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マスター:楠原 日野
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/14


みんなの思い出



オープニング

●秋田県大仙市地区・郊外東側
 月が見えず、灯篭型ライトの光が広々とした露天風呂を細々と灯す。じょぼじょぼと常に流れっぱなしのお湯の音だけが、あたりに響いていた。
 そこにぽつりと、男が浸かっていた。他にはだーれも、いない。
 普段はやらないのだが、さすがに、色々と吐き出したい時もあると酒をあおっていた。
「人が来なくてもう、どれくらいたったやらな。かつて、シーズンに関係なく人がいたってぇのに……」
 グイッともう一口。
 話しかけても、誰の返事も来ない。そこに果てしない寂しさを男は感じていた。
「おんちゃんのやってたとこが潰された、か。いつになったら、安全な世の中とやらになるんだかな」
 ふらつく足取りで立ち上がると、湯船を横切り、今は月明かりもなく、完全に闇に落ちた広大な山へ向かっていった。湯船の淵に、グラスを置く。
 叫んでやろうと思った。何を叫ぶつもりかは決めていない。それでも叫ぼうと、思ったのだ。
 何かにぶちまけなければ、今の時代を乗り切るのは辛すぎる。
 大きく息を吸い込んだ男――だが叫ぶより先に、とぷんと、グラスが湯船へと沈む。
 肩をすかされた男。沈んだグラスを引き上げると、お湯の入ったまま再び淵に置いてみた。するとグラスはカタカタと少し振動しながら、また湯船へと沈んでいく。
 違和感を感じた男は耳を澄まし、目を凝らして周囲を見渡した。
 じょぼじょぼとうるさい音に紛れ、ガサガサと、草をかき分ける音が微かに聞こえる。
 いや。
 だんだんと、はっきりと聞こえてくるではないか。
「なんだ……?」
 何かがこちらに向かってきている、それだけは理解した男がさらに、目を凝らす。それがどれほどの失敗なのか、本人は一生気づく事がないだろう。
 まっすぐにそれは男の元へと向かい、黒い巨体が申し訳程度の垣根を突き破る。
「――っ!」
 叫び声が上がりそうになったのは、ほんの一瞬。たった一瞬の後には、湯船がじんわりと赤く染まっていく。
 そして黒い巨体は無言ならぬ無音のまま、隣接する建物の壁を突き破るのであった。


●秋田県大仙市地区・郊外北東側
 人の気配がまるでない温泉宿の一室。テレビの前で座り込んだ白萩優一と中本修平はじっと、カメラのとらえた映像とにらめっこしていた。
「黒いのはまあ、夜間迷彩みたいなもんだとして……聞いてた通り、戦車に間違いないですね」
「そうだねぇ。正式に言えばパンター、かな。世界初の暗視装置搭載戦車だったと思う」
 目を丸くし、ずり落ちそうになった眼鏡をかけ直し、さらっとややマニアっぽい事を述べた優一の横顔を見た。
「おじさんが昔、ずいぶん語って色々聞かせてくれたんだよ。だから無駄に知識はあるんだ……」
 おじさん。修平は戦車マニアな自分の父の顔を思い浮かべ、いたたまれなくて従兄弟に頭を下げる。
「……なんか、スイマセン」
「いいって。それに今回の依頼には役立つわけだしね。傾斜装甲により前面がかなり堅くて、そのかわり側面とかがやたら脆い。速さも結構あったはずで、軟い土での機動性、主砲の攻撃力も高いんだったかな? 代わりに射程が短め……特長まで一緒なのかはともかく、参考にはなるはず」
「実際の戦車と比較はしたことないんですけど、これまでの経験や報告を見ても堅さはそこそこで、命中率の低い主砲の火力はかなり高い、という感じですね。それと上の部分が頭で、下が胴体という生物と認識してもいいようです。
 首を落されれば死ぬし、胴体を斬られれば死ぬ。火系の魔法は効きにくいけど、やや魔法防御が低いと思われます」
「なるほどね……でもまあ僕は物理馬鹿だから、拳で打ち抜くしかないや。それにしても、すまないね。僕の依頼なのに手伝ってもらっちゃって」
「この前、手伝ってもらいましたからね。それに戦車サーバントについて、もう少し情報を持っておきたいかなと思って」
 数日前から、大仙の南方から東の山沿いに沿って、戦車のようなものに次々温泉が潰されていると、撃退署から連絡があった。
 戦車型サーバントを倒している実績のあるフリーランス、と言うことになっている優一に撃退してくれというものだった。実際には優一自身が倒したわけではないのだが、それでも依頼を受けた。ここ最近の不安定情勢に手が離せないでいる撃退署の、処理したいけどしにいけないジレンマによる必死さを、感じ取ったからだ。
 ルート的にこのまま北上されると、仙北に到達する。現在において仙北は、秋田では最前線となっている大仙の生命線だから、必死にもなるというものである。
 月のない夜間しか目撃例もなく、被害も郊外の温泉のみ。こんな緊張状態では温泉宿に客などほぼいないから、被害は少ない。まるで、被害を与えるのが目的ではないかのごとく。
 もちろん何人か死んでいるので、無視はできないのだが。
(偵察目的なんだろうか……?)
 考えても分からない。相手はサーバントなのだろうから。
「とにかく、次の狙いはおおよそ読めるんだ。とにかく潰そう」


