた言葉なのだと理解し、こちらも口を開く。

「お前にも必至というものが分かる日が来るさ」

「聴きたかったモノは聴けたか?」

「ああ」

 暁良には何の事かさっぱりだったが、愛にはその会話の意味が分かっていた――が、口を挟まない。

「このあとはどうするつもりだ……?」

「そうだな――ここに残るとするか。おかしな親友もできてしまったしな」

 そう言って、手を愛に見せる。

 その手をがっちりと握り返す、愛。

「シェインエル、またプロレスしようね♪」



【KOB】金網デスマッチ?  終


依頼結果