●山林・月のない夜に
 通るであろうと思われるルートに張って、2日目。恐ろしく静かだが、草木をかき分ける音を修平はは感知していた。雲の切れ間から瞬く星の光しかなく、ほぼ完全な闇に近いが、修平の目にははっきりと見える。草木の奥からやってくる、その物体が。
 無言のまま指で指し示すと、ナイトビジョンを装着した優一が地面をえぐりながら、まさしく神速で駆け出す。
 無音の圧力。何かを撃ちだされる前に、優一は横にそれていた。
 優一の横を何かが通り過ぎ去り、はるか後方で土砂を巻き上げる。

「見て回避なんて私にはできない。けれどね、当たらないように動く事は出来るんだ」

 強くて美しく弱かった幼馴染の彼女が、得意げに微笑みながらそう言った事を、なぜか今思い出す。
(こう言う事なんだよね、美鈴!)
 攻撃に合わせてただ移動するだけ、それだけでいいのだと、最近になってやっとわかり始めた。攻撃してくる気配を感じ取れなければただの特攻だが、最近はなぜか感じ取れるようになってきた。
 きっと、幸せになろうとしている彼女に誓ったせいだ。
 正面から、拳を押し当てるような左拳の一撃。衝撃を内部へと浸透させる。
 そして装甲の硬さを確認しながらも拳への反発力で体を回転させ、右拳による強烈な一撃を側面へと叩き込んだ。
 やすやすと右拳は装甲を貫き、遅れてパンサー戦車が弾き飛ばされる。
 吹き飛ばされたパンター戦車――それ以上の反撃もなく、白い塊となって崩れ落ちるのであった。

「凄いですね、優一さん」
「伊達に修平の2倍生きてるわけじゃな――」
 再び感じる圧力――咄嗟に修平をかなり強めに突き飛ばし、のけぞる。
 ナイトビジョンが弾け、砕け散った。
(まだいた……!?)
 だが目視では、ただ暗闇が広がるばかり。優一はその場にじっとして、ただただ攻撃のみに備えた。
「修平、君は戻って仲間を呼んでくれ。遅い時間だけど、誰かは来てくれるだろう」
 返事は来ないが、去っていく足音は聞こえる――そこへ向っての圧力を感じ、腕を突き出す。
 激しい衝撃。
 酷い痛みを腕に感じたが、呻き声1つもらさず歯を食いしばる。修平を立ち止まらせないために。
(死ぬ気はないが、厳しい状況か)
 そして彼は自分への注目を集めるために、わざわざ開けた所で、神経を研ぎ澄ませて立つのであった――


リプレイ本文

●闇夜の中へ
 全員がナイトビジョンを起動させ少しだけ周囲を見回すと、誰よりも真っ先に雨野 挫斬(ja0919)が動き出した。
 事前に地図で優一の位置を把握し、転移先がどこの位置であっても、最短ルートはすでに割り出してある。肩まで伸びた髪はリボンで纏めてあるし、携帯にはインカムを繋ぎ、すでに阻霊符は展開済み。事前準備は完璧である。
「障害物競走開始! 囮もかねて派手に行くわよ!」
 濁った赤の陽炎が全身を包み、ゴーグル越しの風景が歪む――と、弾けるように地面をえぐりながら、挫斬は山林を駆け抜ける。
「とにかく、私がやらねばならないのは……仲間を助けるための、時間を稼ぐことだ!」
 誓うように高らかとそう宣言したラグナ・グラウシード(ja3538)も挫斬の後を追い駆け出す。
 それに続くように風景どころか空気と一体化したのかと思えるほど気配を押し殺したリョウ(ja0563)が、張り出た岩を蹴り、低木から低木へ飛び移るなど、まさしく重力を無視したかのような走りを見せていた。
(戦車型のサーヴァント……? 人類の兵器を模して何のつもりなのか。実験か、或いは示威目的か……なんにせよ、被害が出ているならば駆逐せねばな)
 そして、完全に闇と同化し先を急ぐ。
「優一さんの救出は任せた。彼を餌にした待ち伏せには注意しろよ」
 救出に向かったメンバーの背に御影 蓮也(ja0709)は声をかけ、足元を見回した。
「数も不明、地形的に相手が有利。厄介な相手だな。サーバントとは言え、生身で戦車とやり合う日が来るなんてね」
 誰にも聞こえない程度の小声でぼやくと、蓮也は身を低くし、ラグナのその背を見失わない距離を保ちつつ追かけていた。
 耳に神経を張り巡らせつつ、傾斜や穴に隠れていないかと注意し、開けた場所では一気に駆け抜ける。
「隠密の侵攻ならある程度ばらけて移動していそうだな」
「確かにその通りですね」
 煌々とした灯りで周囲を照らし確認しながら、ユウ(jb5639)はラグナとあまり距離を開けず、時折空を見上げていた。
(危険度は増しますが、上空からの索敵は効果があるはずです)
 そして皆が緊張しながらの行軍である中、1人、前を向き山林を機械的に駆け抜けながらもカイン 大澤(ja8514)は昔を思い出して心ここにあらずであった。
(戦車か……相手にするのは久しぶりだな)
 その昔、暴力で人並みの感情を排除された自分。
 そんな自分――アウルを持つ少年兵として最初に強制されたのは、対戦車地雷と自動小銃を持たされ、随伴歩兵を抹殺、戦車の真下に潜り込んでは底面装甲に設置する人間爆弾。
 唇を噛みしめた。
(お前の換えは幾らでも居るが、この武器に替えは無い、か)
 労いの言葉でも褒め言葉でもないその言葉を思い出して、皮肉気に口元の端を吊り上げる。
「見えたわ……!」
 先を行く挫斬が、まだ距離はあるが優一の姿を捉えた。その姿が不意に、真横へとスライド。その直後、見えない何かが草木をかき分ける音。
 そして挫斬の肩に激しい衝撃。身体が後ろへ弾き飛ばされる――かと思いきや、左足を軸に身体を回転させ、肩に裂傷を作り血を流しながらも足を止める事無く前進する。見えない何かは少し軌道を変え通過、後ろの木々をなぎ倒していくのであった。
 血の滴る肩にちらりと目を向け、ぐるっと肩を回す。痛みはあるが、問題ない。
「アハハ! いた〜い! でもまだ動けるわよ!」
 再び挫斬の見る景色が歪み、弾丸の如く優一めがけ真っ直ぐ向かう。
「今こそ私の活躍の時ッ!」
「ラグナさん、宜しくお願いします。どうかお気を付けて」
「ユウ殿、気遣いに感謝する。お互い、御武運を!」
 優一の位置を把握し、1度縮めた距離だが引き返すと、羽を広げたラグナが跳躍――低木よりも高く飛び上がり、一軒家の屋根ほどの高さまで上昇する。
 掲げた掌から火の玉を作りだし空中に置くと、両腕を広げ声高らかに告げた。
「天魔どもよ! 美しいこの私を見ろッ!」
 ラグナの中に渦巻く非モテ的要素が輝く金の光となり、全身を包みこむ。
 その途端、木々をなぎ倒し空気を切り裂く音。それがラグナに着弾――だが正面に一瞬だけ浮かび上がった銀色の障壁が、それをものともしない。
 周囲に神経を張り巡らせ、木々をなぎ倒す音に集中。音がするたびに反応し身体を向け、銀の障壁が着弾を許さない。
「そうだ……戦車ども、私を見ろ!」
 砲撃を受けながらも優一から離れる様に飛び続け、所々に火の玉を置いていく。
 だが。
 銀の障壁の効果が消え、切り替えようとしたその直後、すぐ近く、しかも背後から唐突に飛来音。振り返り、咄嗟に交差した腕でそれを受け止めた。
「っく……!」
 軋む骨――それでも受けきり、押し上げる様にそれを上に弾く。
(まだ落ちはしないぞ、私は!)
 闇に紛れ、神経を研ぎ澄ませながらもラグナよりもはるか上空から見ていたユウは砲撃の方向、そして優一の位置を把握していた。
(みなさん、聞こえますか? ラグナさんを中心に北60、北東30、東南東20、南10、西15mほどに戦車、そして北北東25mほどに優一さんがいらっしゃいます)
 大まかな位置を頼りに蓮也とカイン、それぞれの目標へと向かった。

「とうちゃ〜く! 優一君生きてる〜?」
「ええ。予想以上に早いおかげで、片腕以外はなんともないです」
「そっか。じゃ、もう少しだけ待っててね。今仲間がナイトビジョン持ってくるから、その間――」
 はいと懐中電灯を差しながら現在の状況をかいつまんで説明していると、音もなくリョウが姿を現した。
「初めまして、と言いたいが時間が無い。動けるか?」
「問題ありません――ですが、右腕をやられてるので1人で撃退は無理ですから、同じく怪我をしている彼女と共に近場を周ります」
「そうか。では俺はここから遠い、西回りで行かせてもらう」
 ナイトビジョンを優一に渡すと、再び闇へと溶けこむ。挫斬が袋詰めにした発光塗料を取り出す。
「はい。一撃で倒せそうもない時はぶつけてね! 敵を逃がしたら怒られちゃうから注意して! というわけで、私と優一君はペアで動きますから、皆さんどうぞよろしく!」
 インカムを通して携帯で全員に通達。そして2人も動き出すのであった。

 連絡を聞き、ラグナは羽を閉じて地上に降り立つ。すでにその身にまといし怪しげなオーラは、ない。
「そうか、無事か。なら私は1度下がらせていただこう」
 スキルも活用して砲弾を防いでいたが、何発かは腕で逸らしている。だが身を低くし南西へと駆け出す頃には血も止まり、腕の怪我が治りつつあった。
 ラグナの姿を急に見失ったパンター達は自分達に近づいてくる気配に勘付いたのか、その場で旋回を始めるが、その姿を蓮也はすでに捉えていた。
「光学か音源か熱探知か全部か……戦車なら持ってそうだな。一気に接近して脆い個所から撃破するのが得策か」
 旋回しているパンターへと、蓮也は臆することなく足を止めず突っ込んでいく。
「接近して死角に入りさえすれば!」
 旋回速度の方が勝り砲身が今にもというタイミングで、走りながら木を蹴り強制的に方向を変え、砲身の射線に決して入ろうとはしない。
 だがそれでも旋回速度は早く、蓮也の移動先に狙いを定める。
「砕けろ……文字通りに!」
 空から落ちるように降りてきたラグナの一撃は深々と地面にまで突き刺さり、砲身を叩き斬った。
「負けてたまるか! 貴様など、吹き飛ばしてやる!」
 機銃が狙いを定めるよりも先に、肩を押し当て地面をえぐりながら全力でスウィングされた大剣がパンターに襲いかかる。
 鈍くも激しい衝突音――下からすくいあげられたパンターの前面装甲はひしゃげ、あろうことか浮かされる。それほどまでに重い一撃だった。
「っふ!」
 蓮也が短い呼気とともに拳を振るい、拳上のアウルが機銃を粉砕。そしてもう一撃を側面に撃ちこむ。前方が浮かされ不安定なパンターは横にも傾き、すでに逃げる事すらかなわない。
「燃え尽きろッ! リア充ッ!」
 晴れる事の無い鬱憤を八つ当たり気味に大剣へ乗せ、強烈な光が放たれる。一直線に伸びた光の束はパンターの底面部を穿ち、砲塔まで突き抜けるのであった。
 それを見届けた蓮也。次の目標へと向かう――その直後、パンターは白い塊となって崩れ落ちる。
「見たかッ! 私の怒りと憎しみと恨みと妬みの力をッ!」

 西へと目指していたカインは砲撃から正確な位置を割り出し、大きく迂回。交戦中のラグナへと旋回していたパンターへ匍匐前進でギリギリまで近づいていた――が、旋回はラグナの向きで止まらない。
 気付かれたと察知したカイン。両腕で跳ねるように立ち上がり、全速力でパンターへと一気に詰め寄る。
「こんな、死をまき散らすだけの模造品なんざ作って嫌なもん思い出させやがって。全部ぶっ壊す」
 片刃で赤い刀身の大剣をキャタピラに打ち下ろし手を離すと、大剣の背を蹴上がり、パンターの上部へと駆け上がる。
 そして装着したパイルバンカーを、砲塔へぴたりとくっつけた。パンターが震え上がっている――そんな気がした。
「ぶっ潰れろ」
 激しいノック音が何度も何度も、静かな山林に響き渡る。
(ここからなら狙えるか……まさか戦車とやり合う事になるとはな)
 突然、パンターの横でガサリと木が音を立て、闇の中から横っ飛びのリョウが姿を現す。
 その手には黒い光を纏った漆黒の槍――いや、槍の形をした黒い光を、パンターの側面めがけ投擲。突き刺さるように穿つと、それは消滅した。
 地面を蹴ったリョウは再び、闇の中へと消えていく。
 ほとんど動かなくなったパンターのベコベコにへこんだ砲塔部へパイルバンカーを振りかぶり、最後の一撃。杭が貫き通ると、完全にパンターは動きを止めた。
 カインが飛び降りると同時に、白い塊となって崩れ落ちる。
「肉薄攻撃って、昔とやること変わんねえな」
 唇の端を吊り上げ、そして次へと目指し駆け出すのであった。

 1両に狙いを定め、大きく迂回しながら優一と左右に分かれ肉薄する挫斬。正面に回り込む形で。
「ふふ、この手の玩具は正面から壊す方が楽しいのよね! キャハハ! 自慢の正面装甲が中からの攻撃にも有効か試してあげる!」
 真っ直ぐに正面装甲へと、拳を押し当てる様に打ち抜いた。装甲に傷1つつかないが、その衝撃は貫くように中へと浸透していく。
 小刻みに震えるパンター。
「機銃がある。気をつけろ――」
 闇に響くリョウの声。しかしすでに機銃が近距離の挫斬に向けられていた。
 ひるがえる挫斬を追う様に機銃は火を吹き続け、血まみれだった腕から血飛沫が舞う。
「それ以上はさせません」
 ユウの静かな声。上空から三日月状の水刃が降り注ぎ、機銃を破壊。そして横から優一が身体ごと押し込むよう左拳を打ち付け、パンターを弾き飛ばす。
「大丈夫ですか」
 声をかけられた挫斬は血に濡れた自分の手をひと舐めし――笑っていた。
「フフ、本気出すよ! 解体してあげる! キャハハハ!」
 血濡れの手に、大鎌が出現。弾かれ動けないパンターの砲塔の隙間へと、漆黒の刃を潜りこませ、切断。首が転がるように砲塔が転がり落ちると挫斬は恍惚の笑みを浮かべ、次の獲物を求め彷徨う。
 その後を追いかけた優一だが、気配を感じ身体を回して動かせない腕を振り回す。その腕が何かに弾かれ、再び血飛沫をまき散らした。
「くぅっ――力はあれども、まだ全体を見渡しきれてはいない、かな」
 苦い笑いを浮かべ、ペースを落として後を追うのであった。

(2両とも移動を開始しました。カインさん、そのまま東へ。蓮也さんは北北西へと修正願います。そして1両が後退を始めていますので、追撃をお願いします)
 上空から位置を常に観察していたユウが皆へと伝達すると、逃げる1両を追う。
「東……あれか」
 駆けるカインが、こちらに目もくれず前進をしているパンターの正面へと詰め寄った。大剣で砲身を叩くようにへし折り、正面から駆け上がると、再びパイルバンカー。
「ぶち抜け」
 砲塔の駆動部へ杭を打ちこむ。突き刺さりはしたが、急停止をかけられ振り落されてしまった。地に降りたカイン。
 そこへ機銃を向けながら前進してきた。
 しかし機銃は飛んできた拳状のアウルで破壊され、駆動部に蒼い美しい極細の糸が巻きつけられた。
「こいつで終わりだ!」
 そして蓮也は腕を引く――

 空から追い続けるユウを目印に、ラグナがバックするパンターへ向かう――だが、こっちに向きっぱなしの砲身にギクリとした。
「間に合え!」
 盾を構えるとほぼ同時に、激しい衝撃。強烈な衝撃ではあったが、何とか受けきる。
 ラグナが動きを止めた間に、パンターもキャタピラを黒い光の槍で穿たれ、動きを止められていた。
「逃がしはせん」
 闇に紛れていたリョウが地を駆け、もう1本黒い槍を生み出すと残ったキャタピラを縫い止める。
 パンターの動きが完全に止まった。
 そこへ漆黒の刃が水平に振られ、その首を刈り取った。
「最後の1匹、かいた〜い。キャハハハ!」


●すべてが終わり
「……疲れた。汚れもひどいし温泉入っていけるかなぁ」
 蓮也がぼやくが、白い塊を前にカインは言葉を返さず微動だにしない。
(俺もこれとと同じように、死と憎しみをを撒き散らすだけの道具か。武器を捨て、ただ静かに暮らしたいっていう『僕』の願いは結局かなわないか)
 憎々しげに、天を見上げる。
「なら、俺と同じ連中を死で全部叩き潰してやる、こんな狂った生き方しか出来ない奴が生まれないように」

「お互い無事でなによりです。ラグナさん」
「うむ、無事で何よりだ。ユウ殿の活躍で、逃がさずに済んだな」
 ニコリと微笑むユウ。ラグナも応えるように微笑む――が、なぜかいい雰囲気というものはまるっきり、これっぽちも感じられないのは非モテパワーなのだろうか。

「愉しかったわぁ――ありがとう」
 崩れ落ちてしまいキスができないので、愉しませてくれたお礼の言葉だけ投げかけていた挫斬。そして黙って見ていた優一へと振り返る。
「さあ帰りましょうか、優一君」
(僕のが年上なんだけど……まあいいか)
 助けてもらった手前何も言えず、代わりに自分の童顔を少しだけ恨む優一、27歳であった。

 周囲に観察していた存在がいないかと警戒し、動き回っていたリョウが殲滅終了の報を受け迎えに来た修平とばったり出くわす。
「……近代兵器を模した敵。心当たりはあるか?」
「最近北海道で2回、出会いました。話では南の方にも出てはいるようですが、少し毛色が違う気もします。特に今回のは、いつもの実験的な感じと少し違う気がします」
 さらに今回の話を詳しく聞き、1つの推測を立てる。
「偵察の類、か」
 遥か遠い、南の空へと顔を向け、呟いた。
「これから何かがあるのかも、しれんな」


まだいた……!  終


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 高松紘輝の監視者(終身)・雨野 挫斬(ja0919)
 KILL ALL RIAJU・ラグナ・グラウシード(ja3538)
重体: −
面白かった!:8人

約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
幻の空に確かな星を・
御影 蓮也(ja0709)

大学部5年321組 男 ルインズブレイド
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
無傷のドラゴンスレイヤー・
カイン=A=アルタイル(ja8514)

高等部1年16組 男 ルインズブレイド
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